友情努力勝利鬼人正邪   作:MC下剋上

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白狼天狗・烏天狗

 最初に駆け出したのは、椛だった。

 時間を無駄にしたくないと言わんばかりに、速攻で終わらせるつもりだ。

 

 狙われるのは、神奈子。

 椛の、一番強い相手を最初に倒す性格からして、神奈子の、大切な者を守りたいという性格からして。それは必然だった。

 

 椛の剣が神奈子に振るわれる、がそれは神奈子の御柱によって防がれた。

 

「……なるほどね、これが融合の力か」

「神奈子、椛は十二人くらいと合体したらしいよ」

「十二か、ふーん?」

 

 神奈子の頭の中に疑問が浮かぶ。しかし、その事に脳のリソースを割いている場合ではない。

 油断していると切られる。神奈子は上に飛んだ。白狼天狗の椛は翼がないため、空中戦に不慣れであると考えた為である。

 しかし、空に飛んでもお構いなしに突っ込んで剣を振るってくる。

 神奈子は御柱を盾にして斬撃を防いだ。

 

「つよいなァ」

 

 先程から神奈子は防いでばかりだった。左からの斬撃を御柱で防ぎ、右からの盾による打撃を腕で防ぎ、正面の蹴りを足で防ぎ。

 神奈子と椛はどんどん速度を上げていく、まるで今までのは小手調べだと言わんばかりに。

 どちらもまだまだ余力を残している。

 

 が、余力を残しているのがいけなかった。

 

「捕まえた!」

「む……」

 

 声が聞こえると同時に、神奈子と椛の体が動かなくなる。まるで見えない手に掴まれたようだ。

 

「おーい私を巻き込むなよ」

「あはは、ごめんごめん! ……落とせ」

 

 諏訪子が言い終えると共に、神奈子と椛は体制を崩し、空を見上げる形でそのまま落下していく。

 

「だから巻き込むなって!」

 

 そう言いつつも神奈子は諏訪子の見えざる手から逃れていた。

 椛だけが地面に落下して、そして叩きつけられる。石造りの地面が砕け、埃と煙が舞う。

 

「なるほど、透明の蛇ですか」

「あ、わかっちゃう?」

「さっきの発言は撤回します。一筋縄ではいかなそうですね。まずは貴方からだ」

 

 椛は特に目立った傷もなく起き上がった。そして今度は諏訪子に狙いをつける。

 が、諏訪子の前に早苗が立つ。

 

「早苗さん、そこをどいてください」

「お断りです」

「……薄々気づいていると思いますが、スペルカードルールを使って戦ってないんです」

「そうですね、それが?」

「死にますよ」

「私は死にませんよ」

 

 その言葉が出るのは、相手が椛だからか、それとも本当の戦闘を経験したことがなく、仮初の戦いで勝利してきた故の傲慢か。

 椛は言葉を返さなかった。とりあえず早苗には少しだけ痛い目に遭って、寝てもらおうと思った。

 前に早苗と戦った時よりも、圧倒的に速いスピードで、いつもの自分では到底出せない速度で、目の前の友人と決別する為に。

 そもそも人と友情を紡ぐことがおかしかったのだ。この一撃で迷いを断ち切る。

 犬走椛は、驚異的な速さで早苗に峰打ちを放つ。

 

 しかし、それは当たらなかった。

 

「……回避したのですか、今の一撃を」

「目が慣れたので、今度はこちらの番です!」

 

 早苗が手荷物お祓い棒で全力でぶん殴る。椛は動揺したが、すぐさま防御に移った。

 早苗の攻撃を盾で防ぐ、とても弱い一撃だった。だからこそ疑問に思う。なぜ先ほどの一撃を避けれたのか。目が慣れたと言っていたが、最初の一撃で慣れるものなのか。お得意の奇跡なのか。

 少し考えてしまったが、目の前にもう一撃が迫ってきているのに気付いたので、後ろに飛んだ。そして、上からも。

 

「私のこと完全に忘れてただろ」

 

 派手な音を立てて、椛が立っていた場所に柱が落とされた。

 神奈子が上から見下ろし、早苗が目の前の柱の前に出て、諏訪子はいつのまにか姿を消していた。

 

