今日見せる記憶の内容をあらかじめ知っていた私は、ミクの協力を得て問題しかないシーンをリンに見せないようにすることができた――かと思いきやだった。
志保の叫びで私たち全員がそちらの方へ向く。映像見てルカもメイコも混乱しているようだけど、一体なにが――?
リン「どうしたのしほっち?」
その疑問を最初に聞いたのはリン。この子はつい最近来てくれた新しいバーチャルシンガーで独特なニックネームで私たちのことを呼ぶ。ちなみに私を呼ぶときは【イッチー】である。
志保「あ…うん。今映像で日本の話が出てきたから…」
咲希「えっ~!?異世界で日本が!?なんで!?」
メイコ「それを知るために早戻ししてもらいたいんだけど…」
一歌「っ、お兄ちゃん!」
兄「でもスコアが…」
一歌「そんなのあとでもできるから!ほら!」
お兄ちゃんを立たせて映像の前まで連れて行くと、フラフラしながらも早戻しをしてもらった。全員で映像に視線を合わせると、映像が再開される。
エルミリア『しかし、指輪か…寝てる隙に無理矢理はめられるなんて君も災難だな。睡婚…いや、オーク強制睡眠婚とは…一生もののトラウマだな。汚れたオークと婚姻した女性に最早貰い手はないと思うけれど気を落とさないように…』
お兄ちゃん関係だと本当に口悪いなこの人…!オーク強制睡眠婚ってなに!?
でもクレイリアさんは薬指の指輪見てすっごくうれしそうにしてるし…お兄ちゃんにあんなこと言われてよくそんな顔ができるなと思う。やっぱり自分を肯定してくれる人だからかな…。
リン「この人、クレイリアさんだから…クレっちだね!すっごくうれしそう!」
兄「あ、分かる?世界に七つしかない天星石の指輪だからね。クレイリアにとってこれ以上のものは――」
ミク「お兄さんちょっと静かにしてて」
兄「あ、はい…」
ナイスアシストだよ、ミク。リンに指輪売却云々の話は聞かせたくない。リンの無表情まで見たくないし…!
エルミリア『あまり…気にしてないのね…?どうして…?』
クレイリア『異世界の血かな』
クレイリア『多分…あの人は私たち氷の一族の先祖と同じ…異世界日本の在りし処からの転移者だから…』
本当だ…確かに日本って…!ていうかクレイリアさんの御先祖様って日本人だったの!?
そこで、お兄ちゃんが一旦映像を止めた。
兄「なるほど…俺が凍結封印されている間にこんな会話が…」
穂波「やっぱりこれ、日本のことですよね…?」
ルカ「…ねぇ、思ったんだけれど。今更なのだけれど、気絶中の記憶見れるってさすがにおかしくない?」
志保「あ、確かに…」
兄「あぁそれ?説明しようか…。これは、人間の記憶をとっかかりにして、【記憶の精霊】の持っている膨大な記録データにアクセスする…みたいな魔法なんだ。例えるなら【クラウドストレージ】だな」
リン「へ~!分からないところもあるけど、そんな感じなんだね!」
兄「あぁ!マスターがそう言っていたからな!間違いない!」
あ、マスターさんの見解なんだソレ。それっぽい説明がお兄ちゃんらしくないなって思ってたけどやっぱり…。
兄「さてと、疑問を解消したところで続きみるか…」
映像が再開されると、クレイリアさんは凍神剣を持ちその剣先を床につけ右手をかざすと、凍神剣から氷の粒が発生し、部屋中に広がっていった。
クレイリア『氷嵐創映』
リン「わ~!」
咲希「綺麗~!!」
メイコ「凍神剣って、こんなこともできるのね…」
するとさらに、空気中の氷が絵になって―――あれは、武士!?
