異世界セカイ   作:龍狐

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3 星のカー○ィを選んだ人間が、普通の人生を歩めると思うなよ?

一歌「そういえば、お兄ちゃんって新しいスマホ買わないの?」

 

兄「えっ?」

 

 

 両親記憶消去事件から翌日の日曜日。

 4年間の遅れを取り戻そうとパソコンを前にネットサーフィン(星のカー○ィの情報集め)をしているお兄ちゃんに、私は不意に質問した。

 

 

一歌「お兄ちゃんが使ってたスマホって5年前のだからもう最新バージョンにはできないし、そうしないと離れてるとき通話ができないから…」

 

兄「……いや、流石にこれ以上父さんと母さんに迷惑かけるわけにはいかない。通話は精霊にお願いすればいいし」

 

一歌「えっ、それどういうこと?」

 

兄「精霊ネットワークとでも言えばいいのかな?精霊にお願いすれば俺に教えてくれるんだ。虚空に向かってお願いするだけでいい」

 

 

 精霊……確かお兄ちゃんの使う魔法の起源そのもの。お兄ちゃんの魔法はその精霊さんたちから力を借りているらしい。

 精霊さんにお願いして、そんなことも出来るのかと驚いたけど…

 

 

一歌「いやそれ恥ずかしくて人前で出来ないし。それにその方法じゃ私とお父さんとお母さんの三人としか話せないじゃん」

 

兄「いや、別にいいでしょ。それで」

 

一歌「……小学校の友達とか…」

 

 

 

兄「一歌……星のカー○ィを選んだ人間が、普通の人生を歩めると思うなよ?

 

 

 

 この人はなんで星のカー○ィにそこまで人生を引っ張られてるんだろう…。

 確かにお兄ちゃんは普通とは言い難い人生を経験してるから、妙な説得力があるけど…。少なくとも、いや、絶対に異世界と星のカー○ィは関係ない。

 

 

兄「しっかし、4年間でいろいろ変わったな…。とりあえずNi○tendо S○itchの基本情報見てみたけど、3○Sとはまた違った技術が取り入れられていて驚いたよ。特に驚いたのは本体とコントローラーが分離できるところだな。今までゲーム機では一体になっているか別々に用意されていたのに、その両方ができるようになるなんて、まさに革新的としか言いようがないな!」

 

一歌「あ、うん…。まぁ4年も経つとね…」

 

兄「……あ、そういえば、俺もやったな。異世界で技術革新

 

一歌「―――えっ!やったのお兄ちゃん!?」

 

兄「うん。かんばつで苦しむ村で、【水の湧き出る壺】を作った」

 

一歌「すごい!それも魔法で?」

 

兄「えっと、二つの魔法を……頭の中見せた方が早いな。記憶再生イキュラス・エルラン

 

 

 お兄ちゃんが目の前の虚空に両手をかざすと、そこにホログラム画面のようなものが表示され始めた。

 

 

一歌(これ…お兄ちゃんの異世界での記憶…!?)

 

兄「これは、異世界転移して大体3か月後の出来事だな」

 

 

 こんなこともできてしまうなんて、改めて魔法のすごさを実感する。私が知ってる魔法なんて風と火の魔法と、記憶消去の魔法しか知らないから余計に。特に記憶消去の部分が問題だけど。

 記憶映像の中はお兄ちゃん目線で映し出されていて、二つのお札らしきものを手にしていた。

 

 

兄「魔法を込めた札…『呪符じゅふ』を使ったんだ。それで詳細は省くけど“水の電気分解”の逆をやったらうまくいった」

 

一歌「お兄ちゃん…!!」

 

兄「1ヵ月くらいかかったけど、なんとか完成できて、当時はすっごく喜んだよ」

 

 

 すごい。記憶映像の中のお兄ちゃんは50枚を超える設計図を作って試行錯誤を繰り返して、完成した壺から微妙にだけど水が出てきている。

 

 

一歌「すごいよ!大変なことばかりだと思ってたけど、ちゃんと謳歌してたんだね!!これなら異世界の人からも感謝とか、尊敬とかされるよ!!」

 

兄「……いや…」

 

 

 

―――いや?

 

 

 

 

村人『死ねー!』

 

村人『殺せー!!』

 

村人『クソオークがぁ!!』

 

 

 クワやらカマやら猟銃やらを持った村人たちがお兄ちゃんに罵声を浴びせて―――なんで?

