ジャイロツェペリ、キヴォトスに行く   作:ウェカピポの妹の夫

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ようこそアビドスへ

「────やれやれだぜ」

 

 

 

 1886年、春───ジャイロツェペリ、医学試験に合格ッ!

 

 その知らせを受けた夜、父は「合格か……よくやったな」とだけ言い、さっさと床に就いた。だが、母と弟妹たちは温かく祝ってくれた。夕食には好物のシチューが並び、長時間煮込まれた牛肉は口に入れただけで溶けるほど柔らかい。この日だけは特別に、母がぶどう酒を注いでくれた。

 

 そして翌朝……二日酔いが容赦なく襲ってきた。頭がガンガン鳴り、胃がひっくり返りそうになる中、よりにもよってその日の午後、急患が病院に運び込まれる。狩りの最中に自分の腹を誤って撃ったようで、服は血で真っ赤に染まっていた。

 

 父は「日が落ちるまで帰らない」と伝言を残して出かけていた。母は助手として手伝ってくれるが、手術の経験はない。ジャイロは、頭痛と吐き気に苛まれながら、その惨状に立ち会う羽目になった。ジャイロ・ツェペリ、医者として初めての試練。彼は悟った──ここでしくじれば、なによりも患者の命が失われてしまう。

 

 必死に頭を働かせ、手を動かした。酒の残り香が鼻をつき、汗が額を伝う中、なんとか手術を終える。夜も更け、患者を病室に運んで一息ついた時、不意に酔いがぶり返してきた。理由は分からない。思考が鈍り、頭痛が再び押し寄せる。

 

 その日から、彼は決意した。ジャイロ・ツェペリは二度と調子の乗った酒を飲まない、と。

 

 


 

 

 目を開けると曇り空が広がり、同時に砂の感触が背中越しに伝わってくる。

 

 

(これは……まだ……アイツの能力か…………?)

 

 

 どうにも辻褄が合わない。

 

 

 

 ほんの30秒ほど前に、大統領の凶弾で死んだはずなのだ……

 

 

「────やれやれだぜ」

 

 

 状況はつかめないまま、ゆっくりと立ち上がり、痺れた手で服に付いた砂を払う。

 

 頭痛がする。あの時の痛みだ。奥底に埋めたイヤな記憶を掘り返されたかのように感じ、少し憤る。その感情とは裏腹に、体は水分を欲しがっていた。

 

「───ッ!」

 

 突然唇が裂けた。舐めてみるとちょっぴりと血の味がした。どうやら随分と外で放置されていたようだ。

 

 

 バックルの鉄球を触った──

 

 

「……どーしたもんかね」

 

 ジャイロは腕や足の砂を払い落とし、多少マシになった頭で考える。周りを見回し、遠くの町を発見した。

 

(そーいえば、2nd. STAGEも砂漠だったな──もしかして……戻ったのか?)

 

 謎が残るが、町に進む決意をする。砂漠のド真ん中で野垂れ死ぬつもりはない。

 

 

***

 

 

 乾いた風が砂粒を巻き上げている。歩みを進めるごとに、少しずつ町の輪郭が鮮明になってくる。

 

 もはやどれだけ歩いたか……町の入り口にたどり着く頃には、靴の中に入り込んだ砂が足の裏にこびりついていた。だがそれを気にする余裕はない。

 

(結構歩いたが、いったい……どこなんだ?)

 

 目の前に広がる町は、異様な雰囲気を漂わせている。建物は砂に埋もれかけ、壊れた窓枠や崩れ落ちた壁が目立つ。どこもかしこも一部崩れているものの、それでも、ガラス張りの高い建物が圧倒している。

 

(見たことねーーもんばかりだぜ……)

 

 ジャイロの脳裏に、自身の信仰している教徒の教義がよぎる。小学校の頃からさんざん聞かされてきた、天国や楽園と言う存在。その華やかなイメージと、目の前の廃墟とでは到底合致しない。

 

「…………」

 

 肩をすくめ、寂れた町に入って行く。汗のせいで服が体にベットリとついていた。

 

 町の大通りと思われる道を歩いていると、視界の端に倒れた街灯や割れたショーウィンドウが映っていく。どれも日常の残骸のようだったが、未知の技術の物ばかりだ。

 

