??「そろそろだよな…」
とある土曜日のお昼ごろ。スマホをちらちらと確認しながら目的地へ移動する一人の男性。オレンジ色の髪に黄色のメッシュが入ったその男性は、地図を頼りに喫茶店へと向かっていた。
その男性―――【東雲彰人】は不意に昨日の出来事を思い出す。
彰人「――――」
??『おーい!!彰人ー!!』
彰人『げっ…。なんすか、司センパイ…?』
??→司『うむ!!実はだな、ついさっきゴンから連絡があってだな!!』
彰人『あの人から…!?』
彰人は思い出した。あの恐怖の権化とも言える天を貫く髪の持ち主である少年……少年?を。体長は2メートルを超え、どう見ても成人男性にしか見えないのだがアレでも13歳らしい。
正直に言って彰人はあの人が苦手であった。ただでさえそこにいるだけで威圧感がハンパではないというのに、それに加えて公衆の面前で女性に対しての殴る蹴るの暴力三昧。顔面を殴った衝撃でソニックウェーブが起き、蹴っただけで天高く舞う。そしてよく分からんオーラで神高の校門は犠牲になった。終いにはその女性は極太レーザーで焼き尽くされた。あれでも生きていると言われたのだから驚きだった。
この世界が自分が認識していないだけでバトル漫画の世界なのではないかと本気で疑ったほどだ。
それに姉をナンパしていた男は蹴られた後は行方不明。生きているし死なせないと言われたのが普通に恐怖だった。絶対あれ、ヤのつく自営業の人だろ。
ていうかそもそもあの男は蹴られた瞬間に雲を突っ切って空中に消えたのだ。あの時点で生きているのかどうかすら怪しい。
あんな人物の隣にいたら命がいくつあっても足りない。さらには目の前の人物はそんな危険人物のことを呼び捨てにする数少ない猛者である。あの危険人物は貫禄と言うか威圧感が凄すぎて年上だろうが同年代だろうがほとんどの人間が“さん”付けで呼んでいる。かく言う彰人もあの人のことを呼ぶときは“さん”付けだ。こっちの方が年上だがそんなこと関係ない。あんなの呼び捨てにできない。
ちなみにあの人と一緒に居た二人の男女の内女性の方――確か■■ロアと名乗っていた少女によると、他にあの人を呼び捨てにできるのは彼の家族と彼の所属している組織の従業員の一部だけらしい。
改めてとんでもない職場すぎる。最早魔境と言っても差し支えない。
司『その内容なのだが、彰人にケーキを買う際に世話になったとのことでだな、そのお礼をしたいとのことだ!』
彰人『お礼?あれからもう二か月っすよ…。それにあれくらい別に…』
と言う彰人だったが、実際の理由はただこれ以上あの男に関わるのを避けたいだけである。
司『それについてなのだが、なんだか“時間軸”?の影響だと言っていたが…。おそらくは“時間差”の間違いだろう』
彰人『二か月の時間差ってなんですか。それ普通につい最近まで忘れてたってことじゃねぇすか?』
司『ゴンはそのような恩知らずではないぞ!!きっと止む負えぬ事情があったのだろう!!』
彰人『はぁ…。それで、お礼って一体?』
司『それについてだったんだが、元々彰人の家にお礼の品を送ろうとしていたらしいが…ゴンは彰人の家を知らないからな』
彰人『当たり前ですよ。むしろ知ってたら怖――』
と、ここで彰人は言葉を一旦止める。確か姉である絵名はあのあと■■ロア元々乗って来たキャンピングカーに乗せられて帰宅したはず。つまりあのキャンピングカーの行動履歴を辿れば自分の家が彼らに知られてしまう、というか既に知られているわけで…
彰人『……あ~…』
司『ん?どうした彰人?』
彰人『いや、なんでも…』
司『そうか。それでだな、最終的に【喫茶どんぶら】での初回飲食無料という形で落ち着いた』
彰人『【喫茶どんぶら】…?』
聞いたことのない店名だ。シブヤ全ての店を把握しているわけではないが、喫茶店やスイーツ店ならよく行くためそういう系統になら自信があるのだが、その店の名前は頭の片隅にも引っ掛からなかった。
司『その店での初回の料金を、全てゴンが負担してくれるとのことらしい。なんでもその店の店主もゴンが働いている場所と連携しているらしくてな。話は通してあるみたいだぞ!』