「早苗さん、今のは奇跡ですか」

「椛、これが私の力です、まぐれでも奇跡でもありません」

「なるほど、私は貴方のことを見誤っていたんですね」

「ま、今の早苗を見てその強さの理由(わけ)に気づけってのは無理だわな」

「……椛は私たちのことを舐めすぎですよ。確かに、今の椛は力の量だけで言えば私たちの誰よりも強いです」

 

 妖力、霊力、神力、扱うものによって呼び方は変わるが、誰もが持っていて、ある程度の修行をすれば誰もが扱える力。

 そして力を持つものは戦いの中で、相手と自分の力量差を感じ取ることができる。

 今の椛は白狼天狗とはとても思えない、大妖怪並みの妖力を持っていた。

 

「だからといって、私たちを傷つけないように戦うだなんて、甘く見過ぎですよ」

「……そうかもしれません」

「言わせてもらいますが、そのまま傷つけないよう戦ってたら」

 

 

「死にますよ」

 

 早苗の殺気が椛に深く突き刺さる。たとえばこれが、自分の力に絶対の自信を持っている大妖怪ならば、鼻で笑い飛ばしたかもしれない。たとえばこれが、椛一人だったならば、怖気つくことはなかったかもしれない。

 だが、今の椛は、一人ではない。少なくとも自分の中に、一つの隊(だいじななかま)を抱えている。そして真面目な性格だからこそ、それが深く突き刺さる。

 

 今の天魔に抱いている不信感、東風谷早苗に対する罪悪感、その早苗から受けた殺気、それに伴う自分の隊を危険に晒しているかもしれないという焦り、責任感、恐怖。

 様々な事が合わさって、椛は少し、折れそうになってしまった。

 

「うん?」

 

 早苗と椛を静かに見守っていた神奈子が、声を出した。

 椛の体に異変が起こっていた。体が裂けて、いや、分裂していた。そして、背中から何かが飛び出した。

 それは白狼天狗だった、あまり浮かない表情をしている。

 

「……椛隊長、もうやめましょう……」

 

 椛の中から出てきた白狼天狗は後ろから声をかけた。

 椛は少しだけ反応したが、そっと振り向き、

 

「……里に戻って休んでいてください」

「一番辛いのは隊長じゃないですか! 天魔様は間違っている、どうして貴方がこんな目にッ……」

「ありがとうございます、貴方のお陰で私は冷静になれた」

 

 椛は白狼天狗を眠らせた。少し当て身をしただけだ。そして深く溜め息を吐いた。

 気絶した白狼天狗を少し離れさせ、剣と盾を構える。

 

「……続けましょうか」

「そうですね」

 

 この場にいる誰もが確信した。この『戦い』は簡単には終わらないだろう。

 誰かを守る為ならば、守矢神社の面々も、椛も、強くなれる。

 

「かかってこいよ、椛!」

「全員、切る!」

 

 椛は駆け出した。全力のスピードで。椛の背後から植物が生えてくる、そして椛を捕まえようと茎を伸ばす。

 椛は飛んでそれを躱す。そして一見何もおかしなところがない草木に向かって、妖力を込めた盾を投げ飛ばす。

 妖力で強化した盾は、簡単に木を貫き、草を切断、直撃すればタダでは済まないだろう。

 草むらから諏訪子が飛び出して回避した。

 

「へえ、みえてるんだ!」

 

 椛の能力、それは『千里先まで見通す程度の能力』。文字通りの物と捉えてもらっていい。

 そして、それを使って諏訪子の位置を探し、観測した。

 使いすぎると、目に負担がかかるが、三人を相手にしてそんな物を気にしている場合ではない。

 そして、背後に柱と蛇が飛んできているのを視認した。

 

 柱は直接椛に、蛇が少し遠回りして椛に向かってきている。回避はできない、盾で防ぐこともできない。

 ならば、叩き切る。

 目の前に飛んできた御柱を一刀両断した。そして、左右から飛んできた蛇を、妖力で作り出した弾で掻き消す。

 

「やるな、私の御柱を叩き切るとはな」

 

