因数分解探偵 早瀬ユウカの冷酷なる謎解き算術 ~えっちなのは死刑~   作:浅瀬ユウカ

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「アリバイってのはさ、アリバイを捏造(つく)ろうとした瞬間に失格なのよ」

「お前、いきなりアウトってわけ」


(アリ+バイ)²
早瀬ユウカのてっぺき~♪ なアリバイ崩し ~犯人はモモイ~


 

 隠密。

 密かに、隠れる。

 膝を折り畳み、身体を曲げて、息を潜めて、存在を消す。

 目の前に映る土の色は変わらない。静寂をただ聞いていた。この不変の中では、耳と鼻だけが世界に自分がいることの証明だった。

 

 ざっ。

 近付いて来る足音がする。顔は上げられない。その姿を確認しにいくことは許されていない。眼はあるのに見ることができないもどかしさ。

 

「(いつまでここにいれば良いのだろうか)」

 

 情報が遮断された世界で、体感時間は限りなく引き伸ばされていた。

 

「みぃつけた」

 

 その声は、この永遠にも感じられる時間に終止符(ピリオド)を打つ"鬼の声"。

 

 ざっざっざっ。

 近付いてくる足音がする。音が大きくなる度に、逃げ出したい衝動に駆られる。

 

「どこかな~」

 

 本当にここで良かったのか。

 後悔は既に意味のないものになっている。この花の下にしゃがみ込んだ早瀬(はやせ) ユウカには、もう選べる選択肢なんて残っていなかった。

 

「みぃつけた」

 

 不意に上から光が差した。

 陽光が眩しくて目を閉じた。制服の土を払いながら立ち上がる。

 光に包まれた世界で、ユウカは笑った。

 

「うん、私の勝ちだね」

 

「先生は本当に強いですね……かくれんぼ

 

「う~ん、そうかなぁ」

 

 ユウカはかくれんぼをしていた。

 

「自分では完璧に隠れたと思ったんですけど」

 

「ちょっとだけ見えてたよ」

 

 "ここ"、と先生は自身の頭の方を指差した。

 どうやら頭がちょこっと飛び出していたらしい。完璧に見えない角度を計算したと思ったのだが、空間把握を少し失敗したようだ。

 

「次はアリスが鬼です!」

 

「よーし、隠れるぞー!」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい」

 

 かくれんぼのネクストゲームを始めようとする先生とアリスに待ったをかけた。

 

「そもそも私達が何でここに来たのか忘れたんですか?」

 

 先生は頭の禿げあがった子供が描いた絵みたいな姿になった。都合が悪い時はすぐこの姿になるのだ。

 腰に手を当ててユウカが詰め寄った。

 

「ここには学生証を探しに来たんですよね!?」

 

 そういえばそうだった、みたいな表情で先生は頭をかいた。

 

「まったく……」

 

 どうしてこうなったのか。

 話は今朝まで遡る───

 

 


 

 

 キヴォトスの新星、ミレニアムサイエンススクールは理系生徒が集う学校である。総じて勉学に優れた生徒が多いこの学園において、無視できない問題点がひとつ。

 

「予算が……足りない……!」

 

 理系。

 費用。

 この二つはジスルフィド結合のようにくっついて離れない問題だ。

 

 理系科目の設備は一般的に文系科目の設備よりもお金がかかる。

 ここからは読む必要のない文章だが(例を挙げてみよう)

 光学式の顕微鏡は、安物なら2000円程度、専門の研究者でもせいぜい20万円。しかし、電子顕微鏡となると話は別。研究に使えるレベルとなると最低でも1000~3000万円あたりが相場になってくる。勿論、数億円レベルのものもある。

 こんな価格帯になってしまうので、理系学校でもお金のあるところしか導入されていかったりするのだ。しかし、大手企業にとっては「たかだか数千万円の機材で何億円もの利益を生み出せるなんて破格すぎる!」ということで、メーカーの開発部や研究所にはこういった機材がゴロゴロ導入さえてたりする。実際に学校を出たばかりの研究スタッフの中には「就職して良かったことは機材を自由に使えることです!」と答える人も多かったりする。

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 ミレニアムの中枢組織であるセミナーの会計を務めるユウカは、日々ミレニアムの予算枯渇問題に頭を悩ませていた。

 勿論、ユウカとて理系科目の学校で予算がカツカツになることなんざ百も承知である。ユウカを悩ませているのは用途不明の出費のことだった。このミレニアムサイエンススクールには、勉学だけは秀でた阿呆が多いのだ。

 

「えーと『塩水、砂糖、鉛筆、とうもろこし粉、マッチ』……?

 粉塵爆発の実験でもするつもり? 却下よ却下!

 次は……『ラテックス、酢酸、ワセリン、バケツ、石膏像、硫黄、炭素、鉄骨』?

 何よこれ! こんなん集めてもペロロジラしか作れないわよ! ド却下よ!!

 何が『可能なら電球900個』よ!

 バーニングペロロジラなんか安全性の理由で作らせるわけないでしょ!?」

 

 バーニングペロロジラ。

 バーニングペロロジラはペロロジラの暴走形態だ。全身が燃え上がり水蒸気を噴き上げるその姿は、ペロロジラファンの中ではコアな人気を誇る。

 しかし、全身を光らせるための約900個の電飾とオート水蒸気吹き出し装置のせいで、スーツ内に酸素ボンペを入れないと中の人(スーツアクター)が死ぬことが判明した阿呆設計スーツでもある。内部温度は驚異の120℃。あまりに馬鹿なのでミレニアムの理科の便覧のコラム欄における不動の四番を獲得している。

 

「本体、そろそろ備品確認の時間なんだよ!」

 

「もう一人の私、ありがとう」

 

 ポン、とユウカの頭上に二頭身のユウカが現れた。

 この二頭身のユウカは、ユウカの中の無意識が具現化したものだ。しかしもう一人の自分という割にはユウカ(本体)とは思考も性格もまるで違う。

 二頭身ユウカに言われて時計を確認。針は下向きに120°開いていた。集中しているとどうにも時間感覚が鈍って仕方がない。予定していた時間にはまだ10分早い。が、ちょうど仕事も一区切り付いたところだ。それにいつまでも教室で作業をしているわけにもいかない。

 ユウカは軽く伸びをして立ち上がった。

 

「まずは第二視聴覚室からね」

 

 ユウカの呟きに二頭身のユウカが反応する。

 

「視聴覚室とか正直誰も使ってないんだよ。本体の理系設定みたいなもんなんだよ」

 

「は? 因数分解するわよ? 円周率耐久勝負でもしてあげましょうか? 私は前回の定期考査でも上位でしたがそういうそちらの順位は?」

 

「そういうとこなんだよ……」

 

 ユウカは近くにあった黒色の数学問題集(フォーカスゴールド)で二頭身ユウカを叩いた。

 

「痛いんだよーっ!?」

 

 ユウカはざっとガラスの反射で髪の毛を確認。左手で髪をかき分け、服装に乱れがないか確認。ボタン、ネクタイ、学生証、ベルト、銃。全て所定の位置だ。

 

「……よし」

 

 備品の点検のため、ユウカは廊下に出た。

 

 


 

 

 指差し確認は大事である。

 理由は──大事なことなので──取り立てて語る必要もないだろう。

 しかし、ユウカの仕事は書類と睨めっこすることであって、現場に赴くことではない。それならなぜユウカは自ら備品確認に行っているのか?

 

「え、何でなんですの本体?」

 

「同じ私の中なのに情報格差あるの何?」

 

 ユウカの服の裾を二頭身のユウカが引っ張った。この喋り方は二頭身ユウカ2号である。二頭身のユウカのバリュエーションには他にも、ユウカV3やユウカーマン、ユウカX、ユウカ獣人などがいる。

 本体のユウカは溜息を吐きながら説明した。

 

「以前、備品を壊したからって書類を誤魔化した不届き者がいて……書類を誤魔化してもどうせバレるのに。結果、こっちの仕事が増えただけ。最悪よ!」

 

「でも本体も身体測定の時に体重をちょ───」

 

「フォーステップ!」

 

 ユウカは数学の問題集(4STEP)で服の裾を掴んでいた二頭身ユウカを叩き落とした。ミレニアムでもきっての数学力から繰り出される4STEPは神速。目にもとまらぬ速さどころか、目にも映らない速さだ。

 こういったダブルチェックには、セミナーの書記であり、一度見聞きしたことはほぼ完璧に記憶できる生塩(うしお) ノアの方が向いている。が、実施前にそれとなく「生塩ノアがダブルチェックを行う」との噂を流して反応を見たところ「じゃあ自分達で報告する必要がなくなったな!」と開き直る生徒が現れたため、ノアにその仕事が振られることはなかった。

 ちなみにその発言をした生徒が所属する部活の予算申請も当然ユウカが管理している。

 

「(まぁ、何かあったら予算申請書を因数分解すれば良いか……)」

 

「本体が悪い顔をしてるんですの……」

 

 肩の上に乗っかる二頭身ユウカ2号の呟きは虚空へと消えていった。

 

「ん? ドアが開いてるわね」

 

「あやしがりてよりてみるにー、ですのっ」

 

 第二視聴覚室のドアが開いていた。

 誰か先客がいたらしい。これで鍵を借りに行く手間が省けた。視聴覚室は鍵の保管庫へ行く道の道中であった。

 この時間にこんな辺境の部屋を使うなんて、一体何物なのだろうか。ミレニアムではこういう出来事を放置していると、うっかり爆薬が秘密裏に製造されてたりすることもある。無視はできない。

 ユウカは大股で歩いて視聴覚室のドアを開けた。

 

