異世界セカイ   作:龍狐

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21 礼節は人であると認められてからだ

 記憶消去事件から一夜明けた。

 あのあと、目を覚ました四人+ネネロボさんをなんとかみんなで誤魔化してお土産を渡した後、その場は解散になった。

 

 本当にみんなには、特に咲希には本当に申し訳なかった。目の前で大事な家族が記憶を消される光景を間近に見させられたから。

 それと、明日の登校が憂鬱すぎる。理由?そんなの明日から鳳さんとどんな顔して合えばいいか分からないからだよ。

 鳳さんはあの時のことすっかり忘れてるから問題ないだろうけど、あの光景を最後まで見ていた私たちにとっては気まずすぎてどう対応すればいいのか分からない。できるだけ普通を装いたいけど、どれくらい誤魔化せるか…。

 

 それに今度から司さんたちと会ったらどう反応すればいいのかも不安すぎる。ちゃんと面と向かってハキハキと話せる自身がない。

 朝から憂鬱な気分になりながら、私は階段を下りた。

 

 

一歌「おはよ――」

 

 

ルカ『それで、鮭をさっと焼いて油を抽出して、その油で野菜を炒めると風味が良くなるのよ』

 

母「なるほどね~…いつも野菜から先に入れてたけど、そうすれば確かに美味しくなりそう」

 

ルカ『鮭を先に焼けば身を崩すこともなく見栄えも良くなるから、おすすめよ』

 

母「すごいわね…。あ、一歌、おはよう」

 

 

一歌「――――」

 

 

 そこには、お兄ちゃんのセカイのルカがお母さんに料理を教えている光景があった。

 

 

 

―――?

 

 

 

兄「あ、一歌おはよう」

 

父「……やっぱり一歌も固まってるな。まぁ無理もないが」

 

 

 二人の言葉が耳から耳へ流れて、何を言ったのかもう思い出せないけど、問題はそこじゃない。

 なんでセカイの住人であるルカが普通にお母さんと会話を?

 

 私はそのままお兄ちゃんに駆け寄って両肩を揺らした。

 

 

一歌「お兄ちゃんちょっとどういうこと!?」

 

兄「あ、分かっちゃった?アレ新しく支給された大きめのタブレット――」

 

一歌「機器の話はしてないよ!そうじゃなくて、なんでルカがお母さんに料理を!?ていうかなんで普通に出してるの?こういうの普通隠すものでしょ!?」

 

父「え、なんだ。一歌知ってたのか?」

 

 

 お父さんの言葉がようやく耳から頭に入って、硬直した。

 この反応じゃ私も前々から知ってたって言ってるようなものだ。

 

 

一歌「え、あ、その…」

 

父「すごいよなぁ。バーチャルシンガータイプのホログラムAI。完全に3Dだし、あそこまで正確に受け答えができるなんて…とんでもないオーバーテクノロジーだな、本当に…」

 

一歌「え、バーチャル、シンガー、タイプ、ホログラム?AI?」

 

 

 全然違う答えが出てきて、私の脳は停止した。え、どういうこと?

 そのまま硬直していると、お父さんが続けて説明をしてくれた。

 

 

父「陽介の働いてるところで最近導入したホログラムAIで、それもお試し段階で最初のテストモニターに陽介が選ばれるなんてな…」

 

 

 その説明が頭に入ってくるまで、きっと私の頭の上にはloadingの文字と青い光が回転していただろう。

 すると、机に置いてあったお兄ちゃんのスマホからミクが飛び出してきた。

 

 

ミク『おはよう一歌ちゃん!』

 

一歌「え、お、おはよう、ミク…」

 

ミク『私たちがいてビックリした?したでしょ!』

 

一歌「う、うん。すごく……。なんで、普通にお父さんたちの前に?」

 

ミク『切っ掛けはね、昨日のワンダショ記憶消去事件だよ』

 

一歌「あ…」

 

 

 そうだ、昨日司さんたちの記憶を消したことに関してあの後家族含めてお兄ちゃんに説教したんだ。記憶消去を強行した理由が理由だったけど、それは納得とは別。ていうかそもそも事の発端はお兄ちゃんが司さんたちの目の前で収納魔法を見せたことが原因なため、認識の矯正が急務だった。

 ちなみに、なんでお父さんとお母さんがお兄ちゃんが記憶消去の魔法を使えることを知っているのかと言うと、時は琴音さんが来たときまで遡る。

 

 お兄ちゃんがYo○Tubeアカウントの垢BANの件を知って意気消沈したその後日のことだった。

 インターホンが鳴らされたのと皮切りに、私たち家族は急いで玄関の扉を開けた。その時に、あのお兄ちゃんの姿を見て思考が停止した。ただでさえ老け顔だった顔がさらに老けてしかも車椅子に乗っていたから。琴音さんが車椅子を押している光景が、完全に老人介護をするお孫さんにしか見えなかった。