彰人『連携…嫌な予感しかしないんスけど』
ただでさえヤの付く自営業の疑惑があるのに、その場所と連携している喫茶店なんて嫌な予感しかしない。
司『問題ない!我が妹、咲希も行ったことがあるんだ!どの料理も美味しかったと好評だったんだぞ!まぁなぜか感想を聞いた際どこか歯切れが悪かったが…』
彰人『その最後の言葉いらねぇんスよ』
司『とにかく大丈夫だ!そこの裏メニューの【カラフルサンデー】が美味しいらしいぞ!常連限定商品らしいのだが、特別に出してもらえるそうだ!では、さらば!!』
彰人「――――」
と、言う経緯で今彰人は【喫茶どんぶら】へ向かっている。目的地の場所は宮女から徒歩数分と以外と近いところにあり、宮女の生徒からすれば帰りに行きやすい場所であろう。路地の先にあることを除けば…。
そろそろ目的地へ着こうとしていた時、彰人は偶然、とある人物と会った。
彰人「げ…」
??「彰人…!?なんであんたこんなところにいるのよ!?」
彰人「それはコッチの台詞だ…。なんでおめぇがここにいんだよ!?」
??「はぁ?私がここに居ちゃ悪いってわけ!?」
そこにいたのは、彰人の実姉【東雲絵名】であった。
彰人「あーくそっ。わりーけど今お前と話してる暇ねーんだわ。これから飯食いに行くからよ」
絵名「私もなんだけど。さっさと退けてくんない?」
彰人「俺の目的地がこの先なんだよ。お前が退け」
絵名「私の目的地もこの先なんだけど」
彰人・絵名「「――――」」
沈黙が二人の間で流れる。
お互い、嫌な予感が過った。
彰人「おい、お前がこれから行く店の名前、なんだ?」
絵名「あんたが先に答えなさいよ」
彰人「……はぁ。もうめんどくせぇから同時にいくぞ」
絵名「……そうね。もういっきに行きましょう」
彰人・絵名「「……【喫茶どんぶら】…」」
東雲姉弟の行き先、見事に被る。
絵名「嘘でしょ、アンタも…!?」
彰人「なんで被るんだよおかしいだろ…!?……いや、待て。おい、まさかお前…初回無料って言われて来た口じゃねぇだろうな」
絵名「はぁ?なんで分かって……って、もしかしてあんたも…?」
彰人「……俺はゴンさんにこの前のお礼でここの初回料金を払ってもらうって話なんだが…お前は?」
絵名「私はロアさんから同じようなことを…。ていうか、本当は怖くて行きにくかったんだけど今回の料金、ゴンさんの給料から出るらしいから「行かなきゃ「もう、おやすみ…」されるヨ」って…」
彰人「これお礼なんだよな…?脅迫じゃねぇよな…?」
つまり行かなければ「おやすみ(永遠に)」されるということか。なんだこのお礼OR死の最悪すぎる二択は。本当にお礼する気があるのだろうか。
彰人「つまり行くしかねぇってことか…」
絵名「ほんと最悪…なんでタイミング被るのよ…」
彰人「知るかよ…。言っとくが、タイミングずらすつもりはねぇからな…」
絵名「私もよ。常連限定裏メニュー【カラフルサンデー】…。経緯はアレだけど普通じゃ食べられないスイーツを食べる機会、逃すわけにはいかないでしょ」
そうして二人は言い合いながらも路地に足を進めて【喫茶どんぶら】と書かれた暖簾の前に立った。
彰人「んじゃ、開けるぞ…」
絵名「早くしなさいよ」
彰人「うっせ…」
彰人は渋々と扉をスライドして開ける。
そこには――、
猫?「―――」
??「―――」(瀕死)
彰人・絵名「「―――」」
二人は目の前の非現実的な光景に硬直する。
扉を開けた瞬間目に入ったのは白い猫のような謎の生物の耳から生えた拳が人一人を床に叩き付けている光景だった。床のヒビとクレーターがその拳の威力を物語っており、潰されている人の生存すら怪しく見えた。
やがて猫の耳拳?が床から離れると拳は萎んでいって最終的にただの耳に戻った。猫は、彰人と絵名の存在に気付いたのか二人を一瞥する。猫の糸目が二人を見つめ、嫌な冷や汗が湧き出た。そのまま二人から視線を外すと、再び自身が押しつぶした人間をその糸目で睨むと――、
猫?「クソが」
彰人・絵名((喋った!?))
