咲希「おーい、いっちゃーん!おはようー!」
一歌「あっ、咲希。それに穂波と志保も。おはよう」
両親記憶消去事件から翌日。平日のため学校に足を運んだ私は校門近くで幼馴染の咲希、穂波、志保と出会った。私たちはそれぞれの教室に向かいながら話をしていた。
穂波「おはよう、一歌ちゃん」
志保「おはよう。一歌」
咲希「ねぇいっちゃん!お兄さん、退院したって聞いたけど、大丈夫だった!?」
挨拶が終わると、咲希が真っ先にその質問をしてきた。そういえば一週間前にお兄ちゃんが目を覚ました時にも同じような質問されたっけ。
一歌「大丈夫だよ。すごくピンピンしてる」
咲希「えーっすごい!私の時はもっとかかったのに……」
咲希は高校になるまで、ほとんど病院暮らしだったからな…。動かしてなかった体を動かすリハビリはすごく大変だったとは聞いている。
それを考えると、お兄ちゃんは4年間まったく体を動かしてなかったのに1週間で完全回復したのは、魔法の力でもあるんだろうな。
咲希「あっそうだ!!今日の帰りにさ、お兄さんに会ってみてもいいかな!?4年も会ってないから、今どんな風になってるのか気になる!!」
一歌「え゛ッ」
咲希の言葉に私はおもむろに歩みを止めて自分でも驚くくらいの野太い声を出した。
穂波「い、一歌ちゃん?どうかしたの?」
志保「……もしかして、お兄さんに、またなにか?」
一歌「う、ううん。そんなのじゃないの。ただ、ちょっと―――」
どうしよう。この場合なんて答えればいいんだろう。
通常の場合、普通に家に招待してお兄ちゃんに合わせてもよかったんだけど――それは普通の場合だ。
今のお兄ちゃんは、魔法使いだ。いつボロが出るかもわからないし。なにより、私が一番恐れているのは咲希たちが記憶消去されることである。記憶消去の魔法は最悪人格に影響を及ぼす魔法で、それが咲希たちに使われればどうなるか分かったものではない。
昨日お父さんとお母さんが消された記憶は直近のものだったから、なんとかなったけど…。どうなるか分からない以上、あまり合わせないほうがいいのではないかと思ってしまう。でも、会わせなかったらそれはそれで怪しまれるし……。
両親にすら即断即決で実行するから、咲希たちに魔法のことがバレればお兄ちゃんは容赦なく記憶消去する。
いくら咲希たちが一月前の“錬金術”云々の件で非常識に少しは慣れてるとはいえ、それとこれとは別問題だ。
会わせるべきなのか、会わせないべきなのか…
志保「―――一歌?どうかしたの?」
一歌「な、なんでもない!!そ、それに関してはちょっとお兄ちゃんにも聞いてみるね。それじゃあ、また後で!」
ちょうど教室に到着したのを見計らって、私は逃げるように教室の中へと入っていった。
咲希「―――怪しいなぁ…」
穂波「やっぱり、お兄さんになにかあったんじゃ…?」
志保「それに、あの焦り様はただ事じゃないってのは確かなはず…」
咲希「いっちゃん、どうしたんだろう…」
* * * * * * * *
一歌「はぁ…とりあえず、お母さんに連絡しないと…。この時間帯なら、まだいるはずだし…」
私は急いでお母さんにメールを送る。お母さんはお父さん同様、お兄ちゃんが異世界でオークとして狩られかけていたことは記憶消去されたから覚えていないけど、魔法が使えるということ自体はしっかり覚えている。だから話せばちゃんと理解してくれるはず。
本来ならお兄ちゃんに直接連絡するのが一番なんだけど、お兄ちゃんが4年前に持っていたスマホは最早古すぎて最新バージョンに更新することができず満足に使えない。だからお母さんに連絡して、お兄ちゃんに伝えないといけない。
『お母さん、今お兄ちゃんいる?』
『陽介なら喫茶店に行くとか言って夕方まで帰ってこないって言ってたわよ』
―――え?
