個人の青春に寄り添い、救うのも医者としての務めだよ。 作:橆諳髃
side ユメ
このままだとこの子が撃たれると思った。
咄嗟に身体が動いて、彼の前に立ち塞がる。
それと同時にロボットが持つアサルトライフルから銃弾が1発撃ち出された。
距離的にそこまで離れていないから、あれに当たったら結構痛いだろうなって思うけど……
(この子を守れるなら、それでも良いわ)
名前も知らない彼だけど、それでも傷ついて欲しくないと思った。
確かに男の子だからって気持ちもあるけど……
(私はただここに居合わせただけなのに、私の意思も尊重してくれた)
それが何だか嬉しかった。
少ししか彼と話してないけど……男に関する暗黙の了解は抜きにしても、この子を守りたいって。
(でも私が傷付いた姿を見たら……"ホシノちゃん"にお説教されちゃうな……)
私よりもしっかりしていて、現実を見ている子。
いつも真面目で頑張り屋な子やで、私が何かしたりしようとしただけで真面目にしてと叱ってくる。
お説教をされるのは嫌だけど……それよりも彼が傷付くのが嫌だと感じた。
そして私は痛みに耐えるために目をギュッと瞑った。
正直、目を瞑っただけで痛みが和らいだりするわけではないけど、そこは気の持ちようだと思って……
(……あれ? 痛みがない?)
銃弾が発射されて最低でも1秒は経っているはず……なのに撃ち出された音が鳴った以外何もない。
私が目を開けると、そこには変わらず銃弾を撃ち出したロボットがいたけど……でも手にしたアサルトライフルが壊れていた。
『どうだ? やったか?』
端末越しに話しているカイザー理事は、銃弾が鳴り終わっているのを見て状況が終了したと思ったようで、そんな反応をしていた。
でも現実は真逆で、何故か弾が撃ち出されたはずのアサルトライフルだけ壊れているという結果で……
「全く……この土地に住まう人にはまだあまり会えていないけど……皆こうして暴力を伴ってしか解決出来ないのかい?」
そこで彼の声が私の背後から聞こえた。
背後を振り向けば、さっきと同じ表情をしていたけど、言葉には怒気がはらまれていた。
「それにしても見ず知らずなのに、僕のことを守ろうとしてくれるなんて、梔子さんは優しい子なんですね」ニコッ
「ふぇっ⁉︎///そ、そんなこと……」
「そんなことでも、です。僕が元いた世界で、銃を向けられた見ず知らずの人を現実で助ける人なんて、いないにも等しいですから。この世界ではその、頭の上に浮かんでいるヘイローってやつを持っている人達からしたら、何発か当たったところで痛い程度なんでしょうけど、それを抜きにしても僕を守ろうとしてくれた。嬉しかったです。ありがとうございます」
優しい笑みを浮かべながら彼は私にそう言ってくれた。
その顔を向けてくれただけでも、私からすれば十分なのに、更に優しい言葉も乗せてくる……
(あれっ……何だかまともにこの子の顔を見れなくなった⁉︎)
何故か彼の顔を直視するのが恥ずかしい……というか、照れてしまってまともに見れないというか、そう思った瞬間には彼の顔が見えないように自分の顔を背けてしまっていた。
「あれ? どうして顔を背けるんですか?」
「えっ? い、いやぁ〜……な、何でもないよ⁉︎」
「そうですか……まぁ何でもないならいいんですが。それで、リーダー格のロボットさんも、最後まで穏便に話で解決してくれようとしてありがとうございます」
彼は銃弾を放ったロボットに近付きながら感謝の言葉を伝えている。
本当に心の底から優しい子なんだなと思った。
「ま、待て! 私が所持している武器はこれだけではない! 不用意に近づくな‼︎」
ロボットも根は優しいのか、その言葉を口にしてくる。
ただロボットの中に組み込まれた何かが無理やり動かしているのか、ライフルを捨てて今度は装備したナイフを握って彼に攻撃を仕掛けようとした。
(って、今照れてる場合じゃないでしょ私⁉︎)
目の前の光景を見てようやく思考が正常に戻った。
さっきは何が起こったかなんて分からないけど、それでも危機的状況を脱した訳じゃない!
でもそう思った頃には遅くて、彼とロボットの距離はあと一歩歩み寄れば、ロボットの握るナイフが彼を傷付けることができるところだった。
遅まきながら自分の携行している銃を構えようとした瞬間……
「何も心配はいりませんよ。私は"医者"なので、人体の構造には精通しています。どこをどうすれば動かなくなるのかも……ね」
彼がそう言った瞬間、ナイフを握ったロボットは急に力が入らなくなったように膝から崩れ落ちて、手もダラんとさせていた。
同時に握っていたナイフも床に落ちる。
(もしかして……彼がやったの?)
