それは、とあるショーステージの座長から始まった。
司「お前たち!わが友、陽介のために力を貸してくれ!!」
そのそのショーを行うグループ、【ワンダーランズ☆ショウタイム】の座長、【天馬司】の声にその場にいる全員が司に顔を向ける。
類「陽介…。確か、この前司くんが言っていた人のことだね」
寧々「あぁ…4年前交通事故に遇って、二か月前に目覚めたって言う…」
えむ「あたしも知ってるよ!一歌ちゃんのお兄ちゃんだよね!」
同じく【ワンダーランズ☆ショウタイム】のメンバー、【鳳えむ】【草薙寧々】【神代類】が突如出てきた謎の人物について言及し、確かに過去、その人物の名前について聞いたことがあることを思い出した。
寧々「その人が、どうかしたの?」
司「うむ…。陽介が、意気消沈してしまっていてな…。それでなんとか元気を取り戻せないかと考えたんだが…やはり、ショーを見てもらおうと考えたんだ!!」
えむ「そうだね!!きっと、あたしたちのショーを見たら、パーッって笑顔になってくれるよ!!」
類「フフフ、腕が鳴るね…」
と、経緯を話せば二人は乗り気になってくれた。
寧々「別に構わないけど…その人、なにかあったの?」
司「あぁ。実はだな……陽介は事故に遇う前、キッズYo○Tubeをやっていたんだが、昏睡中にそのアカウントが乗っ取られて垢BANされてしまい、それが原因で…」
寧々「うわ最悪…」
司「実は目覚めた段階で一度そのことを伝えていたらしいのだが、あまりにもショックがデカすぎて気絶し、その内容丸々頭から消え去っていたらしい」
寧々「ショックデカすぎない?防衛本能が発動するって深刻すぎるでしょ」
司「だが、そのことを知らない陽介の知り合いがその話題を振って全てを思い出したらしく…陽介が、こんな有様に…」
顔に悔しさを浮かべて取り出した司のスマホの画面に皆が注目すると、そこには白髪交じりのヨボヨボおじいちゃんが映っていた。
寧々「……司、写真間違えてるけど。おじいちゃんが映ってるんだけど」
司「いや、間違えてないぞ。正真正銘俺と類と同い年の一歌の兄の陽介だ」
えむ「うぇえええええ~~!!?このおじいちゃんが一歌ちゃんのお兄ちゃん~~!?」
類「流石にこれは…。前に写真を見せてもらったけれど、ここまで老けてなかったはず…」
類は過去に陽介の写真を見せてもらったことがあり、その際もあまりの老け顔に同い年かと疑ったほどだったが、よく考えて見れば4年間も寝たきりであればガリガリに老けていてもおかしくはないためあまり疑問にはならなかった。
だがこれは別問題である。どう考えても玉手箱を開けたとしか思えないくらいの老け具合に流石の類も顔を引き攣らせていた。
類「司くん、スマホを貸してくれないかい?」
司「構わないぞ」
類「それと、これより前の陽介くんの顔写真はあるかな?」
司「ちょっと待っててくれ……あった。これだな」
類「ありがとう。……ネネロボ、この二つの写真の人物、同一人物かスキャンしてみてくれ」
すると、類は自身の作ったロボット【ネネボロ】に二つの写真を見せてスキャンを依頼した。
ネネボロ「ピピピ…二つの写真の人物が同一人物である確立、97.3%」
類「ほぼ一致…!まさか精神的ショックでここまで外観に変化が出るなんて…これも人体の神秘と言うべきなのか…!」
司「そこまで疑ってたのか…。まぁ無理もないが…」
司が苦笑いしながら類に視線を向ける。確かにあの二つの写真を見比べて同一人物だと言われればそう簡単には信じられない。自分だって妹である咲希にこの写真を見せられても終始困惑していたほどだ。
えむ「分かったよ司くん!!あたしたちで、陽介くんのこと、笑顔にしちゃお~~!」
寧々「やる分には賛成だけど…ショーの内容はどうするの?」
司「ソレに関してはある程度決めているんだ。陽介は心の底からカー○ィが大好きだからな!カー○ィのような世界観を取り入れたいと思っている!!」
