友情努力勝利鬼人正邪 作:MC下剋上
現在、私とチルノは片っ端から天狗の里を潰していた。
厳密に言えば、チルノが天狗共を氷漬けにして、私をそれを眺めているだけだった。
このまま、天魔を避けつつ時間稼ぎをしたいところだが、いつまで天魔が黙ってくれるかが分からない。
「出てこいテンマ! あたいが凍らせてやる!」
「どうやらここにはいないみたいだな〜他を当たろう〜」
「わかった! ……待てよ、あたい思い出したぞ、テンマがいる場所」
「あ?」
「確か……あっちの方だ!」
「おい! 待てッ!」
しまった、最悪だ! あろうことか、チルノは写真で見た天魔がいる場所を思い出したらしい。
一直線に天魔のいる所に向かっている。今天魔に手を出されるとまずい。
「確か、あそこだったはずだ!」
「クソッ、ひっくり返れ!」
私は能力を使ってチルノの体の向きを変えた。上下逆さに。
「うわっ!?」
「悪いけどな、作戦を台無しにされたら困るんだよ」
「なんだよー別にちょっとテンマをぶっ倒すだけだって」
「妖精ごときには無理だろ」
「なんだと!? やってみないと分からないだろ!」
やはり妖精というものは知能が低い。どうしてただの妖精が、天魔とかいう大妖怪に勝てると思えるんだ。やってみないと分からないなんて言ってるが、やらなくても分かりきっている。
一瞬でやられて、一回休みだ。
「わかったわかった、もう私は止めやしないよ。自己責任だからな」
「ふん! 正邪はそこであたいがテンマをぶっ倒すのをみてるといいぞ!」
「はいはい」
よくよく考えれば、私に被害が及ばなければなんでもいい。なのでチルノの好きにさせてやる事にした。そしてチルノが駆け出していったあと、数分経った後にとても大きな氷の塔ができていた。
「おお、すげえ。……これが本当に妖精の力なのか?」
滝と一緒に、天魔がいると言われた場所が、氷漬けにされてしまったのだった。
正直驚いたが、これでチルノとの短い旅もおしまいである。最期くらいは見届けてやろう。
そう考えて、少しだけ、ほんの少しだけチルノの方に向かった。そこで私は驚きの光景を目にした。
「どうだ! あっという間に凍らせてやったぞ!」
五体満足のチルノだった。
「……天魔は? まさか倒したのか?」
「さあ? たぶんあたいに恐れをなして逃げたんだろう!」
「……そうか」
なんというか、目の前の
「多分、天魔は中にいるんじゃないか?」
「なに! じゃああたいは知らぬ間にテンマを倒してたのか!」
「そんなわけないだろ。多分」
「じゃあ中に入って確認しよう!」
そう言ってチルノは自らが作った氷に、光の弾を当てて溶かし、中に入っていった。
便利だな、その力。私もチルノに続いて中に入っていった。
氷の中には、かなり過ごしやすそうな空間があった。天魔が住んでいる場所らしいので、当然かもしれないが。しかし、かなり過ごしやすそうな空間しかなかった。
「居ないな、天魔」
「さては、あたいに恐れをなして逃げたに違いない!」
「そんな事あると思うか……いや、まて、いまのなし」
「あると思うけど」
「だよな、知ってたよ」
恐れていた天魔がいない事を知って、少しだけ気が緩んでしまう。だが、背後の方から聞こえた爆発音に、気を引き締め直す。
「なんだ? まさか天魔か」
「ふふん! あたいが凍らせてや「『なんでもひっくり返す能力』お前ちょっと黙っとけ」んー! んー!」
ただ口を開く動作と閉じる動作をひっくり返しただけなのに、とても簡単に黙ってくれた。
さて、この音の正体は一体何だろうか。
考えるまでもなく、答えが歩いてきた。
「長話はしたくないので、単刀直入に。私の友達の天狗に酷い事をしたのってあなたですか?」
現れたのは緑色の髪、一目でわかる巫女っぽい服装の女だった。
そして、そいつは私に殺気を向けながらこちらに近づいてくる。確か、妖怪の山には守矢神社なる場所があったらしいが、おそらくコイツはその守矢神社の巫女で、信者の多い天狗の里を襲撃されて怒っているといったところだろうか。
もしくは天狗の里の友達とやらを傷つけられて、純粋に怒っているか。
「だったらどうするんだ? 私が天狗を傷つけたところで、お前には何の関係もないだろ」
「んーん! んーん!」
「……関係大有りですよ。私、友達を傷つける奴がこの世で一番嫌いです」
「……ふーん、やるってのか? ただの人間が……!?」
速い。油断していたのもあるが、巫女は持っていた棒で私を突こうとしてきた。なので体を左に動かし回避する。しかしそこをすかさず巫女は、空いている手を使って……目潰し!?
