一歌「え、いや、待って…?え、【どんぶら】?え、ここ?」
兄「そうだけど」
一歌「いや待っておかしいよ?お兄ちゃんは湖に落ちたんだよね?」
兄「うん」
一歌「で、そこで意識を失っちゃったんだよね?」
兄「うん」
一歌「で、目覚めたら【どんぶら】に居たと」
兄「うん」
一歌「いやおかしいでしょ!?」
さっきまでの経緯を並べたけど、どうしてそうなったのか微塵も理解ができない。
湖に落っこちて目覚めたら喫茶どんぶらにいたってどういうこと!?
遥「え、あの、お兄さんって異世界に行ったんですよね」
兄「うん」
遥「でも【喫茶どんぶら】って地球にありますよね」
兄「うん」
遥「何度聞いてもおかしいですよねソレ」
桐谷さんはもちろん、皆もこの状況についていけずに困惑している。だって喫茶どんぶらって今私たちがいる場所だよ?え、異世界にもあるの?
兄「えっと、一から説明していくとだな…。まず【喫茶どんぶら】は普通の喫茶店じゃないんだけどさ」
志保「それは言われなくても分かりますよ」
愛莉「むしろ普通の要素が見つけられないんですけど…」
異世界の通貨や宝物を換金できるところといい、店員さんが明らかに普通じゃない件といい、セッちゃんの件といい、地下室の件といい、挙げれば切りがない。どう考えてもただの喫茶店ではないのはすでに分かっている。それと今まで触れてこなかったけど、肝心のマスターは今日も留守だし。チェーン店で複数の店の店長をしているっていうのなら分かるけども、喫茶どんぶらはここにある一件しかないわけだし、いくらなんでも適当すぎるのでは?
マスターって一体どんな人なんだろう。
兄「俺も詳しいことは全然分からんが、どんぶらは地球にだけあるわけじゃない。エクスバハマルという異世界があるように世界は無数に存在している。どんぶらは、そんな無数の世界と繋がれる座標*1なんだ」
みのり「座標…?」
兄「えっと、線と線が交わった場所…らしい。世界を一つの線と例えて、その線を無数に重ね合わせた“点”……そこが【喫茶どんぶら】なんだ*2」
穂波「なんだかスケールの大きな話になってますね…」
異世界のこと聞いてただけで、なんだか世界のとんでもない真理を聞いてしまった。この喫茶店が様々な世界と結ばれた場所って…私たち今あり得ない経験してるよね?
いや異世界の映像観れるだけで十分あり得ない経験なんだけどさ。
一歌「それなら、ここを経由してこっちの世界に帰ってこれたんじゃ…?」
咲希「あっ、そうですよ!無数の世界と繋がってるのならそれができてもおかしくないんじゃないですか!?」
兄「それがだな。俺もこの話聞いたとき、そうできないかってマスターに行ったんだけど、駄目だった。できない理由が2つあるんだ」
みのり「理由…?」
無数の世界と繋がっている座標であるどんぶらなら、どんぶらを経由してこっちの世界に帰ることができたんじゃ?と言う質問をぶつけてみたが、どうやらそれは不可能だったらしい。2つの理由って…?