ショーをやるにしてもまずは題材などを決めないと始まらないが、対象の好みがハッキリしているため既に決まっていたようだ。
類「カー○ィか…となると、ファンタスティックな要素とメルヘンチックな要素は欠かせないね。寧々、他にはなにが必要だと思う?」
寧々「え、なんでわたしに振るの…?」
類「なんでもなにも、寧々はゲームについて詳しいだろう?だったら、僕らの中で一番カー○ィについて理解が深いと思ったからさ」
寧々「確かにカー○ィは何作品かプレイしてるけど、専門でやってるわけじゃないから類たちと知識はあんまり変わらないし…」
寧々がいくらゲームが得意だからと言って、カー○ィを専攻でプレイしているわけではない。そのため、設定や世界観などを他の三人より少し詳しいというだけで実際にはあまり変わらないのだ。
司「う~む。それでは…」
えむ「じゃあさ!みんなでカー○ィのゲーム一緒にやろうよ!!」
類「なるほど。確かにそれなら動画を見るよりも、世界観の理解度が深まるだろうね」
寧々「でもゲーム機は……って、まさか…」
他三人の目線が自分に集中しているのを見て、寧々はこの後の展開を察した。
類「寧々の家になら、全員分のコントローラーがあるんじゃないかい?」
寧々「確かにあるけど…」
司「頼む寧々!陽介のために力を貸してくれ!!」
えむ「お願い寧々ちゃん!寧々ちゃんが頼りなんだよ~!」
寧々「分かった!分かったから引っ付くのやめて…!あと司うるさい…!」
司「なにぃ!?」
えむが寧々に抱き着いて懇願し、司もいつものクソデカボイスで寧々に縋る。だが五月蠅すぎて寧々の癇に障ったようだ。
寧々「流石に今日は無理だから、明日!明日以降持ってくるから!」
司「感謝するぞ、寧々!!」
類「それじゃあ、そこまで決まったわけだからまずはできるところから始めようか。まずは演出として司くんを爆発で射出して――」
司「俺が吹き飛ぶことは確定なのか!?」
ちなみに、この会話は陽介が意気消沈していた4日間のうちの出来事である。
* * * * * * * *
兄「え?司くんが俺に?」
一歌「うん。是非ショーを見に来てほしいんだって」
とある平日の夜。私は咲希を経由して渡された司さんが座長を務めている【ワンダーランズ☆ショウタイム】の広告チラシをお兄ちゃんに手渡した。
チラシに書かれているその日のショーは二本立て。だけど…
兄「えっと、ショーの内容は……不思議な国に迷い込んだ少女が誘惑に打ち勝ちながら元の世界に戻れるのか。うん、なんか面白そう」
一歌「それで私も鳳さん…私の同級生でそのチームの一員なんだけど、その子に誘われてて…良ければ一緒に行かない?」
兄「大丈夫だぞ!この日は仕事もないし一日中家にいるつもりだったから特に問題ない。ていうか日曜だし。行くのは俺と一歌だけか?だったら飛んでいけるけど」
一歌「ううん。咲希たちも予定がちょうど空いたからみんなで一緒に行けることになったんだ」
兄「そっか。じゃあ皆で手つないで空を――」
一歌「いや普通に交通機関で行こうよ」
確かにお兄ちゃん的には空飛んだ方が早いしお金もかからないからその方がいいんだろうけどその方法使えるのお兄ちゃんだけだし。
私嫌だよ?誰にも見られないとはいえドラ○もんのオープニングみたいな光景になるの。恥ずかしいし。
兄「うーん、でもやっぱり金がな…。可能な限り削減はしたいんだよな…」
一歌「……お兄ちゃんって、まだ給料入ってないの?」
あれからもう一月は経ってるからもう支払われててもおかしくないんだけど…。
兄「あぁ、給料?それ自体はとっくに入ってるよ」
一歌「え、だったら交通費代くらい出せるんじゃ…。………ちなみに、いくらだったの?」
兄「え、大体50万」
一歌「50万!!??」
もしかして給料少ないのかなーって一瞬思ったけど全然そんなことなかった!!まぁそうだよね、接待野球の臨時収入で万単位くれるところがそんな薄給なわけないもんね!!
本当にどんな仕事してるんだろう…初任給で50万なんて大金くれるところ存在しないよ!?