「おい!? お前には躊躇ってのがないのか!?」
「ありません。そんなものは高校生の頃に捨てました」
「んんー! んんん! んっんんんー!」
「クソッ、どっちも何いってんのか分かんね〜」
「まだまだいきますよ」
長い年月を過ごしていたからわかるが、明らかにコイツ
つーかコッチの攻撃がまるで当たらない。擦りすらしない。このままでは負けてしまう。
このまま殴り合いを続けていたらの話だが。
「『何でもひっくり返す能力』!」
「!!」
巫女の体がひっくり返る。驚く事に、すぐさま腕を立て、体を立て直そうとしていた。だが、
「っぐう!!」
「はは! いい蹴り心地だなァ!!」
私は腹を蹴った。思いっきりは蹴らなかったが、それでも人間ならば意識を失う威力で。
手応えは無かった。
「ああー驚きました、面白い力を使うんですね」
「伊達に、天邪鬼じゃないんでね」
「……? まあ、何でもいいですよ。続けましょうか」
さて、どうしようか。さっきの蹴りを全力でしなかった事を後悔しているが、とにかく目の前のコイツをどうにかしないといけない。
「秘術「グレイソーマタージ」!」
先程まで物理を使っていたのに、いきなり妖力を使ってきやがった。狭い室内で。
視界全体に広がる弾幕、部屋中を燃やしながらこちらに迫ってくるので、家具を盾にすることもできない。
「チッ避けるのは無理か……」
しょうがないから、私はそこら辺で黙っていたチルノを盾にした。
「アチッ! アチチチッ!! 何するんだ正邪!! あっ声が出せる」
「すまん。最強の手が借りたくて、つい」
「なら仕方ない!」
「……せいじゃ? 天魔ではなくて?」
「は?」
今、なんて言った?
「今、なんて言った?」
「……あのー失礼ながらお名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
「……鬼人正邪」
「……あだ名が天魔だったり?」
「な訳ないだろ」
「ですよね! すいませんでした!」
さっきまで殺気をむけていた巫女は頭を地面に擦り付ける。即ち土下座をしていた。
「あれ。でもさっき天狗を傷つけているって言ってませんでした?」
顔を上げてこちらを見てくる。
「ああ、里の天狗をボコボコにした。主にコイツが」
「そうだ! あたいがボコボコにした!」
「えーと、それはまた何故?」
「天魔をボコボコにするために」
「さっきからボコボコボコボコ言い過ぎでは? そんな万能な言葉じゃないですよそれ」
「天魔に不満を持ってる奴に協力してるんだよ私達は」
そしてまた顔を下げた。
「すいません、てっきり貴方が天魔かと……」
「靴舐めろ」
「「えっ」」
「冗談だ、一応聞くがお前はなんでここに? あと、名を名乗れ」
はっきりとさせないといけない。コイツが味方なのか、敵なのか。
「申し遅れました。私の名前は東風谷早苗といいます。私の友達の天狗が天魔にパワハラとセクハラとモラハラを受けてるみたいなので、仕返しに血祭りにしてやろうと思いまして」
「へえ」
天魔を倒すという点で味方という事になる。貴重な戦力が増えたな。
「そういえば、本物の天魔は何処へ?」
「さあ? 私達がさっきここに来た時にはもういなかった」
「あたいに恐れをなして逃げたんだ!」
「なるほど……神奈子様と諏訪子様に報告しないと……」
「誰それ?」
「私が仕えている神様のお二人です。とっても強いんですよ」
そうか、そう口に出したかったけど、ダメだった。私の目が
「なんだこれ……うう……」
「どうしたんですか? 正邪さん」
「おい! 大丈夫か正邪!?」
「ひっ……な、なんでもない」
「……何か見えてるんですか?」
「お前らには見えていないのか? あの、強大な妖力……」
ゾッとする威圧感。気持ち悪くなるぐらいの力の大きさ。忘れていた圧倒的強者の存在感。
私の中にある本能が、手を出すなと告げている。
