個人の青春に寄り添い、救うのも医者としての務めだよ。 作:橆諳髃
今回の話でプロローグは終わり……のはずでしたが、書いているうちに長くなってしまったので、キリのいいところで前半と後半に分けて投稿します。
後半については、本日18時以降に投稿する予定です。
それでは、どうぞご覧ください。
僕は今、砂漠のど真ん中にいた。
どこを見渡しても砂しかない状況、太陽はちょうど真上にあって、方角もどっちが北で南なのか定かではない……
(とりあえず”高い所からなら”どっちに街があるのかは分かるはず)
オリ主はそう考えると、偶然近場にあった岩を少し削って、それに生命を分け与えて砂に埋めた。
すると足元から何かが表出し、やがてそれは青年の身体を上へ上へと押し上げていった。
表出した物の正体は、なんと強大な樹だった。
その樹はどんどん高く、太くなっていき、やがて樹木の天辺は150mにまで達した。
にもかかわらずこの樹木はまだ生長を止める気配がなく大きくなり続けている。
(おっ、どうやら向こうに街があるみたいだ)
青年は街の方角を確認すると、近くにあった木の枝を数本折り、それらを動物の姿に変えた。
その動物はオウギワシであり、過去の記録では体重が7㎏以上ある生物を掴み、そのまま巣まで持ち帰ったとも言われている。
生命として複数のオウギワシを誕生させた後、青年はオウギワシの足に呪力で作った糸を括り付け、そのまま地上へと運んでもらっていた。
(目指す場所は分かったけど、いつの間にか道に迷うかもしれない。念には念の入れてここから町まで植物の道でも創るか)
青年はその後、生み出した内の5羽のオウギワシに対して、巨大な樹木を中心に等間隔で5つのカ所に向かうように指示を出す。
オウギワシがそれぞれ指示されたカ所に到達すれば、今度は自動的に別の生命へと変化させた。
それは青年を空高くまで押し上げた樹木と同じ種類で、それらは最初に生み出された樹木に向かって伸びるように生長していった。
なお、青年が離れた樹木については、今もなお緩やかに生長を続けている。
そして他のオウギワシについては先ほどの木の枝に戻し、それを適当な大きさに折っては自分が歩いた場所に種を蒔くような感覚で蒔いていった。
因みに現在オリ主がいる場所はアビドス砂漠という砂地で、オリ主が転生した世界であるここ「キヴォトス」では広大な範囲を占めている。
またとある理由で現在も砂漠化が進行している場所であり、青年はその砂漠のど真ん中に、女神様のドジっ子によって転生を果たしたのである。
やがてこの6つの樹を中心に緑が増えていく。
青年が最初に植えた大樹とそれを中心に等間隔で植えられた5本の樹木は、翌日には大規模な森林地帯になっていた。
突如発生した森林地帯と、その森林地帯からアビドスの街へと伸びる生命の生い茂る道も含めて、キヴォトス全域に少なからず衝撃を与えた。
その道の研究者がこぞって原因を追究しようと乗り出すも、どの方面からアプローチしてもただ”自然発生した”という結果しか分からなかった。
またこの森林地帯が突如発生した内容を受けて、地下に自分達の知らない源泉があるかも知れないと考えたとある研究会が大樹の樹に爆薬を仕掛けて爆破並びに掘削をしようとしたのだが、その反動が全て自分達に返ってきてしまう結果に終わり、結論として二度とその地に対して手を出さなかったという……。
中心の大樹に向かって5本の樹が生長をしている場所は、上空から見ると正五角形に見えたことから「グービレラペンタゴン」と名付けられ、そこからアビドスの街へと伸びる緑の道は、様々な植生を観察でき、その様相が色彩豊かで鮮やかなことから「ビビッドプラネットロード」と名称がつけられた。
そしてこの二つは後にアビドスの所有する観光名所となり、アビドスが抱える借金返済にも貢献するようになるのだが、それは物語が進むにつれて明らかにされることだろう。
(あぁ~……ようやく街に辿り着いたよ……)
あれから町に向けて歩き続けたけど、流石に遠すぎると思って途中で馬を生み出して街まで走ってもらった。
お水については、別の無機物を果物に変えて、その果汁を馬に与えてたから干からびることはないと思うけど、さすがに純粋な水が欲しくなってきた。
やっとの思いで街についたけど、そこも砂漠化が進行していて、大凡この辺りでは誰もいないだろうと思った僕は、馬には申し訳ないと思いつつさらに奥へと進んでもらった。
すると次第にいい匂いがしだしてきて、その匂いを辿っていくと、とあるラーメン屋があったんだ。
お店の名前は「紫関ラーメン」と看板には書いてあって、この世界に降り立って初めての活字を見た。
それに日本語で書いてあって、どうやら普段使われているのは日本語とみて間違いないだろう。