* * * * * * * *
~放課後~
―――どうしよう。
一歌「とりあえず咲希たちが来ることはお母さんには伝えたけど…」
まさか肝心のお兄ちゃんが不在だとは思わなかった。しかもなんでよりにもよって喫茶店?朝からいるところじゃないよ?
お兄ちゃんの連絡手段がない以上、お兄ちゃんが帰って来たタイミングで言うしかない。幸い、お兄ちゃんは目立つことはしたくないみたいだし、なんとかなるかもしれない。
今日は日直の仕事で少し遅れたので、教室を出ようと手提げかばんを持つ。
一歌「よし、覚悟を決めよう」
??「……一歌」
一歌「えっ、ミク?」
私が慌ててスマホを取り出すと、そこには私たちのセカイのミクがいた。
一歌「どうしたの、ミク?」
ミク「えっと、ちょっと心配になっちゃって…」
一歌「えっ、心配?」
ミク「ごめん、一歌……昨日のお兄さんの話、私も聞いてたんだ…」
一歌「えっ」
え、聞いてた?ミクが?お兄ちゃんとの話を?
一歌「……ちなみに、どこから?」
ミク「割と最初の方から…」
つまりミクはあの水が湧き出る壺の村の出来事を全て聞いていたことになる。
ミク(あとなんか、一歌の記憶消してたけど……これは言わない方がいいよね…)
一歌「……ミク。お願いだから、本当にお兄ちゃんのこと咲希たちに言うのは…」
ミク「うん。私も咲希たちの記憶消されたくないし…」
とりあえずこの話はここで終わった。私は慌てて教室を出て、校門前で待ち合わせしている咲希たちと合流した。
それから私の家に向かって雑談を交えながら歩いていく。お兄ちゃんの話題はできるだけ避けながらだけど――。
そして何事もなく家に到着した。
お父さんはまだ仕事だし、お母さんは買い物に行っているみたいで家には誰もいなかった。
私は咲希たちを自分の部屋に案内した後、一階に降りてお茶とお菓子を用意する。
できれば早くお兄ちゃんには帰ってきてほしいんだけど……。
* * * * * * * *
志保「お兄さん、家にいないみたいだけど…その間、何してよっか」
穂波「一歌ちゃんの話だと、夕方ごろには帰ってくるって言ってたけど…」
咲希、穂波、志保の三人は一歌の部屋でお兄さんが帰ってくるのを待っていた。
咲希は少し興奮気味だが、志保と穂波にとってはあまり興奮できるものではなかった。と言うのも、一歌の兄とはあまり話したこともなく、少し聞いていた話も、
兄(8歳)『裏切ったのか、マ○ロアァアアアア!!!カー○ィたちの善意を返せ!!』
兄(9歳)『えっ、コ○ー能力ミックス?星のカー○ィ64にこんなギミックあったのかよ!昔のカー○ィもすげぇ!』
兄(10歳)『よし、せっかくだから新しいコ○ー能力のビー○ルで行くか!―――ウィ○ピーフラワーズってなに?ウィ○ピーウッズのパクリか?』
兄(11歳)『あっ、また敗けた…強すぎないこの青色カー○ィ?鬼殺し火炎ハンマーのタイミングうますぎるだろ!』
穂波・志保((カー○ィの話しかしてなかったからなぁ…))
穂波と志保にとっては星乃一歌の兄は“カー○ィが大好きな人”と言うイメージしかなかった。だからと言っても4年前に交通事故にあったということには驚いたが。
だがしかし、今年になってようやく目覚めたというのだから驚きだ。それに4年も会っていないから単純な興味もあった。
