お兄ちゃんが“ろくでもないこと”として端折ろうとしたこと――エルミリアさんを竜から救いだしたこと。なんでそんな大事なこと飛ばそうとするのかな――!?
それに映像のエルミリアさん、すごくピンチだし。衣服が服の意味を成してないくらいボロボロで、そして綺麗なはずの肌は焼け爛れている。火傷とは違う、これはまるで、酸かなにかで焼かれたような後に見える。
しかも、その目の前には蛇のような毒々しい見た目をした竜にせまられている最中だ。とはいえ、一時停止中でエルミリアさんの姿も小さくなっててそんなに緊迫感はない。
雫「あら、この人って…」
遥「前に陽介さんが変身してた人、だよね…。実在したんだ…」
志保「そうなんです(通常声量)。で、お兄さんのストーカーなんです(小声)」
愛莉「……逆じゃなくて?」
穂波「いえ合ってます。合っちゃってるんです。なぜか」
兄「え、ア○チー*1の話?ア○チー可愛いよね」
一歌「お兄ちゃんちょっと黙ってて」
お兄ちゃんを黙らせたあと、私は目の前にいるみのりのほうを見る。青ざめた顔でみのりの視線は一時停止中の記憶映像に釘付けになっており、私もそれにつられて再び記憶映像を見る。
みのり「でも、すっごいピンチで皮膚もとんでもないことになっちゃってたよ…」
咲希「お兄さん、あの竜一体なんなんですか…?」
兄「アレは【憂鬱竜】メランコリー・ドラゴンだな。体中から毒霧を生成してそこにいるだけで土壌を不毛の台地に変えてしまう生きた災害だ。しかも竜に共通した話で硬い鱗と外殻で通常攻撃はほぼ通らない。強制敗けイベントの敵キャラみたいなヤツだ」
話を聞けば聞くほどエルミリアさんがとんでもないモンスターに追い詰められていると認識する。お兄ちゃん、よくこんなモンスターに立ち向かえたなぁ…。
そんなとき志保が手を上げて、お兄ちゃんに質問をした。
志保「…お兄さん、あの、【大罪竜】って7匹なんですよね…?私、あのあとネットとかで“7つの大罪”について調べたんですけど“憂鬱”って“7つの大罪”じゃないし、そもそもの話、過去の映像で名前だけ出てきた竜も含めると【憂鬱竜】で8匹目なんですけど…」
兄「あぁ、それはだな―――」
お兄ちゃんが今見ている映像をスライドして別の記憶映像を映し出すと、そこにはルバルドラムでのエルミリアさんの語りシーンが映し出されていた。
エルミリア『それは南方で採れるエクアの実ね。この都市の西方に広がる【獣の出づる大地】…。そこに住む神話級のモンスターを封じるために張られた大規模結界。かつての人類が多くの犠牲を払いながらもその一部を手に入れることに成功した、【嫉妬竜】エンヴィー・ドラゴン、【怠惰竜】スロウス・ドラゴン、【強欲竜】グリード・ドラゴン。3体の【大罪竜】たちの素材を使って、古代の人類が築き上げた人類の歴史の象徴そのものなのよ。…でもその際【怠惰竜】から生まれた【人類の負の遺産】もあったけれど…もう関係ないわね。800年前の失われた技術だけれど―――』
そこまでの部分で映像を閉じて見ていた映像をスライドし直して定位置に戻した。
兄「コイツの言ってる【怠惰竜】から生まれた【人類の負の遺産】って言うのが、【憂鬱竜】のことだな」
みのり「さっきの映像のあの人、すっごい元気だったね!」
雫「しかも肌の焼け跡が全くなかったわ…。あれも魔法なのかしら…」
愛莉「とにかく、あの人は無事に救われるのね」
遥「それ聞いて、なんだかほっとしちゃったね」
みのりたちがエルミリアさんの無事な姿を確認すると、助かったのだということに安心していた。
穂波「じゃあ、【憂鬱竜】は【怠惰竜】から派生して生まれたってことですか?」
兄「そゆこと。どうやって【怠惰竜】から【憂鬱竜】が生まれたのかとか、そういう細かいことは知らないが、こんな経緯で【憂鬱竜】は【大罪竜】のカテゴリーに含まれていないんだ」
そんな経緯が…。でも、その次にエルミリアさんが「もう関係ない」って言ったってことは…
一歌「お兄ちゃん、もしかして【憂鬱竜】倒したの!?」
兄「倒したけど」
咲希「え、すっごーい!こんな相手どうやって倒したんですか!?」
兄「はっはー。まぁ落ち着いて落ち着いて。じゃあ再生するよ。異世界9日目の【憂鬱竜】との戦闘は――」
お兄ちゃんが記憶映像を再開すると、全員でその映像に視線を送った。
高く飛んだお兄ちゃんが――、
憂鬱竜に高速で向かってって――、
憂鬱竜の体を貫通して―――え?
