妹が魔術結社のボスなせいで人生ハードモード   作:秋月月日

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 二話連続投稿です!

 ついに大覇星祭開幕。

 それと同時に『オリキャラ』タグを加えておきました。


Trial12 大覇星祭開幕

 九月十九日。

 九月二十五日までの七日間で繰り広げられる大覇星祭の初日。

 真っ白なハチマキと半袖短パンの体操服に身を包んだ金髪女顔系イギリス人男子ことコーネリア=バードウェイは、大量の汗を垂れ流しながら今にも死にそうな表情を浮かべていた。長時間水分を取っていないせいか、妙に喉が干上がっている気がする。

 今、彼がいるのは、学園都市のとあるエリアにあるサッカースタジアムだ。どこぞの体育会系学校が所有しているスタジアムであるらしいが、この炎天下のせいで人工芝が解けてしまっているような錯覚に陥ってしまう。

 コーネリアがそんな錯覚を覚えてしまいそうになっているのは、大覇星祭における開会式での校長先生の話の連発が原因だ。既に六人目だと記憶していて、しかも一人につき十分ぐらいは話すので既に約一時間が経過してしまっている。数多の教育機関が集う学園都市であるから仕方のない事だとは分かっているが、それでもこれは流石に酷すぎる。来年こそはもう少し校長先生を厳選するべきだよな、と溶けてしまいそうになっているコーネリアは心の中で愚痴を零す。

 

「…………あー無理。これ以上は耐えらんねえ」

 

 もう出よう。俺の命が尽き果てる前に。

 既に何十名かの脱走兵が出ているから問題はないだろう、と言い訳の言葉を並べつつ、コーネリア=バードウェイは学生たちが生み出したビッグウェーブに乗る事にした。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「おっ兄さぁ――――ん!」

 

「ぐぼぁああっ!」

 

 スタジアムを飛び出して少しぶらぶらしていたら、鳩尾に誰かが突撃してきた。

 腹部への激しい衝撃で肺の中の空気が完全に消滅してしまったコーネリアは、青褪めた顔で必死に酸素を取り込み始める。やっぱり荊を生やす能力なんかよりも防御系の能力の方が欲しかったなぁ、とかいう今更過ぎる願望を抱くコーネリアは全身の毛穴から噴き出す冷汗に悪寒を感じつつも、自分に闘牛顔負けの捨て身タックルを決めた襲撃者の姿を確認する事にした。

 その襲撃者は、コーネリアに顔のよく似た少女だった。

 十二歳ぐらいであろうその少女は、ふわっとした金髪が特徴的だった。首元には大きくて無骨なヘッドフォンが欠けられていて、凹凸の乏しい小さな体はジャージのような衣服に覆われている。コーネリアは怠そうで眠そうな目つきが特徴であるが、その少女は人懐っこいぱっちりとした目つきをしている。

 少女の姿を完全に視認した瞬間、ぶわぁっ! とコーネリアの全身の毛が逆立った。

 しかし、そんなコーネリアの様子に気づくことはない少女はぱぁぁっと満面の笑みを浮かべ――

 

「お久しぶりです、お兄さん!」

 

 ―――むぎゅっとコーネリアに勢いよく抱き着いてきた。

 だらだらだら、と大量の冷や汗を流すコーネリアに構わず、その少女はニコニコ笑顔を彼に向ける。

 

「いやぁ、学園都市って意外と広いですね。西へ東へ彷徨って、ようやくお兄さんを見つける事が出来ました!」

 

「そ、そうか。そりゃあ大変だったろうな、パトリシア」

 

「いえっ、大丈夫です。お兄さんに会うためならこれぐらいの苦労、どうという事はありません!」

 

「あ、あはは……」

 

 パトリシア。

 フルネームは、パトリシア=バードウェイ。

 コーネリアの事を『お兄さん』と呼んでいる事とそのファミリーネームから分かる通り、彼女はレイヴィニア=バードウェイとコーネリア=バードウェイの実妹だ。

 学園都市に身を置く『原石』であるコーネリアとイギリス屈指の魔術結社『明け色の陽射し』のボスであるレイヴィニアの実妹、という考えてみればコーネリア以上に危ない立場に身を置く彼女はそんな立場に見合わず、能力者でも魔術師でもない普通の一般人である。一応は十二歳とは思えないぐらいの天才的な頭脳を持ち合わせていて、それ故にいろいろな研究機関から『ストック』として目を着けられていたりするが、基本的にパトリシアは『殺し合うぜうがー!』みたいな荒事とは無縁の人生を歩んでいる。それは実姉のレイヴィニアがパトリシアを『魔術』に関わらせないように手を回しているからなのだが、今はそれについての説明は置いておくことにしよう。

