陰キャダンジョン配信者の私でも恋していいですか?〜黒衣の剣士に助けられてバズっちゃった件〜   作:竜田揚げゆたか

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最終話 勇気を振り絞って

 無事にライブを終え、私達3人は近くの焼肉屋に来ていた。

 ある程度肉が焼け、それぞれに飲み物が行き渡ったのを確認してヒナちゃんが音頭を取る。

 

「それじゃ!ヒナちゃんの100万人記念ファンミの成功を祝して!かんぱーい!」

「「かんぱーい!」」

 

 グラスをぶつけ、お酒を口に含んだ。ハイボールの甘さとアルコールの香り、そして炭酸の刺激が喉に直撃する。

 

「ぷはーっ!大舞台を終えたあとのビールは格別よお!」

 

 ヒナちゃんは豪快に生ビールだ。白い髭が出来てるの可愛い……。

 

「ふぅ……久しぶりの酒だが、やっぱいいな」

 

 黒崎さんは私と同じハイボール。しかしもう半分飲み切るくらい豪快だ。結構酒豪なのかも?

 

「ささ!お酒の次はお肉!食べて食べて!」

 

 ヒナちゃんが育てたお肉を差し出される。

 

「いただきます……!ハフっ!あちゅい……けど、美味しい!」

 

 香ばしい肉汁タレのハーモニーと、焼き加減も丁度いい柔らかな歯ごたえが口の中に広がる。

 

「でしょ?あたし、打ち上げはよくここに来るんだ〜」

 

 そう、打ち上げの予約はヒナちゃんがやってくれた。こんな所まで手が回るヒナちゃん流石だ……!踏んできた場数が違う!

 

「めちゃくちゃ美味い。店内の雰囲気もいいな。1人でも来たいぐらいだ」

「ダンジョン近くで個室のお店って限られるからね〜。あたしも1人で来るようになって、自然と常連にね」

「そうなんだ。教えてくれてありがとうヒナちゃん」

 

 あんまり外食しないからすごく助かる。私もまた来よう。

 

「どういたしまして!まだまだ焼いてくからどんどん食べちゃってね!」 

 

 そう言ってヒナちゃんはトングで肉を掴み、時折隙間から炎が立ち昇る網にジャンジャンお肉を乗せていく。

 

 モツ、タン、レバー、ホルモンなど、網いっぱいに肉が敷き詰めたのを確認すると満足気に頷いている。

 

 そして、食べながら頃合を見てお肉達を裏返し、また時間が経つとどんどん取り分けていく。

 

 勿論焼き加減は正確無比。最高の状態で食べさせてくれる。

 

 その様子に私と黒崎さんは目を丸くしていた。

 

 これが焼肉奉行……!

 

 ヒナちゃんのまだ見ぬ一面を見れて嬉しい私なのであった。

 

 食べている間も楽しく会話が弾む。

 

「2人のダンス、キレッキレだったよ。まさに息ぴったりだった」

「ホントですか?あ、ありがとうございます……!そう言って頂けると嬉しいです!」

「練習ホント頑張ったもんね〜!本番は更にクオリティ上がって、隣の私もビックリしちゃった!」

「実は、最後の練習の後も少しだけやってたから……」

 

 どうしても納得できず、1人で追い込み練習をしていたのだ。

 

「もぉ〜!この努力家めぇ!また一緒に歌って踊ろう!」

「う、うん!絶対!約束!」

 

 差し出された手を握り、約束を交わす。黒崎さんもそれに微笑んでいる。

 

「俺もなにか手伝える事があったら手伝うよ。エンタメに寄せた演武も楽しいしな」

「はい!その時はお誘いさせていただきます!」

 

 黒崎さんとも約束し、またお肉とお酒を味わうのであった。

 

 店を出た頃にはスッカリ辺りは暗くなっていた。

 

「それじゃ、あたし普通の配信あるから帰るね!」

「はい、今日は本当にありがとう。ヒナちゃん」

「いいってことよ!またコラボしようね!じゃね☆」

 

 駆け出していくヒナちゃんを、黒崎さんと2人で手を振って見送った。

 

 さて、打ち上げは終わったけど……ここからが私の大勝負だ。

 

「あ、あの……黒崎さん」

「なんだ?」

 

 目が合い、思わず言葉が詰まる。ええい!尻込みしてる場合か!

 

「この後、時間ありますか?」

 

 自分を叱咤し、何とか問いかけを引き出した。

 

「大丈夫だけど……どした?」

「えと、少し行きたい所があって……」 

 

 こうして私達は少し歩き、夜景がよく見える高台の広場にやって来る。

 

「おお、街がよく見えるな……」

「はい。景色が綺麗だって聞いて、一度来てみたかったんです」

 

 デートスポットとして有名な場所だ。黒崎さんと来てみたかったのだ。

 

「ホントに綺麗だな。地上の星と天の星が混ざってる」

 

 詩的だ……。

 そのロマンチックな言葉に深く共感する。

 

「初めて来たけど、とっても綺麗ですね」

「ずっと見てられるな」

「はい……」

 

 そうして暫く私達はどこまでも続く夜景に見蕩れているのだった。

 

「そろそろ冷えて来たな。遅いしもう帰ろうか」

 

 もう終わりか……。

 時間が過ぎるのが早く感じる。でも、もう決心したから。

 

 この景色を見終わったら……伝えるって。

 

「黒崎さん……」

「なんだ?」

 

 相変わらず優しい顔で私を見てくれる。その顔を見てまた胸が高鳴る。ドクンドクンって激しく脈打つ。

 

 そして……私は想いを伝えるのだった。

 

「私、初めて会った時から黒崎さんのこと……好き、でした」

 