 

 ていうかこの車椅子に乗ってる老人がお兄ちゃんだとは到底思えなかった。

 

 

琴音『あ、どうも…陽介の会社に勤めてます【黒竹 琴音】です。陽介のこと送りに来ました』

 

一歌『え、お兄ちゃん…?あの、どこかのおじいちゃんと間違えてませんか…?』

 

琴音『気持ちは分からなくはないが正真正銘お前の兄だ』

 

父『陽介、なのか…?いくらなんでも変わりすぎじゃ…』

 

琴音『マスター曰く、記憶消去魔法の反動がデカすぎたのと、衝撃の事実のダブルコンボで心が折れたらしく…このありさまに…』

 

母『え、記憶消去魔法…?』

 

一歌『あ…』

 

 

 お母さんとお父さんが、記憶消去魔法のことが琴音さんの口から出たことで怪訝な表情を浮かべた。この魔法については、二人の記憶が戻ることを考えて教えていない。でも琴音さんはそれを知らないし、完全に迂闊だった…!

 

 

琴音『え、陽介から聞いてないんですか?陽介、異世界で辛いことがある度にメモした後にその魔法で自分の記憶消してるんですよ』

 

父『自分の記憶を!?え、それって大丈夫なんですか!?』

 

琴音『古い記憶を消すと整合性が取れなくなって人格に影響が出る魔法ですけど…基本的に即断即決で自分に使ってますよ』

 

母『記憶を消すほど、辛い目に…!?異世界のことあまり観せてくれなかったけど、そんな理由があったなんて…』

 

 

 お父さんとお母さんは衝撃の事実を知って鬼気迫る表情をしてるけど、私は別の意味で鬼気迫っていた。いつどのタイミングで、なにが切っ掛けで二人の記憶が戻るか分からないから。

 記憶消去魔法の詳細を知っている琴音さんの前で二人が記憶の精霊さんの警告である鼻血を流せば、完全アウト。これ以上琴音さんを喋らせたら不味い。早く何とかしな―――、

 

 

琴音『それにしてもこのメンタルバケモンがここまであっさりぶっ壊れるなんて…。異世界でオーク扱いされても突き進んだ気骨はどこいったんだか…

 

 

――――あ

 

 

父『―――!?』

 

母『―――!?』

 

一歌『お、お父さん…、お、母さん…』

 

琴音『え、なんで鼻血…、精霊の、警告…?』

 

 

 遅かった。

 消された記憶の内容を直接聞いた二人は、鼻血を垂らして唖然としていた。あの表情、私の時と同じだ。お兄ちゃんがたわし以下の値段で売られた内容を思い出したときと、全く一緒だった。

 

 

父『思い、出した…』

 

母『陽介は、異世界転移直後で、オークの、亜種って…』

 

琴音『え、あ、もしかして陽介のヤツ、二人からそれに関する記憶を…?』

 

一歌『……はい』

 

 

 混沌と化した玄関で私はただ俯いて返事をすることしかできなかった。

 その後、リビングにてお兄ちゃんと私によって隠されていた部分の異世界冒険を琴音さんが持っていた“記憶再生の呪符”でお兄ちゃんの記憶を閲覧して二人はちゃんと見ることになった。

 異世界での初回イベント(一週間の悪夢)、マスターとの出会い、エルミリアさんとの出会い、水の湧き出る壺と――、時系列順に観せていたけど、

 

 

母『ウッ…!』

 

琴音『大丈夫ですか?無理しない方が…。一回休んだ方いいですよ。こんなの一気に見る必要は…』

 

父『いえ、息子がどんなことになったのか、キチンと見る義務があるので…』

 

琴音(……親ってすげぇ)

 

 

 でも、あんなの一気に見たところでより体調を悪くするだけだ。特に初回イベントや水の湧き出る壺の時なんて狂気過ぎて思い出すだけでも少し吐き気がするし。記憶の精霊さん、グロへの規制はしてくれるけど狂気への規制は全然してくれないからな…。

 

 そして、流石にこれ以上見せるのは危険だと思ったのか琴音さんはエルミリアさんの指輪売却の場面まで再生すると、そのまま記憶映像を消した。

 

 

琴音『流石にもう、これ以上は見せられません。休むべきです』

 

母『はい…』

 

父『ありがとう、ございます…』

 

 