(マジに天国なのか? 建物にも見覚えねーし)

 

 ジャイロは立ち止まり、あたりを見回す。どこを見ても年代が分かるような物は無い。しかし車道の縁の、薄い鉄板で作られた白い柵のような物に文字が書かれていることに気づく。

 

 柵の元へ行き、腰を下ろして目を据える。

 

「アビ……クソッ、掠れてんな………アビドス……道路監理局か」

 

 地理はあまり得意では無いが、それでもおおよその国や首都が分かる程度の教育は受けてきた。そんなジャイロが、聞いたことも無い場所だった。

 

 収穫はほとんど無かったが、立ち止まるワケにはいかなくなった。気を取り直したその時、視界がうつろになっていく。人に会い水を乞わなければ、本格的にマズくなってきた。

 

(熱中症……面倒だな……)

 

 フラフラとした足取りで大通りの道に戻る。出来るだけ建物の影に入るように進んでいると、信号と同じ高さにある看板を見上げる。

 

「右が、アビドス高等学園……学校か。んで左が……駅か……動いてんのか?」

 

 右を見ると確かに、大きな紋章を携えた建物がある。そして、人の足跡がそこに続いているのも。歩幅や足のサイズからして、大人のではなく──

 

「子どもか……」

 

 そう呟く声も、廃墟の瓦礫に吸われていく。やっと人に巡り会えそうな状況だった。

 

 息を切らし、砂に足を取られながら足跡を追っていると、不意に視界が広がり、塀に囲まれた学校が見えてきた。太陽がギラギラと校庭を照りつけている。追ってきた足跡がその建物の入り口に続くのを見たジャイロは、慎重に周囲を見回し、塀の門の一歩中へ足を踏み入れた。

 

 

 

 その瞬間、背後から不意に響く

 

 

 

 銃声。

 

 

 

 

「……ッ!」

 

 反射的に身をひねるも効果は無く、銃弾は既に頬をかすめて右耳を打っていた。ジャイロは咄嗟に押さえ、振り向く。

 

「痛ッデェッ──ンな゛あ゛ッッ!」

 

 視線の先には……ピンク色の長髪をなびかせ、ショットガンを構えた少女が一人。

 

「うへぇ〜、外したと思ったんだけどな~」

 

 身長や声で少女だと分かったが、ただの子供ではない。ショットガンの銃口が「次は無い」と訴える。

 

「こンッ……誰だっ! 」

 

 少女は、一歩踏み出す。雰囲気が変わった。

 

「誰の差し金かは知らないけど、帰った方がいいよ。もう『目』は売っちゃったからね」

 

 さきほどと変わらない声のトーン。しかし、明確にジャイロに敵意を見せてくる。頬を伝った血が砂に沁みる。

 

「……頼むぜ、撃つんじゃあねえぞ……」

 

 

 

 鉄球に手を伸ばす。

 

 

 

「もう『目』は無い。これが最後のチャンスだよ」

 

「……悪かった、勝手に敷地に入ったのは謝る。だから───」

 

 弾丸が一発、ジャイロのそばを爆音とともに横切った、

 

 と同時に少女が突っ込んでくる!

 

(こ……こいつ! 話を聞かねぇ!)

 

「クッソッ!」

 

 両手で鉄球を引き抜く、

 

 しかし次の瞬間、少女は上に跳んで、発砲してきた。

 

 ジャイロは反射的に体をひねり、弾をかすめさせる。ショットガンの一発は地面を撃つ。

 

「──ッブねえ! おいちょっと待て撃つんじゃあねぇ!」

 

 ジャイロは冷静に声をかけるが、少女はジャイロに向かって落ちてくる。

 

「話しを──ッ!」

 

 

 

 

 ジャイロは鉄球を一つ投げる

 

 

 が、それは当たらずに空を斬った。

 

 

 

 少女は重量に従い、落ちてくる。両足でジャイロの肩に乗り、その衝撃で押し倒す。

 

「──ッ!」

 

「誰か知らないけどごめんね~。こっちも毎日来られてちょっと頭に来てたんだ〜」

 

 

 

 大の字になったジャイロのそばに少女が立つ。

 

 

「分かった……すぐここから出ていく。だがその前に水を───」

 

 

 

 ドンッ

 

 

 

 

 一発、校庭に響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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