(この地区だけ日本語が使用されているってなったら話は別だけど)
そう思いながらお店の中に入れば、男の人の声で活気のある声が僕を迎えてくれた。
店内にはまばらだけど客がいて、皆満足している顔で麺を食していた。
僕はカウンター席に腰を下ろして、目の前にあるメニュー表に書いてあったおすすめを注文した。
といっても通常の紫関ラーメンを注文したけど、注文してからあっという間に、時間もそこまでかからずにラーメンが出されたんだよ。
正直これにはカプメンも驚きの速さで、それに今まで食べてきたラーメンよりも美味しかった。
(あぁ~、この近辺に住んだら週5で通いたい……)
そう思ってしまうほどに提供されたラーメンが美味しすぎた。
だから勘定の時もついつい提供されている額の10倍のお札で払ってお釣りもいらないと申し出た。
お店の人(以後大将と呼ぶことにしよう)からは、通常の価格に対してこれは貰いすぎているから普通にお釣りを受け取ってほしいと言われたけど、それに対して僕は、これからも厄介になるつもりだから、その意味も込めての挨拶として受け取ってほしいと言って、最後に次来たときは必ずお釣りも受け取るから、と残してお店を後にする。
まぁ自分のこの行為は迷惑なお客様になるとは思うけど、どうか今回は大目に見て欲しい。
それほどにまでここのラーメンが美味しかった。
出来れば僕もここの近辺に住みたいものだよ。
砂漠化とかは関係ないにしてもね?
(とりあえずとして良さそうな立地を探さないと……)
そういえばこの世界における僕の身分証とかってどういう扱いになるんだろうか?
そのあたりの説明は全くされなかったし、これまで能力の訓練として行ってきた世界線でもそこらへんあやふやだったから……
(今考えても答えなんて出ないし、とりあえずよさげな場所を探したいな)
そんなわけで、多分この辺りの不動産屋に行っても自分の身分を証明できるものは無いだろうから、勝手にどこかの土地を拝借して住もうと思っている。
犯罪に問われたのならその時は仕方ないし、こっちにも生きる上では、本当はダメだと理解していてもそうしなければ生きていけないという理由付けは、考える度に犯罪を犯す人の思考だなと思ってしまう。
(お金はあるから、どうにかそれで解決できればいいんだけどね)
後は住むための建物だけど、これについては僕にいい考えがあるから、とりあえず何とかなりそうだ。
(さて、この世界で僕が成したいことが出来るのか……最初が肝心だね)
あくまでも僕の使命は、病に侵された患者を救うことにある。
どんな内容であれ、これだけは誰にも負けないと自負している。
この世界での傷や病がどんなのかはまだ不明だけど、第二……第三の人生をこの世界で堪能したい。
青年はそう考えながら馬を伴ってこの土地を散策した。
やがて良さそうな立地を見つけた彼は、その後とある方法で自分の住となる建物を建てたのだが、その建築方法についてはこの場では割愛しよう。
side ユメ
(今月の借金返済……どうしよう……)
登場した途端に深刻そうなことを考えている少女の名は
そしてアビドス高等学校は現在、ユメ含めて数名しか在籍していない。
その理由はこの砂漠化にあり、数年前まではキヴォトス内でも知られるほどのマンモス校だった。
だが突如として起こった砂漠化により、徐々に学校に在籍していたほとんどが転校や引っ越しをしていき、今では2人しか在籍していない状況に陥ってしまった。
そしてアビドス高等学校としてもこの砂漠化を何とかしたいと考えて手を尽くしたが、その財源は既になく、とある金融会社に利子付きでお金を借りたことにより、アビドス高等学校には現在多額の借金を抱えていた。
それはお金の面だけでなく、土地も担保として差し押さえられたために周辺に住んでいた人達も止む無く立ち退きとして別の場所に引っ越してしまった。
結果、現在のアビドスには借金の一部を返済どころか利子を返すのに一苦労な状態なのである。
(いやダメよ梔子ユメ! こんなところで弱気になってたら、今年入ってくれたホシノちゃんに合わせる顔がないわ! 大丈夫! きっと必ず、何年かかったとしてもアビドスを復興させて見せるんだから!!)
ユメは気を取り直して今日も日課のパトロールを続ける。
彼女自身戦闘は好まないが、この土地を守るために日々奮闘しているのは確かで、借金を返すためにも、この土地で闊歩している他校からの不良生徒や指名手配犯を個人的に取り締まり、その後素行の悪い生徒達を専門に相手取っている機関に引き渡す事で収入を得ていた。
そしてユメがとある地区に足を踏み入れた時だった。
(えっ……こ、ここにこんな場所ってあったっけ?)