 きっと、いや絶対二人の感情はグチャグチャなはずだ。

 一番最初はお兄ちゃんなにも悪くないのに酷い目に合い過ぎてると思ったら、急に現代の喫茶店に意識だけ移動したりとか、初対面の女性に緊急事態とはいえほぼ裸までにひん剥いたりとか、指輪送ったその後日に即売却したりと100%お兄ちゃんが悪い映像を一気に見せられて、グチャグチャにならないはずがない。

 

 いろいろ言いたくても当のお兄ちゃんは意気消沈して会話できる状態ではない。

 結局のところ、その後は琴音さんは帰った。

 

 その四日後、なんとか気を取り戻したお兄ちゃんと改めて話合った。お兄ちゃんからすれば自分の生まれもった容姿で異世界でオークの亜種扱いされたことは二人は何も悪くないので気にしてほしくなかったというのが本音なため、お父さんもお母さんもある程度は受け入れてくれた。

 でも、流石に無許可で記憶を消したことには怒っていたためそこは叱られた。

 

 

 まぁこんなことが過去にあったわけだけど、昨日の記憶消去事件のことでお兄ちゃんは叱られた。まぁ当たり前だけど。お兄ちゃんも、そのきっかけが完全に自分にあるって分かってるから素直に怒られたけど、朝になったらピンピンしている時点で、昨日のことをすでに忘れたのかそれとも覚えている上でいつも通りなのか…。ともかくメンタルが強すぎる。まぁこれくらいの鋼メンタルがあったからこそあの異世界で生き残れたんだろうけど。

 

 というかこの鋼メンタルだって元からあったのか異世界で培った(記憶消去の副作用とも言う)のか分からないし。

 

 

ミク『まぁそんなわけだから。陽介が魔法を外であまり使わないように私たちが来たってわけ!』

 

陽介「それで、商会メンバー他のみんなに話したらさ…ミクたちのこと見られたらソイツの記憶消せばいいって条件でOKくれたんだよね…」

 

父「機密保持のためとはいえ過激すぎないか?」

 

陽介「いやでも事実見られたらヤバイし…。だから、こればかり仕方ないよ」

 

 

 また記憶消去の話を…本当に反省してるの、この人?まぁミクたちのこと見られたら大変っていうのは分かるけど…。

 すると、机の上のミクが私に対して手招きをしているのが見えて、私はミクに顔を近づけた。

 

 

ミク『ちなみにだけど、これ全部そういう“設定”だからね♪』(小声)

 

一歌「あ、うん…」

 

 

 やっぱり、そういう感じだったんだ。

 お父さんたちの前で普通にミクやルカを出しているから、セカイのことまで喋っちゃったのかと焦ったけれど、ホログラムAIだって言われた時点で二人には別の説明がなされていることは分かった(理解には時間がかかったけど)。

 それに、普通だったらそんなオーバーテクノロジー信じられないだろうけど、お兄ちゃんの職場の人は特殊な能力あり魔法ありのバイオレンスな職場。そんな場所ならそんな技術があってもおかしくはない。木を隠すのなら森の中というわけだ。

 

 すると、ミクのいたスマホから先ほどまでタブレットにいたルカが飛び出してきた。

 

 

ルカ『おはよう、一歌ちゃん。挨拶が遅れてごめんなさい』

 

一歌「ルカ。ううん、大丈夫だよ」

 

母「ご飯できたわよ。本当にすごいのね、こっちのタイミングで全部受け答えしてくれるし、感情も豊かで…本当の人と喋ってるみたいだったわ」

 

一歌「あはは…」

 

 

 実際はAIなんかじゃないから返答しずらい…。

 苦笑いしながら席に付くと、白米とともに出てきたのは野菜炒めの上に焼いた鮭が綺麗な状態で乗っている料理だった。鮭とバターの風味が食欲をそそっている。

 

 

兄「お。美味しそ!」

 

母「ルカがセレクトしてくれたのよ。冷蔵庫にある食材を教えたら、すぐに作れるレシピを教えてくれたのよ」

 

兄「いやー、流石毎日みんなの分作ってるだけありますね!」

 

ルカ『……えぇ。日々ネットからメニューを更新しているから、このくらいお手の物よ』

 

 

 あッッッぶない!!

 お兄ちゃん完全に設定忘れてるでしょ!!咄嗟にルカがフォローしてくれたけどホログラムAIが他の人の食事作るっておかしいからね!?そもそも実体ないからそんなことできないからね!?

