妹が魔術結社のボスなせいで人生ハードモード   作:秋月月日

58 / 74
 結論なのですが、人気投票はやらない事にしました。

 その代わりとして、旧約編と新約編の間に、十話ぐらい、一話完結の短編を入れようかなーと思っています。

 『こんな話が見たいです』ってリクエストもちょこちょこ来ていますし、出したくても出せていないキャラとかもいますしね。

 それでは、第五十四話、スタートです。



Trial54 戦闘開始

 浜面仕上は大きく溜め息を吐いていた。

 十月九日、学園都市の独立記念日に第四位の超能力者を撃破した経歴を持つ生粋の無能力者である彼はかつて『アイテム』という暗部組織の下っ端をしていた。その組織は同日に事実上壊滅し、残ったメンバーは彼を合わせてたったの三人。その内の一人、滝壺理后という少女を命がけで護り通した浜面は、彼女の身体を侵す『体晶』と呼ばれる薬物を取り除く方法を必死に探していた――

 ――という壮大な粗筋の中で、彼は現在、第二十二学区の第五階層にいた。

 

「うぅ……全然泣けねぇし感動もしなかった映画の為に二時間……これなら滝壺の相手をしてた方が正解だった気がする」

 

 第五階層は主に映画館やゲームセンターと言った娯楽施設が集合するエリアで、彼はつい先ほど、二時間の大スペクタクル(表現に誇張表現あり)を観終えたばかりだったりする。感想は既に彼の口から零れている通りで、映画の内容をわざわざ説明する必要はないだろう。――ぶっちゃけた話、超駄作でした。

 そして、映画館の中にあるベンチに崩れ落ちるように座って溜め息を吐いている浜面の隣で「ふぉおおーっ!」と大量の映画のパンフレットを眺めて目をキラキラとさせていた茶髪の少女は、パンツが見えないギリギリの長さで調整されたセーターの裾を伸ばしながら、ジト目でやや下方から浜面の顔を覗き込み、言った。

 

「あの映画の良さが分からないなんて浜面は相変わらず超浜面ですね。そして、滝壺さんをバニーガールにクラスチェンジさせようと思っている事も、実は私は超看破済みだったりします」

 

「もう今更どうしようもねぇんだろうけどさぁ……俺ってもうバニーキャラなの? バニーガール=浜面仕上って方程式がお前の頭の中に構築されてるの? 確かに嫌いじゃねぇよ、バニーガール。嫌いじゃねぇけど毎日毎時間毎分毎秒バニーガールの事を考えてる訳じゃないからね!? 俺だってまともな事を考えてるんだからね!?」

 

「そんな超気持ちの悪い浜面に超質問です」

 

「何だよ突然という野暮なツッコミはしない。どっからでもかかって来い!」

 

「それでは質問」

 

 じゃじゃーん! とワザとらしい擬音を口にし、茶髪の少女――絹旗最愛は人差し指を立て、

 

「滝壺さんに似合うコスチュームと言えば?」

 

「断然バニーガール! ――ってコレ誘導尋問じゃねぇか卑怯だぞ絹旗テメェ!」

 

「……狙った私も大概ですけど、予想通りの解答を素でやってのける浜面も超大概ですよね」

 

 何処までいっても予想通りでしかない超浜面に、絹旗は心底嫌そうな表情を浮かべる。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 どこぞの不良少年が自身の性癖を再確認されている頃、二階層ほど上にて。

 コーネリア=バードウェイは激闘を繰り広げていた。

 

「こなくそ……っ!?」

 

 身に着けているジャージから荊を展開し、攻撃と防御、双方の役割を持つ結界を作り上げる。――しかし彼の荊は視界内の人工物にしか生やす事が出来ない為、彼の背後は必然的にガラ空きとなってしまう。流石にその欠点は術者であるコーネリアは熟知済みで、前面から展開した荊を『無理矢理』背後に伸ばす事でその欠点を何とかカバーしていた。

 そして。

 『最初から全力で行く』という言葉の通り、アックアは使い慣れている巨大な武器――金属棍棒を振り回す事で、コーネリアの防御結界を力技で蹂躙し、破壊し、殺し尽くしていた。

 

「ぬぅん!」

 

 ブォンッ! とヘリコプターのプロペラ音にも似た風切り音が響き渡り、何重にも張り巡らされていた荊の結界が無残にも引き千切られていく。『聖人殺し』という大層な効果を持っている荊ではあるが、その強度はそこら辺の森に生えている荊とそう変わらない。金属棍棒を使わずとも引き千切る事が可能な荊を撤去する事など、アックアにとってはその文字通り朝飯前な事でしかない。

 チィッ! と吐き捨てるように舌打ちし、コーネリアはポケットの中のケルト十字にちらと視線を向ける。

 

(やっぱり『荊棘領域』の展開速度と強度じゃこいつには勝てねえ……だからってこんな序盤から聖人の力に頼る訳にもいかねえし……クソッ! 五分っつー制限時間が痛すぎる!)

 

「余所見とは余裕であるな」

 

「なっ!? しまっ――ぐぶぅうううっ!?」

 

 鳩尾へと突き刺さる、弾丸のような回し蹴り。

 荊の結界を展開していた事で油断したか、アックアの攻撃がもろに直撃したコーネリアはノーバウンドで近くのビルの壁に激突した。蹴られた鳩尾と強く打った背中により肺の中の空気が一瞬にして消滅し、コーネリアは胃の中を全て吐き散らしながら必死に酸素を取り入れようと喘ぎ始めた。

 

「おぇ……ひぅ、はー! あー……!」

 

(や、べぇ……やべぇやべぇやべぇやべぇ!)

