異世界セカイ   作:龍狐

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6 境界の精霊にお願いして入れてもらったんだ

 7月某日。ジリジリと熱くなってきたある日の【教室のセカイ】にて。私を含めたバンドメンバーのみんなは今セカイに来て練習をしていた。

 

 

志保「よし、ここら辺で一旦休憩しよっか」

 

咲希「はーい!」

 

 

 いったん休憩に入った後、私たちは椅子に座ってジュースを口に着ける。

 

 

ルカ「みんな、お疲れ様」

 

ミク「今の部分、とっても良かったよ」

 

メイコ「そうね。この調子よ」

 

 

 練習を見てくれていたミク、ルカ、メイコがアドバイスをくれた。

 やっぱりミクたちからアドバイスを貰えるなんて、すっごくいい経験だなぁ…。

 

 先ほどの練習のことで皆で話し合っていると、咲希から一言があった。

 

 

咲希「そういえばさ……。あの後ずっと気になってたんだけど…」

 

一歌「どうしたの?」

 

咲希「クレイリアさん、あのあとどうなったんだろう…」

 

 

 咲希のその言葉に私の体は硬直した。

 結論から言えば、クレイリアさん引きこもりに戻っちゃったんだよなぁ…。

 

 

穂波「あー……確かに。どうなったんだろう…」

 

志保「お兄さん、クレイリアさんと凍神剣のことガン無視して暴食竜倒してたしね」

 

咲希「アレってよくよく考えて見れば、一族の存続理由なくなっちゃったよね…?」

 

 

 そう、お兄ちゃんが言っていたように凍神剣の管理人一族は400年間続く歴史を持っている。そんな長い歴史をもってしても完全に倒しきれなかった暴食竜をお兄ちゃんは倒した。

 そう思うとクレイリアさんが不憫すぎる。いや、危険なモンスター倒したこと自体は凄くいいことなんだけど…。

 

 

メイコ「どうしたの、突然?ちょっと話が見えてこないのだけど…」

 

ミク「あぁ。メイコは最近来たばっかりだから知らないかもだけど、一歌のお兄さんって“魔法使い”なんだ」

 

メイコ「……魔法使い?」

 

ルカ「そうみたいよ。私も魔法は直接見たことはないんだけれど、一歌のお兄さんは異世界で4年間冒険していたらしいの」

 

メイコ「へ~!すっごいロマンチックね!一歌、お兄さんはどんな冒険をしてたの?」

 

一歌「あ、え~と…」

 

 

 オークの亜種として現地民から狩られる日々を過ごしてました。なんて言い辛すぎる…!

 私も以前まではファンタジーってもっとキラキラしたものだと思ってた分、落差が激しすぎるからルカとメイコが見たら絶対思考停止する。私だってそうだったし。

 

 

ルカ「そうね。私も興味あるわ。お兄さんの異世界冒険。ミクに話を聞いても、はぐらかされるから余計にね」

 

ミク「う~~……」

 

 

 ミクは以前お兄ちゃんの異世界の記憶映像を聞いている。

 善意から村を救おうとしただけで吊るされかけた、あの「水が湧き出る壺」の村の一件。あんなの話しずらいって…。

 咲希たちも同様、お兄ちゃんの異世界冒険は気まずすぎてあんまり口に出そうとしない。

 

 特に咲希は司さんのこともあって希望溢れるファンタジーを想像してただろうに、最初に映ったのはお兄ちゃんをオークの亜種として狩りに来る異世界人だったもんなぁ…。

 

 そんなとき―――、

 

 

コンコンコンッ

 

 

一歌「えっ、ノック…?」

 

 

 私たちしかいないはずのこのセカイに、扉の奥からノックが鳴り響いた。

 突然のことに私たちの視線が扉に集中すると、扉がスライドして――、

 

 

 

 

兄「失礼しまーす」

 

 

 

 

一同「「「「「「「―――ッ!!??」」」」」」」

 

 

 突然教室の扉を開けて入ってきたのは――お兄ちゃんだった。

 

 ―――なんで?

