妹が魔術結社のボスなせいで人生ハードモード   作:秋月月日

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 二話連続投稿です。
 ちょっとスランプというか、いつもより地の文が上手くいっていない気がします。違和感があるというか……まぁ、よく分からんレベルで違和感があるという感じですが、物語的には納得できる話にはなっていると思います。
 うーみゅ。早くこのスランプ(?)を脱せねば……。

 何か違和感を感じられた方がおりましたら、思ったままを感想欄か何かで伝えてくだされば幸いです。今後の糧にする必要もありますしね……。


Trial23 着せ替え人形

 神裂火織が家に来た。

 いや、それは別にいい。二十六日に学園都市に来てくれと伝えていたので、それよりも一日早くこの街に彼女が来てしまっているとしても、それはまぁ受け入れられる現実だ。何の問題もない。

 しかし、だ。

 その神裂火織が明日までの間、この家で寝泊まりするという当たり前の現実に気付けていなかったという悲劇が、どうしようもなく問題ありまくりなのである。

 

「……洗濯物でも取り込みましょうか?」

 

「いやいやいや、神裂は座ってていいから! 何もせんでいいから! 客なんだからお前は部屋でゆっくりしててくれ!」

 

「そ、そうですか。分かりました……」

 

 人の家で何もしないでゆっくりするという行為に慣れていないんだろう。床に正座モードな神裂は不自然に視線を彷徨わせている。因みに、コーネリアが彼女を止めた理由としては、自分の衣服を彼女に見られるのが恥ずかしいという感じだ。特に下着。あれだけは絶対に異性には見られたくはない。

 テレビの電源も着けずにただ沈黙して視線を右往左往させる神裂に、コーネリアはやや引き攣り気味な苦笑を浮かべる。ありとあらゆる借りを恩だと解釈して『恩返しをしなくては!』と暴走してしまう彼女の事を知っているからこそのリアクションである。……そういう所が彼女の魅力であるとは思うのだが。

 とりあえずはやる事も無いので、二人分の麦茶を用意し、コーネリアは神裂とテーブルを挟んで床に腰を下ろす。

 

「ほれ。これでも飲んで少しは気を和らげろよ。さっきから挙動不審で緊張しまくってるのが丸分かりだぞ?」

 

「あ、ありがとうございます。そう、ですね。緊張していたって何かが変わる訳ではありませんし……」

 

 そう言って、少しではあるが肩の力を抜く神裂。しかし正座を崩す事はなく、教科書にでも載ってそうな程に完璧な姿勢で麦茶を啜る美少女の姿はそこにはあった。育ちが良いからなぁ神裂は――自分も大概だというのに、コーネリアは心の中で神裂火織を絶賛する。

 麦茶で喉を潤し、緊張を和らげたおかげか、二人の間にあった堅苦しい空気は霧散した。

 それからはいつもの二人であり、何気ない会話が始まると、数分後にはイタリア旅行についての話題に話がシフトし始めていた。

 

「行き先はヴェネツィアですか……水の都として有名な観光地だと聞いています。『アドリア海の女王』という別称も存在しますね」

 

「俺もいろんな国を訪れた事があっけど、イタリアの、しかもヴェネツィアは初めてなんだよなぁ。ほら、なに? レイヴィニアってあんまりイタリアが好きじゃねえから、そのせいでイタリアは極力敬遠してたって感じなんだよ。ローマ正教もあるし」

 

「確かに、イタリアを訪れるのならばローマ正教の事を頭から外す訳にはいけませんね。必要最低限、自衛が出来る程度には装備を整えていく必要がありそうです」

 

「装備、ねェ……」

 

 俺の装備は能力オンリーだから、何の準備も要らねえんだよなぁ。コーネリアは頬杖を突きながらぽけーっと心の中で呟きを漏らす。

 聖人に対してのみ強大な効果を発揮する『荊棘領域(ローズガーデン)』という能力を内包しているコーネリアは、基本的には武器や防具といった装備を必要としていない。戦闘が必要なときは能力でそれなりに戦えるし、強敵と当たってしまった場合には能力を駆使して全力で逃亡するようにしている。その時に武器なんか持っていたら逃亡の邪魔になってしまう。――故に、コーネリア=バードウェイは分かりやすい武器をなるべくもたないようにしているのだ。

 しかし、魔術師である神裂はそうはいかない。

 七天七刀を始めとし、魔術的意味を持つ衣服や天草式十字凄教特製の鋼糸など、彼女は身軽に見えて実は多くの武器を隠し持っている。だから彼女の必要最低限というのは、コーネリアが考える必要最低限とは比較にならないほどに重装備なのである。

 ――と、そこでコーネリアの頭に一つの疑問が浮かび上がってきた。

 

「なぁ、神裂。一つ聞いてもいいか?」

 

「何ですか?」

 

「今回のイタリア旅行についてなんだが……お前、イタリアにその服装で行く気なんか?」

 

「当然です。魔術師と戦う事を想定している以上、この服を置いて行く訳には行きません」

 

 キリッと表情を引き締めて真面目に返答する神裂さん。

 そんな彼女にジト目を向けながらも、コーネリアは今の彼女の服装をテーブル越しに上から下まで確認する。

 臍の上あたりで裾を縛った白の半袖シャツ(大胆)。

 左脚が股関節の辺りまでばっちり露出してしまっているジーンズ(大胆)。

 全体的にむちっとしたエロすぎる体つき(大胆)。

 

 結論。

 こんな人と一緒に観光なんてしたら凄く周囲から勘違いされてしまう可能性が極めて高いのではありませんか?