 

 一週間の修行の成果も何処へやら。圧倒的な実力差を前にコーネリアの心は今にも折れそうになっていた。――しかし、まだギリギリのところで踏ん張っている。九月三十日の時の様にすぐに諦める訳にはいかない理由が、今の彼には存在するからだ。

 痛みを和らげようと右目をギュッと瞑り、片目だけでアックアの姿を捕える。口の中は酸っぱく足はがくがくと震えているが、その瞳には未だに闘志の炎が燃えていた。

 

「先程も言ったはずだ、コーネリア=バードウェイ。――今回は最初から全力で行かせてもらう、と」

 

 傷一つ、汗一つとして見られないアックア。最初から全力という割には随分と余裕そうだな、と減らず口を叩きたかったが、激痛があまりにも酷すぎて言葉を放つ事ができない。

 これが、自分とアックアの間にある実力差。

 分かってはいた、覚悟もしていた――しかし、改めて現実として認識すると、どうしようもなく死にたくなる。

 

(火織とか上条とか天草式とかが救援にでも来てくんねえかな……一人じゃ無理だろ、これ)

 

 その中でも役に立ちそうなのは神裂火織だけなのだが、それでも誰もいないよりは幾分マシだ。攻撃を分散させれば隙も生まれるし、魔術のエキスパートである天草式がいれば多くの不意打ちも可能かもしれない。

 壁に手を当て体重を預けながら、コーネリアはゆっくりと立ち上がる。

 そんな標的を見ながら、アックアは更なる追撃を加えた。

 

「その目。救援を期待しているのかもしれないが、それは無駄な渇望である」

 

「……テメェ、天草式の本隊は」

 

「殺してはいない」

 

 コーネリアの言葉を断ち切るように、アックアは言う。

 

「私の標的は『幻想殺し』と、もう一人――コーネリア=バードウェイ、貴様だけであるからな」

 

 その言葉に迷いはなかった。

 この男は本当に、心の底から、上条とコーネリアを殺しに来ている。

 壁から手を離し、ふらふらと左右に揺れながらも立ち上がる。

 もう、迷ってなんかいられない。

 体質のタイムリミットが何だ。

 魔術使用の副作用が何だ。

 圧倒的な実力差が何だ。

 絶望的な勝率が何だ。

 自分の手が届く――それぐらいに小さな幸せを護り抜けない方が、よっぽど辛いし悲しいし見っとも無ぇだろうがっ!

 

「……すまん、火織」

 

 ――もしかしたら、死んじまうかも。

 ズボンのポケットに手を伸ばし、ケルト十字の首飾りを手に取り、ゆっくりと首に装着する。

 ん? とアックアが不思議そうに眉を顰めるが、目を瞑って心を落ち着かているコーネリアは気づかない。

 動揺は敗北の元だ。

 修業期間中でさえ、成功したのは一回や二回だった。しかも、失敗の度に死に掛けていたので何処かトラウマにすらなっている恐れもある。更に言うならば、今日は体調不良であり、まともな性能が出せるかどうかも怪しい。

 だからどうした。

 俺がここでアックアに立ち向かわなくたって、火織と上条、そして天草式の連中がアックアを撃破するだろう。どれだけ傷つこうが結局は皆無事で、みんな笑顔のハッピーエンドが訪れる事になるんだろう。

 それが、この世界の宿命で。

 それが、この世界の運命だ。

 ……でも。

 でも、でも、でも。

 でもでもでもでもでもでもでもでもでもでも。

 

「『この物語()』は俺の人生だ! だったら俺のやりたい通りにやるしかねえだろ!」

 

 瞬間。

 まさに、瞬きの間での出来事だった。

 地面を蹴った、まさにその直後、コーネリアの姿が掻き消えた。

 

「なっ……」

 

 アックアの顔が驚愕に染まるが、最強の傭兵はその一瞬の間で標的の捜索を開始する。聖人である彼にとって、一秒は十秒にすら匹敵する。十秒もあれば人間一人を見つける事ぐらい造作もない。

 ――標的が人間であれば、の話だが。

 

「どこ見てんだよ、この筋肉達磨」

 

「―――――ッ!?」

 

 轟音が走った。

 大地に立っていた巨体が、大きく激しく揺れた。

 右の頬に強力な回し蹴りを決められたアックアの目は大きく見開いていて、それが、今の攻撃が彼の予想の範囲外の領域だという事を何よりも分かりやすく表していた。

 気付いた時には、目の前に金髪の少年が立っていた。

 その距離は、僅か一メートルほど。

 まさに目の前、超至近距離。

 口から血を流しながら、

 目を充血させながら、

 鼻から血を垂れ流しながら、

 体中の血管を引き裂かれながら、

 それでも、二本の脚を大地に踏み締め、この物語の主人公(コーネリア=バードウェイ)は強く握り込んだ拳を引きながら――

 

「サービスだ。一番重てェのを贈ってやんよォッ!」

 

 二重聖人の顎に、鋭く重い拳が炸裂した。

 

 




 感想・批評・評価など、お待ちしております。

 次回もお楽しみに!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。