船酔いに耐えながらも甲板で寝そべっているお兄ちゃんを困惑しながら見ていた。人生で船に乗る機会なんてそうそうないから気付かないのも無理はないけど、これは弱すぎる…。
レオニリン「よう兄、なんで外で横になってるの?部屋があるんだからそこで横になればいいのに」
兄「いや、流石にいつ吐くか分からない状態でそれは無理だよ。船に乗せてもらってる身だったし、海にリバースできるように甲板でスタンバってた」
一歌「いやその気遣いは大事だけどそんなところで寝てたら邪魔になるんじゃ――」
私が言い終わる直前、急に画面が変わった。
兄「ん、なんだ…?」
船の中の一室で、そこにはロロさんとヴィヴィさんが座っていて、その部屋の中にココさんが入ってきた。
ロロ『アイツ、どうだった?』
ココ『……完全に酔ってた。今にも吐きそうに甲板で寝そべってたよ』
ロロ『そんな弱点があったんだな。無敵に思えたが、人間らしいところもあるってわけか』
ココ『演技にも見えなかったし、少なくとも航海中の警戒は最低限でいいと思う』
これは…お兄ちゃんが酔ってる間のロロさんたちの会話?相変わらずだけど、お兄ちゃんの記憶から構成されているはずの映像でお兄ちゃんがいない場面が再生されるの違和感あるな…。
兄「これは…俺がグロッキーになってるときのロロたちの会話か…」
異世界ミク「やっぱり、ロロさんたちの視点だと二度目の邂逅だから、警戒されちゃってるね」
レオニミク「いつも思うけど、これってお兄さんの記憶映像なんだよね…。なんでお兄さんが知らない記憶が映し出されるんだろう…」
一歌「本当に記憶の精霊さんってなんでもありだよね」
汎用性高すぎるよ、記憶の精霊さん…。
ロロ『それにしても、まさかまた会うことになるとはな…。世界って、以外に狭いんだな』
ヴィヴィ『そうだね。ネクロさんには悪いことしちゃったな。二回も襲っちゃったから…』
ココ『…今思えば、私たち相当疲れてたね…。“魔法”なんて使える相手、一度会ったら絶対に忘れないのに同じ轍を二度踏んで…。』
ヴィヴィ『うん…私も近づいたときに思い出したけど、その次にはいつの間にか地面に倒れてたよ』
ロロ『あれは凄かったな…。一瞬で一直線に移動しただけでほとんどのヤツらがなぎ倒されてたし…』
ココ『銃弾も当たる直前に軌道が変わって全部地面に転がって…全然勝てる気が……アレ、前にもこんなこと、あったような…』
あれ、ココさん前回(本来の二度目の邂逅)の時の記憶がうっすら残ってないこれ?
でも鼻血とか出てないし、思い出せてはいないっぽい…。
ロロ『前って、2年前の越冬祭の時か?確かにあの時も村人総出で襲っても即返り討ちにあったが…』
ココ『いや、それよりもっと後だったような…。いや、単に記憶違いか…』
ロロ『そうじゃないか?アイツの会ったのは昨日で二回目だからな。……ところでヴィヴィ、眠いのか?』
ロロさんがヴィヴィさんにそう問いかけた。カメラアングルがヴィヴィさんの方に向くと、確かに瞼を重そうにうとうとと体を揺らしていた。
ヴィヴィ『う、うん…。実は昨日あんまり眠れてなくて…』
ココ『だからあれだけ早く寝なっていったのに…』
ロロ『まぁ仕方ないさ。昨日あんなに戦った後、とんでもない魔法を見たからな。衝撃が凄かったし、かく言う私も驚きであんまり眠れなかった』
ココ『嘘つけ。ぐっすり寝てたでしょうが』
ロロ『はは、バレたか…。とりあえず、航海は長いわけだし、眠っててもいいぞ』
ヴィヴィ『うん、そう、する…』
そうして、ヴィヴィさんは眠りについた。そのままココさんの方に倒れて、肩に寄りかかった。
ロロ『よし。それじゃあココはヴィヴィのこと見ててくれ。私はちょっと行ってくる』
ココ『行ってくるって、どこに?』
ロロ『もちろん外だよ。それに、ちょっと聞きたいこともあるしな』
ココ『聞きたいことってもしかして――、って、ちょ、ロロ!』
ココさんの静止を振り切って、ロロさんは扉を閉めた。それと同時に画面が切り替わり、グロッキー状態でうつ伏せになっているお兄ちゃんが映った。
兄(16歳)『――――』
船員C『あの魔法オーク、ついに動かなくなりましたね』
船員A『腹は動いてるから生きてはいるだろうが…まさかあんなによえぇとはな』
船員D『気持ちは分かるぜ。船酔いしてるときに変に動くと一気に出るからな。かく言う俺も昔はそうだった…』
