大賞用の作品を仕上げている最中ではありますが、ちょっと気分を変えたいねん……ちょっと煮詰まってしまったんで、こっちの更新して気分を変えたいねん……(泣)
あ、そういえば、祝☆二十話目です(笑)
雲川芹亜の特徴を一つ挙げるとするならば、それは『得体の知れない女』であるという事だ。
学年不明、年齢不詳、正体不明、理解不能。彼女に関する全ての情報が曖昧で、彼女について詳細に知っている人間はほぼ皆無に等しいとまで言われている。唯一の確定事項は『上条当麻たちが通っているとある高校に在籍している』という事ぐらいのもので、しかし、その情報もダミーなのか真実なのかが判断できないといった曖昧っぷりを誇っている。
そんな、得体の知れない存在ぶっちぎりのナンバーワンな雲川はコーネリアの隣の席に腰を下ろし、まじまじと彼の目を覗き込み始めた。
「……何ですか? 俺の顔なんか見ても腹は脹れませんよ?」
「いや、特に理由はないけど。ただ、失礼な事を考えているんだろうなと思っただけだ」
「…………相っ変わらず能力者みてえな荒業をしますね。無能力者の癖に」
「その発言は時と場合を考えた方が良いけど」
私に対してだから許されたようなものだけど、と雲川は特に面白くもなさそうな顔で言い放つ。
正直な話、コーネリアは雲川芹亜の事が苦手だ。激しく苦手だと言ってもいい。流石に『警戒対象』にカテゴライズするまでではないが、それなりに苦手な人物トップ5には軽くランクインしてる程には苦手としている。
大きな理由としては、何を考えているか分からないから。
小さな理由としては、心を見透かされているようだから。
そういう点では
「それで、俺になんか用ですか?」
「別に、特に深い理由はないけど。ただ後輩の姿を見つけたから話しかけただけだ」
「アンタが上条当麻以外の奴に何の理由も目的も無く話しかけるとは思えねえんですが……」
「お前は少し勘違いをしているけど」
雲川はつまらなそうに爪を弄る。
「私はこれでも普通の女子高生なんだ。朝に起きて学校に行き、授業が終わったら家に帰ってゆっくりのんびりと過ごす。特に能力者という訳でもないからどっかのふざけた研究所で身体を調べられる事もない。私はそれぐらいに普通の女子高生な訳だけど」
「どこの世界にアンタみてえな普通の女子高生がいますか。ちょっと辞書で『普通』と『女子高生』って単語を調べてきたらどうっすか?」
「生憎だが。私は自分の頭の中にある辞書以外は信用していないけど」
「俺はアンタのそういう所が苦手なんだよ!」
あーくそ、話になんねえ! 休憩をしに来たのに何故か逆に疲労を溜める結果を迎えてしまったコーネリアは「あーもー!」と叫びながら頭を掻き、跳ねるように椅子から立ち上がった。
「なんだ、もう行くのか?」
「アンタの相手をするよりもそこら辺を散歩してた方が何倍も休めますからね」
「先輩に向かって皮肉とは……これがイギリス美女の常識か」
「何度も言うけど俺は男ですがッ!? こんな顔だけどれっきとした男なんですがッ!?」
「まぁ、それぐらいにキャラクターが確立されているという事なんだから、そう躍起になる必要はないけど。どこぞの巫女服が似合いそうな無個性女子よりは何倍もマシと思うけど」
「謝れ! 誰とは言わないがアンタは今ここでそいつに謝れ!」
あれは自他共に認める無個性だから逆に手に負えねえんだよ。
「とにかく! 俺はもう行きますからね! そんなに一人が寂しいんなら上条でも見つけて絡んでください!」
「そうしたいのは山々だけど。今日のあいつは妙に忙しそうだからなぁ……だからお前で妥協していたけど」
「本人を目の前にしてマジで失礼だなアンタ」
「そう目くじらを立てるなよ。お前もお前で良い暇潰しにはなったけど」
「おお、いつの間にか俺の右手が握り拳に」