 

 

兄「あ、一歌いた。探したぞー」

 

一歌「え……え…え?」

 

兄「あっ、咲希さん穂波さん志保さんも。どうもー」

 

咲希「え、はい…」

 

穂波「あ、はい…」

 

志保「……は、はい…」

 

 

 咲希たちに挨拶をしたら次にお兄ちゃんは未来たちの方に近寄った。

 

 

兄「わー!ミクさんにルカさんにメイコさんですね!境界の精霊からお話はかねがね…。一歌がお世話になってます。これ、お近づきの印にどうぞ」

 

ミク「あ、うん…」

 

ルカ「ど、どうも…」

 

メイコ「あ、ありがとう…」

 

 

 そうしてお兄ちゃんはミクたちに缶コーラを次々に渡していくと、教室にあった椅子に座った。

 

 

兄「いやー懐かしいな。教室の椅子……座るの五年ぶりか…。こんな座り心地だったなー」

 

一歌「え、あの……お、お兄ちゃん?」

 

兄「ん?どうした一歌?」

 

一歌「あの…どうやって入ってきたの…?」

 

 

 ここにはあの音楽を再生しないと入ってこれるはずないのに…なんで?

 いや確かに黒竹くん――今は二ヤリくんだったっけ?二ヤリ君とクロス君って言う例外はいたけど、アレはクロス君の不思議な力によるものだったし…。

 もしかしてお兄ちゃんの魔法で――?

 

 

兄「あぁ。ここと現実世界の境目を管理している境界の精霊にお願いして入れてもらったんだ」

 

志保「魔法なんでもありすぎませんか?」

 

兄「いやぁ。これは魔法って言うより精霊にお願いしたってだけだし…」

 

 

 いやそれでもなんでもありってことでしょソレ。

 境界の精霊ってなに?え、いるの?管理してる存在がいたの?今まで知らなかった事実が出てきたんだけど。

 

 そんな私の驚きを余所に、お兄ちゃんは話を進めていく。

 

 

兄「あ、そうだ。要件なんだけど、コレ。買ってきたんだけどさ、みんなに差し入れ。一歌から聞いたみんなの好物買ってきたよ」

 

 

 「おいしょと」と言う掛け声とともにお兄ちゃんが収納魔法から取り出したビニール袋を何個も取り出した。

 収納魔法を始めて見た私以外の全員から感嘆の声が上がった。咲希たちは記憶再生の次に見た2番目の魔法だし、ミクたちにとっては初めてみる魔法だから無理もない。

 

―――あれ、そういえばミクってなんで『記憶消去』の魔法のこと知ってたんだろう。どこかのタイミングで聞いたのかな?

 

 

兄「えっと、コレが一歌で。コレが咲希さんで。コレが穂波さんで。コレが志保さん。コレがミクさんでコレがルカさん。最後にコレがメイコさんっと…」

 

メイコ「全員分用意してくれてたの?」

 

兄「えぇまぁはい。咲希さんたちには、この前『記憶消去』しようとしたお詫びと、感謝を込めて、ミクさんたちには普段お世話になってる感謝を込めて…」

 

ルカ「ちょっと待って。今聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけれど。『記憶消去』?」

 

 

 だよね。普通聞かないもんね『記憶消去』って。

 

 

兄「えぇ。この前咲希さんたちのことを不審者だと思って咄嗟に『記憶消去』しようとしたんです。いやー、あれは本当に申し訳なかった…」

 

咲希「あの時のお兄さん。本当に怖かったんだよね…」

 

穂波「いきなり2階のベランダから入って来たから…」

 

志保「むしろお兄さんの方が不審者ぽかったですよね」

 

ルカ「……みんな、なんでこんなに落ち着いていられるの…?」

 

志保「いや、お兄さんの異世界冒険の一部を見せてもらったんですけど、アレが4年間続いたとなると、『記憶消去』が癖になるもの無理ないんじゃないかと思い初めまして…

 

 

メイコ「『記憶消去』を許容できる異世界冒険ってなに?」

 

 

 志保の言葉にメイコが愕然とした声になる。

 だよね。私も当初は『記憶消去』に当然抵抗があったのに、今じゃあんまり深く考えないようになっている。お兄ちゃんの異世界冒険がそれほど壮絶だということだろう。

 

 

兄「あの……早くしないと冷めちゃうんですけど…」

 