ユメの目の前に広がっていたのは、先ほどまで歩いてきた砂漠化が進む街並ではなく、緑が生い茂った道だった。
その奥には純白で綺麗な建物が立っており、その建物に至る道はしっかりとコンクリートで舗装が成され、街路樹にはヤシの実などの果物が実っていた。
「いやいや、こんな場所絶対になかったよ!?」
そんな光景に直面するユメだが、すぐにこの状況に対しての突込みが出来る辺り、切替が早いのだろう。
それに純白の建物といっても、ユメの記憶では1週間前まではこの場所には何も建っていなかった。
建物はおろか植物でさえも生えていない、ただ砂と岩のみがあったと、そう記憶している。
(でもここに指名手配の生徒がいたら取り締まりをしないと!)
借金の返済のため、ユメは携行していた銃を構えてその道を歩く。
その道を歩くたびに、今まで歩いてきた時に感じた乾いた風ではなく、涼しい風とフルーツ特有の甘い香りがユメに優しく当たる。
(あっ……良い香り……)
一瞬でも気を抜けば忽ち虜になりそうなぐらいに、ユメにあたる風は心地のいいものだった。
しかし本来やるべきことを思い出したユメは、その誘惑に負けじと建物のある場所に進んでいった。
数分後、時折感じた、まるで自分を甘い蜜に誘うかのように吹き付けてくる風からの誘惑に辛くも勝利したユメは、いよいよ建物の中に入る。
入口は正面の自動ドア以外にもあるかもしれないが、散策しているとまた甘い香りを運んでくる風の誘惑に耐えないといけないと考えると、すぐにでもこの建物に入る判断を下して中に入る。
だが、その判断も早計だったのかもしれない。
(す、涼しい!!)
今まで外を歩いてきたことにより、暑い日差しと乾いた風を身に浴びてきた身体は汗でべとつき、自然と涼を欲していた。
この建物まで続く道を歩いていた時は、確かに暑さは感じなかったものの、それとは別の誘惑と戦っていたためにそんなことは感じる暇もなかった。
極めつけは……。
『熱いなかご足労いただきありがとうございます。よろしければドリンクをおひとつどうぞ』
ユメの存在を来客と認識したのか、AIを搭載したロボットが綺麗なお辞儀をしながらペットボトル飲料をユメに差し出してくる。
ユメは受け取らない訳にもいかず、飲料を受け取った。
ラベルを見るに見たことがないデザインだったが、飲料の色についてはスポーツドリンクよろしく無色半透明だった。
蓋を外して臭いを嗅いでみても、市販されているスポーツドリンクと類似していて、ここまで怪しい感じはしない。
後の問題は味のみなのだが、ユメは恐る恐る少しだけ飲料を飲んでみる。
「お、美味しい!!」
結果は言わずもがなだが、ユメが飲んできた飲料の中で一番美味しいと思ったのはここだけの話。
「やぁ、どうやら僕が製作したスポーツ飲料はお気に召したようだね」
突然聞こえた声に驚きながらも、声がした方向に顔を向ければ、そこには自分と同年代であろう年の男性が、黒い上下の服の上から白衣を纏い、自分に笑顔を向けていた。
「って……お、男の人ぉぉぉっ!?」
そして青年が転生した世界では、どうやら男性があまり生まれない世界でもあるらしい……。
side out
僕がこの世界に転生して凡そ1週間、既に建物は転生初日で完成していて、周りの植物についてもゴールド・エクスペリエンスで生み出して自分の考えた通りに配置した。
だから衣食住のうちの住は初日で何とかなった。
次に衣食については、翌日以降に動き始めて、まず衣については建物を建てる要領でとある装置を使って作成することが出来たから、意外にも早く解決した。
(まぁ原料となるものについてはスタンドだよりだけど……)
次に食について……これもスタンドだよりのものになったが、結果を言えば万事解決してしまった。
後はこの場所をどうやって医療機関として名を広めるかについて考えてきたけど……この1週間全くいい案が浮かばない。
(そういえばこの世界の通信機器って、前世でいうところの携帯と同じようなものになるんだろうか?)
