友情努力勝利鬼人正邪 作:MC下剋上
妖怪の山
扉の先には、妖怪と妖精が一匹ずついた。
それぞれの格好は、妖怪が茶髪のツインテールに黒い翼を生やした、おそらく天狗の少女だった。紫色が目立つ。
妖精の方は、青い髪に氷の羽のようなものが生えた。無邪気そうなガキ……どっかで見たような。だが、それ以前に気になることがある。
「……なんか多くね?」
妖精は一匹しかいないというのに、気配がまるで何百、何千にも感じとれた。
声に出ていたのか、どちらともこっちに振り向いてきた。
「また新しい奴が来たわね」
そう喋るのは天狗の方。
「なんだ? お前……あー!」
いきなり叫んだのは青い妖精。まるで旧友に出会った時みたいにこちらに指を刺してきた。
「お前はひっくり返す奴!」
「誰だよ」
柄にもなくそう突っ込んでしまったが、私は悪くない。
「なに、あなたたち知り合いなの?」
「いや、全然?」「あたいは知ってるぞ!」
何をふざけた事を。私の記憶の中では、こんな奴と会ったことはないし、そもそも妖精に知り合いがいるほど仲がいいわけでもなかった。
知ってるぞ! と言った本精は、頭を抱えて、うーんうーんと必死に記憶を引っ張り出しているようだった。やっぱ知らねえだろ。
「ふーん、まあいいわ。ここに来たってことはアンタもアイツに協力するわけ?」
「仕方なくな、アイツが泣き喚きながら、靴を舐めながら頼んだから仕方なくな」
「えーまじ?」
「そんなわけないだろ」
どこからか、声が聞こえてきた。
「さっき目をつけたばかりというのに、なんとなくお前がどんなやつか掴めてきたぞ」
「私も、お前が姿を現したくない陰険な奴だって分かったよ」
「あーお前! 針妙丸と一緒に暮らしてる鬼人正邪って奴だろ!」
妖精が声を上げる。
「は? なんで知ってんだよ」
「あたいの友達……の友達の友達がそう言ってる!」
「はあ?」
気でも狂ってしまったのかと思ったが、なぜ私の名前を知っているのかに説明がつかない。
「それぞれ紹介は済ませたか? 一応これから一緒に闘う仲間となるのだぞ」
摩多羅がそういう。妖精が仲間って正気かよ。相手は八雲紫だぞ。そんなふうに考えていると、鳥妖怪が声を上げる。
「まだだから私からね、私は
「新聞は読んだことないが、つまらないんだろうな」
「表でなよ白赤黒」
「ここは後戸の国だから喧嘩はよそでやってくれ」
姫海棠が殴りかかって来た。私は殴られた。そんな私たちをよそに、妖精が今度は名乗り出した。
「次はあたい達だ! あたいはチルノ! サイキョーだ! 他の奴らは友達! 以上!」
「可哀想な奴」
「黙っていられないの?」
天邪鬼の私が黙ったら死んでしまうからしょうがない。
「私は、……鬼人正邪。生まれもっての天邪鬼だ」
「あー納得したわー」
「あまのじゃくってなんだ?」
「そうねー鬼もどきって感じかしらねー妖精よりも弱い」
「なんだと「はいはい。そこまでだ」
言い返そうとしたが、その前に摩多羅が手を叩いた。妙な威圧感が発せられ、私達は黙る他なかった。
「私達はこの面子で異変を解決することになる」
「……まあいいか、どうせスペルカードルールでやるんだから、人数とかはあんま関係ないだろ」
私はこんな奴らと手を組むのかと、嫌悪感を顕にしていたが。すぐ終わると考え、そう発言した。
この時までは、私は今回の異変が今までと同じものであると楽観視していた。
「残念ながら、スペルカードルールは今回の異変では適用されない」
「え?」
「残念ながら、スペルカードルールは今回の異変では適用されない」
「聞こえてたから、いや待て、どうしてスペルカードルールが適用されないんだ」
「八雲紫は、必要ないと考えたらしい」
意味が、分からなかった。スペルカードルールは、妖怪と人間の力関係を保つために制定されたはずだ。だから私はそれをひっくり返そうと。
「スペルカードルールが必要ないって……そんないきなり」
「あれって最近制定されたじゃん、ちょっと昔に戻るだけよ」