咲希「お兄さん、早く帰ってこないかな?」
志保「ところでなんで咲希はそんなに興奮してるの?お兄さんと交流あったっけ?」
咲希「実はね、お兄ちゃんからもお兄さんの様子を見てきてほしいって言われてるんだ。お兄ちゃん、今日ショーの練習だから来れないし、「俺の分まで陽介のこと見てきてやってくれ!」って」
穂波「そうなんだ…」
志保「司さんらしいって言うか…」
そんな雑談を交えながら一歌が来るのを待っていると――、
ガラッ
すぐ近くで、窓が開く音が聞こえた。
咲希「えっ、今の音って…」
穂波「窓が開いた音、かな…?」
志保「一歌…?」
気になった志保が率先して部屋の扉を開けて外を確認すると…
???「――――」
志保「―――――」
穂波「志保ちゃん?どうし―――」
咲希「いっちゃんが戻って―――」
3人の表情筋が固まった。
3人が廊下で見たもの、それは――
???「ストナガース レスト ラーバルム?」
30歳ほどの老けた顔をした謎の男だった。
男は2階ベランダの窓の傍に立っており、先ほどの音はあの窓が開いた音だと推測できる。じゃああの男は誰か、不審者?泥棒?どっちにしろ3人は思考が停止してそれどころではなかった。
謎の言語を発した謎の男は、3人の姿を確認すると猛烈な勢いでこちらに走ってきて、前にいた志保と穂波の頭を鷲掴みにして押し倒され、一歌の部屋の扉の境目に倒れる。
???「イキュラス・キュオラ…!!イキュラス・キュオラ!!イキュラス・キュオラ!!」
志保「―――ッ!!」
穂波「―――ッ!!」
咲希「ほ、ほなちゃん…しほちゃん…」
再び謎の言語を叫ぶ男に、穂波と志保は恐怖で瞳から涙が滲み出て、咲希も恐怖でその場から動けずにいる。
???「―――あぁ、日本語」
咲希「ヒッ!!」
男がついに日本語を話すと、男の顔が咲希の方に向いた。男と咲希の視線が合うと、咲希は恐怖のあまり涙が出てきて―――、
???「縛れ!!」
咲希「な、なにこれ!?鎖…!?動けない…!!」
瞬間、突如現れた魔法陣から出現した光の鎖が咲希の体を拘束する。床、壁、天井から張り巡らされた光の鎖は咲希の体の自由を即座に奪い、行動の自由を封じた。
再び男の顔が志保と穂波に向き直ると――、
???「記憶の精霊よ、忘却の彼方へ―――」
一歌「おにいいいいいいいちゃああああああああん!!!」
間一髪のところで、異変に気付いた一歌が現れ穂波と志保から男を引きはがす。
男は一歌の拘束から逃れようと、身をよじりながら言葉を発する。
???「一歌……不審者…敵!!消す!!それに見られた…。今ならまだ人格に影響は…!!」
一歌「不審者じゃない!!咲希と穂波と志保だよ!!私の幼馴染!!家に何度も来たことあったでしょ!?」
???「―――。………」
すると、男は抵抗を止めた。それを分かった一歌は男の拘束を止めると、男は土下座のポーズをして――、
兄「どうもお久しぶりです。星乃一歌の兄です。一歌がお世話になっています。この度は大変申し訳ございませんでした」
綺麗な挨拶と謝罪をした。
* * * * * * * *
危なかった。本当に危なかった!!あともう少しで穂波と志保の記憶が消されるところだった。
今、私たちとお兄ちゃんは私の部屋で話し合っていた。まぁ咲希たちの距離が少し遠いのは、さっきのことがあったから仕方なかったけど…
