友情努力勝利鬼人正邪 作:MC下剋上
奇怪!! 永遠亭に迫る魔の手!!
文と一緒に私は永遠亭へと向かっていった。
天狗の里がある妖怪の山と永遠亭のある迷いの竹林は幻想郷において対極の位置に存在している。つめりめちゃくちゃ遠いわけだ。
「ねえ、本当にこれ行かなきゃダメ? すごくダルいんだけど」
「何言ってるのよ……行く前はあんなにやる気満々だったのに」
「だって遠いじゃん……インドアの私にとってはキツイったらありゃしないわ」
「はあ、じゃあ一人で帰れば?」
「それもやだ」
テンションはダダ下がりのまま、私たちは永遠亭に渋々向かいながら、隠岐奈の言っていたことを思い出す。
『どうして永遠亭に行くかって? それはな、永遠亭に不可思議な結界のようなものが貼られていてな。侵入できるにはできるみたいだが、式神を送った瞬間すぐ破壊された。永遠亭は自由に解放されていた方が都合がいいから調査してほしいのだ』
どうして結界が貼られているのかしら。永遠亭っていうのは、簡単に言えばすごい病院だから……異変の影響を受けないようにとか? わからんわー。
「はたて、もうすぐ着くわよ」
「はいはーい……ん?」
私たちは迷いの竹林に着いた瞬間、違和感に気づいた。
「なんか、黒いわね」
「そうね、あれが秘神の言っていた結界のようなものかしら」
迷いの竹林付近から、竹林全体を囲むようなドーム状の結界が張られていた。
「……あれ、大丈夫よね? 触れたら即死とかない?」
「念のため、はたてで試しておきましょうか」
「やめて?」
とりあえずパシャリ。念写で結界内部を撮影してみる。そして、驚くべきことにそこに写っていたものは……。
「ふつうね」
「ふつうだわ」
永遠亭の敷地内で過ごす兎達が写っていた光景だった。
なお永遠亭では兎が医療の手伝いをしているのでこれはなんらおかしくはない。
「能力が通じる、式神も送れる、内部では特におかしな様子も助けを求める様子もない。なんなのかしら? この結界」
「とりあえず入ってみる?」
「入った瞬間即死とか?」
「そんな殺意の塊のような結界があってたまるもんですか」
何も考えず手を結界に突っ込んでみる。何かに触れるような感覚はなく、ただ手が暗闇に沈むだけだった。
「なんだこれ……」
「即死ではないようで安心ね。とりあえずのぞいてみる……ッ!?」
そういいながら、文が頭を突っ込んだ瞬間。何かによって体が結界の中へ引き摺り込まれていく!!
「あ、文!!」
急いで引っ張って助けようと思っても、引き摺り込む力は圧倒的に強く(私が運動不足で力不足なのもあるが……助けようとしただけ評価してほしい)文は結界の中、恐らく永遠亭に連れ去られてしまった。
「う、嘘でしょ〜……」
どうすればいいのだろうか? 里に戻って助けを呼ぶ? でも、その前に文がやられてしまうかもしれない。今すぐに文を助けにいく? 私に何ができるのか……?
そう考えて自分の頬を叩いた。しっかりしなさいよ! 私!
「私は里を救ったヒーロー、英雄、勇者! こんなところで止まっているわけにはいかないわ!」
そうやって自分を鼓舞して恐る恐る結界に飛び込んだ。
その先には真っ暗闇の世界が広がっていた。
「文ー? いるー? あややーあややー? あややーやあーやや?」
名前を呼びかけても誰も何も答えない。ちょっとふざけたけどなんにも言われない。
「まずい、すごく不安になってきた……」
暗闇の中に一人、実はこの結界は境界を操るらしい八雲の策略で、入ったやつを異次元に飛ばして一人ぼっちにさせて終わらせるとか……?
そんなの嫌すぎる!
