友情努力勝利鬼人正邪   作:MC下剋上

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プロローグ「エピローグ」
異変のはじまり


「正邪〜おきてよ〜」

 

 そんな声が隣から聞こえてくる。正直言って私はまだ寝ていたかったけど、起きないと私の体に乗っている奴がうるさいので意識を覚醒させる。

 

「やっと起きた……」

 

 目の前にあるのは少女の顔、私の胸に乗っかって顔を近づけている。

 私は今すぐにでも罵詈雑言を吐き散らしながらこの生意気な奴に、二度と乗るなと言ってやりたいが、そんなことをすれば計画が台無しになってしまうのでやめておいた。

 

「姫、重いので降りてくれませんか?」

「あ、ごめん」

 

 実際はそこまで重くはないが、真に受けていそいそと動くのは滑稽だ。

 私の胸から降りたのは少名針妙丸(すくなしんみょうまる)という少女。私が従っている相手でもある。

 

 肩まで届きそうな麻色の髪に、頭に乗せているのはお椀。特筆すべきはその身長、一寸とまではいかないがおよそ十寸ほどしかない。

 少名針妙丸は小人族の末裔だった。それも結構高い地位の。

 結構前まで、鬼の世界という場所に閉じ込められていたらしく、少し心配になるほどの世間知らずでお人好しだった。

 

「起きたなら朝ごはん作ってよ〜お腹ぺこぺこだよ〜」

 

 自分で作ってくれよ。

 

「はい、任せてくださいよ」

 

 まあこいつは料理がド下手なので私が作るけど。

 

 料理を作りながら今の状況を整理する。

 私は鬼人正邪(きじんせいじゃ)、生まれ持っての天邪鬼で今は針妙丸に従っている。

 人の嫌がることが大好きな私が針妙丸に従っているのは、彼女が持つ小人族の秘宝『打(う)ち出(で)の小槌(こづち)』にあった。

 打ち出の小槌は持ち主の願いを叶えることができる。(ただし小人と鬼に限る)

 

 私たちが今いる場所は『幻想郷(げんそうきょう)』という場所である。

 この幻想郷は、現代で存在を否定された妖怪とか神とかそんな存在がすごす場所だ。

 ただ、そういう神とか妖怪とかがいるせいでパワーバランスは激しいもので、私はそのパワーバランスをひっくり返すために、少名針妙丸を、彼女の持っている打ち出の小槌を利用してやろうと思っているのだ。

 

「はい、できましたよ」

「わーい! 私正邪の作るお味噌汁大好き!」

 

 私達は早速朝食を食べ始める。

 私自身は、私の作った料理で喜ぶ小人という吐き気を催す邪悪に必死に耐えながら。

 だがそれも明日までだ。

 

「それでさ、正邪。明日が……その日なんだよね」

「ええ、そうですよ、我々が幻想郷に刃向かい、弱者を救済し、小人族の復讐を遂げる日です」

 

 別に救済をする気も、小人族の復讐を遂げる気もない、つーか幻想郷はどっちかっていうと弱者には優しい。

 私はただひっくり返って混沌に陥った幻想郷を見てゲラゲラ笑いたいだけだ。

 

「打ち出の小槌には、我々の願いを叶えるために十分な魔力が溜まっています」

「そっか、でも緊張してきたな……本当に大丈夫かな」

「大丈夫ですよ、姫なら絶対に上手くできますよ」

 

 これは本当。小人族が表舞台から消えて、そして幻想郷に針妙丸がやってくるまでの数百年で、ありえないぐらい魔力が溜まっていた。

 こんなに貯めても強い奴には敵わない。しかしこの幻想郷のルール、妖怪は人里の人間を襲ってはいけないというルールを壊す事はできるだろう。

 ルールが壊れてしまえば後は流れる川のように緩やかに、幻想郷は終わる。

 

「ああ……楽しみだ……」

「そう? 私は怖いけどな……」

 