クレイリア『氷の一族の開祖は約400年前のニホンバハマルからの騎士階級の男でした』
穂波「日本の騎士…?」
一歌「侍とか武士のことかな…?」
ミク「ああ…確かに…」
400年前って言うと、確か時期的に関ケ原の戦い辺りかな…?そんな大規模な戦争で死んだたった一人が異世界に…。
クレイリア『ニホンバハマルでの大戦闘で命を落とした騎士は神様によってエクスバハマルにて新たな命と体を授かりました。そしてさらに、「転移者よ、汝にこの過酷な世界を生き抜くための力を一つ授けよう」』
武士の前に現れたのは、とても大きなマントかなにかを羽織った文字通りのなにか。それは――神様。
ていうか神様って、400年前はちゃんと仕事してたんだ…。今じゃ中国語の録音なのに…。
志保「神様、昔はやる気あったんだ…」
ルカ「長い年月のせいで完全にやる気を失ったのね…」
ミク「お兄さん…」
お兄ちゃんに憐みの感情が集中する。お兄ちゃんに対する対応もこういう感じだったら少しはマシな始まり方ができたのに…。
クレイリア『そこで騎士が望んだのは、「ならば貴様を殺せる刃を授けよ」。神をも恐れぬ望みでした。そこで神様は言いました。フフフ…面白い。よかろう。しかし…!!』
エルミリア『そんなことより』
エルミリア『え、どういうこと?あなたあの醜いオーク顔が人間のように見えるというの?』
クレイリア『――――』
エルミリアさん?なんでそんないいところで中断しちゃうの?
クレイリア『フフフ…面白…』
エルミリア『同郷だから?』
クレイリア『面白…』
エルミリア『そんなことで?』
クレイリア『面…』
エルミリア『嘘でしょ?』
クレイリアさんの語りを何度も邪魔するから、クレイリアさんがついに俯いちゃった。
クレイリア『おおお、面白くなるところだよ…?もうちょっと静かに…』
エルミリア『こんなのとっくに故郷の本で読んで知ってるわよ』
空中映像を払っちゃったよこの人!!まるで虫でも払うかのように…。
エルミリア『それで邪な心では扱えない【無神剣】を貰って、知恵の祠でこの世界の一般常識や言語を習得して、【色欲竜】の素材と自らの血を使って【凍神剣】を完成させて村の巫女とねんごろになって人の愛を知って凍神剣の封印を解いて、暴食竜討伐。子々孫々剣を代々受け継ぐんでしょ?』
盛り上がりどころ全部ネタバレされちゃった!!
今の一瞬で結構大事な部分もさらっと解説されたんだけど!え、【無神剣】ってなに?凍神剣が【色欲竜】と【使用者の血】で出来てるってことは知ってたけど、神様の剣と竜の力の複合品だったんだ、凍神剣って…。
ルカ「盛り上がるところ全部ネタバレしちゃった…」
志保「なにやってんのこの人…」
エルミリア『それより、その…あなたあのオーク顔のことどう…』
そして、流石に雑に扱い過ぎたせいで、クレイリアさんが泣いちゃった…。
クレイリア『この語りだけは自信あったのに…一生懸命練習したのに…』
エルミリア『ああああ、すまないすまない泣かないで!』
流石に悪かったことを自覚したのかエルミリアさんがクレイリアさんを慰め始めた。クレイリアさん、流石に可愛そすぎる…。根っからの引きこもりのクレイリアさんが泣き出すほどに練習したのに、いざ披露したら全部ネタバレされるって…。
リン「エルっち流石に酷いよ!クレっちがたくさん頑張ったのにそれを台無しにするなんて!」
兄「だよなぁ!?これだからコイツは…」
と、ため息を吐くお兄ちゃんだけどそもそもの大本の原因が何を抜かしているだと言いたいがグッと我慢した。
エルミリアさんがあんな暴挙に出たのお兄ちゃんがクレイリアさんに左手の薬指に指輪をはめたのが原因だからね?