一歌「す、すっごい大金だね…」
兄「まぁ命の危険もある仕事だからな…。危険手当ってヤツだよ」
一歌「うん、納得…」
確かに、仕事内容ほとんど知らないとはいえ危険なことしてるって言うのは分かる。その対価としての大金なんだろうけど、家族としてはそんな危ない仕事してほしくないけど、この前みたいに「死にかけるのは異世界で何度も経験してるから大丈夫」と言われたら何も言い返せないんだよな…。
一歌「でもそんなにお金貰ってるんだったら交通費くらいケチらなくても…」
兄「いや、俺も正直そう思うんだが、マスターから「今は貯金していた方がいい。どうせすぐ使うことになるから」って…」
一歌「毎回思うんだけどお兄ちゃんマスターの言うこと真に受けすぎじゃない?貯金は大事だけど…。ていうか、すぐ使うってどういうこと…?借金でもしたの?」
兄「さぁ。俺は借金してる覚えないんだがな…」
一歌「理由は分かったけど、流石に交通費くらい構わないんじゃない?むしろ、魔法を視野に入れてる時点で周りと順応できないよ?」
兄「う、確かに…。最近の仕事でよく魔法を連発してたから戦闘モードになってたな…。よし、ここは日常モードに戻すためにも区切らないとな」
戦闘モードとか日常モードってゲーム用語っぽいんだよな本当に…。
……よくよく考えてみれば、お兄ちゃんって仕事の時は戦闘モードになる必要があるんだよね、これ…。せっかく地球に戻ってこれたのに異世界的な思考回路から脱却できてないって、異世界の呪縛ってホント…。でも本人が満足してるからなぁ…。口出ししずらいんだよなぁ…。
兄「司くんと会うのはこれで二か月ぶりか…。なにか持って行った方がいいかな?」
一歌「そこはお兄ちゃんの気持ち次第だと思うよ。でも、そうしてくれたらきっと喜んでくれるよ」
実は、お兄ちゃんと司さんが再開するのはこれが初めてではない。
お兄ちゃんの秘密が咲希たちに知られた後のこと、司さんも家に来てお兄ちゃんのお見舞いをしてくれた。その際には病院で見舞いに行けなかったことを悔やんでいる様子だったけれど、お兄ちゃんがなぁなぁで終わらせた。
兄「よし分かった!司くんにはお土産もらった恩があるからな。俺もなんか持ってった方がいいな」
一歌「そっか。じゃあ、なに持っていく?」
兄「そこに関しては心当たりがある。今、トウキョウ駅の店でカー○ィとコラボしている店があって*1な。そこのデザートをお土産に買っていくつもりだ。あと一緒にカー○ィカフェにも行ってお土産とか…あとぬいぐるみもたくさん買いたいな!!」
一歌「――――」
この人、いつの間にか司さんへのお土産からカー○ィ関連のことを楽しむことにシフトチェンジしてるんだけど。
ていうかさっきまで無駄遣いがどうとか言ってた人が散財する発言を…。いや、そもそもお兄ちゃんからしてみればカー○ィへの投資は無駄遣いでも何でもない必要経費か…。
まぁお土産を買うという趣旨からは外れてないから別にいいけど…。なんだか心配になってきたな…。
* * * * * * * *
と、言うわけで土曜日になったのでシブヤ駅待ち合わせして、お兄ちゃん以外全員集合しました。
穂波「みんな、お待たせ」
咲希「ほなちゃ~ん!こっちこっち~!」
志保「これで、あとはお兄さんを待つだけだね」
お兄ちゃんは私と一緒に家を出てシブヤ駅に到着して、一番最初に志保と合流したと同時に別れて魔法で透明化+風魔法でトウキョウ駅へと向かっていった。あまり見られないようにしたとはいえ首都圏だから人通りも多いし本当に大丈夫かな…。
穂波「お兄さん、どうかしたの?」
志保「司さんたちへのお土産を買いにトウキョウ駅まで行った。私と合流したと同時に出発したからそろそろ終わってもおかしくないんだけど…」
一歌「……あれ、お兄ちゃんからメールだ」
噂をすればなんとやらで。お兄ちゃんからメールが送られて来た……って、あ。
咲希「お兄さん、なんて?」
一歌「……『迷った。まだ買えてない。先行ってて』だって…」
咲希・穂波・志保「「「――――」」」
そうだった…。よくよく考えれば分かることだった。お兄ちゃん、土地勘全然ないんだ…。トウキョウ駅ってようは都会の中でも一番って言ってもいいほど複雑だから、初心者一人で行かせるようなところじゃなかった…。
あそこ、地下はスマホの地図もほとんど役に立たないし…。迷うのも無理ないんだよなぁ…。
一歌「いつも遠出する感覚で送りだしたのが間違いだったなぁ…」
咲希「トウキョウ駅って初めての人は絶対に迷うだろうし、仕方ないけど…」
穂波「それに加えて、お兄さんだもんね…」
志保「慌ててる姿が目に浮かぶ…」
負の方向で信頼があるからな、お兄ちゃんって。
あっちで目的も達成できてない以上ここで待ってても仕方ないし、出発した方がいいな、これ。
一歌「それじゃあ、先に行こっか」
咲希「うん!!」
* * * * * * * *
そして、お兄ちゃんより先に目的地である【フェニックス・ワンダーランド】に着いた――はずだったのに。
兄「あ、一歌!みんな、待ってたぞ~!」
一歌「お兄ちゃん!?え、なんで!?」
フェニランの入口付近には既にお兄ちゃんが待機していた。
え、さっきまでトウキョウ駅で迷ってたよね!?魔法あり気とは言え早すぎない!?