兄「まず一つに、どんぶらから“別の世界”に行くことはできない。これは世界迷子を生まないためらしい」
遥「世界迷子…。すごいパワーワードですね…」
兄「次に二つ目の理由は、仮に移動できたとしても俺が住んでるこの世界を見つけるのは至難だ。この世には“並行世界”って言う“もしも”の世界があるらしい。仮にそれっぽい世界を見つけても、“俺が異世界転移しなかった世界”や“俺が存在しない世界”の可能性がある。そう言う事故を避けるため、確実性の高い方法であるエクスバハマルからの帰還が、最も帰れる可能性の高い方法だった」
穂波「いろいろあるんですね…」
並行世界か…。もしもの世界。どんな世界なのかなと思考して、その考えを振り払う。これは、いくら考えても答えがでないものだから。
兄「じゃあ続き見るよ」
私たちはお兄ちゃんが再開させた記憶映像に視線を送った。
12歳のお兄ちゃんは今のお兄ちゃんの背中側にあるお座敷で横になっていた。お兄ちゃんが目覚めて起き上がると、景色の変化に戸惑っているようだった。
兄(12歳)『あれ、ここ、どこ…?』
???『目覚めたかい?』
そこで、お兄ちゃんの頭の方から声が聞こえた。その方向に振り向くと、そこには一人の男性が立っていた。この声と服装、一瞬だけしか見たことないけど、見覚えがある。この人確か――、
兄(12歳)『ここって…?それに誰…?』
???→マスター『ここは【喫茶どんぶら】。そして俺はこの店のマスターをしている、【五色田介人】だ』
五色田介人さん…。何気に、初めてマスターのフルネーム知ったな。介人って言う名前はセッちゃんから聞いてたけど、苗字が【五色田】って珍しい苗字だなぁ…。
兄(12歳)『え、日本人…?え、日本?』
マスター『俺は日本人さ。で、日本かそうじゃないかは、そうでもあるしそうでもないというのが正解かな』
兄(12歳)『えっと、何言ってるのか全然分かんないけど、今までの、全部夢…?』
マスター『いや、キミは確かに普通の手順じゃない方法でここへやってきている。夢じゃないよ』
兄(12歳)『あ、そう、ですか…』
ズバッっと言ったこの人!!真実だけども、12歳の男の子に容赦なく現実叩き付ける普通!?
映像のお兄ちゃんは俯いて動かなかった。どんな顔してるのか想像できてしまうのが辛い…。
マスター『それに君、ここに来るのに“体”を持ってきてないね。ここに来る直前、なにがあったんだい?』
兄(12歳)『“体”を…?……え、あ、そうだ…。精霊が途中で力尽きて、どっかに落ちて溺れて……え、もしかして俺死んだの!?ここあの世!?』
マスター『違うよ。まぁ“霊体”であるって言うことには変わりないけど』
“体”を持たずにどんぶらに来た?それって…
雫「霊体って…陽介さん、死んじゃってたってことですか!?」
兄「生きてますけど」
咲希「でも霊体って…」
兄「えっとだな…。……マスターの説明聞いた方が早いな」
あ、丸投げした。
マスター『ここに来る直前に溺れていたということは、その際に意識だけここに流れ着いたか…』
兄(12歳)『いやでも幽霊って言っても物にも触れるし、普通そういうのってすり抜けるんじゃ…』
お兄ちゃんがお座敷から立って近くにあったレジ――アンティークなタイプのレジで、お店の雰囲気にとても合っている――を触れると、すり抜けることなく触れることができていた。
お兄ちゃんの問いに、マスターさんはジッとお兄ちゃんのことを見つめて――、
マスター『そんなことより。キミがここに来た経緯、詳しく聴きたいんだけど』
志保(はぐらかした…)
愛莉(あからさまにはぐらかした…)
兄(12歳)『いやその前にさっきの話の続き聞かせてくれません?』
マスター『―――』
いやお兄ちゃん強いな。あからさまにはぐらかした相手に容赦なく追撃――話を戻すなんて。多分私だったらそのまま雰囲気に呑まれていたかも。
腕を組んだまま動かないマスターだったけど、ゆっくりとため息を吐くと…
マスター『……君は、なにに例えたら話が分かりやすい?』
兄(12歳)『カー○ィ』
マスター『……ちょっと待ってて』
相変わらずと言えばいいのか、マスターの質問にお兄ちゃんが即答すると、マスターは厨房の方へと消えていった。
兄「で、ここから一分くらい経って――」
お兄ちゃんが30秒飛ばしを二回すると、のれんの奥からマスターが戻って来た。
マスター『お待たせ。で、今の君の状態だけど――』
兄(12歳)『――――』
映像のマスターとお兄ちゃんの間に、重苦しい空気が漂っているのが分かる。お兄ちゃんはマスターの眼をジッと見て、答えを今か今かと待っていた。
そして、その答えは――、
マスター『つまり、今の君はゴーストカー○ィのような状態だ』
兄(12歳)『なるほど。それなら安心ですね』
―――?
