異世界セカイ   作:龍狐

3 / 27
2 俺は子オークの亜種として、狩られかけたんだ。

 一週間後、兄は退院した。

 

 

兄「たっだいまー!!―――うおっ!家具の配置変わってる!アレ、ここに置いてあった置物は?」

 

一歌「お兄ちゃん、はしゃぎすぎ…」

 

 

 5年ぶりに家に帰って来たお兄ちゃんは、まるで友達の家にお邪魔したかのようにはしゃいでいた。無理もない。5年も経てば当時あったものがなくなったり、なかったものがあったりは当然だ。

 子供のようにはしゃぐ兄を、私は微笑ましく見つめる。

 

 

兄「リビングだ!!リビング!!ソファー!!」

 

 

 リビングに入ると、お兄ちゃんはソファーへと顔面ダイブした。凄く喜んでるなー…。

 

 

兄「はぁ~…実家の匂い…これだよ、コレ…。あ、ヤバイ。中毒になりそう」

 

 

 そう言ってソファーの匂いを物凄く嗅いでいる兄。―――傍から見れば物凄い事案だな、コレ。

 そのソファー私も座ってるから正直言って匂い嗅ぐのやめてほしいけれど、お兄ちゃんからすれば5年ぶりの実家だから、あまり強く言えないんだよなー…。

 

 

母「こら、ソファーの匂いなんて嗅いで…。はしたないからやめなさい」

 

父「久しぶりの我が家に興奮するのは分かるが、もっと節度を持て」

 

兄「はーい」

 

 

 お母さんとお父さんの一言でソファーから離れたお兄ちゃんは、今度はテーブル席に座った。懐かしいな、この席で4人一緒になって食卓を囲ったっけ。5年間は一つが空席だったけど、ようやく全部埋まるんだね。そう思うと、なんだか嬉しくなる。

 

 

母「それじゃあ、何飲む?やっぱりまだ退院したてだから、お茶とか牛乳の方がいいかしら?」

 

兄「じゃあ牛乳で。コップは俺が用意するよ。えっと、疾風操作ワーグレント・マグナだから……風の精霊よ、の物体を我が意のままに操れ

 

 

 お兄ちゃんが呪文らしきものを唱えると、シンクを中心に風が発生して流し台に置いてあった洗浄済みのコップを4つ浮かして机の上に綺麗に着地させた。

 

 

父「はー……見るのは二回目だが、本当に魔法なんだな…」

 

母「本当にねぇ。この目で見るまで信じられなかったわ」

 

 

 再び見た魔法に、二人は驚愕の表情を浮かべていた。一週間前はもっと驚いていたのに、順応早すぎない?

 

 

~一週間前~

 

 

兄『光の精霊よ、汝 剣と化しその姿をあきらかに現せ

 

両親『『ええぇえ!!??』』

 

兄『この魔法、俺が異世界で初めて使った魔法なんだよね。すごいでしょ』

 

 

~回想終了~

 

 

父「まさか自分の息子が本当に異世界冒険していたなんて…」

 

母「私てっきり、昏睡の影響で頭がおかしくなったのかと…」

 

兄「もー父さんも母さんも大袈裟だなー」

 

一歌「あははっ…ところでさ、お兄ちゃんは異世界ではどんな冒険してきたの?」

 

 

 時間もある程度経って落ち着いてきて、思い浮かんだ質問をした。異世界なんて今までないと思ってたから、興味本位もあるけど、とてもワクワクしていた。

 全員が席に着いて(隣にお兄ちゃん、向かい側にお父さんとお母さんがいる)、お母さんがみんなのコップに牛乳を注いでいる中、お父さんがそれに便乗してきた。

 

 

父「あーそうだ。俺も興味あるな。異世界って、なんかロマンがあるからな」

 

母「もしかして、アッチの世界で仲間とかできてたり―――」

 

「いや、俺異世界では基本的に5年間一人プレイだったから」

 

「「「――――」」」

 

 

 静寂の時間が続いた。お兄ちゃんが牛乳を飲む際の“ゴキュゴキュ”と言う音が部屋に鳴り響いた。

 

 