志保「え、お兄さん、いつの間に…?」
兄「うん。以外と早く終われた」
穂波「でもさっきまで迷ってたんですよね…?」
兄「うん。で、俺だけじゃ埒が明かなかったからさ、セッちゃんに電話して案内を頼んだんだ」
咲希「なるほどー!そうだったんですね!!」
セッちゃんか…確かにセッちゃんなら道案内とかできそうだけど、よく協力してくれたなぁ…。いやでもセッちゃんってすごいけど基本的にフォルム鳥だし、やってる仕事発注しか知らないけど逆にそれ以外できなさそうだし、ムラサメさんがいるとはいえほとんどマスターが仕事してるから時間はあるのかな…。
兄「いやぁ、なんとかなると思ってたんだけど、流石トウキョウ駅…広すぎた…。念のため精霊に一歌たちが集まったら教えてくれるようにお願いしといてよかった…」
志保「タイミングが都合よすぎたの、それが理由だったんですね…」
穂波「確かに…お兄さんのメール来たの私が来たのとほぼ同じだったもんね」
なるほど。あの都合のいいタイミングのメールのカラクリはそれだったんだ。確か精霊さん、どこにでもいるって話だったし、精霊ネットワークで基本どこからでも情報得られるし、デメリット除けばいわば全世界に設置された証拠のない盗聴器……って、これ、よくよく考えてみれば―――、
一歌「お兄ちゃん、もしかしてだけど精霊さん使って普段から誰かのこと監視したりしてないよね?」
兄「え?ハッハッハッ、ないない!!そもそもそういったプライバシーに抵触するようなことに精霊は協力してくれないよ。そんなこと精霊にお願いした次の日には俺は肉塊にでもなってるよ!」
一歌「……そっか」
精霊さんのこと悪用してるんじゃないかって一瞬思っちゃったけどあのお兄ちゃんがそんなことするわけないしそもそもそんな思考に至る知能があるとは思えないその際の反動が怖すぎるんだけど。
なに?次の日に肉塊になるって。精霊の話聞くたびに思うんだけどお兄ちゃんって本当にナニと会話してるの?
兄「そもそも精霊怒らせたら最悪“人類滅亡”だし。引き際くらいは把握してるよ」
一歌「ホントかなぁ…」
志保「ちょっと待ってください。え、人類滅亡ってなんですか!?精霊怒らせたら人類滅ぶんですか!?全人類亜竜化じゃなくて!?」
あ、しまった。普通に会話してたけど人類滅亡の件は家族と東雲さんって言う姉弟の二人以外知らないんだ。話したら話したで混乱するだろうなって黙ってたのが裏目に出ちゃった…。
現に志保はもちろん咲希も穂波も顔真っ青にしてるし。
兄「あ、いや、亜竜化は貌の精霊を怒らせた際の現象だよ。この前はちょっと水の精霊へのお礼を言うのを10分くらい忘れて危うくこの惑星の地表の8割が大波に飲み込まれるところだったんだよ」
咲希「へぇ~…地表の8割が大波に……って、普通に大惨事じゃないですか!!?」
穂波「なにをやったらそんなことになるんですか!?」
兄「え、家の花壇の水やりと壁掃除」
志保「たったそれだけで!?礼を欠いた代償が厳しすぎませんか!?」
うん、そうだよね。危うく家の水やりと壁掃除だけで人類が滅びるところだったから、他の人からすればたまったもんじゃないよね。でもこの厳しさは水や貌の精霊さんに限らず、すべての精霊さんに適応される。現に――、
兄「いやぁ~でもなぁ、精霊からしてみれば人間なんて大した存在じゃないし…虫や豚と対して変わらないし。人間に対しても“なんか生き物”ぐらいの緩い認識だから絶滅しても痛くもかゆくもないはずだよ」
穂波「虫や豚と変わらない…」
咲希「“なんか生き物”…」
この時、咲希たちのとっくに粉々に砕け散っていたはずの精霊の観念が破片を超えて砂となって流れ去っていくのを感じた。
志保「いや、いやいや!なんでそんなに落ち着いていられるんですか!?人類滅亡の瀬戸際だったんですよね!?」
兄「…慣れ、かな。ほら、【星のカー○ィ スーパーデラックス】のサブゲームの【かちわりメガトンパンチ】では『ポッ○スターに入ったヒビの深さを競い合う』って言う星滅びてもおかしくない競技をしてたし…。最大スコア叩き出すと真っ二つに割れるし…。なんならそうなるよう試行錯誤してたし…」
志保「カー○ィってそんな頭のおかしいゲームだったんですか…!?」
志保がカー○ィに対してとんでもない誤解を…。でもそうなってもおかしくないくらいお兄ちゃんの思考回路が…。