今の説明じゃなにがどう安心なのか全然分からないんだけど。ほら見てよ皆の顔、全然話が理解できなくて困惑してるよ?カー○ィで例えられてもなにも分からないんだけど。
兄「こうしてマスターから安全だと聞かされた俺は自分の経緯をマスターに話始めることにしたんだ」
一歌「いやいやいやいや待ってお兄ちゃん。今の全然説明になってなかったんだけど!?」
兄「いや、例えがあるんだから十分説明になってるだろ」
一歌「それはゴーストカー○ィのことを知ってるお兄ちゃんにだけ言えることであって、何も知らない私たちは全然分からないんだけど!?」
兄「えっと、ゴーストカー○ィは敵に取り憑いたり、姿を消したり、物理攻撃ができるカー○ィのコピー能力の一つなんだが…“物理攻撃”の部分がポイントでな?ゴーストって実体がないのに“物理攻撃”ができるって矛盾してるだろ?つまり当時の俺の状態は霊体でありながら物体に干渉できる状態だということが分かる」
今の会話だけでそんなやり取りを…!?
咲希「今の一瞬でそんな高度な会話があったんですか…?」
兄「え、これくらいすぐ分かるだろ?」
一歌「それができるのはお兄ちゃんだけだよ…」
雫「マスターさんもカー○ィについてお詳しいのね。あんなに早く答えられるだなんて」
兄「そうなんですよ。マスターってすごいんです。どんな質問にも答えられて…。22歳って若いのに、すごいですよねー」
遥「22歳!?そんなに若い年で喫茶店を経営し始めてたんですね…」
マスターさん、かなり若いなって思ってたけど4年前の時点で22歳だったんだ…。そんなに早い段階で経営をしてるなんて、苦労してるんだな…。
兄「で、俺はマスターに自分の身に起きたことを説明してだな…」
スクロールバーを動かして、説明の部分をスキップしてもらった。
マスター『なるほど…。それで君、結構ボロボロなのか…』
兄(12歳)『そうなんですよ。ホント酷い目にあった…。俺ってオークに見えます?』
マスター『いや、普通の人間に見えるけど』
兄(12歳)『ですよねー…』
咲希(当時のお兄さんはあの出来事“酷い”ってちゃんと認識できてたんだ…)
愛莉(やっぱりあの先ろくでもない目に合い過ぎてアレが“いい部類”になったちゃったのね…)
マスター『とりあえず座って。水くらいなら出せるから』
兄(12歳)『ありがとうございまーす』
マスター『はい、これ』
兄(12歳)『ふ~……染みわたる~…』
カウンター席に座ったお兄ちゃんが、マスターから渡されたグラスで水を飲んでいた。
普通に飲食できてるけど、本当に霊体なのか疑わしくなるな、この光景。
マスター『それと、一つ気になったんだけど。君に話に出てきた精霊…だっけ?今も声は聞こえるの?』
兄(12歳)『はい。聞こえますけど…』
マスター『精霊が力を貸してくれることで魔法を使う…なるほどね』
みのり「あの!」
兄「ん、なに?」
みのり「精霊って、どんな見た目してるんですか!?やっぱり、手乗りサイズの女の子ですか!?」
突然、みのりが手を上げてそんな質問をしてきた。お兄ちゃんは記憶映像を止めてみのりの方を向いた。
そういえば…私も精霊については全然詳しくない。お兄ちゃんに力を貸してくれる存在だって言うのと、精霊同士で経由できるネットワークが形成されてるってことくらいしか知らないな。
咲希「あ、私も気になってた!やっぱり精霊さんって言ったら、綺麗な女の人の姿だったりするのかな?」
雫「手乗りサイズの女の子……見て見たいわ~」
兄「いや、姿とかはないですね」