 

 

兄「吊るされかけた」

 

一歌「―――――」

 

兄「壺は叩き壊されて、作ってた場所も設計図も全部燃やされた。なんか……宗教的に駄目だったっぽい」

 

一歌「―――――」

 

 

 私は今、どんな顔をしているのだろう。自分の表情すら分からないくらいに重い雰囲気が漂う中、映像に変化が訪れた。

 

 

???『待ちなさい!!』

 

 

 吊るされてるお兄ちゃんの前に一人の女性が割って入って来た。

 後ろ姿しか分からないけれど、金髪で長剣を持った女性がお兄ちゃんを庇ってる。

 

 

一歌「お兄ちゃん、誰か助けに入ったけど、この人は?」

 

兄「あぁ。これは例の嫌がらせのやつだな」

 

一歌「えっ、この人が!?」

 

 

 たくさんの村人から助けてくれようとしてるこの人が?この人もしかして、やっぱりいい人なんじゃ…

 

 

???『聞きなさい!確かにこの男は邪悪な顔をしていて、オークそのものよ!!』

 

兄「ホラ」

 

???『それに“魔法”と言う得体のしれないものを扱う!あなたたちが不信に思うのも無理はない!!』

 

兄「な?」

 

 

 

???『―――しかし!!』

 

 

 

兄(13歳)『疾風断刃ワーグレント・グラッカ』(小声)

 

 

 

兄(13歳)『フー、まいった。散々だ』

 

 

 縄を魔法で切って、庇った女性を置き去りにしてお兄ちゃんは我先にと逃げ出していた。

 

 

兄「まぁ、こんな感じだな」

 

一歌「――――ッ!!」ダンッ!!

 

 

 私は考えるよりも先に感情が振り切って、机を思いっきり強く叩いた。

 この感情を、なんと表現すればよいのだろうか。助けてくれた女性を置き去りにしたことは酷いが、お兄ちゃんもあのままいたらなにされるか分かったものじゃなかったし、と言うかあの人の庇い方もほぼ暴言そのものだったし、どちらを責めていいのか全く分からない。

 それゆえに、私は机に当たるという暴挙に出たのかもしれない。

 

 

兄「……だよな」

 

一歌「えっ?」

 

兄「見づらいよな。一人称視点」

 

一歌「あ、うん…(そこじゃないんだけど…)」

 

兄「えっと、画面をスワイプしてカメラ回転っと」

 

一歌「えっできるの!?」

 

兄「できるよ。異世界でもこの魔法使う時はもっぱら三人称視点だった。こっちに戻ってきたから、設定がリセットされたのかな?」

 

一歌「そういうシステムなの?」

 

 

 まさか記憶映像を三人称視点で見ることができるとは思わなかった。

 それにしても魔法に設定とかリセットとかってあるのは驚いた。

 

 

兄「で、ピンチ・インで縮小っと…」

 

一歌「………すごい狩られかけてたね、お兄ちゃん」

 

 

 映像の中の兄は、頭に豚の被り物をしてきているものは腰の藁だけで体中の至る所に傷ができていた。しかも胸にドクロの絵が描かれてるし…。改めて12歳の時にとんでもない経験をしてるんだな…。

 そんな時、映像の左下端に数字が羅列された。

 

 

兄「あれ、記憶の精霊が勝手に…」

 

一歌「これ…日付と時間?」

 

 

 左下端に羅列された数字は、日付と時間だった。ちょうど5年前の。映し出されてる日付は2016/4/27 19:44と表示されていた。……この日付って…

 

 

兄「……あ、これ俺の誕生日だ…」

 

一歌「――――ッ!!!!」

 

兄「そっか…俺の13歳の誕生日プレゼント、コレだったのか…」

 

 

 重い…!!重すぎるってお兄ちゃん――――!!!

 

 

一歌「……えっと、じゃあ、さっきの人、どうなったか、見れる…?」

 

 

 私は逃げるように話題を別なものに変えた。

 

 

兄「あぁ。できるぞ。ピンチ・アウトで拡大っと…」

 

 

 拡大されていく映像を見ると、狂気に塗れた村人たちと、悔しがる様子の女性の姿があった。

 

 

???『あの臆病者…逃げたのね…』

 

 

???『―――ったく。しょうがないんだから』

 

 

一歌(すごくいい人だ!!しかも美人!!)