兄「はい勝ったぁ!」
一歌「終わりぃいい!?」
え、これでおしまい!?竜って硬い鱗と外殻に覆われて通常攻撃はほぼ通らないってさっき説明したばっかりじゃん!!それなのに瞬殺って――!!
みのり「これでおしまいなんですか!?」
兄「そうだけど」
咲希「さっきまでの前振りなんだったんですか!?」
穂波「ドラゴンを一撃って…お兄さんの魔法強すぎませんか…?」
兄「いや、流石に俺だけじゃ一撃で倒すのは無理だったよ?でもな…」
お兄ちゃんが30秒戻しで憂鬱竜にエルミリアさんが襲われているシーンに戻した後に映像を拡大すると、憂鬱竜の体の一部にはなにやら窪みのようなものがあるのが確認できた。
みのり「ここ、なんか凹んでる…?」
兄「ここにアイツが一転集中で攻撃した形跡があってだな…」
雫「この窪みって、それで出来てたのね…」
兄「脆くなってたそこを狙って抜いたんだよ。あと貫通の瞬間炎魔法で中から焼いた」
志保「適当に突っ込んだんじゃなかったんだ…」
一歌「そういうところ、案外見てるんだね…」
兄「ほんと、もうちょっと頑張ればアイツ一人で勝てただろうに勿体ない…。それでな……」
お兄ちゃんが尻もちをついているエルミリアさんに一歩ずつ近づくと―――、
エルミリア『オーク……!しかも子供の…!!』
……分かってはいたけど、この反応きっついなぁ…!!綺麗な顔は憎らし気に歪んでいて、当事者でもない私たちも心が痛い。
みのり「うぅ…怖い…」
愛莉「さっきのパターンからこうなることはある程度予想できたけど、きついわねコレ…」
エルミリア『ざ、残念だったわね…。私の体はもう毒に侵されてもう死ぬ…。オークに穢されるくらいなら、いっそのことこのまま――』
兄(12歳)『“解毒の呪符”』
お兄ちゃんがエルミリアさんに投げたもの―――それは“呪符”だった。するとエルミリアさんの肌を焼いていた毒が綺麗になくなっていく。
兄(12歳)『“回復の呪符”』
続けてお兄ちゃんが“回復の呪符”を投げるとエルミリアさんについていた傷が綺麗に回復した。
ていうか―――え?
一歌「……え?お兄ちゃん、ちょっと待って!?」
兄「なに?」
一歌「いや、なんで“呪符”持ってるの?いつの間に入手してたの!?」
兄「え、うん。この映像の前日に……」
咲希「それもすっごい大事な話じゃないですか!?」
穂波「なんでそれを飛ばしちゃうんですか!?」
7日目にモンスターの群れとバトルして9日目に魔毒竜を倒してっていうハードスケジュールの間にとても気になることしてたよこの人!