船員C『船酔いなんて、魔法使えばいいんじゃないですか?なんで使わねぇんだろ』
船員A『魔法も万能じゃねぇってことだろうな』
兄(16歳)『――――』
ロロ『……聞いてはいたが、あれじゃ聞けそうにないな…』
お兄ちゃんに聞きたいことがあったみたいだけど、あの状態で会話ができるとは到底できないだろうし、お兄ちゃんがオーク呼ばわりされてるのに即座に否定を入れない時点でかなり危ない状態なのはわかる。
流石にロロさんも悪いと思ったのか、すぐに引き返していた。
兄「俺がグロッキーになってる間、こんな会話が…俺はオークじゃないっての…」
その言葉、地球でも聞くことになるとは…。
そういえば…
一歌「お兄ちゃんの魔法って、さっきの男の人が言っていた通りに船酔いとかの耐性つけられないの?」
兄「できなくはないよ?精神の精霊に頼めばいける」
一歌「そんな精霊さんもいるんだ…。じゃあなんでやらないの?」
兄「いやこんなところで魔法使ったらもしものときに…」
レオニミク「この状態が“もしものとき”にしか見えないけど…」
異世界ミク「【エリクサー症候群】発症しちゃったか~」
あ、テレビでよく見るカット入った。
かなり大きな島で、島に近くなってから見える大きなオーロラが目に入った。
レオニリン「わ~綺麗~!」
咲希「すっごーい!昼なのにオーロラが出てるなんて!」
志保「ほんと、どういう原理なんだろうね…」
兄「まぁ、それは後々分かるよ。で、そのまま浜辺で上陸したんだ」
浜辺に船を停めて、そのまま上陸したロロさんたち3人。
ロロ『ここが噂の島か!思ったよりいいところじゃないか』
ロロさんがそういうように、浜辺の奥には広がる緑の大地、青く透き通った空が広がっていた。
ヴィヴィ『初めて来るところはワクワクするね…!』
ココ『こっち側に来たのは、私も初めてかな…』
ヴィヴィ『ココお姉ちゃんはこの島に来たことあるの?』
ココ『ずいぶん昔だけど…あまりいい思い出はないかな。ヴィヴィと一緒なら、きっと楽しい』
ヴィヴィ『えへへ…』
見てて微笑ましいな、本当に仲がいいのが見て分かる。
あ、お兄ちゃんが船から出てきた。結構フラフラだけど大丈夫――って、なんか口抑えて顔青くしてるけど…。
ロロ『見てごらん』
ヴィヴィ『わぁ…すごい…』
そう言ってロロさんが指さしたのは空に光る大きなオーロラ。確かに綺麗だけど、その端で手を使って砂掘ってるお兄ちゃんが気になりすぎてオーロラが頭に入ってこない。あれ、もしかして…
ロロ『島も私たちを歓迎してくれるみた――』
兄(16歳)『オロロロロロ!!』
ロロ・ココ・ヴィヴィ『『『――――』』』
一歌・咲希・穂波・志保・レオニミク・レオニリン「「「「「「――――」」」」」」
異世界ミク「耐えられなかったんだね…」
兄(16歳)『ふ~…ふ~…ちょっとすっきり…』
兄「ん、どうした、みんな?」
一歌「いや、うん…」
もう、なんか、いろいろ台無しだよ…。
* * * * * * * *
あれから、気分が少し良くなったのかお兄ちゃんは浜辺のすぐ傍にある草原で仰向けで寝転がっていた。
その傍らで、ロロさんたちの話がどんどん進んでいっていた。
ロロ『これなら、良い観光地にできそうだ』
ヴィヴィ『ロロちゃん』
ロロ『ヴィヴィ。とりあえず近くの村まで行って話をする。話が合えば、今日はこの島でゆっくり過ごそう』
ヴィヴィ『やった…!』
ロロ『エスコートを頼めるかい、ヴィヴィ』
ヴィヴィ『まかせてロロちゃん』
ロロ『準備が出来たら出発しよう』
ココ『ここに、昔の仲間がいるんだよな…』ボソッ
ヴィヴィ『ココお姉ちゃん』
ココ『ん?どうしたヴィヴィ?』
ヴィヴィ『あとで一緒に散歩しようね』
ココ『分かった。あのお転婆をよろしくね。船を見送ったら、私も行くから』
ヴィヴィ『うん』
ココ『まるで違う場所みたいだ…』ボソッ
船員『なんで港がこっち側にないんだ?』
船員『遠回りだけど、港に行ってもよかったんじゃないか?』
船員『お嬢のことだ。考えがあるんだろう』
船員『あ、ヴィヴィちゃん。俺らはお嬢に言われた通り、一旦船で帰ります。支度して戻ってくるんで、忘れ物とかあったらついでに持ってきますよ』
ヴィヴィ『大丈夫です。また後でね!』