私には何も見えなかった。
瞬きもしていなかった。
だから本来なら、ナイフによって彼が傷付いている光景を目にしているはず……
(一体何者なの……?)
その時の私には、その疑問しか浮かばなかった。
side out
ロボットが落としたナイフを拾う。
そしてナイフが"本来あったとされる場所"を特定した。
『い、一体何が起こったというのだ⁉︎』
そこにこの場所の状況が把握出来ていない理事の声が響いた。
まぁ今も通話のみの状態だから、そう思ってしまうのも仕方ないけど……。
「さっきあなたがリモートコントロールしたであろうロボットなら、あと数十分は動けませんよ?」
『なっ⁉︎ ……貴様一体何をした⁉︎』
「何って、ただの正当防衛ですよ? それで、商談はしない……ってことで良いんですよね? 今だったら……まだ取り返しつきますけど?」
『何を馬鹿なことを! 私は最初から商談をする意思はないと言った筈だ! えぇい、ならばその場にいる他の者どもを使って排除してくれる‼︎』
そしてまた何かを操作しようとしたんだろうけど、それから数秒経っても、残りのロボット達には何の変化もない。
『な、何っ⁉︎ 何故エラーが起こる⁉︎「あぁ、それは僕が他のロボットの内部構造を弄らせてもらったからですけど?」は、ハァ〜ッ⁉︎』
「僕は医者なんで、患者の中にある悪い部分を治すなんて朝飯前ですよ」
「えっ? これってそういう話なの?」
「まぁそんな話です。それで……最初から商談する気なし、それも悪意を持っての行為……僕の中では到底許されないことです。ですから……今からそっちに行って落とし前を付けてもらいますね?」
side カイザー
当初、私はこんなことになるとは思いもしなかった。
所有地を監視している者からの報告で、いつの間にか建造物が建てられているとのことだ。
1週間前までは姿も形もなかったものが、まるで最初からそこにあったかのように建っていた。
(私も写真を送られた時には驚いた……)
どんな技術を用いればそんなことが可能なのか……それも建物の周りは緑が少なからず広がっていると聞く。
まるで“1週間前に突如として出現した砂漠の森林地帯と同じように"……
(これは偶然か?)
だが私のやることに変わりはない。
私の悲願を達成するために、どんな技術を持っていようとも不法で建築したことに変わりはない。
だがその技術は是非とも欲しい。
そんな技術を保有しているというのなら、その建物に住んでいるだろう者を勧誘しても良いかもしれない。
そんな軽い気持ちで優秀な1部隊を派遣したが……話は簡単には行かなかった。
まずその建物を建てたであろう人物は、土地の所有権について商談してきた。
これまでの経験則上、最初にそう言ってきた者はいなかった。
(しかし気味が悪いのはここからだ!)
なんとその場に偶然を装うかのように、アビドスに所属する生徒がいたのだ。
それも商談に横槍を入れるという邪魔をしてきたのだ。
(それに大金を吹っ掛けたら素直に諦めると思ったら、まさかの即答で承諾など誰が予想できるだろうか⁉︎)
それから私は、真面目に商談にのるということが愚策であると思ったのだ。
最初から力尽くでその場から退去させれば良かったと。
だが……
「さて、今回の悪意ある行動……どう落とし前を付けてくれますか?」
(何故目の前にその商談相手がいるのだっ⁉︎)
正直今の私には、何が起こっているのか分からず、思考が停止気味になっていた……。
side out
あの後僕は、リーダー格のロボットからカイザー理事がいるとされる住所を聞き出した。
それを"オペオペの実"の能力を応用して、一瞬のうちに"カイザー理事の目の前"に移動した。
(僕もこの能力の使い方は初めて知ったよ)
今までは自分が把握している空間にのみ作用すると思っていたけど、まさか離れた位置にも同じ空間を作り出して移動できるなんて。
(それに住所検索をすれば、その範囲も"把握した"扱いになる)
まぁ長距離移動の際は流石にインターバルの制限はあるけど、それも微々たるものだ。
それで今僕の目の前には、立ち退きを命じた首謀者であるカイザー理事がいる。
ロボットだから正直顔色なんて分からないと思ったけど、声音で焦っていることが分かる。
「(まぁ相手が今どんな心情かなんてどうでも良いや)カイザー理事、黙っているだけじゃあ話は進みませんよ? 私としては穏便に済ませたかった。あなたの最初に提示した5000万も払うつもりでもいた。まぁ5000万の話が本当だったらの話ですが……その時点で悪意ある嘘を吐きましたよね? この落とし前、付けてくれますよね?」
「き、貴様は一体何者なのだ⁉︎」