「備品の点検に来ました」

 

「げぇっ! ユウカっ!?」

 

「……『げぇっ』とは何よ、『げぇっ』って」

 

 視聴覚室の中にいたのはピンクと緑、二色の猫耳。ゲーム開発部の才羽(さいば) モモイと才羽(さいば) ミドリがユウカを見て苦々しい表情をした。

 

「せ、先手必勝! ユウカがこの前の身体測定で体重を誤魔化してたこと知ってるよっ!」

 

「赤チャッッッ!!!」

 

「ぐぇっ!」

 

「お姉ちゃん……」

 

 ユウカはチャート式数学(赤)を振り下ろした。

 ゲーム開発部は問題の多い部活だ。特に姉のモモイは"無駄に"行動力のあるトラブルメーカーだ。部室を改造したり、部室を爆破したり、無許可で謎の商売を始めたりすることもある。

 

「うぇぇ……何もしてないのに……」

 

「モモイ、腹を切って話しなさい。さもなくば因数分解するわよ」

 

死ぬか死か(Die or Die)……!?」

 

「自然のままでお願いします……」

 

 ユウカに詰められたモモイは手を顔の前に持ってきた。無抵抗のポーズだ。

 ミドリは呆れた表情でモモイを見ていた。妹の方は姉とは対照的に内気な性格だ。勿論、大抵はモモイと一緒に行動しているので喰らった因数分解(処罰)の数自体は多い。

 

「もしかしてこの前『ユウカの絵描いて』って言われた時に

【挿絵表示】

を描いてたこと!?」

 

「何よこの絵! 悪意しかないじゃない!」

 

「結構似てると思うけど」

 

「そんなことで怒るなんて身体の割に器はちっちゃ───」

 

「プラチカッ!」

 

 理系数学の良問プラチカの一撃を喰らったモモイは撃沈した。頭を押さえてうずくまるモモイをユウカは見下ろす。

 

「うぅ……おばかになっちゃうよ……」

 

「元からじゃない」

 

「……? つまりどういうこと?」

 

「馬鹿の永久機関の完成したわね」

 

「何か小馬鹿にしたみたいな言い方だねっ」

 

「小馬鹿にされてるんだよお姉ちゃん!」

 

 モモイは馬鹿だった。

 ドアを支えにしながらふらふらとモモイが立ち上がった。

 

「というか絵ならミドリが描けばよかったでしょ。何でわざわざモモイなんかに……」

 

「? お仕事の依頼はDM、skebから行って下さい。無断転載は禁止です。20↑」

 

「プロフ読み上げてんじゃないわよ! R-18絵も禁止!」

 

 この姉にしてこの妹であった。

 ユウカは後でミドリのSNSアカウントを特定して削除することを決めた。

 

「で、どうしてここにいるの? 使用許可はちゃんと取ったの?」

 

 ミドリは懐から鍵を取り出した。

 鍵があるのなら恐らくちゃんと許可は取ったのだろう。念のために後で確認はするが。

 

「探し物をしてて」

 

「探し物?」

 

「うん」

 

 モモイはちょっと恥ずかしそうに答えた。

 

「学生証なくしちゃって……」

 

「飲み物は奢らないわよ」

 

「まだ何も言ってないよ!?」

 

 学園内は学生証でキャッシュレス決済ができたりする。

 

「そういうことなら早急に見付けないと。とりあえず失くした学生証は一旦、無効力にしておかないとだから……」

 

 ユウカの脳味噌に新しくTo Doタスクが追加。まだ備品確認も行っていないというのに。溜め息を吐きたくなる気持ちを抑えて、ユウカはモモイとミドリの向こう側を見た。

 

「どこで失くしたの?」

 

「えっとそれが分からなくて……」

 

 モモイの頭の上辺りに黒い板が見える。最近、この部屋にはちょっとお値段のする液晶ディスプレイが追加されたのだ。

 二頭身ユウカがニュッと現れて呟いた。

 

「どんどん液晶はうっす~くなっているんですの……本体と違って」

 

実践重要問題集(うるさいわね)!」

 

「へぶちっ」

 

 新しい学園なだけあってミレニアムは至る所に最新のものが置かれている。

 ミレニアムの中枢たるミレニアムタワーは言わずもがな、実習センターやフィットネスセンターにも最先端の設備が揃っている。あまつさえこんな辺境の地の視聴覚室にあるパイプ椅子や黒い折り畳み机一つを取っても、最新の物だったりするのだ。

 まぁ、ほとんど使われてなくて埃をかぶってたりするのだが。

 

「もうスタミナがないよぉ……セーブポイントまで戻ってやり直したい……」

 

 なよなよと弱音を吐くモモイに溜め息をひとつ。

 

「……私も探すの手伝ってあげるから頑張って探しなさい」

 

「えっ、本当!?」

 

「本当よ」

 

「マージ・マジ・マジーロ!?」

 

「マージ・ジルマ・マジ・ジンガ!」

 

語録で会話してる(痛々しい)……」

 

 ミドリの呟きを華麗にスルーして、ユウカは早速行動に移る。

 とりあえず鍵を返却してトイレなどの準備も済ませてから捜索を開始することになった。

 移動中。

 ユウカはモモイにどこで学生証を失くしたのかを訊いた。何にせよ情報は欲しい。

 

「えーっと、最後に学生証を確認したのがミレニアムタワーだよ。ミドリが自販機で飲み物を買ってて、その時に『私はいいや』って言った覚えがあるし」

 

「その後はアリスちゃんとも合流して売店の方に。たしか、アリスちゃんがパンを買ってたよね」

 

「うんっ。でもその時に私の学生証があったかどうかは覚えてないよ」

 

 ユウカの肩の上に二頭身ユウカが現れた。赤と緑の特徴的なカラーリングのこの個体は、ユウカV3だ。うんうんと頷く本体に代わってメモを取っている。

 

「売店を出た後は、図書館の方に行ったよ」

 

 ユウカV3が本体のユウカのほっぺをつんつんした。

 本体のユウカは「わかってるわよ」と心の中で呟いて無視した。

 

「図書館に向かう時にモノレールは使った?」

 

「ううん。時間が合わなかったから使ってないよ」

 

 モノレールはミレニアムのスタディエリアの外周を回っている交通機関だ。超神速で騒音もなく、揺れもほとんどない最先端の移動手段である。図書館前にモノレールの停車駅はないが、売店と図書館の間にモノレールステーションならある。

 

「それで今はミレニアムタワー内を探していたところで」

 

「なるほど」

 

 そうこう話していると鍵の保管庫に到着した。

 

「到着っと」

 

 ペッペッペと暗証番号を入力し、保管庫を開ける。

 ふとユウカが首を傾げた。

 

「あれ、ノアがいないわね」

 

 ノアはこの時間、この部屋にいるはずだが。飲み物を買いにでも行っているのだろうか。

 とりあえずユウカは鍵を返却した。鍵保管庫前の用紙に返却時間と名前を記入する。

 

「今の時間は……」

 

「5時ジャストだねっ」

 

 モモイがスマートフォンを取り出した。

 実は部屋の鍵の管理は一部まだアナログ管理である。何なら一部アナログというより、一部デジタルと言った方が正確かもしれない。完全デジタル管理だと、停電時にどこの部屋にも入れなくなってしまうというのがひとつ。他には、ハッカーが好き勝手できてしまうからというのがひとつ。生徒会室前の鍵保管庫も同様の理由で特にデジタルロックは掛かっていない。

 用紙に記入を終えてユウカは振り返った。

 

「これからどうするの?」

 

「もう一回売店と図書館の付近を探してみる」

 

「ならまずは売店付近から行きましょうか」

 

「うんっ」

 

 微妙な差ではあるが、図書館よりも売店の方が近い。

 ユウカ達三人は売店へと向かった。

 


 

 

「売店付近に着いたわね」

 

 売店に到着。

 しかし、モモイとミドリがまだ来ていない。

 振り返るとモモイとミドリが息を切らしながらよろよろと歩いていた。

 

「ぜぇ、ぜぇ……ちょっと、APが……」

 

「もうちょっと運動しなさいよ。まだ10分ちょいしか歩いてないでしょ」

 

 ベンチにドカッと倒れこんで「先に探してて……」とモモイは息も絶え絶え呟いた。

 

「何でマラソン走り終わったみたいな挙動してんのよ。日常生活に支障をきたすレベルじゃない」

 

「ぜぇ、ぜぇ、血を吐く過酷なマラソンのような生活を……」

 

「してから言いなさいよ」

 

「私だって、ハァ、ハァ……毎日徹夜気分で寝てるんだよっ……!!」

 

「二度と徹夜という言葉を口にしないで欲しい」

 

 何度目かわからない溜め息を吐きながら、ユウカは売店付近の捜索を開始していた。

 茂みを掻き分けて、木の枝を見上げて。捜索をしていたユウカの前に二頭身のユウカが現れた。

 

「……はっ! 本体、気付いたんだよ!」

 

「見つかった?」

 

「いや、そうじゃなくて」

 

 この喋り方はユウカ1号である。

 

「これ結局本体が全部探しちゃうやつなんだよ!」

 

「……なるほど」

 

 当の本人であるモモイはベンチに座りながらせっせと探すユウカを見ているだけ。先程までの疲れはどこへやら。

 ユウカはベンチで悠々と休んでいるモモイとミドリを睨んだ。

 

「見てるんなら手伝いなさい!」

 

「でも、売店付近はもう結構な部分を探し終わってるし……」

 

「なら先に図書館の方行ってなさい!」

 

 モモイ達はのそのそと立ち上がった。

 

「でも既に先生とアリスに探しに行かせてるし……」

 