 そう言いつつも、神奈子は御柱を何本も構えていた。

 

「少し、私が考えているこの異変の考察を話そうか?」

「何々? 神奈子もう気づいちゃったわけ?」

「薄々気づいてきたんだ、融合する条件、分離する条件」

 

 椛は何も言わずに神奈子に切りかかる。

 

「くッ、結構速いな、マジで!」

「バインドスネークカモン!」

「手長足長!」

 

 早苗が術を唱える。普段のスペルカードルールなら使わないような、圧倒的な力量で、椛を神奈子から離す。諏訪子が自分の祟り神としての力を使い、椛を拘束、そして、その隙を神奈子は見逃さない。

 

「まず、融合する為の前提条件!」

 

 御柱を射出、圧倒的な速度で椛を貫かんとする、しかし、諏訪子の拘束、早苗の弾幕を、一瞬で振り解き、掻き消した椛に両断される。

 ならば、もう一度射出すればいい。

 

「妖怪同士じゃないと融合できない!」

「え、私の東風谷諏訪子の夢は?」

 

 諏訪子がなんか言った気がするが、神奈子はお構いなく、椛に御柱を発射する。

 

「そして! 融合するには」

 

 もう一度、椛は御柱を切る。切った。が、体の中から何かが抜けていく感覚がして、実際に、隊員が一人体から分離した。

 そしてまた、柱が飛んでくる。

 

「感情を、気持ちを一つにしないといかん!」

 

 椛はまた切った。また一人抜け落ちた。心が痛む。目の前が歪む。

 

「そして、融合を解除する条件!」

「う……」

 

 また柱が飛んでくる、また切らないといけないのか、嫌だ切りたくない。そう考えながら椛はまた、切った。二人出ていく。

 

「それは……」

「……神奈子、もうやめてあげたら」

「断る」

 

 椛の元に御柱が飛んでくる。

 

「あああああああああ!」

 

 叫びながら切った。だが、今までのようにうまく切れなかった。どんどん力が無くなっていく、次は……?

 神奈子の方を見ると今までよりも大きな御柱が構えられていた。

 

「……」

「心を、折ることだよ」

 

 御柱が飛んでいく、椛の元に。

 

「うあああああああ!! 」

 

 がむしゃらに剣を振る。

 切ろうなんて考えなかった。諦めてしまった。自分はここで命を落としてしまうのだと確信した。

 自分はどうして。なんで。

 

 御柱は、椛の体を貫き、貫かれた椛は、痛みを感じた。

 だが、それだけだった。

 

「……え、あれ……?」

 

 どうして自分はまだ生きているのだろうか、椛は混乱した。

 

「今のは、というか数本前の御柱からずっとスペルカード用の、本物から殺傷能力だけ無くした奴だよ」

「……どうして」

「心を折るだけだから、別に傷つける必要はない」

 

 椛は力が抜けたように、ゆっくりと高度を落としていく。

 そして、地面に膝をつく。

 

「勝負あり、だな」

「私達の勝ちだよ」

「……まだ、です」

「……」

 

 神奈子と諏訪子がもう勝負は終わったと言わんばかりにそう言った。しかし、椛は諦めなかった。

 周りの隊員が椛を見ていた。

 

「……その挫けない心は素直に賞賛しよう。だけどお前の負けだ」

「まだ、私は戦える」

「それ以上やると存在が消えるぞ」

「だったら、私を消してからいけ!」

 

 神奈子も諏訪子も動くことはしない。早苗だけが前に出た。

 

「椛、全力で行きますね。……歯ぁ食いしばれや!」

 

 早苗はお祓い棒を投げて、拳だけで椛に立ち向かう。

 向かってくる早苗に、何もしないというわけもなく、椛は剣を振る。

 

「遅いッ!」

 

 縦からの斬撃を体を逸らし避けて、拳を椛の胸に叩き込む。

 

「そんなもんですか!」

「まだまだ、いける!」

 

 横からの斬撃は屈んで回避し、アッパーを放つ。

 

「前に戦った時の方が強かったぞ!」

「舐めるな!」

 