兄「いやだって、それを説明しようとしたらみんながコイツの話聞かせてって迫るから…」
志保「あぁ…。確かに…。なんか、すみません…」
兄「いや、別にいいよ」
一歌「じゃあこれ終わったらそこのところ見せて!」
兄「分かった分かった。じゃあ続き再生するよ」
お兄ちゃんが映像を再生すると、自分の体が良好状態に戻ったことにエルミリアさんは困惑していた。
エルミリア『は、え、なんで?毒は?傷は?』
兄(12歳)『えっと、これ着て』
今度はお兄ちゃんが着ていたジャージをエルミリアさんの体を隠すように覆いかぶせていた。
それと、エルミリアさんの体――衣服のほとんどが毒で焼けてしまっていたのかほとんど裸――を見ないように顔を赤らめながら顔を逸らしていた。
兄(12歳)『み、見てない。見てないから。あと俺はオークじゃないから』
エルミリアさんはとても驚いた表情をしながら、お兄ちゃんからもらったジャージを試行錯誤しながら着ていた。
兄(12歳)『服は着たか?チャックの締め方分かる?手を貸す?大丈夫?』
そんな確認をしている間に、エルミリアさんはジャージを着終わっていた。
穂波「お兄さん、優しいんですね…」
兄「アイツ、ほとんど裸で見てられなかったし…」
志保(それはどっちの意味なんだか…。お兄さんが言うと分からなくなるな…)
遥「ていうか、このお姉さんに着せたジャージ、とてもピッタリですけど、当時の陽介さんが着るには大きすぎませんか?」
兄「えっと、確か…」
お兄ちゃんが今見ている映像を一時停止して、横にスライドしたあと空いた空間に別の記憶映像を再生していた。
兄(11歳)『お母さーん。これ大きくてぶかぶかなんだけど…』
母(6年前)『男の子はすぐ大きくなるから、Lサイズにしたのよ。袖は捲りなさい』
兄「あーそうそう。母さんが大きめのやつ買ってたからなんだよな」
穂波「本当に便利ですねその魔法……」
兄「じゃあ戻すよ」
私の知らない記憶だ…。この場合、普通に私のいないところであった場面なんだろうけど。異世界に行く前の記憶映像を見せてもらったあと、再びエルミリアさんの方に画面を戻すと険しい眼でお兄ちゃんを見つめて――、
エルミリア『剣士殿、失礼いたしました』
片膝をつくポーズをして、お兄ちゃんにお辞儀をしていた。
一歌「えっ、“ツンデレ”じゃない!?」
志保「すごく礼儀正しい…」
兄(12歳)『あ、いや、そんな…。誰かがピンチだったら助けたいと思うのは当たり前のことですよ』
と、お兄ちゃんがすごい笑顔で返事をしていた。
それを見たエルミリアさんが、笑みを浮かべたあと…。
兄(12歳)『え?』
兄(12歳)『は?』
兄(12歳)『なに?』
兄「突然罵詈雑言吐いて雷を向けてきたんだ。酷すぎないか?」
一歌(あっ、バグった…)
穂波(壊れた…)
遥(エルミリアさん*2の感情壊れた…)
雫(笑顔で雷を向けて…)
表情と言動と行動がミスマッチ過ぎて全員で顔を引き攣らせた。
笑顔で雷纏った手を向けながら罵倒してくるの怖すぎるし、凄く心が痛い…!!
兄(12歳)『―――ッ!その雷どこから…?』
エルミリア『あっ!わ…私はなにを!?失礼した!これは…――くッ!』
エルミリアさんが慌てて雷を纏った手を引っ込めて雷を抑えると突然片手で頭を、片手でお腹を抑え始めた。
エルミリア『力を、使い過ぎたか…!』
兄(12歳)『えっ、まだ傷があるのか!?大丈夫!?』
そこでお兄ちゃんがエルミリアさんの来てたパーカーを思いっきりめくった。―――??