それは、精霊の姿を妄想して思いに浸っている皆を現実に戻すには十分な一言だった。
穂波「え、ないんですか…?」
兄「ざっくり精霊と呼んでいるけど、“事象”や“概念”そのものの集合意思…とでもいうのか…。そういったものの声がそこかしこから聞こえるだけだよ」
レオニ&モモジャン「「「「「「「「――――」」」」」」」」
え、それって…
遥「そこかしこから…?」
志保「話は…できるんですよね?」
兄「あぁ。できてるような雰囲気はあるな。こうぼやーっと頭の中に意思が伝わってくるというか…今もほら!!」
お兄ちゃんの急な大声で、私たちの肩がビクッと上がった。お兄ちゃんが耳に触れると、重くなった雰囲気の中、その声が良く響いた。
兄「聞こえるぞ…フフフ…いろんなものの声が聞こえるぞー…!」
レオニ&モモジャン「「「「「「「「――――」」」」」」」」
愛莉「………そんなものと会話して、陽介さん大丈夫なんですか…?」
兄「ん、なにが?」
一歌「いや、ほら…精神とか…」
兄「ああ…ふふ…そりゃあ……見ての通りさ…!」
その狂気に塗れた笑みを見て、私たちはなにも言うことができなかった。
魔法がなんでもありすぎて羨ましいなーとは思っていたけど……デメリットが大きすぎる…!!
兄「じゃあ続き再生するよー」
みのり「はい…」
精霊に夢を馳せていたであろうみのりが、力なく弱弱しい声で返事をしていた。
マスター『魔法か…。見せてもらうことってできる?」
兄(12歳)『あ、はい。火炎在現』
お兄ちゃんが手のひらを上に向けると、そこから炎が燃え上がった。
マスター『なるほど…。……………………」
マスターさんがお兄ちゃんの手から燃え盛る炎をじっと見て、なにかを熟考しているようだった。
そして、マスターさんの視線がお兄ちゃんに向くと――、
マスター『これ、見てみて』
兄(12歳)『―――?』
マスターが突如そんなことを言ったあと、目を閉じて瞑想のようなものをし始めた。
すると――、
マスター『……よし』
兄(12歳)『え、なにこれ!?穴!?』
そのとき、マスターの体に穴が空いた。あの穴って――!
一歌「あれって、収納魔法…だよね!?」
咲希「なんでマスターさんが…!?」
兄「マスターも魔法が使えたんだ」
遥「え、なんでですか!?なんでマスターさんも魔法を…?と言うか、精霊と話せたんですか!?」
お兄ちゃんが魔法を使えるのは神様からもらった『翻訳』の力によるものだけれど、マスターはただ瞑想しただけで魔法を使った。本当に意味が分からない。
マスター『これは“間隙の収納魔法”。異空間に物を仕舞っておくことができるんだ』
兄(12歳)『え、これ魔法!?介人さんも魔法使えるんですか!?』
マスター『同じ魔法を見たことがあってね。これだけしか使えないけど、物を仕舞っておくのに便利だから』
兄(12歳)『マスターって一体何者なんですか…?』
マスター『…そんなことより』
あ、またはぐらかした。
マスター『早いとこ戻った方がいい。キミの体は今も水の中のはずだ。ていうか君の体心肺停止になってる』
兄(12歳)『そうだった!!やべぇどうしよう!?え、俺どうなっちゃうの!?』
一歌「心肺停止って…!?お兄ちゃん死んじゃったの!?」
兄「あ、うん。エクスバハマルでの俺の肉体はこの時現在進行形で死にかけてた」
穂波「死にかけてるんですよね!?なんでそんな冷静なんですか!?」
遥「今ここにいるってことは、なんとか這い上がれたみたいですけど…」