 おっと、口に出てたか。まあもう引く事はできない。

 その顔が絶望に染まるのが楽しみだ。

 

「なんか正邪の顔気持ち悪いくらい笑顔だね」

「放っておいてくださいよ」

「そう? まあいいや、外で遊んでくる」

 

 そう言って針妙丸は、既に色々外に行くための用意を済ませていた。

 外出している間小槌が誰にも取られないよう隠し(バレバレだが)、針を背中に背負い(針妙丸曰くご先祖様が鬼退治に使ったものらしい)、準備万端といった様子だった。

 

 針妙丸は外に向かって歩きだす。一歩一歩確実に。

 私達は家を持っていないので、寝床としてる洞穴の外へ歩くだけだが。

 数歩歩いたくらいで針妙丸は

 

「正邪〜おんぶして〜」

「はいはい」

 

 小人だから、歩幅が小さい。ありえないぐらい小さい。

 私にとって数歩でも針妙丸は数十歩かかる。

 というわけで私は針妙丸を背負って、全力で走った。

 

「もうちょっとゆっくり走ってよ!」

 

 小人が抗議してくる。まあ図体が違うから感覚も違うもので、針妙丸からすれば、非常に高い場所で超高速で動かされるものだ。

 ざまあみろ。

 

「すみません、姫……」

「まあいいけどさあ……それよりも今日はとってもいい天気だね!」

 

 そういって針妙丸は空を見上げた。

 うるさいな、あと少しで私が報われるっていうのに。そんなことを考えながら私は針妙丸を寒い目で見ていた。

 

「なに……あの……でかい鳥」

 

 どうでもいいよ鳥なんて。

 

「ねえ正邪、見てよあの鳥。すごく大きいよ!」

 

 針妙丸がうるさいので仕方なく私は空を見上げた。

 確かにそこには真っ黒なカラスがいた。よく見かける普通の大きさの。

 

「……普通の鳥じゃないですか」

「いやいやいや、あんなにでかい鳥見たことなくない!?」

 

 そういえばこいつは小人だった。

 

「あらあらまあまあ、とても大きな鳥ですわね」

「うええ、気持ち悪いほど似合ってないね」

「知ってる」

 

 針妙丸は私の背中から降りる。

 重荷から解放されて、私はゆっくりと腕を回す。

 針妙丸はお構いなしに走り出そうとしたので声をかける。

 

「外で体を動かすんなら、準備運動ぐらいはしたほうがいいですよ」

 

 これは別に善意でも、お節介でもない。針妙丸がどこかを攣ってしまったら煩いし、明日に備えて怪我とかをしないでほしいだけだ。

 

「わかった!」

 

 愚直に私のいうことを聞いて、準備運動をし始める針妙丸。

 全くどっちが主人かわからないな。

 そんなことを考えていた時犬の遠吠えが聞こえた。

 それくらいだったらよくある、しかしその遠吠えはおかしかった。具体的には音が重なっていた。

 三体くらいの犬の遠吠えが重なるような。

 

 音がした方に目を向けると、一匹の妖怪狼がいた。

 

(他の狼は別の場所なのか?)

 

 そんな風に考えていると、ジリジリと狼はこちら側に来る。

 腹を空かせているのだろう。

 妖怪はいろいろな性質を持っているが、こういった動物が変異した妖怪は、血肉を取り込まないと生きていけないものが多い。

 

「相手が悪かったな、おまえ如きにくれてやるものはない」

「頑張れー正邪」

 

 私の背後で針妙丸が応援している。できれば逃げててほしいが、他の狼がどこにいるかわからないし、一旦そばにいてもらうか。

 とにかく、目の前の犬っころをどうにかしないといけない。

 まあ、相手はただの犬畜生だ適当にあしらってしまえば……!?