一歌「あ、ごめん。それでなに買ってきたの?」

 

兄「さっきも言ったけど皆の好物。

一歌には現地で買ってきた静岡県“富士宮やきそば”の【焼きそばパン】

咲希さんには静岡県、青森県、岡山県の【限定スナック菓子】

穂波さんには青森県で採れたリンゴを使った現地有名店の【アップルパイ】

志保さんには岡山県で買ってきた【ハンバーグ単品】

ミクさんルカさんメイコさんは好物が分かんなかったんで、俺の方で勝手に買いました。どうぞ」

 

 

「「「「「「待って待って待って」」」」」」

 

 

兄「ん、どした?」

 

穂波「あの、お兄さん……それ、現地まで行って買ってきたんですか?」

 

兄「そうだけど」

 

志保「そんな、わざわざ……」

 

兄「いや、言ったでしょ?感謝とお詫びを込めてるって。だったらこれくらいしないと」

 

咲希「確かに感謝とお詫びはすっごい

 

兄「ほら、受け取って受け取って。一歌だってとっくに受け取ってスタンバイしてるからさ」

 

ミク「……え?」

 

 

 

一歌「ほら皆!早く受け取って!焼きそばパンが冷めないうちに!早く食べないと!」

 

 

 

穂波「一歌ちゃん…」

 

志保「早すぎるでしょ…」

 

兄「さぁさぁ。ほらほら。一歌もそう言ってるし、早く食べなって」

 

咲希「それじゃあ……遠慮なくいただきまーす!」

 

 

 

 こうして休憩の時間が少し延長になった。

 現地の有名焼きそばで作られた焼きそばパンははとっても美味しかったです。

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

メイコ「そういえばお兄さんがさっき使ってた、物を出し入れする魔法。アレって他になにが入ってるの?」

 

兄「あぁ、収納魔法のこと?亜空間にいろいろしまっておけるから、武器とか呪符とかいろいろ入ってるけど…一番めぼしいものはやっぱり貴金属かな。例えば、コレ」

 

 

 お兄ちゃんが収納魔法に手を入れて取り出すと、そこにはキラキラと光り輝く指輪があった。

 

 

咲希「すっごーい!きれーい!」

 

穂波「こんな宝石、今まで見たことないですよ…!?」

 

志保「すっごい貴重そうですね…」

 

兄「今では製法が失われてしまっているが、ルビーやダイヤなんかの原石を液状化させるという特殊な技術が遥か昔にあってだな。様々な貴重な鉱石を混ぜ合わせながらも決して色が混ざり合うことなく個々の美しさを波のような形で主張している特殊な宝石。リングは七色珊瑚さんごの削り出し。異世界ではこれ一個で、城が立つほどの価格で取引されていた」

 

ミク「お城が立っちゃうの!?すっごいね!」

 

ルカ「なんだか夢のような話ね…」

 

一歌「……もしかして私たちへの差し入れって、そういう宝石とか売ったお金で買ったの?」

 

 

 私は先ほど思い浮かべた疑問をお兄ちゃんにぶつけた。

 お兄ちゃんがセカイに入って来た衝撃と焼きそばパンの衝撃で今まで気にしていなかったけど、お兄ちゃんには移動手段こそあれどこの人数の差し入れを買えるほどのお金は持っていないはずだ。

 だけど、こういった宝石を売ったお金を持っているのなら、説明はつく。

 

 

兄「……実はこれ、家計の足しにできないかって、父さんと一緒に質屋に行ったんだけど―――」

 

 

 

質屋受付『天然でこんな鉱石はありませんからおもちゃじゃないでしょうか?』

 

父『―――――』

 

兄『―――――』

 

 

 

兄「50円って言われた…」

 

 

一歌・咲希・穂波・志保・ミク・ルカ・メイコ

(((((((希少すぎた…!)))))))

 

 

 そういえばお兄ちゃんとお父さんが茫然自失になっている日があったような…。それが原因だったのか。

 じゃあ結局差し入れのお金はどこから…?そんな疑問を口にする前に、メイコが先にお兄ちゃんに質問していた。

 

 

メイコ「ところで、こういう指輪を持ってるってことは、異世界に送る相手でもいたの?」

 

一歌・ミク(エルミリアさんかな…)

 

咲希・穂波・志保(((クレイリアさんかな…?)))