あのあとどうやって助かったんだろう。湖に落ちたお兄ちゃんを誰かが助けてくれたとか?それは絶対にありえない。助けてくれるとしたらエルミリアさんだけど、この時はまあエルミリアさんと出会ってないし、あの異世界人たちがお兄ちゃんを助けてくれるとは到底思えない。
兄「あぁ、それはだな―――」
マスター『ただそのまま帰っても意味がない。ここから出てもキミは死ぬ…。だから、選別だ』
すると、マスターさんは収納魔法を開けるとそこからとても見慣れたものを取り出してきた。
みのり「あれって…!」
マスターが収納魔法から取り出したものは――呪符だった。それも、札束並みに大量の。
兄(12歳)『これは…?』
マスター『“呪符”と呼ばれるものだ。様々な魔法が込められている。俺もとある場所から仕入れていてね。在庫はあるから、それぞれ2枚ずつ、君に上げるよ。初回特別サービスさ』
兄(12歳)『あ、ありがとうございます…』
マスター『落とさないように、縛り付けておくよ』
束状になっている呪符を紐でお兄ちゃんの腕に巻き付けると、マスターさんはその束の中から二枚の呪符を取り出してお兄ちゃんに手渡した。
マスター『これは、“風の呪符”と“回復の呪符”。他にも呪符の種類はあるが、それらは精霊が教えてくれるはずだ。時間は刻一刻と迫っている。それと…』
そこから“回復の呪符”を指さした。
マスター『その“回復の呪符”は特別製だ』
兄(12歳)『はぁ…』
マスター『それじゃあ、また会おう』
兄(12歳)『えっ―――』
マスターがフィンガースナップをすると同時に、映像が暗転した。
少しすると画面に光が戻って、お兄ちゃんが落ちた湖が映像に映った。
――すると、
兄(12歳)『エッッッホッッ!!』
猛烈な上昇気流とともに、湖からお兄ちゃんが打ち出された。
そのまま湖から抜け出して地面に派手に転がった。
兄(12歳)『エホッ!エホッ!!ゴホッ!!ハァ…ハァ…ハァ………』
必死に息を吸って吐いてを繰り返しているお兄ちゃんに、私たちは息を飲む。
兄(12歳)『夢…?………ち、違う…』
映像のお兄ちゃんが腕を見るとそこには、マスターに括り付けられた呪符の束があった。
兄(12歳)『夢じゃない…』
兄「こうして…俺はマスターのおかげで窮地を脱することができたんだ」
一歌「うん…。それは分かったけど…」
兄「これ以降、俺は意識を失っている間だけ、任意で“喫茶どんぶら”に行くことができるようになったんだ」
今までどんぶら自体がかなり不思議な場所だったのに、その経営者であるマスターの謎がさらに深まった。収納魔法使えたり、呪符を持ってたり、わけわかんないって…。
それと意識を失っている間ってことは、寝てる間もだよね…?異世界で朝まで起きないまま狩られまくった理由の一つって、それなんじゃ…。
一歌「ていうか、マスターさんに貰った“呪符”…どうやって異世界に持って行けたの?」
兄「いや、そこはほら。マスターだからさ」
一歌「答えになってないよ?」
兄「まぁ、そこら辺はあんま考えないことにしてるんだ。なにせ、過酷な異世界で唯一の心のオアシスがここだったからな。ここの客は俺のことオーク扱いしないし、見た瞬間に殺しにきたりもしない。そんなとても優しい人たちに、俺の心は救われた」
「それ当たり前のことなんだけど」と言いかけたけど、お兄ちゃんは五年間もそれが当たり前の異世界にいたから感覚がバグってる。だからなにも言えなかった。“優しい”の基準が低すぎるよそれ。
ていうかお客さんって、一体どんな――、
兄「ちなみに“水の電気分解”について教えてくれたのもマスターなんだ」
