妹が魔術結社のボスなせいで人生ハードモード   作:秋月月日

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 今回、コーネリアの名前の由来が明らかに!

 え、本編? も、勿論、そっちも重要ですよ! あ、あははーっ!


Trial2 神裂火織

 イギリス清教所属の聖人・神裂火織が刺客として現れた。

 それはコーネリア=バードウェイにとってはただ絶望するしかないだけの現実であり、これまで必死に守り続けてきた命が散ってしまうと諦めてしまうぐらいの悲劇だった。

 コーネリアから「変態だぁーっ!」と不本意な評価を下された神裂はひくひくと頬を引き攣らせ、爪が食い込むぐらいにギュッと拳を握り締めながら怒りに震える。

 

「出会い頭にここまでの屈辱を受けたのは生まれて初めてです……とりあえず骨一つ残さないように切り刻みます」

 

「怖ッ!? そんなちょっと口が滑っちまっただけで酷くねえっ!?」

 

「口が滑ったと言っている時点で、貴方が私の事をどう思っているかが丸分かりなのですがッ!?」

 

「ハッ! しまった!」

 

 口を開けば開く程無駄に墓穴を掘っていくコーネリア。こういう残念なところがレイヴィニアより劣ってる理由なんだろうなあ、と心の中で静かに泣くことも忘れない。

 チャキ、と無駄に長い日本刀――七天七刀の柄に手を掛ける神裂。

 そんな彼女に焦ったコーネリアは、僅かでも延命するために自分の得意技を早々に行使する。

 

「そ、その行動はフェイクだろ? お前の本命は鉄糸による攻撃で、刀は『唯閃』とかいう必殺技を発動する時にしか使わないはずだ」

 

「なっ……!? 何故、私の戦闘術をそこまで詳細に把握しているんですか!?」

 

「さあな。俺の能力で心を読み取ったのかもしれねえぞ? はたまた、お前の仲間が俺にお前の情報を予めリークしてたって事もあり得るな」

 

「…………っ」

 

 予想外の展開に驚愕する神裂は、射抜くような視線をコーネリアに向ける。

 自分の戦術を戦闘前に暴露されたことで警戒態勢に入った神裂に飄々とした態度を見せつけるコーネリアはニヤリと悪い笑みを顔に張り付け―――

 

(よ、よかった……神裂の攻撃パターンをちゃんと覚えてて、マジでよかった……ッ!)

 

 ―――顔中にびっしりと冷や汗を浮かべていた。

 そう。

 別に、コーネリアは心を読み取る能力を使った訳でも、イギリス清教の魔術師から情報をリークされた訳でもない。というかそもそも、イギリス清教に命を狙われている身であるコーネリアがイギリス清教の魔術師から情報を得る事なんて不可能なことである。故に、後者については端から有り得る訳がないのだ。

 彼が神裂の戦闘パターンを知っていたのは、彼が転生者であることが大きく関係している。もはやあえて言うまでもないだろうが、前世から引き継いだ『原作知識』から情報を引っ張り出してきただけに過ぎない。

 つまり、先ほどのコーネリアの行動は、表も裏もないただの虚言。

 格好悪い言い方をするならば、コーネリアは唯一のアドバンテージを駆使してハッタリを張っただけに過ぎない。

 原作知識を生かしたハッタリ。

 これこそが、コーネリア=バードウェイが最も得意としている戦術なのだ!

 

(……といっても、流石にハッタリだけじゃあ状況打破にはなりゃせんしなぁ)

 

 ハッタリだけで勝負に勝てるなら、この世に異能や魔術などは必要なくなる。やはり勝敗の行く末を握るのは異能や魔術、それと暴力や武器といったバイオレンスな要素が必要不可欠となる。世界に五十人ほどしかいない『原石』の一人であるコーネリアには一応『異能』と呼ぶべき能力があるにはあるが、ハッキリ言ってあまり戦闘向けな能力ではないので使用は出来るだけ避けたい――というのが彼なりの要望である。

 しかしまぁ、逃走のための牽制をメインとした能力ではある為、結局は使う羽目にはなるのだが、そこを指摘してしまっては元も子もないというものだ。ハッタリと微妙な能力を駆使してこの局面を乗り切る。これこそがコーネリアが何よりも最優先としている戦術なのだ。