この1週間はどうにか基盤を盤石な物にするために、衣食住中心でこの建物の周囲を殺風景な砂と岩がある風景から緑がある場所にしていって、そこに動物達も生み出して自然の環境サイクルと変わらない営みを作っては見たけど……第一僕がやりたいのは医療行為であって、環境保全なんかは二の次なんだよなぁ……。
そうしているうちにあっという間に時間が経ってきたから、そろそろこちらで情報収集をしないといけないなって考え始めていた矢先、お客様の来訪を知らせるベルが鳴った。
それで顔を出してみたら、僕と同年代の女の子が、僕が作成したスポーツドリンクを美味しそうに飲んでいるところを目撃したんだ。
それがたまらなく嬉しくて声をかけてみたんだけど、どうやら相手は驚いていたみたいで何かを叫んでいた。
驚かせたことに対して謝罪をしたのち、何とか少女を落ち着かせようとゆっくりと声をかけてみて反応を待ってみる。
それが功を奏したのか、少女は落ち着きを取り戻して僕の声に応じてくれた。
まだ顔が少し赤い様だけど、この暑い中を歩いてきたとなれば当然かもしれない。
「そ、その……急に大声を出してしまってごめんなさい。私はアビドス高等学校に所属している梔子ユメっていいます」
「ご丁寧にどうも。僕は……(そういえば今まで名前を決めていなかったな)」
この青年も、女神に負けじとドジっ子の属性は持っているかもしれない……。
「あの、どうかされたんですか?」
「ん? いや、ただ少し考え事をしていてね。正直言って僕はいつの間にかこの砂漠に一人でいてね、どこから来たのか覚えていないんだ。ただ名前と、この前まで何故か追われる身であったから、もしここで僕の名前を出したら何かと悪いことになりそうな気がして、それでどう名乗ろうか考えていたんだ」
名前を考える時間稼ぎとして、とっさに噓を吐く。
正直、いやかなり怪しい人間判定される内容のものを話してしまったけど、何故か自然とその台詞を口に出してしまっていた。
(まぁ怪しい建物が突然できているだけでもかなり怪しい話だし、その中に住んでいる僕も怪しい人物に変わりないから、どう答えていたとしても最初の印象は変わらないかも……)
なんかさっき出てしまった台詞に対して当てつけのように言い訳をしてみるけど、こう思っている時点で悲しくなってきたな……。
「えっ? その、つかぬことを聞きますが、あなたは悪者さんか何かなんですか?」
と思っていたら、思いのほか目の前の少女、ユメさんは話に乗っかってきた。
もしかしてこの子は意外と天然なのかもしれない。
「それが全然覚えてなくて……っ!?」
そこで僕は気付いてしまった。
ユメさんが肩からかけているものは、僕が思っている現実の女の子が本来、否、普通に生活していたら例え一般の人も所持していないもの……銃という類の、一発の弾丸がまともに直撃してしまえば誰でも簡単に命を奪える代物であると……。
「か、顔色が悪くなってますけど……どうかしたんですか?」
僕が銃の存在に動揺していることが顔に出てしまっているのが分かったのか、ユメさんは心配そうな顔を向けてくる。
「その……僕が元居たかもしれない場所だと、君が肩からかけているその……危ないものを持っている子達に会ったことがないなって……」
思い切って僕がそう言ってみると、ユメさんはまた驚いた顔をしながらも、ここでは銃を持ち歩くことは当たり前のこと、すなわち常識だと教えてくれた。
(あぁ……女神様が言ってたことってこのことだったんだ……)
銃が当たり前に携行されている世界……確かに前世でも海外では自衛のために携行している国はあったと思うけど、だからといって自動拳銃のように片手で持てる程度のもので、目の前の少女が肩にかけているようなアサルトライフル? のようなものでは断じてない!
(しかもさっき高校に所属しているって言ってたよね? しかもそれが普通のように言ってたし……)
それなら女神様が僕に渡してきた転生特典も過剰じゃあない訳だね。
うん、ようやく理解したよ。
だっていざ特典が医療に関する知識と技術だけだと、仮に僕が何らかのことに巻き込まれそうになった時に自衛手段が何一つ取れないもの。
(でもスタンド能力だけでも普通にやっていけると思うけどなぁ……)
そう思っていたら僕の中に憑いている居候がヤジを飛ばしてくる。
急に話しかけたと思ったら、面白そうな世界だって? 放っておいてよ!? 僕は君みたいにバトルジャンキーの部類じゃあないんだから!!