それって“水の湧き出るつぼ”のことだよね?まさかマスターさんも自分の教えた知識が原因で吊るされかけるとは思わなかっただろうなぁ…。
志保「それより、マスターさんいなかったらお兄さん詰んでましたよね…」
兄「うん。“風の呪符”で湖から出れたし、“回復の呪符”で前日までの傷も綺麗に消えたから、本当に感謝してるよ。それになによりすごいのがさ、あのあと水の精霊から聞いた話なんだけど俺が湖に沈んでから5分以上経ってたらしいんだよね」
穂波「五分!?」
遥「5分以上って…それもう死んでてもおかしくないですよ!?」
いつかの授業で聞いたことがある。脳に酸素の供給がストップされると脳細胞が死んでいって脳に支障をきたすって。
それを知っているから、皆が驚くことは無理もなかった。
兄「マスターに渡された特別製の“回復の呪符”には回復系の最高位魔法である“人体蘇生”が込められていたんだ」
咲希「人体蘇生…?名前だけでも凄そう…」
兄「本当にすごいぞ?消し炭になった肉体をも再構築する神の業だからな。普通はそんなもん“呪符”に収めることなんてできない」
みのり「そんなの持ってるマスターさんって一体…?」
マスターさんの謎がさらに深まった。本当に何者なんだろう…。
すると……、
穂波「わっ!」
志保「よ、ようやく戻った…」
魔法の効果時間が切れたのか、私たちの服装が元に戻った。
志保が特に安堵の表情をしていて、雫先輩がそんな志保を名残惜しそうに見ていた。
雫「これで終わっちゃったの…?しぃちゃんの可愛い姿、もっと見ていたかったのに…」
兄「あ、それなら形貌変器の呪符が余ってますよ。よかったらあげます?」
雫「まぁ!いいんですか?ありがとうございま――」
志保「お姉ちゃん!それやったら怒るよ!」
一歌「お兄ちゃんも易々と呪符渡さないで!」
雫「ご、ごめんなさい、しぃちゃん…」
兄「ご、ごめん…」
私たちに怒られてしょぼんとする雫先輩とお兄ちゃん。
お兄ちゃん、“政府のなんか”エンドを恐れてる割に呪符を渡す判断が緩すぎるでしょ。異世界で何度も狩られかけたって言うのに、こういう学習しないところが原因の一端なんじゃ…。
ムラサメ「あの、すみません」
兄「ムラサメさん。どうかしました?」
ムラサメ「そろそろお時間になりましたので、ご報告を」
兄「あ、もうそんな時間?以外と早かったな…」
そんなとき、ムラサメさんがこちらに話しかけてきた。どうやらそろそろ貸し切りの時間が終わるらしい。本当に内容が壮絶すぎて時間が経つの一瞬だったな…。
みのり「あ~もうお腹いっぱいだよ~!」
兄「え、花里さんって意外と小食なんですね。ちゃんと食べないと、体力持ちませんよ?」
みのり「―――。もちろん!ちゃんと食べてますよ!」
愛莉(お腹いっぱいってそういう意味じゃないんですけど…)
穂波(やっぱりお兄さん感覚狂ってるよね…)
みのりの「お腹いっぱい」発言を誤認したお兄ちゃんに、苦笑いを向けざる負えない。
そういう意味じゃないんだけど…。
とにかく、今日はこの場で解散になった。時刻は午後3時ぐらい。お会計を終えてみのりたちと別れた私たちは、そのまま帰路へとつくことになった。
とりあえず今日分かったことは、お兄ちゃんの異世界生活は基本地獄であったこと、異世界にはマトモな神や仏もいなかったけど、エルミリアさんはいた。
話は変わるけど―――、
一歌「お兄ちゃん」
兄「どうした?」
一歌「結局のところマスターって何者なの?“人体蘇生”の呪符なんてすごいもの持ってるし、収納魔法だって使えるし…」
兄「俺もマスターについて全て知っているわけではないが…。“人為蘇生”の力については知ってるぞ」