 

 そして、ドキドキハラハラしながらも食事を終えて食器をシンクでうるかしていると、ルカたちの会話が耳に入った。

 

 

ルカ『いい、陽介?普段は私たちがフォローするけど、結局はあなたが外で魔法の使用を自粛しないと意味がないのよ?』

 

ミク『私たちも他の人たちの前には出れないから、そういう心構え、お願いね!』

 

兄「はい…肝に銘じます…」

 

 

 ミクとルカに怒られて、さすがにシュンとしているお兄ちゃん。本当に大丈夫かな…お父さんとお母さんに怒られてた時もあんな感じだったけど、次の日にはケロっとしてそう。

 

 

兄「ハァ…まさかコッチでも記憶消去の魔法の件で怒られることになるなんて…。異世界でも「軽々しく記憶を消すな」って怒られたっけ…」

 

一歌「え、そうなの?」

 

 

 お兄ちゃんが不意にこぼした言葉に私は反応した。

 まさか異世界でも怒られて――って言うか記憶消去の魔法のことバレたの、異世界の人に?

 

 

兄「あ、うん。この前見せた記憶の後に、オーロラの島で出会った異世界人にな。すっごく怒られた」

 

一歌「オーロラの島…確かに言ってたね。どんなところだったの」

 

兄「綺麗だったぞ。オーロラは。見てみるか?」

 

一歌「うん」

 

 

 私はお兄ちゃんの隣の席に座ると、それに反応してかお父さんとお母さんも席に座った。

 

 

母「オーロラの島?すっごい興味あるわ。どんな島なの?」

 

兄「何日も続くオーロラが発生した島で、それを“魔法”的な現象なんじゃないかと思って行ってみたんだ」

 

父「でも、陽介が転移した異世界は魔法が普通じゃなかったんだろ?あり得るのか?」

 

兄「大罪竜がいるからそういうのがあっても不思議じゃないよ。凍神剣だってそうだし。で、帰還の手がかりにならないかと思ってさ。まぁとりあえず、記憶再生イキュラス・エルラン

 

 

 詠唱が唱えられると、お兄ちゃんの記憶が再生される。

 始まりは、布を被って馬車の荷車に身をひそめるお兄ちゃんの姿から始まった。……封印都市ルバルドラムでエルミリアさんから逃げたときの構図とまんま一緒だ、これ…。

 

 

兄「オーロラの島に行くために、約一か月くらいかけて港町・シャレグに行ったんだ。徒歩とか荷馬車で…」

 

一歌「お兄ちゃんってこの頃は飛べなかったの?」

 

兄「ああ…いや長距離の飛行魔法は精霊の力をかなり酷使するからさ。いつ戦闘になるか分からない異世界じゃ極力使わないようにしてるんだ」

 

一歌「そうなんだ…」

 

 

 そのまま、街の城壁が近くにまで見え始めるとこっそり馬車を下りたお兄ちゃんはしばらくそこで待機していた。どうやら港町らしく、お兄ちゃんがいた場所でも一望できるほどの大海原がとても綺麗だ。

 そして休憩が終わったのか、馬車が向かっていった先―――街へと歩き始める。魔法を詠唱しながら

 

 

兄(16歳)『機動纏身レグスウィッド・ザルドーナ風迅纏身ワーグレント・ザルドーナ光剣顕現キライド・ルギド・リオルラン闇剣顕現クローシェ・ルギド・リオルラン耐風護身ワーグレント・ザルシェリオン耐炎護身バライブート・ザルシェリオン耐氷護身レイローカ・ザルシェリオン。』

 

 

母「え、なんで魔法を…?」

 

兄「街に入るためだよ」

 

父「いやどう見ても襲撃にしか見えな――」

 

 

 どう見ても「街に入る」のビジュアルじゃないけど、その瞬間、お兄ちゃんの顔面目前まで矢が飛んできて、魔法で軌道が変わって地面に転がった。

 さらに続くと、街の門から鎧を着た複数の人たちが武装してお兄ちゃんに向かって突撃してきていた。

 

 

兵士1『オークが攻めてきたぞー!!』

 

傭兵1『醜いモンスターだ!!』

 

傭兵2『ぶっ殺せ!!』

 

兵士長『大砲よーうい!クソオークを肉片にしてや―――』

 

 

兄「まぁ観ての通り、今回は特にトラブルもなくて割りとゆったりできたよ」

 

一歌(お兄ちゃんの認識と映像に大部齟齬あるんだけど…)

 

母(トラブルしか起きてないじゃない…)

 

父(これトラブルのうちに入らないのか…?)

