妹が魔術結社のボスなせいで人生ハードモード   作:秋月月日

11 / 74
 前回の話で指摘された部分を修正しました。

 あと、某掲示板に晒したことで重要かつ為になるアドバイスを貰う事が出来たので、今後に生かしていけたらなと思います。

 と、とりあえず、文字数増やすぞ、少しずつだけど増やしていくぞ……っ!


Trial11 科学と魔術に振り回されて

 神裂が土御門にからかわれるよりも少し前、上条当麻は海の家一階でぼーっとテレビを眺めていた。

 『くっ……外見は私の癖にだらしがない……ッ!』という言葉とドタドタという足音が聞こえてくるが、まぁあえて気にするような事でもないだろう。あの二人はああ見えて結構お似合いな気がするし、こちらが口を出したら泥沼になってしまうというものだ。ここはあえて放っておき、土御門と共に野次馬根性を全開に差せておくのが得策だ。

 

「…………そういえば、コーネリア先輩も一応は魔術サイドの人間なんだよな」

 

 一応、というのは彼――コーネリア=バードウェイが完全に魔術サイドの人間である、という訳ではないからだ。

 魔術サイドの人間でありながらも学園都市で能力開発を受けている例として、上条の同級生である土御門元春がいる。彼はイギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』に所属している魔術師で、イギリス清教と学園都市の二つに探りを入れている多角スパイでもある。能力開発を受けたことによって無能力者(レベル0)の『肉体再生(オートリバース)』という能力を得ている土御門だが、それでも彼は魔術サイドを基点としている。

 その点、コーネリア=バードウェイは少し事情が異なる。

 彼はイギリス屈指の魔術結社『明け色の陽射し』のボスの家系の人間である――らしい。詳しい話は聞いていないからよく分からないが、彼の二人の妹の内の長女は現在、その魔術結社のボスに就任している――という事を聞いている。本当はコーネリアがボスになる予定だったらしいのだが、『原石』という特別性がその予定を破壊した。『能力者は魔術を使えない』というのとはどこか違うのだろうけど、結局は魔術が使えないコーネリアは能力者の街である学園都市へと基点を移した。

 そんな事情を持っているせいか、コーネリア=バードウェイは魔術サイドと科学サイドの両方に関与する事が許されている。一応は『異能力者(レベル2)』という風に学園都市の学生簿に登録されてはいるから魔術サイドとの関わりは避けるべきなんだろうが、『「明け色の陽射し」のボスの実兄を殺せば、隠れてるボスが姿を現すぜヒャッハー!』という精神全開の魔術師に毎日のように命を狙われているらしいので、それは叶わぬ事なのだろう。

 俺以上に不幸かもな、あの先輩――と上条は薄ら笑いを浮かべる。

 

「……俺とコーネリア先輩って、前はどんな関係だったんだろうか」

 

 ふと、そう思う事がある。

 インデックスという少女を救う際に記憶をごっそり破壊されている上条当麻には、七月二十八日以前のエピソード記憶が存在しない。それ故、七月二十八日以前に知り合っていた人々との思い出が存在しない。――それは、コーネリア=バードウェイも例外ではない。

 記憶を失くした後――というか、三沢塾攻防戦から数日後の事だったと記憶している。

 突然、自宅にコーネリア=バードウェイが訪れてきたのだ。

 それは上条が記憶を失くしてから初の接触であり、見覚えのない来客に上条は思わず狼狽してしまっていた。上条と同じ学校の男子生徒用の制服を身に着けているのに女顔な金髪イギリス人に、上条はただただ困惑と沈黙を垂れ流すしかなくなっていた。

 そんな彼に、コーネリアは言ったのだ。

 

『……なぁ上条。ちょっと先輩と後輩の交流を深めるために、一緒にファミレスにでも行こうぜ』

 

 そう言うコーネリアの顔は、どこか寂しそうなものだった。

 言葉を放つまでの数秒の沈黙が、明らかに様子がおかしい上条を見るコーネリアの悲しげな瞳が、上条当麻に一つの核心を抱かせた。―――この人は俺が記憶喪失だと気づいている、と。