「お前……お前らは動揺してないんだな」
スペルカードルールが適用されないと聞いても、姫海棠とチルノは動揺した素振りを見せなかった。(チルノは妖精だから理解していないだけかもしれないが)
「スペルカードルールが無くてもあたいはサイキョーだからな!」
「私はなんとなく現状を理解しているだけ」
「私は何も説明されてないんだけど」
「ああ、正邪には何も説明していないな」
「ただの異変じゃないっていうのは……なんとなく分かったが、ここにいる奴らで異変解決できんのか」
状況が全く分からない。ただ首謀者をボコして終わりではないのか。
摩多羅が姿は見えないが語り始めた。
「そうだな、まずこれは昨日のことだが。八雲紫が賢者が集まる会議にて、突然ルールの廃止と異変を起こす宣言をしてきたんだ」
「周りは止めなかったのか?」
「もちろん止めた。私は止めなかったけど」
「おい」
「八雲紫は姿を眩まし……幻想郷の各地で様々な妖怪が融合、合体、とにかく混ざり合う異変が発生して今に至る」
「じゃ、今は八雲がどこにいるのか分からないってことか」
摩多羅は何も答えなかった。多分肯定したのだろう。
「で、これから八雲を探しにいくのか」
「いや、これから行うのは妖怪の山で妖怪退治だ」
「なんでだよ」
「異変の影響でな、幻想郷各地で混乱が広がっている。それを正さぬ以上我々は八雲を探し出すこともできないだろう」
「回りくどいな」
「ルールがない以上、戦力も必要だ。ここにいるものだけでは土俵に立てすらしない」
「あたいなら勝てるぞ」
なるほど、八雲は確か大妖怪で、今ここにいるのはただの妖怪二匹に妖精。胡散臭い奴が一つ。考えるまでも無く勝ち目はないだろう。
「……もっと手を貸してくれる妖怪は居ないのか」
「野良妖怪は弱い奴ばかりだからね。組織に属している奴は各地で異変の対処をしてるし」
「……で、妖怪の山で妖怪退治って何をすればいいんだ」
「それは、はたてから説明してもらおう」
摩多羅はなぜか姫海棠に話を振った。振られた方はとても真剣な顔をしていた。
「……まず妖怪の山でというより、天狗の里で妖怪退治って感じかしら」
「へー」
「私達天狗を纏める、天魔様がね、八雲紫の味方になるって宣言しちゃって、天魔様の考えを変えることができたら……少なくとも天狗の里の協力を得られると思う」
「お前は従わなかったのか、いい性根してるな!」
この場にいるということは姫海棠は天魔に逆らったということか。そう考えると急に好感が持ててきた。
「違うわ、私は最初は天魔様に従ってた。けど天魔様はどんどん……冷酷というか、非道になっていって……」
「それで、歯向かうことにしたのか。よし! 頑張って反逆しような!」
「ねえ急になんなの? キモいんだけど?」
「正邪の言うとおりだ! 一緒に頑張っててんまってやつをぶっ飛ばそう! あたい一人でも充分だけどな!」
「あのね、言っておくけど天魔様が逆立ちしてても私達に勝ち目ないから」
「じゃ、どうやってそいつをどうにかするんだ」
「数の暴力よ」
姫海棠はキッパリとそう言った、さっき摩多羅が協力は得られないって言ったのに何言ってんだ。私は続きを促した。
「天魔様が八雲紫の下についてからね、山全体に宣戦布告したの。天狗に従えーって」
「要点だけ言えよ」
「……今、天狗の里には逆らって捕まった山の妖怪が沢山いる。そいつらを解放すれば、勝ち目は出てくるはず」
「今もまだ捕えられたままなのか? 殺されてる可能性もあるんじゃないか」
「それは私の能力、『念写をする程度の能力』で念写して、確認するし、多分殺すことはしないと思う……多分」
「多分って2回言ったぞこいつ」
「しょうがないじゃない! 今までの天魔様は温厚だったのに、最近はおっかないんだもん!」
姫海棠がギャーギャー喚く、なんだか、針妙丸を思い出して少し複雑になった。
「と、いうわけで。私達は山の妖怪を味方につけて、天魔をボコボコにすればいい」
