とある日の夜。私とお兄ちゃんはリビングのソファーに座ってテレビを見ていた。
その後ろの方ではお母さんが台所でご飯を作っていて、お父さんの帰りを待っている。
ちなみに今日の晩御飯はお兄ちゃんの提案でオムライスである。デザートはホットケーキ。理由は「オムライスは北米版だとホットケーキなんだ」と独り言のように言っていたのを聞いた。正直言ってなんのこっちゃである。まぁお兄ちゃんのことだからどうせカー○ィのことなんだろうけど。
ナレーター『見てくださいこの賑わいよう!!私は今兵庫県のひめじゆたか祭りに来ています!』
テレビでは兵庫県でやっている祭りについて特集していた。テレビの奥の祭りはとても賑わっていて、たくさんの人でひしめき合っている。
兄「……祭りか。なんか懐かしく感じるな」
一歌「そうだね。お兄ちゃんはこういう行事、異世界に行ってたから無縁だったんだよね」
兄「いや?俺も異世界の祭りに参加してたぞ。と言っても年末の祭りなんだけどな」
一歌「えっ、そうなの!?」
異世界でオークとして狩られかけてるお兄ちゃんが異世界の祭りに参加してるなんて…。予想外過ぎて声を荒げていていた。
兄「気になるか?」
一歌「うん!」
兄「えっとじゃあ…俺が初めて参加した14歳の頃の祭りを…。記憶再生」
テレビ画面の前に表示された記憶映像を確認すると同時に、私はテレビの電源を切る。
そしたらこちらの方が気になったのか、お母さんがこっちに来た。
母「気になる話してるから来てみたんだけど……コレなんなの?」
兄「俺の記憶映像だよ。魔法で投影してる」
母「改めて魔法ってすごいのね…」
一歌「ちょ、お兄ちゃん…」
私はお兄ちゃんにこっそりと耳打ちをする。
このままお母さんにこの記憶映像を見せていいのか不安になった。
一歌「お母さんにこれ見せて大丈夫なの?お兄ちゃんこの前自分のオーク扱いのことお母さんたちの記憶から消したばっかりなのに…」
兄「あぁ。そういう部分は見せるつもりはないから、大丈夫だ」
一歌「ならいいんだけど…」
母「どうかしたの?」
兄「いや、なんでもない。んで、まぁ大したことはないんだけど、これは年越し行事みたいな祭りでさ」
お兄ちゃんの記憶映像では、美しい夜空に光り輝く三日月、そして無数に浮かぶ明るい星々だった。
そしてそんな背景をバックに祭りを楽しむ美男美女の異世界の人たち…
一歌(すごい…!現代日本じゃこんな綺麗な星空、滅多に見られないのに…!)
兄「『越冬のための神々への感謝祭』…北方地方で行われる祭りでな。領主からごちそうが振舞われるんだ」
母「要するにタダってこと?大盤振る舞いなのね…」
一歌「異世界のお祭りイベントかぁ…」
兄「異世界人はこの祭りのときは凄いハイテンションでな。こういう日は俺も―――」
映像では中心の席に赤髪の女性とピンク髪の女性、そして帽子をかぶった黒髪の女性が座っていて、その周りにもたくさんの美男美女たちがいて、今回の映像は一人称視点なのかお兄ちゃんがコップを持ってはしゃいでいた。
兄?『よーしみんな!!盛り上がっていこうぜ!!』
とお兄ちゃんの一言で一斉にみんなが乾杯をし始めた。
母「すごい馴染んでるじゃない。一人プレイなんて言ってたけど、ちゃんと満喫してたのね」
一歌「そうだね。お兄ちゃんもとても楽しそうで―――」
兄「―――みたいなノリになれたらよかったんだろうが、俺はこっちだ」
お兄ちゃんが映像をスワイプすると、すみっこで黙々と料理を頬張っているお兄ちゃんがいた。
兄(14歳)『……うま』
母・一歌「「――――」」
え、じゃあアレ誰の視点だったの…?
映像のお兄ちゃんはそのまま立ち上がると、そのまま人込みから外れていった。
兄「現世での気性が異世界に来たからといってそう変わるはずもなく。一人で適当に飯食って宿に戻った」
一歌「……え」
兄「……あぁ、うまかったぞ。鶏肉の―――」
一歌「味じゃないよ!!本当にコレでお祭り終わりなの!?」
兄「そうだけど」
一歌「あのツンデレ……エルミリアさんは?」
兄「いやアイツはこのときいなかったな。この後も特に何もなかったぞ」
母「――――」
一歌「――――」
兄「――――」
お兄ちゃんが記憶映像を消すと、しばらくの沈黙が続く。
なんかとてつもなく気まずいし、お兄ちゃんは理解できてないのか首を傾げてるし。
父「おーい、みんなでなにやってるんだこんなところで」
一歌「えっ、お父さん!?いつの間に!?」
父「ちゃんとただいまって言ったぞ。返事ないから気になって見て見れば、なんだこのお通夜状態は?」
一歌「べ、別に…」
母「あ、あなた。ご飯もうできてるから、荷物おいてきたら座って」
父「わ、分かった」
いつの間にかお父さんも帰ってきていたみたいで、お父さんが二階に行くとお母さんが黙々と料理を並べ始めた。
一歌「そ、それじゃあお父さん来るまで待とっか…」
兄「おっ、そうだな!オっムラ~イス~」
陽気に歌を歌いながら着席すると、私もその隣に座る。
兄「母さん、ケチャップ取って」
母「もうかけるの?一口くらい食べてからにしなさい」
兄「もちろんそのつもりだよ。やろうと思ってすぐにできるように近くに置いておくだけだから」
母「分かったわよ。はい」
兄「ありがとー」
お兄ちゃんが身の回りのものを整えながら、お父さんの到着を待っていると――
兄「あーそういえば祭りの後凍神剣のクレイリアが宿の部屋に押しかけてきたな。ほら、クレイリア。覚えてるか?」
一歌「あ、うん」
父「お待たs――」
一歌「その話してよ!!!」
咄嗟のこと過ぎて思わず大声で荒げてしまった。
でも仕方ないと思う。だってあの後のクレイリアさんのことずっと気になってたし。お兄ちゃんがガン無視したせいですっごく気まずかったし!!
