クズに金貨と花冠を   作:もちもち物質@布団

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未知と*1

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 ネールは、ぽかん、としていた。

 目の前に立っている人は……フードを外したら、なんと……なんと!ネールにそっくりだったのだ!

 年齢は、もう少し上かもしれない。髪は金色じゃなくて、銀色っぽく見える。瞳の色も、もう少し薄いかも。

 ……でも、そっくりだ。

 あんまりにも、そっくりだ!ネールにそっくりということは、エヴェリーナともそっくりということだ。ああ、ああ、どうしよう!そっくりさんが3人もいるなんて!

 ……けれど、さっきまでフードを被っていたその人は、顔立ちこそネールやエヴェリーナにそっくりだけれど、全然、雰囲気が違う。

 もっと静かで、冷たい。ちょっとだけ、ウルリカに似ているかもしれない。でも、もっともっと静かで、もっともっと……冷たい、というよりは、何も無いのだ。

 そう。何も無い。そんな様子に見えた。

 

 

 

「……あー、もしかしてあんたも、口が利けない性質か?」

 ランヴァルドがそっと尋ねると、目の前の女性は口を開いて、何か……聞き取れない音を発した。と、思う。ネールにはよく分からない。聞こえないのに音だと分かるけれど、でもやっぱり聞こえないものなのでよく分からないのだ!

「い、今のは……?」

 ランヴァルドが慄いている。ネールはぽかんとしているし、ウルリカを見てみたら、彼女もまた、強く警戒した顔をしていた。

 ……そして、目の前の女性は、少し眉根を寄せて考え込んでいた。それから……次にまた、口を開いた時。

『きこえる?』

 ……そう、聞こえた。

 

 ネールが頷くと、女性は少しほっとしたような顔をした。一方、ランヴァルドやウルリカ、そしてマティアスには聞こえなかったらしい。

 ぽかん、としている3人を見て、女性はまた眉根を寄せて……次にまた口を開いた時には、『聞こえる?』と、さっきより少しはっきり聞こえた。

「あ、ああ、聞こえ、た……」

 ランヴァルドにも聞こえたらしい。ネールもなんだかほっとしながら、『よかったね』という気持ちで目の前の女性を見つめる。

 ……彼女は、ひとまずこれでよしとしたらしい。一つ頷くと……少し辺りを見回して、とある一角の床に、手をかざした。

 途端、床からにょっきりと、机と椅子が生えてきた。

 ……机と椅子が、生えてきた!

「お、おいおい……何だこれは……」

 ランヴァルドはびっくりしているようだが、ネールはもっとびっくりしている!草や花だけじゃなくて、椅子や机もにょっきり生えてくるだなんて!ネールはこんなの、見たことが無い!

 でもランヴァルドもびっくりしているということは、こういうのは普通じゃないのだろう。多分。……ネールがそう理解している間にも、女性は生えてきた椅子の1つに座った。

『こちらへ』

 そしてまた声が聞こえたので、ネールは堂々と、女性の向かいに座る。

 ランヴァルドもまた、ネールの隣に座った。椅子は3つしか無いから、ウルリカとマティアスは立っていることになるけれど……。

『話をしたい』

 女性が話し始めた。実際に声が出ている訳ではないようだから、なんだか不思議なかんじなのだけれど……。ネールはふと、『音を聞いているというよりは、文字を読んでいる感覚に近い』ということに気づいた。ということは、この女性は声を発することなく、魔法で言葉だけ伝えてきているのかもしれない。

「話、か。俺達も聞きたいことは山ほどあるが……そっちから先に話してくれていい。あんたの話を聞いたら、こっちが聞きたいこともある程度、分かりそうだからな」

 ランヴァルドがそう言えば、女性はそれには反応せず……ただ、ネールだけを見つめて、言った。

『私達の世界を取り戻すための話をしたい』

 

 

 

 ネールはぽかんとした。

『私達の世界』って、なんだろう。

 ランヴァルドを見てみるけれど、ランヴァルドもまた、ぽかんとしている。……ということは、ネールには分からなくても当然のことなのだろう。ネールはちょっぴり安心した。

「あー……もう少し詳しく頼む。俺は勿論だが、ネールが……この子が、意味を理解していないみたいだ」

 そしてランヴァルドがネールの代わりにそう言ってくれるので、ネールは『その通り!』とばかり、こくこく頷いてみせた。すると女性は少し困ったような顔をしてしまう。……そんなに困られても困る。だってネールも困っているのだから!

 女性はランヴァルドをちらりと見て、それからまたネールを見て……少し考えて、また話し始めた。

『かつて存在していた世界。一度失われてしまった暮らし。そういうもの。』

 ……が、またネールには分からない話が始まってしまった。

 でも大丈夫だ。話を聞いたランヴァルドは、何か、はっとした顔をしていたから。

 ……そして。

「つまり……あんたは、古代文明を取り戻そう、って話をしているのか?」

 ランヴァルドは、そう言ったのだ。

 

 

 

 古代文明、というものについては、ランヴァルドが幾つか教えてくれたからネールも少し分かる。

 今は、魔法を使う人は少ない。けれど、大昔の人達は、もっと当たり前に魔法を使っていたらしい。

 今では失われてしまった魔法も沢山あったらしいし、今では作れないような魔法の道具も沢山あったとか。それらの道具の内、ごく一部は現代でも再現されているけれど。……今、ネールがベルトにつけている魔法仕掛けのランプはそれだ。これは火を使わなくても光る、不思議な道具。