 

 

 どう見てもトラブルしか起きてないけど、お兄ちゃんにとっては「いつも通り」なためそのままスキップしてしまった。で、その次に映ったのは――、

 

 

兄(16歳)『俺はオークじゃない』

 

住民たち『『『『『はい!ようこそ港街シャレグへ!!』』』』』

 

 

 案の定住民たちを返り討ちにしてボロボロにした図だった。

 ていうか異世界人いろいろ雑すぎない!?オークとして討伐しようとした人に向ける笑顔じゃないでしょそれ。お兄ちゃんももうこの時点で異世界3年目だから大分慣れたんだなぁ…。

 

 

兄(16歳)『ところで、俺は今話題のオーロラの島に行きたいんだが、出せる船はないか?』

 

??『あー…それは難しいと思いますが…?』

 

 

 すると、集団の中から女性の声が響いた。ていうか、なんかこの声聞き覚えが…

 その声の持ち主が前に出てくるとそこには――、

 

 

一歌「え、ロロさん!?」

 

 

 その人はかつてお兄ちゃんと二度合ったことのある商人団体のリーダーの女性、ロロさんだった。

 まぁ二度目の時はお兄ちゃんが記憶消しちゃったから、ロロさん的にはこれが二度目の出会いになるけど。

 

 

ココ『ちょ、ロロ…!』

 

ヴィヴィ『ロロちゃん…!』

 

 

 あ、よく見たらココさんとヴィヴィさんもいる。でも結構ボロボロだ。住人達と一緒に返り討ちにされてたんだ…。

 

 

兄(16歳)『―――お前は?』

 

ロロ『私はロロ。商人をやっています。で、私もその島に行きたいと思っているんですが、とあるモンスターのせいでそれができなくて…』

 

兄(16歳)『とあるモンスター?』

 

ロロ『…続きは、歩きながら話しませんか?』

 

兄(16歳)『分かった』

 

 

 そう言って、ロロさんは杖を突きながら街へと歩みを進めた。そう言えばロロさん、右脚はほぼ素足だけど左脚はほぼ隠してるし、その左脚を引き摺るように歩いてるから、左脚が悪いのかな…?それにヴィヴィさんやココさんがボロボロなのに対して、ロロさんは普通のままだ。まぁロロさんって杖を突いてるから、戦闘向きじゃないもんね…。

 

 ロロさんはココさんとヴィヴィさん、そして仲間の男の人たちのところまで行くと、そこで一回止まった。

 

 

ココ『ロロ!アンタはホント…!』

 

ヴィヴィ『ロロちゃん、大丈夫?』

 

部下男A『姐さんなにやってんすか!ほんと心臓バックバクでしたからね!?』

 

部下男B『アイツ、今話題の魔法を使う魔法オークじゃないっすか!』

 

兄(16歳)『俺はオークじゃない』

 

ロロ『こらっ…!』

 

部下男B『うっ!すみません…』

 

 

 部下の人がロロさんに肘打ちされた。まぁ完敗した相手を怒らせるような失言したら当然と言えば当然だけど。

 まぁ魔法が当たり前じゃない世界で魔法が使える(+オーク顔)だったらこの反応がある意味当然なんだろうけど…

 

 

ココ『それよりロロ。あんた何考えてんの?』

 

ロロ『このまま島に行くことすらできないだろ?なんとしても島に行かなきゃならない以上、降って湧いたチャンスだ。現実的にはこれが一番だろ?』

 

ココ『そうだけど…』

 

兄(16歳)『おい、行かないのか?』

 

ロロ『あぁすみません。順を追って話すので、とりあえず目的地まで行きましょう』

 

 

 満足に歩けないロロさんに合わせてゆっくりと歩きながらの話になった。ただ、やっぱり警戒されているためかココさん辺りからの目線は鋭い。

 

 

ロロ『私たちもそのオーロラの島に行きたいんですが、さっき言ったモンスターのせいで行くに行けない状態なんです』

 

兄(16歳)『遠回りすればいいだけなんじゃないか?』

 

ココ『それが出来たら苦労しない。遠回りする分、食糧も予定より多く積まなきゃいけないし、そんな量を積めるほど私たちの持ってる船は大きくない』

 

ロロ『それで、そのモンスターを討伐してもらう代わりに私達の船に乗せるという条件で、受けてもらえないですか?』

 

兄(16歳)『構わない。他の船に乗るにしても、どうせそのモンスターをなんとかしないといけないことには変わりないからな』

 

ロロ『感謝します…。ほら、ココ、ヴィヴィ。二人も挨拶して』

 

ココ『……ココよ。よろしく』

 

ヴィヴィ『ヴィヴィです。よろしくお願いします…』

 

兄(16歳)「【ネクロディアス】だ」

 

ヴィヴィ『えっと、ネクロさん…?』

 

兄(16歳)『……まぁ、それでいい』

 

 

父(ネクロディアス…!?)

 

母(なんで偽名…!?)

 

 

 また偽名凄いのきた…!