 自分のハッタリが上手く効いた事に安堵の息を零しながらも、コーネリアは神裂に話しかける。

 

「っつーか、いくら俺がレイヴィニアの実兄だからって別に命まで狙う事はねえだろ? せめて生け捕りとか、そういう感じにしてくれると助かるんだけど?」

 

「生け捕り、という事はイギリス清教名物『処刑塔での拷問コンボ』を味わう事になってしまいますが、よろしいのですか?」

 

「ああやっぱりなし今のなし生け捕りとかやっぱり駄目だよね命を懸けた戦いこそが至高だよね!」

 

 なんか結局は人生ハードモードなのには変わりがない気がした。おのれレイヴィニア、元はといえばお前が魔術結社のボスなんかになるから悪いんだぞ! もっとこう、普通の人生を歩んでくれれば俺も平和に過ごせてたはずなんだ! こんな毎日のように命を懸けたバイオレンスイベントをこなさなくても良かったはずなんだ!

 しかし、そんな事を今更呪ったって今の状況は改善されないし、明日以降の刺客の数が急激に減るわけではない。レイヴィニア=バードウェイの兄としてこの世に生を受けてしまった時点で、彼の平和な生活は始まる前に終了してしまっているのだ。無い物強請りをするなんて、もう一度転生を望む以上に無駄な行為でしかない。

 挙動不審なコーネリアに神裂は「はぁ」と呆れたような息を零す。

 

「今までの対話で十分に分かりましたが、貴方はレイヴィニア=バードウェイとは正反対の人格をしているようですね。残酷で嗜虐的で凶悪なレイヴィニアとは違い、貴方は思慮深くて被虐的で善良です。上からの命令が下っていなければ、私と貴方は仲良くなれていたかもしれませんね」

 

「いや、それはねえわ。俺、そんな変態的な服装の痴女はちょっと受け入れらんないです」

 

「だから私は変態でもないですし痴女でもないです! この服装には魔術的な意味合いがあり、そのような侮辱を受ける事は余りにも心外です! 撤回を求めます!」

 

「俺のことを被虐的だとか言った奴に撤回を求められても……お前、俺をマゾ呼ばわりしといて自分は痴女じゃねえとか、流石に都合が良過ぎると思うぜ? しかもそんな奇抜な格好しといて、だ。今のお前の姿を見て、十人中十人が口を揃えて『変態』『痴女』って言っちまうのは自明の理だと思う訳だけど?」

 

「な、何をぅ!」

 

 歳に似合わず可愛いリアクションだな、とは流石に口にはしない。だってそんな事を言ってしまったが最後、七天七刀の錆びに変えられてしまうだろうから。

 ハッタリの次は口八丁を駆使して何とか状況の打破を図るコーネリア。今までの無駄な会話で事態は完全にコメディへと向かっている。今の状況であれば、コーネリアの微妙な能力を使って逃走を図る事も可能かもしれない。

 ―――しかし、イギリスの聖人はコーネリアが考えているほど甘くはなかった。

 ジャリ、とコーネリアが僅かに後退したのを遠目で確認した神裂は指をくいっと動かし―――

 

「『七閃』」

 

 ―――コーネリアの背後の道路をいとも簡単に引き裂いた。

 

「…………ッ!?」

 

 予想していたよりも素早い攻撃に、コーネリアの呼吸が一瞬だけ停止する。今の攻撃がもし道路ではなく自分の身体に命中していたらと思うと、背筋がぞっとして冷汗が身体中の毛穴から噴き出してくる。

 神裂は、その気になればコーネリアをいつでも殺せる。

 しかしあえてそれをしないのは、コーネリアに考える時間を与えるためだ。投降するか抵抗するか。その究極の二択を、威嚇という手段でコーネリアに強いている。

 猶予はない、とコーネリアは悟った。

 時間はない、とコーネリアは感じた。

 このままこの対峙を続けていたら、逃走のタイミングを失うかもしれない。こんな所で死ぬ訳にはいかない以上、延命のチャンスを逃す訳にはいかないのだ。

 しかし、今は待つ以外の選択肢はない。

 故に、コーネリアは頬を伝う汗を手の甲で拭いながら言葉を並べて機会を待つ。

 

「……意外と短気なんだな、お前って。もっとこう、大和撫子な感じかと思ってたよ」

 

