ジャイロツェペリ、キヴォトスに行く   作:ウェカピポの妹の夫

3 / 4
グッドガール

 

「うーーあーーー……」

 

 町の一角に佇むカフェ。

 足をプラプラさせて、テーブルに突っ伏していたジャイロ。

 

 長い旅路だった。電車に揺られ、軋む鉄の音と窓の外を掠める影に耐え、やっとゲヘナに辿り着いた。這うように外へ飛び出したジャイロを待っていたのは───

 

 高層ビルがそびえ立つ、息づく都会の景色。

 

 その喧騒から逃げるようにカフェの扉を押し開けた。

 

 瞬間、空気が変わる。

 

 鼻を刺すコーヒーの苦い香り。焙煎された豆の深みが、かすかに甘い余韻を連れてくる。

 

 

 ジャイロは店内に背を向け、窓際のカウンタータイプの席に座る。

 

 冷たい。

 

 鉄製のイスが接する箇所を冷やし、長い旅でこわばった肩から力が抜けていった。

 

 

 気怠げに見回す。少女たちがテーブルを囲み、小さなカップを手に笑い合う。その隣では二足歩行の獣人がトレイを運んでいる。

 

(ヘンな場所だぜ……歳くってるヤツが一人もいねえってのに、世界が回ってやがる)

 

 

 注文したコーヒーが運ばれてきた。

 

 熱い湯気が立ち上る。

 

 顔を上げ、カップを手に取る。熱が掌にじんわりと伝わり、指先まで温もりが広がる。口元に運べば、濃厚な苦味が舌を包む。

 

 一口啜り、目を閉じる。

 

 

 

───遠くで、爆発音

 窓ガラスがビリビリと震え、カップの中の黒い水面が小さく揺れる。

 

 (疲れたな……)

 

 

 ガラス窓の向こうでは、煙を吐くビルと、黒く染まり始めた空が重なり合う。

 

 

 

 

 

 コーヒーを飲み干し、立ち上がる。

 

 椅子の脚が床を擦り、耳障りの悪い音を立てる。

 カウンターにコインを弾き、「うまかった」と一言。

 

 そのまま踵を返し、外の熱気へ飛び出した。

 

 

 

(さて……)

 

 通りに踏み出し、周りを見渡した。

 

───どこへ行くべきか

 

 遺体の手がかりを探すなら、情報が集まる場所だ。図書館か、市場か、それとも誰かに聞くか。考えを巡らせながら歩き出すと、すぐ近くで軽やかな鼻歌が耳に届いた。

 

今日はステーキかしら、お寿司も良いわね……ふふふ」

 

 声の主は、ワインレッドのコートを羽織った少女だった。彼女は軽い足取りで歩きながら、肩に担いだライフルを無造作に揺らしている。

 

 

「そこのお嬢さん失礼(し・トゥ・れい)、このあたりに図書館はありますか?」

 

「え?  ああ、それならちょうど……って、えええぇぇっ!?」

 

(なんだコイツ)

 

 彼女は慌てて咳払い。平静を装う仕草が、どこか芝居がかってる。

 

「と、図書館ねっ!  案内してあげるわ、ついてきなさい!」と、先導を始める少女。ジャイロは黙ってその背中を追った。

 

 少女は軽快な足取りで進む。ジャイロは少し遅れてついていく。彼女が「こっちよ」と振り返り、三つ目の角を左に曲がる。

 

 視界が開けた。図書館が姿を現す。

 

 その威容に、ジャイロは目を奪われた。

 

 

 とにかくデカイ。

 

 

 

 白とガラスで構成された建物は五階ほどの高さで、全面のガラス窓が陽光をきらめかせていた。

 

 

 少女と別れ、中へ入る。不思議なことに、外の喧騒が嘘のように消えた。

 

 人はそれなりにいるが物音は控えめで、ページをめくる音や足音だけが微かに響き合っている。

 

 

「・・・」

 

 広い館内を見渡すと、中央に螺旋階段が伸び、各階へ通じる通路が放射状に広がっている。

 

 案内板に目をやる。「歴史」「科学」「文学」などの文字が刻まれ、ジャイロの足は歴史へと導かれる。

 螺旋階段を登り始めると、木製の手すりが温たかく手に触れ、足音は絨毯に吸収された。

 

 

 

