妹が魔術結社のボスなせいで人生ハードモード   作:秋月月日

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 応募用小説の執筆がひと段落ついたので、更新再開です。

 お待たせしてしまって本当に申し訳ありません。


Trial67 浮気者

 フロリス渾身の右ストレートによって意識を取り戻したコーネリアは赤く腫れた頬を擦りながら、今の状況に対する問いを提示する事にした。

 

「それで、これってどういう状況な訳? 何でフロリスがここにいんだよ」

 

「うるせえ聞くなワタシにも分からねーんだよ」

 

「何だよそれ……」

 

 そして何故そんなに顔を朱くしているのか。新たな疑問が浮上したが、コーネリアはあえて問い質さなかった。わざわざこの場で聞くような事でもないだろうし、彼女が話したがらないのならこちらも根掘り葉掘り探りを入れるような真似をする必要はない。しかも彼女は命の恩人だ。恩ではなく仇を返すような真似は出来るだけしたくはない。

 口を尖らせて若干不機嫌そうなフロリスに、コーネリアは頭を下げる。

 

「状況は分かんねえけど……とりあえず、さっきは助けてくれてありがとう。お前がいなかったら今の俺はいねえだろう。本当にありがとう」

 

「な、なに畏まってんだよバカ。言っとくけどな、ワタシとアンタは敵同士なんだ。慣れ合いなんて求めてはないんだからな。勘違いするなよ!」

 

「……もしかして美琴属性?」

 

「は? ミコトゾクセイ? なんだそれ」

 

 可愛らしく首を傾げるフロリスにコーネリアは「何でもねえよ」と被りを振る。

 

(……さて、これからどうすっかな)

 

 騎士団長には勝てなかった。これから火織と合流し、二人の力を合わせて騎士団長を打ち倒すという選択が無い訳ではないが、あそこまで圧倒的に負けたのだ、一人が二人になろうが大して結果は変わらないだろう。無責任で悪いのだが、騎士団長に関しては自分と火織よりももっと強い誰かに任せる事で思考を放棄する事にする。

 問題は、第二王女キャーリサだ。

 今回のクーデターの主犯格。カーテナ=オリジナルを手にし、最強の騎士派を従えたことで国内最強の戦力を保有する事になった最悪の敵。王女三姉妹の中で最も凶悪で、それと同時に個人としての戦闘力も高い。そんな敵をどうやって倒すか―――それが一先ずの問題だ。

 カーテナ=オリジナルがなければ事は簡単に運んだだろう。負傷しているとはいえ、こちらには聖人が二人もいる。騎士団長はともかくとしても、キャーリサぐらいなら簡単に撃破できるはず。そう、カーテナ=オリジナルさえなければ、の話だが。

 しかし今更、空想や仮定の話をしても仕方がない。今目の前に広がっている現実を認識し、思考し、行動する事が大切なのだ。甘い夢物語に逃げては駄目だ。辛い現実にどう対処するか、それを考える必要がある。

 

(っつー訳で、とりあえずの標的はキャーリサだ。聞いた話とかから察すると、アイツはフォークストーンに向かってる感じだったが……)

 

 そこでコーネリアは何かを思い出したようにふと顔を上げ、隣でつまらなそうに前髪を弄っていたフロリスの肩を掴みながらずずいっと急接近した。

 勿論、フロリスは真っ赤な顔で悲鳴を上げる。

 

「ふおおっ!?」

 

「なぁ、おい! そういえば、フォークストーン行きの貨物列車は此処から割と近い所を走ってたよなっ?」

 

「え、ええ? ええと、そうね……うん。アンタの言う通り、ここからそこまで離れてない場所に線路が通ってて、そこを貨物列車が通ってるはずだ。でも、今、その列車が何処にいるのかまでは分からないよ? もしかしたらもうフォークストーンに到着しちまってるかもしれない」

 

「そこは賭けだな。お前の『翼』と俺の『速度』を駆使すりゃあ、もしかしたら追い付けるかもしんねえ」

 

「というか、何で貨物列車なのさ。フォークストーンに行きたいのなら自分で走って向かえばいいだろ。アンタ聖人なんだしさ」

 