「別に喧嘩を買うぐらいはやっても良いけど。しかしまぁ、私が負ける事はないだろうな。お前弱いし」
「だからアンタのそういう所が苦手だっつってんだよ!」
あーもー! とキリキリ痛む胃を押さえて叫ぶコーネリア。この先輩と話すといつもこんな感じになるんだよなぁ、というのがコーネリアの意見である。
これ以上は胃が持たん。そう判断したコーネリアは呼び止められるまいと素早い挙動で席を立ち、ズカズカと競技場の外へと繋がる階段に向かい始めた。
そんな、コーネリアの背中に。
得体も正体も思考も情報も、何もかもが不明な雲川芹亜は心なしか楽しそうな声色でこんな言葉を投げかけた。
「お前は苦手かもしれないが、私は結構お前の事を気に入ってるけど」
☆☆☆
玉入れ。
その競技についての説明は不要であろう。高い位置に設置された籠に向かって拳大程のサイズの玉を投げ込み、入った数の多さを競うという競技である。競技難易度は比較的低めで、学園都市の外なんかでは小学生がメインとして行う競技なんかで有名だったりする。
しかし。
これが天下の学園都市となると、難易度は急激に跳ね上がる。
その理由は言わずもがな――超能力だ。
流石に相手校の生徒に能力で攻撃する事は許可されていないが――いや、違う。この玉入れという競技と棒倒しという競技に限り、ある程度の攻撃行為は認められている。四肢を吹き飛ばしてしまう程の攻撃はもちろん禁止だが、掠り傷や打撲程度であれば「ま、超能力者の街だし、しょうがないんじゃね?」と許容されてしまう事だろう。
故に、学園都市における玉入れの難易度は非常に高い。
それも学校対学校――つまりは全校生徒対全校生徒で行うというのだから、その危険度は更に跳ね上がる。
―――しかし。
生徒のほとんどが無能力者であるはずのとある高校の生徒達は、相手校(能力開発に重点をいている高校らしい)に何故か勝ち誇った顔を向けていた。
その理由は、至って簡単。
それは、コーネリア=バードウェイの『人工物に荊を生やすだけの能力』が最高に役に立つ競技だからである!
「よっしゃお前ら! バードウェイが相手校の玉を使用不能にしてる間に全身全霊を掛けて玉入れすんぞオラァッ!」
『イエッサーッ!』
「…………いや、あの、そんなに期待されても困るとい」
「バードウェイがいる限り、我らの勝利は揺るがない! 学園都市屈指の最底辺がなんだ! 我々の本気の下剋上を優等生どもに見せつけてやろうではないか!」
『劣等生なめんなぁあああああああああああああッ!』
「………………」
なんか、死亡フラグが凄い件について。
同級生や先輩、それに後輩たちの妙な盛り上がりに圧倒されてしまい、発言する事が出来ていないコーネリア。無駄に高いハードルを課せられた状態で競技を迎えなければならないというのがかなーり嫌な訳だが、流石にこの状況から「やっぱり無理でしたー」なんて言葉は流石に言えない。ここは早々に覚悟を決めて自身に秘められた真の能力を覚醒させるしかない! とコーネリアは涙目で拳を握る。
全校生徒入り乱れての競技であるためか、コーネリアの周りに彼の級友たちの姿はない。――というか、本当は級たちと共に最後尾にいたのに他の生徒達によって無理矢理最前列に置かれてしまったのだから、そりゃあ級友たちの姿はないもんである。
(願わくば、無事に競技が終わりますように……)
心の中で十字を切り、目尻に浮かんだ涙を拭う。
そして数秒後、運営委員の『始め!』という合図が響き渡り―――
「かぼしゅっ!?」
―――コーネリアの顔面に無数の玉が直撃した。
何だ何だ!? と動揺しつつも、生徒達は相手校の様子を探る。――そして、その謎はすぐに解けた。
まぁ、簡単にぶっちゃけると。
多数の
……なんかもう、玉に荊を生やして妨害とか、端から関係が無かったようです。