(おっと、どうやらまた長考するところだったよ。ともかく何か反応を返さないとな)
すると本日2度目の来客を知らせるチャイムが鳴った。
ここにきて1週間しか経ってないけど、なんだか珍しいなぁと思って来客を確認してみたら、なんだかゴツイ武装をしたロボットの一団? が入ってきた。
「えっ……あれって」
「君の知り合いか何かかな」
「あっ……えぇ~とぉ~……そんなところ、かな?」
曖昧にユメさんが返事をしたわけだけど、彼女からしてみたらどうやらただの知り合いではないみたいで……
(まぇロボット相手に治療云々の話が伝わるか分からないけど……とりあえず話してみるだけ話してみようか)
そう思って彼女にはこの場にいてもらうように伝えたら、もしものことがあったらいけないとかって言ってきて、僕に着いてきた。
それほどまでに厄介な相手なのだろうか……まぁ真昼間から銃を提げて来る人達なんて僕からしてみれば異常以外の何物でもないけど。
(そういえばユメさんもその部類に入るってことか……)
そんなどうでもいいことを思いながら来客をされた一団に声をかけようとしたら……。
「貴様かここの責任者は! この土地は『カイザーコーポレーション』の私有地である! 即刻この場からの立ち退きに応じよ!!」
急にそんなことを言われた……。
side ユメ
いきなりこの建物に現れたロボット達を見たとき、一目でカイザーコーポレーションに所属しているっロボットだって分かった。
彼らとアビドスには深い関係……因縁で繋がっている。
それも私達アビドスがカイザーコーポレーションに対して多額の借金を背負っているかたちで……
(私としてもあまり関与したくないけど……)
でも私の目の前にいるお、男の子はどこからどう見ても何か銃の類を携行しているようには見えないし、寧ろ私が銃を持っていることに対して酷く動揺していた。
ここキヴォトスでは滅多に男の子を見かける機会がない。
それに外の世界でもキヴォトスと同じで滅多に男の子がいないって話をよく聞くし、目の前の男の子は一部の記憶が欠落しているようだけど、多分前にいたところでも銃とは無縁な、平和な場所で暮らしていたんだと思う。
さっき名前を聞いたときに追われているようなことを言ってたけど、多分希少な男を狙う過激な組織に狙われてて、それが切っ掛けで命からがらの状態でここまで来たんんだと思う。
それで、その影響で一部の記憶しか覚えていないって私は思った。
(多分この子はつらい思いをしたに違いないよ! それにこんなに”可愛い子”が悪いことするなんて想像もつかないし!、ここは私が守ってあげないと!!)
と、ユメの中では青年が思っていることとは全くの別ベクトルの方向で話がまとまっていた。
ユメが言うように、ここキヴォトスでは男という存在は希少といっていいほどに存在しない。
そしてキヴォトスの外の世界でも同じく、男という存在は希少とされていた。
またユメの言う通り、男を過激に狙う一団もいるため、それに対抗するために男性の保護を掲げる法律、組織もあると噂で流れていた。
ここキヴォトスでは外の世界に比べて過激に男を付け狙う一団はいない(というよりも男が生まれたとしても世間から隔離するかのように育てる)ため、男を保護する法律や組織はないが、それでも男を見つけたのならば丁寧に接しなければならないといった暗黙の了解があった。
それでも一部の生徒は、いつもの口調よろしくカツアゲをしようとした輩がいる記録はあることも確かだが……。
そしてこの世界では、自分達と同じ、人の姿をした男は、キヴォトスでは見たことがない。
いうなれば絶滅危惧種とも呼べる立ち位置であり、ユメから見れば目の前の青年は庇護対象として見えていた。
確かにこの世界でも性別として男はいるが、学生の身分としてや学生を卒業した大人たちの中にはいなかった。
また、自分達学生以外で暮らしている住人達、動物がそのまま二足歩行をした姿だったり、ロボットが自我を持って、人と同じ振る舞いをしたりなどである。
その両方は、例え相手が男の性別であったとしても対応は変わらない。
だからこそ平気で男に暴言、暴行を加える。
状況を今に戻して、今ユメ達の目の前にいるカイザーコーポレーションの私兵達は、自分と同じアサルトライフルの類を携行している。
相手の機嫌を損ねてしまえば、青年が撃たれてしまう可能性が十分にある。
(それにこの子にはヘイローが無い!)