船員『くれぐれもあの魔法オークには気を付けてくださいね。今は無害ですけど、何するか分かったもんじゃないですよ』
ヴィヴィ『心配してくれてありがとう。でも、ネクロさんはそんなことしないと思うから、大丈夫だよ』
船員『ヴィヴィちゃんは優しいなぁ…。そういうところ、本当にすげぇよ』
ヴィヴィさん、本当に優しいな…。お兄ちゃんは異世界だとオーク顔+魔法の要素でかなり肩身の狭い思いをしてるのに、出会って二回目(ヴィヴィさん視点)でこんなこと言ってくれるなんて…。
出発の準備ができたのか、寝ているお兄ちゃんにヴィヴィさんが駆け寄って来た。
ヴィヴィ『ネクロさん。私たち、これから近くの村まで行くんですけど、ネクロさんはどうする?』
兄(16歳)『俺は、もうちょっと、休む…』
ヴィヴィ『分かった。体調、早く良くなるといいね』
そうして、ヴィヴィさんとロロさんが先に村へと向かって、ココさんが船を見送るために残った。数分も経たないうちに、お兄ちゃんはゆっくりと体を起こした。
兄(16歳)『う~…』
ココ『…あんた、もう体はいいの?』
兄(16歳)『まだ正直眩暈がするが…やっておきたいことがあるからな…』
ココ『やっておきたいこと?それって…?』
兄(16歳)『野暮用だ。…ところで、お前たちはなんでこの島に?』
ココ『…そういうあんたこそ、なんでここに?』
兄(16歳)『…俺は、この島のオーロラが魔法的なものじゃないかって思ったから来た。昼に現れるオーロラなんて、普通じゃないからな』
お兄ちゃんが上を見上げると、そこには空一面に広がるオーロラ。確かに普通じゃないから、ココさんもそれで納得したようだった。
ココ『それを調べに来た…ってこと?』
兄(16歳)『そうだ。もしかしたら故郷に帰る手がかりが見つかるかもしれないからな』
ココ『故郷、か…』
兄(16歳)『それで?お前たちはなんでこの島に?』
ココ『…ロロが、この島が観光地になりそうだって言うから、視察に来たんだよ』
兄(16歳)『観光地か…。確かに、オーロラは目を見張るからな。でも、このオーロラが“竜”の仕業だったら、観光地なんて夢の又夢だぞ?』
ココ『光を操る傲慢竜は封印都市の“獣の出づる大地”に生息してるから、その可能性はまずないよ』
兄(16歳)『だろうな…』
そこで、二人の間に沈黙が走る。その後はなにも喋らないまま、船の出発ができたようで男の人の声が響いた。
船員『それじゃあ、俺たちは一旦戻ります。お気をつけて』
ココ『あんたたちも、気を付けなよ』
兄(16歳)『……じゃあ、俺も行くか』
お兄ちゃんが方向を変えて歩き出した――ヴィヴィさんたちとは別の森の方角へ。
ココ『ちょっと、道はあっちだよ』
兄(16歳)『分かってる。村はあの先にあるだろうが、俺はまず森の中で用があるんだ』
ココ『そう…』
それからココさんはお兄ちゃんに背中を向けて船に目線を合わせていた。
そのまま、お兄ちゃんは森の中へ歩いて行った。
穂波「森の中で用時って…一体なにをしてたんですか?」
兄「やっておきたいことがあってさ。まぁ内容はすぐにわかるから、ちょっと飛ばすぞ」
咲希「え、なんでですか?」
兄「あとから合流して分かったことなんだが…ヴィヴィが攫われた」
志保「ヴィヴィさんが攫われ…攫われた!?」
一歌「普通に大事件だよね!?どうなったの!?」
兄「今見せるからちょっと待っててって」
ヴィヴィさんが攫われたというとんでもない状態に私たちはハラハラしながら映像に釘付けになった。
映像をスキップすると、木でできた外壁ができていた。外壁の周りには木製の杭がかなりの数斜めに地面に刺さっていた。モンスター対策なのかな、雑なように見えるけど…。
兄『――――』ザッザッザッ
村人『オークだー!オークが攻めてきたぞー!!』
村人『オーク一匹だ!総出で囲めば殺れる!!』
村人『くそっ、港のやつらの差し金か!?それとも魔女の仕業か!?』
村人『とにかくぶっ殺せー!!』
兄「まぁここはいつも通りだからスキップして…」
まぁ、うん。いつも通りだね、確かに…。
で、スキップすると光の剣と闇の剣を持ったお兄ちゃんが村の中で村人たちを正座させていた。本当にいつも通りの光景だ。でも、そうじゃなかった。
兄(16歳)『いいか?俺はオークじゃない』