 

 予想よりも速いスピードで狼はこちらに突進してきた。

 私は咄嗟に右方向に自分の体を転がし、回避した。舐めるなよ畜生如きが……

 私はすぐに起きあがろうとするが、狼は既に体勢を立て直し、また突進しようとしていた。

 

 動きが単調すぎる、わかりやすすぎるぞ。

 もう一度私に向かって狼が突進してくる、今度は私は、右側とは真逆の方向、つまり左側に飛んだ。

 そしてこちらに飛んでくる狼の顔面に一発蹴りを入れてやった。

 

 それが間違いであった。

 

「硬ッ!?」

 

 まるで岩を蹴ったようだった。そして狼は全く堪えた様子がない。

 悲しいことに、私は自分よりも程度の低い畜生に勝てないと悟ってしまった。

 くそ、惨めだ。

 

「針妙丸! 逃げるぞ!」

「え!? わ、わかった」

 

 私はすぐに針妙丸の元へ向かい、針妙丸を抱いて逃げようと思った。

 が、その前に狼が突進を仕掛けてくる。それも、針妙丸の方に。

 針妙丸は突然飛びかかってきた狼に動揺して動けないでいた。

 あーあ、ありゃあだめだ間に合わない。少なくとも私の足では。なので

 

「リバース!」

 

 私の能力。『なんでもひっくり返す程度の能力』だ。

 文字通りなんでもひっくり返すことができる。ただしひっくり返すもの、場所、強さによって妖力の消費量が変わる。

 妖力は万能な体力みたいなもんだ。

 

 そして今私がひっくり返したものは、針妙丸と狼の場所。

 場所だけをひっくり返したので、針妙丸は驚いた姿勢で空中に、狼は飛びかかる姿勢で地面に突っ込んだ。ざまあみろ。

 が、これで終わりとは思えない。

 私はすぐに針妙丸を抱き抱えて空を飛ぶ。妖力を使って飛んでいる。あまりスピードは出せないが、空も飛べない雑魚妖怪を撒くのにはうってつけだ。

 

「はあー怖かったよー……」

 

 安心したのか、針妙丸が声をかけてくる。

 

「……漏らしました?」

「お漏らしなんてしてないよ!!」

 

 本当かな、後で確認してやろ。今はだめだ。非常にまずい。

 針妙丸は気づいていないが、さっきのやつがまだ私達をつけている。

 飛べないので地面を蹴りながら。私たちの真下で待機し続けている。

 

 まいったな、あいつずっとそうしているつもりか? 非常に面倒だ。

 ただ空を飛び続けていれば、あいつがこちらに手を出してくることもない、このままやつが諦めるまでずっとこうしていよう。

 そう考えた矢先のことだった。

 

「あ、でかい鳥だ」

「また鳥ですか……え?」

 

 針妙丸が見つけた鳥。真っ黒いカラスだと思っていた。普通の大きさの。

 実際にそこにいたのは、雲と重なるほど高い場所にいても大きさが普通の鳥と同じに見える怪鳥だった。

 幻想郷だからあんな奴がいても不思議ではないか……?

 いや、今はそんな事を考えている場合ではない。

 

 下の奴をどうにかしないと……いない。

 他の獲物を探しにでも行ったのだろうか。それならそれでいい。

 そのまま空中に待機して辺りを探っていると、ドッという大きな音がして、狼が突然目の前に現れた。

 

「うわッ!?」

 

 どうやってここに、どうしてこんな高く!? いや、さっきの音はこいつが地面を蹴った音か。

 死が迫っているからか、私は呑気にそんな事を考えていた。

 突然飛びかかってきた狼に対処できるはずもなく、私は足を噛み付かれた。

 

「ぐああああ!!」

「正邪!!」

 

 クソ痛いけど、耐えられる。私は未だに足に噛みついてるこいつに向かって、私の能力を発動する。

 対象はこいつの体だ。簡単に言えば皮膚が、内臓が、外側に出てくる。生き物は大体死ぬ。

 燃費が悪いが密着している今ならいける。

 

 私が能力を発動していると、狼は異変に気付いたのか、噛みついた私の口を離し、私の足は解放された。

 

「はあ……はあ……クソが……」

「正邪大丈夫!?」

「大丈夫だ……」

 

 嘘だよ、大丈夫じゃないよ。現に私はどんどん下に落ちている。

 ゆっくりと死に近づいていっている。

 

「小槌があれば、正邪を癒してあげられるのに……」

 

 小槌……そうだ小槌さえあればあいつを対処する事ができる!