「無駄なお喋りで隙を生もうとしても無駄です。私は一切気を緩めないし、貴方をここで逃がす気はありません。『あの子』を早急に見つけないとならない身ですので、あまり時間をかける訳にもいきません―――ここは大人しく捕まってください」

 

「っ」

 

 その時、コーネリアの頭に電流が走った。

 今の状況を打破するための、最後のチャンス。その切り札を生み出すための重要なピースが、神裂の言葉の中に含まれていた。そのピースを適切に使うことが出来れば、今の状況を打破するどころか神裂と共同戦線を張る事すら可能となるかもしれない。

 もはや、これしか手段は残されていない。

 レイヴィニアに匹敵するほどの閃きを発動させたコーネリアは汗が浮かぶぐらいに両手を握り締め、焦っている心内を悟られないように口を三日月型に裂けさせる。

 そして、彼は言う。

 「なぁ、神裂」と落ち着いた口調を意識した前置きを提示し、彼は最後の一手に身を委ねる。

 神裂火織がわざわざ学園都市まで出張って来ることになった理由に大きく関係する言葉を、コーネリア=バードウェイは優越に溢れた笑みと共に言い放つ。

 

「禁書目録の記憶を消さないで済むハッピーエンドについての手段を俺は持ち合わせているんだが、話だけでも聞いて行かねえか?」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

『禁書目録の記憶を消さないで済むハッピーエンドについての手段を俺は持ち合わせているんだが、話だけでも聞いて行かねえか?』

 

「くくくっ……相変わらず面白いな、私のコーネリアは。よもやそんな打開策を隠し持っているとは……流石の私も驚いたよ」

 

 ロンドンのランベス区にある平凡な石造りのアパートメントの一室で、レイヴィニア=バードウェイは悪の親玉のような笑い声を上げていた。ロッキングチェアに座る彼女の傍には大して珍しくもないラジカセが置かれていて、先ほどの声はそのラジカセから響いてきていたものだった。

 くくく、と笑い声を漏らすレイヴィニアに、彼の部下の一人であるマーク=スペースは和風の湯飲みに紅茶をどばどば淹れながら冷静な言葉をぶつける。

 

「盗み聞きなんてストーカーみたいですよ、ボス」

 

「兄の生活を見守るのは妹の義務。それが分からないとは、マーク、貴様に妹属性は微塵も含まれてはいないようだな」

 

「いやいや、そんな属性が自分の中にあったら自殺物ですって」

 

 いい歳した男が妹キャラ全開で「お兄ちゃん☆」とか言ってたら気持ち悪いに決まってる。しかもそれが自分だと想像したら……吐き気を催すレベルで気持ち悪い。

 頭に浮かんだ悪夢のような想像を紅茶で身体の奥へと流し込んだマークは「そういえば」と前置きし、

 

「今更な疑問なんですが、どうしてボスの兄は『コーネリア』って名前なんですか? アレ、イギリスでは女性につける名前だと思うんですけど……もしかして何か重要な意味合いでも込められているんですか?」

 

 その疑問に、レイヴィニアはニヤニヤと面白そうな笑みを浮かべる。

 

「なに、あいつの名前に深い理由なんてものは存在しないさ。ただ、あいつの顔が男というよりも女みたいで、更に男よりも女が欲しかったうちのバカ親があいつに『コーネリア』って名前を付けた。――ただそれだけの浅くてバカな理由なんだよ」

 

「……今もそうですが、コーネリアさんって生まれた時から十分すぎるくらいに不幸だったんですね」

 

「確かに名前と今の状況を考えればあいつは不幸なのかもしれないが、私はあえてその意見を否定するぞ? あいつは不幸ではなく、むしろ幸運な立場だと、私は胸を張ってここに宣言しよう」

 

「はぁ」

 

 何言ってんだこの人、という気持ちを込めて、マークは間抜けな声を漏らす。

 レイヴィニアはフフン、と鼻を鳴らして薄っぺらい胸をトンと拳で叩き、

 

「この私の兄として生まれたのだぞ? これが幸運じゃなくて何が幸運だと言うんだ?」

 

 それ以外の全てが幸運でしょうよ、とは流石に口が裂けても言えないマーク=スペースであった。

 

 




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 次回もお楽しみに!

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