兄「それに、一歌には話したけど異世界人は容姿が整っていて、美男美女ぞろいなんだ」

 

父「いいことじゃないか。俳優や女優レベルの人たちだらけなんて、夢あるなー」

 

母「そうよ。そんな夢のような世界なら、あっちで美人さんの恋人でも作ったら―――」

 

 

兄「醜かったんだろうね」

 

 

3人「「「……え?」」」

 

 

兄「俺は―――」

 

 

 

 

兄(12歳)『ここ…どこ?』(日本語)

 

兄(12歳)『お父さん!?お母さん!?一歌!?どこだよー!』(日本語)

 

兄(12歳)『あれ、あっちに灯りが!人がいるのかな?おーい!』(日本語)

 

ゴブリンs『グギャ?』

 

兄(12歳)『ヒッ!!化け物だぁ!!』(日本語)

 

ゴブリンs『グギャァ!!グギャギャギャ!!』

 

兄(12歳)『痛い!痛い!やめて!!』(日本語)

 

ゴブリン『グギャギャギャギャ――アギャ!?』

 

傭兵1『ゴブリンだ!てめぇらやっちまえッ!!』(エクスハバマル語)

 

傭兵2『子オークもいるぞ!』(エクスハバマル語)

 

傭兵3『ゴブリンを優先しろ!瀕死のオークなんぞいつでも殺れる』(エクスハバマル語)

 

傭兵4『殺せ殺せ!!』(エクスハバマル語)

 

兄(12歳)『やめて!やめて!やめゲヘッ!!』(日本語)

 

 

 

 

兄「――目覚めた洞窟ばしょでゴブリンに集団リンチされた後、傭兵の男たちに“子オークの亜種”として狩られかけた」

 

3人「「「――――ッ!!!」」」

 

兄「ゴキュゴキュゴキュ。~~~プハッ~~!!おかわり」

 

 

 いや、「おかわり」じゃないよ!

 

 

一歌「お兄ちゃんちょっと待って。重い、重いから!!牛乳飲みながらする話じゃないからソレ!!」

 

兄「あーんでね、万事そんな感じなんだけど、特に攻撃的って言うか、付きまとってくるやかましい奴はいたな」

 

一歌「いやもういいから!!」

 

兄「いっつもいつもまとわりついてきて、嫌がらせと言うか、嫌みと言うか…俺がなにやっても人格否定とか、罵倒してくるんだ…」

 

 

 楽しく異世界冒険の話を聴こうとしてただけなのに、いつの間にかリビングはすっかりお通夜状態になってしまい、重苦しい空気だけが漂っている。

 そんな静寂を破るように、お父さんとお母さんが賛同の言葉を掛ける。

 

 

父「嫌なヤツだな、ソイツは…」

 

兄「そうなんだよ。初めて会ったとき魔物から助けたのに、お礼も言ってくれなかった」

 

母「そうね。助けた人にお礼も言わないだなんて、人としてどうかしてるわ」

 

兄「だよね!確か…「誰も助けてなんて頼んでないわ!触らないで!」とか」

 

 

3人「「「――――」」」

 

 

兄「「貴方のために助けたわけじゃない。貴方の魔法の力の有用性を考えてそっちを優先しただけなんだから、勘違いしないで」とか。あの女……他にも「アンタみたいなオーク顔と吐かないでずっと一緒に居られるのは、世界中どこ探しても私だけしかいないでしょうね」とか!!とにかく酷い言葉だらけなんだ」

 

一歌「えっと…その人とは、そのあと、どうしたの…?」

 

兄「えっ、適当な町でまいて逃げたよ」

 

 

3人「「「―――」」」

 

 

 お兄ちゃん―――ッ!!それ、どう考えても照れ隠しじゃん……!!確かに言葉は酷いけど、しっかり異世界人と交流できてたじゃん…!!