まさか懸念していたことが速攻で起こるとは思いもしなかった。
一歌「ていうかなんで上のベランダから入って来たの…?」
兄「部屋から取りたいものあったし。上からの方が早いかなって…」
一歌「タイミングが悪すぎる…」
頭を抱える私の隣から、志保がお兄ちゃんに声を掛けた。
志保「えっと、つまりお兄さんは交通事故の際に意識だけ異世界転移・転生して4年間冒険してたってことですか?」
兄「そうだよ」
あっけらかんと答える兄に、周りが沈黙する。
まさか30代ぐらいの不審者だと思っていた男が目的のお兄ちゃんで、しかも17歳だという事実への驚きもあっただろう。まぁよくよく考えてみれば4年間も寝たきりだったら老けるのも無理はないからなぁ…。
それに、4年間異世界で冒険して魔法使いになって帰って来たという方が驚きだった。
穂波「―――普通だったら信じがたいですけど…」
咲希「私が魔法で捕まってたしなぁ…」
一歌「それにさっき魔法で治してたしね。穂波と志保のこと」
異世界やら魔法なんて普通信じられることではないが、咲希を拘束していた魔法を見たことと、先ほどお兄ちゃんが収納魔法か取り出していた『回復の呪符』で怪我を治したことで、3人ともお兄ちゃんの異世界冒険のことをすぐ信じられたようだ。
穂波「あのお札を使ったら痛みがすぐ消えたし、使ったら消えちゃったし、信じるしかないよ」
兄「いや、俺が勘違いしたのが悪いんだ。不審者だと思って咄嗟に記憶消去しようと…。ほんとごめん」
いやだからって記憶消去しようとしないで。記憶ってそんな簡単に消していいものじゃないから(過去に二回使用されている)。
志保「えっ、待ってください『記憶消去』?そんなヤバイことしようとしてたんですか?」
兄「あぁ。過酷な異世界ではお世話になることの多い魔法なんだ。異世界での習慣とでもいうのかな…?それで、咄嗟に」
穂波(『記憶消去』が必要な異世界、怖い…)
咲希(一体何があったんだろう…)
3人ともとても驚いてるな…。私も当初はそんな感じだったらかよく分かる。
兄「二人とも、『回復の呪符』は一枚だけでいいのか?なんならまだ在庫があるから、使ってもいいんだぞ?」
穂波「いえ、大丈夫です…」
一歌「ていうかたくさんあるんだ…」
兄「あぁ。この前在庫一掃セールで安かったからな。大量に買ってあるんだ」
4人((((在庫一掃セール……))))
ていうか呪符って買えるんだ。
兄「それに、俺も癒しの魔法が使えるからな。使えるようになってから、『回復の呪符』は有り余ってるんだ」
一歌「えっ、お兄ちゃん回復魔法も使えるの!?」
兄「あぁ。ずっと前まで使えなかったんだが、帰還の三か月ぐらい前から突然な。きっと、ドクターカー○ィが俺に力を貸してくれたんだ。もしくは俺にコ○ー能力が目覚めたんだろう」
一歌「あっ、うん。そうだね」
兄のカー○ィの話を軽くスルーした私は、咲希たちに向き直る。
三人ともとても落ち着いている。『記憶消去』される寸前だったとはとても思えない。一か月前の少年と九尾の狐、そして髪が長い人の件のおかげで、土台ができてたんだろうな。
でもあれ、ほんとあの髪の長さ(関係ない)と身長で13歳だって言うのが未だに信じられない。
志保「ほんと、錬金術の次は魔法…?訳分かんないって…」
兄「えっ、錬金術?どゆこと?」