摩多羅がそう言った。簡単そうに言ってくれるが、まだまだ不安要素が沢山あるだろう。
「理解したが、そう簡単に解放できんのか? 監視とかいるだろうに」
「はいはい! あたいが全部凍らせる!」
「なんとなく分かってたけどお前は氷を使えて、馬鹿なんだな」
「バカって言うな!」
「そうよ、チルノはあんたより頭がいいわ」
「はあ〜?」
姫海棠に持っていた好感が今ので地の底に落ちてしまった。まさかそこまでイカれていたとは。
「ふふん当たり前だ。はたてはよく分かっているな!」
「でしょー? それでね、頭の良いチルノには囮をしてもらいたいんだけど、良いかな〜?」
「まかせろ! ……囮?」
なるほど、姫海棠はチルノに囮になってもらいたいんだな。見直したぜ。
妖精はほぼ不死身だから命の心配はいらないが、時間を稼ぐことができるのかが不安だな。
「正邪にも囮になってもらいたいんだけど」
「断る」
「……あのね、真剣に考えて。あなたは天狗の里の事何も知らないでしょう?」
「知らないな、知る気もないけど」
「あなた達が、里の天狗を引きつけている間に、私が片っ端から妖怪達を解放する。里の内部に詳しい私がね。能力も使えるし、合理的でしょ?」
「それで、私たちに厄介な奴らを押し付けるって? そういうのはもっと長い付き合いのお仲間にやってもらうものだ。さっき知り合ったばかりの私に頼むのかよ」
「あたいは別に良いぞ!」
「お前は死なないから良いんだろうけど、私は弱いから死ぬかもしれないから嫌なんだ。背負ってるものも違う。大体、お前は本当に味方なのか? お前は天狗を裏切って「黙って」……」
姫海棠が私を睨みつけてくる。私も睨み返してやった。私達は何も言わなかったが。数秒経ってから。姫海棠が口を開いた。
「私は……囮になれって言ったのは悪かったわ。でも、私は天狗を、みんなを裏切ってない」
「……天魔の方針に従ってないのにか」
「天魔様は従わない妖怪を捕らえたって言ったよね。あれは天狗も含まれてるのよ」
「へえ? それで」
「今の天魔様は……天魔は、おかしくなったのよ! 天狗以外どうでもいいと言わんばかりに、山の妖怪をみんな従えさせようとするし! 天魔に意見をした天狗はみんな罰を受けた! 今従ってるのは、みんな怖いから従ってるのよ!」
「なるほど」
「私の能力を使って最大限サポートするから、だから、お願「やるよ」……え」
よくわからないけど、姫海棠が必死になって私に頼む姿は、何かに重なって見えた。それが、どうしようもなくみにくくて、だから、私は。
とにかく、私は囮になることにした。
「まあ、裏切り者みたいに言ったのは、悪かった。やるよ、囮ってのも大事な仕事だからな」
「ほ、本当にいいの?」
「別に、私は私自身が八雲紫に反逆するためにお前を利用するだけだ」
「そうだ! あたい達は仲間なんだから。一心同体だ!」
「……ありがと」
「やばい、急に吐き気と頭痛、それから腹痛が……」
「大丈夫か! 正邪!」
「あんたも面倒くさい妖怪なのね」
「お前達、話は纏まったか?」
摩多羅が声をかけてきた。今まで一体どこにいたんだ。
「ええ、一応纏まったわ」
「ちょっと待った、囮を引き受けたけど、本当に私でいいのかよ」
「なにが?」
「自分で言うのもなんだが、私は弱い妖怪だぞ」
「はあ? あんたが弱かったら里の天狗の大半が雑魚じゃない」
「ええ?」
「はいはい、とにかくこの場にいるものはある程度の実力は保証されているから、お前は気にするな」
「なんか納得いかねー」
「それで? どういう手筈になった?」
「まず隠岐奈、あんたの能力で、天狗の里の目立つところに正邪とチルノを。出来るだけ目立たない場所に私を送って。明確な場所は私が指示する」
はたての作戦に全員が耳を傾ける。驚いたことにチルノも静かに聴いていた。内容を理解できているのかは知らないが。