「天魔でしょうか?」
「よーし早速行こう! あたいについてこい正邪!」
「……ああ」
行きたくないが、まだ天魔だと確定した訳ではない。この力の正体を確かめないといけない。
震えを抑えて、私たちは力の元へと急いだ。
「行ったかな?」
「行ったね」
そう話すのは諏訪子と神奈子。守矢神社の二柱であった。
「いいの? 行かせちゃって。早苗絶対怒るよ」
「いいんだよ。終わりよければすべてよし。怪我をせず天魔を倒す。完璧だ」
「そうじゃなくて、早苗に怒られるんじゃない? 『どうして私も混ぜてくれないんですか!?』って」
「早苗がそんなこと言うわけないだろ」
そんな風に軽口を叩いていた。だが、真剣な顔になる。
「行くか……」
そう言って神奈子は宙に浮き、そして空に向かって移動していく。
諏訪子も黙ってそれについていく。
二人はどんどんと高度を伸ばしていき、雲にまで届きそうな所まで上昇した。
「おい! ここにいるんだろ!! 天魔!!」
諏訪子が声を上げる。それに反応するかのように、巨大な黒い鴉が2人に近づく。
そしてそれは徐々に姿を変えていき、女性の姿になって二人の前に現れる。
彼女こそが天狗の里をまとめあげ、妖怪の山を支配しようとしていた天魔その人であった。
「いきなりなんだ、怖いじゃないか」
「……あんたんとこの天狗がウチにカチコミしてきたからね。真意を訪ねに来たのさ」
「何故、我々に攻撃を?」
諏訪子と神奈子が問い詰める。それに対して、天魔はあっけらかんと答える。
「こんなにも不安なのだから。山全体を支配しないといけなかった。いわば、自己防衛のようなものだ」
「は?」
「……よく分からないな、不安とは?」
「ははは、今の私はもう、この力で妖怪の山を支配するしかないのだ」
天魔が上機嫌そうに言う。翼を広げて、風を感じていた。
「融合で手に入れた力か……そんなものは不安定で仮初にしか過ぎないだろ。感情が傾けば簡単に崩れるぞ」
「それはどうかな? 融合はな、感情の強さによって変化する。感情が強ければ強いほど、より強固なものとなり、より力を引き出してくれる」
「ふーん……じゃ、どんな感情で融合したわけ?」
「恐怖だ!!」
天魔はいきなり叫んだ。少し恐ろしさを感じているような表情で。
「恐怖で私は里の天狗を強い天狗を集め言うことをきかせ泣くな泣くな泣くな皆に恐怖という同じ感情をうえつけ私も恐怖を感じて怖い怖い怖い私たちはみんな恐怖でひとつになったのだ自由になったのだ!!!」
「落ち着け……まあ、わかったよ。一応最後に聞いておきたいんだけど。貴様、部下のことをなんだと思ってる?」
「拷問道具!?」
「そうか、ありがとう」
瞬間、天魔の体に御柱が突き刺さる。
「融合すればするほど心が不安定になるのか……?」
「分からないけど、天魔は倒さないとダメだね」
「誰を倒すだと?」
御柱に突き刺されたと思われた天魔は、何も無かったかのようにそこに浮いていた。
「諏訪子、本気でやらないとダメだ」
「はいはい」
「アハハハハハハ! 本気でやれば叶うと思っているのか? これは傑作だなああああ!!」
諏訪子は鉄の輪を取りだし、神奈子は素手のまま構える。天魔は大笑いしていた。しかし、急に笑顔を消した。
「消えてくれ」
天魔が威圧する。だが、その程度で守矢の神々は臆することはない。
諏訪子と神奈子が同時に動き出す。
神奈子は天魔に向かって飛び、諏訪子は天魔から距離を取った。
「ああ……頭が痛い痛い怖い怖い!!」
「私が楽にしてやる……よッ!!」
神奈子が全力で御柱を振る。だが、まるで山を殴ったような、いや、山を殴った時よりも固い感触を感じた。
「かたいな……ッ!!」
天魔が手をかざして神奈子に波動砲を放つ。轟音を立てて光の波が伸びる。光が無くなった後には神奈子の姿はなかった。
「手応えがない、避けられたか」