ミク「リ、リン。エルミリアさんもきっと必死だったと思うからあまり悪く言わないで上げて…」
リン「そう?」
メイコ「そ、それにしてもお兄さん以外にも日本からの転移者がいたのは驚きね」
と、ここでメイコが話題を変えてくれた。確かにすっごく気になる話だから話題変えには最適だ。
咲希「確かにそうだよ!お兄さん、私ずっと疑問に思ってたんですけど異世界って言う割には銃とか普通にあるから不思議に思ってて!」
咲希がここぞとばかりに誰も触れてこなかった疑問を!*1
確かに異世界って言う割には現代日本とあんまり変わらないところもあったし、不思議だったけど…。でも魔法が一般的じゃないって言う背景を考えれば地球と同じような歴史を辿ってもおかしくない気がする。でも少し遅れているように見えるのは、モンスターとかがいるからなのかな…?
穂波「銃の他にも、ドライヤーとかがありましたよね?それってもしかして他の転移者さんが作ったものなんじゃ…」
志保「でもあのドライヤーって古代“魔道具”でしょ?魔法使えなかったらただのガラクタだし…」
兄「ん、ああそれはだな。結構後に判明することなんだが。ルバルドラムの防衛結界のことは覚えてるか?」
一歌「あぁ、お兄ちゃんが破壊したあの…」
兄「そうそれ。あれは、アイツが説明していた通り800年前の失われた技術なんだが、この古代魔道具が作られたのがちょうど同時期なんだ」
ルカ「……え?ちょっと理解ができないんだけれど…」
古代魔道具のドライヤーが作られたのが800年前?そもそも1200年頃にドライヤーなんて存在すらしてないんだけど。
志保「いや…いやいや。800年前にドライヤーなんてあるわけないじゃないですか」
兄「うん。俺もそう思ったんですけどね。衝撃の事実が判明して…。どうやら800年前にも日本人が転移してたらしいんだけど、その転移者が俺たちと同じ時代の人間だったらしいんですよ」
全員「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」
お兄ちゃんが語った衝撃の事実に、全員呆けた声を出してしまった。え、それってつまり…
ミク「それってつまり…現代人が800年前の異世界に転移したってこと?」
兄「そうなりますね」
穂波「え、なんでそんなことになったんですか?400年前のお侍さんはちゃんと400年前の異世界に転移――転生?をしてたんですよね?」
リン「なんでその人だけ過去にタイムスリップしちゃったの!?」
兄「それは結局異世界じゃ分からなかったんだ。その転移者が残した本によると、本人は“令和”の時代に生きていたらしい」
一歌「“令和”って…去年の話だよね!?え、じゃあ去年から死んだ人が800年前の異世界に転移してたの!?」
兄「うん…俺も“令和”って聞いて「なんだ?」って思ったけど帰還ってから今の年号聞いてメッチャ驚いたよ」
お兄ちゃんはあっけらかんと答えてるけどそれってとんでもない話だよね…え、タイムパラドックスとか起こってそうで怖いんだけど!