村人男『う、嘘つけ!その変な剣持ってるし、とんでもなく早いし、何よりそのオークのような醜い顔!お前、魔女の手先だったんだな!!』
村人男『おいバカやめろ!』
正座していた村人さんが立ち上がって、そうやって怒鳴り始めた。凄いなこの人、制圧されてすぐにこんな態度を取れるなんて…実際隣の人に慌てて止められてるけど、男の人は止まる様子はなかった。
兄(16歳)『俺はオークじゃない。それで、魔女?なんのことだ?』
村人男『お前が一番よく知ってるだろ!魔女の手先のオークm――』
そこで、封印都市でも見せた光と闇の剣の接触で発動させる極太レーザーを真上に放った。
そのレーザーは上空にあったオーロラをかき消して、さらには雲をもかき消して空へと消えていった。…あのレーザー、オーロラもかき消せるんだ…。改めてとんでもないな、あの魔法。
村人男『――――』
兄(16歳)『俺は、オークじゃない』
村人男『は、はい…』
真っ向から脅した…!まぁいつも制圧してからオークじゃないって諭すからやってること普段と別に変わらないけど、流石にやりすぎじゃ…。男の人も臆してビクビクとしながら正座し直した。
異世界ミク「この時はいつもより過激だね、陽介」
兄「話が進まなかったからつい…。それに、魔女のことも気になってたし」
レオニリン「魔女ってなに?」
兄「それもあとで分かるよ。で…」
ココ『おい!』
映像が続くと、正座していた村人たちをかき分けてココさんが駆け寄って来た。でも、その表情は物凄く剣幕で、今にも人を殺せそうなほどに鬼気迫っていた。
そして、お兄ちゃんに手が届くほどまで近づくと、いきなり胸倉を掴んで声を荒げてきた。
兄(16歳)『いきなりなにす――』
ココ『お前!お前か!?お前がヴィヴィを連れ攫ったのか!?』
兄(16歳)『ヴィヴィが?攫われた?え、マジで?』
ココ『あんた、森の中で用があるって言ってたよね?それから今に至るまで姿を見てないし、あんた、用って言うのはヴィヴィを連れ去ることじゃ――』
兄(16歳)『待て待て!俺はなにも知らないし、ヴィヴィが攫われたことも初めて知ったぞ!』
ロロ『じゃあ、今まで森の中でなにをしてたんだ?』
そして、次にロロさんとその部下の男の人たちが現れた。あれ、男の人たち、一度帰るって言ってなかったっけ?それに何人か足りないけど…。そしてやっぱり、ロロさんと男の人たちのお兄ちゃんを見る目は厳しかった。
兄「どうやら俺がいない間にヴィヴィが攫われたから、用事を済ませていた俺が疑われたんだ」
穂波「これ、どうやって場を収めたんですか…?」
兄「あ、そりゃあもちろん…」
兄(16歳)『あ、じゃあ見るか?記憶再生』
お兄ちゃんは、記憶再生の魔法を使って空中に映像を浮かべた。これ、アリバイ立証にすっごい役立つな…。
そして、過去の記憶が再生される。
船員(過去)『それじゃあ、俺たちは一旦戻ります。お気をつけて』
ココ(過去)『あんたたちも、気を付けなよ』
兄(16歳・過去)『……じゃあ、俺も行くか』
ココ(過去)『ちょっと、道はあっちだよ』
兄(16歳・過去)『分かってる。村はあの先にあるだろうが、俺はまず森の中で用があるんだ』
ココ(過去)『そう…』
初めて見る記憶再生魔法に、ココさんやロロさん、部下の男の人たちや正座している村人の人たちも総じて顔から感情を忘れさせた。ココさんも驚きでか、お兄ちゃんの胸倉を掴んでいた手を放していた。
ココ『こ、これは…』
兄(16歳)『記憶再生魔法だ。これ見せるから、それで俺の無実が分かるぞ』
ロロ『き、記憶再生…?そんな魔法もあるのか…?』
自由になったお兄ちゃんは記憶映像に向き直ると、映像を操作し始めた。
結局、お兄ちゃんは森の中でなにを…?
兄(16歳)『手っ取り早く結果だけ見せるぞ?俺はだな…』
映像の中の映像――ややこしいな――をスキップすると、そこに映っていたのは――、
※南中ソーラン節(学校・運動会バージョン)
兄「俺は、祭壇作ってモンスターの首捧げたあと、その周りで“ソーラン節”を踊っていた」
一歌「なんで!!??」
想像の斜め上って言うか完全に予想外過ぎて叫んでしまった。
いや、これほんとツッコミどころがありすぎる!?これどこから突っ込めばいいの!?みんなも予想外過ぎてどういう表情すればいいのか分かんないのか硬直してるし!