「モ~モ~イ~!」

 

「はっ、しまった!」

 

 どうやらモモイには自分で探す気はあまりないらしかった。

 ユウカがずんずんと距離を詰める。

 

「自分で探しなさい!! さっさと図書館の方に行く! やんなかったら予算申請書を因数分解するわよ!!!」

 

「せっかく楽できると思ったのに……!」

 

 モモイ達はユウカにせっつかれて図書館の方に向かった。

 ちなみに予算申請書を因数分解するとユウカ自身が因数分解されることになる。会計といえどそこまでの権限はないのだ。

 モモイ達を見送って、売店の周囲を探すこと数分。

 

「この辺には落ちてないみたいだし、私も図書館の方に向かおうかしら」

 

 ユウカも図書館へと向かって歩き始めた。

 

 


 

 

「こんにちは、ユウカちゃん」

 

「ノアが何でここにいるのよ」

 

 図書館の付近に到着したユウカを迎えたのは、同じくセミナーのメンバーである生塩ノアだだった。

 なぜノアが図書館にいるのだろうか。いや別に、いてはいけないというわけではないのだが。

 

「偶然です」

 

「偶然なら仕方ないわね」

 

 偶発的な事象なら仕方ない。だって偶然なんだから。

 ノアはどうやらモモイ達の事情を知っているようだった。

 

「へぇ、何でモモイが学生証なくしたことを知ってるのよ」

 

「本人から聞きました」

 

「……偶然じゃないじゃない」

 

「そうとも言えるしそうでないとも言えます。この世に絶対はありませんから……」

 

 ユウカはツッコミを諦めた。何だかのらりくらりと躱されそうな雰囲気がプンプンしていた。こういった引き際の良さには自信があった。つまり、ユウカは淑女ということである。

 

「先生とアリスちゃんは来てるの?」

 

「はい」

 

「そっちの方にいますよ」

 

 ユウカはノアに案内され、先生とアリスのいるところに向かった。先生とアリスと合流する。

 

「先生!」

 

「ユウカ!」

 

「はい!」

 

 ユウカは先生が視界に写るや否や、大きな声で呼びかけた。

 口元が緩んでいるのを隠しきれていなかった。

 

「こんにちは」

 

「はい!」

 

「元気いっぱいだね」

 

「はい!」

 

「モモイの学生証の捜索だよね。手伝うよ」

 

「はい!」

 

「……酸素を取り込む部位は?」

 

「はい!」

 

 ユウカはbotと化していた。

 ユウカの頭上のハヤセンサーが限界駆動する。ハヤセンサーの圧倒的な回転量は莫大な熱エネルギーを生み出し、ユウカの思考能力を奪うのだ。ユウカはお風呂の代わりに頭を沸かせられるのである。

 

「良かった。今からかくれんぼをするところだったんだけど、ユウカもやらない?」

 

「アリスのパーティーに加わりましょう!」

 

「はい!」

 

 が、ハヤセンサーの寿命は短い。稼働を終えた後は外気と正気でクールダウン。冷静になった頭が現状を伝える。

 

「…………はい?」

 

 そして今に至る。

 

「ぴったり5分で全員見付かってしまいましたね」

 

 と、ノア。

 

「というかこんな何もない場所でかくれんぼをするのが無理なのよ」

 

 と、ユウカ。

 

「流石は先生! かくれんぼランカーです!」

 

 と、アリス。

 

「それじゃあ、探し物再開しよっか」

 

 と、先生。

 

「どうする? せっかく4人いるし、2:2になって手分けして探さない?」

 

「賛成です」

 

 先生の提案により、二手に別れて探すことになった。ユウカはノアとペアだ。

 

「ノア、既に探した箇所を教えて。ノアが探したところをもう一回探すのは非効率でしょ」

 

 ユウカはノアのことを信頼している。一緒に過ごした時間はそのまま信頼の厚さになる。

 ノアが捜索した場所は軽く流しながら、とりあえず辺りの捜索に入った。

 木を見上げたり、草を掻き分けたり。

 少しずつ移動していく。

 

「そういえばモモイ達はちゃんと探しているのかしら」

 

 ユウカはノアに訊いた。

 あの怠け様だ。ちゃんと確認していないので、もしかしたらモモイは図書館に来ていないかもしれない。

 

「ちゃんと探していると思いますよ。つい10秒ぐらい前もそこでピンクの耳を揺らしながら探してました」

 

「流石に申請書因数分解の脅しは効いてるみたいね」

 

 ユウカはフンスと鼻を鳴らした。申請書を因数分解した時には、まず真っ先にユウカ自身のクビが因数分解されるのだが、案外この脅しは効く。それはつまり、ユウカならやりかねないとそれだけ思われていることの証左であった。重ねた行いはそのまま信頼の厚さになるのだ。

 更に探すこと数分。

 遠くから何かが爆発したような音が聞こえた。

 

「どこの部活よ……」

 

 ミレニアムでは常時どこかしらで怪しげな実験が行われている。それにしても今の爆発音は随分と大きな音だった。かなり大規模な事故でもあったのかもしれない。校舎が大破するレベルの事故というのは流石のミレニアムでも中々ないのだが。

 セミナーの仕事が増えたことを確信し溜め息を吐くユウカに、ノアが横から答えた。

 

「この時間帯だと新素材開発部が粉塵爆発の実験の予定が……」

 

「あいつらか……ッ!」

 

 ユウカは先程の申請書を思い出した。そういえばいかにも爆発しそうな材料を経費申請してきた愚か者がいたのだった。とりあえず、それについては後で因数分解をすることを決めた。口実さえあれば因数分解してもユウカ自身が因数分解されることはない。こうなってしまったらユウカはもう無敵の人であった。

 更に探すこと数分。

 

「ぜんぜん見付からないわね。この辺には落ちてないんじゃない?」

 

 ここも外れか、と思った矢先、曲がり角の死角から人が出て来た。

 

「わっ!」

 

「きゃっ!」

 

 曲がり角から飛び出して来たのは緑色のヘッドギア。ミドリだった。

 

「ちゃんと探してるみたいね。モモイは?」

 

「お姉ちゃんなら向こうの方を探しに」

 

 ミドリはユウカ達が来た方向とは逆の方を指差した。反対側から探していたみたいだ。

 

「アリス達の方ね。結構時間も経ってるしそろそろ切り上げても良いかもしれないわね」

 

「ミドリちゃんがここに来てから13分も経過してますね」

 

 図書館の外周を6人でぐるぐる回っているのだ。10分も探して見付からないのなら、この辺には落ちていないのだろう。

 ミドリが「お姉ちゃん呼んできます?」とユウカに訊いた。ユウカが頷く。ミドリはモモイを呼びに曲がり角の向こうに消えた。

 少ししてミドリがモモイを連れて戻って来た。

 モモイは何だかソワソワしていた。

 

「えっとね、見付かったんだよ!」

 

「本当に!?」

 

 モモイはポケットから学生証を取り出した。

 学生証は若干、土に汚れている。

 

「向こうの方に落ちてた」

 

 モモイが指差したのはフィットネスセンター側。売店方面の真逆だ。

 

「まぁ、見付かって良かったわ。もうなくさないようにね?」

 

 一件落着。

 とりあえず先生とアリスとも合流して、全員でミレニアムタワーに戻ることに。モモトークで連絡して先生とアリスを招集。

 わざわざ手伝ってくれた先生にお礼も兼ねて、ミレニアムで新開発されたおやつをあげる運びとなった。詳らかに言えば、ユウカが少しでも長く先生と一緒にいたいだけである。

 

「本体、本体!」

 

 その時、二頭身のユウカが現れた。本体のユウカの頬っぺをつついている。

 

「本体、何か忘れてることない?」

 

「DL6号事件?」

 

「違うんだよ!」

 

 一つ小ボケを挟んでから、ようやっとユウカは思い出した。

 

「そういえば何だかんだあったせいで視聴覚室の備品確認をするのを失念してたわ……!」

 

「寄り道クエストです! 行きましょう!」

 

「えっと、休憩室の道中だよね」

 

「先生、ちょっとお時間良いですか?」

 

「うん、良いよ」

 

 ミレニアムタワーに到着。全員でわちゃわちゃ雑談をしながら、廊下を歩く。

 鍵の保管庫に着いた。

 

「今の時間は……56分っと」

 

 保管庫前の貸し出し記録に時刻を書き込む。第二視聴覚室の鍵を借り、視聴覚室に向かった。

 

「そういえばミレニアムの鍵の管理ってまだアナログなんだね」

 

「全部デジタルにすると管理しきれないんですよ。コユキとかコユキとかコユキとかみたいなのに好き勝手されるんで」

 

「あぁ、なるほど」

 

 視聴覚室に到着。備品リストはポケットの中に入ったままだ。鍵をガチャりと回し、ドアを開ける。

 そして扉を開けたユウカは叫んだ。

 

「なっ、なっ……」

 

 

「何よこれーーーーッ!?!!?!?」

 

 

 


 

 

 

「ディスプレイが()()()()じゃない!」

 

 ちょっとお値段のする液晶ディスプレイは中央部分が完全にヒビ割れていた。白い線が蜘蛛の巣の様にディスプレイ上に張り巡らされている。電源を点けてみるも、中央部分にはまったく映像が映らなかった。完全に使い物にならなくなってしまっていた。

 

「ま、また出費が…………ガクッ」

 

「ユウカ!?」

 

「大変です! ユウカの魂が抜けています!」

 

 額に手を付き、倒れかけたユウカを先生が慌てて支えた。

 

「おも───」

 