 四階に着く。案内通りに長い廊下を進むと、書棚が徐々に古びた雰囲気を帯びてくる。

 

 

 廊下の突き当たりに差し掛かると、重厚な木製の扉が待っていた。

 扉には「外の記録」と書かれ、埃っぽい空気が漏れ出してきて、鼻を微かに刺激した。

 

 口を抑えながら片手で扉を押し開けると、静けさに包まれた空間が目の前に広がりを見せる。

 古びた本の匂いが漂い、窓から差し込む光が棚を照らして埃を浮かび上がらせた。

 

 埃が舞う様子が微かに見え、何冊か引き抜いてパラパラとめくる。

 

「エレンの舞台記録、ベートーヴェンの楽譜、ユゴーの小説までシッカリ残ってやがる……」

 

 

 1890年に起こった出来事が書かれている記事を発見する。分厚い記事を本棚から抜き取り、更にそこから九月に起こった出来事に目を通す。

 

「……あったぜ」

 

───北米大陸横断レース

 

 ページは黄ばみ、インクが薄れた部分もあるが内容は鮮明で、記憶を鮮やかに呼び起こす。

 埃っぽい本にフッと息を吹きかけ、ジャイロは目を細めて記事を読み始める。

 

(確かに、あのレースだ……)

 

 

 

 記事の写真の一つに、船上で立ってマイクを持ってインタビューを受ける相棒の姿が写っていて───

 白黒写真の中、ジョニィの表情はどこか遠くを見据えていた。

 

(立ったか)

 

 懐かしさが波のように押し寄せ、指で写真をなぞると、紙の感触が現実を突きつける。

 

 だが、違和感を覚えた。

 

「・・・ッ!」

 

 ジャイロは目を凝らし、彼の手の部分を食い入るように見つめる。

 

 五指の先の、爪の中間に細いラインが走っていた。

 

(印刷ミス……いや違うね。(タスク)……撃った…… )

 

 頭の中で記憶が渦巻き、レースを通し、遺体を巡る戦い。ジョニィの最後の姿が蘇ってくる。

 

 

 次のページへと目を移す。

 

 

 記事は細かくなっていく。レースの裏話や観客の声まで載り、当時の熱狂が伝わってきた。新聞の切り抜きには、砂漠を駆ける馬の影、群衆の叫び声、ゴールラインでの狂騒が活字で刻まれている。

 

「・・・」

 

 記事はさらに続いていく。だが、ジャイロの目はその先を求める。遺体だ。あの戦いの核心、すべてを動かした力の根源はどこだ?

 

 

 ページをめくる手が速くなり、インクの匂いが鼻をつく。記事はレースの終幕を飾る優勝者のインタビューについて。彼の言葉は短く、「スッゲェェ〜〜〜〜ラッキーだったぜェェ〜〜〜」。だが、その横に小さく書かれた一文がジャイロの目を止める。「9th-STAGEの海岸にて、不可解な光が目撃された」。

 

「・・・」

 

 もう一冊、別の記録を手に取る。分厚い表紙に「大陸横断の真実」と銘打たれた本だ。著者スティール。発行年月はレースが終了した半年後だった。

 

 

 ページを乱暴にめくり、目次を飛ばして最初の章へ。そこには自身の思惑、スポンサー達の噂、参加選手の裏話が並ぶ。ジャイロの名もジョニィの名も出てくるが、遺体の「い」の字もない。代わりに、「北米の聖なる遺物が動いた」との怪しげな記述が一文だけ。ジャイロの指がその行をなぞる。まるで故意に隠されたように次の話題へ飛ぶ。

 

「無駄……だったか」

 

 呟きが埃っぽい空気に溶ける。ジャイロは本を閉じ、額に浮かんだ汗を拭う。図書館の窓から差し込む光が、棚の埃を金色に浮かび上がらせる。静寂が重い。 ジャイロの拳が棚を叩き、小さな埃が舞う。

 

 だが、肝心の遺体に関する記述はやはりどこにもなく、彼の執念を満たす手がかりは見つからない。

 

 記事にはその先が書かれていない。遺体の文字は見つからない。

 

「…………」

 

 ジャイロはページを握り潰しそうになる気持ちを抑える。指が震えるほど力を込め、息を吐く。ゲヘナに来たのは間違いじゃなかった。この世界のどこかに遺体がある。だが、記録がこんなにも曖昧。

 

 

 