一歌「ま、まぁ精霊さんの話はこれで終わりにして…そろそろ、行かないとショーに間に合わないよ」
兄「あ、ホントだ!始まる前に司くんと会っておきたかったけど、この時間じゃ無理か…。まぁショー終わったあとでもいいか」
一歌「…?」
少しの疑問を持ちながら、始まりの時点で意気消沈している3人を連れて、私たちはショーステージへと足を運ぶ。
フェニラン自体広いし、余裕を持って行かないと間に合わないから、私たちがショーステージに着いたのは開演の5分前と、結構ギリギリだった。
席はすでにある程度埋まっていて、空いている席がないか見渡した。
咲希「な、なんとか間に合った~」
穂波「でも席はほとんど埋まっちゃってるね…」
志保「最悪、バラバラに座るのも検討しないとね…」
席の空きがないかと周りを見て見たら、都合よく大きく席の空きを見つけることができた。でもこの席――、
一歌「見つけた、けど…」
穂波「4人分…どうしても一人余っちゃうね…」
見つけた席は4人分。どうしても一人余ってしまう計算だ。
兄「じゃあ俺が別に席に座るよ。幸い、前の方が一人分空いてるし」
そう言ってお兄ちゃんが顔を向けた先には今は私たちがいる席の一つ前が一人分空いている。これならまとまれるし、見失うこともなさそう。
穂波「なんだか、すみません…」
兄「いいのいいの!仲良しで固まってた方がいいでしょ。仲の良いチームの中に異物が入ると空気が気まずくなるし。薔薇の中にラフレシア……白鳥の中にオークが混じってたら不快だもんな。はは…」
一歌・咲希・穂波・志保「「「「――――」」」」
急に異世界での重い話を持ち出さないでほしい…。これから見るのは楽しく笑顔になるためのショーなんだけど、開幕から気分が駄々下がりになっちゃったよ…。
私たちが並んで後ろの席に、そしてその前の席、咲希の前にお兄ちゃんが座る形になって落ち着いた。
そして、私たちの気分とともに暗くなっていくステージ。そして始まったショーステージ。
ストーリーは、不思議な国に迷い込んだ少女が誘惑に打ち勝って元の世界に戻る、だったっけ。“不思議な国”って部分で普通だったら“不思議な国のアリス”を思い浮かべるけど、“元の世界に戻る”の部分がお兄ちゃんの話と被ってるんだよな…。
そうして始まった一作品目。草薙さんが演じる主人公の少女、アリエスが目覚めるところから始まった。
アリエス(寧々)『あれ、ここは…どこ?』
それを見て、私はどこか既視感を覚える。あれ、この演目――って言うかショー自体は新作だから始めて見るはずなのに――って、あ。
これ、お兄ちゃんの異世界初日と被ってる…。お兄ちゃんも真っ暗闇の洞窟の中にたった一人で目覚めていたから、そこで既視感を覚えたんだ。まぁ、アリエス(草薙さん)が目覚めた場所は暖かい森の中だけど…。
ナレーション(類)『森の中で目覚めたアリエスは、戸惑いと少しの恐怖を抱えながら森の中を歩きました。すると…』
少女(えむ)『わんだほーい!!』
アリエス(寧々)『キャッ!』
しばらく歩いていたアリエス(草薙さん)が、草むらから突然出てきた女の子(鳳さん)に驚いて尻もちを着いた。
――この光景、お兄ちゃんがゴブリンと遭遇して尻もちついた光景とマッチするな。
それからしばらく、ショーの内容はまるで狙っているかのようにお兄ちゃんの異世界初日とマッチしたり正反対だったりした。
アリエス(草薙さん)が遭遇した少女(鳳さん)と神代さんのものであろう機械の動物さんたちに道案内されたり。
このシーンはお兄ちゃんが傭兵の人たちにボロ雑巾のように担がされた光景と正反対だった。
不思議の国の王様(司さん)に歓迎されたシーンは壮大だった。司さんの声がよく響いたのもあったけど、『来訪者は宝だ!歓迎するぞ!』というセリフはお兄ちゃんがたわし(銅貨120枚)よりも低い値段(銅貨3枚)で売られた状況と対応がまるで正反対だった。
そこでたくさんの動物に囲まれて美味しい食事をして一週間過ごすというナレーションが挟まれたけど、対してお兄ちゃんは暗い牢屋の中で完全に忘れられて一週間放置されてたなぁ…。飲まず食わずで。あの壁に刻まれた私の名前とカー○ィの名前は普通にホラーだった。
一歌「――――」
まだ序盤だというのに、もうお腹いっぱいだった。どうしよう、単純に楽しめない。どうしてもお兄ちゃんの異世界冒険がチラついて純粋に見れない…!!