 一瞬何かを言いかけた先生だったが、何とか言い留まる。身体の方も何とか踏み留まり、ユウカを支える。

 

「先生、大丈夫っ!? そんな重いの持って」

 

「モモイッッッ」

 

「ユウカの魂が復活しました! モモイはリザレクションが使えるのですね」

 

 失言をしたモモイはサッとミドリでユウカの射線を遮った。

 

「今のはミドリが……」

 

「言い訳しない! ミドリとモモイを間違えるわけないでしょ!」

 

 ミドリを盾にすることでモモイはユウカの参考書アタックを逃れた。ユウカはしぶしぶ参考書をどこかへしまった。

 

「でも一体誰がこんなイベントを起こしたんでしょう」

 

「モ~モ~イ~!」

 

「なっ、何もしてないよっ!?」

 

 視聴覚室にいたモモイは当然怪しい。怪しい、のだが。

 

「本当だよっ!? 本当に何もしてないから!」

 

 正直、そこまで本気でモモイの名前を呼んだわけではなかったのだが、何だか返答がおかしい。ユウカの言葉に過剰に反応している。

 もう少し詰めようとした矢先、ミドリがユウカとモモイの間に割って入った。

 

「お姉ちゃんと学生証を探してた時はまだ壊れてなかったよね、お姉ちゃん」

 

「えっ!? そうだったかな……」

 

 ミドリにの言葉を聞いて当時の状況を思い出そうとする。

 

「(確かあの時は───)」

 

──────────

 

 ユウカの脳味噌に新しくTo Doタスクが追加。まだ備品確認も行っていないというのに。溜め息を吐きたくなる気持ちを抑えて、ユウカはモモイとミドリの向こう側を見た。

 

「どこで失くしたの?」

 

「えっとそれが分からなくて……」

 

 モモイの頭の上辺りに黒い板が見える。最近、この部屋にはちょっとお値段のする液晶ディスプレイが追加されたのだ。

 

──────────

 

「(まだその時はあった気がするわね)」

 

 勿論、ユウカとて生塩ノアではない。かんぺき~♪に仔細な状況を覚えているわけではないが、ここまで画面がヒビ割れていたのならドアの所からでも流石に分かったはずだ。

 

「アリス分かりました! 学生証を探している間に何物かが壊したのですね!」

 

「ねっ、ねっ! そうだよ! だから私は犯人じゃないからっ」

 

 ユウカは疑惑のビームをモモイに照射し続けている。反応がやたらと大袈裟なのだ。何かあるに違いない。

 

「とりあえず学生証を探していた間に誰かが視聴覚室の鍵を借りていないか確かめにいかない?」

 

 先生の言葉にノアが首を振った。

 

「いませんよ」

 

 そのまま続ける。

 

「先程の鍵の返却の際に見ましたが、モモイちゃんの貸し出しから今までに鍵の貸し出し記録はありませんでした」

 

「それって……」

 

 アリスが笑顔で宣言した。

 

「アリス知ってます! "密室"です!」

 

「残念だけど違うわ」

 

「!?」

  

 高らかに密室宣言をしたアリス。しかし、ユウカはそれを否定した。

 先生が首を傾げる。

 

「でも鍵が貸し借りされてないなら誰も視聴覚室には入れなかったはずじゃ……」

 

「鍵なんて別に盗ろうと思えば誰でも盗れるわ」

 

 つまり、密室状態は然したる問題ではなかった。

 ユウカがモモイとミドリと会話をしていた時にはテレビは壊れていなかった。そして、ユウカが鍵を返却してから学生証を探しに行って、今戻って来るまでの間にテレビは壊れた。簡単な話だ。

 

「……つまりユウカは、鍵の貸し出し記録が()()()()()()()()()()がポイントだって言いたいんだよね」

 

「はい、先生」

 

 先生の言葉に反射的に返事をする。

 

「…………どういうことよ?

 

 しかし、ユウカには先生の発言の意味は分かっていなかった。

 ユウカは思考する。

 

「やましいことがなかったら鍵の貸し出し記録は付けるからってことだよねっ、先生!」

 

「うん、その通り」

 

「ッ!?」

 

 モモイに先を越された。

 頭脳でモモイに遅れをとるなんてあってはならないことだ。

 ユウカは打ち震えた。

 

「あばばばばばば……」

 

「わっ、ユウカが壊れた! 何もしてないのに!」

 

「アリス、チョップのスキルを持ってません……」

 

「お姉ちゃん」

 

「今回は本当に何もしてないからねっ!?」

 

 とりあえずユウカは放置しておいて先に進むことに。

 そういえば、と先生が口を開いた。

 

「鍵の保管庫は生徒会室前だけど……ノアは普段ここにいるの?」

 

 先生が訊いた。

 

「そうですね。大っぴらに発信しているわけではありませんが、大抵はここにいますので」

 

「確かにノアの前では悪さはできないね」

 

 先生がうんうんと頷いていた。

 ユウカは何か適当な反駁をしたかったが、ユウカ自身も『ノアの目の前で悪さはできない』という言説には納得していた。

 

──────────

 

それとなく「生塩ノアがダブルチェックを行う」との噂を流して反応を見たところ「じゃあ自分達で報告する必要がなくなったな!」と開き直る生徒が現れたためノアにその仕事が振られることはなかった。

 

──────────

 

 事実、生塩ノアの名前がミレニアム生に与える影響は大きい。

 

「『大抵は』ってことは、じゃあやっぱり今日いなかったのはイレギュラーなんだ」

 

「えぇ」

 

 ユウカは震えていた。

 

「(モモイに負けたなんて認められるわけないじゃない!)」

 

 ユウカはしょうもないプライドを大事にしていた。

 

「(絶対にディスプレイを壊したのはモモイだわ……! なぜなら私が悔しいからッ!)」

 

「本体が阿呆な顔してるんだよ……」

 

 極度の思い込みに駆られるユウカを、二頭身のユウカが半眼で見ていた。

 どうやらもう本体のユウカは、モモイがディスプレイを壊した真犯人という可能性以外を考えられなくなっているようだった。

 

「ノアがいる前ではリスクの高い行動はできない……

 じゃあ、逆にノアがいないことが"確定"している人だったら?」

 

「というと?」

 

「私をどこかに呼び出す、ということですね?」

 

 生塩ノアがいる前では悪いことができない。ならどうやって悪いことをするか?

 簡単だ。ノアがいないところですれば良い。つまるところ、ノアをどこかに呼び出したりして移動させればいいわけだ。

 

「なるほど。ならノアを呼び出したモモイにやましいことがあったんですね!」

 

「え"っ!? あ、アリス!?」

 

 ノアはどうやらモモイに助っ人として学生証捜索に駆り出されていたらしい。あの場にノアがいたのはつまり、"そういうこと"らしかった。つまり、先程の論法でいくなら"モモイにやましいことをする予定があった"ということになる。

 たじろくモモイにユウカは鋭い視線を向けた。

 

「やっぱりモモイ、あんたが犯人ね!」

 

 ずんずんとユウカは距離を詰めた。

 ユウカが詰め寄るのに合わせて下がるモモイ。

 

「ちょ、ちょっと待ってよっ!」

 

「お姉ちゃんには一応アリバイが……」

 

「……アリバイ?」

 

 横から飛んできたミドリの言葉にユウカは止まった。

 

「図書館で失くした学生証を探してたから、それがアリバイになる……はず」

 

 図書館からこのミレニアムタワーまでは結構な距離がある。

 確かにそれはアリバイになるかもしれない。

 

「でも行って帰って来ることぐらいできるかもしれないじゃない」

 

「じゃ、じゃあ実験してみればわかるよ! ちゃんと探してたからっ!」

 

「楽しそうです! 行きましょう!」

 

「何か謎解きADVみたいで楽しいね」

 

 こうして一行はモモイのアリバイチェックをするため、先程の学生証捜索の時間のアリバイを再確認し始めた。

 

「ぜぇったいにモモイが犯人よ……!」

 

「ユウカから殺意が飛んで来てるっ!?」

 

 ユウカの思考は毒沼に浸かっていた。

 

 


 

 

「まず視聴覚室でモモイとミドリと出会ったわ」

 

「それはいつぐらい?」

 

「えーっと……お姉ちゃん、覚えている?」

 

「ユウカっ!」

 

 モモイはどうやら覚えていないようだった。

 ノアじゃあるまいし、と心中で愚痴りながらユウカは顎に手を置いた。

 

 

──────────

 

「本体、そろそろ備品確認の時間なんだよ!」

 

「もう一人の私、ありがとう」

 

 ポン、とユウカの頭上に二頭身のユウカが現れた。

 この二頭身のユウカは、ユウカの中の無意識が具現化したものだ。しかしもう一人の自分という割にはユウカ(本体)とは思考も性格もまるで違う。

 二頭身ユウカに言われて時計を確認。針は下向きに120°開いていた。集中しているとどうにも時間感覚が鈍って仕方がない。予定していた時間にはまだ10分早い。が、ちょうど仕事も一区切り付いたところだ。それにいつまでも教室で作業をしているわけにもいかない。

 

──────────

 

 

「部屋を出ようと思ったのが16:40ぐらいだから、16:45ぐらい……のはず」

 

「その時点でテレビは壊れていなかった、と」

 

 モモイとミドリが頷いた。

 視聴覚室にはモモイとミドリがいたので間違いないだろう。

 

「それで鍵を返却したのが?」

 

 鍵の返却時刻は正確な時間が分かる。

 

 

──────────

 

 鍵保管庫前の用紙に返却時間と名前を記入する。

 

「今の時間は……」

 

5時ジャストだねっ」

 

 モモイがスマートフォンを取り出した。

 

──────────

 