 斜めに斬ろうとする、剣が弾き飛ばされてしまった。

 だから拳で早苗を殴ろうとする。だが、回避される。

 こちらの攻撃が当たらないことに焦りを感じる。

 

「椛は自分一人で背負いすぎなんだよ!」

「当たれ! 当たれ!」

「そして、頑張りすぎ!」

「当たれええええ!」

 

 早苗の顔に拳を叩き込もうとする、しかし、腕の下に潜り込まれた。

 

「ッ!!」

「もっと休めよ馬鹿野郎!」

 

 早苗は椛の腹に、神力を込めた拳を叩き込んだ。

 

「ガハッ……」

 

 椛は後ろに倒れ込みそうになる、だが、体を早苗が抱きしめて、支える。

 

「後は、私たちに任せてください」

「任せていいんでしょうか……」

「任せてください、椛に命令を出した奴を血祭りにしてやります」

「はは、血祭りは困ります……」

 

 椛は、弱々しく早苗の事を引き離そうとする。

 早苗はゆっくりと椛の体から離れる。椛は立っていたが、立つのをやめて、正座した。

 そして、深々と頭を下げた。

 

「お願いします……天魔様を止めて、私達天狗を、助けてください」

 

 小さな声だったが、誰も聞き逃すことはしなかった。

 

「ちゃんと言えたな」

「任せなよ、願われたなら答えてやるのが神ってものさ」

「友達(ダチ)がここまでやられて、黙っていられませんよ」

 

「ありがとう……ございます」

 

 頭を下げた状態で椛は眠ってしまった。早苗は椛を抱えようとしたが、白狼天狗に止められる。

 

「隊長のことは我々に任せてください、そして我々からも、天狗の里をお願いします」

「任せろ、あとウチ使っていいから。少し休んでいきなさい」

 

 神奈子の言葉に白狼天狗達は頭を下げ、椛を神社の中に運んでいった。

 それを見届けて、神奈子、諏訪子、早苗の三人は、天狗の里に体を向ける。

 ここからでもよくわかる、見事な氷の塔が立っていた。

 

「行くか」

 

『戦い』は始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 パシャリ、音が響く。はたてが射命丸文に向かって念写を使ったのだ。

 しかし、文は圧倒的な速度でそれを躱す。

 

「ひどいですねー会話の最中に攻撃してくるなんて」

「だから敬語、いや待てよ? 敬語ってことは私の方が立場が上ということかしら?」

「見ない間に随分と脳が衰えましたね、はたておばあさん」

「はは、ほざいてなさいよガキ」

 

 射命丸文は自他共に認める最速の天狗だった。速さだけで言えば天魔よりも速い。

 ならば速さ以外はダメなのかと言えば、そんなことはなく、力も守りも並みの天狗では敵わない。異質な天狗であった。

 

「まあまあ、少しお話ししましょうよ。どうして戻ってきたんですか? 天狗の里に」

「そりゃあ、天魔を倒すために決まってるでしょ」

「天魔様を倒すとは、元天狗の里所属とは思えない戯言ですね」

「戯言か、これも戯れだと思って見逃してくれないかしら」

「残念ながら、お遊びに付き合ってあげられるほど暇ではないのですよ。侵入者のせいで」

「へーそーなんだー、大変だねー」

「目泳ぎすぎじゃないですか」

 

 くすくすと、笑ってしまう。ああこれから本気で戦わないといけないのが少し憂鬱だ。

 今、はたてがいる場所は牢屋を開けるためのカードキーが管理されている建物の前。建物の中に入って、カードキーを手に入れるために来ていた。

 

「……まだわからないんですか? どこまで抵抗しても、天魔様には敵いませんよ」

「だから諦めるって? あんた、いつも取材する時恐れ知らずのバカだったじゃない。なんでそんな日和ってんの?」

「長い間生きていると、手を出さない方がいい物がわかるのです。いわゆるデッドラインですよ」

「……マジで敬語やめてくれない? 本当に気味が悪いわ」

「はたてさん」

 

 はたては心の底から苛立った。間違っても文は自分に向かって敬語を使うほど丁寧なやつではなかった。

 