「そんなことは今はどうでも良いです。私が今話しているのは、今回ここまで大事にしたことに対する落とし前をどう付けてくれるのかについて……なんですよぉ〜。で? 結局どうするんだよ?」
全く……こんな無駄な時間は嫌だというのに……
「ぐっ……そ、それは……」
「それは?」
「こ、ここで貴様を亡き者にすれば終わりだー!!」
カイザー理事がそう叫ぶと同時に銃を僕に向けて発砲してきた。
ハンドガンだからいつも護身用に携行しているものなんだろうけど……
(結局は無駄な事なのに……)
僕はクレイジーダイヤモンドを顕現させて、僕に向かって放たれた銃弾を殴る。
すると殴られた銃弾は、まるで”逆再生するように”カイザー理事が持つハンドガンの銃口に戻っていき、銃弾が放たれた同じ速度で銃口の中に入ってしまったため、そのハンドガンは暴発した。
これは僕がさっきロボットに撃たれたときにやったことと同じだ。
その時にもクレイジーダイヤモンドは顕現させていたけど、梔子さんにもロボットにも見えていなかったようだった。
「ぐあっ⁉ い、一体何が……」
「さっきの行動が今回のことに対する落とし前の答え、で良いですよね? 分かりました。そちらがその手段を最終回答として取られた、というのなら……もう容赦することもない」
僕は無言でオペオペの実の能力である”ROOM”を発動させて、カイザー理事の胴体と頭を”切断”した。
切断した後、自分の右手に持っていた石ころとカイザー理事の頭を”シャンブルズ”で入れ替えた。
「なっ、なななななーーーっ⁉ わ、私の胴体が目の前にぃーっ⁉」
ROOM内で切断されたものは、例え僕に切断されても痛みは伴わない。
だからカイザー理事とやらも痛みを感じていない状況で、でも自分の首と胴体が分かれている状態にパニックを起こしている。
(しかもの相手神経系も傷つけている訳ではないから、普通に身体を動かせるし)
頭と別れてしまったカイザー理事の身体は、パニックのためか慌てふためくように面白いほど動き回っている。
それで何かと身体が当たる毎に「痛っ⁉ ぬぉっ⁉」ってうめき声が、自分の右手で掴んでいるカイザー理事の頭から発せられるしで、この光景を見ているのも面白いと感じるが……”無駄だと思ったこと”に対して費やす時間は嫌いだ。
「今の状態じゃあ、仕事なんてできませんよね~。そこで提案なのですが、5000万、その額であなたの身体を元に戻してあげましょう」
「ご、5000万だとっ⁉ こ、これは横暴だ! 第一に貴様が私の身体を今の状態にしたのだろうが⁉ それを5000万で元に戻すだと⁉ ふざけているのか⁉」
「私は最初から真摯にあなたと商談をしたかったのですが、それを悪意を持って裏切ったのはあなた……いや、もう敬意を示す必要を感じないや。お前が最初に裏切ったんだろ? それも俺を殺そうとしてまで……そんな奴に横暴って言われる筋合いないんだけど?」
「ぐっ……」
「まぁ結論を言うと……お前に決定権なんてないんだよ」
顔を真正面につき合わせるかたちで、カイザー理事に圧を放ちながら言う。
するとそれ以降カイザー理事は顔の表情と思しきランプを明滅させながらプルプルと震え、その後小さく、はい、とだけ呟いたことで今回のことは大方ケリが付いた。
その後正式な取り決めで決まったことは、以下の内容だ。
1.今後いかなることがあったとしても、僕が立てた建物とその周辺に広がる自然が含まれる土地の区画については、僕に所有権があるものとし、僕の許可なしにこの権利を害することを禁ずる。
2.当医療施設を利用する患者、関係者に対する暴言、暴力、個人の権利を著しく迫害する行為を禁ずる。
※ただし、本取り決めが締結された以前の当事者間によるやり取りについて、土地の所有者が悪意があったことを認めない場合は介入をしない。
3.所有者が保有する土地に医療施設が建ったこと、また上記の取り決めがあったことを、カイザーコーポレーション経由で通達すること。
4.上記に違反した場合、土地を所有者に譲渡した企業は、所有者の訴えに応じ、当事者間同士で定めた賠償請求の手続きをする。
決まったことといえばそんなところで、頭と胴体、ついでに銃が暴発した時に持っていた方の手を文字通り元に戻してさっきの決め事を締結させたが、その時のカイザー理事は、まるで借りてきた猫のようにおとなしくなって、こちらの要望もすべて通した。
因みに5000万については、カイザー理事を治した代わりに、僕に土地の所有権やそれに付随する権利諸々をもらうかたちで相殺となった。
(まぁ、僕がいなくなったところでまた元の調子に戻るんだろうけどね)
それについては、まぁどうでもいいことか。