私は、チラリと右隣にいる咲希たちに目線を送った。
咲希・穂波・志保「「「――――」」」
案の定というか、みんなも私と同じくショーの内容にお兄ちゃんの異世界初日がチラついてちゃんと楽しめてないっぽい。
ていうか、ここまで被ったり正反対になることってある…?司さんたち、お兄ちゃんの秘密知らないんだよね…?
いや、それよりも、私が気になるのは――、
兄「―――――」
お兄ちゃんが全く微動だにしないこと…!いや分かるよ?開演してるから私語とか慎むよね?集中してみるよね?それが当たり前だもんね。でも逆にそれが怖いんだけど…!今お兄ちゃんがどんな顔しているのか怖くて見れない…。正直、席が前で良かったと思う。
あぁ、これ、ある意味地獄だ…。
研究者(類)『アリエス。君に残された時間はあと3日だ。それまでに帰らなければ、キミは二度と元の世界に戻ることはできない』
アリエス(寧々)『そんな…!』
物語中盤、明かされる真実。国の研究者(神代さん)が言うにはこの世界に迷い込んだ人間は10日以内に元の世界に戻らなければ永遠に帰ることができないらしい。
かく言う研究者(神代さん)もこの世界に迷い込んだ住民らしく、その事実に気付いたあとは既に後の祭りだったようだ。そこで、研究者(神代さん)はこれから先迷い込んでくるであろう来訪者のために元の世界に戻る方法を調べ続け、元の世界に戻りたいと願う来訪者がいたならばその手助けをしているらしい。
研究者(類)『二日後にまた来るよ。それまでに考えておいてくれ。この世界に居続けるか、元の世界に戻るかを。後悔のない選択をしてくれたまえ』
アリエス(寧々)『そんな…』
あ、ようやくお兄ちゃんの異世界初日とは関係のない道筋に…。
それからは気分を入れ替えて見ることができた。それから話は進み、その二日間でアリエス(草薙さん)の葛藤が緻密に描かれて、思わず固唾を飲んだ。
そして、最終的に元の世界に戻ることを決意したアリエス(草薙さん)は、城を抜け出して森の中で研究者(類)と合流する。
だけど、そこで衝撃の事実が判明した。
研究者(類)『ククク…この時を、この時を待っていた!!』
アリエス(寧々)『研究者さん…?』
研究者(類)『私は、君を、帰ろうと決意する人間をずっと探し求めていたんだ!』
そこから明かされた真実は、アリエス(草薙さん)や観客を驚かせるには十分なものだった。
実は研究者(神代さん)の研究の実態は自分が元の世界に帰るためのものであり、この世界でようやくその技術を確立できたものの、そのためにはまだ期限内――つまり帰ることのできる期間である来訪者を生贄に差し出す必要があった。だけど、今まで出会った来訪者は全く帰ろうとする意志を見せなかったらしい。
研究者(類)『帰る意思のないものを無理やり連れ去ろうにも、城のものが手を貸してくれるとは到底思えなかった。だから私は、自らの意思で城を抜け出す来訪者を待っていたのさ。君のような、ね』
アリエス(寧々)『そんな…!』
研究者(類)『さぁ、今こそ悲願の成熟の時…大人しく私の元へ――』
国王(司)『させるかぁああああああ!!』
その瞬間、舞台袖から国王様(司さん)が物凄い爆発とともに空から降ってきて、研究者(神代さん)とアリエス(草薙さん)の間に跳んで、研究者(神代さん)に対して剣を振るった。だけど、その剣は届かず避けられてしまった。