「その後、正邪とチルノは手当たり次第に暴れて。この際被害は、死者を出さなければどうしても構わないわ。多分、少し暴れたら侵入者が現れた時の為の鐘が鳴らされるわ、その鐘が鳴ったら里の大半の天狗が動き出すから、その隙に私が動くわ」
私は天狗がどうなろうが構わないけど、ここは姫海棠の顔を立てておいてやるか。
「私は、監視と牢屋、後は天狗達をバレないように念写し続ける。隙ができた瞬間。突撃して最速で解放するわ」
「なんで天狗を念写するんだ」
「少し妖力を込めれば念写した相手を気絶させたり出来るから」
「……念写ってすごいな!」
「ふむ、いいだろう。天狗の里の地図って持ってるか?」
「ないけど、念写で上空からの写真を撮るからそれを使うわ」
便利だな念写。そう思ったら姫海棠が……折りたたみ式の板? を取り出した。
パシャっと小気味良い音が聞こえたかと思ったら、姫海棠の板に天狗の里を上空から見たであろうものが写っていた。
片手ほどの画面に収まっているからか不鮮明なところもあったが、地図としては充分機能するだろう。
私達三人は覗き込む形で姫海棠の板を見た。
「……天狗の里って意外と広いな!」
「なんだこの板」
「ガラケー。この写真のここが天魔のいる場所。だからここには近づかないで」
「これ摩多羅見えてんの?」
「よーく見えるよ」
姫海棠が指さしたのは、天狗の里の比較的大きな建物だった。態度がデカい奴は建物もでかいんだろうなきっと。
「天魔が自分から動く可能性は?」
「あるかもしれない。もしそうなったら全力で逃げて」
「そうなったら私が能力で回収しよう。命がある限りコンティニューできるからね」
そう言った摩多羅は紙、のようなものを私たちに差し出してきた。
「この式神を使おう。今作った、すごいだろ」
「いや、わかんねえよ」
「これはな、妖力を使うことで遠距離で即座に合図を送る。会話もできるぞ。天魔が来たらこれを使えば良い。私にすぐに伝わるからな」
「……ええっすごいな!」
チルノ、お前さっきから似たような反応してるな。
「……天魔もお前のところに来たらどうする?」
「その時はその時だな」
「使えないな」
「ふーん難儀なものね、とりあえず天魔に遭遇した時は全力で逃げて」
「てんまはあたいがやっつけてやる!」
反対の意を示す奴はチルノ以外誰もいなかった。
「それで、正邪とチルノはここら辺に送ってくれればいいわ、ここから適当に天狗を襲っていってね」
「任せろ! あたいがいれば恐れるものはなにもない!」「適当にチルノを盾にしとくわ」
「そして、私は……ここね。ここに送ってくれればいい」
「あい、分かった」
「それで? いつ始めるんだ?」
「今だろ! さっさと行け!」
「「「え」」」
私とチルノは下に現れた開いた扉に吸い込まれた。あっという間に景色は変わり、先ほど写真で見た場所のような所に立っていた。
「本当に異変解決する気あんのか? アイツ、いや、あるからさっさと送ったのか」
「よーし、早速暴れてやるー!」
「ちょッもっと慎重に動けッ!」
言い終わる前に、チルノは氷の玉を空に浮かんでいた天狗に当てた。
玉に当たった天狗は落下していった。
「うわ〜お前まじか〜」
チルノを置いて逃げ出さなかった自分を褒めて欲しい。
そんなふうに少し逃避していると、どこからか鐘が鳴る音が聞こえてきた。
音の方に目を向けると、天狗が鐘を鳴らしているのが見えた。それに合わせて、慌ただしく周りの天狗が動いているのも。
「なるほど、あの鐘が姫海棠が言ってたものか」
「よーし全員相手してやるぞー!」
「正気か?」
ぱっと見で、数十の天狗が集まっているのが見えた、まだ見つかっていないが、それも時間の問題だろう。
「一気に氷漬けだ! 『パーフェクトフリーズ』!」
思いっきり飛び出したチルノは、思いっきり妖力を使って辺りを凍らせた。
チルノの能力。それは『冷気を操る程度の能力』。その力により辺り一体が冷やされ、建物や地面を巻き込みながら、纏まって動いていた天狗達は氷の塊となってしまった。