猫?「おい店主。先帰らせてもらうぜ。この後じーさんとマ○オカートやる予定なんでな。って、聞こえやしねーか」
そのまま猫?が二本足で立つと、お座敷にジャンプで着地すると再び片耳が肥大化して腕と化す。ふすまを開けると中へ入り、ふすまが閉まった。
彰人「――――」
絵名「――――」
二人は入口の前から動かない。非現実的な光景のオンパレードに脳みそが停止せざる負えなかったからだ。前回のゴンさんの件である程度慣れているとはいえ、特別な力があるわけでもないただの一般人。すぐに慣れるわけもなかった。
??「う…」
絵名(え、動いた!?)
彰人(生きてんのかアレで!?)
すると、死んだかと思っていた人間――男性がヨロヨロと起き上がった。そのまま男性は上半身だけを起き上がらせると、自身の体に手を当てた。するとそこから緑色の光が溢れ、男性の傷を徐々に修復していった。
絵名(え、なにあれ!?魔法!?回復魔法的な!?)
彰人(おいおい…謎生物の次は魔法かよ!?本当にどうなってんだ俺らの世界!?)
目の前の光景に驚きながら見続けていると―――男性と目が合った。その間1秒にも満たず。そこからの男性の行動はあまりにも早かった。
??『機動纏身!!』
彰人・絵名「「―――ッ!?」」
男性は二人が知覚できないほどのあり得ないスピードで二人に急接近し、二人は頭を鷲掴みにされた。突然の状況に動くことができずまたもや硬直する。
??『記憶の精霊よ。忘却の彼方へ消え去――ガッ!?』
男性が詠唱を終えようとした瞬間、突如として男性の体が硬直する。まるで金縛りにあったかのような突然の停止に二人は困惑が止まらない。
すると、今度は――、
??「陽介。お客さんの記憶を消すのはやめてもらおうか」
鷲掴みにされ遮られた視界の中で見えたのは、一人の違う男性だった。
黒色の装いに白い腰かけエプロン。それだけでもこの店の人間だということが分かる。その男性の右手には携帯と筆が合体した何かが握られていた。
??「チューン!」
彰人「な、なんだ!?」
絵名「機械の、鳥…?」
愉快な鳴き声が聞こえた。店の奥からなにかが飛び出し鳴いたのだ。なぜか動かなくなった男性の手から無理やり脱出した二人が見たのは、紅白の機械の鳥。その鳥は店の男性の肩に止まった。
??「オイラは【セッちゃん】!そしてこの店のマスターの介人だチュン!よろしくっチュン!」
彰人「お、おぉ…」
セッちゃん「そして今のは【侍戦隊シンケンジャー】の【モヂカラ】、対象を金縛りにする“縛”のモヂカラっチュン!」
絵名「さ、侍…?」
聞いたことのない言葉のオンパレードに困惑する絵名。唯一分かるのは不思議な力で自分の頭を鷲掴みにした男性のことを止めたということだけだ。
困惑している二人を余所に【喫茶どんぶら】のマスター【五色田介人】は右手の【ショドウフォン】を巧みに操り、空中に“元”の文字を描きそれをクレーターへ繰り出すと、文字が床に溶け見る見るうちに床が元通りになっていった。
絵名「嘘でしょ…」
彰人「マジで魔法かよコレ…?」
介人「魔法使いの本職は陽介の方なんだけどね。……ところで君たちの容姿から察するに、■■ロアとゴンさんの言ってた東雲姉弟かな?」
彰人「え、あ、はい…」
介人「セッちゃん、接客お願い」
セッちゃん「任せるっチュン!好きな席に座るっチュン!」
絵名「え、いや、あの…この人は…?」
さっきまでのことがなかったかのように機械の鳥、セッちゃんに席に案内される二人。だが二人の心情はそれどころではない。さっきから動けずにいる自分たちの頭を鷲掴みにした男性についても色々聞きたいし、目の前で起きた光景の説明もしてもらいたい。
すると、ちょうどよくタイミングを狙ったのか男性――陽介が前のめりに倒れかけ、バランスを取った。