今回のことで懲りずにまた同じようなことを僕の周辺でやろうとするのなら、今回以上に落とし前をつけるつもりだ。
その決め事をしっかりした内容の書類として、2部づつ用意、どちらともにも誤りがないかを確認して、1部をカイザー側に、残りの1部は僕が丁重に管理するものとして受け取る。
「さて……今回取り決めたことについての書類は貰ったし、ここにも用はないかな。一応言っとくけど……今後俺の周りでおかしなことしたら……分かってるよな?」
「あ、は、はいぃっ! それは勿論にございますっ!!」
「(なんか改めてこんな対応されるの気持ち悪いな……まっ、いっか)それじゃあ、今度会うときは、嘘がない正式な場であれば、歓迎するよ」
その言葉を残して、僕はカイザー理事のいる部屋から医療施設へと戻った。
医療施設に戻ると、出迎えてくれたのは梔子さんと、カイザー側から来たロボットの一団だった。
僕がいない間は何事も波風が立たなかったようで、少し安心したかな。
ただ僕が急に消えたことに驚いた梔子さんからは、「敵地に一人で、それも手ぶらな状態で行くなんて危ないでしょ⁉」と注意されてしまった。
まぁ僕も同じ立場なら言うだろうけど、ただあの時はとても我慢できない状態だったからね。
沸点が低いと言われてしまえば仕方ないだろうけど、僕にも譲れないものがあった。
だから今の僕には悔いはない行動が出来た、そう堂々と言える。
(でも結局梔子さんからお説教は受けたけど……)
「そういえば君の名前、結局教えてもらっていないわ。いつまでも君っていうのも、なんか嫌だし……名前、教えてくれる?」
あぁ、結局僕の名前のところの途中だったな。
結局どうしようか……
(あっ、だったらあの名前にしよう)
その時僕の頭の中に浮かんだのは、本来僕が生まれるはずだった世界で、生まれたと同時に授かるはずだった”渡海”の姓、そして、僕が医者になるために勉強し始めたころに初めて知った四字熟語、『干天慈雨』の意味がが好きだったことを思い出して……
「僕の名前は、渡海、渡海
こうして僕の第二……いや、第三の人生がスタートしたって、スッキリとした面持ちで進むことが出来るって思ったんだ。
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Original main character information
Name:
Gender:男性
Age:15歳(推定)
Nationality:日本
Height:168cm
Body weight:56Kg
person (first person, second person etc):
僕(公用の場では私。キレた時は俺に変わる)
Physical characteristics
黒髪
肌は色白
スラっとした体形
細身だが筋肉質
口調は優しい(キレると激変)
Ability:
・医療にまつわる全ての知識と、それに対応できる技術
・どこでも展開可能な手術室(破壊不可)
・クレイジー・ダイヤモンド
・ゴールド・エクスペリエンス(レクイエム化は不可)
・パール・ジャム
・オペオペの実の能力(カナヅチも改善可)
・両面宿儺の術式と呪術センス
Personality:
比較的温厚な性格。
基本どの人に対しても優しいが、自分に対して良好な関係を持つと捉えた人物達が何らかの悪事にさらされそうになった場合には、自分から悪事を持ち込んだ輩を制裁するために動く。
しかしながら前世をほぼ勉強につぎ込んでしまったため、世間知らずの面があり、また、女性経験がほぼないため、鈍感である。
自分の内面に憑いているからは、よく精神世界に呼び出されては暇つぶしを要求される。
そのほとんどが戦闘訓練じみた死闘か食事の要求で、戦闘訓練では勝率は6割と勝ち越す。
食事の要求については、本人から太鼓判を押されるほどに能力値が高い。
Candidate for heroine:
現時点で開示なし
Prologue fin.
NEXT Medical records キヴォトスでの出会い
プロローグがようやく終わりました。
いつもはもう少し短く書けないだろうかと思っているものの、何故か書き連ねると色々と書きたいことが出てしまい……の状況です。
さて、オリ主の能力については、作品の説明にもあります通り、私の独自解釈で書いております。
納得できなかった読者の方々については申し訳ございませんが、これもオリ主を最強の立ち位置で書いていくために必要だと思ったことですので……何卒よろしくお願いします。
次回は原作前のキャラクター達との絡みを色々かければなと思いながら書いていく予定です。
それではまたご覧いただける機会がございましたら、よろしくお願いいたします!