咲希「じゃあ800年前の異世界にドライヤーが存在してたのって…転移した人が神様からもらった能力で創ったってことですか!?」
兄「そうなるんですよね…。ちなみに、銃に関しては別の転移者が伝えたらしいんだ。凍神剣より後の時代に伝わったらしい」
一歌「……凍神剣より後の時代って言っても、精々火縄銃くらいだよね?そんな時代にヴィヴィさんが使ってたような連射式の銃なんて……あるわけないよね??」
兄「うん。だぶんその人も現代からの転移者だと思う」
メイコ「……なんで神様は現代日本人をそんなに過去の異世界に転移させてるのかしら?」
兄「このことについて琴音さんやマスターに相談したら、「どうせその神が適当な仕事ぶっこいただけだろ」って琴音さんが言ってましたね」
全員「「「「「「「「――――」」」」」」」」
どうしよう。それで納得できちゃうのがすっごく嫌だ。本来なら納得もしたくないけどできてしまう判断材料がありすぎてなにも言えない。
あの神様全くやる気ないもん…適当な仕事でゴミ箱に投げるかのようにポイっと放り投げていてもなんら不思議ではない。
兄「まぁもうあの神の話はいいですよ。神なんてもん信じてたらどうしようもできませんし。そもそも神に頼れでもしたらアイツの嫌な性格をどうにかしてほしいもんだよ。会うたび罵詈雑言だし、凍結封印されたときも助けてくれなかったし、あの野郎…」
お兄ちゃんの中で神様とエルミリアさんの好感度がどんどん下がってる…。前者はともかくエルミリアさんに関してはお兄ちゃんの自業自得の面が強いんだけど。
一歌「あ、そういえば凍結封印された後ってどうなったの?」
兄「ん?ああ、こんな感じでな…」
映像をスクロールして再生すると、お兄ちゃんの拙い声が聞こえてきた。
兄(16歳)『ぐ…身体が重い…凍結封印のせいか…?』
??『むにゃ…』
兄(16歳)『…ん?なんだこの柔らかい…』
??『ウヒヒヒ…』
お兄ちゃんの目線が下にいくと―――そこにはパーカーを着たエルミリアさんと寝間着姿のクレイリアさんがお兄ちゃんにくっついて寝ていた。
全員「「「「「「「「!?」」」」」」」」
エルミリア『ん…?』
それを見て流石のお兄ちゃんも固まっていると、目が覚めたエルミリアさんと目が合った――と同時にエルミリアさんの顔が赤くなった。
兄(16歳)『お前何…』
エルミリア『北方には獣の内臓で暖をとる民族がいるのよこれはそれよ!なんか寒かったからあんたで暖を取ってたのよ!』
ルカ(苦しい…!)
メイコ(言い訳が苦しい…!)
咲希(獣の内臓…!?)
流石の兄ちゃんもこんな丸わかりな言い訳信じるワケーーー
兄(16歳)『なるほどそういうことか』
ミク(信じた!?)
志保(嘘でしょ!?)
穂波(誰でもわかりますよ普通!?)
一歌(素直にお兄ちゃんのこと人肌で温めてたって言えばいいのに…)
一応エルミリアさんとクレイリアさん人肌で温めてくれてたところは優しいのに…完全にマッチポンプだけど…。
兄(16歳)『ん…まぁ…確かにちょっと寒いな…風邪引かないようにもう少し寝るか…』
エルミリア『さ…寒いから私もくっついて寝るわ!』
兄(16歳)『!、獣の内臓替わりか…勝手にしろ』
エルミリア『!、えへへ…』
シーツを引っ張って、もう一度寝ようとしてところにエルミリアさんがそう提案した。獣の内臓の部分がなければ微笑ましい光景なんだけどなぁ…で、諦めたように横になったお兄ちゃんに、緩い笑顔を見せたエルミリアさんが自分ごとシーツを被ろうとした――次の瞬間。
エルミリア『へ?』
クレイリア『うーん…』
兄(16歳)『うわなんなんだ?』
クレイリアさんが寝ぼけているのかお兄ちゃんに抱き着いた。それを見たエルミリアさんはグイグイと服を引っ張ってクレイリアさんを引きはがそうとしてるけど――、
クレイリア『さん…おかあさん…いや…』
涙を流しているクレイリアさんに誰もなにも言えなかった。そっか、お兄ちゃんとの初対面の時点でクレイリアさんはお母さんとは既に離別しているみたいだったし、過酷な異世界での離別の理由としては、一番多いのは――、
エルミリア『あなた…』
クレイリア『労働いやあああああ……!!』
―――は?
クレイリア『おかあさんゆったじゃない!!人生糞チョロ…凍神剣一生絶対食いっぱぐれないってゆったじゃない!!』
全員「「「「「「「「――――」」」」」」」」
兄(16歳)・エルミリア『『――――』』
クレイリア『働きたくないよおかあさん…。私が9つの時若い男と出て行ったおかあさん…』
おかあさん……!!普通に駄目な親だし離別した理由がクズ過ぎる…!!