 ロンドンにいるはずのパトリシアが学園都市にいる理由はおそらくだが、コーネリアの応援をするためだ。基本的には外の人間を歓迎しない学園都市であるが、大覇星祭期間中だけは学生たちの家族や旧知の関係の人間たちを例外的に学園都市の中に招待している。それを利用して、パトリシアはこの街にやってきたんだろう。

 それは分かる。パトリシアはコーネリアの実妹だから、その理屈は分かる。

 問題は、そこではない。

 彼が一番問題視しているのは、パトリシアと同じ立ち位置に存在するもう一人の少女の事だ。

 ぎゅーっと自身の身体を抱きしめているパトリシアの肩を掴んで引き離し、コーネリアは引き攣った笑顔をパトリシアに向ける。

 

「え、えーっと、パトリシア? これはあくまでも確認なんだが、もしかして『あいつ』もこの街に来てんのか……?」

 

「『あいつ』? ああ、お姉さんの事ですか? それについては問題ありません、大丈夫です」

 

「そ、そうか! まぁ、そうだよな! 『あいつ』は学園都市が嫌いだから……」

 

「今、現在進行形でお兄さんを背後から睨みつけています」

 

 

「……よぉ、バカ兄貴。貴様の大好きなレイヴィニアちゃんが応援に来てやったぞ」

 

 

「―――全然大丈夫じゃねえってうおおマジでいたァアアアアアアッ!?」

 

 背後――というか本当に真後ろから聞こえてきた可愛らしい声(言葉は凶悪)に、コーネリアは跳ねるという露骨なリアクションを発動させる。

 そして、恐る恐るといった様子で後ろを振り向くと―――そこには、コーネリアが世界で一番恐れている十二歳前後の少女が仁王立ちしていた。

 小さなその少女はコーネリアやパトリシアと同じ雰囲気の金髪を持ち合わせていて、シックなブラウスやスカート、それにストッキングなんかの配色が彼女に古いピアノのような印象を与えている。小動物系なパトリシアと怠惰系なコーネリアとは違い、彼女の目つきはまさに肉食系といった感じだ。

 そんな可愛らしい容姿に反して目付きだけは獰猛な少女の名は、レイヴィニア=バードウェイ。

 コーネリア=バードウェイの実妹にして、イギリス屈指の魔術結社『明け色の陽射し』のボスであるトンデモ魔術ガールである。

 コーネリアの人生が狂う直接の原因となった少女は背後に金髪の黒服部下(確か、マーク=スペースという名前だったハズだ)を従えていた。流石はVIPというべきか、大覇星祭の応援に来るだけなのに護衛を着けてきている。……まぁ、どう考えてもパトリシアのための護衛なんだろうけど。

 存在するだけで威圧感を感じられるレイヴィニアはコーネリアに一歩近づき、

 

「先程からの言動で気になるところが満載なんだが、とりあえずぶん殴ってもいいか?」

 

「良い訳ねえだろこのバイオレンス娘!」

 

 九月十九日から二十五日までの七日間で繰り広げられる、学園都市最大の行事――大覇星祭。

 温厚シスターと凶悪シスターの来訪により、コーネリア=バードウェイの一週間が地獄になる事が決定した瞬間だった。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 レイヴィニア=バードウェイ。

 パトリシア=バードウェイ。

 極度のブラコン及びトラブル誘引体質な姉妹を黒服部下の代表格であるマーク=スペースに押し付けるようにして逃げ出したコーネリアは、第七学区の東側にあるエリアへと移動していた。ここら辺一帯は競技出場者以外は立ち入り禁止となっており、他の場所に比べて少しばかり静かな空間となっている。

 入り口に立っていた警備員(アンチスキル)のお兄さんにIDを認証してもらい、自分のクラスが集まっているであろう控えエリアへ歩を進めていく。三十秒ほど歩いたところで見知った顔を見つけたコーネリアは「よーっす」と手を軽く上げて挨拶をし―――

 

「ええい、いい加減にやる気を出さないか君たち!」

 

 ―――なんか、親友Aがクラスメイト達に叫び声を上げていた。

 滑らかな黒髪と黒縁メガネが特徴の長身男子は、眼鏡のブリッジを人差し指で抑えながら堅苦しい口調でクラスメイト達を激励している(?)。その表情は軽い怒りに染まっていて、額には青筋までもが浮かんでいる始末だ。

 なに、これってどういう状況? とコーネリアは思わず顔を引き攣らせる。

 そんな彼に気づいたのか、眼鏡をかけた長身男子――苅部結城(かりべゆうき)は「ん?」とコーネリアに顔を向ける。

 

「おお、遅かったじゃあないか、コーネリア! そして聞いてくれ我が友よ! 我が級友たちが『相手校が強豪校だから』という理由でやる気を喪失させてしまっているんだ! これは由々しき事態だと、そうは思わないか!?」

 

「と、とりあえず落ち着けって、結城。今がどういう状況なのかは十分に分かったから……」

 