陽介「わっと――!!ちょ、マスター!なにするんですか!?」
介人「なにするはコッチの台詞だよ。なにお客さんの記憶消そうとしてるの」
陽介「いや見られたからには早い段階で消さないと駄目じゃないですか!」
介人「それでこの前注意されたの忘れた?」
陽介「これは必要事項ですよ!早いうちに記憶を消さないと人格に影響が――」
目の前で繰り広げられる物騒な会話に二人は顔を青くする。つまりアレだ、自分たちはもう少しで記憶を消されるところだったというわけだ。しかも人格に影響ってヤバすぎることをされる寸前だったのかよと身震いが止まらない。
介人「そこはエクスバハマルの時となんら変わらないか。それでもその二人の記憶を消すのはやめてもらおうか。そこの二人はゴンさんとそれなりに仲がいいからね。もし手を出したなんて知ったら蹴られるよ」
陽介「う…蹴られるのは嫌だな…。ていうか、ゴンさんが二か月前にこっちに来てたことは知ってるけど、でもそれって司くんに会いに行ってたんじゃ…」
介人「ちょっと色々あってね。彼らも一時の間彼らとともに行動してたんだ。そして仲良くなったらしい」
彰人(なってねぇよ!!)
絵名(むしろこっちは命の危機しか感じなかったわよ!!)
二人は介人の言葉に心の中で突っ込んだ。あんな殺意でも敵意でもない害悪オーラ振り回してる筋骨隆々の13歳と一緒にいたらストレスで頭真っ白になる自身がある。
介人「それに、二人は人の秘密を勝手に漏らすような人じゃないってことは■■ロアとゴンさんからお墨付き貰ってるから、心配はしなくていいよ」
陽介「はぁ…マスターがそう言うなら…」
陽介は介人の言葉でようやく引き下がったようだ。命の危機と恐怖しか与えられなかった相手に信頼されていたおかげで助かったという非常に複雑な心境を抱えながら二人は陽介をジト目で見た。
マスターがバックヤードの方へと姿を消し、セッちゃんがカウンター越しのテーブルに着地すると、陽介が二人の方を申し訳なさそうに見る。
陽介「それじゃあ改めまして…【星乃陽介】って言います。この度は記憶消去しようとしてすみません…」
彰人「お、おお…(記憶消去…マジでそんなこと俺らにしようとしてたのかよ…)」
絵名「いや、そもそもアンタなんなの!?魔法っぽいの使ってたし、記憶消去って…!絶対普通じゃないでしょ!?」
陽介「魔法っぽいじゃなくて魔法ですよ。とりあえず座りません?」
と、いつの間にかテーブル席に着席していた陽介。コイツ本当に反省しているのかと疑いながらも、流石にずっと立ちっぱなしはお店に迷惑なので彰人は陽介の隣に絵名は向かい側に座った。
彰人「にしても魔法か…。……なんだろうな。本来ならこういうの見て驚くべきなんだろうが、非常識なもんを短期間で見過ぎちまって慣れちまってる自分がいる…。嫌すぎるなコレ…」
絵名「ていうかそもそも、なんで魔法なんてものが使えるのよ」
陽介「えっと、4年前に交通事故に遇いまして。その際に意識だけが異世界転移しまして」
彰人・絵名「「異世界転移」」
陽介「そこで神の野郎からもらった『翻訳能力』で精霊と対話できるようになって、精霊から力を借りて魔法を発動できるようになったんですよね」
絵名「神…本当にいるの…?」
彰人「ていうかなんで神への当たりそんなに強ぇんだよ…?」
誰だって中国語の録音で対応されたら普通にキレるだろうが、それを知らない二人は何故そこまで神に恨みを抱いているのか疑問でしかなかった。
彰人「そういや、なんかアンタの身の上の話、どっかで聞いたことあるような気が…。あ」
そこで彰人は思い出した。時期は約一月前。相棒である【青柳冬弥】が先輩である【天馬司】から聞いたという話を。