「オッケー、喧嘩売ってるってのは分かったわ」

「買いますか? 今なら全治二ヶ月のおまけ付きですが」

「買うわ。全治二ヶ月どころか、全治二年にしてやるわ」

「……そうですか。はたて、先手は譲ります」

 

 はたての前に文が立つ。何も身構えることはなく、棒立ちだ。

 が、それならそれでいい。はたては急いで建物の中に入った。

 先手を譲ってくれるなら、攻撃をしなければいいのではないか? 少し卑怯というか、空気が読めていないが、はたてはカードキーがある場所に急ぐ。

 

「あれっ、ない!?」

「探していたのはこれですよね」

 

 カードキーがある場所は、バードの手元だった。

 

「クソっ分かってたかー」

「まあ、こんな場所に用があるならこれ目当てですよね」

 

 ちょっとイラついたけど、いまだ先手はこちらにある。はたてはできるだけ牢屋の近くにカードキーを持つ文を誘導しようとして、文がカメラを構えたのを見て、思いっきり転がった。

 

「おお、良く回避しましたね」

「単調だからね、ていうか先手は譲るんじゃないの!」

「将棋的に考えれば移動も一手ですよ」

「ああ、あんたは歩だもんね」

「ポーンは黙っててくださいよ」パシャッ

「将棋ですら無くなった!? あぶねっ」

 

 文はふざけているのか、カメラを使ってはたてを攻撃している。

 どういう原理か知らないが、あのカメラに撮られると精神に無視できないダメージが入る。

 

「ほらほら頑張ってください、そんなんじゃ天魔様には指一本触れられませんよ」

「クソッ速い……!」

 

 はたては何度もガラケーを構えて、文を捉えようとするが、その圧倒的な速さを捉えるのは不可能だった。

 何度も撮影をするが、文には当たらず無関係のものばかり壊してしまうばかりだった。

 

「あややや、壊しすぎですよはたてさん。損害賠償も意外と高いんですよ?」

「じゃあ、避けなければいい!」

「医療費の方が高いので、遠慮します」

 

 先程からずっと同じことの繰り返し、文が撮影するのをはたてが回避し、はたての撮影を文が回避し、同じような展開で文は飽き始めていた。

 はたてに少しだけ期待していた。天魔を恐れて逃げ出したはたてが、戻ってきて何か策か、奥の手があるのかと思っていた。

 それがこれか、あの氷精と見慣れぬ妖怪が暴れて、その隙に牢屋の妖怪を助ける。

 なんともチープで安っぽい。その程度で天魔を破れるものか。

 現に今、私にいいようにやられている。少し期待して敬語を使ったのが間違いだったかしら。

 一度逃げたのだから、もう戻ってこないでね。

 

 文は、はたての撮影を回避して、部屋に散らばった物を避けながら背後から首に向かって蹴りを、

 放てなかった。

 

「やーっと捉えたわー」

 

 はたての念(・)写(・)が文を捕まえた。ガラケーを正面に構えているが、撮ったのは背後。

 なるほど、不意を突かれた。部屋をぐちゃぐちゃにして、移動範囲を制限して。戦うのは好きではないが、少しだけ楽しくなってきた。

 

「それッ一発喰らえ!」

 

 文は、捉えられて麻痺した体を無理やり動かし、はたての蹴りをガードした、それでもはたては表情を崩さない。まるで予想通りだと言わんばかりに。

 

「ふ……ふふ、驚きましたよ。はたて」

「あっ、さん付けしなくなった」

「驚きましたよ。はたてさん」

「言い直すなよ」

「まさか、私の移動先を操作していたとは」

「いや? 適当にやったら当たったけど」

「……キレそう」

 

 とりあえず文ははたてを部屋から蹴り出し、外に出る。

 やはり狭い室内だと本領を発揮できないと痛感した。

 突然蹴られたので動揺している、鳥頭ラッキーガールを上から見下す。

 

「二度目は当たりませんよ、さっきのは偶然です」

「運も実力でしょ? そんなに怒らなくてもいいじゃない」

「怒ってません、呆れてるだけです」

「そんなに呆れなくていいじゃない」

 