「キレイサッパリ書いてねェな」

 

───静寂が軋む

 

 埃が舞う部屋の中で、ジャイロの影が大きく揺れる。遺体はここにある。必ず見つける。このゲヘナで、どこでだって。

 

 

 本を棚に叩きつけ、彼は拳を握る。瞳に決意が宿り、その視線が書棚を貫く。

 

 

 

「オレが探す」

 

 

───ジャイロの目が燃える

 

 

 埃っぽい部屋から出ようと木製の扉に手をかける。その指先に、執念の力が漲っていた。

 

 

 しかし、立ち止まる。

 

 

「遠回り……すべき・・・」

 

 

 

 

 

 

 180度身体の向きを変えて、再び書棚へと向かう。

 

 歴史書を手に取って、埃っぽい表紙を払う。一冊、また一冊と読み進めて知識を貪った。

 

(同じ世界の過去だ……どこかに遺体に繋がる何かがあるはずだぜ)

 

 歴史書の重さに腕が疲れ始めても、ページをめくる手を止めなかった。

 

 

 

 

(あらかた歴史は読めたが、マジに書いてねェな)

 

 次に医学書に手を伸ばし、分厚い本を開くと人体の図解や古い治療法が目に飛び込んでくる。

 医者だった自分にとって馴染み深い内容だが、この世界の異常さに目を奪われる。

 

「……」

 

 興味が湧き、別の医学書を手に取ると、奇病や遺伝子の変異についての論文に没頭した。

 

 

 

 疲れが体に溜まり始め、肩が重くなるが、彼の目は輝きを失わず本を手に取り続けている。

 歴史、医学、科学とジャンルを渡り歩き、時には文学や哲学の棚にまで足を伸ばしてみた。

 

「シェイクスピアもニーチェもなーんでも揃ってやがる……アリだな──ニョホホッ」

 

 詩の一節を呟き、哲学の問いを頭に浮かべつつ、遺体への執念が彼を突き動かし続ける。

 

 

 気がつけば窓の外で太陽が傾き始めていた。全身がボキボキと鳴るが、違和感が拭えず苛立ちが募ってくる。

 

(……これだけ読んでも、遺体の情報はナシ)

 

 八つ当たりのように本棚を無造作に殴る。埃の動きが活発になってしまった。

 

 首を回しながら本を棚に戻しつつ、次の一冊を手に取ろうかと一瞬迷い、

 

 

 結局諦めた。

 

 

(……クソッタレがよ)

 

 そのまま来た道順を戻り、ロビーまで降りてきた。不足感が拭えないまま細かい装飾の施された扉を押し開ける。

 外へ踏み出すと、久しぶりの新鮮な空気を堪能した。

 

 

 

「……どの分野でもアメリカを見かけるっつーことは、最後の最後はヤツの勝利か」

 

 肩を回し、疲れた体をほぐしながら舗装された通りに出る。すると背後で軽快な足音が近づいてきた。

 

 

「やっと出てきたじゃない! 帰っちゃったかと思ったわ!」

 

 さっきの少女だった。白い紙袋を引っ提げ、手を振って近づいてきた。

 

「これをね、あなたに渡せって言われたの」

 

 裏路地の前で、彼女は微笑みながら紙袋をジャイロに差し出す。奇妙に思いながら受け取ろうとした

 

 

 

 

 

───瞬間、掠る感覚

 

 

 気づくと、ガラの悪い少女たち。リーダー格が鋭く叫ぶ。

 

 

 

「それを渡しな!」

 

 

 

 遅れて響く銃声。

 

 

 

───刹那の混乱

 

 

「うおおおおおぉぉぉッ!何だこの騒ぎは!?」

 

 咄嗟に裏路地のゴミ箱の陰に身を隠す。

 

 銃弾がゴミ箱を抉り、金属の破片が飛び散る。鉄球を手に持つが、投げるべきか迷う。

 

(キツイぜ……蜂の巣は……)

 

 

「なに!?どうして!? ────と、とりあえずあなたは、そこに隠れててちょうだい!」

 

 声がした方に目をやると、少女も隣で身を隠しながら状況が掴めないようだった。

 

 彼女が応戦を始めた。

 

 途端に爆発音が響く。

 

 

 

 弾丸が雨のように横を降り注ぐ。

 

 

 ジャイロの耳元で金属が軋む音。

 

「結構……任せたぜ……」

 

 

 

(そーいや、あの袋どこやった?)