確か内容は司の妹の幼馴染の兄が4年前に交通事故にあって意識不明の重体で先月までずっと昏睡状態だったがついに目覚めたという内容だった。時期も状況も一致しており、別人とは思えなかった。それにさっき介人との会話で司の名前が出ていたことから、彰人はその妹の幼馴染の兄と目の前の人物が同一人物であると見切りをつけた。
彰人「どっかで聞いたことがあると思ったら、司センパイの話に出てた…」
陽介「え、司さんの知り合いなの?」
彰人「あぁ、まぁ…。又聞きで聞いただけだが、今聞いた状況と全く同じの妹の幼馴染の兄がいるって聞いたが…」
陽介「うん、俺のことだね」
彰人「やっぱりかよ…」
まさか件の人物とこんなところで合うことになるとは思いもしなかった。
彰人「司センパイ、あの人といいコイツといい色々とやべぇヤツ知り合いにいすぎだろ…」
陽介「え、なんか言った?」
彰人「いや、なにも…」
セッちゃん「みんなー!メニュー持ってきたっチュン!裏メニューもあるからお腹に入る限りなんでも頼むっチュン!」
と、ここで嘴でメニュー表と裏メニュー表を持って来たセッちゃんが三人の前にメニュー表を広げる。
陽介「おお、ありがとうセッちゃん」
セッちゃん「どういたしましてっチュン!」
彰人「……さっきのインパクトが強すぎてスルーしてたが、機械の鳥が空飛ぶって…えっと、セッちゃんだったか?アンタ神代センパイの作品だったりするのか?」
セッちゃん「神代センパイ?悪いけど知らないっチュン。オイラは介人の両親に作られたっチュン」
彰人「マスターの両親もすげぇな…。一応忠告しとくが、神代センパイに会ったら逃げた方がいいぞ。最悪解体される」
セッちゃん「チュン!?それは嫌チュン!解体なんてされたくないチュン!!」
解体されるという言葉を聞いて飛んで回転しながら暴れまわるセッちゃん。どうやら相当心に来たようだ。いや、機械に心があるかと言われたら疑問になるが…様子を見る限り確実にAIなどが搭載されているはずだ。しかもすごい高性能の。
絵名「ちょっと彰人。怖がらせるようなこと言っちゃ駄目でしょ。アンタってホントデリカシーないわよね」
彰人「はぁ?ただの忠告だってぇの。あの人、気に成ったらとことん追求するタイプだからな…」
絵名「……神代ってヤツ、そんなにヤバイの?」
彰人「ヤバイのなんのって、お前だって知ってるはずだろ。神高の“変人ワンツーフィニッシュ”のこと。あの人がお前から聞いたって言ってたぞ」
絵名「は?なにそのダッサい名前。私そんなの知らないんだけど」
彰人「―――は?」
絵名「―――は?」
二人の噛み合わない会話に、沈黙が辺りを支配する。状況が読み込めない陽介は二人の顔を行ったり来たりして全く役に立たない。
そして、そんな空気をぶち壊したのは――、
介人「皆、注文は決まったかい?」
陽介「あ、マスター。俺はカラフルサンデーで」
介人「わかった。それで、お二人は決まったかい?」
彰人「あ、すみません、まだです…」
介人「そっか。慌てなくていいから。ゆっくり考えて頼みな。どうせ自分の財布から出るワケじゃないんだからさ」
絵名「中々言うわねこの人…」
とりあえずで聞き終わった介人は、そのまま厨房の方へと歩いて姿を消していった。
介人「これも“歪み”の影響か…。あとで“修正”しておかないとね」
それから、少し時間がかかったものの二人も注文を決めてあとは料理が来るのを待つだけになった。
だが、目の前に最高の話題がいるためただ黙って待つという選択肢はなかった。
絵名「それで、魔法ってなにが使えるの?メジャーなところで行ったら火とか水とかだけど…変わり種とかある?」
陽介「変わり種…?」
絵名「ほら、特別な魔法とか」
陽介「あぁ。それなら“記憶”だったり“形貌”や“音”の魔法とかですかね?」
彰人「“記憶”の魔法…さっき俺らの記憶消そうとしたアレか」