 

「私たちの拠点に戻るぞ、戻ったらあいつをどうにかするよう願ってくれ」

「わ、わかった」

 

 私は急いで来た道を戻る。

 幸いな事にあまり拠点からは離れていない。問題点は、あの犬っころが未だに私を追いかけ回している事だろう。

 空を飛んでいる間は、さっきみたいに不意を突かれなければ、簡単に回避する事ができる。そして洞穴が見えてきた。この日だけは扉がない事に感謝したかった。

 

 だが拠点を目の前にして、私はついに地に足をつけてしまう。

 今までは空を飛んでいたので、足の感覚を無視して進む事ができた。

 けれど足をつけた瞬間、私は意識してしまった。足がない事を。

 

「クソッ」

「正邪!!」

 

 グルルル……そんな音が背後から聞こえてくる。

 

「早く行け!!」

「あ……わかった……」

 

 針妙丸は急いで小槌の元へ向かう。

 私は後ろにいる畜生の対処をする。

 

「かかってこいよ……クソ犬が……」

 

 私は啖呵を切る。いや、非常に弱々しい声だったが。狼はこっちを舐めているのか、警戒しているのか、じわじわとゆっくり近づいている。

 本来なら恐ろしいが、今はありがたかった。とにかく諦めてはいけない。針妙丸が小槌を持ってくるまでの辛抱だ。

 

 そして狼が飛び掛かってくる、私はそれに合わせて場所を入れ替える。狼と。

 こいつが間抜けならばずっとこれを繰り返してしまえばいいだろう。

 だがそう上手くはいかない。最も私はこれしかする脳がないので続けなければいけないが。

 

「ッ!?」

 

 三度目の反転、私は自分の体が切り離された感覚を得た。胴体が泣き別れになるというのはこういうことかと、1人納得してしまう。

 狼は理解していたのか、反転された直後、私の腹を、背中から爪で切り裂いたのだった。どんだけ鋭い爪なんだ。

 

 幸か不幸か、私は時間を十分稼いでいたようで、針妙丸が小槌を持ちながらこちらに向かってきていた。

 来るな。という気持ちと、さっさと来い。という気持ちが混ざっている。

 

「正邪ッ!!」

 

 馬鹿野郎声を出すな、出すなら願いをかなえろ。狼がそっちに行ったぞ。

 針妙丸に、狼の牙が迫る。

 瞬間顔が苦痛に染まる。もちろん針妙丸の。

 

 小さい体に、牙が一本刺さる。針妙丸の体と同じか、それより少しだけ小さい物が。

 それでも針妙丸は諦めなかったようで。

 

「ッ!! お前なんて、どっか行っちゃえ!!」

 

 小槌を振りかぶり、狼に当てる。

 小槌は願いを叶え、狼は文字通りどっか行ってしまった。

 あんなに苦労した獣が一声で終わるなんて笑ってしまいそうだ。

 

「正邪……ひどい怪我……今治すから……」

「先に自分のことを治せよ」

 

 針妙丸が怪我した体をゆっくり動かしながら近づいてくる。血反吐を吐きながら。

 ダメだ、意識が朦朧としてきた。自分が何を言ってるのかもわからない。

 

「いやだよ……正邪……死なないでよ」

「私は、死なない。お前と違って頑丈だからな。大体お前が死んだら誰が私たちの目的を叶えてくれるんだ」

 