少し離れたところで、諏訪子が神奈子を抱えていた。諏訪子は危機を察知して神奈子を自分の元へと引き寄せたのだ。
「すまん、助かった」
「油断しちゃダメだね、こりゃあ」
「ああ……なぜ生きている? 怖い怖い……」
「見ていられないな」
「……とんでもない力だけど、冷静さを失ってるね」
天魔は神奈子と諏訪子に向かって波動を放つ。そして、それを二人は回避する。当たればひとたまりもない威力だ。
波動を回避して、諏訪子は鉄の輪を投げる。しかし、直撃したというのに、まるで効いていない。
「どうして私は何も痛みを感触を感じないんだ……」
「クソッ、どうやって心を折ればいい……」
「……最悪、命を奪うことも視野に入れた方がいいかも」
「怖い……早く仕留めなければ……」
天魔は神奈子に向かっていく。そのあまりの速さに、周りにも衝撃波が飛ぶ。
そして、天魔は神奈子に踵落としを叩き込んだ。
「神奈子ッ!!」
諏訪子の悲痛な声が、神奈子が地面に叩き落とされる音でかき消される。天魔は不可解そうな顔を浮かべ、徐々に高度を落としていった。
諏訪子も急いで、地上へと降りていく。
天魔よりも先に地上に降りた諏訪子が見たのは、クレーターの出来た天狗の里と、その中心にいる頭から血を流した神奈子であった。
「神奈子ッ大丈夫!?」
「ああ……なんとかな。山の神じゃなかったら死んでたねこりゃ」
ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。背後から天魔の声が聞こえた。
「なんだコレ……なんで里が凍っている???」
恐怖と困惑に満ちた声だった。
「メチャクチャだなアイツ」
「尚更止めないとやばいね」
「……止められるかな〜」
神奈子はそう言いながらも、腕を回してやる気に満ち溢れていた。
諏訪子も鉄の輪を構える。
天魔はそんな二人に目もくれず、里を凍らせた下手人を探していた。
「誰なんだ……里を凍らせたやつは……許せん」
「こっちを見ろ烏やろう!!」
「!!」
御柱で神奈子は直接ぶん殴った。そしてそこにすかさず、諏訪子の眷属の蛇が飛び込む。
「飲み込め!!」
白い蛇の巨体が天魔を飲み込む。しかし一瞬で体が破裂した。
「やめろ!! 暗闇は嫌いだ……」
「思いっきり殴って頬が赤くなっただけか……通用するならワンチャンあるな……」
「あの蛇結構強いんだよ?」
「消してやる」
天魔は一瞬で諏訪子に近づき、そして命を取らんと殴りかかる。
しかし、鉄の輪で受け流される。
「私って意外と武闘派なんだよ……ね!」
鉄の輪で、天魔の首を刈り取ろうとする。しかし、回避される。
回避した後で、弾丸のような雨が天魔を襲う。
「そして私も、意外と御柱以外を使ったりする」
神奈子が降らせた雨であった。神力で威力が大幅に強化されているが。
それでも天魔には通用しない。
「雨……頭が冷えるな……-この恐怖を終わらせるには……」
まず貴様からだ。
天魔は懐から団扇を取り出す。
それを見て、神奈子と諏訪子は警戒を強めるが、遅かった。
天魔は風を使い、雨を諏訪子の方へ飛ばす。
弾丸よりも速い速度で、弾丸よりも硬くなった雨が、諏訪子に刺さる。
それを予測した神奈子は雨を降らせるのを止めたが、瞬間、天魔が一瞬で近づき、かまいたちで、神奈子の体を切り刻む。
その予兆を感じた諏訪子は、カエルを操り、団扇を取ろうとする。
しかし、カエルの動きに気付いた天魔が、乾燥した空気を操り、カエルを干からびさせた。
そのすべての出来事が起こる前に、天魔は神奈子を光線で貫き、諏訪子を熱風できぜつさせた。
「はあ……恨みというのは怖いものだ……命は取らないでやろう……」
息を一息ついた天魔が、辺りを見回す。そして一言。
「里を凍らせたのは誰だ!?」
「あたいだッ!!」
私達はさっきまでの戦いを、いや、蹂躙を隠れて見ていた。そして理解した。勝てるわけがないと。
なのにアイツは何を言ってるんだ?