一歌「え、そうなの!?」
兄「マスターの知り合いに創世神がいるんだが…」
一歌「へぇ創世神……創世神!?」
兄「あの呪符作成にその神の力を借りたらしい」
一歌「創世神が知り合いってマスターって本当に何者なの…。……その創世神って、どんな神様なの?」
兄「この世界とは違うが、その名の通り世界を創った神様でな。周りからは“邪神”って呼ばれてるんだ」
一歌「……邪神」
兄「うん。なにやったのかは知らないけど、今は自分の空間で“同人誌”ってものを描いてるんだって」
一歌「――――」
兄「なんでも“カップリング”ものらしい。それと、その創世神は6体の分身を生み出したらしいんだけど、そのうちの3体はそれぞれ時間停止、遠隔なんとか、触手うんぬん?ていうジャンルのものを描いてるんだって」
一歌「――――」
兄「なんなのかマスターに聞いてみたら、少し無言になってたけど、「バトルものだよ」って教えてくれた」
一歌「……お兄ちゃん、今聞いたことに関する記憶、消してもらっていい?」
兄「え、なんで?」
一歌「ほら、神様のプライベートを知るのって恐れ多いし…」
兄「そっちから聞いてきたのに?まぁいいや、じゃあいくぞ?記憶の精霊よ。忘却の彼方へ――」
私はお兄ちゃんが詠唱を終わらせる短い間に、思った。
神様ってろくでもないのしかいないのかな…
喫茶どんぶら(オリジナル設定マシマシ)
五色田界人が経営する喫茶店。ありとあらゆる世界と繋がっており、様々な世界から客が来る。だが大抵客として来るのはなにも知らない一般人。時折非一般人と■■ロア商会の戦闘員メンバーが来店する。
無数の世界から喫茶どんぶらに行くことはできるが、客が喫茶どんぶらから別の世界に行くことはできない。
○ 世界A→喫茶どんぶら
× 世界A→喫茶どんぶら→世界B
これはAの世界の人間がBの世界で迷子になると言った混乱を避けるためのシステム。
なお、最近マスターである界人は店を開けることが多い。ずっといないというわけではないが、経営をセッちゃんやムラサメ、ルパンレンジャーなどに任せていることが多くなっている。
本人曰く“用事”があるらしいが…。
Q なんでマスターは“間隙の収納魔法”が使えるの?
A かつて同じものを見たことがあるから。それ以降感覚的に使えるようになった。
Q マスターは精霊と対話ができるの?
A 間隙の精霊とのみ対話可能。他の精霊とどうなのかは知らない。
Q どうして精霊と対話が可能なの?
A 「喫茶どんぶらにないものはない*1。つまり、俺にできないこともない*2」
PROJECT NIYARI産の創世神+三龍
どこでどう狂ったのか知らないが同人誌の執筆に熱がこもったポケットな世界の神々。もちろんその同人誌は大人指定のものである。
創世神は“カップリングもの”などの幅広いジャンルを、時間の神は“時間停止”、空間の神は“遠隔○”反物質の神は“触手○”のものを執筆している。ネタ作りのために他者を巻き込みかねないことをしでかすがその度に■■ロア商会のメンバーと戦争になる。特にニヤリはNTR絶対赦さないマンかつ極度のハピエン厨なため全力で阻止しにかかっている。
なお、今回“人体蘇生の呪符”の作成に手を貸した創世神であるが、その対価としてネタの提供と今度のコミケの手伝いを要請された。
ちなみにその出来事は5年以上前のことであるため、現代にてマスターの不在が多いことには何の関係もない。
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