国王が着地すると同時に、少女――エンリ(鳳さん)が国王(司さん)の隣に並んでアリエス(草薙さん)を守るように立ちはだかった。
研究者(類)『国王、何故…』
国王(司)『彼女の様子がおかしかったから、エンリ(えむ)に彼女を気に掛けるよう言っていたのだ。そしたら案の定…まさかそのようなことを企んでいたとは』
研究者(類)『なんとも面倒な…だがまぁいい。私が帰還の研究ばかりしているとでも思っていたのかい?自衛のための魔法くらい、とっくに習得済みさ!』
すると、研究者(神代さん)の持っていた杖からまるで火炎放射器のように炎が噴出した。それから国王(司さん)とエンリ(鳳さん)VS研究者(神代さん)の闘いが始まった。闘いは壮絶だけど、とっても演出が凄くて綺麗だった。
――お兄ちゃんの異世界初バトルは、モザイク必須の血みどろとした闘いだったけど。
そんな熾烈を極めた闘いは、辛勝ながらも国王(司さん)とエンリ(鳳さん)だった。
敗北した研究者(神代さん)は、そのまま兵士(着ぐるみさん)によって連れていかれてしまった。
エンリ(えむ)『アリエスちゃん、大丈夫だった!?』
アリエス(寧々)『うん…。助けてくれて、ありがとう。それと、ごめんなさい。皆に迷惑を掛けちゃって…』
国王(司)『何を言う!謝るのはむしろこちらの方だ!……実は、言っていなかったことがある。この国に来る来訪者は全員、元の世界でなんらかの苦しみを抱えたものたちなんだ。だから、来訪者たちはみな、この世界に来れたことを幸福だと言ってくれた。だから、アリエス。君もそうだと勝手に決めつけ、全てを話していなかった。これは俺の責任だ…!』
そして、始まる国王(司さん)の独白。それに対して、アリエス(草薙さん)は――、
アリエス(寧々)『いいんです。そうだとしても、あなた達が私のことを思ってくれていたのは、確かだから』
国王(司)『アリエス…』
エンリ(えむ)『アリエスちゃん、行っちゃうんだね…』
アリエス(寧々)『うん。ありがとう。国王様。エンリ。あなた達との出会いのおかげで私はきっと、元の世界でもやっていけると思うから…』
そうしてアリエス(草薙さん)の後ろに電撃のようなものが発生し、アリエス(草薙さん)はそこを通ってステージから消えていった。
その後に後日談が流れ、舞台は終了した。
好印象な感想を口にしていき帰りの支度をする他のお客さんを尻目に、私たちはただずっと座っていた。
ショー自体はとっても楽しかった。もう、文句のつけようのないくらい。本来であれば。でもこの演劇見てるとどうしてもお兄ちゃんの異世界の初回イベントを思い出して純粋に楽しめなかった…!
しばらく動かなかった私たちだったけど、前に座っていたお兄ちゃんが立ち上がってこっちを振り向いた。
兄「それじゃあ行こうか。終わったら来てって連絡あったし」
一歌「う、うん…」
兄「えっと、待ち合わせ場所は…」
幸い、というべきかなんというべきなのか、お兄ちゃんの顔はいつも通りだった。だけど、それが逆に怖くて「今回のショーどうだった?」って聞けなかった。
そのままお兄ちゃんの後に付いて行く形で私たちは舞台裏へ続く扉へとたどり着いた。なんでこんなスムーズに辿り着けただろうと不思議だったけど、司さんに場所教えてもらったとか…?でも気まずすぎてそれすら聞けない…!