 もう何もいうまい、文は最高速ではたてに突っ込む。

 はたては、念写をしているが、それでは風となった文を捉えることができない。

 先程の一撃を返すように、はたての腕に一発。警告のつもりで叩き込む。

 

「いったああい!!」

「そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないですか」

「怒鳴ってない! これは悲鳴!」

「そんなに叫ばなくてもいいじゃないですか」

「心の小さい奴め……」

 

 別に価値観は人それぞれなので、文は心が小さいと言われても気にしなかった。

 

「もうわかるでしょうが、あなたに勝ち目はありませんよ」

「それ、お得意の捏造?」

「事実です、弱小天狗さん」

「悪いけど、私は負けって簡単に認められないから」

「頭が悪いんですね」

「文程じゃないけどね!」

 

 あっはっはっは。二人の笑い声が響く。そして次の瞬間。はたては念写をして、文は風を起こしていた。

 文は先程まで、カメラと体を使ってはたてを攻撃していたが、彼女の本分は団扇を使い風を起こして操るところにある。操られた風はまるでかまいたちのように相手を切り裂く。

 はたては自分の体を丸めて、風を耐えるしかなかった。ガラケーを傷つけるわけにはいかないからだ。

 

 そして埒があかないからか、風を起こすのを飽きたからか、風が止んだ。はたてが体勢を整えようとした次の瞬間。

 

「ガハッ!?」

 

 綺麗なボディブローがはたてにヒットした。

 

「じわじわと、痛みを感じるはずですよ? 泣いて謝るなら、天魔様にあなたがもう一度天狗社会で生きていけるようお願いしますけど」

「はっ、これから起こることで、全天狗は私に土下座するから余計なお世話よッ!」

 

 はたてはボディブローを喰らいながらも、文が胸ポケットにしまっていたカードキーを手に入れた。

 

「よっしゃー取った!」

「で? カードキーを手に入れた瞬間、牢屋の扉が開くと思うんですか?」

 

 喜ぶはたてに文は冷たい視線を送る。どう考えたらカードキーを手に入れてこの状況が一変するのだろうか。なんだか、愚かな存在にしか思えなくなってきた。

 次の瞬間まで。

 

「隠岐奈──ー!! 助けて──ー!! 天魔におそわれてる────!!」

『うわあ急に呼び出すな、びっくりしただろうが。はいはい早く入れ』

「じゃあね! 文! 負け犬! ばーか!」

 

 はたてが持っていた紙から声が聞こえてきたと思ったら、今度は背後に扉が出現し、はたてはその中に入った。

 文も呆気に取られていたが逃すまいと扉に入ろうとして、閉められた。そして扉が消えた。

 

「はあ? なんですかそれ……」

 

 少し放心してしまったが、そんなことをしている場合ではない。

 はたてが消えた際に叫んでいた隠岐奈という存在、自分に残したばーかという言葉。色々思うことはあるが、あの扉は、一度別の場所を経由しているようだ。

 つまり、あの扉に入って、次に出てくる場所は牢屋。

 文は日が落ちる速度の十倍の速さで牢屋に急いだ。

 牢屋に閉じ込められている妖怪を考えると、解放されるのは非常に面倒くさい。

 

 とにかく、最高速で。文は急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

「死ぬかと思った──!!」

 

 文のことだから、殺しはしないだろうが、死ぬほど辛い事は死ぬ事と同義である。

 隠岐奈から貰った式神を使い、私は後戸の国に戻ってきていた。

 

「おかえりー天魔じゃないじゃん」

「ごめんよー隠岐奈。でも私にとって天魔と同じくらいムカついて尊敬……カスみたいな奴だから許して?」

「まあいいけど、それで? 次はどこへ送ればいい」

「カードキーは手に入れたからね! 次は牢屋に送って欲しい!」

「どこだよ」

「あーそうか、ちょいまち」

 

 私はポケットから天狗の里を撮った写真を取り出して、牢屋の明確な場所を伝えた。

 

「承知した。すぐに送ろう」

「えー休んでからじゃダメ? めっちゃお腹痛い」

「……すぐの方がいい、つーかもう送るわ」

「それって、どういう」

 

 次の瞬間、私は見慣れぬ場所に立っていた。灰色に染まった壁、灯りがなく、暗い。そして次の瞬間、背後から声がかかった。

 

「そこにいるのは、はたてか!?」

「飯綱丸(いいづなまる)様!?」

 

 そこにいたのは、飯綱丸龍(いいづなまるめぐむ)という名の大天狗。所謂私たちの上司であった。だが何故ここに?