 

 

 

村人s『『『『『オオオオオオオオオオオ』』』』』

 

???『さぁ来なさい邪教徒ども。この“剣聖姫”【エルミリア】が相手よ』

 

 

兄「はいはい。臆病臆病…」

 

一歌「あっ」

 

 

 お兄ちゃん――!!エルミリアさんの優しさに全然気づいてない…!!

 

 

兄「……こいつ、強いだろ?」

 

一歌「……そうだね。村人たちが物凄い勢いでやられてる…」

 

兄「―――――」

 

一歌「―――――」

 

 

 記憶再生の魔法を終えてから長いこと、沈黙が続いた。

 そして、最初に動いたのはお兄ちゃんの方だった。お兄ちゃんは収納魔法から例の手帳を取り出して、記載をし始めた。

 

 記載の内容は、『水の湧き出る壺の村での出来事、俺の13歳の誕生日』だった。

 

 

兄「……一歌。お前も、消すか?」

 

一歌「………うん」

 

 

 この日、私の記憶から一部の出来事が消えた。

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

母「一歌、陽介、ご飯よー!」

 

一歌「はーい!今行くね!」

 

兄「お、昼飯だやった」

 

 

 お兄ちゃんと一緒に階段を下りて、食卓に着く。

 今日の昼ご飯は豚の焼肉だった。

 

 

兄「ひょーうまそー!いただきます!……うまッ!!」

 

母「ゆっくり食べなさい。全く…」

 

父「急ぐと詰まるぞ…」

 

兄「ははっ。ごめんって。それにしても、この肉の上に乗ってるショウガ?ネギも入っててなおグット。好きになる味。コレなに?」

 

一歌「あぁそれ、私が去年の修学旅行で京都に行ったときに買ってきた“ねぎ生姜”だよ」

 

兄「へーマジか!京都かー。これって、まだ残ってる?」

 

母「ごめんね。それでもう最後なのよ」

 

兄「あ、そっか……」

 

 

 お兄ちゃんはとても分かりやすく残念がっていた。相変わらず感情の機敏が分かりやすくて微笑んじゃう。あんなの(水の湧き出る壺の村の出来事)を見返してもこの笑顔ができるのは、本当にある意味すごい。

 

 そして食事をし終わった後、お兄ちゃんは立ち上がってお父さんのところに向かった。

 

 

兄「父さん。今、お金ってどれくらい持ってる?」

 

父「え、今財布の中には千円札を何枚か入れてるが…」

 

兄「そっか。一歌、さっきの“ねぎ生姜”っていくらした?」

 

一歌「え、詳細は覚えてないけど、2千円あれば買えたかな…」

 

兄「オッケ。じゃあ父さん。2千円欲しいんだけどいいかな?おつりは返すから」

 

父「別にいいが……」

 

 

 お兄ちゃんはお父さんから2千円を受け取ると、玄関から靴を持ってきてリビングの窓を開けてベランダに出て、靴を履き替えて外に出た。

 そして徐々にお兄ちゃんの体が浮き上がって―――え?

 

 

兄「ちょっと行ってくる」

 

 

 その言葉とともに、緑色の魔法陣をくぐり抜けながら空の彼方へ消えていった。

 

 

 

 

 

~7分後~

 

 

 

 

 

兄「ただいまー」

 

 

 再びベランダからお兄ちゃんが家に入って来た。行きとの違いは、その右手に私が去年買ったのと同じ“ねぎ生姜”が握られていたことであった。

 

 

兄「はい父さんこれ、お釣り」

 

父「あ、あぁ、ありがとう…」

 

 

 買ってきた“ねぎ生姜”を机の上に置くと、椅子に座って寛ぎ始めた。

 

 

一歌「……ねぇ、お兄ちゃん」

 

兄「どうした?」

 

一歌「………県限定の衣装ミクのタオル、買いに行ける?

 

兄「何県?」

 

一歌「北海道」

 

兄「5分だな」

 

 

 この日から、お兄ちゃんは地域限定商品を買いに行く能力を覚えた。

 

 

 




 記憶の精霊が日付を出すタイミングがあまりにも都合が良すぎた件について。

 記憶の精霊なら人間の思考にも干渉出来そうだなと思ったので、一歌が当時のお兄さんを12歳だと思っている状況で記憶の精霊の干渉を演出してみました。


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