友情努力勝利鬼人正邪 作:MC下剋上
APPLE
あたいと咲夜は山を下って、お屋敷へと向かっていた。
どうしてあたいに助けを求めたのか、なんとなく聞いてみたけど、咲夜のやつは『お嬢様に命令されただけなので、私にはわかりません』って言ってた。
「なあなあ、あとどのぐらいで着きそう?」
「もう間も無く着くかしら」
「わかったー」
そんな風に話してたら、あたい達の下には大きな湖、『霧の湖』があった。
そういえば、隠岐奈に協力してってお願いされた日から、ずっと帰っていなかった。雪で作ったあたいの家は……あっ! 少し溶けてる。
「あたいの家……」
「どうしたの? いきなり泣きそうな顔になって」
「あたいの家が……」
「家? ……ああ、あれのこと?」
「うん……」
「ご愁傷様」
どうしてこんな気持ちになるんだろ。また作ってしまえばいいという話なのに。あたいの中には家に対する名残惜しさが未だに漂っていた。
『チルノちゃん。大丈夫?』
うーん。まあ、大丈夫! また作ればいいもん。
『そっか。私にも手伝えることがあったら協力するよ』
そうやって話しかけてくれるだけで、あたいは安心できる。何があっても、
そうやって考えていると、どうやら目的地についたようだ。
あたいの前を進んでいたメイドが地面に降り立った。目の前には黒い門。そしてその先には赤いでかい建物。
「紅魔館へようこそ。チルノ」
そう言い終わると同時に、咲夜はあたいにナイフを投げてきた。
「うわっ! いきなり何するんだよ!」
あたいはそれをなんとか回避して咲夜を睨みつける。
「お嬢様から、あなたの力を測れとの命令が。そこで私は考えました……」
門が開いて、その先に咲夜は飛んでいきその先の扉を開いた。
そして……なんだあれ。『拡声器だよ。声を大きくさせる道具』
なるほど。どこからか拡声器を取り出してそれを使ってあたいに話しかける。
「この紅魔館のどこかに隠れた私を捕まえてみてください。時間がもったいないので今すぐ始め」
大きな声が響く。あたいは耳を塞ぐ。
「うえー、うるさいなあ……あれ、あいつどこ行った?」
『あいつ、時を操る能力を持ってるんだよ。きっと時を止めてあのお屋敷のどこかへ隠れたんだ』
「なるほど、かくれんぼってわけね。あたいならすぐに見つけちゃうもんね!」
あたいは屋敷の入り口に向かって駆け出す。前から思ってたけど、紅魔館ってめちゃくちゃでかいな。あたいの家よりもでかいぞ。
『わざわざ見つけ出さなくても、このお屋敷ごと凍らせちゃえば。一発でゲームオーバーだよ』
「え〜、そんなのつまんないよっとお!?」
何か虹色の弾幕が飛んできたのでそれを避ける。
「今のを回避するとは。さすがというべきか……それとも、罪悪感を持つべきか」
槍を持った、赤い髪の妖怪が目の前に立っていた。
「誰だお前は! いきなり攻撃してきて!」
「申し遅れたね。私は
「門はもう通り過ぎたけど?」
「そういう点では私はもう敗北しているのかも。今はただアンタを足止めするだけだ」
そう言ってメイリンは槍を構えてあたいをまっすぐに捉えてくる。
『気をつけて、チルノちゃん。あの人が槍を使う姿を私達は見たことない。どのくらい強いのか分からない』
ふーん。まあ、あたいは最強だから負けるわけないけどね! こんなやつ一撃でのしてやる!
両手に氷の力を貯める。メイリンは全然動こうとしない。はっはっは! 終わりだ!
「いきなりのパーフェクトフリーズだ!」
両手を突き出し貯めていた妖力を解放する正面に向かって巨大な氷の柱ができる。
あたいの勝ちだ。やっぱりあたいってば最強ね!