 よく見ると、飯綱丸様以外にも他の大天狗(名前は知らない)や、河童達、見慣れないおそらく山の妖怪達の姿が鉄格子の中に見えた。

 そして、飯綱丸様が声を出した瞬間、なんだなんだと集まってくる。

 

「本当だ! はたてだ!」

「にとり!?」

 

 驚いたことに、私の友達の河城(かわしろ)にとりという名前の河童がいた。

 彼女は確か、エンジニアとかいうやつで、この牢屋を作った本人だったはず。カードキーもにとりが作ったはずだ。

 

「どうしてここに……」

「そりゃあこっちのセリフだよ、なんでここに……もしかして、私たちをここから出してくれるの!?」

「ふっふっふ……そのまさかよ!!」

 

 私は、文から勝ち取ったカードキーを掲げた。

 

「それは、この牢屋を開けるために必要なカード!」

「何、それは本当か!?」

「誰か知らんが、早く開けてくれ!」

「わかったわ! この私姫海棠はたてが、皆さんを解「ダメですよ」放……?」

 

 また背後から声が、正確には、背後の牢屋の入り口の方から声が聞こえた。

 その声は怒気を孕んでいて、とても聞き覚えのある声だった。

 怖気ついている場合ではない。私は振り返り、相手の顔を見た。

 

「文……」

「まあ、驚きましたが、はたてさんが油断してくれて助かりました」

「やっぱり早いね」

「最速ですから、ねっ!」

 

 あーくそ、めっちゃ早い。なんでこんなに早いのよこいつは。

 私はいきなりの膝蹴りをどうする事もできず、まともに喰らってしまった。

 

「ガハッ……」

 

 背後の鉄格子に叩きつけられる。

 息を呑む音が聞こえる。

 諦めたい。けれど、後ろにいるみんなの期待を裏切るわけにはいかない。私はカードキーをポケットにしまって、拳を構える。

 

「敵うとでも?」

「さあ……? やってみないとわからないじゃない!」

「はたて」

「文」

 

 あーなんか、新聞大会が近い時の会話を思い出すわ。あの時、里でばったり出くわして、ちょっと煽り合いをして、こんな風に文が喧嘩売ってきて、それで私は。

 

「「勝負だ!!」」

 

 ははっ、ちょっと笑っちゃった。

 今の状況は全然笑えないけど、やるだけやってみましょうか。

 私はすぐさま念写した。狭い室内、当たるかと思ったけど、当たらなかった。

 そして、右から強い衝撃が始まる。拳を振り終えた文の姿があった。

 

「はたて! カードキーを使って、牢屋を開けてくれ! そしたら文だってこの場全員で倒せる!」

「それができりゃ苦労しないわよ!」

 

 ニトリはそこでみてるだけじゃん、こいつを相手にする苦労を知らないのよ。そう言いたかったけど、そんな暇はない。

 

「そんなものですか、はたてェ!」

「やってやるわよ、この野郎!!」

 

 腕を振る、しかし空振りである。文は私をボコスカ殴ってくるのに、私はどうしようもできない。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 勝負に出るしかない。私は、ガラケーについているフラッシュ機能をオンにした。普段は念写に光など関係ないから使わないが。今は薄暗い牢屋、おそらく暗闇に慣れてきているはずだ。

 そして、それを! 妖力を使って威力を上昇させ! 目眩しに使う! 至近距離で!

 私は顔面を打たれる。クソいてぇけど今だ!!