 それでも針妙丸は歩みを止めない。

 打ち出の小槌は願いを叶えたい相手や物に、振りかぶってあてないといけなかった。

 

「嘘ばっかり!! 本当は今にも死んじゃいそうなのに!!」

 

 どこからそんな元気が出てくるのか、針妙丸は私に向かってそう喚いた。

 なんだよ、私よりも私を知った気になりやがって、私は大丈夫なのに。

 いや、だめか。

 

「よく聞けよ姫、いや針妙丸」

「いやだ聞かない」

「最期になりそうだからよーく聞いとけよ」

「聞こえない」

「実際に私はもう何も聞こえない」

「もう何も喋らないでよ……」

「こんなふうに終わってしまうのは残念だが……私は」

 

 そう言って私は口を閉じる。今、私は何を言おうとしていたのだろうか。

 最期だからか、私の今までの態度をひっくり返したくなったのかもしれない。よしそういう事にしておこう。

 

「私は、お前のことを騙そうとしてたんだ」

「そんなの最初から気づいてたよ」

 

 もう針妙丸のことも見えない。ただ自分がしっかりと言葉にしていることを信じて。

 

「無知でお人好しすぎるお前を騙して、この幻想郷を滅茶苦茶にしてやりたかった。打ち出の小槌を使えば、できると思ったからな」

「何も知らない私に色んなことを教えてくれた。

 正邪が一緒にいたから楽しかった、正邪のためならなんでもしてあげたかった」

 

 一息つく。

 

「私が、優しい妖怪さんに思えたか? それとも忠実な下僕とかな。まあ全部騙されていたわけだが」

「正邪は良くも悪くも天邪鬼だって、思ったよ」

 

 そろそろ、終わりか。

 

「……こんな最低な天邪鬼なんて見捨てて生きろ!! お前は、自由に生きろ!!」

「私のことなんて気にしないで、正邪が生きろ」

 

 私の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 光が眩しくて、私は目を開ける。

 なんとなくだけど、ここが死後の世界ではないとわかった。わかってしまった。

 針妙丸がさっきまでいた方向には針と小槌が残ってた。

 そこに針妙丸の体はなかった。

 

「どこまでも馬鹿な奴だ」

 

 そう吐き捨てたかったけど、口は動かなかった。

 よくわからないけど、無性に吐き散らしたくなった。

 あとは憤りを感じた。

 

 私の目の前には狼がいた。どこかへ行った奴がきっと戻ってきたのだろう。

 

「そんなに腹がへってんのかよ」

 

 こんなやつのせいで、何もかも台無しにされたかって思ったら。

 冷静だった頭が熱くなってくる。

 別に、針妙丸が殺されたから……いや、針妙丸の分も。怒ってる。

 

 さっきまで手も足も出せなかった相手に、もう一度立ち向かうなんて愚の極みだろう。だけどもうどうでもよかった。

 私の命を犠牲にしてお前を殺してやる。

 私は針妙丸の針と小槌を手に取った。

 

 今度は私から、狼に向かって突っ込む。狼は私の事を避けようとした。

 だが遅い。私は針で狼の目を突き刺した。狼は痛みに堪えてその場でもがいている。

 そこに向かって思いっきり小槌を振り下ろした。

 

 柔らかかった。

 狼は死にはしなかったが。意識を失ったようだ。

 

 この時点で、私は自分の体の異変に気付いた。明らかに強くなっている。理由はわからないが。

 どうして今更。そう思ったところで、狼の体にも異変が起こった。

 

 気絶していた狼の体が三つになったのだ。

 それぞれは狼の妖怪だった。だが同一の存在とは思えなかった。

 

「なんなんだよまじで……」

 

 とりあえずこいつら全員殺しておけばいいか? そう考えたところで、背後から声がした。

 

「お見事、お見事、よくもまあそんな簡単に鎮圧したものだな」

 