 

 少女から貰い損ねた紙袋を思い出し、ゴミ箱からそっと顔を覗かせる。

 

 自分たちが立っていた裏路地の入口に、それは落ちていた。

 

 

 

 

 

───遺体だ

 

 

 

 中から鈍い光を放つ、布に包まれた「遺体」が地面に放り出されていた。

 

(落ち着けェェ〜〜〜〜……そんな簡単に事は運ばねえ)

 

 

 

 おもわず飛び出そうになるが、自分の心臓を抑える。より一層、鼓動がうるさい。

 

「もうちょっとで仲間が来るわ! それまで耐えたら───!」

 

 

 

 

 

 爆発音が響いた。

 

 

「アルちゃーん!遅れたー!!結構ダイジョーブそうだね!」

 

 

 

 ジャイロはゴミ箱の影から頭をだす。裏路地の入口の下、人の山が出来ていた。

 

「……マジっすか」

 

 この惨状に空いた口が塞がらない。

 

 

 静寂が戻る。

 

 

 

 

 裏路地の埃がゆっくりと地面に落ち、銃煙の匂いが鼻を刺す。ジャイロはゴミ箱の陰から立ち上がり、鉄球をベルトに引っ掛ける。額に浮かんだ汗を袖で拭い、目の前で崩れたスケバンたちの山に目をやる。

 

 

「おまえらアル様によくもよくもよくも────」

 

「まま、待ちなさい、ハルカ! 撃つ必要ないわ! ちょっ、ハルカ? ハルカー!!」

 

 慌てた声が響く。ワインレッドのコートを翻し、アルがショットガンを握る少女の腕を掴む。彼女の目はまだ怒りの熱を帯びているが、アルの視線に気圧されたように銃口を下げる。

 

「……はい」

 

 ハルカが小さく頷き、ショットガンを肩に担ぐ。

 

 

 

 ジャイロは素早く裏路地の入口へ歩み寄る。破れた紙袋が転がり、中から鈍い光を放つ布に包まれた物が覗いている

 

───遺体だ。両足と両耳。レースの記憶が脳裏を焼き、鼓動が速くなる。本物だ。偽物なんかじゃあ断じてない。

 

(ニョホ……ついに見つけたぜ)

 

 周囲を素早く確認し、アルたちが仲間を制止する喧騒を背に、ジャイロは紙袋に手を伸ばす。布を剥ぐと、冷たい輝きを放つ遺体が現れる。

 

 両足は力強く、両耳は美しい曲線を描く。触れた瞬間、異様な熱が掌を貫く。躊躇なく遺体をそれぞれの部位に押し当てる。身体が震え、まるで血が逆流するような感覚が全身を駆け巡る。

 

 

(これだ……遺体の(パワー)だぜッ!)

 

 

 衝撃に息を整え、ジャイロは立ち上がる。鉄球を握る手に新たな力が漲る気がする。だが、まだ足りない。他の部位はどこだ? 遺体への執念がさらに燃え上がる。紙袋の残骸を蹴り飛ばし、アルたちの方へ振り返る。

 

「お嬢ちゃんたち、賑やかだな。それで、誰なんだお前達は?」

 

 ジャイロが声をかけると、アルが胸を張り、得意げにコートの裾を揺らす。

 

「よくぞ聞いてくれたわ!  便利屋68は聞いたことあるかしら?」

 

「無いな」

 

 即答にアルの肩が落ちる。彼女が唇を尖らせる横で、ツリ目の少女がそっと近づき、ジャイロをチラリと窺う。

 

「社長、この大人の人は?」

 

「依頼でね、この人をトリニティまで護衛しなきゃいけないのよ」

 

 アルが答えると、少女は「そっか」と頷き、銃のグリップを握り直す。ジャイロは眉を上げる。トリニティ。三位一体が意味合いのハズなのだが。

 

「トリニティ……おい、誰からの依頼なんだ?」

 

 ジャイロの声に、アルが一瞬目を泳がせる。彼女はコートのポケットに手を突っ込み、気を取り直すように髪をかき上げる。

 

「とりあえず、事務所に行かない?  そこで細かい話をしましょ!」

 

 

「失礼、何が起こったのか聞いてもいいかしら?」

 

 