『……いや、まだ終わりじゃないみたいだよ』
え? 何を言ってるんだ
そんな風に考えた瞬間、目の前の氷が割れた。パリーン? いや、パシャーン? どっちでもいいか。とにかく目の前にメイリンが飛び出してきた。
傷ついた様子は無い。
「館にまで氷が届いたのは焦った……。とんでもない威力だね」
「ふん、運が良かっただけだね、次は絶対に氷漬けにしてやる!」
「次はこっちから行くよ!」
メイリンが体を前のめりにして突っ込んでくる。そして槍の持ち手の部分であたいを叩こうとしてくる。それを手で受け止めて凍らせようとしたら、今度はあたいのお腹を蹴ってきた。
「イテッ!」
「防御はまだまだね。そんなんじゃダメよ」
「なんだよ〜先生みたいなこと言って!」
「火力だけでは私は倒せないし、この先生き残れないということよ」
「あたいは妖精だもん。守りなんていらないね」
「はたして、それは
目の前から美鈴が消える。地面を蹴ったからか、整理された土や道がえぐれて、土の中が露出している。一体どんな脚力をしているんだこいつは!
『チルノちゃん! 後ろ!』
「ッ!?」
振り返って攻撃する。手応えあり!
あたいの撃った氷が美鈴に的中しており、持っている槍が氷漬けになっていた。
そして何より、美鈴は驚いた顔をしている。
「驚いた……背後に目でも付いてるのか?」
「教えてあげないよ、そしてもういっぱつ!」
槍をなくした美鈴なんて、飛べないカエルみたいなものよ! 私はメイリンを氷漬けにしてクールにゲームセット! 『チルノちゃん! また後ろ!』
声に反応して私はすぐさま背後に攻撃した。
「チェッ、そんなうまくはいかないか……でも、これで終わり!」
そういうと同時に、両腕を掴まれて引っ張られて、いててててて!?
『嘘ッ……ごめんなさいチルノちゃん。今のはフェイントだったみたい、本当にごめんなさい』気にしなくていーよ! いててて!
「力の流れを見ているわけでも無い、氣を感じているわけでも無い……私が姿を現した瞬間反応する……」
「痛い痛い! 離して!」
「……すまない」
「謝るんだったら離してよ〜!」
なんだかんだ騒いでいるが、頭は冷静だ。手に氷の妖力を貯めようとする……が何故か貯められない。
「私はむかーしちょっとした修行をしてね、氣を操れるようになったんだ。師匠ほど上手く操れはしないだろうけど」
「だからなんなのさー」
「妖力も氣もそんなには変わらない……私は今、アンタの貯めた妖力を分散させているんだ」
「……どゆこと?」
「……アンタは今、能力を使えないってこと」
「そんな!!」
氷を使えないあたいなんて、水に浮けないカエルじゃないか! 『カエルの種類によっては水に浮けないのもいるみたいだよ』へえーそうなんだ。
いや、違う違う。この状況をどうするかを考えないと。
こいつは気をどうにかしてなんとかかんとかって言ってたな?
腕に妖力を貯めてみる……すぐに消えていった。
頭に妖力を貯めてみる……ちょびっとだけ溜まったけど消された。
足に妖力を貯めてみる……少し溜まったけど消された。
なるほど。
「氷王「フロストキング」!!」
あたいの妖力が消されるんだったら、あたい『以外』に任せてしまえばいいのよ!
あたいは雪だるまを四体……いや、もっともっと! 十……百……千体召喚!! 『実際に数えたら百四十三体だったよ』
「くらえ──!! メイリン!! 百をこえた最強の軍団の攻撃を!!」
「なるほど、私の射程距離から離れた場所に妖力を貯めることで妨害から逃れる……考えたね」
「ふふん! あたいを認めて敬い、負けて凍りつけ!」
召喚した雪だるまどもに攻撃させる。メイリンはついにあたいの腕を話して空に飛んだ。
「よし! 離れたッ!」
『チルノちゃん……? 雪だるまさんたちの攻撃が飛んできちゃってるよ……?』
「えっ!? あわわ!?」
あたいも慌てて空を飛ぶ。あたいを追い詰めるなんて、やるなあたい。『自滅しただけなんじゃ……』お黙り
「さて、降参するか? あたいは優しいから今なら許してやる!」
「降参? いいえ、しませんよ。ここからは、背水の陣だ!」
「!」
ふいんきが変わった!? 『細かいようだけど、ふんいきだよ、チルノちゃん』もー、それ今必要ないって!
とにかく、あたいの目にはあいつの周りに虹色のオーラがまとわりついているのが見えた。
「彩翔「飛花落葉」」
静かに、辺りに響き渡るように聞こえた。そして空気が震える!
『チルノちゃんも震えてるよ? 大丈夫そう?』
ただの武者震いだ! しかし、いったいどんな攻撃を繰り出すんだ?