一歌「えっと、お兄ちゃんが目覚める一か月くらい前のことなんだけど…13歳の男の子が、九尾の黒い狐を連れててね。その狐が錬金術で創られた人口生命体なんだって。凄く驚いたんだ。ね」
咲希「そうなんですよ!本当に可愛くて!あーまた会いたいなー!」
穂波「そうだね。私も触りたかったな…」
そんな感じで、一か月前の思い出に浸っていると、お兄ちゃんがなにやら考え込んでいた。
兄「えっと……もしかしてその人と狐って、ニヤリさんとクロスくんのことかな?」
一歌「えっ、二ヤリって人は分からないけど、クロスなら、その狐の名前だけど…」
兄「アレ?…………あっ、もしかして一歌と出会ったときは、まだ【黒竹】だったのかな?」
咲希「えっ、なんでお兄さんがあの子たちのこと知ってるの!?」
出会ったのは1ヵ月前のことで、先週目覚めたお兄ちゃんが知ってるはずないのに……。
咲希たちも、あの子たちのことを知っていたことに驚いていた。
兄「知ってるもなにも、今日会ってきたし」
一歌「会ってきたの!?」
兄「あぁ。朝から行った喫茶店でな。偶然出会った。店主経由で話すことになって、俺の名前教えたらさ、一歌の名前出してきてめっちゃ驚いたよ」
咲希「そうだったんだ!黒竹くんとクロスくん、元気にしてた!?」
兄「あぁ。凄く元気だったよ。ていうか今はニヤリって名乗ってるらしいんだよね」
志保「じゃあフルネームだと【黒竹ニヤリ】…?」
兄「そうなるのかな?」
黒竹くん……一か月の間に何があったんだろう。
兄「あぁでもなんか、二ヤリさん。変なこと口ずさんでたんだよな…」
一歌「変なこと?」
兄「そうなんだよ。なんか「俺はNTRを赦せない」って言ってた。その後、「あんたもそうだよな?」って聞かれたから、とりあえずYESって答えたけど、NTRってなに?」
4人((((本当になにがあったの……???))))
黒竹くんの身に一体なにが……。
ていうかお兄ちゃんNTR知らないんだ。まぁカー○ィしかやってなかったし、4年間異世界冒険してたから、知る由もないよね…。
咲希「そうだ!せっかくだから、お兄さんの異世界冒険の話、聞かせてくれませんか?」
穂波「あっ、私も正直、気になります」
兄「おっ、いいよ」
志保「私は別にどうでもいいんだけど……」
咲希「そんなこと言ってー。しほちゃんも気になるでしょ?」
志保「まぁ、気にならないと言えば嘘になるけど……」
咲希「やっぱり!!」
穂波「えっと、お兄さんの冒険って、RPGみたいな感じだったんですか?私もよく知らないんですけど」
兄「ん-……そもそも俺、RPGは苦手だからやったことほとんどないんだよね。やったのも俺が【星のカー○ィ】にハマる前の一度きりで。最初はいいんだけど、次の日起動したら前回まで何してたのか忘れて、どこ行ったらいいのか分かんなくなる……」
一歌「そうなんだ…」
お兄ちゃん、あんまり記憶力いい方じゃなかったんだ…。テストの成績も良くも悪くもなかったみたいだけど、これでもゲームのために勉強は頑張ってたのかな…?
兄「幼稚園のころ、同じ組の宮内くんにおすすめされてさ…。お年玉で買ってみたんだけど全然進められなくてさ。後日宮内くんにアドバイス聞いたら、アドバイスどころかその先のストーリーまでネタバレされたからそれ以降手をつけなくなっちゃっただよね」
宮内くん…!!