ヘイローはキヴォトスに住む学生、また教育機関を卒業した元学生の"女性達"の頭上にある紋章の様なもので、これがある限り、彼女達がどれだけ銃弾を喰らおうが気絶程度で済む。
そこには限度も存在するが、そんなことよりもこの青年にはヘイローが無いため、身体のどこかに銃弾が命中してしまえば、それが致命傷となる。
さっき会ったばかりで名前も知らない青年ではあるが、ユメは自分が守らなければならないと強く感じた。
だからこそユメは青年を1人にさせず同行したのだ。
(それにカッコイイところを見せたら、これからもお近づきになるかもしれないし‼︎)
……少々個人的な思惑もあるようだ。
side out
応接室から梔子さんを伴って、ロビーに行く。
向こうの一団は僕の姿を捉えると、銃を構えながら再度立ち退きを命じてくる。
(もう少し穏便に出来ないかな……)
ここは医療施設であって、争いごととは無関係な場所だ。
患者はいないが、それでも騒がしくして良い場所じゃあない。
「こんな暑い中、わざわざ当院までご足労いただきありがとうございます。今回は立ち退きの申し出としてお越しいただいたという認識なのですが、お客様方はこの土地を所有されている方、若しくは企業の代表として来られたということでお間違いないですか?」
丁寧に彼ら? に質問したら、その台詞が予想外だったのか一瞬たじろいで、それから少しして気を取り直したのか、肯定の反応をしてくれた。
「あぁ、左様でございましたか。それは大変失礼いたしました。何せ私はこの地に来たばかりで土地勘がなく、この土地の所有者様の情報も付近になかったものですから、誰も所有していない土地だと勘違いしてしまいました。その点については誠に申し訳ございません。つきましてはこの土地の所有権について商談をさせていただきたいのですが、今お時間はよろしいでしょうか?」
「しょ、商談っ⁉︎」
「はい、本来は立ち退きという名目で来られたと思いますが、私はこの土地に対して相応しい金額を払う用意があります。それであなた方の言い値で商談が成立しないのであれば、その時はあなた方の立ち退きに素直に従います」
「あ、あぁ……し、しばし待て! 一度代表に確認をさせてもらう!」
一団のリーダー格っぽいロボットが代表者に一度確認をするために、連絡端末を使って通信を始めた。
端末を見る限り、どうやら僕が生きていた時と同じスマホの形をしていて、使い方もほぼ一緒のようだ。
後で買える場所がないか梔子さんに聞こう。
それから数分後、端末を切らないでリーダー格のロボットが結果を告げてきた。
「この土地を買うというのなら、5000万、すぐこの場で用意しろとのことだ。勿論現金で」
5000万……まさかこの砂と岩しかない、周りには今にも砂に飲み込まれそうになっている殺風景な場所に5000万もの価値があることは予想外だった。
(まぁ"5000万程度"ならすぐに用意できるけどね)
心配だったのは貨幣が自分の知るもので要求されるかについてだったけど、どうやらそこもクリアのようだね。
それで早速商談を成立させようとしたけど……
「そんなのぼったくりだわ! 君、そんな大金を払っちゃダメよ‼︎」
と、同伴してきた梔子さんに言われた。
side ユメ
目の前の男の子は、私が思った以上に強い子だった。
銃を向けられた中でも自然に会話していて、自分のペースに引き込んでいた。
(私が銃を携行しているのを見た時に怯えられて、今は怯えずに堂々としているなんて……そこだけは納得出来ないけど……)
でも裏を返せばこの子は、その場に柔軟に対応が出来るってことなんだと思う。
だからこそ外の世界からここまで来れたんだと思うし……
(それでもこの商談はあり得ないわ‼︎)
この子が建てた医療施設……その土地が5000万なんて絶対にない!
私はアビドス生徒会に所属しているから、過去にどの土地がどれだけの価値で担保に出されているのかを理解している。
確かにこの土地一帯は、カイザー側が要求したように5000万の価値がある。
(でもそれはこの施設が建っている土地、区画の中心から半径5kmがだったらの話! この区画だけで5000万は絶対にないわ‼︎)
「いきなり横から割り込んでどういうつもりだ! 我らの代表、カイザー理事はこの土地は5000万なら売りに出しても良いと承認している。そもそもこの土地は今我らカイザーコーポレーションの収める土地だ! ならば所有権を有している側が価値を変えたところで文句はあるまい‼︎」
「それでもこの区画だけで5000万はぼったくり過ぎよ! 本来はこの土地が入っている区画全体で5000万だったわ‼︎ ならこの土地だけでいってもそこまでの価格にはならないわ‼︎」
青年とカイザーコーポレーションと名乗るロボットの一団との商談は、ユメの横槍によって中断される。
現在青年が建てた土地は、確かにカイザーコーポレーションが所有していた。
だからこそ、所有権を持つ者が価格を決めて良いというのは道理に適っていることでもある。