兄(16歳)『とまぁ、こんなことをしてた』
ロロ『――――』
ココ『――――』
船員『『『『『『――――』』』』』』
村人たち『『『『『――――』』』』』
映像のお兄ちゃんも「とまぁ、こんなことしてた」じゃないよ!普通に見て不気味だよ!ロロさんやココさんも怒りの表情がすっぽ抜けて“無”になってるし!
志保「え、普通に意味不明なんですけど…なんでこんなことしてたんですか?」
兄「いや、雷の精霊への魔法の対価で…「祭壇作って首捧げてその周りで踊れ」って…。やらないとエクスバハマル中の全生命を焼き焦がすって言うから…」
レオニミク「本当に毎回思うんだけど、お兄さんって本当にナニと契約してるの?」
兄「え、精霊だけど」
少なくともそんなものを“精霊”とは呼ばないと思う。でも口に出したら精霊さんの怒りを買うかもしれないので決して言わない。ていうか何をお願いすればそんな対価を支払う羽目になるの?そして毎度のことだけど代償が重すぎる…!
穂波「えっと、雷の精霊さんになにをお願いしたんですか…?」
兄「スマホの充電」
一歌「スマホの充電!?」
また予想外の用途が出た。
異世界でスマホの充電って意味あるの…?
レオニリン「異世界でスマホって使えるの…?」
兄「普通は使えないよ?でも異世界にいるとどうしても地球での思い出が恋しくなってさ…。マスターにお願いして、異世界でも写真や動画が見れるようにデータをダウンロードしてくれたんだ」
スマホ充電の理由が深刻過ぎてなにも言えなかった。確かに異世界において天涯孤独のお兄ちゃんを支えていた支柱がカー○ィ以外にあったなんて…。でも、そこまでして「帰りたい」って思えるくらい大事にされていたのは、嬉しいな…。
そして、相変わらずマスターのやれることの幅が広すぎて困惑する。本当に何者なんだろうあの人。
兄「ちなみにこの“ソーラン節”の音源もスマホから流してる」
一歌「あ、そうなんだ…。お兄ちゃん、“ソーラン節”も入れてたの…?」
兄「いや、これもマスターが入れてくれた。俺が踊れる踊りって、カー○ィのステージクリア後のダンスと“ソーラン節”しかないからさ…」
レオニミク「格差が激し過ぎない?」
兄「カー○ィのダンスは激しい上に10秒くらいしかないから、繰り返し踊ると俺の体力が持たないんだ。“ソーラン節”だと小4の時の運動会以降だったから、もう一回振付とか覚えるのメッチャ大変だったけど、それの他に踊れるのがなかったからさ…」
穂波「大変だったんですね…」
志保「ちなみに、踊ってるときなんか手に持ってますけど、あれってもしかして…?」
兄「“鳴子”ってヤツ。みんなも小4の時これ持って“ソーラン節”踊ったの、覚えてる?」
一歌「うん。覚えてる。懐かしいな…まさかこんな形で思い出すことになるなんて思わなかったけど」
本当に過去の思い出をこんな形で思い出すことになるなんて想像もしなかった。
そして、私たちが話している合間にも映像の中の映像――お兄ちゃんがソーラン節を踊る光景が流れ続けていた。ていうか、私たちが話している間ずっと無言で話が進んでなかったけど、沈黙長すぎない?
ココ『え、これ、なに…?』
あ、ちょうどいいタイミングでココさんが現実に復帰した。
兄(16歳)『何って、踊ってるんだよ。見て分からないか?』
ココ『いやそうじゃなくて。え、っと…え?まずどこから切り出せばいいんだ、コレ?』
兄(16歳)『…あぁ。まずこれがなんなのか教えないと分からないか…。これは俺の故郷で9~10歳くらいになったら必ず踊る踊りなんだが…」
ココ『狂ってるのかお前の故郷は!?』
お兄ちゃん言い方!!これじゃ日本が9歳と10歳の子供を祭壇と松明の周りで踊らせる危ないところにしか聞こえないよ!!