 その時、紫と白の翼が空に映える。武装した少女が静かに路地に降り立つ。彼女の存在感に空気がピンと張り、アルが小さく息を呑む。少女の冷たい視線がジャイロたちを一瞥する。

 

「ゲッ、ヒ……ヒナ」

 

 アルが一歩下がり、声を絞り出す。彼女の銃が太陽に鈍く光る。ジャイロは鉄球を握り、彼女の動きを観察する。遺体の力が身体に宿った今、妙な鋭さでヒナの気配を感じる。

 

「陸八魔アル?  質問に答えてくれないかしら?」

 

「私達にも分からないわよ!  急に襲われたんですもの!」

 

 ヒナは目を細め、路地の惨状に視線を滑らせる。

 

「そう……心当たりは?」

 

「分からないわ……ありすぎて

 

 ヒナの翼が小さく揺れ、彼女はジャイロに視線を移す。

 

 

「そう……わかったわ。そこの外の人も、ケガをしないうちに帰った方が良いわよ」

 

 そう言ってヒナは踵を返し、町へと消えて行く。ジャイロは彼女の背中を見送り、鉄球をベルトに戻す。

 

「ふーっ……何もされなくて良かった……」

 

「誰なんだアイツは」

 

 アルに近づき耳打ちすると、肩をすくめて汗を拭う。

 

「風紀委員長よ。はっきり言ってめちゃくちゃ強いわ」

 

「あの小ささで風紀委員長か……末恐ろしいぜ」

 

 ジャイロの口元に笑みが浮かぶ。ゲヘナの混沌が面白い。アルがコートを翻し、仲間たちに声を掛ける。

 

「さっ!  事務所へ帰りましょ!」

 

 一行は路地を後にし、舗装された通りに出る。陽がゲヘナのビルを照らし、遠くで爆発音が響く。ジャイロは遺体の力を身体に感じながら、残りの部位を追う執念を胸に刻む。

 

 

───便利屋68の事務所。

 

 

 アルがドアを開け、弾んだ声で叫ぶ。

 

「ただいまー! ハードボイルドな仕事が始まったわよ!」

 

 事務所は雑多な空気に満ちている。ムツキは床に寝転がり、爆弾を無造作に弄る。カヨコはソファの隅でヘッドホンを耳に押し当てる。ハルカは壁際でショットガンを磨き、時折アルをチラリと見る。

 

 

 ジャイロは壁に寄りかかり、腕を組む。スケバン戦の騒ぎが頭に残るが、両足と両耳の遺体が身体に宿った感覚がまだ熱い。

 

 ムツキが寝そべったまま、爆弾を指でくるりと回す。

 

「ねえ、外の人さん。アルちゃんとドンパチやってたんだって〜?  どうして〜?」

 

 

 ジャイロは壁にもたれたまま、視線をアルに移す。彼女があの袋を渡した理由が気になる。

 

「さあな、オレが知りてーぜ。おいアル、あの袋、誰から貰った?」

 

 アルはデスクに腰掛け、コートの裾を揺らす。

 

「私は、ただ渡すように頼まれただけよ。依頼主はトリニティの誰かだってメールで来たけど、顔も名前も知らないわ」

 

 カヨコがヘッドホンを片耳ずらし、眉をひそめる。

 

「社長……どうしてそんな怪しい依頼引き受けちゃったの……」

 

「し、指定された物を誰かに渡すのって……アウトローでしょう?それに依頼料も……結構あったし……

 

 最後の方は聞き取れないほど小さい声で喋っていた彼女は、話題を逸らすようにジャイロを見て、先程の出来事を思い出す。

 

「と……ところで、あの中身ってなんだったのかしら?」

 

「嬢ちゃん達には関係ねーモンだ。気にすんな。ところで、トリニティってのは?  学校か?」

 

 ジャイロの問いに、アルが答えようとした瞬間、デスクの受話器がけたたましく鳴る。

 

 ムツキが爆弾を弄る手を止め、カヨコがヘッドホンを外す。ハルカだけが無言で武器を磨き続ける。

 

「はい、こちら便利屋68。どんな依頼かしら?」

 

 

 

 話を聞いていたアルは、

 

 

 

「なななな、な、何ですってーーーーー!!!??」

 

 

 

 次第に目を見開いていき、

 

 

 

「パ、パ……万魔殿(パンデモニウム・ソサエティ)!?」

 

 

 

 驚声が部屋に響く。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。