「あれが、妖精の力なのか!?」
私はチルノの事を舐めていた。精々幾つかの天狗を凍らせて後は一回休みだと。
だが、実際はほぼ全ての天狗を凍らせていた。
「はっはっは! これがあたいの力だー!」
調子に乗っているのか、まだ生き残りがいるのに気づいていないようだが、まあアイツは私が対処するか。私は小槌を構えた。
弓を引いて、狙いをつけている天狗を、背後から攻撃する。頭に一発。チルノが派手に暴れたおかげで簡単に不意打ちすることができた。
そして一発でダウンした。やっぱり、私の体明らかに強くなってるな。
もう一体天狗がいたが、パシャリという音がして、一瞬閃光が走った後に意識を失ったように倒れていった。
「よーし! 正邪! あたいについてこい! てんまをぶっ飛ばしに行くぞ!」
「へーい」
チルノは天魔がどこにいるのか把握していなかったので、私は天魔がいる方とは真逆の方向を教えた。
「二人は順調に撹乱しているようね」
私は念写を使いながら辺りを把握し、誰にもバレないように進んでいく。
目指す場所は、地下牢。おかしくなってしまった天魔が河童や山童に依頼しつくらせた場所。
あまり良くは知らないけど、牢屋を開けるのに鍵ではなくカードキーだとかを使わないといけないと聞いた。
が、無問題だ。
すでにロックを解除するための、カードキーの場所は私の念写で抑えているし、カードキーの見張りをしている天狗も念写で気絶させた。いや、気絶してくれたのか。
そして現在、侵入者に対処するための鐘が鳴らされ、ほとんどの天狗たちがそれに対処されている今。私は簡単にカードキーに到達することができる。
天狗というのは上の命令に歯向かわないし、非常事態が起こってもマニュアル通りに行動するものだ。一部の
「あややや、どうして戻ってきたんですか、はたてさん」
「……そのキモい言葉遣いやめてくれない?」
私の目の前には、
第128季 星と春と木の年 天狗の里が攻め込まれる少し前
一人の緑髪の少女が、神社の掃除をしていた。
彼女の名前は
そんな彼女の元に一人の白狼天狗がやってくる。手には剣と紅葉の絵柄が貼り付けられた盾を持っていた。
早苗と白狼天狗は知り合いであろうか。声をかけた。
「こんにちは!
白狼天狗の名前は
「従……けれ……ば……な」
「えーっとなんですって?」
「早苗さん、無礼を承知で伝えますが。我々天狗の支配下に下りませんか?」
「え、嫌ですけど」
「そうですか。ならば妖怪の山から出ていってくれませんか」
「え、すごい嫌ですけど」
残念です、そう呟いた椛は早苗に対して、横に払った。
刃がない部分で払ったので早苗に致命的な傷が付くことはなかったが。
早苗自身は思いっきり道の脇にある木に叩きつけられた。
「ゲホッ……なにが」
早苗がそういう前に、すでに目の前には剣があった。
「……東風谷早苗、あなたは天魔様の命令に逆らった罪により、天狗の里に幽閉されます」
「い、意味がわからないんですけど」
「あなたを傷つけたくありません」
「これって喧嘩売られてる感じですか?」
キィン
一閃。剣が振るわれた。もちろん椛にとっては脅しのつもりであり、早苗をどうこうしようとは思わなかったが、それは何者かによって阻まれた。
「困るんだよね、うちの子を連れていかれちゃあさあ」
「あなたは、
「諏訪子様、見てたんですか?」
「まあね、ていうか力強いね!?」
洩矢諏訪子と呼ばれた者は、この守矢神社に祀られた神であり、祟り神であり土着神である。
諏訪子は己の武器である鉄の輪を使い椛の剣を防いでいた。
諏訪子は椛の腹を蹴り、早苗から離そうとした。が、全く動こうとしない。
「一体なにしたわけ? いきなりこんな強くなるなんて」
「ご存知ないのですか? 今、幻想郷に起こっている異変を」
「エッ、あー。早苗、知ってる? 「すいません知りません」……もちろん知ってるけど、認識の違いがあるかもだし、一応教えてもらってもいいかな?」