一歌・咲希・穂波・志保・みのり・遥・愛莉・雫
「「「「「「「「あっ」」」」」」」」
傷一つない綺麗な肌が露出して――当然、エルミリアさんがお兄ちゃんにゴミを見るかのような目を向けてその手を払った。
兄(12歳)『待ってろ今助ける!!』
エルミリア『は!?ちょ、ちょちょちょ!?』
すると今度はチャックを思いっきり降ろして―――頭痛くなってきた。
兄(12歳)『クソッ、回復の呪符はあの一枚しかない!!傷はどこだ!?』
エルミリア『だだだだ誰も助けてなんて頼んでないわ!触らないで!』
兄(12歳)『それともまだ毒が!?ちゃんと見せろ!!』
エルミリア『毒もない!!傷もないからぁ!!』
エルミリアさんは本当に大事な部分が見られないように必死で隠しながら羞恥の顔をしていた。
一歌「なにやってんのお兄ちゃん…!?」
兄「いや見て分かるだろ。外傷がないかの確認だよ」
志保「どうみてもセクハラの現場にしか見えませんけど…?」
兄「緊急事態だったし。憂鬱竜の毒ってマジで危険だから」
名分があるのは分かるけど、同じ女性としてエルミリアさんに同情しかできない。
エルミリア『~~~~~~っ////』
兄(12歳)『――!?傷一つない…!なんて綺麗な肌なんだ…!』
エルミリア『……ッ////!!』
兄(12歳)『もっと別のところか…!?』
エルミリア『へ!?へぇ!?』
兄(12歳)『こことか、ここ…!?』
そして、ついに我慢できなくなったのかエルミリアさんが手に雷を纏ってお兄ちゃんに攻撃した。それを咄嗟に光の剣でガードしたお兄ちゃんは後退させられていた。
エルミリア『お、お、お、お、覚えてなさい!あんたの豚面しっかり両の眼に焼き付けたわ!!この仮は必ず返すんだから!』
兄(12歳)『本当に…大丈夫なのか?念のためもう一度“解毒の呪符”を…』
エルミリア『いらないわよこんなの!!』
兄(12歳)『あっ!』
エルミリアさんがお兄ちゃんの手から解毒の呪符を取るとクシャクシャにしたあとお兄ちゃんに投げ返した。
エルミリア『これ以上近寄らないでいんらんオーク!!豚!!豚!!豚!!豚!!豚豚豚豚みにくいオーク!!』
顔を真っ赤にしながら罵詈雑言を吐いたエルミリアさんに対して、お兄ちゃんは――、
兄(12歳)『――――』
俯きながらただただ黙りこくっていた。
遥「陽介さんなにか反論しましょうよ…」
咲希「なんだとコノヤロー!とか言わないんですか…?」
兄「いや、こういうときは下手に反論すると余計に相手を調子づかせることになるからな…。じっと我慢だ…」
愛莉(考え方が完全にいじめられっ子のそれね…)
一歌(お兄ちゃんってどういう学生生活送ってたんだろう…)
学年私と一つしか違わないはずだけど、だからと言ってなにかあったとかって言う話はそんなに耳に入ってくることじゃないし家でも学校の様子なんかはほとんど聞かなかったからな…。
で、その後映像に視線を戻すとエルミリアさんは顔を真っ赤にしながらその場から去っていった。
こうやってストーカーのツンデレエルミリアさんが生まれちゃったんだ…。
兄「まぁそういったわけで…ここからこの調子でつきまといが始まったんだよ…。パーカーもパクられたし、ホント散々な日だった」
雫「パーカーって…あげたんじゃないんですか?」
兄「いや、あくまで貸しただけであったあげたつもりは全くないですね。で、ある日に返してもらおうと直談判しに行ったら……」
お兄ちゃんがスクロールバーを操作してその先の映像をサーチしている。……あれ、“呪符”のことは?だけどその疑問を口にする前に、お兄ちゃんのサーチが完了してしまった。
兄「あ、この日だ」
映像は、窓から指す光から始まった。翡翠色の瞳が映ると画面がズームダウンされていくと、ベットで寝ているエルミリアさんが背伸びをしていた。半ズボンにお兄ちゃんからもらったであろうパーカーをパジャマ替わりにしているのを見ると、とても大事にしているのが分かった。
エルミリア『ん、うーん…』
ベットの頭の棚の上にあるなんらかの装飾品―――これ、いつもエルミリアさんが額に着けてるヤツだ。
それを取ろうとしても手が届かないのか、顔を顰めると腰を曲げて足を勢いよく持ち上げ棚のところまで持ってくると足の指で髪飾りを取っていた。
うまく取れたのかエルミリアさんが鼻歌歌っていたけど――画面が別視点になると扉の前にお兄ちゃんが立っていた。それに気づいたエルミリアさんが物凄く驚いていた。
エルミリア『い、いつからいたの!?か、鍵かけて――』
兄(13歳)『お前それ…初めて会ったときに貸したパーカーそろそろ返せよ』
エルミリア『―――ハッ。も、もらったんだからもう私のものよ!』
兄(13歳)『なんだと!?』
フードで顔を隠して赤らめた顔を見られないようにしていた。よっぽど返したくないんだな…
エルミリア『絶対一生返すもんですか!』
兄(13歳)『なんてがめついヤツだ…仕方ない。縛動拘鎖』
その瞬間、エルミリアさんの四肢は拘束されてベットに押し倒された。
エルミリア『なっ!?ま、魔法なんて卑怯よ!?』
兄(13歳)『少し大人しくしてろ』
で、お兄ちゃんがエルミリアさんに跨るとチャックを外していって―――、
兄(13歳)『まったく手間取らせやがって…あ!?くそ、魔法が邪魔で脱がせられない…』
エルミリア『…一旦魔法解除すれば?』
兄(13歳)『おっ、なるほど分かった。――解除 と』
で、案の定右手を開放した瞬間に雷を纏ったエルミリアさんの拳がお兄ちゃんの顔に直撃して血反吐を吐きながら床に倒れた。
エルミリア『もう!!すぐ信じる!!なんなの!?ばかオーク!!お人好し!ば――あれ?』
顔を赤らめながら罵倒していたエルミリアさんだったけど、お兄ちゃんの反応が全然ないことから中断して顔を覗き込んだあと、足の指に絡めていた宝石を手に取って宝石部分をぶら下げるように持つと――突如そこからノイズのようなものが走ってなにもないところから包帯と瓶が出てきた。
アレって―――!