兄「あぁでも、異世界でもRPGみたいな出来事あったな…」
一歌「あったの?」
兄「確か14歳のころ……記憶再生」
お兄ちゃんが魔法で自分の記憶を映像化すると、隣で咲希たちの驚く声が耳に入る。
咲希「えっ、なにこれ!?」
兄「俺の記憶映像だよ」
穂波「そんなこともできるんですか?」
志保「なんでもありなんですね…」
一歌「RPGみたいな出来事って、一体どんな―――」
村人1『オークだぁああー!!』
村人2『オークが攻めてきたぞ!!』
村人3『銃だ!村にある銃片っ端から持ってこい!!』
村人4『剣もだ!!』
村人5『足りなかったら農具を持て!!』
村人6『囲め囲め!!総出でやればオーク一匹なんて!!』
村人7『殺せ殺せ!!』
村長『くそっ、オークめ!!この村は貴様のような糞豚には負けんぞ!!』
咲希・穂波・志保「「「―――え?」」」
一歌「うん……知ってた…」
兄「あ、早すぎた。早送り早送りっと」
案の定異世界人からオーク扱いされてるよお兄ちゃん…。それに咲希たちが驚いて固まっているのも本当に無理はない。そんな私たちを尻目に映像の早送りをするお兄ちゃんが。
村長(ボロボロ)『実は、西の【炎の祠】に伝説の龍【暴食竜】が復活しておりまして、このままでは村は焼き尽くされ、村の人間は喰いつくされてしまうんです』
一歌(お兄ちゃん……新しい村に着いたらまず村人と戦闘になるんだ…)
咲希「……えっ?―――えっ?なにこれ?お兄さんさっき襲われてなかった?」
一歌「お兄ちゃんは美男美女だらけの異世界ではオークの亜種として狩られる対象らしいんだよね」
穂波「異世界厳し過ぎない…?」
志保「しかも村人たちが次のシーンでボロボロになってるし…」
まさかの現実に沈黙する咲希たち。その気持ち、すっごい分かる。
兄「そうなんだよ。でも、俺と違ってみんな美人になってるからな!異世界でもきっと人間扱いされると思うぞ。俺と違って」
一歌「――――」
3人「「「――はい」」」
やめてお兄ちゃん。返答に困ること言わないで。咲希たちすごく下向いてるから。
こんなにも苦しくて悲しく感じる誉め言葉なんて今まであっただろうか。
そして映像の中のお兄ちゃんは、大木で出来たツリーハウスのような場所に案内されていた。
村長『【暴食竜】を倒せるのは、【暴食竜】を含む7匹の竜【大罪竜】の一体、【色欲竜】ラストドラゴンの体の一部を持ってして造られたという、【凍神剣】のみ。しかし、その剣の管理人で“氷の一族”の末裔が、少々厄介者でして……』
一歌「へぇ~…私RPGには全然詳しくないけど、なんか確かにそれっぽ―――」
そのとき、お兄ちゃんの記憶映像に映し出されたのは、全てが氷で覆われた部屋と、その部屋の中心に氷で覆われた細身の剣が台座に突き刺さっており、その横で座っているとても銀髪がとても綺麗な美人な人がいた。だけど、その人の瞳はとても冷たい瞳で、思わず固唾を飲んでいた。
一歌(なんて、冷たい瞳…!!)
咲希(すごい美人なのに…怖い…!)
村長『この娘、【クレイリア】の心の氷を溶かさない限り【凍神剣】の封印は解けませぬ。一説には、【凍神剣】の製造の際にクレイリアの一族の血を材料の一つとして使っていたためだとされています』
穂波(血で造る武器ってなに…!?)
志保(生々しすぎるでしょ、異世界…!)
兄「クレイリアの一族は、代々400年間。暴食竜が復活する度に凍神剣で“凍結封印”してその土地の平穏を守っていた由緒正しき一族なんだ。だけど、歴代の管理人に認められた凍神剣の使用者も、暴食竜を完全に倒すことは叶わなかった。それくらい、【大罪竜】ってのは強いんだ。事実、俺もメッチャ苦戦した」
異世界の竜ってそんなに強いの…!?
お兄ちゃんから語られた“氷の一族”の話に驚いていると、クレイリアさんが口を開いた。
クレイリア『子供の頃、“マルキード山”の頂上で母さんと見た“ポワポワの花”……綺麗だった、なぁ…』
兄(14歳)『……任せろ』ザッ
そうしてお兄ちゃんは、力強い背中を見せて扉から外に出て―――
暴食竜『ギャアアアアアアアア!!!』
兄(14歳)『よし!【暴食竜】撃破!!』
兄「俺は、【炎の祠】に直行して【暴食竜】を倒した」
一歌・咲希・穂波・志保
「「「「なんで(ですか)!!??」」」」
えっ、なんで!?なんで直行したの!?
しかもお兄ちゃん思いっきり燃えてるし!!