「はあっ!」
「うわあああああああ!?」
驚いたことに、それは純粋な飛び蹴りだった。めちゃくちゃ早い、回避するので精一杯だ。
しかもアイツ、あたいが召喚した雪だるま達を今ので半分は消し去りやがった!
「くっそ──ー! 残りの雪だるま! 攻撃開始!」
あんなやつ、ボッコボコに……いや、少し熱くなりすぎだ。もう少し落ち着けよあたい……!
オフェンシブじゃあメイリンは倒せない。だからといってディフェンシブだとあたいのプライドが許さない。
そんなことを考えていると、くる! ニ撃目が!
「やあっ!!」
「ッ!」
攻撃させた雪だるま達も熱で溶けたり衝撃で辺りに飛び散ったり……破片が降り注ぐ様はまるで冬のようだな。だけど、おかげで頭は冷やされた。
今のあたいはサイッコウにサイッキョウでチルだ。『なにそれ?』細かいことは気にしないで。
「メイリン! 次で終わらせてやる!」
「……ならば私もそれに全力で答えるとするかな」
メイリンは更に更に気を溜めている。今までの攻撃よりも桁違いだ。当たればひとたまりもないだろう。
だが! あたいには必勝法がある!
「行くぞ!」
異常な速度でメイリンが突っ込んできた。
終わった。そう美鈴は考えた。自分にすら敵わないようじゃ、到底この館で起こっている問題を解決することはできない。
主人が育てた黄金の果実は、収穫するにはまだ早すぎたのだ。あるいはすでに成長しきっていて、この程度の価値しかないのかもしれないが。
「さて、咲夜さんに報告しなきゃ」
「場所わかんの?」
声がして、足を動かそうとして、ようやく違和感に気づいた。足が凍っていたのだ。チルノに触れた瞬間で足が止まっている。
本気で力を入れてもびくともしない。
「おどろいた、どうしてこうなっているのかまったく理解できない。いったい何をしたんだ?」
「ふふふ、お前が蹴ったのはあたいだけどあたいじゃなかったんだ!」
「えーと、つまり?」
「あたいが蹴られる前、あたいはとても冷静だった、そしてお前が最初に攻撃してきた時ら辺の事を思い出した。攻撃だけでは倒せないってな!」
「???」
要領を得ないお世辞にもわかりやすいとは言えない説明を前に、美鈴は何も理解できていないようだった。するとチルノは何かを考え始めた。そして説明をもう一度した。
「……「氷の鎧を作ってそれが砕けた瞬間周りを凍らせるというトラップを作った」という事だ!」
「ああ、なるほど。いや、それなら最初っからそう言ってよ」
「ぐぬぬぬ」
「まあ、でも、これは負けだな」
「意外とあっさり認めるんだな」
妖精という存在は誰もが認めるほど弱い。弾幕ごっこでもそうだ。そんな弱い存在に負けるというのはプライドの高い妖怪はあまり認めたがらないものである。妖精の中では超強い部類に入るチルノもまあまあ経験してきた。
ただし今回の場合は、そもそも紅美鈴があまりプライドが高くないことと、また別の要因が絡んでいた。しかし、それをチルノが理解するはずもなかった。
「まあ、こうなることはどこかでわかってたからね……それよりも、この氷溶かしてくれない?」
「ごめん、わかんない」
「へ?」
「それ、どうやって溶かせばいいのかわかんない。アンタを動かさないために滅茶苦茶頑丈な氷にしちゃったから」
「ガチか……」
美鈴は頭を抱えた。先程の一撃に全力を尽くしすぎて氷を割る手段が何もなかったのだ。弾幕も、お得意の拳法も、疲れてやりたくないできないのである。
「まあ、自然に溶けるって! 大丈夫大丈夫! それにメイリンって妖怪だから足が壊死するようなことはないってさ!」
「ちょ、怖いこと言わないでよ! ……はあ、まあいいわ。ほら、さっさと屋敷にでもなんでも行って咲夜さんを探しな」
「はーい」
チルノは館の入り口に手を掛けて、開いた。そして中へ入っていく。
それを見つめながら、紅美鈴は呟いた。
「黄金の果実の収穫はもうすぐですよ。お嬢様」
そう言って、ただ溜め息を吐いた。
「紅魔館かー久しぶりにきたなー」
『前に来たことあったんだっけ?』
「うん、結構前にね。なんで行ったのかは忘れたけど」