 

 これは由々しき事態だ。中身は乙女でも外見は痴女というこの凄まじい程のギャップを持った少女を勘違いの嵐から護る為にも、明日までには彼女の服装を変更させなくてはならない。

 まさに、ミッションインポッシブル。

 しかし、コーネリアは必ずこのミッションを成功させる必要がある。自分の為にも、彼女の為にも……。

 そうと決まれば何とやら。幸い、時刻はまだ六時にもなっていない。これなら完全下校時刻には余裕で間に合うし、今日は大覇星祭最終日なので服飾店などは比較的空いているはずだ。

 (出発は明日だし、チャンスは今しかない!)これからの方針を瞬時に固めたコーネリアはテーブルを叩きながらその場に勢いよく立ち上がり、

 

「よし、神裂。今から服を買いに行こう! お前の服を! 今からすぐに!」

 

「え、あ、はい……え?」

 

 コーネリアの気迫に圧され、思わず了承してしまう聖人の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 セブンスミスト。

 それは第七学区にある服屋であり、学園都市に住んでいるものなら誰でも知っているという程に有名な店でもある。第三位の御坂美琴をして『普通』という評価の服屋ではあるものの、その品揃えたるや学園都市随一と言っても過言ではない。

 基本的には男物よりも女物の服の方が品揃えが良いというのも一つの特徴として挙げられる。それは単純に『女物の服の方が季節による移り変わりが激しいから』という理由であるのだが、まぁそのおかげで女性客が大半を占めているのだからあまり気にするような事ではないだろう。大事なのは売り上げと客層。これ以外は基本的には重視する必要が無い。

 とまぁ、セブンスミストの説明はこれまでとして。

 大覇星祭最終日で客の姿がほとんどないセブンスミストに、コーネリアと神裂は二人っきりでやって来ていた。

 何だ何だこんな日に客なんて珍しいな、と店の奥から姿を現す女性店員さん。せっかくの大覇星祭なのに悪かったかな? とコーネリアは一瞬思うも、彼女たちは学生ではないので基本的には大覇星祭であろうが仕事を全うする立場にある事を思い出し、胸に浮かんだ罪悪感を見せの端へと投げ捨てた。

 

「いらっしゃいませ。本日はどのような服をお探しですか?」

 

「いや、今日は俺じゃなくて……こいつの服を買いに来たんです」

 

 そう言って、背後の神裂――物珍しそうに店内を見渡している――を親指で指し示すコーネリア。

 「え、と……」全体的に大胆でパンクな装いの神裂に店員さんは一瞬戸惑いを見せるも、すぐに接客モードへと意識を切り替えた。

 

「そちらのお客様の服を買いに来た、と……分かりました分かりました。それで、どういったコンセプトをお考えですか? これから冬服の季節になりますので、こちらのセーターなどがお勧めですが」

 

「それは凄く興味がありますけど、遠慮しときます」

 

 コーネリアは肩を竦める。

 

「俺達、明日からイタリアに旅行に行くんですけど、こいつ、旅行に向いてる服を持ってなくて……だから観光に似合いそうな服を探しに来たんです」

 

「……コーネリア。その言い方には侮蔑が感じられるのですが?」

 

「話がややこしくなるから今だけは黙ってろ」

 

「……むぅ」

 

 口を尖らせてすごすごと引き下がる神裂。

 店員さんは神裂の頭から爪先まで視線を彷徨わせ、パンッと軽く両手を叩いた。

 

「そうですか、イタリアですか! イタリア旅行という事でしたら、こちらの薄手のワイシャツなんかは如何でしょう? 暑い時には袖を捲れるように二の腕の辺りにボタンがついているんです。下にインナーシャツを着るだけでおしゃれな雰囲気がバンバン醸し出せますよ!」

 

 スイッチが入ったのか、店員さんは商品を手に取りながら話をヒートアップさせていく。

 

「お客様はスタイルが良いので、長い美脚を生かす為にこちらのタイトパンツなんかがオススメです! 靴は、そうですね……イタリアは水に縁のある国ですから、こちらのレディースサンダルですね! いやもうこれしかないですよ! 是非、是非こちらをお買い上げください! 上はもちろん、先ほどのワイシャツで! あ、インナーシャツもこちらで準備いたしますか? それでしたらあちらの黒のシャツがお客様にはお似合いかと! まさに、仕事のできる女がちょっとリラックスした――そんな感じの仕上がりが予想されます!」

 

「いや、その、もう少し考えさせて欲し」

 

「試着室はあちらです! ほら、どうぞどうぞ、こちらでご試着を!」

 

「あ、あの、えと……こ、コーネリア!」

 

 藁にもすがる思いで神裂は相方に助けを求める。その瞳には涙が浮かんでいて、聖人だというのに店員さんの怪力に敗北しかかっている姿がなんとも言えない悲しみを醸し出している。なんだ、一般人は夢中になると聖人をも超えるというのですか!?

 ずるずるずる、と徐々に遠ざかっていく神裂にコーネリアは満面の笑みを向け、

 

「店員さんの言う通りにしてりゃあもっと可愛くなれんだから、ここは諦めて着せ替え人形になってこいよ」

 

「こ、この薄情者!」

 

 必死の叫びも虚しく――しかし『可愛い』とコーネリアから言われたいという欲求も少なからずは作用していた――神裂火織はハイテンションな店員さんに拉致されてしまい、あれやこれやと多種多様なコーディネートを試され、最終的にはその全てをお買い上げする羽目になっていた。

 そして、時間は過ぎて行き。

 ついに、二人がイタリアへと出発する、九月二十六日へと物語はシフトした。

 

 




 感想・批評・評価など、お待ちしております。

 次回もお楽しみに!

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