 ずいっ、と詰め寄る結城を手で押し戻すコーネリア。

 と。

 彼らの近くの木陰で涼んでいた小柄の少女がゆらぁーっと立ち上がり、トテトテとコーネリアの傍まで歩み寄ってきた。

 その少女は、ゆるふわな茶髪とアホ毛、それと平和そうな目つきが特徴の小柄な少女だった。

 菱山琴音(ひしやまことね)

 コーネリアと結城といつも一緒にいる少女であり、彼らが在籍している二年二組のマスコットキャラクターとして級友たち全員から可愛がられている癒し系でもある存在だ。

 アホ毛をぴょこぴょこと揺らし、琴音はにへらと笑顔を浮かべる。

 

「も~、苅部っちは少し落ち着いて~。コーネリアっちが呆れちゃってるから~」

 

「む。それは誠に遺憾だぞ、琴音。ボクは極めて冷静だ」

 

「本当に冷静な人はクラスメイトにそんな睨みを向けないと思うけど~?」

 

「ぐっ……」

 

 このほんわか少女は、他人の名字か名前のどちらかに『~っち』という愛称をつけることを好む性質を持っている。普通に考えれば『コーネリアっち』などという長ったらしい愛称は避けるのが当然なのだが、彼女曰く「人の名前を略すなんてダメだよ~」という事らしい。意外と考えてるんだよな、このマスコット――と感激したのを覚えている。

 とまぁ、そんな事はさて置いて、だ。

 二人の――というか、結城の様子から察するに、どうやら我が級友たちは相手校を知ってしまったが故に絶望のどん底へと落ちてしまっているらしい。コーネリアも先程確認したからよく知っているが、今回の競技の相手は確か『能力をスポーツに生かすことを目的とした高等学校』だったはずだ。確かに、学生の大半が無能力者で構成されているコーネリアの高校では、太刀打ちできない可能性が極めて高い。やる気をなくしてしまうのも当然だろう。コーネリアも個人的には落ち込みたい気持ちでいっぱいだ。

 しかし、それが出来ない理由がある。

 それは、レイヴィニア=バードウェイが競技を観戦しているという理由だ。

 ぶっちゃけた話、コーネリアが参加した競技で敗北したが最後、特大の大魔術で頭を消し飛ばされてしまう未来しか見えない。流石にそこまではないにしても、骨の一本ぐらいは覚悟する必要があるだろう。――レイヴィニア=バードウェイという実妹は、サディスト精神全開な笑みで実兄であるコーネリア=バードウェイにそれぐらいの暴挙を働く事が出来る人間だ。

 故に、コーネリアはこの状況を何とかしなければならない。

 故に、コーネリアは考える。自分の級友たちがやる気を出してくれる方法を、自分が延命できる方法を、持ち前の頭脳をフル動員して思考する。

 と。

 地面に項垂れ、木に寄りかかり――という状態だった二年二組の面々の下に、一人の来訪者が現れた。

 

「ちょっ!? こ、こここれは一体どういう状況なのかなーっ!?」

 

 それは、凹凸が悩ましい身体をジャージで包んだ女教師だった。

 しっかりと上まで閉じたジャージの上は豊満な胸で盛り上がっていて、悩ましいヒップと太腿がジャージの上からでも判別できる。ショートヘアの黒髪は彼女に活発な印象を与えていて、若干頼りないが常人以上に整った顔立ちが彼女が美人だと教えてくれる。

 干支夏珪(えとかけい)

 またの名を、学園都市一頼りにならない女教師、とも言う。

 豊満なバストを揺らしながら現れた夏珪に「……あたしにもきっと希望はあるんだから~」と琴音は自身の薄っぺらい胸をペタペタと叩く。

 二年二組の担任教師である夏珪にコーネリアは溜め息を吐き、

 

「ちょうどいいタイミングでの登場っすね、干支セン。早速ですが、この牙の折れた教え子たちを立ち上がらせてください。はい、教師としての本領発揮!」

 

「い、いきなり凄い要求だね!? でもでも、これも教師の役目。はいっ、私、頑張っちゃうよーっ!」

 

 ああこりゃあんまり期待できねえなぁ、と二年二組全員の心が一つになる。

 あわあわおろおろと身振り手振りを繰り広げていた夏珪は「そうだーっ!」と人差し指を立てて得意気な表情を浮かべ、

 

 

「大覇星祭で良い成績を残せたら、私が何でも一つだけ言う事を聞いちゃうよーっ!」

 

 

「よっしゃ聞いたかテメェら! これはもうやるしかねえんじゃねえの!?」

 

『ったりめえだ! 全ては干支センのおっぱいのためにぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいっ!』

 

 メラメラと闘志――もといエロ心を燃やして団結する二年二組男子を見て女子が総じてドン引きし、自分がとんでもない事を言ったと即座に気づいた夏珪が「あわわわわ!?」と焦りを見せる。

 そんなこんなで大覇星祭一日目、スタートである。

 

 




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 次回もお楽しみに!

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