「!」
「これは────」
英雄達は戦いを止める。
「────────────」
それは、予感だった。『何か』が、『大最悪』が作った道を通って上に上がってきている。
アルケイデスは無視してアルフィアと戦うか、『何か』への対処を優先するか一瞬迷った。
その迷いが、致命的だった。
「アル!」
「どうしたんだ?ベル」
白い、白い彼女が話しかけてきた。
「雪だよ!雪!一緒に外に行こう!」
「はいはい。ちゃんと服を着て、寒くない様にしろよ。風邪引いたら大変だ」
ああ、こんなこともあったな
「あっはははははは!すっごい!綺麗!」
「ああ、綺麗だな」
雪が好きだ。白いから。白い彼女に似てるから。
何か、おかしい。何がおかしいのだろう。ベルはベルだ。俺は俺だ。俺たちが一緒にいて、何がおかしい。いや、違う。そこじゃない。俺は────
「────あ?」
目が覚めた。そういえば俺は戦っていたはずで····
「〜〜〜〜〜ッツ!!」
痛い、痛い、痛い!なんだ!!何をされた!?
一体何が──
「あ──」
『蛇』が、そこにいた。人も、英雄も、神も。下界の全てを圧し潰さんとする巨体。
「──────ッ!」
『大最悪』が、食われている。丸呑みされた。
一瞬で。比喩ではなく、本当に瞬きの間ほどの微かな時間で、『蛇』は動いた。
おそらくは俺も、あの様に攻撃されたのだ。死んでいないのは天性の頑丈と、新たに身につけた『流れ』のおかげだろう。だが、戦える体ではない。
このままでは──────
「ウオオオオオオオオ!!」
戦っているものがいる。
「小娘ども!あの無駄にでかい蛇を倒せば、儂らの勝ちじゃ!」
「ネーゼ達はあの筋肉君の回復!それ以外は魔法でも剣でもなんでも使っていい!勝ちましょう!みんなで笑って!」
立ち向かっているものがいる。
「死んでないよな!?」
「大丈夫!息はあるわ!急いでポーションや魔法を!」
俺を、助けようとしているものが、いる。
ジジイは俺に、英雄になれと口うるさく言ってきた。俺は強く、才能があるのだ、と。
俺は否定した。
俺は、ベルの英雄である。
ベルは、英雄が好きだ。いろんな英雄譚を知っていて、俺にもその話をする。
そして時々、思うのだ。
─────この下界のほとんどは、『英雄』を知らないのだ、と。
英雄譚に語られる彼らは確かに英雄だろう。その功績の差はあれど、間違いなく偉大な先人である。
しかし、あの老人から『英雄を作る計画』を聞いた時、やはり、と思った。
かつて英雄として名を馳せていた彼らも、神々でさえも、『英雄』というものを誤解しているのだ、と。
『英雄』とは、自由な者である。神々でさえもそれを遮ることができないほどに。
『英雄』とは、背負う者である。『最後の英雄』ともなれば、下界の全てを背負うほどの。
『英雄』とは、強き者である。絶対に負けないほどの、圧倒的存在である。
俺は『英雄』ではない。だというのに─────
「こいつ、魔法を弾くぞ!」
「後衛は前衛の援護に徹しろ!絶対に死ぬな!」
「まずい、このままじゃ····」
「····しょうがないな」
『蛇』は、『大最悪』を消化していた。自分より遥かに小さい虫ケラに群がられているが、自分には傷一つつけられないことは本能でわかる。
故に、今は消化に専念している。外に出ることは、自分にとっては簡単なことだ、と。そんなことを、考えていた。
「雄々々々々々――――圧々々々々々々々――――ッッッ!!」
英雄的打撃が、意識外から『蛇』を襲った。
圧倒的な体格差。虫と人ほどの体格差がありながら、『蛇』は刹那の間意識を飛ばしていた。
さらには────
「黒い殻が、壊れて──」
「魔法だ!今なら魔法が通る!」
一体何が起きた?攻撃された!一体、何が──
「――――ウゥゥウオオオオォォォォォッッッ!!」
再び、打撃が襲う。今度は備えていたからか、気絶はしなかった。
この、小さいものが? 自分を傷つけた?
『蛇』は先程発揮した様な眼にも止まらぬ速さで、小さい『敵』に対して怒りのまま突進する。しかし──
「『英雄』に同じ手が通じるはずがないだろう」
『蛇』がたった一人の人間に、投げ飛ばされた。
『蛇』はダンジョンの壁に頭をめり込ませ、動けずにいる。
そんな『蛇』を、『英雄』は──
「がァァアァアァァァァァァァァアアア───!!」
『英雄』は、『蛇』を、締め殺そうとしている。
「――ガッ……ッ、グ……」
ふざけるな!どれだけ体格差があると思ってる!
『蛇』は、最後の力を振り絞り『英雄』をその巨体で圧し潰そうとして────
「ッ……ゥ、ゥウ――ッ……――ゥゥウウウォォオオオ――!!」
『英雄』は、『蛇』の巨体をものともせず、締め殺した。