 それから、ジレネロストにあった遺跡もそうだ。ここもそうだけれど……こうした古代遺跡の類は、大昔の魔法を秘めた、大きな大きな、魔法の装置らしい。

 ジレネロストでは、『魔力の濾過』とやらをしていたらしい。ランヴァルドはこれについて以前、『濾す、ってわかるか?こういう……』と、丁寧に説明してくれたので、ネールもなんとなく分かっている。

 まあ、そういう古代文明だ。そういう古代文明なのだが……それを『取り戻す』ということ、だろうか。

 ということは……今、目の前に居る人は……。

「……あー、俺から1つ、聞かせてほしいんだが……」

 ランヴァルドもきっとネールと同じことを思っている。ネールがランヴァルドを見て頷けば、ランヴァルドもまた頷いて……目の前の女性に、聞いた。

「つまり、あんたは古代人か」

 

『そうとも言えるだろう』

 そう、彼女は答えた。

『あなたと同種のものだから』

 ……そうとも、彼女は答えた。

 

 

 

 どうしゅ。どうしゅ……ネールと一緒、ということだろうか。

 でもネールは古代人ではないと思う。ネールは……ネールは、生まれも育ちもはっきりしているのだから。ネールは古代人、ではないと思う。

「……こいつは古代人じゃないぞ」

 ランヴァルドもそう言ってくれるので、ネールはそうだそうだ、と頷いた。すると、相手は首を傾げてしまう。

『同じ』

 同じらしい。困った。確かに、ネールと目の前の人は、姿がよく似ているのだけれど……そういうことだろうか?ネールは古代人さんに、そっくりなのだろうか?ということは、エヴェリーナも?

「同じ、っていうのは……あー、容姿が、見た目が、ってことか?」

 ランヴァルドも同じことを考えていたらしく、ネールが気になったことを聞いてくれた。これだからランヴァルドは頼りになるのだ!

『あなたの目に見えているものは、形を真似ただけ』

「あー、つまり、ネールを見て、ネールに似た姿になった、ってことか。……え?元々は?」

『元々の形は無い』

「そうか、無いのか。そうかそうか……ああ……」

 が、ランヴァルドが頭を抱えている。大変なことである。ネールも、『形が無い』相手を目の前にして、ちょっと困っている!どうやら相手はネールを真似っこしてネールそっくりになったらしいが……どういうことだろうか!ネールは混乱してきた!

『こう』

 ……更に、目の前でネールに似た人の姿がぐるり、と歪んで……次の瞬間には、ランヴァルドの姿になっていた!

 ネールは目を見開いて、ランヴァルドに化けた彼女のことを見つめてしまう。髪は黒ではなく、灰色。瞳は藍色ではなく、もっと淡い色だけれど……そして何より、雰囲気が全く、違うけれど……でも、ランヴァルドによく似ているのだ!

 ネールもランヴァルドもびっくりしていると、目の前の相手はまた姿を歪めて、次の瞬間にはもう、ネールにそっくりな姿……がちょっと大人びた姿に、戻っていた。

 

『あなたは、元々姿があった?』

 ネールが混乱していると、目の前でネールの目より薄い色の目が、じっとネールを見つめてそう聞いてきた。なのでネールは頷く。

 そうだ。ネールには元々、姿があった。

 ……というより、そもそも、『姿が無い』状態で存在していられるもののことがネールにはよく分からない!さっきみたいに、ランヴァルドになったりネールになったりするのだって、よく分からない!

 ネールの返答に、相手は何か、納得したように頷いた。

『だから拙い?』

「つた……ああ、うん、まあ、こいつはまだそんなに大きくないからな。古代人の基準だとどうだか分からないが、こいつに関して言えば、あんたの常識はおろか、こっちの常識もイマイチ分かってないところがあるんだ。だからこそ、俺が通訳に入っているんだが……」

 ランヴァルドが間に入って何か言ってくれている。ネールは『その通り!』と、とりあえず頷いておいた。

 すると相手はまた困ったように考え始めてしまった。ネールはこの人を困らせてばかりのような気がする。同時に、この人に困らされてもいるが……。

 そうして相手はしばらく考えて……それから、じっとネールを見つめて、言った。

『あなたは、あるべき世界の姿を知らない?』

 ……またネールは困る。困ったが、頷く。世界の姿、なんて、知らない。そもそも彼女が何を言っているのかもよく分からないのだ。

 

 

 

「ま、こういう訳だ。こっちはあんたが言うことがほとんど分かってない。情報が全然、無いんでね」

 ネールも相手も困っていたところ、ランヴァルドがそう、間に入ってくれた。

「そういう訳で、聞かせてくれ。……ステンティールやハイゼル、あとジレネロストの古代遺跡を操作したのは、あんたか?」

 ……ランヴァルドがそう尋ねると、相手は少し考えてから、こくんと頷いた。

「それは……『古代文明を取り戻すため』に?」

 ランヴァルドが緊張気味にそう聞けば、やはり相手はこくんと頷いた。

 そして。

 

「じゃあ、あんたは……この世界を……あ」

 ランヴァルドが、声を漏らした。

 それと同時……白いテーブルの上に、ぱたり、と赤い雫が落ちる。

 見れば、ランヴァルドが鼻から血を流していて……ランヴァルドはそれを掌で受け止めようとして、受け止めきれずにテーブルに零していた。

「……これ、は……」

 ランヴァルドは苦しそうに眉根を寄せて、目を細めて……その目が、閉じる。

 

 そのまま、ランヴァルドが床に倒れた。

 

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