クレイリア『いたっ!?』
あ、エルミリアさんに叩かれた。
クレイリア『なんで叩くの…?』
エルミリア『あ、いや…「働きたくない」とか見苦しかったからつい…』
それを聞いてか、クレイリアさんが見る見るうちに青ざめていった。
クレイリア『う、うそ…うそだよ…働きたい…!クレイリアは、働きたい…!!』
エルミリア『ちょ…!!』
クレイリア『尊い!労働は尊い!!』
エルミリア『偉いけど無理はしない方が…拒絶反応出てるわよ…』
言ってる事とは正反対にすっごく涙流しながら言っても全然説得力ないよ…。どれだけ働きたくないのこの人…。
兄(16歳)『いや、だから指輪売れば働かなくても生活は大丈夫だって』
エルミリア『あっ、そ、そうよ!それパーッと売っちゃいなさい!』
クレイリア『え…』
リン「え、売る…?」
志保「リン。気持ちはすっごい分かるけど一旦静かに…」
あぁ…恐れていたことが起きちゃった…。でもいずれこうなるだろうなぁって思ってたからあんまり慌てなくなったな。なんか慣れたようで嫌だ。
クレイリアさんは指輪をじっと見た後、何かを考えているようで――、
クレイリア『いや、でもやっぱり自立しなきゃ…』
エルミリア『い、良いのよ!労働なんて家畜の生き方よ!』
クレイリア『し、質屋とか難しいし…』
エルミリア『代わりに値段交渉してあげるわよ!』
クレイリア『――――――。んーん…やっぱりこれは虎の子だから…餓死するギリギリまでとっとくよ…』
エルミリア『へ、へ~ふぅ~ん…そう…』
エルミリアさん大分必死だな…!
ルカ(意地でも手放させようとしてるのが…)
志保(急なライバルの登場で焦ってるなこの人…)
兄(16歳)『じゃあ、とりあえずお前が養うのはどうだ?』
エルミリア『え、私?』
兄(16歳)『前に天星石の指輪売った時の金がたんまり残ってるはずだろ?』
クレイリア『やしな…』
リン「売った…?」
リン…。気持ちは本当に、分かる。そしてその時、クレイリアさんの脳裏に浮かんだのはクレイリアさんの名前が書かれた犬小屋だった。待ってクレイリアさん人としての尊厳捨てようとしてない?それに記憶の精霊ってこんなところも補完してくれるんだ…。
エルミリア『まぁ、確かに銀行に預けてあるけど…』
その時、エルミリアさんがクレイリアさんの方を向くと――、
クレイリア『か、飼って…♡。アオーン、ご主人さ…』
エルミリア『え…?』
クレイリア『う……………な、なんでもないよ!』
エルミリア『恥を知ってるならやめなさいよ…』
犬座りしているクレイリアさんがいたけど、すぐに恥ずかしさが勝って蹲った。恥ずかしいなら初めからやらなければいいのに…。
兄(16歳)『まぁ…とりあえず朝飯でも食べるか…。わざわざ遠くから訪ねてきたんだ。俺が奢ろう』
クレイリア『!、わんわん!』
エルミリア『やめなさい!』
咲希「なんだか、いろいろあったけど仲イイ感じだね…」ヒソヒソ
穂波「これから3人でパーティとか組んだりするのかな…?」ヒソヒソ
一歌「うん…お兄ちゃんは『異世界では基本的に一人プレイ』って言ってたけど“基本的に”だし…あるかも…」
志保(本当にそうかな…)
で、場所は変わってとあるお店のテラス席。そこで三人でテーブルを囲んで食事をしている光景だ。
クレイリア『ハモハモ…。そういえば自己紹介、してなかったね』
クレイリアさんは自分の胸に手を当てると、自己紹介を始めた。
クレイリア『私は、【クレイリア=ベルリーア】。氷の一族の末裔で、今は傭兵になって世界を旅することが目的、かな。よろしくね』
兄(16歳)『ん?クレイリア、お前苗字があったのか?』
クレイリア『うん。氷の一族は特別に国から【姓】を名乗ることを許されてるから』
兄(16歳)『すごいんだな。氷の一族ってのは』
クレイリア『!!、へっへ~ん、でしょ!?』
国から【姓】を名乗ることを許されてるって…どういうこと?