兄「酷くないか?“ソーラン節”は至って普通の踊りだろ。それを踊ってるだけで日本が狂ってるとか…」
志保(狂ってるのは日本でも“ソーラン節”でもなくて踊る環境なんだけど…)
レオニミク(風貌から見てもどこかの邪教の儀式と遜色ない…)
兄(16歳)『狂ってるとは失礼だな!まぁいい。これで俺の疑いは晴れただろ?』
ロロ『……いいや、全然晴れてないぞ』
でもこれで、お兄ちゃんの疑いが晴れた――と思いきや、そんなことはなかった。ロロさんは未だにお兄ちゃんのことを強く睨んでいた。
兄(16歳)『なんだ、まだなにかあるのか?』
ロロ『記憶を映し出すのは置いておくとしても、だ。今の記憶には完全な矛盾があったぞ』
兄(16歳)『矛盾?…ってなんだ?』
ロロ『この記憶を見るに、時間帯は真夜中。でも今は夕方。つまり時間がおかしいんだ。お前の証言は、矛盾してるんだよ』
あ、そうだ。“ソーラン節”とその光景が衝撃的過ぎて気付かなかったけど、お兄ちゃんが“ソーラン節”を踊っているのは松明の火がとてもよく輝く真っ暗闇の中。でもこれは今見ている映像の1時間かそこらの前の出来事のはずなのに、真夜中なのは確かにおかしい。
船員A『あ、ホントだ!確かにおかしいぜ、コレ!』
船員B『やっぱりテメェがヴィヴィちゃんのこと攫ったのか!?』
兄(16歳)『あぁ、これに関しては…暗黒護域』
お兄ちゃんが魔法を唱えると、手をかざした先の地面に、小さなドーム状の暗闇が形成された。
兄(16歳)『これは空間の一部を暗闇で覆う魔法だ。これで真夜中を演出していた』
ロロ『そんな魔法まで…。だ、だったら、なんでそこまでして踊る必要があったんだ…?』
兄(16歳)『魔法の対価だけど』
ロロ『魔法の…対価…』
兄(16歳)『そう。かなり面倒な仕事を頼んだからな…。これくらいはやって当然だ』
ロロ『――――』
ついにロロさんは何も言わなくなった。当然のことだけど、魔法の対価として祭壇に首捧げてその周りで“ソーラン節”踊る必要があるだなんて想像もできないだろう。かく言う私ももちろんそうだ。
村人『魔法の対価で踊る…!?どう見ても呪いの儀式だろ…』
村人『他の魔女たちもこんなことやってんのか…!?』
村人『やっぱり魔女は狂ってる…!』
小声で村人の人たちも話してるけど、魔法に対する偏見が広がってる…。それに、話にちょくちょく出てくる魔女がまた気になるけど、その魔女にもまた風評被害が…!
違うんです、お兄ちゃんの魔法は神様(中国語の録音)からもらった特別な力なんです。その魔女って人たち関係ないです。
兄(16歳)『とりあえず、これで俺の疑惑は晴れただろう?』
ロロ『いろいろと言いたいことはあるが、ひとまずは…』
兄(16歳)『そうだ。俺もヴィヴィを探すのを手伝おう。早く見つけた方がいいからな』
ロロ『―――え?』
兄(16歳)『ん、どうかしたか?』
ロロ『…怒らないのか?私たちはあんなに疑ってたのに…』
兄(16歳)『怒る?なんで?お前たちにとってヴィヴィは大切な仲間なんだろう?そんな仲間がいなくなったら焦るに決まってるじゃないか』
ロロ『そ、そうだけど…でも、』
兄(16歳)『とにかく、俺は先に行く。無事でいてくれよ…機動纏身!!』
そうして、お兄ちゃんは魔法で一瞬で移動してその村から出て行った。
お兄ちゃんが立ち去る方角を見て、誰もが呆けていた。
ココ『一瞬であんなところまで……、ロロ?』
ロロ『……これじゃ、疑ってた私たちがバカみたいじゃなか』
ココ『それも、そうかもね…』
ロロさん、流石に悪いと思ってな…。お兄ちゃんって、普段カー○ィのことしか頭にないけど、こういうところ本当に人格者だしすごいと思う。
異世界ミク「陽介、一旦止めて」
兄「ん、どうした?」
その段階で、お兄ちゃんのセカイのミクが映像を止めた。どうしたんだろう…。
異世界ミク「もうそろそろアレが運ばれてくる時間だから、そっちの方みようよ」
兄「あぁ、金魚草のことか…。もう持ち込まれたんだ」
異世界ミク「あの窓から見えるから、あそこから見よう!」
キンギョソウ…確かボンカッチさんとたぬきさんの会話に出てたアレのことだ。中庭に埋める予定のもので、なんか防音ガラスがいるみたいな変なこと言ってたけど…
それに、元々工事現場の方を見に来たわけだし、だからミクは止めてくれたんだと思う。
志保「でもキンギョソウだけでそんなにはしゃぐ…?」
レオニミク「もしかしてそのキンギョソウって…普通のキンギョソウじゃないの?」
異世界ミク「そうだよ!あの金魚草はね、よく泣くんだよ!大きいものだと3メートルも超えちゃうの!」
咲希「3メートル!?それって…あたしとリンちゃん足したのと同じくらい!?」
レオニリン「えぇ~!そんなに大きいキンギョソウがあるの!?」
穂波「…あ、確かキンギョソウって鈴みたいな見た目してるから、本当に鳴ったりするのかも」
一歌「そっか!確かにソレだったらボンカッチさんが防音ガラスが欲しいって言ってたのも辻褄が――」
兄「え、違うよ?」
お兄ちゃんの否定で私たちの間で沈黙が走る。え、違うの…?