 

兄「あ、いや。宝石は単なる記念トロフィーなんだ。それ結構大変なダンジョンクリアしないと手に入らないんだ」

 

ルカ「へぇ…そうなのね」

 

 

「――――」

 

「――――」

 

「――――」

 

 

 しばらくの沈黙が支配する。

 すると宝石に向かっていたお兄ちゃんの目線が、急に上がった。

 

 

兄「あ、これ恋バナか」

 

一歌「いや……お兄ちゃんそういうのあんまり興味ないでしょ…?」

 

兄「バカ言え。俺だってな、そういうの色々あるんだよ」

 

咲希「そうなんですか!?」

 

兄「そうだよ。初恋は、小2の時だったか…」

 

 

 以外な兄の初恋話に、私を含めた全員が前のめりになって聞いていた。

 あのお兄ちゃんがカー○ィ以外の、しかも現実の人に興味を持っていたことにも驚いたが、単純に気になった。

 

 

ミク「どんな子だったの?」

 

兄「カー○ィとバンダナワド○ディだな」

 

一歌・咲希・穂波・志保・ミク・ルカ・メイコ

「「「「「「「は?」」」」」」」

 

 

兄「8歳の誕生日に買ってもらった2008年1月31日に発売した【大乱闘ス○ッシュブラザーズX】。このゲームが俺の原典だ。ストーリーモードの『亜空の使者』でカー○ィたちの活躍に心を打たれたのが始まりだった。そこから毎月のお小遣い500円を貯めに貯めて2011年8月4日発売の【あつめてカー○ィ】を買おうとした矢先に同年10月27日に【星のカー○ィWii】が発売するという予告に俺の胸は躍った。その予告映像で見たカー○ィとバンダナワド○ディのあのつぶらな瞳がカワイイんだ。だけどいきなりのことだった既に【あつめてカー○ィ】を購入してそんなに経ってなかったから財布がすっからかんでな。お小遣いを前借りしたいと強請ったが『サンタさんにお願いしなさい』と言われて、発売してから二か月間、【あつめてカー○ィ】をプレイする片手間で学校帰りに毎日店頭デモを見続けていたのをよく覚えて―――」

 

一歌「いやあの、人間相手の話はないの!?」

 

兄「ん、あるぞ。【アドレーヌ】と言う絵を描くことが趣味の女の子だった…。だけど彼女は初登場時、敵である【ダーク・リムラ】に乗っ取られて襲ってくるんだ。ステージ1ー2の中ボスとしてキャンパスに描いたものを実体化させる能力を使って―――

 

 

 人間……キャラ…!?

 本当にお兄ちゃんってカー○ィ以外に人生なにもないの…!?

 

 チラリとミクや咲希たちの方を見るが、全員真顔だった。多分私と同じ感想を抱いていると思う。

 

 

一歌「えっと、あの、じゃあ……異世界ではそういう子はいなかったの?」

 

兄「いたぞ」

 

一歌「えっ?」

 

咲希「えっ?」

 

穂波「えっ?」

 

志保「えっ?」

 

ミク「えっ?」

 

メイコ「なんだ、ちゃんといるんじゃない」

 

ルカ「初めからそっちの方聞いておけばよかったわね…」

 

 

 えっ、嘘でしょ?ダメ元で聞いてみたのに。お兄ちゃんが異世界で?エルミリアさん以外で?クレイリアさんはニートに逆戻りしたからないとして、オークとして狩られる日々を過ごしたお兄ちゃんに他にそういう子がいたというはとても驚いた。

 

 

兄「記憶再生イキュラス・エルラン

 

 

 お兄ちゃんが記憶映像を映し出すと、私たちはその映像に目線を固定する。

 ミクたちは始めて見る魔法にとても驚きながらも、黙って映像をじっと見ていた。

 

 

兄「この前皆に見せた映像の後のことのことなんだけど…」

 

 

モンスター『ブゴー!』

 

姉『キャアアアー!』

 

兄(14歳)『はぁッ!!』

 

 