一歌「お兄ちゃん!アレって収納魔法!?」
兄「厳密には違うな。確かに収納魔法に似ているが、アレは髪飾りの効果の一つだ。【強欲竜】の素材が使われててな。【強欲竜】は財宝なんかの価値あるものを体に貯め込む特性があってだな。その特性を利用して作られた、古代の髪飾りだ。」
咲希「そんなすごいものエルミリアさん持ってたんだ…」
で、お兄ちゃんに瓶から取り出した傷薬を塗って頭に包帯を巻いたあと、エルミリアさんは部屋から出て行った。
兄「でさ、酷くない!?」
一歌「まぁ…うん…」
古着くらいあげればいいのに…。
映像を一時停止すると、顔を顰めながら話し出した。
兄「こんな感じでコイツにはパーカー借りパクされんだ。髪飾りと同じで“強欲”なんだ。まぁパーカーは取り戻せなかったけど…代わりにこの服を貰った。じゃじゃーん」
お兄ちゃんが立ち上がって収納魔法に手を入れて取り出すと、その手には女性ものの緑色のとても綺麗なドレスが握られていた。見ただけでも、これがすっごい高価なものだということがわかるくらいに綺麗だった。
みのり「すっごく綺麗…!」
兄「俺がこんなひらひら着るわけにもいかないから、誰かに譲るのがベストかなーって思ってるんだけど…。あ、そうだ」
突然お兄ちゃんが当時使っていたスマホ(iP○one5)を収納魔法から取り出すと耳に当てて――
兄「あ、どうも貌の精霊さん。この間はお世話になりましたわたくし【星乃】と申します!いえ!こちらこそ!あっ、今お時間大丈夫で…あっはい!あっ、今回ですね!8人一気に変えられないかと言うご相談を……えっ、どんなのかはもう決まってるかって?今わたしが持っている服を皆のイメージカラーに沿ってもらえればと…はい。あ、すみませんやっぱ無理…え、いける?ありがとうございます~。あ、でも長くは続けられない…?それでも十分ありがたいです!お試しなので…本当に助かります。はい。はい。失礼しまーす。はい」
精霊との会話が終わったのか、お兄ちゃんはこちらに向き直った。相変わらず事情を知らなかったら不審者にしか見えないけど、一体精霊となにを話して―――、
兄「貌の精霊よ。形作りし器、異なる姿へ変ぜよ」
一歌「えっ、ちょ、なに!?」
穂波「体が光って…!?」
愛莉「なに!?どうなってんのこれ!?」
遥「陽介さん、なにを…!?」
突然お兄ちゃんが私たちに向けて魔法を放つと、体が光り出してその眩しさに目をつぶった。
そして目を開けると――、
志保「これって…!?」
咲希「あのドレスだよね…なんで!?」
みのり「わ~~!」
雫「すごいわ…。生地もサラサラで動きやすいし…」
私たち全員、お兄ちゃんの手に持っているドレスに着替えさせられていた。
私が紺色、咲希が黄色、穂波は赤、志保が黄緑、みのりが茶色、桐谷さんが青、桃井先輩が桃色、雫先輩は水色のドレスを着ていた。
兄「いや~やっぱり美人が着ると絵になるな~…」
一歌「ちょ、お兄ちゃん勝手に…!」
みのり「せめてなにか一言言ってくださいよ~!」
兄「ごめん。どうせなら誰かに使ってほしいから一回着てもらおうかなと思って」
だとしてもせめて断りくらい言ってほしいんだけど…!?