咲希「えっ!?暴食竜って400年間凍神剣でも完全に倒せなかったんじゃなかったんですか!?」
一歌「さっきまでの前振りはなんだったの!?」
400年の歴史がすごくアッサリと終わった!?
兄「マジで大変だったけど、工夫して攻撃パターンを覚えたらなんとか倒せたんだ」
一歌「いや、そうじゃなくって…!!」
咲希「マルキード山にあるポワポワの花はどうしたんですか!?」
穂波「せめて取ってきてあげてくださいよ!!」
兄「いや、ほんとマジで無理。そういうの覚えられない」
志保「そんなに難しくないですよ!?」
いやそれお兄ちゃんの記憶力の問題!!
兄「そして、俺は村は安全になったと報告しに行ったんだ」
村長『えっ、暴食竜を倒した?』
村長さんが未だに氷漬けにされてる部屋と剣を見る。
そしてついにはクレイリアさんが不貞寝した。
村長『……ありがとうございます』
兄「とても喜ばれたよ」
一歌「うん……」
咲希・穂波・志保「「「…そうですね…」」」
やったこと自体はとても喜ばれることなのに…。これじゃ素直に喜べないって…。
400年間“凍結封印”するしかなかった竜をこんなアッサリと…。長く続いた歴史に幕が閉じちゃった…。
兄「とりあえず、今日はコレでおしまいにしよう。もうそろそろで暗くなるし、早いとこ帰った方がいい」
咲希「そ、そうですね…」
志保「そろそろ夕飯の時間だし、確かに帰った方がいいかも」
穂波「一歌ちゃん。お邪魔してごめんね」
一歌「気にしないで。それじゃあ、玄関まで見送るね」
玄関まで見送るために立ち上がると――、
兄「いや待て、こんな時間に女性だけで歩かせるなんてさせられない。俺が送って行こう」
志保「いや、流石にそこまでは……」
兄「異世界では夜道を出歩いている村娘がゴブリンに連れ去られる話がよくあったからな。ここでも似たようなことが起きないとは限らない」
4人((((異世界怖い……))))
兄(まぁその娘がゴブリンの孕み袋にされるって言う話は、しなくていいか※)
※当然の配慮
咲希「心配してもらえるのは嬉しいですけど…流石にお兄さん一人じゃ私たち3人を送るのは無理なんじゃ…」
兄「いいや問題ない。とりあえず外に出よう」
4人「「「「……?」」」」
とりあえずお兄ちゃんに従って外に出ると、お兄ちゃんがこちらに向き直った。
兄「とりあえず、あー……志保さんでいいや。俺の両肩掴んで」
志保「えっ、はい…」
一歌(あっ、もしかしてお兄ちゃん…)
志保がお兄ちゃんの両肩を掴むと、お兄ちゃんと志保の体が徐々に浮き始めた。やっぱり、あの移動魔法を使ってるんだ。
志保「えっ?えっ!?浮いて――!?」
咲希「わー!しほちゃんすごい!」
兄「これで三周する。これならそんなにかからない。じゃあちょっと行ってくる」
志保「えっ、あの、これ大丈夫なんですか!?」
兄「大丈夫だよ。しっかり捕まってればいいから」
その言葉と共に徐々に地面から離れて言って、ゆっくりと視界から消えていった。
穂波「すごい……魔法ってあんなこともできるんだ…」
咲希「まさか空を飛べるなんて…夢みたい!!」
一歌「……でもアレ、全速力だとここから北海道まで五分で着くんだよね…」
咲希・穂波「「北海道まで五分!?」」
―――この後、話しながら時間を潰し、無事に咲希も穂波もお兄ちゃんによって送り届けられた。
改めて移動魔法は物凄く便利なんだなと思いました。
評価:感想お願いします。
ちなみに冒頭の一歌目線で“イキュラス・キュオラ”の当て字が【記憶消去】になっているのは、一歌が“イキュラス・キュオラ”の魔法を【記憶消去】の魔法と認識しているから。
正しい当て字は【記憶忘却】。