 猪のようなモンスターに襲われている女の子と、小さな男の子が二人。

 いきなりの始まりに驚きながらも次の瞬間、お兄ちゃんが光の剣でモンスターを横から一刀両断した。その瞬間にモンスターの断面図にモザイクがかかった。

 

 

兄「これ、記憶の主である俺が未成年なのと視聴者に未成年がいるから記憶の精霊がモザイク処理してくれてるんだ。親切だろ?」

 

一歌「そういうことまでしてくれるんだ…」

 

兄「んで。これはだな。海辺の村のはずれに住んでる身寄りのない姉弟でな。モンスターに襲われているところを助けたんだけど」

 

 

 お兄ちゃん視点で映る映像を続けてみると、モンスターから助けてくれたお兄ちゃんの姿を見た瞬間――姉弟の顔が真顔になった。

 

 

ルカ(あれ、急にこの子たちの反応が…?)

 

メイコ(真顔になった…?)

 

 

 改めて、異世界基準だとお兄ちゃんは魔物のように醜いそうだけど…これは見るだけでキツイ。

 

 

兄「ほら、この後な…」

 

 

【弟の一人が涙を流して姉を庇う映像】

 

【二人の弟を説得する姉の映像】

 

【弟二人を背中に立ち尽くす姉の映像】

 

【涙を流して体を震わせ、お兄さんの手を取る映像】

【その後ろで弟二人が号泣する映像】

 

 

兄「ほら、良い感じだろ?」

 

一歌・咲希・穂波・志保・ミク

(((((どこが…??)))))

 

 

自分を犠牲にしてお兄ちゃんオークから弟たちを守ろうとしている…!

 

 

ルカ「えっ…なにが起きてるの…?」

 

メイコ「これ助けた相手にする反応じゃないわよね…?」

 

 

 事情を知らないルカとメイコがとっても困惑してる。事前情報なかったら戸惑うよねコレ。

 

 

兄「でもこの直後、小さいゴブリンか何かに死角から襲われてな…」

 

一歌「えっ」

 

兄「崖から落とされて、海に隣接してる村だから漂流してそれっきりなんだよ…」

 

一歌「本当に酷い目にあったね―――ん?」

 

 

【凄い目つきで後ろに回り込む弟二人の映像】

 

 

 今、弟の子二人が凄い目つきで回り込んでいたよね…。え、もしかして。

 慌てて咲希たちの反応を確認すると、皆物凄く暗い顔をしていた。多分皆も察したんだろう。ゴブリン二匹の正体を。

 

 

兄「何に襲われたのか、視点変えて見てみるか…」

 

一歌「いや!!いいよ!!」

 

咲希「多分ゴブリンですよ!!」

 

穂波「はい!きっと、そうに違いありません!」

 

志保「だから次!どうなったのか知りたいです!」

 

兄「そぉ?」

 

 

 皆で慌てて視点切り替えを阻止した後、海に投げ出されたお兄ちゃんのその後を見る。

 

 

兄「まぁそれで流されて死にかけてたところに、たまたま例の俺につきまとうヤツがいてな」

 

一歌「えっ。エルミリアさん!?」

 

兄「悔しいが、それで助かった」

 

 

 どこからか小舟に乗ったエルミリアさんがお兄ちゃんのことを引き上げてその場で心臓マッサージと人口呼吸を――えっ!?

 

 

兄「これ、俺のファーストキスだったんだけどなぁ……。まぁ、命には代えられないからな。そこは感謝してる」

 

咲希「あわわわわ…」

 

穂波「すっごいところ見ちゃったね…」

 

志保「やってることはただの人工呼吸だけどね…」

 

ミク「よかった。ちゃんと助かったんだね」

 

ルカ「一時はどうなることかと思ったけど…」

 

メイコ「無事でよかったわ…」

 

 

 事情をまだ知らないルカとメイコはとてもドキドキしていたようだ。

 

 

兄(14歳)『お前…なぜ、俺を…?』

 

エルミリア『これは貸しよ。貴方のために助けたわけじゃない。貴方の魔法の力の有用性を考えてそっちを優先しただけなんだから、勘違いしないで』

 

兄(14歳)『そうか…』

 