さっきまで黙っていたチルノは、守矢の神二柱がやられた瞬間、飛び出して、そう啖呵を切っていた。
「お前がやったのか」
「そうだ、あたいがやった!」
「そこのコソコソしている二人はなんだ?」
敵意が、私に突き刺さる。
「正邪さん。私達も行きましょう」
「……いっ、嫌だ」
「……怖いんですか?」
「違う! ただ、もう少しで、仲間が増援を連れてやってくるはずだ!」
「そうなんですか?」
「そうだ、だからまずは撤退しないと……!?」
私は摩多羅からもらった式神を取り出し、それを使おうとしたが、天魔に撃ち抜かれた。
「何をしようとした!? 早く出てこい!?」
「あ、あ……」
「正邪さん、逃げてください」
「お前はどうすんだよ……」
「私は、死にませんので、天魔をボコボコにしてきます」
そう言って東風谷は天魔の元へ飛んで行った。
私は……その場から逃げ出した。
「一人は逃げたか、お前は確か、守矢の風祝だったか?」
「ええ、そうです。こうしてお会いするのは初めてですね。天魔」
「どうして敵意を向けている? 怖いじゃないか。私はただそこの妖精を懲らしめるだけなのに」
早苗は、お祓い棒を構えて、魔法陣を書いていく。チルノは両掌を前に出し、力を貯め始める。
「やれるものなら」
「やってみろ!!」
二人は同時に攻撃を放つ。天魔は飛んで回避する。
「そうか、よくわかった。妖精お前は単純だから恐ろしい」
天魔は上から、チルノに向かって光線を放つ。
それに当たったチルノは蒸発してしまった。しかし、すぐに元に戻った。
「アッチー!! 火傷したらどうするんだ!!」
「お前、何匹と融合したんだ!?」
「融合って?」
「……何匹の妖精と合体した?」
「さあ? たくさんだ!」
「そうか……」
天魔は、チルノの頭を掴む。そして、そのまま天狗の里の外へ飛ぶ。
数秒で戻ってきて、早苗の前に立つ。
「ああ、怖かった。無邪気な妖精ほど、恐ろしいものはないよ」
早苗は何も言わずに、お祓い棒を叩き込む。
天魔は不愉快そうな表情を見せる。
「たかが人間が、図に乗るんじゃない」
天魔は、早苗のお祓い棒を叩き折る。
それでも、早苗は素手で天魔を殴る。奇跡の力で天魔に少しだけ、傷がつく。
しかし、苛立った天魔に腕の関節を外される。
「お前は粗方、誰かのために戦おうとしているのだろう?」
「……だったらなんだっていうんですか」
「お前みたいな奴が怖がるのは、他人が苦しむことだ」
天魔は早苗の首を掴む。そして、空高く上昇していく。
「あの二人から、よく聞かされていたよ。随分と愛されていたんだな」
「……」
「その二人の目の前で、お前を殺す」
「はは、やれるものなら」
「安心しろ、私は恨まれるのはごめんだから。痛みもなく一撃で殺してやる。具体的には、今ここから。地面に。思いっきり叩きつける」
誰も、お前を助けに来ない。怖いだろう? 天魔はそう言って泣いた。
走って、走って、走って。
私は後ろも振り返らずに逃げていた。怖かった。
死ぬのが。どうして逃げたんだという視線が怖かった。違うそんなものはまやかしだ。私は。
私は。
どうしてこんなにも胸が痛む? 東風谷は、チルノは、ついさっき会ったばかりの、他人だ。
そんな奴らがどうなろうが、私の知ったことではない。
それなのに、どうして、罪悪感が胸を支配するんだ。
私の中の
私は、今、とても逃げたがっている。心の底から。
だから、私は、心を。ひっくり返す。
そう決意をしたのに、昔の記憶を、本当に昔の記憶を思い出して。
能力を使う気が起きない。
あの時、能力を私の心に使った時。私は激しく後悔した。
また、同じ結果になるのではないか?
その時、声が聞こえた。気がした。
私は、自分の心をひっくり返した。
そして、走ってきた道を、飛んで戻っていった。
空に、東風谷と、天魔の姿が見える。
私は、落ちていく東風谷と天魔の位置をひっくり返す。
そして、私と東風谷の位置をひっくり返す。
私は天魔を地面に叩きつける。
そして、私の心は元に戻る。
後悔は無かった。
むしろ気分が良かった。
「お前、いったい何をした!?」
「はあ……はあ……ひっくり返しただけだよ!」
「なんなんだお前は!!」
「……我が名は鬼人正邪、生まれ持っての天邪鬼だ!!」
「そうか……死ね!」
天魔に吹き飛ばされて、壁に叩きつけられる。
死ぬ。私は死ぬが、こうやって強者の間抜けヅラを見れただけ、満足だ。
そう思ったら、天魔が立っていた地面から、大きな
そして、姫海棠が現れた。
「大丈夫!? 増援を連れてきたわ!」
「ははっ、遅えよ……!」
「うわっ何? 泣いてるの?」
「安心して、涙が……」
私と姫海棠が会話している後ろで、知らない奴らが戦っているのが見えた。
驚いたことに、いろんな妖怪が混ざっているみたいだった。
「ありがとう、正邪。囮しててくれて」
「ほとんどチルノがやってたけど」
「天魔を引きつけてたじゃない!」
「ほとんど、偶然だけどな」
それでも、私は安心を覚えた。
「さあ! 一緒に天魔をぶっ倒すわよー!!」
やっぱり逃げようと思う。