 でもお兄ちゃんほんにんは気づいてないのが……。

 

 

父「……それって、ツンデレってやつじゃないのか…?」

 

兄「えっ、ツンデレ?ないないない。アニメ星のカー○ィのブ○だって、ツンの部分は多いイタズラ好きな困った子だけど、なんの力も持たない小さな子がカー○ィのために危険な場所に向かうことも厭わない一面を持つ責任感の強い子だ。アイツとは大違いだよ」

 

 

 いや知らないから。アニメキャラ引き合いに出されても分からないから。

 

 

兄「それに…俺をオークだと罵って殺しに来る異世界人が俺のこと好きになるわけないしな

 

3人「「「―――ッ!!!」」」

 

 

 そうだった……。異世界ではお兄ちゃんの顔はオーク扱いなんだった…。人間として扱われずオークとして5年間も狩られかけてきたお兄ちゃんからすれば、異世界人を信じられないのも無理ない…。

 

 

父「えっと、その……すまなかったな」

 

兄「えっ、なんで父さんが謝るの?」

 

母「もっと……カッコよく産んであげられたらよかった…」

 

兄「えっ、なんで母さんも……あっ、そっか

 

 

 お兄ちゃんはなにかに気付いた後、机に身を乗り出してお父さんとお母さんの頭を鷲掴みにして――え?

 

 

兄「記憶の精霊よ、忘却の彼方かなたへ消し去れ」

 

父「オ゛ッ」

 

母「ウ゛ッ」

 

一歌「―――え?」

 

 

 お父さんとお母さんが死体のように背もたれにもたれかかって意識がなくなって――え?

 

 

一歌「お兄ちゃんなにや――え?これ…え?」

 

兄「――よし」

 

一歌「――――――。いや、「よし」じゃないよ!!なにやってるの?さっきの言葉の通りなら、今使ったのって『記憶消去』の魔法だよね!?なんで!?」

 

 

※一歌は前回の手帳の内容を『記憶消去』してもらった際、“『記憶消去』してもらった”と言う記憶も消去されたため、『記憶消去』の詠唱を聞くのは今回が初と言う認識になってます。

 

 

兄「いや、俺は別にこの顔に不満持ってるわけじゃないし。俺が異世界でオークとして狩られかけたことは別問題であって、だからその点で父さんと母さんのこと恨んでるとか、そういうのは全然ないからさ。二人が後悔だったり、罪悪感だったりを抱えるのは違うなって思ったから……やった」

 

一歌「だからって記憶を消さなくても…!!」

 

兄「いや、記憶消去は早い段階でやった方がいい。その方が人格への影響も少ないから

 

一歌「えっ、人格に影響…?」

 

 

 あれってそんな危険な魔法だったの?

 

 

兄「あぁ。あまりにも古い記憶を消すと、整合性が取れなくなってな。それで人格に影響が出る」

 

一歌「いや危険すぎるでしょその魔法!?そんな魔法をお父さんとお母さんに使ったの!?」

 

兄「大丈夫だ。俺も異世界で何度も使っていたが、今もこの通りピンピンしてる。それに消したのは俺がオークとして狩られかけたって言う部分だけだから、なにも問題ないはずだ」

 

 

 そうだった…。お兄ちゃんは異世界で辛いことがあったら自分の記憶を消してたんだった…。

 

 

「現にほら。過去の俺はこんなに記憶を消しているが、今の俺が問題あるように見えるか?」

 

 

 そう言われて再び渡されたのは、あの時お兄ちゃんが使っていた手帳。この手帳、良く見ると表紙に縦4本と横1本の線が書かれている。これが『正』の数の役割を果たしているのだろう。

 その線の数、合計68本。Yo○Tubeアカウントの件で一回消してたから、要するに5年間の異世界生活で自分の記憶を67回消したことになる。

 

 

一歌「――――」

 

兄「とりあえず父さんと母さんが起きるのを待とう」

 

一歌「……………うん」

 

 

 お父さんとお母さんが起きるまでの間、私は下を向いていることしかできなかった。

 

 

 

 




今作オリジナル要素

疾風操作ワーグレント・マグナの日本語詠唱

風の精霊よ、の物体を我が意のままに操れ

 ワーグレントの『風の精霊よ、』の部分は原作見てればすぐに思いつくんですが、マグナ(操作)の部分はまだ原作で日本語詠唱が出てないので、今作のオリジナルとなっております。

 2025年2月27日にて。エクスバハマルでは子オークの肉は美味しいというのが初期設定でしたが修正しました。

 評価:感想お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。