エルミリア『それに……あ、貴方を引き上げたとき、息をしてなかったから……そ、その……じ、人口呼吸、してやったんだから…』

 

兄(14歳)『―――えっ!?人口呼吸!?俺のファーストキスがぁ!?』

 

エルミリア『ファ、ファーストキス……///』

 

兄(14歳)『ん-……でも、命には代えられないか…』

 

エルミリア『私も……私も!!私もファーストキスだったわよ!!でもあなたを助けるメリットを優先してやったんだから!生涯をかけて地べたを張って償うといいわ!』

 

 

 エルミリアさん…!!初めてのキスを投げ売ってでもお兄ちゃんのことを助けてくれるなんて…!とてもいい人なのに、これでもっと言葉がマイルドだったらよかったのに…。

 

 

兄(14歳)『生涯…?』

 

エルミリア『……えっ///』

 

 

 エルミリアさんの頬がとても赤くなった。

 

 

エルミリア『いやなに?ち、違うわよ!ずっと一緒にとか変な意味に…。寄らないで!』

 

兄(14歳)『そんな大きな借りは作りたくないな。でも俺だってファーストキスの重さは理解してる。これでどうだ』

 

エルミリア『へ?』

 

 

 映像のお兄ちゃんが取り出したのは、さっき見せてくれたのとはまた違う指輪を取り出した。

 

 

エルミリア『へぇ!?』

 

兄(14歳)『これは、世界に七つしかないと言われる天星石てんせいせきの指輪だ。相当な価値のある希少品だ』

 

エルミリア『ちょ…?』

 

 

一歌「――――」

 

咲希「――――」

 

穂波「――――」

 

志保「――――」

 

ミク「――――」

 

ルカ「――――」

 

メイコ「――――」

 

 

兄「あ、これ確か直前のダンジョンで見つけたんだよ。宝石ってかさばらないからいいよな」

 

 

エルミリア『なになになに!?どうする気なの!?』

 

 

 どんどんとエルミリアさんに近づくお兄ちゃんが、尻もちをついたエルミリアさんの左手を持ち上げると、そこに指輪を近づけていた。

 

 

兄(14歳)『サイズは合うか?』

 

エルミリア『えっ、えっ!?ま、待って待って!そ、そんな急に』

 

兄(14歳)『いらないのか?』

 

 

 少し思案した様子のエルミリアさんは、苦い顔をした後――、

 

 

エルミリア『……いる///』

 

 

 左手の薬指に、指輪が填められた。

 

 

 

一歌(お兄ちゃんがなんかとんでもないことしようとしてる…!!)

 

 

志保「えっ、お兄さん、嘘でしょ?」

 

穂波「はわわわ…!」

 

咲希「お兄さんすっごーい!!ロマンチックだァ!!」

 

ミク「急展開すぎる…」

 

ルカ「異世界でも指輪送るってそういう意味なのね…」

 

メイコ「お兄さんって結構大胆…」

 

 

 皆他人事すぎるって!確かに他人事ですごいロマンチックだけども!!

 

 

一歌「お兄ちゃん大丈夫!?大丈夫なのこんなことして!反応見る限りそういうことだよ!?責任とかって…」

 

兄「当たり前だろ。責任はしっかりと取る」

 

咲希「お兄さん!続き!続き早く見せてください!!」

 

兄「慌てなくていいから…。一歌、なにを慌ててるか知らんがなにも問題ないから。この後――」

 

 

 

【エルミリアから指輪を取る映像】

 

 

 

【宝石店の店主と交渉する映像】

 

 

 

【指輪が硬貨の山に変わった映像】

 

 

 

兄「ちゃんと責任とって、次の街で換金してやったよ。値段交渉メッチャ頑張った」

 

 

 

おにいちゃん……っ!!