 誰かに言った覚えはない。誰かに気づかれたこともない。一番近くにいるインデックスに気づかれないように、必死に懸命に『記憶を失う前の上条当麻』を演じてきた。

 しかし、コーネリア=バードウェイは気づいていた。

 別に、本人がそう言っていたわけではない。故に、ただの気のせいだという可能性もある。これはただの思い違いで、コーネリア=バードウェイは上条が記憶を失っているという事に気づいているわけではない。――その可能性は、ゼロではない。

 そんな葛藤が胸に渦巻きながらも、上条はコーネリアについて行った。貴重な外食だからついて行く、と駄々をこねるインデックスをどうしようか迷ったが、そんな自分にコーネリアが悪戯っぽく笑いながらこう言ったのを覚えている。

 

『禁書目録も連れてきていいぞ。一応はお前よりも奨学金が多いんで、金に少しぐれえなら余裕あるしな』

 

 禁書目録。

 それは、インデックスという少女の別名だ。正式名称を『Index-Librorum-Prohibitorum』という銀髪碧眼シスターの、魔術サイドにおける異名と言ってもいい。

 それを、科学サイドの人間であるコーネリアが知っていた。

 先輩というのは実は嘘で、インデックスを狙う魔術サイドの刺客かもしれない――そう思った上条は、インデックスを背中に庇いながら、コーネリアに警戒の視線をぶつけた。

 その時だったはずだ。

 心の底から悲しそうな表情を浮かべながらも、コーネリア=バードウェイが自分の事情を懇切丁寧に話してくれたのは。

 

「……今思えば、俺、結構酷い事したかもなぁ」

 

 結局、コーネリアが上条の記憶喪失に気づいているのかどうかは分からなかった――というか、インデックスが同席していたので、上条はその事をコーネリアに聞く事が出来なかった。

 ただ一つ、分かった事。

 それは、コーネリア=バードウェイが科学サイドでも魔術サイドでも中々に複雑な存在として扱われている、という事だ。

 『イギリス屈指の魔術結社のボスの実兄』

 『世界に五十人と存在しない天然能力者』

 その二つの称号が、その二つの楔が、コーネリア=バードウェイという優しい先輩の人生を大いに狂わせてしまっている。

 それが、コーネリアとの話で上条が知った、コーネリア=バードウェイの不幸で不遇で不憫で不運な人生の概要である。

 

「学園都市に、しかも俺の学校に二人も魔術サイドの人間がいる、か……バイオレンスでデンジャラスすぎてあんまり笑えねえな」

 

 願わくば、校内で魔術戦を繰り広げないでくれたらいいな。いやまぁ、二人とも能力者だから、魔術は使えないみたいだけど。

 はぁ、と溜め息を吐き、「……不幸だ」といつもの口癖を吐く上条。相も変わらず自分の周りには不幸な事が多いなぁ、と自虐的な事を思いながらも、上条の顔には少しばかりの笑顔が張り付いている。

 ―――と、その時。

 ブツン、と海の家の全ての電気が消えた。

 停電か? と上条は眉を顰め、今し方活動を停止した蛍光灯に視線を向ける。座った状態だと少し遠かったため、上条は腰を少しながらに浮かせていた。

 直後。

 ガスッ! と三日月状のナイフのようなものが、上条の足元から突き出してきた。

 

「――――――っ、な」

 

 思わず、呼吸が止まった。

 喉は一瞬で干上がり、声を出そうにも擦れた音しか零れてこない。両脚は床に縫い止められてしまっていて、身体は完全に硬直してしまっている。

 ギチギチ、とナイフが前後に揺れ動き、床板を荒く激しく雑に切り裂いていく。

 瞬きを忘れて足元をただただ見つめる上条。今すぐ逃げ出さないといけないのは十分に承知しているが、その心に反して身体が全く動いてくれない。

 そして。

 そして、そして、そして。

 突き出していたナイフが床の中へと――フッ――と消えた。

 しかし、問題はその直後、床に開いた大穴からやってきた。

 血走ったような、腐ったような、狂ったような、焦ったような――

 

 

 ―――そんな眼球が、ぐるり、と上条の目を確かに捉えた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 上条当麻が火野神作に襲われた。