レオニミク「え、違うの…?」
異世界ミク「うん。全然違うよ?金魚草はね…とりあえず見てもらった方が早いかな!」
困惑する私たちを置いてミクが窓――外開きだった――を開けると、真っ先にリンが窓から身を乗り出した。
レオニリン「う~ん、キンギョソウどころかお花すら見当たらな――あッ!!みんな!!みんな!!」
咲希「リンちゃんどうしたの!?でっかいキンギョソウあったの!?」
レオニリン「マ○オ!マ○オとル○ージがいたよ今!」
―――え?マ○オとル○ージ?リンの叫びに私達は再び頭がフリーズした。いや、ここお兄ちゃんのセカイなんだけど…カー○ィキャラモチーフの住人さんとどうぶつさん以外いないはずなんだけど…。
咲希「えっ!マ○オとル○ージ!?すっごい有名人がいるの!?」
志保「いや、マ○オとル○ージって…流石にあり得ないでしょ…」
穂波「いくらお兄さんのセカイでも、カー○ィキャラ以外がいるとは思えないし…。同じゲーム会社だとしても流石に…」
異世界ミク「いるよ?カー○ィ以外のモチーフの住人さん」
一歌「え、いるの!?」
異世界ミク「うん。そもそもどうぶつの住民さんとかルカのお店以外のところは、陽介が10歳の頃誕生日で買ってもらった【どう○つの森*1】がモデルになってるんだ。
兄「まぁ【トリプルデラ○クス*2】買ってからやらなくなったけどね。俺のセカイって俺の過去プレイしたゲームがまるまるモデルにされてるみたい。ルカさんが教えてくれた」
そうだったんだ…。てっきりどうぶつさんたちもカー○ィキャラがモデルになっているんだとばかり…。そう言えば、確かにそのころのお兄ちゃんのプレゼントがそれだったようなことをうっすら思い出した。
じゃあ、リンが見たっていうマ○オとル○ージも…
志保「じゃあリンが見たマ○オとル○ージも、その二人がモデルになったこのセカイの住人ってこと?」
兄「え?いやあの二人はほ――」
ルカ「そうよ。【どう○つの森】にはマ○オとル○ージに成り切れるコスチュームがあるの。リンが見たのも、そのコスチュームを着た住民さんだと思うわ」
一歌「――!、ルカ!」
お兄ちゃんがなにか言いかけたその時、空いた窓からひょっこりとルカが顔を出してきた。
なんでここに…お店の方はどうしたんだろう…。
兄「あれ、ルカさんどうしたんですか?」
ルカ「金魚草の搬入の付き添いよ。ちょうど今から隣の仮庭に植えるの。完成したら中庭に埋め替える予定だから、すぐ近くにあった方がいいでしょ?」
兄「大丈夫ですか、それ?うるさくなりません?」
一歌「さっきから気になってたけど、結局そのキンギョソウってどんな――」
その瞬間、聞くに堪えないおぞましいダミ声が響いて、咄嗟に耳を塞いで顔を顰めてしまった。
そして、ゆっくりとその声の方向を向けば――、
異世界レン「あ、みんなも来てたんだ!」
異世界リン「そこにいるのって…一歌ちゃんたちのセカイのわたし!やっほ~~!」
ボンカッチ「うん。リン、二人いる…。不思議…」
このセカイのリン、レン、そしてボンカッチさん。たぬきさんたちがとあるものを台車に乗せて押していた。
それは植木鉢だった。植木鉢が台車の上に乗っていて、その植木鉢からソレは生えていた――いや、この場合は生きていると言った方がいいのか。
その植木鉢にあったのは、葉と茎――そして大きな金魚。完全に動いてるし、瞬きもしてるし、あれ、生きてるよね?大きさもさまざまでリンとレンの台車に乗っている小さいものもあればボンカッチさんが押している大きい台車に乗った、本当に3メートルほどまである大きな金魚がそこにあった。
あの金魚…動物…?植物…?え、なにあれ。
―――?
異世界リン「それじゃあわたしたち金魚草運ばなきゃいけないから、またあとでね!」
異世界レン「ゆっくりしてってね!」
ボンカッチ「うん。行こう…」
こちらに挨拶して去っていくリンたちを尻目に、私は疑問を口にした。
一歌「え、なに、あれ…?」
兄「何って…金魚草だよ」
一歌「私の知ってるキンギョソウと全然違うんだけど。キンギョソウってほら…植物じゃん?」
兄「いやどう見ても動植物でしょ」
兄・一歌「「―――?」」
お兄ちゃんと会話が一行に噛み合わないんだけど。え、私間違ったこと言ってないよね?