 ていうかなんでエルミリアさんとクレイリアさんに名乗った偽名とは別なの?統一しなよ。

 

 

父「陽介、なんで偽名なんだ…?」

 

兄「いや、知らないヤツに本名教えないでしょ、普通…」

 

母「そ、そう…」

 

 

 出会って3年目のエルミリアさんにも偽名だったけどね。

 本当に信用してないな、異世界人…!

 

 …そういえば、ロロさん、本来の二度目の邂逅の時はお兄ちゃん対してため口だったけど、今敬語だ…。そう言えばロロさんって商人だし、こういう商談?取引?する際に敬語を使うのは当たり前だけど…。

 

 

一歌「お兄ちゃん、思ったんだけどさ。こういう取引的なやつって、お互いに敬語を使うのが普通じゃない?なんでこんな高圧的な…」

 

父「そういえばそうだな…。陽介お前、コンビニのアルバイトにだってすごく丁寧に話すだろ…」

 

母「あ、そうよ。流石に失礼が過ぎるんじゃ―――」

 

兄「……父さん、母さん、一歌。これだけは覚えておいてくれ。礼節は、人であると認められてからだ……!!」

 

父・母・一歌・ミク・ルカ「「「『『――――』』」」」

 

 

 強く拳を握り締め、その全体に闇が見えたのは私の気のせいではないだろう。実感と説得力の塊過ぎてなにも言えなかった。

 流石に異世界初日に低姿勢で接触したら銅貨3枚で売られた人の言うことは違い過ぎた。

 

 

ミク『だったらさ、私たちのこと“さん”付けで呼ぶのなんで?リンとレンのことは“くん”と“ちゃん”なのに私だけ“さん”なのは納得いかないよ!そりゃあ、カイトとルカやメイコは年上だから分かるけどさ…なんか疎外感!』

 

 

 スマホ画面からミクがお兄ちゃんに対してプンプンと頬を膨らませながら抗議している。あ、可愛い。

 ―――は。ゲフンゲフン。……そういえば、

 

 

一歌「そういえばお兄ちゃんって、年下の咲希たちにも“さん”呼びだよね。まぁ呼び方なんて人それぞれだから別に責めてるわけじゃないけど…」

 

兄「いや、だって…こ、恋人でもない女の子を呼び捨てにするのは、は、恥ずかしいし…

 

ミク(ウブ…)

 

ルカ(ウブね…)

 

一歌(ウブだ…)

 

兄「あ、ほらほら!目的地に着くぞ!続き続き!」

 

 

 お兄ちゃんは珍しく顔を真っ赤にして照れて話を終わらせた。普段はお兄ちゃんのペースに乗せられっぱなしだったから新鮮だったのに…。もっと深入りしたかったのに…。

 

 

ヴィヴィ『あの…ネクロさん』

 

兄(16歳)『ん、なんだ?』

 

ヴィヴィ『私たち、2年ほど前に会ったことがあるんですけど…。越冬祭の時に村人総出で囲んだけど即返り討ちに遇って…』

 

兄(16歳)『あぁあの時な。それがどうかしたのか?』

 

ヴィヴィ『いえ…何度もごめんなさい…』

 

兄(16歳)『…気にしなくていい』

 

 

 なんか気まずくなってるな…。まぁヴィヴィさんたちからすれば二回も殺す気で襲って返り討ちにあってるから無理もないけど。

 

 

母「あ、この子、なんか見たことあると思ったら、初めて記憶映像見せてもらったときにいた…(あの時も襲われてたのね…)」

 

 

 お母さんの言葉がだんだん弱く…悟ってるな、これ。

 そして少しするとお兄ちゃんが言った通り全員の足が止まった。場所は街からちょっとだけ離れた海辺で、大海原が続いている。でも、そんな景色を遮るものが一つだけ。海の上にポツンと立っている祠があった。

 

 

兄(16歳)『…なんだ、アレ?』

 

ロロ『長年放置されている祠です。あの古い祠がモンスターの巣になってて…』

 

ヴィヴィ『過去に住民や討伐しようとした傭兵たちが被害に遇ってるし、私たちも倒そうとしたけど歯が立たなくて、そのまま逃げ帰ることになっちゃって…』

 

兄(16歳)『なるほどな。それで、どんなモンスターなんだ?』

 

ココ『硬翼獣こうよくじゅうってモンスターで…コウモリってわかる?』

 

兄(16歳)『えっ』

 

ココ『アレが鋼鉄の硬さになって人間の背丈と同じくらいに大きくしたモンスターなんだけど…』

 

 

 なんかコウモリって聞いた瞬間にお兄ちゃんの表情が光り輝いたんだけど。

 

 

兄(16歳)『鋼鉄の大きいコウモリのモンスター!?それってメタナ――』

 

