「おっ、やけに見覚えがあると思ったら先輩じゃん。こんな所で奇遇だなー」
いろんな意味で心臓が止まるかと思った。
パトリシアにひよこの洋菓子を『あーん』で食べさせている時の事だった。
パトリシアに食べさせながら自分の分のひよこをフォークで突き刺して口に運ぼうとしていた――まさにその瞬間、コーネリアは今日だけは絶対に再会したくなかった一つ下の後輩に見つかってしまった。
上条当麻。
〇九三〇事件の中心人物にして生粋のトラブルメーカーであるツンツン頭の少年の登場に、コーネリアは思わず反射的にどぐしゃああっ! とテーブルに頭をぶつけていた。
そして、ぐわんっ! と頭を上げ、
「……何でお前がここにいるんだよ不幸野郎」
「不遇な先輩に言われるとちょっと引っかかるんだけどなぁ」
上条は頬を軽く掻き、
「御坂美琴って知ってる? 勿論知ってるよな? そんで、その御坂美琴に付き合わされてこの地下街に来ちまってるんだけど……あ、因みに、コイツは御坂美琴の双子の妹です」
「ああ。あの罰ゲームがうんたらかんたらって奴か……ご愁傷様」
「そうそう。……あれ? 俺、先輩に罰ゲームについて話してたっけ?」
「……話してたよバッチリと」
まぁ、当然それは嘘なのだが。コーネリアが罰ゲームについて知っているのは前世からの遺産のおかげであり、別に上条本人から聞かされたからという訳ではない。更に言うのなら御坂妹――通称『
「まぁいいや。とりあえず隣失礼しまーす」「隣っつってもテーブルは別だがな」仲が良いのか悪いのか判断に悩むやり取りの後、上条当麻は御坂妹と共にコーネリア達の隣のテーブルを確保した。
そしてそこで、上条当麻はコーネリアの向かいに座っている可愛らしい金髪少女の存在に気付いた。
「うん? 先輩もしかして、その子って例の妹?」
「ん? ああ、そうだよ。ほらパトリシア、自己紹介」
「は、はい! イギリスから来ましたパトリシア=バードウェイです。好きなものは勉強と研究とお兄さん、趣味は勉強と研究とお兄さんです! よろしくお願いします!」
「…………ちょっと保護者さん?」
「コイツが勝手にブラコン発言してるだけだから俺に他意はねえからだからそんな怖い顔で詰め寄ってくんな!」
コイツは本当もう、すぐに変態的な発言に反応する! 土御門元春と青髪ピアスとの交友関係のせいで昔よりも酷くなってるし!
「妹との恋愛とか、アンタは土御門か!」「俺をあんなにゃーにゃーサングラスと一緒にすんな!」この場にいないというのに何故か貶される土御門(にゃーにゃーサングラス)。今頃、上条とインデックスに食い荒らされた鍋の前で崩れ落ちているであろう土御門にはご冥福をお祈りします。
コーネリアと上条が男子高校生レベルの話題で盛り上がる傍ら、パトリシアと御坂妹という妹コンビは別ベクトルで盛り上がっていた。
「あなたもミサカと同じく妹キャラなんですか? とミサカは確認作業に入ります」
「妹は妹なんですけど、私の他にもう一人の妹がいましてですね。そっちは私の姉に当たるんですけど、もう凄くパーフェクトな姉なんです。だから私はちょっと影が薄いというか、そのせいでお兄さんへの想いが成就しないというか……」
「他にも妹が!? ど、どこまでもミサカと同じ境遇のあなたにミサカは既視感を禁じ得ません!」
「え? もしかして、ミサカさんも多人数型妹キャラなんですか!?」
「いえす、同士よ。やはりあなたとはどこか通じるものがあるようですね、とミサカは予想外の同士の出現に胸がほっこり熱くなります」
「ですです! よ、よかったら御坂さん、私とお友達になりませんか? 私、学園都市でのお友達が欲しいんです!」
「お友達……ッ! なんと良い響きなのでしょうか……もちろんです、ミサカとあなたは今この瞬間からお友達です、とミサカはマイソウルフレンドに親指をぐっ! と立ててみます」
「ミサカさん!」
ひしっ! と熱い抱擁を交わす妹コンビ。高校生テンションで騒ぎまくっているコーネリアと上条が気づかない内に、二人の少女の新密度が鰻登りになっていた。流石は天使のパトリシア、人と仲良くなることに関しては姉と兄よりも遥かにレベルが高い。
――しかし、その友達イベントが、コーネリアにとって予想外の展開を巻き起こす。
初めての同性の友達にテンションが上がったのか、御坂妹はパトリシアの手を掴み、胸元のネックレスを揺らしながらその場に勢いよく立ち上がった。
「え、と……もしもし御坂妹さん? いきなりどうしたというのでせうか……?」