 

 先生の質問にはノアが答えた。

 

5時ジャストです。貸し出し記録にはそう書かれていました」

 

「あっ、これは覚えてるよっ! ちょうどマキからモモトークが送られてきてたし」

 

 これはユウカも覚えている。モモトークの履歴もあるなら、これも間違いないだろう。

 その次は、ミレニアムタワーを出て売店に向かったはずだ。

 

「その後はモモイ達を引き連れて売店の方に探しに行ったわ」

 

 売店に向かって歩いた時を思い出す。

 

 

──────────

 

「ぜぇ、ぜぇ……ちょっと、APが……」

 

「もうちょっと運動しなさいよ。まだ10分ちょいしか歩いてないでしょ」

 

──────────

 

 

「急いで向かっても8分はかかるわよね。恐らく13、4分かけて移動したわ」

 

 ユウカの証言にモモイもうんうんと頷いている。

 

「ユウカにこき使われて図書館の方に行ったんだよね」

 

「逆でしょ!」

 

「図書館にこき使われてユウカの方に行ったんだっけ?」

 

「違うわよ!」

 

 ユウカがツッコんだと同時にモモイはバックステップ。ユウカは参考書を取り出しかけた手を止めた。

 

 

──────────

 

「自分で探しなさい!! さっさと図書館の方に行く! やんなかったら予算申請書を因数分解するわよ!!!」

 

「せっかく楽できると思ったのに……!」

 

 モモイ達はユウカにせっつかれて図書館の方に向かった。

 

──────────

 

 

 ミドリが阿呆な動きをするモモイを半眼で見ながら答えた。

 

「それで図書館の方にお姉ちゃんと向かいました。15分ぐらいかかったかな。着いた時間まではちょっと……」

 

 売店から図書館までは急いでも10分はかかる。妥当な時間だろう。

 

17:21ですね」

 

「えっ」

 

「間違いありません。17:21に図書館に来ましたよ」

 

 しかし、そこにはかんぺき~♪超人の生塩ノアがいた。どうやら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()分かるようだ。

 先生がノアに訊ねる。

 

「じゃあ、ノア。私とアリスが図書館に到着したのは?」

 

17:19です」

 

「直前だったんだね」

 

 ユウカは未だに距離を取っているモモイに言った。

 

「少なくとも図書館には向かっていたようね」

 

「当たり前だよ!」

 

 ユウカはこう考えていた。

 ユウカ自身は売店で「図書館に行け!」と命じてから、しばらくの間モモイ達を確認していない。もしモモイ達が何かしら悪事を働いたとすれば、その間しかない。

 しかし、この調子だとその考えも外れているようだ。

 ノア、アリス、先生の証言は基本的に信用に足りると考えても良いだろう。ノアに限って記憶違いなんてことはあるはずがなく、アリスに嘘が吐けるとは思えない。先生を疑うとすれば、本当の本当に最後の最後だろう。

 

「それから3分後にユウカちゃんが来ました」

 

 ユウカは売店付近の捜索を割と早めに切り上げたことを思い出した。

 アリスが元気よく手を挙げた。

 

「皆でかくれんぼをしました! 先生が環境すぎでワンチャンすらありませんでした……」

 

「アリス、ちょっとコユキと会うのを控えましょうか」

 

「(アリスにカードゲームを教えたのは私だなんて言えないなぁ……ごめんね、コユキ)」

 

 三者三様であった。かくれんぼは先生が5分で全員を見付けて終了。その後は二手に分かれて捜索をした。

 確か先生とアリスと別れた直後に、ノアがモモイを目撃していたはずだ。

 

 

──────────

 

「そういえばモモイ達はちゃんと探しているのかしら」

 

 ユウカはノアに訊いた。

 あの怠け様だ。ちゃんと確認していないので、もしかしたらモモイは図書館に来ていないかもしれない。

 

「ちゃんと探していると思いますよ。つい10秒ぐらい前もそこでピンクの耳を揺らしながら探してました」

 

「流石に申請書因数分解の脅しは効いてるみたいね」

 

──────────

 

 

 ここでノアがモモイを目撃している。かくれんぼが終わった時には、少なくとも図書館周りにいたようだ。

 

「で、そこからどうしたの?」

 

 ミドリが答えた。

 

「図書館の周りをお姉ちゃんと探してたよ」

 

 付近を探していたなら先生とアリスとも鉢合せていたかもしれない。

 ユウカが訊いた。

 

「はい、アリスはモモイを見ました!」

 

「うん、ミドリが探してるのを見かけたよ」

 

 アリスが挙手し、先生が頭の上を指差した。

 どうやら図書館周りにモモイとミドリがいたことは事実なようだ。

 

「いつのことだったか覚えてます?」

 

 先生が考え込むような素振りを見せた。

 アリスが何かに気付いたように顔を上げた。

 

「そういえば、そのとき遠くからイオのSEみたいな音が聞こえました。モモイのヘッドギアが見えたのは、それで顔を上げたからです」

 

「いおのえすいー?」

 

 クビを傾げるユウカの目の前に、キラーンと目を輝かせたモモイがインターセプトしてきた。

 

「『ドラゴンテスト』に出てくる爆発属性の呪文だよっ。『ドラゴンテスト』は知ってるよね。レトロRPGのパブリックイメージの大部分がこの『ドラゴンテスト』から来てる、まさにRPGのパイオニア! ターン制コマンド式バトルに特徴的かつスタイリッシュなフロントビューのUIもこの『ドラゴンテスト』から一気に広まって────」

 

「大数ッ」

 

「ひべしっ!?」

 

 ユウカは月刊大学の数学をしまった。

 

「爆発音ってこと?」

 

「はい!」

 

 爆発音ならユウカも捜索中に聞こえた。

 ノアの方を見る。

 

17:32ですね」

 

 モモイ達が図書館に到着したのが17:21、ユウカが到着したのがその3分後の17:24

 かくれんぼを5分行って17:29。ほとんど直後にノアがモモイを目撃。

 17:32ということは、ノアがモモイを目撃してから3分後に先生とアリスにモモイとミドリが目撃されているわけだ。

 

 間隔が短い。図書館からミレニアムタワーに向かうのにも急いで9分はかかるのを考えれば、その時間まではモモイとミドリは図書館の付近から離れていないことになる。

 

「それからミドリと出会ったわね。モモイを呼び出してもらったわ」

 

 

──────────

 

 更に探すこと数分。

 

「ぜんぜん見付からないわね。この辺には落ちてないんじゃない?」

 

 ここも外れか、と思った矢先、曲がり角の死角から人が出て来た。

 

「わっ!」

 

「きゃっ!」

 

 曲がり角から飛び出して来たのは緑色のヘッドギア。ミドリだった。

 

「ちゃんと探してるみたいね。モモイは?」

 

「お姉ちゃんなら向こうの方を探しに」

 

 ミドリはユウカ達が来た方向とは逆の方を指差した。反対側から探していたみたいだ。

 

「アリス達の方ね。結構時間も経ってるしそろそろ切り上げても良いかもしれないわね」

 

ミドリちゃんがここに来てから13分も経過してますね」

 

──────────

 

 

 この時のノアの発言から逆算すれば、ここでミドリと鉢合わせた時間はわかる。17:34だ。

 戻って来たモモイが学生証を見つけたということで、いったん集合した。

 

ミドリさんがモモイさんを呼んで戻ってくるまで3分全員が集合するまで4分です」

 

「ということは全員が集合したのは17:41だね」

 

 図書館からミレニアムタワーまでは急いでも9分かかる。今回の場合だと、全員で15分かけてミレニアムタワーまで帰還したということになる。なぜなら視聴覚室の鍵を借りた時刻が17:56だったからだ。

 

「で、壊れたディスプレイを発見した……と」

 

 時系列の振り返りが終わった。

 開口一番、モモイがユウカに叫んだ。

 

「ほら!」

 

「ぐっ……確かに今回はちゃんと完璧なアリバイがあるみたいね」

 

 ドヤ顔をするモモイ。しかし、どうやら今回ばかりはかんぺき~なアリバイがあるようだった。

 結局、考えてもわからないものはしょうがないということでひとまず解散することに。

 そうなのだ。ユウカにとっては犯人探しよりも、この後の処理の方が遥かに面倒くさいのだ。

 ユウカは理不尽に増えた仕事に、フラストレーションを覚えるのだった。

 

 

「もう何もかも因数分解してやるわッッッ」

 

 

 怒声は夕方の静かな廊下によく響いた。

 

 


 

 

「本体、諦めるピヨ。今回モモイにはアリバイがあるし、流石に犯行は不可能ピヨ」

 

「だとしてもモモイは怪しいわ」

 

 とりあえずもう夕方ということで一旦、ユウカ達は解散。

 ユウカはポツーンとその辺のベンチに腰掛けながら、二頭身のユウカと話していた。

 どうあってもモモイをディスプレイを壊した犯人にしたいユウカ(本体)と、それは無理ちゃうかなのスタンスのユウカ(二頭身)。

 

「だって明らかに怪しい態度だったじゃない! 絶対にやましいことがあるのよ! セミナーの勘よッ!!」

 

「勝手に酷使されるセミナーの勘がかわいそうピヨ」

 

「掌握ッッッ」

 

「痛いピヨ~!?」

 

 ユウカは鼻を鳴らしながら入試数学の掌握を閉まった。

 

「でも本体。

 わざわざ検証までした上で()()()()()()()アリバイがあったんだから、モモイに犯行は無理ピヨ」

 

「そこよ」

 

「?」

 

 二頭身のユウカは首を傾げた。

 

「分単位の正確なアリバイがあるなんて逆に怪しいわよ」

 