それにしても、魔法で着替えさせることもできちゃうんだ…。本当になんでもありすぎる…。この服、胸元出てて恥ずかしいけど、肌触りもすっごく良くて着心地が良すぎる。絶対に一生に一度着れるかどうかの代物だよコレ…。
兄「うーん。使ってもらうにしても一歌たちはバンドグループだから着る機会なさそうだし、やっぱアイドルやってる花里さんたちの誰かに…」
愛莉「いや、アイドルでもこんなドレス着る機会滅多にないですよ…」
遥「それこそファッションショーでもない限り…」
雫「せっかく試着させてもらったのに、すみません…」
兄「いや、いいんです。となるとこのドレスはお蔵入りか…」
穂波「お兄さん、それ使い方間違ってますよ…」
兄「え、そうなの?」
お兄ちゃん、言葉の意味そのまんまの意味で使っちゃってるのか…*3
すると――、
志保「あのお兄さん、目的果たしたのなら、早く解除してほしいんですけど…」
志保がスカートを掴んで恥ずかしそうにしながらお兄ちゃんに訴えかけてきた。―――可愛い。志保があんなに恥ずかしがる姿なんて久々に見たかも。今の衣装と合わせて、すっごく綺麗で可愛い。
兄「いや、急な仕様変更はできないからさ…やったら精霊がキレる。効果時間が切れるまで待って」
志保「でもこんなの私には似合わない、ですし…」
兄「でもなぁ…反動が怖いんだよなぁ」
志保「反動…?」
兄「うん。精霊を雑に扱うとそりゃ反動があるよ。例えばなんだけど、風の精霊は吹き抜け、光の精霊はまぶしく……貌の精霊は人体を亜竜人間に変える」
志保「貌の精霊さんだけ厳し過ぎませんか?」
志保が冷や汗を流しながら突っ込んだ。うん、私も同じこと思ったよ。風と光の精霊さんの例えの後に貌の精霊さんの反動が厳し過ぎて温度差が激しい。ていうか亜竜人間ってなに?名前からして碌なことになりそうにないんだけど*4。
兄「それにお願いしたばかりで急にキャンセルすると、精霊がブチギレるの確定だし、最悪全人類竜になるかもしれないし…」
志保「全人類竜化!?」
兄「だから、効果切れるまで我慢してくれないかな…?」
志保「……わかりました」
志保は、力尽きたように椅子に座った。流石に自分の羞恥心と全人類竜化を天秤に駆けられたら頷くしかないから仕方ないけど…強制解除のデメリットが酷すぎる。でもこれでなんとか全人類竜化は阻止できた…。
咲希「ま、まぁしほちゃん!こんな服着れる機会ないだからさ!楽しもうよ!それに可愛いんだからさ!」
志保「か、可愛いって…!!」
雫「そうよしぃちゃん!とっても可愛いわ!妖精さんみたいでとっても素敵よ」
志保「お姉ちゃんまで……」
と、時間が経つにつれて皆でドレスについて語り始めていた。ふと、お兄ちゃんの方から――、
兄「あいつもよくああいうの着てたな…なつ―――」
一歌「お兄ちゃん?」
兄「(異世界を懐かしむ日が来るなんてな…)……ん、なんだ?」
一歌「なんかボーッとしてたけど、大丈夫?」
兄「あぁ、なにもないぞ。にしても楽しそうだな、皆…」
お兄ちゃんは右手に掛けているオリジナルのドレスに目を向けて、なにか考え込んでいた。
兄「……やっぱり、俺も着てみるか」
一歌・咲希・穂波・志保・みのり・遥・愛莉・雫
「「「「「「「「なんで(ですか!?)」」」」」」」」
兄「みんなドレスのことで盛り上がってるし、俺も着れば話題に入れるかなって…」
一歌「そもそもお兄ちゃんの体系的に無理でしょ」
兄「またエルミリアに変身すれば行けるよ」
遥「それはそれでやめてほしいんですけど…」
それはみのりたちのトラウマ――になってるかどうかわからないけど、そういうのを呼び覚ますからやめてほしい。お兄ちゃんもあんなことあったんだし、変身魔法のデメリット分かってる上で気軽に使い過ぎなんだよな…。
だけど、そんなとき―――、
兄「わっ、記憶の精霊が…」