部下男D『あの鋼鉄の翼がヤベェんだよな。ありゃもう翼じゃなくて切れ味のいい刃物だぜ』

 

部下男E『お前、俺が助けなかったら今頃真っ二つだったかんな?』

 

ココ『飛ばれると結構早いから銃弾も当たりにくいし、そもそも体が鋼鉄のように固いからもし当たっても大したダメージは与えられない。どうしたものか――、』

 

 

兄(16歳)『た、倒しちゃ駄目だ!!』

 

 

ココ『―――は?』

 

 

 お兄ちゃんが急にそんなことを言い出した。当然、ロロさんたち一同から怪訝な表情を浮かべられた。

 ていうか、なんで急にそんなこと――、

 

 

ルカ『そういえば、カー○ィキャラにコウモリモチーフの騎士がいるわね…』

 

ミク『カイトのモチーフキャラだね!』

 

 

 ……もしかしてお兄ちゃん、そのモンスターをカー○ィのキャラだと思ってる?いや流石にそんなこと……あるなこれ。お兄ちゃんだし。

 ていうか、カイトのモチーフキャラなんだ、その騎士さんって…。

 

 

部下男A『なにいってんだこいつ!?』

 

部下男B『やっぱこいつモンスター側なんじゃねぇのか!?』

 

兄(16歳)『人を襲う危険なモンスターだから排除する…!それは正しい!だが、「なぜモンスターは人を襲うのか!?その理由が分かれば戦う必要自体なくなるかもしれない!!』

 

ココ『はぁ!?もうすでに被害は出てるんだよ!そんな悠長なこと言ってる暇なんて――』

 

兄(16歳)『いや待て!待ってくれ!これは俺の勘だがそのコウモリのモンスターは友好的な――』

 

ヴィヴィ『あ、出た!!』

 

兄(16歳)『えっ!!メタナ――』

 

 

 お兄ちゃんが後ろを振り返った瞬間、そこにいたのは――本当にデッカいメタリックなコウモリだった。

 

 

兄(16歳)『…誰だよ?』

 

 

兄「見ての通り異世界のコウモリは地球のとは全然似てないんだ…。仮面も着けてないし、刃は黄金じゃないし」

 

一歌「ん…?え、いや…そうかな…?」

 

兄「うん。俺はコウモリに詳しいからよく分かる…」

 

 

 メタリックな部分と大きさを除いてどう見ても地球のコウモリと同じにしか見えないんだけど…。

 

 

ミク『一歌ちゃん』

 

一歌「なに?」

 

ミク『これこれ』

 

 

 ミクが自分が出ているスマホ画面を両手で指さすから、お兄ちゃんのスマホを持って画面を見てみると、そこにはコウモリの解説があった。ご丁寧に、私のよく知っているコウモリの画像もあった。

 

 

一歌(…やっぱり同じだ)

 

 

兄「まぁそうして、対話が始まったんだ」

 

 

兄(16歳)『モンスター!!どうしてお前は人を襲うんだ!?人に生活圏を追われたせいか!?ナワバリを人間が侵犯したのか!?』

 

 

 コウモリのモンスターが次第に唸っていくけど、それでもお兄ちゃんは負け時と声を上げた。

 

 

兄(16歳)『子供がいて気が立っているのか!?家族を…殺されたのか!?応えてくれ!俺は…っ、殺したくないんだ!!』

 

 

 そして、少しの沈黙の後、お兄ちゃんが急に顔を上げた。

 

 

兄(16歳)『分かる…!硬翼獣の言葉が…分かるぞ!!』

 

ヴィヴィ『え!』

 

ロロ『本当に…!?な、なんて!?』

 

 

一歌「お兄ちゃん、これって…」

 

兄「あぁ。万能話手ワイルドトーカーが発動したんだ」

 

父「それって、前に話してくれたあの神からもらった特典のことか?」

 

母「確か、真剣にならないと発動しないって…そんなに倒したくなかったのね」

 

ミク『――――』

 

ルカ『――――』

 

 

 あれ、なんかミクとルカが遠い目を、一体なんd―――

 

 

 

硬翼獣『キィーキキィー(人間の肉はまずい)』

 

兄(16歳)『――――』

 

 

兄「――――」

 

一歌「――――」

 

父「――――」

 

母「――――」

 

ルカ(案の定…)

 

ミク『あはは…』

 

 

兄(16歳)『え、じゃあなんで…』

 

硬翼獣『キィーキキィー(人間のオスを切り刻んでいたぶるのは楽しい)』

 

兄(16歳)『あー…』

 

硬翼獣『キィーキキィー(人間のメスとの交尾は気持ちいい)』

 

兄(16歳)『――――』

 

硬翼獣『キィーキキィー(その時に出るメスの悲鳴と涙は極上の味――)』

 

兄(16歳)『水蛇殲滅レイローカ・ミバルド・バストール

 

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!