「線路を辿って走った先がフォークストーンとは真逆でした、なんて展開は御免なんだよ」

 

「アンタ一応イギリス人だよな……?」

 

「げふん」

 

 今世はイギリス人で前世は日本人なので事実上はイギリス人のハーフと言っても過言ではない気がするのだが、とりあえずは咳き込んで目を反らすことで誤魔化した。話をややこしくする必要はない。というか、話したってどうせ信じてもらえないだろう。

 フロリスの肩を掴んだまま、コーネリアは会議を続ける。

 

「フォークストーンにさえ辿りつきゃあこっちのモンだ。あのクソ王女様を殴り倒してクーデターを終わらせられる」

 

「そんな簡単な話じゃないと思うけどなぁ」

 

「慢心はしてねえさ。ただ、それが一番手っ取り早い。それに、お前が協力してくれりゃあ、成功の確率はぐっと上がる。もしかしたらお前らの処分の話も無くなるかもしんねえな」

 

「ああ、そうか。ワタシたちって結局は罪人扱いになっちまうのか……忘れてた」

 

「自分の命の管理ぐらいちゃんとしようなー?」

 

 この世界の人間ってのはどいつもこいつも自分の命を軽んじすぎている気がする。もっとこう、自分に甘い奴らが多くてもいいのではないだろうか。特に上条とか上条とか上条とか。

 

「それじゃあとりあえず、俺たちは今からフォークストーン行きの列車を追い掛けるって事で」

 

「……またアンタの意味不明な走りに付き合わされるのかぁ」

 

「お前の『翼』も使うからな。もしかしたら本当の意味で風になれるかもしれねえぜ?」

 

「ファ○ク!」

 

 よし、それじゃあ行くか―――そう言いながらフロリスと共に立ち上がろうとした、まさにその時だった。

 

 

「――――――その女は誰ですか、コーネリア?」

 

 

 空気が凍りつく音がした。

 呼吸は詰まり、心臓は一瞬だけ確実に停止していた。喉は干上がり、目は渇いている――だが、全身から嫌な汗がこれでもかと言う程に噴き出すのを感じた。

 その声は、コーネリアの背後から聞こえてきた。地獄の底から響いてくるような、そんな声だった。

 コーネリアは振り返る。

 コーネリアは振り返る。

 コーネリアは振り返る。

 コーネリアは振り返る。

 ある程度の予測を立て、それが百パーセント的中している事を自覚しつつも、コーネリアは背後を振り返る。

 

「……よ、よぉ、火織。数時間ぶりだな」

 

「――――――――――――――――唯閃」

 

 デラックス火織ちゃんブチギレスラッシュが周囲の木々をなぎ倒した。

 うおわぁあああああああああっ!? と突然の攻撃に悲鳴を上げるフロリスを庇いながら――その行動が火織の機嫌を更に損ねるとは微塵にも思わないながら――その場に横っ飛びし、我らがコーネリアはギャルゲーの主人公の様な言い訳を並べ始める。

 

「ちょっ……ちょっと待った! お前が何に対してブチ切れてんのかは分かったから言うが、これは誤解だ! お前が思い込んでいるような事は全て想像に過ぎねえ!」

 

「だったら何故、今になってもその女の肩を抱いているのですか……っ!?」

 

「これはお前の攻撃からコイツを庇う為で別に他意があった訳じゃないんだけどなーっ!?」

 

 因みに、コーネリアの腕の中で縮こまっているフロリス嬢は「な、何だこれ何だこれ何だこれ!?」と顔を紅蓮に染めている訳だが、火織の怒りを収めることに必死なコーネリアは気づいていない。

 人斬りの如き殺気を撒き散らしながら、火織はコーネリアを上から見下ろす―――氷の如き冷たい瞳で。

 

「あなたを殺して私も死にます。それで全員がハッピーです」

 

「ヤンデレ的思考はマズイですよ火織さん! 落ち着こう! 俺たちはまだ互いのカードを全て切り終えてはないはずだ!」

 

「それじゃあ、その女を抱いている中、絶対の無心でいた自信はありますか?」

 

「げふん」

 

 目を逸らして咳き込んだのが悪かったんだろう。

 ウェスタンブーツで顔面を蹴り飛ばされた。

 