 

「フラッシュ!!」

「ッ!!」

「うわああ!! 目があああ!!」

「眩しい!! それするなら言ってくれ!!」

 

 牢屋が阿鼻叫喚になっているが、私は無事なので知ったこっちゃない。

 瞼を閉じていても眩しさを感じる。

 そして明るさが収まる。私は急いで、カードキーを使う為に鉄格子に近寄り、カードキーを……

 

「驚きましたよ、本当に」

「文……なんでッ」

「風を感じました。はたての動く風を」

「うそ……」

「まだ目がチカチカしますけど、詰みです」

 

 文が私の手から奪い取る。手にはもう何もない。

 

「いやあ、驚いたし、焦りましたよ。でも残念でしたね、まあ、諦めてください」

「……あはは」

「……ショックでおかしくなってしまいましたか?」

 

 私はカードキーを使って、鉄格子を開ける。ピッと私の勝利を讃える音が聞こえて、ガシャっと勢いよく扉が開く。

 

「開いたっ……開いたぞ!!」

「は……なんでッ、カードキーは私の手に……!?」

「あはははははッ!! あーおかしい……」

 

 確かに文は私の手から奪い取った。だがそれはカードキーではなく、少しだけ形が似て、硬さもある

 

「これ……天狗の里の写真……」

「その通り!!」

 

 断言する。私はとても興奮していた。一歩間違えれば私は負けていたからだ。

 

「すごいじゃないかはたて!! あの一瞬で、フラッシュのせいでうまく認識できない時にダミーを用意するなんて!!」

「いやーたぶんはたてはそこまで考えてないわ」

 

 いつのまにか出てきたにとりが私を褒め称える。牢屋から出てきた妖怪も口々に賞賛してくれる。

 いつのまにか口調がタメになってる文がそう言う。そして、それは正しい。

 

「実はカードキーと間違えて取り出したのよね、これ!」

「はあああああああああ!?」

「まあ、いいじゃない! 終わりよければなんとやら!」

「うーむ、そうかも……」

「まあ、よくやったぞはたて、おかげでここから出れて、力が使える」

 

 飯綱丸様が褒めてくださる。まじかよやったあ。そして、どうやら牢屋の中では妖力を使えなかったみたい。

 

「さて、文。まだやるかい?」

「いやあ、飯綱丸様には敵いませんよ……」

「賢明な判断だな、それで、はたて。これからどうするとかあるか?」

「もちろん! みんなで天魔をぶっ倒すわよ!!」

 

 私は自信満々にそう言った。決まった……

 しかし思ったより反応は著しくなかった。

 

「そう……か、まあ、私はその気はあるが、天魔との戦いの場に立てるものは少ない」

「ええと、戦いは質より量では……?」

「はたて、蟻が千匹いても烏には勝てないよ」

 

 にとりがそう言ってくる。少し申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「……じゃあ、この場で天魔と戦える妖怪は?」

「我々大天狗はいけるだろうな、後は「俺だ」」

 

 声を出したのは、見慣れない姿の、銀髪でロングヘアの妖怪だった。

 

「失礼ながら、どちら様?」

「姫虫百々世(ひめむしももよ)だ。あんた天魔の奴をぶっ倒しに行くんだろ? 俺も混ぜてくれよ」

「いいわよ! みんなで天魔をボコすわよ!」

「そんなにうまくいくかしら……」

「文、あんたも手伝いなさい」

「エッ」

 

 そんな風に話していた時、部屋全体が揺れた。

 

「うわあ、なになに!? 地震!?」

「言っておくけど、地震だったらもっとやばいわよ。ここは地下牢だから、おおかた地上で何か起こったんでしょ」

「あ、地下だったんだ。ていうか、もしかして天魔の奴が居るのかな!?」

「さあ?」

 

 地上には正邪とチルノがいるはずだ。だったら早く加勢しに行かないと。

 

「天魔と戦える人は付いてきて! 地上に行くわよ!」

「はたて! 私は戦えるほど強くないから手伝えないけど、頑張って!! 天魔にちゃんときゅうり千本を請求してくれ!!」

「わかったわにと……なんだって?」

「ほら、さっさと行こうぜ天魔をぶっ倒しに」

「わかったわ! 天魔をぶっ倒しに行くわよ!」

 

 こうして、私は新たな味方を引き連れて、地上の加勢に向かった。

 今更だけど、大天狗様を押し退けて指揮してて恐縮だわ。まあ、今だけよ。

 これから、天魔をぶっ倒す!

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