コンッコンッコンッ
お兄ちゃんが扉をノックする音が鮮明に聞こえる。
少し待つと、扉が開いて―――、
司「おお陽介!!咲希!!一歌!!穂波!!志保!!待っていたぞ!」
司さんが相変わらずの大きな声で出迎えてくれた。
私たちが中に入ると、まだステージ衣装のままの司さん、鳳さん、草薙さん、神代さんがいた。
えむ「こんにちわんだほーい!みんな、来てくれてありがとうー!」
咲希「こんにちわんだほーい!お兄ちゃん、えむちゃん、みんなお待たせ!!」
穂波「ショーが終わったばかりにすみません…」
類「気にしなくて構わないさ。ところで、彼が…」
神代さんの視線がお兄ちゃんに向いた。お兄ちゃんが会釈をすると、口を開いて自己紹介をした。
陽介「司くんは久しぶり。それと、初めまして。【星乃陽介】です。いつも妹がお世話になってます」
えむ「よろしくね、陽介くん!【鳳えむ】だよ!」
類「【神代類】。【ワンダーランズ☆ショウタイム】で演出家を担当しているよ」
寧々「は、初めまして。【草薙寧々】です…」
陽介「ご丁寧にどうも。あ、そうだ。今日は呼んでくれてありがとう」
司「なに!お安い御用だ!元々、陽介を元気づけたいと思っていたからな!だが、その前に元気になってくれていたようで何よりだ!それに、俺たちのショーでさらに元気になっただろう!?」
来た…!今の私たちじゃ絶対にできない質問が。確かに、ショー自体は面白かったんですけど…。でもショーの内容がお兄ちゃんにとってある意味地雷って言うか…。
私たちは恐る恐るお兄ちゃんの顔を見ると…。
陽介「うん。とっても良かったよ。ショー……って言うかフェニラン自体もう何年振りになるか思い出せないけど、すっごい魅力的だった。ちょっと昔を思い出したよ」
司「そうか!見に来てもらった甲斐があった!」
あれ、意外と反応が普通だ…。まぁ異世界とか魔法とかの話をするわけにはいかないからそこは分かるけど、お兄ちゃんの場合素で言ってるのか気を遣っているのかが分からない…。
「昔を思い出した」って言葉もフェニランに来ていたことを思い出したのか異世界でのことを思い出したのかどっちなのか判別がつかない。
でも、何事もないから良かった、かな…?
司「そういえば陽介!ゴンから聞いたが、職に就いたそうではないか!」
その時、聞き捨てならない言葉が聞こえた。
そうだった…!司さんとゴンさん(13歳)は友達で連絡を取り合えるんだった!そして、ゴンさんとお兄ちゃんは同じ仕事場の先輩(ゴンさん)と後輩(お兄ちゃん)の間柄…。さらにお兄ちゃんの職場は戦闘能力と不思議な力必須のバイオレンス職業…メンバーもイカレた(一部例外あり)人しかいない超危険地帯。
そんな場所に就いているなんて知られたら、お兄ちゃんがそういった不可思議な力を持っているって言う証左になる…!こんなところに穴があるなんて…!
でも当の本人はあっけらかんとしてるし…これ、多分その可能性に気付いてない!
兄「あ、ゴンさんから聞いてたんだ。そうなんだよ、マスター…知り合いの喫茶店のマスターに紹介してもらってさ!いつまでも無職でいるわけにもいかないから、本当に助かったよ」
司「喫茶店どんぶらのマスターだな?俺はまだ会ったことはないが、時間を見つけて会いに行きたいな」
兄「どれも美味しいからおすすめだよ!あ、そうだ。お土産持ってきたんだよ。お土産。流石に手ぶらで来るのはアレだったから。皆とその家族で食べて」
司「なに?呼んだのは俺だから気遣いなど無用だが…せっかく持ってきてくれたんだ!ご厚意に甘やかせてもらおう!だが、今は手ぶらだろう?どこかに置いてきたのか?」
兄「あぁ、それなら収納魔法の中に…」
そう言ってお兄ちゃんは収納魔法から大きめの袋を取り出して―――って
一歌「あ」
咲希「あ」
穂波「あ」
志保「あ」
兄「――――、あ」
司「陽介、それは…?」
類「空間に、穴が…」
寧々「え、どうなってるの、ソレ…?」
えむ「え~~!!すごい~~い!!何もないところからおっきな袋を取り出しちゃった!今、魔法って言ったよね!?陽介くんって、魔法使いなの!?」
鳳さんの大きな声がショーステージの裏によく響いた。
あまりにも綺麗な形で不意打ちにこの場で披露した収納魔法を見て固まっていると、お兄ちゃんはそそくさと取り出した荷物を収納魔法の中に戻して、空間を閉じた。
そして、次の瞬間―――司さんと鳳さんの頭を鷲掴みにした。
兄「記憶の精霊よ。忘却の彼方へ消し去―――』
その瞬間、私たちの行動は早かった。
一歌「お兄ちゃん!!ストップストップ!!」
志保「咲希!穂波!みんなを!!」
私と志保でお兄ちゃんを二人から引きはがして取り押さえた。
穂波「みなさん!こっちへ!!」
寧々「え!?え!?」
神代「まさか、魔法が実在したなんて――」
えむ「え、どうしたのみんな!?」
司「咲希!?一体どうしたというのだ!?」
咲希「お兄ちゃん!!みんな!!逃げて!!」
次回、【強制敗北イベント:ワンダーランズ☆ショウタイムのメンバーをお兄さんから守り切れ】
結論から言おう、無理です!!