彰人は先ほどの頭鷲掴みからの記憶消去寸前の光景を思い出して顔を歪める。アレは何度考えても本当危なかった。話を聞いてたらあの魔法、人格に影響があるみたいだしなんて言う魔法を使おうとしてたんだと何度も考えてしまう。
彰人「それで、“形貌”ってなんだよ?」
陽介「用は変身魔法ですね。応用ですけど服とか着替えられたり、知っている生物にならなんだって変身できる魔法ですね」
絵名「へぇ~変身はともかく、要するに早着替えの魔法ってことでしょ?瑞希が聞いたら羨ましがるだろうなぁ」
彰人「暁山が?まぁ確かにそうだろうな…」
セッちゃん「でも使い過ぎは厳禁っチュン!貌の精霊を怒らせると大変なことになるっチュン!」
と、ここで上空を飛び周っていたセッちゃんがようやく降りてきた。陽介の肩の上に乗っかると、重圧感のある声で警告してきた。
彰人「貌の精霊?あぁ、そういえば最初の時【翻訳能力】で精霊と対話して魔法を使うって言ってたな。精霊を怒らせると、どうなるんだ?」
陽介「えっと、風の精霊は吹き抜け、光の精霊はまぶしく……貌の精霊は人体を亜竜人間に変えますね」
絵名「貌の精霊だけ厳しすぎるでしょ!?」
セッちゃん「もうヴェロキラプトルに強制変身して暴れないでほしいっチュン」
陽介「いや~あれは本当に面目ない…」
彰人「しかも経験済みかよ!つーかなんだよヴェロキラプトルって!?」
精霊の厳しさに度肝を抜かす二人。しかも既に経験済みだったことに驚きを隠せない。ていうかヴェロキラプトルってなんだ。名前からしてなんかの恐竜っぽいが恐竜に強制変身とか勘弁願いたい。
陽介「魔法はあくまで精霊が力を貸してくれるから実現するのであって、不用意に使い過ぎたり面倒な仕事を頼むと大変だから、そこら辺の認識大事なんだよね」
絵名「魔法使いも大変なのね…」
陽介「そうでもないですよ。今では日常生活でも結構使ってるし、なんなら今日は水の精霊さんにお願いして庭の花壇の水やりとか壁の掃除とかやってもらいましたよ。いや~高圧洗浄機要らずで助かってますね」
彰人「へぇ、確かに便利っすね」
陽介「うん。でもお礼言うの10分くらい忘れてて、いや~危うく地表の8割が大波に飲み込まれるところだったんですよ」
彰人・絵名・セッちゃん「「「――――」」」
まさかのカミングアウトに背筋が凍る二人の一匹。それが本当なら今頃シブヤどころか日本が水の底に沈んでいてもおかしくなかった。
彰人「待て待て待て待て!?」
絵名「はぁ!?なに!?あんたの家の水やりと壁掃除で世界滅びるところだったの!?」
陽介「えぇ、まぁ、はい。家族にもこのこと話したらメッチャ怒られましたけど」
彰人・絵名・セッちゃん「「「当たり前(だ)(よ)(チュン)!!」」」
これは全員起こっても不思議じゃない。一軒家の水やりと壁掃除だけで人類が滅びていたらたまったものではない。ていうかそんな理由で人類が滅びたら目も当てられない。
セッちゃん「ていうか陽介、他人事風に話してるけど、どうしてそんなに落ち着いて話せるチュン!?」
陽介「……慣れ、かな」
少し考えた素振りを見せた陽介は、そんなことを言い始めた。
陽介「ほら、【星のカー○ィ スーパーデラックス】のサブゲームの【かちわりメガトンパンチ】では『ポッ○スターに入ったヒビの深さを競い合う』って言う星滅びてもおかしくない競技をしてたし…。なんなら真っ二つに割れるよう試行錯誤してたし…」
彰人「なんでそこで【星のカー○ィ】が出てくるんだよ…!?」
セッちゃん「そんな地獄みたいなゲームばっかりしてるからそうなっちゃったチュン…?」
絵名「そのゲームの企画考えた人はカー○ィになにか恨みでもあったわけ…?」
と、予想外の回答に戦慄する二人と一匹。そんなタイミングで――――、
介人「お待たせ」
マスターが料理を配膳してきた。
そのことで会話がストップし、マスターは次々に料理を並べていく。