 

 

 結論:擁護のしようもないゴリッゴリの害獣だった。

 そしてあの害獣はお兄ちゃんの魔法によって放たれた巨大な水の蛇によって水圧で奥にあった祠ごと押しつぶされた。威力高すぎるでしょこの魔法

 それに、ああなって当然の害獣だったけど、お兄ちゃんやるって決めたら一切容赦ないな…!

 

 

兄「あ、ちなみにね。これは初めて万能話手ワイルドトーカーで人間以外と会話できたシーンなんだ」

 

一歌「え、あ、うん。そっか…」

 

父「そ、それは良かったな…」

 

母「は、初記念ってやつね…」

 

 

 当然だけどお母さんとお父さんも呆然としてるし答え方がぎこちない。

 初の人間以外との会話があんな害獣って…。あの害獣に対して同情も何もないけど、二人にとっては初の必殺魔法だったから、無理もないか…。あとあの害獣のインパクトも強すぎた。

 

 

ロロ『と、とんでもないな…祠ごと押し潰した…』

 

ココ『さっきの戦闘では手加減してたのか…。確かにこんなのくらったら一たまりもないな…』

 

ヴィヴィ『す、すごい…これが魔法…!』

 

部下男C『お、俺たちとんでもねぇヤツに喧嘩売ってたんじゃ…』

 

部下男D『バッカ言うな!シーだシー!』

 

兄(16歳)『――――』

 

ロロ『ところで、あのモンスターはなにを…?』

 

兄(16歳)『そんなことより、これで島には行けるんだな?』

 

 

 誤魔化した…!

 

 

ロロ『え!あ、はい…』

 

兄(16歳)『明日には行けるか?』

 

ロロ『ま、まぁ元々行けるようには準備してたので…』

 

兄(16歳)『分かった。さてと…』

 

 

 するとお兄ちゃんは祠の残骸を使って浜辺に一つの簡易的な墓を建てていた。

 お兄ちゃん、あんな害獣にもお墓を…。

 

 

兄「で、この後墓作って、その後だな――」

 

 

 と、その時。ある意味すごいタイミングでお兄ちゃんのスマホが鳴った。

 

 

ミク『陽介!ニヤリくんから電話だよ!』

 

兄「え、二ヤリさんから?」

 

 

 え、ニヤリくんから?彼からの電話と言うことで記憶映像を消したお兄ちゃんはそのまま電話に出た。

 

 

兄「もしもし、ニヤリさん?どうし――え、ラーメン?いいんですか?やった!!城で集合?オケです」

 

 

 そのままお兄ちゃんは電話を切った。ていうか今城って言った?もしかしてお兄ちゃんのセカイの城のことじゃないよね?

 

 

一歌「お兄ちゃん、二ヤリくん、なんて…?」

 

兄「あぁ。実は今二ヤリさんって、ラーメン作りにハマってんだよね。それでよく自分の仲間とか琴音さんに食べてもらってるんだけど…それの試食会にお呼ばれされた」

 

父「試食会って言ってもさっき朝ご飯食べたばっかりだろ。食べられないんじゃ…」

 

兄「そこら辺は大丈夫。他の皆も呼んでるみたいでさ。一同に集まるってなったらどうせバトルに発展するし。それと、なんだかんだで仕事の話にもなりそうだし…。絶対ラーメン食べるだけで終わらないから」

 

母「いつも思うけど、本当に大丈夫なの、その会社…?」

 

兄「うん。すっごい充実してる」

 

 

 お兄ちゃんの顔は相変わらずの満面の笑みだった。正直その笑顔、老け顔もプラスして気持ち悪いからやめてほしいけど心の底から嬉しいのは分かるから指摘できない…。

 

 

兄「まぁそんなわけで、今日はもう帰れないかもしれないから、昼と夜は食べてくるよ」

 

父「や、休みなのに大変だな…」

 

兄「元々この仕事って平日出勤と休日出勤なんて概念ないし…。平日でも仕事がなかったら休みだし休日でも仕事があったら仕事だし。まだ新人だから休みの方が多いし」

 

一歌「そ、そういえばそうだったね…」

 

兄「それじゃあ、ちょっと準備してくる」

 

 

 そうしてお兄ちゃんは二階の自室へと上がっていった。

 何度も思うけど本当に大丈夫かな…。ちなみにこの後、みんなでセカイに集まったりと色々あったけど、一番心に残ったのは鳳さんと会うのが気まずすぎてなかなか寝付けないということだった。

 

 

 

 

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