 

 拳を握る力が自然と強くなった。

 が、すぐに解いて周りの様子を確認すると、

 

 咲希の瞳からはハイライトが消失し、

 穂波は開いた口が塞がっておらず、

 志保は背中を椅子に任せて天を仰ぎ、

 ミクは自分の頬をつねって夢でないか確認して、

 ルカは頭痛でも起こしてるのか頭を抑えており、

 メイコは目の前の光景が信じられず映像とお兄ちゃんに視線が行ったり来たりしていた。

 

 全員共通して言えることは、異様なことに静かだったということだけである。

 人間予想外のことがあると逆に無言になるって聞くけど、まさにこの状況はその定形例だった。

 

 

一歌「そ、そっか…。どこかの街で撒いたって言ってたけど、この街だったんだね…」

 

志保「えっ、撒いたってなに?」

 

穂波「撒いた…?」

 

咲希「逃げたの…?」

 

 

 私の言葉に咲希たちが反応したけど、この時の私の耳には入らなかった。

 流石のエルミリアさんも、こんな目にあったらもう…。詳しい時系列は分からないけれど、クレイリアさんと出会った後のことなら、越冬際の時にエルミリアさんがいなかったのも頷け――

 

 

兄「いや別にこの後も付きまとわれたぞ」

 

エルミリア『銀行に預けてきたわ!!次はどこに行く気!?しばらくここで休むゥ!?奇遇ね私もよ!!』

 

 

 以外とタフだった…!

 

 

兄「金に味をしめたのかもな…」

 

 

一歌・咲希・穂波・志保・ミク・ルカ・メイコ

「「「「「「「―――――」」」」」」」

 

 

兄「まぁそんな感じでな。こういう希少なアイテムは換金できたりなにかと使い勝手がいいんだ」

 

 

 

 最初は恋バナだったのに…。すっごく話がズレた…。

 でもこの空気で恋バナとか今更無理すぎるから敢えて触れることはしない。

 

 

兄「……金と言えば、俺の方もそろそろ査定が終わる頃だから、行かないとだな」

 

一歌「えっ、査定って…。お兄ちゃんが持ってきた宝物ってこっちじゃ50円だったんだよね…?」

 

兄「まぁそうなんだけど。一件だけちゃんとした当てがあってだな…。そこでなら問題なく適正価格で買い取ってもらえる」

 

志保「…異世界の宝物を買い取ってくれる場所って本当にあるんですか…?」

 

兄「あるよ。事実差し入れを買うのに使ったお金は、最低金額の一部を貰って来たのを使ってるんだよね」

 

咲希「……ちなみに、それってどういう場所なんですか?」

 

兄「ニヤリさんが所属している商会だな。ほら、俺がこの前二ヤリさんと出会った喫茶店のマスターを経由してそこの社長さんが買い取ってくれたんだ」

 

 

 まさかの二ヤリくん関連の場所だった。異世界の宝石を適正価格で買い取ってくれるって本当にどんな組織なんだろう。

 ていうかその喫茶店のマスターを経由して買い取りってなに?それ本当に大丈夫?

 

 

穂波「あの…一応そこって大丈夫なんですか…?」

 

兄「なにが?」

 

穂波「あの、もしかしたら詐欺とか、値段踏み倒されたりとか…」

 

兄「大丈夫だ。俺は社長を信用してるし、社長が信用してるマスターなら、絶対に大丈夫だ」オメメキラキラ

 

 

 瞳が眩し過ぎてなにも言えなかった。

 その社長さんのこと、あの後司さんから聞いた話だと星のように綺麗な女性の人だったと話していたのを覚えている。名前は今ちょっと思い出せないけど…。

 だとしてもお兄ちゃん、その人のこと信じすぎじゃない?私もその人と会ったことないから何も言えないけどさ…

 

 

兄「それじゃあ行ってくる。練習、頑張れよ」

 

一歌「うん…。いってらっしゃい…」

 

 

 その言葉を最後に、お兄ちゃんは境界の精霊にお願いしたのか私たちがセカイから出るときと同じように光に包まれてその場から消えていった。

 

 

一歌「えっと…お兄ちゃんが帰ったわけだけど…練習、する?」

 

志保「――流石に、今日はもう終わろっか」

 

咲希「そうだね…」

 

穂波「うん…」

 

ミク「みんな、またね…」

 

ルカ「ばいばい…」

 

メイコ「次も、待ってるわね…」

 

 

 

 練習を続けるという気分になれず、今日はここで終わった。

 今日までこれほど気まずい終わり方があっただろうかと思いながら、私たちはセカイを後にするのであった。

 

 

 

 

 




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