「バイアスが酷いピヨねぇ……」

 

「それに『正確なアリバイは崩されるためにある』って言葉もあるじゃない」

 

「……誰の言葉ピヨ?」

 

「私」

 

「それは"ある"とは言わないピヨ~!」

 

 ユウカがまた懐かに手を入れた。二頭身のユウカは黙った。

 

「でも本体。たとえアリバイを崩せたとしても、モモイにわざわざ視聴覚室の液晶ディスプレイを壊す動機はないピヨ」

 

「逆だったんじゃないかしら?」

 

「というと?」

 

「モモイがディスプレイを壊してしまって、それを隠そうとしたのなら……?」

 

 それならばモモイが小賢しい小細工をする理由が生まれる。モモイは進んで迷惑行為をするタイプではないが、迷惑行為はするし、やらかしは隠蔽しようとするタイプであった。壊れたネビュラディスクみたいな性根をしている。(一般ミレニアム生徒 Yさん談)

 

「それに、モモイが『壊したことを隠した』のなら今までの議論の根幹が変わるわ」

 

「……あっ、予測される犯行時間が変わるってことピヨね!」

 

「まぁ、何はともあれもう一回確認する必要があるわね」

 

 ユウカは再度視聴覚室へと向かった。

 

 


 

 

「計算通りね。かん───」

 

「かんぺき~ですのっ♪」

 

本体()の台詞が……!?」

 

 ユウカは肩の上の二頭身ユウカを睨んだ。

 

「やっぱりディスプレイは最初から壊れていたのよ」

 

 台詞を盗られたことを気にしていたわけではないが、ユウカは再度「かんぺき~」と言った。別に台詞を盗られたことを気にしているわけではないが。

 

「でも本体はディスプレイが壊れていないことを確認してたじゃないですの」

 

「あの時は……」

 

 ユウカは備品確認に来た時のことを思い出した。

 

 

──────────

 

 ユウカの脳味噌に新しくTo Doタスクが追加。まだ備品確認も行っていないというのに。溜め息を吐きたくなる気持ちを抑えて、ユウカはモモイとミドリの向こう側を見た。

 

「どこで失くしたの?」

 

「えっとそれが分からなくて……」

 

 モモイの頭の上辺りに黒い板が見える。最近、この部屋にはちょっとお値段のする液晶ディスプレイが追加された。

 

「どんどん液晶はうっす~くなっているんですの……本体と違って」

 

実践重要問題集(うるさいわね)!」

 

「へぶちっ」

 

──────────

 

 

 あの時は入り口からモモイの頭越しにチラッと見ただけだった。確認という確認はしていない。

 そもそもユウカが「備品確認に来た時は壊れていなかった」と考えたのは、液晶にここまで大きなヒビ割れがあれば流石に気付くという理由からであった。

 

「あっ! 逆に考えれば、()()()()()()()()()遠目からじゃ、壊れてるかどうかなんて分からないってことですのね!」

 

 二頭身ユウカの言葉にユウカが頷く。そのまま続ける。

 

「そしてこの部屋にはディスプレイのヒビ割れを隠すのにおあつらえ向きなものがあるわ」

 

 ユウカはそう言って部屋の片隅に置いてある黒い折り畳み机を持ち上げた。

 

「これを……こうっ!」

 

 ふんっ、とユウカが気合いを入れた。

 ユウカは持ち上げた折り畳み机を液晶の前に立てかけた。

 

「あ……!」

 

 机の足は机の下に収納され、正面から見れば黒い板にしか見えない。

 ドアのところから他人の頭越しにチラっと見ただけなら、ディスプレイと見間違えることもあるだろう。ましてやその時のユウカは大して乗り気じゃない備品確認の最中。黒い板=ディスプレイという先入観も働いたのかもしれない。

 

「でもこの手法が使われた証拠はないですの、本体」

 

「いいえ、あるわ」

 

「!」

 

 ユウカはスマートフォンを取り出した。画像フォルダを開ける。

 

「さっきディスプレイ前の床と折り畳み机の写真を撮っておいたわ。ちゃんと折り畳み机を床に置いた跡があったわ。多分、モモイじゃ力が足りなくて、落とす感じになったのね」

 

描写してないけど(そういえばそうでしたの)……」

 

 ユウカはさらに写真をスワイプして表示した。それを見た二頭身のユウカは備品確認に行った時のことをぼにゃり思い返していた。

 

 

──────────

 

 新しい学園なだけあってミレニアムは至る所に最新のものが置かれている。

 ミレニアムの中枢たるミレニアムタワーは言わずもがな、実習センターやフィットネスセンターにも最先端の設備が揃っている。あまつさえこんな辺境の地の視聴覚室にあるパイプ椅子や黒い折り畳み机一つを取っても、最新の物だったりするのだ。

 まぁ、ほとんど使われてなくて埃をかぶってたりするのだが。

 

──────────

 

 

 二頭身ユウカはうんうんと頷いた。

 

「確かに1つだけ埃をかぶっていない折り畳み机がありますの。これを使ったというわけですのね!」

 

 ユウカは満足そうな表情をしている。

 ふんすと鼻を鳴らしてユウカは宣言した。

 

「事件の流れはこうよ」

 

 ユウカは二頭身のユウカにビシッと指を突き付けた。

 

「まず、何らかが起こったわ」

 

「えっ、謎解きで初手『何らかが起こった』から始まることありますの? もうこの先の推理の信憑性が無に帰したんですけど」

 

 ユウカは無言でパワーマックスⅡBを振り下ろした。

 

「モモイはその何らかで液晶ディスプレイを割ってしまった……そして、事故の隠蔽を企てたわ」

 

 ユウカはくるくると円を描くように歩いて話している。

 名探偵のマナーだ。もっとも、今この場にはユウカしかいないのだが。

 

「本来はやましいことなんてするつもりはなかったから、鍵の貸し出し記録は残っている。このままだと備品確認に来た私に見付かるのは時間の問題……」

 

 ユウカは顎に手を当ててかっこつけた。キリッとした顔が出来上がる。

 

「私が思うに、ここからは推理の連鎖で片が付くわ」

 

「えっ、決め台詞むっちゃパクり……」

 

「セミナーの名にかけて! 真実はいつもひとつよ!!」

 

「今まさにそのセミナーの名に自ら泥を塗ってるですの」

 

 二頭身のユウカによるセルフツッコミは受け取られることなくどこかへと消えていった。

 

「そこで私が来るのを逆に利用することを咄嗟に思い付いたわけね」

 

「それがさっきのやつですのね」

 

「えぇ、私に『備品確認に来た時には液晶ディスプレイは壊れていなかった』と誤認させることで、予測される犯行時刻をズラしたのよ」

 

「まんまと本体はその小細工に引っ掛かった、ということですの」

 

「うるさいわね……!」

 

 ユウカは基礎問題精講を振り回した。

 

「あれ? でも本体が来ることが分かっていたのならもっと手の込んだ隠蔽ができるんじゃないですの? こんな子供騙しなんて普通はバレますの」

 

「そもそもモモイ達からすると、あの時間に私が視聴覚室に行くのはイレギュラーな事態なのよ」

 

 ユウカはチッチッチと指を振った。

 

 

──────────

 

 二頭身ユウカに言われて時計を確認。針は下向きに120°開いていた。集中しているとどうにも時間感覚が鈍って仕方がない。予定していた時間にはまだ10分早い。が、ちょうど仕事も一区切り付いたところだ。それにいつまでも教室で作業をしているわけにもいかない。

 

──────────

 

 

 あの時は予定していた時間よりも早く確認に向かっていた。モモイがユウカの備品確認スケジュール把握してるにせよ、していないにせよ、あの時間にユウカが現れるのはイレギュラーなことなのだ。

 

「むしろ手の込んだ仕掛けじゃない方が筋は通ってるわ。

 そして、即興の誤魔化しだったから、ある問題が発生した」

 

「問題?」

 

「小細工がバレる前に机を戻さないといけない、という問題よ。ようするに後処理ね」

 

 ユウカを一旦誤魔化すことに成功しても、机を元の位置に戻していなければすぐにトリックがバレてしまう。だからモモイは机を元の位置に戻す必要があった。

 

「で、その先はどうするんですの?」

 

「…………」

 

「本体?」

 

「…………………………」

 

「えっ、もしかして考えてないんですの?」

 

「考えてはいるわよ考えては!!」

 

 ブンブンとユウカは頭を振り回した。

 

「でも……どうしてもモモイのアリバイを崩す方法が思い付かないのよ!」

 

 ユウカの推理の通りに行くと、モモイは()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、それができる時間は『ユウカが視聴覚室を出てから壊れたディスプレイを発見するまで』の間だけ。その時間は先程、ノア達の手を借りて念入りに検証したモモイに鉄壁のアリバイがある時間帯なのだ。

 

「あぁもう! 数学でも因数分解したくなったわ!!」

 

「数学を因数分解ですの!?」

 

「バナッハ・タルスキー……デデキントカット……ブツブツ」

 

「あっ本当に分解するタイプのやつですのね」

 

 その時、後ろからユウカに呼びかける声が聞こえた。

 

「やぁ、ユウカ。現場の検証?」

 

「せ、先生問題の解ッ!?」

 

「何かと混ざってる混ざってる」

 

「すっ、すみません……バーゼル問題の解のことを考えてました」

 

 ユウカはモモイをどうしても犯人だと犯人だと考えてしまうこと。その場合、視聴覚室の折り畳み机を利用するなどの"誤魔化し"の手が考えられること。そして、モモイには鉄壁のアリバイがあり、どうしても犯行のラストピースが埋まらないことを告げた。