 そんな衝撃的な事実を寝起きの状態で告げられたコーネリアは軽い頭痛を覚えながらも、海の家『わだつみ』の二階でぐだーっと項垂れていた。既に布団は片付けられているので眠る事はないが、畳の上でごろごろとするその姿は日がな一日寝て過ごす駄目人間の様だった。

 電気が消えた蛍光灯を眺めながら、コーネリアは溜め息を吐く。

 

「……うあー」

 

 理由は分からない。上条当麻という大切な後輩を守れなかった、という事が原因なのかもしれないが、それが全てではないという事だけは、まぁ理解している。

 ただ、やる気が出ない。

 夏バテ、という訳でもない。――これは、コーネリアの発作のようなものだ。

 今更すぎるが、コーネリアは転生者だ。この世界の異物であるというのは言うまでもない。

 そんな異物である彼がこの世界に生まれ落ちた訳だが、世界はどうしようもないほどに変わる事はなかった。結局は元の原形を保ったまま、コーネリア=バードウェイという異物を軽く受け入れてそのままの形を保っている。

 別に、未来が変われば、だとかいう事を願っているわけではない。

 ただ、自分の存在意義が分からなくなっている。

 レイヴィニア=バードウェイの実兄という絶対の立場でありながら、結局は命を狙われることしかしていない自分が、どうしようもなく無駄な存在であると思ってしまう。

 それ故の、やる気の無さだった。

 天井に向かって右手を伸ばし、プラプラと上下に振る。何の能力も宿っていない右手は、世界に何の影響も与えない。コーネリアの能力は『人工物』という自分以外の存在がいて初めて効果を発揮する能力なので、彼一人では何かが起こることはない。せいぜい身に着けているものから荊を生やす程度のものだ。彼自身の身体には、何の能力も宿されてはいない。

 それも、コーネリアの存在意義をぶれさせる要因の一つだ。

 結局、俺は自分だけじゃ何もできないし、俺がいたところで世界は何も変わらない。

 そう、思ってしまっている。

 

(…………我儘で身勝手なのは重々承知してんのだけどな)

 

 ただ、何かしらの展開が欲しい。

 原作の展開に振り回されるだけではなく、自分という異物を中心とした物語が欲しい。

 言ってみれば、コーネリア=バードウェイは『主人公』になりたかった。

 (……ま、期待するだけ無駄だがな)異物はあくまで異物であり、物語の主軸にはなれない。異物であろうと脇役であることは変わりなく、この世界の物語は『上条当麻』という存在を中心に進んでいく。

 実は、それが、その我儘な期待が、彼の物語を開始させるきっかけとなるのだが、この時の彼はそんな事などまだ知る由もない。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 ―――そんな異物な少年を、『彼』は海の家近くの木の上から眺めていた。

 存在しているのに背景のように感じられる『彼』は、そばかすが浮かんだ顔をニィィと歪め、心の底から面白そうにこう呟いた。

 

「――――あいつ、良いなぁ」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 結局のところ、『御使堕し』は正史の通りに終結した。

 コーネリア=バードウェイもある程度は絡んだが、大まかな流れとしては正史の通り。ミーシャ=クロイツェフと名乗った女魔術師の中身が実は『神の力』で、神裂火織が『神の力』の足止めとして奮戦し、土御門元春と上条当麻が命を懸けた戦いを繰り広げ、土御門元春が儀式場ごと『御使堕し』を焼き払い、物語は終結した。

 しかし、ここまではあくまでも序章に過ぎない。

 コーネリア=バードウェイの立場が明らかとなった。

 コーネリア=バードウェイの能力が明らかとなった。

 コーネリア=バードウェイの葛藤が明らかとなった。

 その前提を確かなものにするための序章は、これで終わった。

 ここからは、僅かながらに正史と外れた物語が幕を開ける。

 上条当麻(ヒーロー)が救う物語のすぐ横で。

 一方通行(ダークヒーロー)が抗う物語のすぐ横で。

 浜面仕上(ジャイアントキリング)が戦う物語のすぐ横で。

 

 

 コーネリア=バードウェイを中心としたたった一つの物語が、誰にも気づかれる事なく開始された。

 

 

 




 感想・批評・評価など、お待ちしております。

 次回もお楽しみに!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。