少し歩いたところで、チルノは『友達』の違和感に気づく。
「どうしたんだよ、大ちゃん」
『なにが?』
「どうして顔の左側を押さえてるんだ? 痛いの?」
『私から見て右側だね、別になんともないよ!』
「そう? それならいいんだけど……」
そうしてまたチルノは歩みを進める。
『ねえ、チルノちゃん』
「なに? 大ちゃん」
『もしも、もしも私が悪い人たちにいじめられちゃったら、チルノちゃんは助けてくれる?』
「当たり前よ! あたい達は友達なんだから、助けるのは当然だ!」
『悪い人を殺してくれる?』
「え?」
『やられた事をやり返して、地獄の底の底に落とせる?』
「な、何を言ってるんだよ! 大ちゃん! ちょっと怖いよ!?」
『できないの?』
「……うーん、慧音先生に教わる……よりも前から思ってたけど、命って簡単に奪っちゃダメだと思う。そいつが悪いやつでもそうじゃなくても。それに悪い奴にバチを与えるのって閻魔の仕事でしょ? あたいイタズラは好きだけど仕事は嫌いだ」
チルノは歩みを止めて、大妖精に向き直る。
「まっ! 嫌なことされたらあたいは仕返ししちゃうけどね!」
『ごめんね、チルノちゃん。変なこと聞いちゃって。メイド長を探そうか!』
笑顔を作った大妖精の姿を見て、チルノは安心する。二人は元気よく館を進み始めた。
時は少し遡り、天狗の山で宴会が開かれ、終わりに差し掛かっていた時のことである。
「ねえ、はたて。聞きたいことがあるんだけど」
「あ──、飲みすぎた。ん、何よ、文」
「チルノと正邪以外にもう一人、仲間がいるはずよね?」
「ああ、隠岐奈のことね?」
「いや、その、大ちゃんっていう名前の仲間がいるんじゃないですか」
「……いや、いないけど?」
はたてが答えると、文は一枚の写真を取り出した。
「この写真はさっきチルノが描いた絵。宴会がつまんなかったみたいで、一人抜け出して新聞用の紙にどこからか持ってきたクレヨンを使って描いたやつね」
絵には人物が四人描かれており、それぞれ左から正邪、チルノ、大ちゃん、はたて、と拙い文字ながらも書かれていた。
「確か、チルノの友達に大妖精という友達はいたわ。その妖精のあだ名だと考えれば納得はできる。けど絵に描かれた辻褄が合わない」
「へえええええ、あんたよくそんなチルノについて知ってんね? チルノと大妖精ってどんなふうに過ごしてた?」
「記事にならなそうなんで詳しくは覚えてないけど、親友っぽかったわね。友達の多いチルノの中で特段親しかった」
「んじゃ、あれよ。絵で自分一人だと寂しかったから友達に大親友を描いた! それで決まり事件解決! 私ってば名探偵ね〜」
「そんなもんなのかしらね? まあ、いないっていうのなら信じるけど」
「真面目に考えると、子供って友達を特に大切にするからね。たとえその場にいなくとも、一緒に描くのはなんら不思議じゃない」
そういうものか。納得したような表情をして、文は去っていった。
一人残されたはたてはガラケーを取り出した。
「気になっちゃうから私も見ちゃお〜」
パシャリ。
念写でチルノを撮る。まだ絵を描いているのか? それとももう既に描き終わって別のところにいるのか? どっちでもいいと考えた。
撮れたのはチルノの寝顔。イメージしていたものとは裏腹に静かに眠っていた。
「ははあ、静かに寝てるわね〜。いや、その場にいないからわからないか」
自分で自分に突っ込むかなり高等な技術を発揮した後、絵の方に目を向けた。
「え」
そこに写っていたのは、大ちゃんの顔の左半分が赤黒く塗りつぶされた様子だった。
「は、あ、わ、わかった、私酔ってるんだ。それか、夢見てる。みず。水飲みに行こ」
そう言いながらガラケーの写真を削除して、はたては水を飲んで深い眠りについた。
この時彼女にとって幸運だったのは、お酒をたくさん飲んでいたおかげで宴会の記憶がほとんど消えたことだろう。
消された写真と共にそれは静かに忘れ去られるのだ。絵も、描いたチルノがシワクチャにしてしまい、ゴミとして消えていったので残っていない。
所詮その程度の存在だったんだ。気付いたところで何も変わらない。
ねえ、そうでしょ? チルノちゃん。