メイコ「“姓”を名乗ることを許されてるって、どういうことなの?」
兄「異世界だと、“姓”を持っているのは基本、貴族や王族だけなんだ。だけど例外として金で“姓”を買ったり功績を認められて“姓”を与えられたりする。ようは一種のステータスだな。カー○ィに出てくる“ライフのもと*2”とか“ワザのまきもの*3”みたいなものだな」
一歌「何その例え?」
カー○ィで例えられても全然分かんないって…まぁ字面からなんとなく予想はできなくはないけど…。
エルミリア『私は……【エルミリア】。ただの【エルミリア】だ。【剣聖姫】などとは呼ばれているが、そんな称号など…。…とにかく、私の目的は“とある竜の討伐”。それだけだ』
兄(16歳)『とある竜?大罪竜のことか?』
エルミリア『言っても分からない。存在も眉唾だからな。まぁよろしく』
エルミリアさんの目的が存在しているかどうかも怪しい竜の討伐って…一体なんでそんなことを…。
そして、お兄ちゃんが名乗りを上げる番になった。お兄ちゃん、どんな風に名乗るんだr――
兄(16歳)『【ギャラクティックナイト】だ』
嘘つけェ!!
名前と雰囲気が全然釣り合ってないよ!!なんでよりにもよってそんな名前をチョイスしたの!?そもそもなんで偽名!?
ミク(名前負けが凄い…!!)
志保(もっと身の丈にあった名前なかったのこの人!?)
穂波(ギャラクティックナイトってなに…?)
リン(名前はカッコいいのに…)
兄(16歳)『故郷に帰るための手がかりを探す冒険者だ。よろしく』
エルミリア『ナ…?』
クレイリア『ナイ…?』
一歌「え、お兄ちゃん。なんで偽名…?」
兄「え、知らないヤツに本名教えないだろ普通…」
メイコ「あぁ…」
咲希「そうですね…」
ルカ(異世界リテラシー高いわね…)
クレイリアさんはともかく、出会って三年目のエルミリアさんはまだ“知らないヤツ”扱いなのが…。一体どこまで行ったら“知り合い”扱いになるんだろう…。
エルミリア『さて…これから私はイコザの街に行く』
兄(16歳)『ん?イコザ?……ってお前の天星石の指輪売った街か。あの辺は特に何もなかったはずだが…なにしに行くんだ?』
エルミリア『うううううるさいわね!私の勝手でしょ!ばか!!節操なしオーク!!』
指輪買い戻す気だ、この人…。クレイリアさんの登場で危機感持ち始めたんだな…。
クレイリア『ナ、ナイト…』
兄(16歳)『馬鹿…』
クレイリア『ギャラクティックナイト!!』
兄(16歳)『えっ!?銀河最強の剣士どこ!?………あ、俺だ!』
一歌(いや「俺だ」じゃないよ!!)
志保(自分の偽名に反応できないの問題とかそういうレベルじゃないでしょ!)
ミク(銀河最強の剣士って…カー○ィキャラかな?)