だがユメにとっては、到底理解できないものであったし、この青年が少しでも利益的な面で見て有利に立てるようにと、無意識に思ったからこその行動だったかもしれない。
いつのまにかカイザー側とユメとの議論は青年を置いて白熱していった。
これでは埒が明かないと思った青年は、カイザー側にあることを質問するために口を開けた。
side out
「このままではお互い平行線のまま商談が進みませんね。私としては5000万でも問題ない、と判断したのですが、梔子さんが納得されない以上、このまま話し合いで解決することは難しそうですね」
「それならばその女をここから追い出せば問題ないことだろう! そもそもこの場での話し合いに不要な存在のはずだ‼︎」
「えぇ確かに……本来であれば当事者同士の話に第三者が介入することというのは、まぁあってはならないことでしょう」
「ならば「ですが」っ⁉︎」
「それはこの土地に関係ない第三者という意味で、です。話を聞いていると梔子さんもこの土地に関連のある当事者、と認識しますが……間違っていないですよね?」
「そ、それは……」
「すぐに否定が入らないというなら、私は梔子さんも当事者として、この話に介入することはあまり問題はないと感じますけどね? まぁさっきの話を聞く限り議論とはいえないものですが……」
「ぐっ……ま、まぁそこの女が今回の土地の売買に対して話に介入したとして、どうするつもりだ?」
「簡単な話ですよ。この土地の利権書の詳細を見せていただきたい」
「なっ⁉︎ 利権書だと⁉︎」
「えぇ。さっきその端末で代表の方……確かカイザー理事、でしたか? 今もその方と通信は繋がっているんでしょう? なら画面通話なりでその利権書とやらも見れるはずですし、画面通話でなくても、書類の写真があれば良いわけですから」
「……少し待て」
リーダー格のロボットは、再度端末で通話をしている。
何回かのやり取りをした後、僕の方に結果を告げる。
「準備に少し時間がかかるが準備するとのことだ」
僕の要求が通ったのか、通話先のカイザー理事は利権書を用意してくれるようだ。
梔子さんとの議論を聞いている限りでは渋ると思っていたのだけど……
(でも彼女のあの態度……この会社とはよっぽど因縁がありそうだ。それに僕も全てを信用するつもりはないし……)
確かにさっきは5000万でも良いと思っていたけど、梔子さんのさっきの必死の対応……それは僕にとっても何故か見過ごせないと思った。
それにこの会社には何か裏があると思ったのも事実だ。
だから……
「あぁ、それと……僕は正式な、"嘘のない"取引を所望したいと考えています。なので……嘘があった場合は立ち退きも含めて要求には一切要求しないので、そこは予め理解して下さいね?」
「は、はぁっ⁉︎ い、いきなり何を言って「だってそうでしょう?」っ⁉︎」
「よくよく考えてみればおかしいことだらけじゃあないですか? 私有地だというのにそれらしき看板も印もない。ちゃんとした不動産屋でしたら、粗雑なものでも告知の看板は一つ二つあってもおかしくない。なのにそれがなく、またいきなりの立ち退き勧告……これがこの世界の常識だというのなら別にどうとも思わなかったんですが、彼女の反応を見るだけでそうでもないんだろうなと……それで、まともに商談する気はそちらにありますか?」
「も、勿論だ! 我々としては確かに立ち退きの要求が第一ではあったが、そちらが"正式な商談"を希望しているのならば、こちらもやぶさかではない!」
「そうですか。それを聞いて安心しました……私もこの場での諍いはごめん被りたいので」
「そ、そうか……ど、どうやらこちらも書類の準備が出来たようだ」
そう言って端末の画面を見せてくる。
そこには確かにこの土地一体と思しき地図と、その利権に関する内容が記述されてある。
「わ、私も見せてもらうわよ!」
「ふん! 本来なら見せる義理はないが、これも正々堂々とした商談のためだ! 特別に見せてやろう‼︎」
梔子さんもその画面をマジマジと食い入るように見てくる。
それにしても……
(なんか距離感近いね……)
まぁ携帯端末が小さいから、ここまで近づかないと細部まで見えないから、この距離感でも仕方ないと思うことにする。
「……やっぱりそう。私がこの前見たこの土地一帯の利権書と違う!」
「……へぇ〜」
「な、そ、そんな訳がなかろう! 我らが理事が正々堂々の商談に嘘をつくなどある筈がない‼︎」
リーダー格のロボットの方は理事が嘘をつくはずがないという。
ロボットだから視線がどこを向いていたりだとか、そんな詳しい状況は分からないけど、このロボット自身も素は真面目で真っ直ぐな人物なんだろうなと思った。
「それで、どこが間違いだと?」
「利権書のここ! 地図は一緒だけど、でも君がいる場所だけを拡大したものだよ! さっき後輩の子に念に送ってもらったのがこれ。ほら、よく見たら……」
うん、確かにこれは違う。
文章の記述は全て一致しているけど、一緒になっている地図だけ、カイザー側が提示してきたものと梔子さんが見せてくれたものが違う。