開始早々に顔面に直撃を受けたコーネリアはサンドバックのように宙を舞い、何の抵抗もすることも無く地面に背中から崩れ落ちた。その途中に発生した砂埃が晴れた時には彼の瞳は瞼の向こう側――つまりは白目を剥いていて、考えるまでも無く彼の意識はフェードアウトしてしまっていた。
『………………………………………………』
妨害の要が倒れ、唯一の作戦が失敗した。
そんな現実を受け止める事が出来た時には時既に遅く、圧倒的大差をつけられ、とある高校は近年稀に見る大敗を喫してしまっていた。
☆☆☆
「いたたたた……あーくそ、二千人強からの制裁は流石に堪えた……」
身体のあちらこちらに傷を抱えたコーネリアは公園のベンチに腰を下ろし、痛む体に顔を顰めていた。
玉入れの後、競技開始早々に意識共々離脱してしまったコーネリアに対し、とある高校の生徒達は見事なアルカイックスマイルと共に思い思いの右ストレートを叩き込んできた。それは男子とか女子とか、そういう括りは取っ払われた状態での制裁で、男子生徒と女子生徒を合わせた二千人強からの渾身のボディブローにコーネリアは為す術もなく屈してしまっていた。魔術師対策にと日頃から体を鍛えてて良かったな……、とコーネリアはしみじみと涙を流す。
時刻としては既に三時を回っていて、しかもコーネリアが参加する今日の分の競技は先ほどの玉入れで終了している。
つまり、半端なく暇なのだ。
それはもう、空を飛び交う鳥類をぼんやりとした目で観察してしまう程には。
「ああ、平和って素晴らしい……」
その一言から零れ出る感慨は尋常ではない。特に七月後半―――神裂火織と出会ってからのトラブルの数はちょっと常識を軽く外れていた。しかもその全てが魔術師関連である。これはもう神裂云々というよりもあの怖い方の実妹こそが大きく関係しているようでならない。
しかし、不思議と、以前よりは嫌悪感を持っていない。
こんな生活も悪くはないかな、とまで思ってしまっているぐらいだ。
トラブルに慣れるってのも考え物だな――美少女のような顔に苦笑を張り付け、コーネリアは頬を掻く。
と。
鳩や鴉、それに雀などをぼんやりと観察していたコーネリアの耳に、男女の言い争いの声が聞こえてきた。
「いい加減にしてくれないかしら? 私は何も悪い事はしていないわ!」
「テメェはそう思ってるかもしれないけど、事実、俺達に通報が来てるんだよ!」
「今はそういうご時世だから通報が来ただけの話でしょう? 私はただ、小学生の男の子に声を掛けただけ。これのどこが罪に問われるというのかしら!?」
「事実、その小学生が俺達に通報したんだという現実がここにはある訳だけど?」
「そんな馬鹿な!?」
「馬鹿はテメェだろうがッ!?」
なんだなんだ痴話喧嘩は他所でやってくれよ殺したくなるから、と寂しい独り身のイギリス人は妙に日本人染みた思考を浮かべる。いや、別に寂しい訳ではない。男一人の生活もなかなか良いものである。……別に強がってなんかない。
五月蠅くなってきたから移動しようかな。痛む体に鞭を打ち、ベンチからゆっくりと腰を上げる。この後にまだ競技が控えていたならもう少し手加減してもらえたのかもしれんけど、と既に遅い期待に胸を馳せるコーネリア。
そんな時の事だった。
先程から痴話喧嘩(?)を繰り広げていた男女の内、サラシの上にブレザーを着たおさげの髪の少女が「あーもー!」と子供のように声を上げ、白のカッターシャツの右袖に緑の腕章を付けた黒髪の少年に向かって必死な形相でこう言ったのだ。
「私はただ、男子小学生に半ズボンの素晴らしさを熱く語っていただけなのよ!?」
走った。
それはもう、トラブルの香りが凄かったから全力で公園から逃げ出しました。
感想・批評・評価など、お待ちしております。
次回もお楽しみに!