幸先不安しかないよこれ…。お兄ちゃんの反応からしてカー○ィキャラだなギャラクティックナイト…。ていうか銀河最強の剣士なんてすごすぎるでしょ元のキャラ
エルミリア『きょ、今日はこれからどうするの?』
兄(16歳)『……俺は、最近噂になっているオーロラの島に行ってみる』
エルミリア『あの島か…。突如としてオーロラのような謎の光が発生したらしく、噂で持ち切りだったな』
兄(16歳)『俺の知るオーロラはそんなに長くはもたない。だがその島のオーロラのような光はもう何日も在り続けている…』
エルミリア『噂では大罪竜の仕業ではないかとも言われているな…』
兄(16歳)『…ていうか、それこそお前の探してる竜なんじゃないのか?』
エルミリア『違うわよ。オーロラと言えば光。光を司る竜と言えばルバルドラムで見た【傲慢竜】プライド・ドラゴン。間違いなく違うと断言できるわね』
兄(16歳)『そうか…。だが、何日経っても消えないオーロラなんて魔法的ななにかだと俺は思う。行って確かめてみようと思うんだ』
魔法が一般的じゃない世界でとある島で突如発生した長時間続くオーロラ…。確かに魔法的なものじゃないと説明が付きづらいけど、大罪竜の仕業だとしたら一体どの大罪竜が…。でも光を司ってる【傲慢竜】はルバルドラム近辺にいるはずだから、その線はないから…分からなくなってきた。
エルミリア『だが、ここから海沿いの街まで約一月はかかるわよ?』
兄(16歳)『それでも行かなければならない。もしかしたら故郷に帰るための手がかりになるかもしれないからな』
エルミリア『…そう』
クレイリア『私もナイトについていく』
クレイリアさんが、お兄ちゃんと一緒に冒険を!?これ、もしかしてクレイリアさんとそのまま――、
クレイリア『だけど私は夜型だから今から寝て起きるのは、昼の2時』
―――ん?
クレイリア『だから出るのは夕方5時ぐらいまで待って!』
兄(16歳)『え?』
エルミリア『は?』
3人『『『――――』』』
兄「まぁこの日はこんな感じで終わった」
咲希(えっ、これでおしまい!?)
ミク(パーティ解散しちゃった…!!)
志保(クレイリアさんがガチニートすぎて同行無理なヤツだコレ!!)
ルカ(昼の2時から5時までの間はなんなの!?)
冒険に夜型もなにもないよクレイリアさん!!もうこの人本当に駄目だ…。本気で貰い手がお兄ちゃんぐらいしか思いつかない。いろいろと空回りしてるけどある意味良い組み合わせなのかもしれない。
そのまま映像を消すと、座ったまま背伸びをし始めた。そのまま立ち上がって、こちらの方を振り向いた。
兄「さてと…俺は自分のセカイに行ってから帰るから!今日の昼にゲーセン行ったんだけどさ、通りすがりのクレーンゲーム上手い人に取ってもらったワド○ディの人形とか飾るんだ!そのあとミクさんたちと一緒にカー○ィで遊ぶんだ!」
一歌「…そっか。ほどほどにね」
兄「あぁ!それじゃあみんな!またね!」
そうして自分のスマホ(業務用)で自分のセカイへと移動していったお兄ちゃん。そんな兄の姿を見届けると、リンが立ち上がって声を漏らした。
リン「……ところで、イッチー。エルっちの指輪売ったとか、クレっちの指輪売るとかって、アレなに?」
一歌「……うん。全部本当にあったこと…」
日本の下りが気になりすぎてせっかくミクに協力してもらったことが水の泡と化した今。
沈黙が続くこのセカイにて、リンの声がとてもよく透き通っていた。
リン「よう兄の冒険のラスボスって…よう兄自身だったりするのかな」
まぁ確かにエルミリアさんとクレイリアさんからすれば最終的に攻略対象扱いにはなるかな…。
そんなことを思いながら、気まずい雰囲気のまま今日は解散となった。
兄「記憶の精霊よ。忘却の彼方へ消え去――」
咲希「お兄ちゃん!!みんな!!逃げて!!」
次回、兄から逃げろ。【19 咲希「お兄ちゃん!!みんな!!逃げて!」】でお送りいたします。
なお、19話投稿の前に閑話を先に出します。ビビバスとニーゴ、どっちにしようかな…。
評価:感想お願いします。