突如、一時停止していた記憶映像が勝手に動き出した。ある程度の速さで早戻しされていって、映った映像は――、
兄(12歳)『ふ~』
あのろくでもない始まりを『いいスタート』と言い切っていたあの映像の最後からだった。
兄「これは、8日目の出来事だな…」
それって、お兄ちゃんが呪符を入手した日の話だ。そう言えばあの出来事は7日目の真夜中に起きた出来事なんだから、朝日が昇った時点で8日目になってたのか…。それにしてもなんで勝手に…。
兄「記憶の精霊がしびれを切らしたのかな…?」
穂波「精霊もしびれを切らすんですか…?」
兄「まぁとりあえず、せっかく記憶の精霊がサーチしてくれたから見始めよう」
志保「あのお兄さん…この魔法、いつ解けるんですか?」
兄「8人一気にやったから貌の精霊の力も長続きしないし、この映像観終わった頃には解けると思うよ」
志保「そうですか…」
雫「勿体ないわ…せっかくしぃちゃんがこんなに綺麗になったのに…」
志保「お姉ちゃん…」
まぁ勿体ないって言う気持ちは分からなくはないかな…。
そんなことを思いながら私たち全員が席について記憶映像を―――雫先輩だけ志保のことずっと見てるけど――まぁ映像に目を移すと――、
兄「あのあと、満腹の余韻に浸っていたんだけど…」
兵士A『オーク!』
兵士B『オークだ!』
兵士C『仕留めろ!!』
兄「急に大量の兵士たちがやってきてな…。ちなみに後で知ったことなんだが、俺が助けた奴隷たちから話を聞いて彼らを送り届けた街の兵士たちがここにやってきていたらしい」
うーん、異世界人からオーク扱いされて狩られかけるシーンを見過ぎたせいか、ほとんどなにも感じなくなってる…。でもそれは私だけの話であり、咲希やみのりたちは未だに暗い顔だ。
兄「で、一目散に逃げて――」
兄(12歳)『あ、崖!よし!』
兄「飛び込んだと同時に機動魔法で逃げた」
愛莉「今ノータイムで飛び降りましたけど、怖くなかったんですか…?」
兄「うん。ジェットコースターで急降下してる感覚で怖かったけど、俺もカー○ィでこの程度のステージは何度も経験しているからな。躊躇いはなかったよ」
穂波「キャラクターを操作する感覚で飛び降りたんですか?」
みのり「自分で飛び降りるのとは絶対違うと思いますけど…」
本当にお兄ちゃんってこういうところ静かに壊れてるよなぁ。普通崖しか逃げ道がない状況でも少しは躊躇いとかあると思うんだけど。魔法があるから大丈夫って言う確信があったとしても、少しは怖がる素振りがあっても不思議じゃないんだけど。
兄「でも、昨夜の戦闘と奴隷たちを逃がすのに動態の精霊の力を使い過ぎてな……。途中で効果が切れて、湖に落っこちた」
兄(12歳)『あぁー!!』
映像のお兄ちゃんが途中で切れた魔法陣から抜けると、その勢いが急になくなってそのまま真下へ落下。湖に直撃した。
兄(12歳)『あごご!!ゴボボ!!』
兄「で、溺れた」
一歌「……お兄ちゃんって、泳げなかったっけ?」
兄「俺、ゴーグルつけてないと目に水が入ってマトモに泳げないんだ…。だから水泳の授業とかでゴーグル忘れたときは碌に泳げなかった」
一歌「そうなんだ…」
兄「そしてそのまんま体が沈んでいって……」
映像のお兄ちゃんが天に手を伸ばしてるけど、無情にも体が沈んでいっている。これどうやって助かるんだろう…。
雫「えっと、完全に沈んじゃいまいたけど……」
兄「うん。このあと普通に意識失った」
咲希「大ピンチじゃないですか!ここからどうやって助かったんですか!?」
兄「でだな、俺が目を覚ました時そこは―――」
兄(12歳)『………アレ、ここ、どこ?』
暗転した映像に光がともされると、とても明るい照明が映った。
画面がズームダウンしていくと、お兄ちゃんが目覚めた場所は―――、
兄「そこは、ここ、【喫茶どんぶら】だった」
一歌「なんで!?」
評価:感想お願いします。