恐る恐ると言った風に疑問をぶつける上条当麻。
人生初の友達獲得に興奮冷めやらぬ御坂妹は頬を仄かに赤く染め、
「ミサカはこれからお友達とのデートイベントに興じます。さぁ、パトリシア。ミサカとの親密度を上げる為に平日の学園都市へと向かいましょう! とミサカは有無も言わさず走り出します!」
「え? え? ええええええええ!?」
「んなっ!? ちょ――ぱ、パトリシアぁあああ!?」
兄の叫びも虚しく、可愛い天使は地下街の雑踏の中へと消えて行った。
☆☆☆
上条当麻はどこかへ行ってしまった。
それは別に彼が異世界への扉を潜っていってしまったとか、そんな大それた理由がある訳ではない。御坂妹によってパトリシアが連れ去られてしまった直後、御坂美琴がコーネリア達の前に現れ、『私との罰ゲームの最中によりにもよってその女顔とBLデートとか頭湧いてんのかゴルァ!』『ひぃっ! 本日の御坂さんはいつにもまして御乱心!?』みたいなやり取りをしながらパトリシアたちと同じように地下街の雑踏へと消えて行ってしまったのだ。
そういう訳で現在、コーネリア=バードウェイは絶賛一人ぼっちな訳なのだが……
(パトリシアと逸れちまったぁあああああ! 今日は何が何でもアイツの傍から離れちゃダメだってのに、開始早々に離脱されちまってんじゃねえか! おのれ御坂妹、こんな形で俺の計画を破綻させるとはッ!?)
唯一の幸運は、パトリシアと一緒にいるのが御坂妹である、という事か。学園都市最強の超能力者・一方通行との戦闘によって得た経験値を持つ彼女は、そこら辺の軍隊と互角に戦えるだけの実力を持っている。故に、何かに襲われたとしても御坂妹さえいれば安心ではあるのだ。
しかし、ここで思い出さなくてよかった事を、コーネリアは思い出してしまう。
(待てよ? この後、
考えるまでも無くヤバい状況になる。あの惨たらしく残酷な戦いの中にパトリシアを孤独にさせるという事は、それ乃ち、彼女を見殺しにすると同義である。あの平和で温厚で弱いパトリシアが魔術と科学の激戦を生き延びれる訳がない。
これはマズイ。さっさとパトリシアを見つけ出して、早々に自分が保護する必要がある。あの可愛らしい天使に何かあったら、悪魔(上の妹)に殺されてしまう虞があるし、そもそも兄としてパトリシアを見捨てるわけにはいかない。
そうと決まれば即行動。
コーネリアは地下街の出口に向かって走り出――
「う、へ? ――ぶべらぁっ!」
――ダイナミック転倒で床に顔面を強打していた。
ズッダーン! と漫画のような効果音と共に床に転がるコーネリア。こんな何もない所で転ぶなんて俺はアホなのか? と思わず自虐的思考をしてしまうが、コーネリアはすぐに気づいた。
床に転がっていた白い物体に足を持っていかれた、という事実に。
何だこれ? と首を捻りつつ、コーネリアは床に転がる物体をまじまじと見つめる。
その物体は、白の修道服を着た少女だった。
金の縁取りがされた美しい修道服だが、何故かあちらこちらに安全ピンが装備されている。そのまさにアイアンメイデンのような衣装を身に纏う少女の長い銀髪が、白のフードからうねる様に外へと零れ出ていた。
一瞬だけ、コーネリアの呼吸が止まった。
それはコーネリアがこの少女の事を知っているからであり、絶対にやってはならないミスを自分が犯してしまったと理解してしまったからだった。
動揺によって動けない少年に、白の修道服を着た銀髪の少女はゆっくりと顔を上げる。
そしてその少女は
「あれぇとうまじゃないとうまじゃないけどコーネリアだコーネリアは知ってる人だから別に私が何かを頼みこんでも何か問題があるって訳じゃないよねそういう訳だからちょっとお腹が空いたから私に食料を恵んでほしいんだよ敬虔なシスターに思し召しを与えるという事はやはり魔術サイドの人間としても必要不可欠な行動だと思うんだよとりあえずそこの牛肉と野菜がジュージュー焼かれているハンバーガーが食べたいんだけどあれってどうやって食べるのあれ食べたいあれ食べたいあれ食べるにはどうすれば良いのあれ食べるにはどうすれば良いのそうだコーネリアに奢ってもらおう!」
「人の許諾も無しに勝手に話を進めんなこの大食いシスター!」
パトリシアを探そうと立ち上がった脇役の前に、回避不能な試練が爆誕した。
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次回もお楽しみに!