 後ろに振り返ったが誰も居なかった。だが背中には気配を感じる。

 

「誰だよお前は」

「私の名前は摩多羅隠岐奈(またらおきな)」

「そうか、お前がこの犬を寄越したわけか?」

「もしそうだと言ったら」

 

 私は自分の背後に向かって思いっきり妖力で作った球を叩きつけた。

 

「まあ、残念ながらこの私はそこの狼とは関係ないが」

「死んでくれ」

「それはできない」

 

 どうして一人にしてくれないんだ。

 

「まあ、少し話をしようじゃないか」

「黙れ」

「実は今、幻想郷で大きな異変が起こっていてな」

「黙れ」

「異変解決のための人手がなくてね、妖怪の手も借りたいんだ」

「黙れよ」

 

 背後にいる奴がどんな奴かは知らない。けれどもそいつがこの幻想郷で上の立場にいることは、言ってる事と話ぶりでわかる。

 だから私は上の奴らが嫌いなんだ。自分たちの言ってることは通じると過信し、相手に有無を言わせない。

 

「まあまあ、お前にとっても悪い話ではないぞ? そこにいる犬も今回の異変によって作られたような物だからな」

「どういうことだよ」

「今回の異変は……言うなれば『融合異変』。端的に言えば体と体が混ざり合う異変だ」

 

 じゃあなんだよ、私達は誰かの異変に巻き込まれたやつにさらに巻き込まれたってことか。ふざけんなよ。

 

「お前の中にも一人混ざってるみたいだが……気付かなかったのか?」

「は」

「寝てる間に混ざったのかね」

「ちょっと待てちょっと待て……その、混ざってる奴がどんな感じのやつかわかったりするか?」

「なんだ急に……まあ、気質で言えばこれは……小人か? また珍しい種族だな」

「!! なあ、混ざり合ったやつは無事に元に戻ることができるのか!?」

「さあな、元に戻る方法は今のところ確立できていない。まあ異変を引き起こしたやつなら戻せるとは思うがね」

 

 声はあっけらかんと答える。だが、そんなことはどうでもよかった。

 私はてっきり、針妙丸は食い殺されたと考えていた。

 だが、なんの偶然か、異変のせいで追い詰められた私達は、異変のおかけで助かったらしい。

 

「誰なんだよ」

「ん?」

「誰なんだよこのふざけた異変を起こしたやつは」

 

 声は答えなかった。

 

「さっさと答えろよ、それとも誰か見当もつかないのか?」

「誰が引き起こしたかは見当がついている」

「じゃあ早く教えろよ」

「八雲紫だ」

 

 八雲紫。その存在は弱小妖怪である私でも知っていた。

 妖怪の賢者にして、この幻想郷の管理者、スキマ妖怪で空間を操るらしい。らしいというのは新聞でしか知らないからだ。

 だがそんな存在がどうして? いや、どうでもいいな。

 

「じゃ、八雲紫をぶち殺せばいいわけだな」

「待て待て、お前に殺せるわけがないし、仮に殺せるとしても殺されるのは困る」

「私はその八雲紫ってやつに殺されかけたんだぞ!」

「じゃあお前も殺しかければいい」

「いやだね」

 

 私は天邪鬼だ、ルールなんてものはクソ喰らえだ。

 

「まあいいや、とにかく手を貸してもらえるかな?」

「ああいいぞ、お前に従うのは本当に癪だが」

 

 そう答えると、目の前に扉が現れた。

 

「その扉に入って、早速作戦会議と、仲間に会ってもらう」

 

 私がこれからすべきことは。八雲紫を半殺しにして。針妙丸を治してもらって。元に戻してもらって。そして今度こそ打ち出の小槌を使って幻想郷をひっくり返す。

 私の方針は決まった。

 

 私は扉に足を踏み入れた。

 

 

 これは私の最初で最後の。最低最悪の異変解決だ。

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