陽介「あ。ありがとうございます。よっしゃ、いただきまーす」
彰人「いやあの流れで食えるのかよ…」
陽介「異世界じゃ食べられるときに食べないと死ぬんですよ。普通に」
セッちゃん「陽介が言うと重みが違うッチュン…」
絵名「ホントどんな目に合ってきたのよアンタ…」
流石に一週間牢屋に放置された男の言うことは重みが違う。
二人は冷や汗をかきながらも自分の料理に口をつけ始めた。
彰人「…うまっ」
絵名「えっ、おいしすぎるんだけど!裏メニューすご…」
陽介「でしょう?うまいんですよマスターの料理」
デザート通である二人を驚かせるデザートの数々に、二人は舌を唸らせる。
とても人類滅亡寸前だったという事実を聞いた後とは思えないほどに。
介人「―――お店では静かに、ね」
セッちゃん「介人、“静”のモヂカラで強制的に場を収めたッチュンね…」
台車に飛び乗ったセッちゃんが介人のエプロンが妙にもっこりしているのを見ると、そこには【ショドウフォン】が入っていた。どうやらあの混乱の場をモヂカラで強制的で収めたようだ。
そして、モヂカラの影響もあってかそのまま平穏に食事が終わり、その場で解散となった。
絵名「……よく考えたらさ、私たちまた面倒なのに巻き込まれてない?」
彰人「…あ」
兄「ただいまー」
一歌「おかえり」
兄「あ、そうそう聞いてよ一歌。今日どんぶらに行ったんだけどさ」
一歌「どんぶらに?……また何かあったの?」
兄「うん。そこでスイーツ通な姉弟と知り合ったんだけど、魔法使ってるところ見られてさ」
一歌「……うん?」
兄「それで最初は記憶消そうとしたんだけどマスターに止められて、そのまんま一緒に食べて解散になったんだ」
一歌「……お兄ちゃん、ちょっと話そうか」
母「ただいまー」
母「アレ、返事がないわね…。二人ともいないのかしら…?でも鍵は開いてるし…」
そう思いながらも荷物を降ろすためにリビングへと足を運んだ母親が目にしたのは――、
母「―――あ」
一歌「ねぇ、なんで私が怒ってるか分かる?」
兄「――――」
母(あ…辛い絵面)
正座させられ一歌に説教されている陽介の姿だった。
陽介が喫茶どんぶらのマスターを信頼しきっているのは分かっていたけれど、同時にマスターのこととなるとなんでもかんでも信用するという、危機管理の認識がガバガバにぶっ壊れていることが判明した。
一歌「なんで不特定多数が来るかもしれない場所で魔法使うかなぁ?」
兄「…申し訳ありません」
一歌「そもそもお兄ちゃん全然反省してないよね。今日だって水やりと壁掃除で人類滅ぼしかけたの忘れたの?」
兄「…面目ありません」
今日、一歌は初めて年上を叱った。
陽介くんはマスターに対して絶対的な信頼を置いています。
理由としてはまぁ、当然ですが12歳と言う幼い頃にモンスター扱いしかされない地獄のような環境に突如飛ばされ一人ぼっち(陽介基準)だった中で自分を人間扱いしてくれるし日本の味を提供してくれるという【喫茶どんぶら】と言う空間とそこで過ごした時間は陽介の異世界での精神的支柱であったと言っても過言ではないため。
だから今回みたいに魔法を使用しているところを見られてもマスターが「大丈夫」と一言いえば素直に引き下がるくらいには信用しています。
でんぢゃらすキャット
真名:ゲベ 原典:でんぢゃらすじーさん
今回、キャットフードを食いに喫茶どんぶらに来店。
その際に陽介と出会いなんやかんやで「俺もキャットボディーは愛くるしいだろ」と言ったところ陽介に「そもそもゲベさんって猫じゃないですよね?」と言われ衝動的に耳拳で潰した。
違い。
【PROJECT NIYARI 始まりの軌道】の絵名
・変人ワンツーフィニッシュのことを知っている。
【異世界セカイ】の絵名
・変人ワンツーフィニッシュのことを知らない。