 

「まぁ、そう考えてもわからないものはしょうがないよ」

 

「この世の全ての事象は理論で導き出せるはずなのに……! この程度の謎が因数分解できないなんて!!」

 

「ラプラスのユウカ?」

 

「43ー30ー55ー40ー65ー97」

 

「ラブカス?」

 

「袋球」

 

「ラクロス?」

 

「国民的GFデビュー!!」

 

「ラブプラス!?」

 

 ユウカの頭はショート寸前だった。

 

「と、とりあえず一旦今回の件のことは忘れない?」

 

 ユウカは先生の言葉にガクガクと首を横に振った。

 今回の件を忘れる。諦める。それはユウカにとってありえない選択だった。

 

「何でそう頑なに……」

 

「だってですよ!」

 

 ユウカはブンブンと更に頭を振った。

 

「これじゃモモイにしてやられたみたいじゃないですか!!」

 

「えぇ……」

 

 先生は困惑した。

 ユウカの脳味噌は不可能問題を考えている内に少し故障してしまっているみたいだった。

 普段のユウカならたとえ思っていたとしても、こんなことは言わないだろう。

 

「先生はプライドが大事じゃないって言うんですか! このままではモモイに馬鹿にされるのは確実……そうなれば私のセミナーとしての誇りと名誉とプライドがズタズタになってしまうんですよ!? 冤罪でも良いからモモイを犯人にしないと!!」

 

「誇りも名誉もプライドも自分で投げ捨ててない?」

 

「鉄壁のアリバイを崩さないと……ないと……ないと…………」

 

「アリバイより先にキャラが崩れてるよ」

 

 ユウカはどこからともなく物理のエッセスを取り出した。

 

「ふぅ、落ち着きます……」

 

「そ、そう……」

 

 物理のエッセスを頬ずりして理系パワーを獲得したユウカは、先生に再度確認をすることにした。

 

「先生を疑うわけじゃありませんが……ほんっとうにミドリを見たんですか?」

 

「うん、間違いないよ」

 

「ほんっとうに?」

 

「ほんっとうに」

 

「私に誓って?」

  

「ユウカに誓って」

 

「チカっと」

 

「チカ千花っ♡」

 

 先生はユウカの追求に頭の上を指差しながら答えた。

 そういえば前もこのポーズを取っていた気がする。

 

 

──────────

 

「うん、ミドリが探してるのを見かけたよ」

 

 アリスが挙手し、先生が頭の上を指差した。

 どうやら図書館周りにモモイとミドリがいたことは事実なようだ。

 

──────────

 

 

 ミドリに関する証言をしていた時もこのポーズをとっていた。

 いや、それだけじゃない。

 確かあの時もそうだったはずだ。

 

 

──────────

 

「自分では完璧に隠れたと思ったんですけど」

 

「ちょっとだけ見えてたよ」

 

 "ここ"、と先生は自身の頭の方を指差した。

 どうやら頭がちょこっと飛び出していたらしい。完璧に見えない角度を計算したと思ったのだが、空間把握を少し失敗したようだ。

 

──────────

 

 

 あれは確か、かくれんぼをしていた時のことだ。その時もやはり先生は頭の上を示している。

 

「先生、そのポーズってどういう意味ですか?」

 

「えっ? ヘイローを指してたんだけど……伝わってなかったかな」

 

「ヘイロー……」

 

 ヘイロー。

 このキヴォトスの住民の頭の上にある謎の器官のことだ。キヴォトスの住民には()()()()()()()()()()()()()()謎多き部位だ。そこに"在る"こと自体は認識しているのだが。

 

「……もしかしてかくれんぼで先生が強いのって」

 

「うん、そうだよ。ヘイローが見えちゃってたからね」

 

 ばれちゃったか、と照れる先生と裏腹にユウカの思考機関であるハヤセンサーは高速回転をしていた。

 もしかして、そういうことなのか。確認する必要がある。

 ユウカは先生に訊いた。

 

「先生、もしかしてミドリもそのヘイローを目撃したってことですか?」

 

「うん。あっ、でもヘイローは人によって色も形も全部違うから絶対に見間違うことはないよ」

 

「双子のモモイとも?」

 

「うん。モモイとミドリのヘイローは色が違うから」

 

 ユウカは10秒ほど黙り込んだ。急に微動だにしなくなったユウカに先生は戸惑って、声をかける。しかし、ユウカは動かない。ハシビロコウのユウカだ。

 

「先生」

 

 軽く1分は固まった後、ユウカはようやっと口を開いた。

 

 

「謎は全て因数分解できました」

 

 


 

 

「というわけでモモイ、ディスプレイは弁償してもらうわよ」

 

「えっ!? なっ、何が『というわけで』なの!?」

 

 そんなもの決まってるじゃない、とユウカは髪をかき上げた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ユウカはビシッとモモイに向かって指を突き付けた。

 

「で、でも私にはアリバイが……」

 

「安心して。モモイでもわかるように1から説明してあげるから」

 

 ユウカは余裕の表情で笑った。

 立ち上がってくるくるとモモイの周りを歩き出した。

 

「あ、そこ───」

 

「いだっ"!!」

 

 ここはゲーム開発部の部室。

 床には大量にゲームのコントローラーやら何やらがいっぱい転がっている。

 ロッカーの中から飛んで来たゲーム開発部部長の花岡(はなおか) ユズの忠告は届かず、ユウカは鈍器のような持ちやすいコントローラーを思い切り踏みつけてしまった。

 

「歩くとエンカウントしてしまいます……!」

 

 アリスの忠告に従ってユウカは歩くのを辞めた。名探偵のマナーよりも身の安全の方が大事である。

 

「まず事件の流れはこうよ」

 

 改めて、ユウカは事件の流れを説明し始める。

 モモイが緊張の面持ちでユウカの説明を聞いていた。

 

「まず何らかがあったわ」

 

「何らかって?」

 

「それは……"何らか"よ」

 

「それじゃわかんないよっ」

 

「自分で考えなさい!」

 

「わかるように説明するって言ってたのに……!」

 

「? 知らないわ、そんなスワヒリ語」

 

 ユウカは過去改変主義者だった。ゲーム開発部の今回の予算申請書を握っているユウカは、もう無法であった。アニメでいうところのスポンサー並みの無法っぷりである。

 

「とにかく何等かで視聴覚室のディスプレイを壊してしまったモモイはそれを隠蔽することを考えたわ」

 

「いんぺー……」

 

ディスプレイ(でぃすぷれい)(こわ)したことを(かく)そうとしました。」

 

「隠蔽が分からなかったわけじゃないよっ!?」

 

「それで折り畳み机をディスプレイの前に立てかけたのね。

 まぁ、後は四辺にそれっぽい色のマスキングテープでも貼れば、更に誤魔化しの精度は上がるわ。

 思えばあの時、視聴覚室のドアの前で話してたのも近付けば誤魔化しがバレるからだったのね」

 

 モモイとミドリはあの時、ドアの手前で話していた。室内の様子をブロックしていたのだろう。

 

「そして姑息かつ陰湿で卑怯な偶然に頼った手段でディスプレイの破損を誤魔化したモモイには……」

 

「えっシンプルに悪口が凄い」

 

「折り畳み机を元の位置に戻す工程が必要になった」

 

「……で、でもそれだとおかしいよっ」

 

「何よ?」

 

 腰に手を当てているユウカにモモイが指を突き付け返した。

 

「その時間帯はアリバイがあるから!」 

 

「そんなもん既に因数分解済みよ」

 

「いっ、因数分解済みっ!?」

 

「展開して上げましょうか?」

 

「て、展開っ!?」

 

「Expansion」

 

「えっ、えくすぱんしょん!?」

 

 ユウカの頭上のハヤセンサーが左右にブンブン振り回される。テンションが上がっている証拠だ。ハヤセンサーがロッカーをバシバシ叩いた。

 モモイがテンションの上がっているユウカに反論する。

 

「だって図書館からミレニアムタワーに戻るには頑張っても9分はかかるんだよ!?」

 

「往復だと18分ですね!」

 

 モモイとミドリが目撃された時間間隔は18分もない。ミレニアムタワーまで戻って処理をするのは不可能だ。

 ユウカは「そんなの簡単よ」と指を振った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()とするなら、アリバイは崩せるわ」

 

「!」

 

「ミドリが……モモイを……?」

 

 ユウカの言葉に目に見えてモモイは汗を流している。首をかしげるアリスをチラっと横目で見てユウカは続けた。

 

「まず、改めて整理した時刻を出すわね」

 

 ユウカはメモ帳を取り出した。

 

 

──────────

 

16:40予算申請書の確認
16:45視聴覚室に着く
モモイとミドリと視聴覚室で出会う
17:00視聴覚室の鍵を返却
17:13売店へ移動、到着
   モモイとミドリが図書館に向かう
   ユウカが売店付近の捜索を切り上げる
17:19先生とアリスが図書館に到着(ノア)
17:21モモイとミドリが図書館に到着(ノア)
17:24ユウカが図書館に到着
かくれんぼ開始
17:29かくれんぼ終了。モモイを確認(ノア)
17:32爆発音。モモイを確認(アリス) ミドリを確認(先生)
17:34ミドリと会話
ミドリがモモイを呼びに行く
17:37モモイが学生証を発見したことを報告
17:41全員集まる
17:56全員で帰還。視聴覚室のディスプレイの破壊を確認

 

──────────

 

 

 括弧書きは証言した人の名前ね、と補足を入れた。

 

「まず"確実にモモイとミドリ本人がいた瞬間"がいくつかあるわ」

 

 ユウカはメモ帳を指差した。

 

 