その場で沈黙していると、ルカが窓からジャンプして小屋の中に入って来た。
ルカ「二人の言ってることに間違いはないわ。一歌ちゃんの言っているキンギョソウは現実世界の“キンギョソウ”でカタカナ。陽介の言ってる金魚草は生息地は伏せるけど漢字で書いて“金魚草”なの」
志保「え、あの金魚っぽいなにかってこのセカイで生息してるんじゃないんですか?」
ルカ「……と、言うわけで、二人の言う“きんぎょそう”は読みは同じでも全く別の種類なの」
志保(スルー…!?)
レオニミク(誤魔化した…!)
スルースキルが高い…!さも当然のように志保の質問をなかったことにした…!でもそれってあの不可思議な金魚がこのセカイのものじゃないってことだよね!?じゃああれなに!?
兄「え、マジか…。金魚草の他にもキンギョソウってのがあったんだ…!」
異世界ミク「植物の方のキンギョソウ、知らなかったんだね~」
あ、お兄ちゃんが驚いてる。道理でなんだか会話が噛み合わないと思った。
まぁ、それはいいとして…結局この金魚?っぽい植物?生物?はなんなんだろう…。でも今志保の質問をスルーしたように詳しくは教えてくれないだろうし……って、待って?
一歌「え、そういえばさっきあの金魚を中庭に植える予定って…」
ルカ「そうよ。完成したらきっと壮観な光景になるわね」
どう考えてもシュールな光景にしかならないと思う。
ここが完成したらいずれ行くってことになるだろうけど、つまりはまたあの謎植物…?生物?を見に行くと同義では…いや、中庭に行かなければ問題ないよね?
兄「完成したら中庭の方も案内するよ」
異世界ミク「案内は私に任せて!ふふっ、楽しみだなぁ~」
ミクが案内を…?正直あんな植物かも生物かもわからない謎金魚を見るのは勘弁願いたいけど、ミクの輝く笑顔を、私は―――!
一歌「う、裏切れない…!!」
咲希「い、いっちゃん大丈夫!?」
穂波「一歌ちゃんの中で理性と信念がぶつかってる…、理性が敗けちゃった…」
兄「お、一歌乗り気だな~、まぁ一歌もサボテン育ててるし、こういうことにも興味ありそうだったから、喜んでくれて俺も嬉しいよ」
志保「この光景を見て“喜んでる”って感想出てくるのおかしいって…」
レオニミク「それにサボテンとあの金魚を一緒にするのは絶対に違うと思う…」
レオニリン「あの金魚さん、赤ちゃんみたいな鳴き声だったけど、ダミ声すぎて怖い…」
なんでよりにもよってあんな謎金魚を中庭に埋めるなんてことになったんだろう…。
うん、まぁ、でも、ミクが案内してくれるって言うからその想いを無碍にはできない。行く、私は…行く。
一歌「うん、楽しみに、待ってるね…」
異世界ミク「うん!!みんなも楽しみに待っててね!」
咲希「うん…って、え?」
穂波「みんな…?」
志保「もしかして、私たちも組み込まれてる…?」
一同「「「「「「――――」」」」」」
ここで、温泉施設完成の際に来ることが確定した。
私たちを案内できるということに喜んでいるミクとは対照的に、気味の悪い謎金魚付きの温泉への切符をもらってしまった私たちは、終始無言のままだった―――。
メイコ「来たわよー……って、なに、この状況?」
カイト「少し場を離れた間に一体何が…」
ちなみに、ソーラン節からココが現実復帰するまでの間、ずっと流れていたのは“映像の中の映像”、つまり陽介がソーラン節踊っている光景だけであり、“その映像を見ている兄(過去)とロロやココ”が映っている映像は一時停止していた。
これは、記憶の精霊が気を利かせてくれていたからであり、一歌たちの会話が終わったと同時に再開したのはこのため。
本来、ココはもっと早い段階で現実復帰しています。
他作品キャラ紹介
・金魚草(きんぎょそう)
原典:【鬼灯の冷徹】
第一発見者いわく、地獄のどこかに自生していた動植物。
その発見者によって品種改良され地獄において観賞用ペットの地位を得ており、大きいものなら3メートルまである。だみ声で「おぎゃぁ」と泣いたり(「鳴」ではない)、自力で鉢ごと移動することが可能であり、食用で刺身にすることもできたりする。
今回、“■■ロア商会”経由でその第一発見者とコンタクトを取り異世界セカイの温泉施設の中庭に観賞用として入ることとなった。
なお、その発見者もアドバイザーとして来るようだ。
・マリオ&ルイージ
原典:スーパーマリオシリーズ
今回の温泉施設の建設の際に“たぬき建設”が雇った配管工兄弟。
戦闘ばかりして忘れられがちだが彼らの本業は配管工である。“■■ロア商会”の臨時メンバーであり、数少ないマトモ枠。