「がふっ……げふごふっ!?」

 

「辞世の句を聞いてあげましょう」

 

「ま、待った! 待って、ねえ、待って!? 女の子の柔らかい身体を抱いている状態で無心になれる訳ないでしょ!? こ、これは不可抗力、言わば男なら誰でも経験するものだと俺は思うのです! だってコイツのおっぱいって柔らかくて気持ちいいから抱き締めた時に胸板に当たって気持ち良くてとにかくおっぱい!」

 

「唯閃」

 

「だーっ! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬっ!?」

 

 デラックス火織ちゃんブチギレスラッシュセカンドエディションが浮気男の身体を打った。

 地面の上でゴキブリの様にぴくぴくと痙攣しているコーネリアの襟首を掴み上げ、そのまま片手で持ち上げると、火織は額にビキリと青筋を浮かべながら絶対零度の瞳をプレゼント。

 

「―――死にたいのですか?」

 

「いやぶっちゃけ今ので死んでないのが不思議でたまらない件なんですけどそれは」

 

「反省の色が無いようですね。それではもう一度―――唯せ」

 

「マジすいませんっした! 自分チョーシくれてましたぁっ!」

 

 火織の手を振り払い、地面に降りるやジャパニーズDOGEZAスタイルへ。大切なのは誠心誠意の謝罪であり、その姿勢を見せるにはこの業が一番合理的である。しかも相手は生粋の大和撫子こと神裂火織だ、これが通用しないはずがない。

 そんな思惑通り、火織は「はぁぁ」と溜め息を吐くとコーネリアの顔面を蹴り飛ばすや否や氷の如き怒り顔を小さく緩めた。

 

「仕方がありませんね。今回はまぁ、特別に許してあげましょう」

 

「は、鼻っ……俺の鼻はまだ陥没してないですか……っ!」

 

「私も随分と甘くなったものですね。自分の怒りをこうも簡単に抑えられるようになったとは……認めたくはありませんが、あなたに出会えたおかげなのかもしれません」

 

「感動的な事を言っている所悪いんだけど、そこのバカが今にも死にそうになってるのは放っといてもいいのか……?」

 

「あ? どこの馬の骨とも知らないド素人は黙っていなさいぶち殺しますよ?」

 

「――――――――――――、」

 

 凄まじい殺気だった。かの正体不明の殺人鬼ジャック・ザ・リッパーなんて目じゃないレベルの殺気だった。いや、正体が不明なのだから実際の殺気がどうだったかなんて知らないのだが、これはあくまでも比喩表現。そんな比喩を使ってしまう程に火織から放たれる殺気は常軌を逸していた。

 目尻に涙を浮かべて顔面蒼白なフロリスは地面でのた打ち回っているゴキブリ野郎の襟首を掴み上げると、

 

「おいいいいいいいいいいいいいっ! アイツ、アンタの恋人なんだろ? だったらすぐにでもあの殺気をどうにかしやがれえええええええええええええっ!」

 

「俺に死ねと? あの状態の火織を止められる奴なんざただの一人も存在しねえよ! どやさ!」

 

「なんだその自信に満ち溢れた表情は! このままだとワタシラ、揃いも揃って土葬だぞ!?」

 

「なーに、心配すんなって―――」

 

「ああ、なんだ。もしかしてちゃんと打開策を考えてるのか……」

 

 

「―――お前に全ての罪を着せて俺だけは生き延びてみせるからよ」

 

 

「イギリス清教の聖人サマ! このクソゴキブリ野郎はワタシの胸を揉みしだきました!」

 

「バッ……て、テメェ、根も葉もない事をォーッ!」

 

「……コー、ネリア?」

 

「区切るな区切るなその謎の区切りはスゲー怖いから!」

 

 だが、怒れる聖人はもう止まらない。再びコーネリアを掴み上げると、マスクメロンの様にバッキバキに大量の青筋を浮かべた火織はアツく握り締めた右拳を天に掲げ―――

 

「こんの―――浮気者ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

「ご、誤解でげふぅっ!?」

 

 満天の星空の下、原始的な暴力の嵐が吹き荒れた。

 

 




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 次回もお楽しみに!

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