「そ、そんな筈がない! それはその女が出鱈目に用意したものだ‼︎」
「何を言ってるの! これは私達生徒会が代々大切に保管していた物よ‼︎ 間違っているのはそっちなんだから‼︎」
と、またさっきと同じようなやり取りが繰り広げられる……。
「ハァ〜……」
「「っ⁉︎」」
青年がため息を吐いた。
誰が聞いても普通のため息に見えるだろう……だがこの場にいた者だけは……それがただのため息でないことを直感で理解した。
だからこそ先ほどまで繰り広げられていた議論とはいえないやり取りも……まるで最初からこの場で何も起こっていなかったかのように、ただ静かさだけがこの場を支配していた。
「このままじゃあ話は全く進みませんねぇ〜……私としてはただ、ここの土地の権利が欲しいだけなのに、なんでこうも話が進まないんですかねぇ〜?」
「え、えっと……」
「そ、それはだな……」
「まぁこの場にいる人じゃあ話にならないことが分かりました。こうなったら、直接理事とやらと話しましょう」
「そ、そんn『良いだろう』り、理事っ⁉︎」
『まさかこの土地の売買でここまで時間がかかるとは思わなかったのでね。私も忙しい身だ。その商談とやらを早々に纏めようじゃないか』
「えぇ、これでようやく建設的な話し合いが『あぁ、真面目に商談などせずとも、君を力づくでこの地から退去させれば良いだけの話だからな』……」
「な、話が違うわよ!」
『何をいうかと思えば、私がこの少年に願うことといえば、この土地からの即刻退去することだ。5000万という金を現金払いでチラつかせれば簡単に引いてくれると思ったが、まさか承諾するとは思わなかったのでね』
「り、理事⁉︎ これは一体……」
『君こそ一体どういうつもりかね? 私はこの場に急に建造された建築物の破壊と、そこに住まう者の退去をさせるように命じた筈だが? それを相手の口車に乗せられるとは』
「し、しかし! 正式な商談であれば『くどいな君は。私は最初から正式な商談などする気がないと言ったのだ』そ、それは……」
『全く、君は我が社の部隊の中でも優秀な者だと思っていたのだがな……まさかここまでの愚か者だったとは』
「そ、そんな言い方!」
『ふんっ、先程まで互いを親の仇を見るような剣幕で言い争っていたのが、相手がいざそんな風に見えなくなると庇い立てしようとする……全く、君達アビドスの土地に住む者ときたら、何かと義理人情のようなものを持ち出してくる……厄介なものだよ』
端末越しに悪意のある発言が吐き出される。
それと同時に梔子さんとリーダー格のロボットの2人がそれに晒される。
まぁ端末越しで会話をしているカイザー理事については、この土地を所有していることによって何らかのことを成し遂げたいんだろうね。そこについては誰しもが一緒だと思っているからどうとも思わないけど……
(だからってこの2人にその言葉を吐くのは違うよねぇ〜?)
まさかここに住みたいって話だけで、ここまで拗れるとは正直思わなかった。
多分現実的にはこれが普通の状況なんだろうけど、でもそれは土地の利権者と土地を買いたい人本人がする思いであって、そこにたまたまいた第三者までもが悪く言われるなんて……そんなことあって良いなんて、僕は嫌だな。
『さて、それでは早速君には仕事をしてもらおう。目の前の少年を、力づくでこの土地から追い出すのだ』
「そ、それは……で、出来ません。理事、もう一度考えなおしt『私の命令に逆らうか。仕方がない……ならば強制的にそうさせるまでだ』り、理事⁉︎ 一体なにっ⁉︎」
先程まで僕に暴行を加えることに対して否定的だったリーダー格のロボットは、僕に銃口を向けた。
「り、理事⁉︎ やめて下さい! 自分は無抵抗な相手にこんなことしたくは‼︎」
『君の意思などどうでも良い。ただ私の命令通りに動けば良いのだよ』
「ちょっ⁉︎ この子はヘイローが無いのよ⁉︎」
『それがどうした? 彼が素直に立ち退きすれば、こんなにもややこしい事になることも無かった。そして私は相手が何であれ、平等に自分の利益を求めるために動いているに過ぎない。誰がこの場でいなくなったところで、最終的に私の利益が守られればそれで良いのだよ』
「ひ、酷い……そんなのあんまりよ‼︎」
『さて、そろそろ君達にも時間を割けないのでね……早急に終わらせてもらおう』
「っダメ‼︎」
梔子さんが僕の前に自分の身体を割り込ませて、ロボットの銃口から伸びる射線から遮るようにしてくる。
それと同時に銃口から弾丸が発射された。
このままいけばその銃弾は梔子さんの体に当たるだろう。
彼女の話から察するに、ヘイローとやらを持っている子は銃弾に当たったとしてもそこまでの傷は負わないのだろうとは思う。
でもね……
(僕は先に宣言した…… 嘘のない"取引と、この場での諍いはごめん被る、と)
だから僕も……ここからは実力行使に出ることにした。
悲報……未だにオリ主の名前が出てこない件について……
(次回オリ主の名前も出ます!)