兄「えーでもオムライス…」
一歌「早く!!」
兄「いや別になにもなかったんだって。ほら」
お兄ちゃんが再び記憶映像を映し出すと、いつの間にか来ていたお父さんが驚いていた。
父「えっ、今なにが起こって…?」
母「あらヤダ!この子すっごい美人じゃない!」
記憶映像に映し出されているクレイリアさんを見て、お母さんが感嘆の声を上げていた。
母「陽介!こんな子とどこで出会ったの?」
兄「あぁ。この映像より前にちょっとね。一歌たちには見せたんだけど、まぁ追々に」
父「えっ、コレなに?俺抜きで話進めるのやめて?」
兄(14歳)『なんでここに?』
クレイリア『教えて、欲しくて…』
そう言ったクレイリアさんの瞳には、あの時とは違って確かに瞳に光が宿っていた。
クレイリア『独りで竜を倒した、貴方のように強く…!部屋にこもって心を閉ざしていた駄目な自分を変えたいの…!!』
あのクレイリアさんが…!!わざわざお兄ちゃんを慕って人生相談を…!
だけど、お兄ちゃんは【星のカー○ィ】しか人生経験のない男。果たしてマトモな回答ができるのかどうか…
クレイリア『どうしたら駄目な自分を捨てて貴方のように強くなれるの!?』
兄(14歳)『駄目な自分…?駄目だなんて誰が決めた』
クレイリア『えっ、そ、村長とか…』
兄(14歳)『誰かに言われた生き方じゃなく、人は自分のやりたい通りに生きていいんだ。それを貫く力が強さだと、俺は思う…』
一歌(いい……!!すごくいいよ!!どうしたのお兄ちゃん…!!)
母「いいこと言ったわね陽介!流石私の息子!」
父「これいつの頃だ?まさかこんなこと言えるくらいに、いい男に成長していたとはな…」
お父さんとお母さんからも賞賛の声が上がってくる。
クレイリア『でも、私には人前で凍神剣を使う度胸も、その覚悟も、ないのに…』
兄(14歳)『まぁそれは難しい問題だな。だけど、魔法を使ってこうやって今も生きている』
クレイリア『あなたは、凄いね…。私には到底真似できないや…』
兄(14歳)『……君は、今までずっとどうやって生きてきたんだ?』
クレイリア『へ、部屋にこもって心を閉ざして生きてきた…』
母「いい雰囲気なんじゃないかしら、コレ。明日のご飯は赤飯かしらね」
父「なんだよ、陽介。一人プレイとか言っておきながらちゃんと一歩一歩、異世界の仲間と心の交りゅ――」
兄(14歳)『―――それでいいんだ』
父・母・一歌「「「――――???」」」
―――え?
クレイリア『え、でも…』
兄(14歳)『それでいいんだよ。俺は周りからなんと言われようともカー○ィプレイヤーだった。これからもだ』
なに言ってるのこの人。
ていうかなんかお兄ちゃんの手の影が魔王っぽくなってるような――、
兄(14歳)『これは、ある人の受け売りだが…。君の役は人から言われて買うゲームを決める一般民衆か?それとも…!?』
クレイリア『いいの…?』
兄(14歳)『―――いいんだ』
その瞬間、クレイリアさんは闇を背負ってにやけていた。
クレイリア『や…やった。こもれる……こもれる……! う、嬉しい…!…ウヒヒヒヒヒヒ……』
兄「こうして自分の道を取り戻した彼女は村に帰ったんだ」
父・母・一歌「「「――――ッ」」」
やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんだった。
私たちは総じて両手か片手で顔を覆っていた。ちなみに私とお母さんは両手で覆っていた。
これ、お兄ちゃんを責めるべきなのかな…?いやでもこれ、クレイリアさん自身にも問題があったんだよな…。
アレ絶対自分が籠る理由を他人に理由付けしてほしかっただけだもん…。
兄「あと、剣も貰った」
クレイリア『お礼に、凍神剣をどうぞ…』
兄(14歳)『いや…冷たいし、いいよ…』
クレイリア『そう…』
兄「あっ、断ったのか」
凍神剣が、さらに凍り始めた…
兄「まぁ大体こんな感じだな…」
一歌「………そっか。とりあえず、ご飯、食べない?」
兄「そうだな。いっただっきまーす!」
いち早く食事に手を付け始めた兄を余所に未だに動けずにいる私たち。
これ、お父さんもお母さんもどっちに問題があったのか――いや絶対両者に問題あったなコレ。それのせいで責めるに責めきれないのだろう。
そして私たちが出した結論は…
父・母・一歌「「「いただきます……」」」
とりあえず食事を開始することだった。
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