椛はジト目を浮かべていた。
「……現在起こっているのは、仮称ですが『融合異変』というものです。文字通り、妖怪と妖怪の体が合体するものです」
「なるほど、
「あーだからそんなに強いんだ」
「よく分かりましたね、融合すれば融合するほど強くなるって」
「外の世界で似たようなものがあるので……」
早苗は照れくさそうに言った。彼女の心はヤングで少年だったのだ。
「って、ちょっと待ってくださいよ。融合すればするほどって言いましたよね? もしかして二人以上とも合わさることができるんですか?」
「可能です。現に私の中には十二名ほど入っております」
「チートじゃないですか〜」
「よし早苗! 私たちも
「はい! 諏訪子様! 椛さん、ちょっと待ってくださいね。ルールですから」
何言ってるんだこいつらという感じだが、椛は一応離れてあげた。
その後、早苗と諏訪子は「守矢神社をバックにしたい!」と言って、守矢神社の前に移動した。
「一回だけチャンスをあげますね」
「くっ一回だけか……」
「私達ならいけますよ! 行きますよ!」
「「フュージョン! ハッ!」」
しかし、何も起こらなかった。
「あ! 失念してました! 同じ体格じゃないと
「そんな〜東風谷諏訪子になる夢が〜」
「あの……別にそんな風にしなくても融合はできますよ」
「「エッ」」
「ただ、多分……人と神だから融合できなかったのだと思われますが……」
諏訪子と早苗はとてもショックを受けた顔をしていた。
椛はため息をついたが、すぐに気を取り直し、剣を構えた。
「申し訳ありませんが、貴方達二人を捕まえさせていただきます」
「くっまずいぞ早苗、合体戦士ってのは大体勝ちフラグなんだ」
「しかも椛さんですからね、合体戦士特有の油断も隙もありませんよ!」
「なんだって!? 合体戦士の良さが半減じゃないか!」
「ですよね! もっとこう、剣を封印して、『ハンデとして、左手だけで戦ってあげますよ』みたいなのが欲しいですよね〜」
「……いい加減にしてくださいよ!!」
椛が声を張り上げた。
「どうしてそう呑気にできるんですか!! 目の前には、貴方達に危害を加えようとしてる敵がいるんですよ!!」
「……だって椛さん、できるだけ穏便に済ませようとしてるじゃないですか。すごい嫌そうですし」
「そうだよ、殺しに来るんだったら流石にガチらないといけないけど、なんか事情がありそうじゃん」
「誰か、上の人の命令でやってるんですか? だとしたらそんなの無視して「黙ってください!!」」
椛は叫んだ。つらそうな表情で。まるで誰かに助けを求めるように。
「もう、おしまいなんですよ。妖怪の山という場所も、私たちの関係も」
「どうして決めつけるんですか」
「貴方達にあの方を止められるはずがない」
「あの方とは誰か教えてください」
「……天魔様が、そう決めたのです」
「……天魔が?」
驚きの声を上げたのは諏訪子だった。
諏訪子は比較的最近幻想郷の外からやってきた、いわば新参の神である。そして、外からこの妖怪の山にやってきた時、天魔と一度顔を合わせたことがあった。
「天魔はどちらかというと、温厚なはずだけどな……」
「……もういいでしょう、これ以上の話は時間の無駄です。諦めてください」
「……椛さん。いや、椛。私は諦めませんよ」
「お二人では私には敵いませんよ」
「じゃあ、三人だったらどうかな?」
諏訪子がそう言った途端。椛と早苗達の間を遮るように長い柱が。御柱が降ってきた。
「二人とも無事か!?」
「神奈子様!」
「グッドタイミングだよ、神奈子」
三名の前に姿を現したのは、守矢神社に祀られたもう一柱であり、山の神。
「……急いで戻ってきたけど、大丈夫そうだね」
「どうですか、椛! こっちは三人ですよ!」
「そうだそうだ!」
「……少し面倒だが、問題ありません」
椛はそう呟いて、剣を構える。
「全員、拘束します」
今、ここから。妖怪の山に自由を取り戻す戦いが始まろうとしていた。