 ダンジョンの最奥で、ボスのオークに追い詰められた時……黒崎さんに助けられた。

 

「一目惚れ……です。でも、それだけじゃありません」

 

 そう、それだけでは無い。

 

「黒崎さんは……いつも優しくて、急にお誘いしてもすぐ応じてくれました。今日だって、私の個人的なイベントの為に色々準備してくれて……とても嬉しかった、です」

 

 人前で天刃流をみだりに見せない。そう言っていた。けど私や視聴者の為に、普段してない演武を見せてくれた。

 

「そして、チャンネル登録者とか、ハンターとか……そういう肩書き無しで、私を見てくれてました。ずっと、変わらず……」

 

 昔の友達が久しぶりに連絡してきた事があった。その子は自然と付き合いが無くなった子だが、私が有名になったと知ってまた連絡をしようと思ったらしい。

 

 そして色々と……広告収入とか、ファンにイケメンはいるかとか下世話な話をしてきた。

 

 でも黒崎さんは初めから私に優しく、幾ら数字が増えようとも態度は変わらなかった。変わらず一緒に居てくれた。

 

「だから、その時より……もっと、ずっと……貴方が好きです」

 

 初めて会った時から……この想いはずっとずっと大きくなった。もう抑えられない。抑えたくない。

 

「だから……黒崎さん。私と付き合ってください」

 

 真っ直ぐ、彼の目を見て……誠心誠意想いを伝えるのだった。

 

 黒崎さんは驚いた顔をして固まっている。突然の告白だもん。そうなるのもしょうがないよね。

 

 その間は広場の喧騒と鼓動の音だけが耳に届く。やがて、黒崎さんが口を開く。

 

「実は、俺もなんだ」

「え?」

 

 少し照れくさそうに目を逸らし、確かにそう言った。返ってきた言葉に私は驚愕する。

 

 はいも、いいえも、どっちも覚悟していたから。それとは違う答えで驚いたのだ。

 

「俺も、初めて会った時……ゆいの事可愛いなって思って……ゆいと会う時は、柄にもなくちょっとカッコつけちまった」

 

 か、可愛い……!?可愛いって言った!?

 

「だから、ダンジョンとか、今日のゲストとか誘われたのも……ホント嬉しかった。そりゃもうめちゃくちゃ。心の中でよっしゃ!って叫ぶくらい」

 

 えっ?そ、そんなに……?えと、それってつまり……!

 

「だから、俺はゆいの事が好きだ。返事は勿論『はい』だ。俺と付き合ってくれ、ゆい」

 

 赤い宝石のような瞳でまっすぐ見つめられ、その手を差し出された。

 

 わ、私達……あの時から両想いだったってこと!?

 

 その事実を知って顔がもっと熱くなる。口角も自然と上がる。

 

 って!私から告白してるのに逆になってる!で、でもでも!は、早く答えないと!えーと!えーと!

 

「ふ、不束者ですが……よろしくお願いします……」

 

 沸騰した頭で、熱を持つ頬で、ニヤつく口元を抑えながら……その手を取った。

 

「ホント、可愛いな」

 

 黒崎さんはそう呟き、私に迫った。そして……。

 

「っ!?!?」

 

 唇を重ねたのだった。

 

 柔らかい感触が触れる。黒崎さんの香りがダイレクトで鼻腔をくすぐる。

 

 どれくらいそうしていただろうか。分からないくらい私の頭は沸騰していた。やがて唇が離れる。

 

「き、ききき……キス!?ふ、不意打ち……!」

「悪い、したくなった」

 

 そう言ってはにかむ黒崎さん。そのイタズラっぽい顔が可愛らしくて……なんでも許してしまいそうになる。

 

 ホントそういうの……ズルいよぉ……!黒崎さんってばいつもいつも。

 

 だから……。

 

「っ!」

 

 今度は私から唇を重ねた。恥ずかしいので、一瞬、ほんの僅かに触れた程度だけど。

 

 それでも、黒崎さんは驚いていた。

 

「お返し……です」

「返されちまった……1本取られたなこりゃ」

 

 フフン♪私だってやる時はやるのだ。

 

 そのまま2人で笑い合った。そして、互いの指を絡ませるように手を繋いで帰路に着く。

 

 今日まで色々あったけど、私は一度諦めた夢を叶え、こうして一目惚れした黒崎さんとも関係を深めたのであった。

 

 

 1ヶ月後。

 今日も今日とて私はダンジョンに来ていた。

 

 先日のファンミもDXのニュースアカウントでスクショ付きのレポートが書かれて話題になった。そのお陰でアーカイブの視聴数も回り、期限が切れる頃には何と1億回再生突破した。

 

 ファンも一気に増加し、ヒナちゃんと並ぶ200万人ももう目前だった。

 

 それにはやはり困惑と緊張があった。それでも、やる事は変わらない。ダンジョン配信者ならやる事は1つだもん。

 

 私は平穏な心のまま指輪を付ける。そして早見結花からダンジョン配信者『ゆい』へとその姿を変える。

 

 これは言わばルーティン。演技をする人がスイッチを入れるように、茶髪から金髪に、茶色の瞳から紺碧の瞳へ変える事で配信者の心になる。

 

 無口で無愛想で臆病な私にも勇気をくれるルーティン。そして……多くの視聴者の元へ踏み出す。隣に居る大好きな人と共に。

 

「こんゆいゆい〜。ゆいです。今日は黒崎さんとコラボだよ」

「改めまして、黒崎勇吾だ。よろしくなみんな。そしてゆい」

「うん♪それじゃいつも通りダンジョン配信していくよ。よろしくね」

 

 

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