──────────

 

16:40予算申請書の確認
16:45視聴覚室に着く
モモイとミドリと視聴覚室で出会う
17:00視聴覚室の鍵を返却
17:13売店へ移動、到着
   モモイとミドリが図書館に向かう
   ユウカが売店付近の捜索を切り上げる
17:19先生とアリスが図書館に到着(ノア)
17:21モモイとミドリが図書館に到着(ノア)
17:24ユウカが図書館に到着
かくれんぼ開始
17:29かくれんぼ終了。モモイを確認(ノア)
17:32爆発音。モモイを確認(アリス) ミドリを確認(先生)
17:34ミドリと会話
ミドリがモモイを呼びに行く
17:37モモイが学生証を発見したことを報告
17:41全員集まる
17:56全員で帰還。視聴覚室のディスプレイの破壊を確認

 

──────────

 

 

 ユウカは色が付いた部分の上の方に指を持っていく。

 

「この時点ではそもそも2人いたからまず本人がそこにいたと見て良いと思うわ」

 

 さらに下の部分に指をスライドさせる。

 

「『ミドリと会話』のところからだけど、ここでは面と向かって会話したから、ミドリ本人がいたと考えて良いわ」

 

「なるほど! モモイとミドリはcvが違います」

 

 アリスの言葉にユウカは頷いた。

 モモイとミドリは双子だが、声は簡単に聞き分けられる。それこそ、徳井青空と高田憂希(声優が違う)程度には。

 

「で、この色の付いてないところのどこかの目撃証言に"誤り"があればアリバイは崩れる」

 

 もっと言えば、かくれんぼ終了時のところか爆発音のところを誤魔化せれば良いのだ。 

 

「でもその時間帯は先生とアリスも目撃してるし……」

 

「そ、そうだよ! 先生とアリスが私を見間違うわけないもんねっ」

 

「えぇ、それが今回の事件を難しくしている因数のひとつね」

 

 ユウカはそう前置きしてから言った。

 

「だって、誰も見間違えてなんかいないもの」

 

「!」

 

「もう一度証言を振り替えって見ましょう」

 

 ユウカはアリバイ検証時のことを振り替える。

 正確に振り替えってみれば、簡単にわかることだったのだ。

 

 

──────────

 

 ミドリが阿呆な動きをするモモイを半眼で見ながら答えた。

 

「それで図書館の方にお姉ちゃんと向かいました。15分ぐらいかかったかな。着いた時間まではちょっと……」

 

 売店から図書館までは急いでも10分はかかる。妥当な時間だろう。

 

「17:21ですね」

 

「えっ」

 

間違いありません。17:21に図書館に来ましたよ

 

──────────

 

 

 これのどこが、と言いかけたモモイに被せるようにユウカは言った。

 

「まず、ポイント1。ノアは『モモイとミドリが来た』とは()()()()()()わ」

 

 ノアはミドリの発言を受けて答えただけで、別にモモイとミドリが図書館に来たとは一言も証言していない。

 ポイント2ね、とユウカはさらに続ける。

 

 

──────────

 

「はい、アリスはモモイを見ました!」

 

「うん、ミドリが探してるのを見かけたよ」

 

 アリスが挙手し、先生が頭の上を指差した

 どうやら図書館周りにモモイとミドリがいたことは事実なようだ。

 

「いつのことだったか覚えてます?」

 

 先生が考え込むような素振りを見せた。

 アリスが何かに気付いたように顔を上げた。

 

「そういえば、そのとき遠くからイオのSEみたいな音が聞こえました。モモイのヘッドギアが見えたのは、それで顔を上げたからです」

 

──────────

 

 

 このシーンはまさに"致命的"だ。

 

「アリス、本当に"モモイ本人"を見たの?」

 

「いいえ! アリスが見たのはモモイのヘッドギアだけです」

 

「あわわわわ……」

 

 モモイとミドリの容易な識別方法のひとつにそれぞれが装着している猫耳型ヘッドギアがある。モモイはピンクでミドリはグリーン。色でパッとどちらなのか判別が付くのだ。

 あわあわするモモイを尻目にハヤセンサーはぐんぐん回転速度を増している。

 

「先生は私達のヘイローを識別できる。だから生徒を見間違えることは絶対にない。つまり、ミドリがモモイと服装を交換して先生ともう一人別の人物に目撃されれば、『図書館にモモイとミドリがいた』と誤認させることが可能だわ」

 

「流石にリスキーじゃないかな……」

 

 ロッカーの中からユズが突っ込むも、ハヤセンサーの高速回転にその呟きはかき消された。

 

「売店から図書館に移動するまでの間にモモイが服をミドリに渡してミレニアムタワーに向かう。

 折り畳み机を元の位置に戻して図書館に戻って来る。

 学生証を失くしたというのもどうせこのトリックのための嘘でしょうね。

 だって、5()()()()()()()()()()()()()()()()()()を6人で探してあんなに長い間見付からないなんて有り得ないじゃない」

 

「モモイが売店から出発したのが13分、クエスト終了報告をしに戻ってきたのが37分。十分にミレニアムタワーに遠征に行く余裕はあります!」

 

「どうよ!! これが事件の全貌よ!! とっとと罪を因数分解しなさいッ!!!」

 

 ビシィッ……!

 決まった……!

 かんぺき~!

 そんな言葉達がハヤセンサーの周囲をぐるぐる巡った。

 これにて事件は解決。

 モモイにはディスプレイを弁償させ、反省文の類いも書かせる。勿論、弁償などできないはずなので、これからはそれと引き換えにゲーム開発部の予算を因数分解することができる。

 Winner……!! やはり早瀬ユウカこそナンバーワン!!

 

「ぜっ……」

 

「……ぜ?」

 

 

 

 

 

「全然違うよっ!!」

 

 

 

 

「……………………は?」

 

 一度口火を切ったモモイは、さながらAR(アサルトライフル)のように喋り出した。

 

「ディスプレイを壊しちゃったのと、咄嗟にユウカにバレないように机で隠したのはそうだけど……それ以外は全然違うよ!?」

 

「違うって何がよ」

 

「私とミドリは入れ替わったりしてない。ちゃんと図書館の傍で学生証を探すフリをしてたんだからっ」

 

「やっぱ嘘じゃない!」

 

「いやこれはユズに机を片付けてもらう間の時間稼ぎというか……」

 

「…………ユズ????????????」

 

 ユウカはロッカーの方を振り向いた。ロッカーがカタカタと揺れる。

 固まっているユウカにお構い無しにモモイが続けた。

 

「つまり、ユウカの推理は全部間違ってて───」

 

「でもディスプレイ壊したのは事実じゃない!」

 

「それはそうだけど、」

 

「だけども火傷もないわ! 因数分解確定ッッッ」

 

「う、うわぁぁああああん!!」

 

 有無を言わさずユウカは巨木のようなどっしりとした安定感でモモイを引きずった。

 ばたん!

 ゲーム開発部の部室の扉が乱暴に閉められた。取り残された3人の間にはただ静寂だけが広がっていた。

 鈍器みたいなゲームコントローラーが、廊下から伝わる振動で揺れていた。

 

 こうして事件は幕を閉じた。

 この日以降、ミレニアムのとある一室で鳴き声と因数分解と叫ぶ謎の怒声が聞こえるようになったとか……なってないとか。

 それは別の数式。

 めでたしめでたし。

 おしまいおしまい。

 どっとはらい。

 

 


 

 

「ねぇ、そういえばひとつ聞いていいかしら? いい? オーケー。聞くわね」

 

「えっ、自問自答の流れ作業」

 

「どうしてアリスや先生に事情を言わなかったの?

 5人ぐるみでやれば、流石の私でも事件の謎を因数分解することはできなかったはず……」

 

「だって()()()()()()()()()()()から」

 

「ネタバレ?」

 

「次の新作は謎解きアクションADVにする予定だったんだけど、アリスと先生には完全初見でのテストプレイを頼んでたから、二人にはちょっとでも"トリック"を感じさせたくなくって……」

 

「ちなみにその次回作で使う予定だった"トリック"とやらを聞いてもいいかしら」

 

「えっとね、双子入れ替わって犯行時刻とアリバイを偽装するトリックなんだけど……」

 

「……は」

 

「まぁ、今改めて思うとこんな()()()()()()()()()鹿()()()()()なんて全然採用できないんだけどね。だって……あれっ、ユウカ? どうしたの?」

 

「お、馬鹿トリック……?」

 

「うんっ、こんなしょうもないトリック使っちゃったらまたユーザーレヴューで☆1ばっか付いちゃう。ましてや主人公が恥ずかし気もなく偉そうに誰でもわかることを語ったら謎解きADVとしては完全に失格だよね、みたいな…………ユウカ?」

 

 その日、ミレニアムには新たな七不思議が追加された。

 その名も"バーニングユウカジラ"。

 発生条件は不明であるとか。

 本当におしまい。

 

 


 

・譲崎 モモイ (cv.徳井青空)

 

 偵都ミレニアムはディティクティブサイエンススクール所属、ゲーム開発部のシナリオライター兼探偵。

 双子の妹、ミドリと共にゲーム開発部で文字通りゲームを開発している探偵クリエイター。

 電子機械操作(ダイレクトハック)のトイズを利用し、金欠やみみっちぃ悪事を解決する。

 食いしん坊だが、その食費はゲーム機に消えている。

 そのため、稀によくみみっちぃ悪事を働く。

 学園の一部では"クズかわいい"という評判も。

 

年齢15歳
身長143cm
体重42kg
誕生日12月8日
血液型O型
好きなものお金、ゲーム
嫌いなもの部費を虐げる人

 

 

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