そんなふうに考えると、目の前に光と色が見えてくる。
その光は何かに遮られたような光で、あまり強いものではなく、色もほとんど緑一色だった。普通ならば安心感を覚えないだろうが、さっきまで光のない、暗すぎる真っ黒な空間にいた私にとっては安心できるものだった。
「こ、ここは! 迷いの竹林!」
どうやら結界を抜け出して、目的地の永遠亭のある迷いの竹林についたようだ。
とりあえず何事もなかったことに安堵して、息を吐く。
「ふう、とりあえず、文と合流しようかしら……」
同じく結界を通ってきていたので、恐らく文も竹林の中にいるはずだ。あるいは永遠亭に既に辿り着いているか。
「……永遠亭ってどうやっていけばいいの?」
ここは迷いの竹林。場所を教えてくれる星々が竹により隠されて、常に北を指す方位磁針がそっぽを向いて、どんな生物にも少しはある時間感覚を惑わせ、そして、目的地からそれて寄り道してしまう。
迷わずにこの竹林を通り抜けるには、竹林で何百年も過ごし経験を積むか、圧倒的な幸運に身を任せるか、驚異的な勘を信じて進むしかない。
それが迷いの森って文の新聞で読んだ気がする。
「……とりあえず飛んでみようかし「はたて──────ー!!」うわああああああ!?」
すごい勢いで飛んでくる奴がいた。
そして私はこいつを知っている。
「あ、文!?」
「ああ、あ、はたて、はたてだ。はたて!!」
「ちょ、ちょちょっと落ち着いて? 私の中のあんたに対するイメージが崩れ去るから!」
「むりよ!! 落ち着くなんて!! ようやく、ようやく会えたんだもの!!」
そういいながら抱きついてくる。えー、めちゃくちゃ痛い。天狗の中でも力強いんだから勘弁してほしい。てか、泣いてる……。
「あんたってそんな暗いところ苦手だったの? そりゃあ、あんなところずーっといたら気が狂いそうだけど、まだ五分もたってないじゃん」
「……ああ、はたては、何にもわかってないんだ。この地獄の事を……」
「……地獄?」
幻想郷には地獄と呼ばれる場所が二つあるが、永遠亭はそんな場所とは対極のはずだ。迷いの竹林も、運が良ければ案内人みたいなやつに助けてもらえるからそこまで危険じゃないらしいし。
「ねええ、ちょっと本当にどうしたわけ? 地獄って何?」
「……あの結界に私達は入るべきじゃなかったの。あの結界は、永遠亭を守るものではなかったの」
「……つまり?」
「あの結界は、内部に入った生き物を閉じ込め、苦しめ、地獄を味あわせるものだったのよ」
だから地獄か……けれど、どこが地獄? 今のところ普通の迷いの竹林にしか見えないけど。
「私はこの結界の中に来てから……既に四百穣年経過しているわ」
「穣……なんですって?」
「四百穣。一穣というのは二十九桁目の数字で、一穣と四百の積の年数過ごしていたわ」
「ごめん、なんて?」
「もっと簡単に言えば、一、十、百「ああ、もういい、もういい、聞こえたけど理解したくなかっただけ!」そう」
私が聞き間違っている事を願っていたが、現実は違うらしい。目の前の文が言っていることは本当……なの? まだ、私は断定できないが。
「ていうか、普通そんなに時間過ごしてたら、死ぬでしょ。いくら妖怪と言っても限度があるじゃない」
「この結界は、内部にいる生き物の時間の感覚を乱して、一秒をとんでもなく長い時間に錯覚させてるの、だから体は朽ちていかない」
「はあ……そうなんすか」
「まあ、信じられない気持ちもわかるけどね」
とりあえず、永遠亭に行こう。そう言って文は飛んでいった。
「永遠亭までの道わかんの?」
「四百穣年過ごしたから、全部記憶してるわ。竹の配置も、石の位置も、永遠亭の場所も」
そういいながら、文はするするーっと竹の合間を通り抜けていく。怖。私はその背中を追うので精一杯だ。数分ほど飛んだだろうか、ようやく竹の中に何か建物が見えた。
「到着っと、すいませーん永琳先生はいますかー?」
「あ、文さん。お帰りなさい。先生なら怪我人の看護をしていますよ」
「すご……本当に着いちゃったよ」
地面に降り立った文はそこら辺にいる妖怪兎に話しかけて、永琳……確かこの永遠亭で医者をしている人物だったはずだ。念写で盗撮したことがあるが、ポニーテールの髪型をしていて、赤と青で半分半分のオシャレな服を着ている人だったはず。
文に倣って私も地面に降り立つが、その瞬間、私は地中に落下した。
「うわあああ!?」
驚いてしまったが、冷静に観察すると、どうやら落とし穴に落ちてしまったらしい。
私が落ちた後上を見ると、土が空中で止まっていた。生き物以外に適用されないってこういうことなのか?
「あはは! 引っかかった引っかかった〜!」
「ああ、そういえばはたては知らないか。てゐ?」
落とし穴から這い上がると、文が兎の首根っこを掴んでいた。
「いやー、ここの連中はもう罠を完璧に理解してるもんでさ〜。何にも知らない奴しか引っかからないんで……出来心だったんだよ許しておくれ?」
「んーギルティで」
「おけ」
「いてっいてててててて」
文はてゐを軽くビンタした。意外とあっさりしてるわね。何故かてゐはずっと痛がっているが。
「ていうか、文はなんで私を永遠亭に連れて来させたの? この結界をなんとかしないと不味くない?」
「そのために永琳の元へ向かうのよ。あの人が一番頭がいいし、ここら一体をまとめてるから」
「ふうん」
永遠亭の中に入って、へえこんな感じなんだ、初めてきた。そしてめちゃくちゃ広い廊下を迷わずに進んでいく。
文はこの永遠亭の間取りも知っているようだ。
とりあえず着いていくと、一つの部屋の前で止まった。病室。部屋の名前を表す札にはそう書かれていた。
「失礼します」
「し、失礼します」
扉を開けると、そこには病人と医者の姿があった。恐らくあの人が
青い帽子を被り、黒い髪を揺らしている。白衣を着て、何かを持っている用紙に記入している。
「永琳先生、お伝えしたいことが」
「ああ、文。お帰りなさい。血相を変えて飛び出していったけど、どうしたの? ……あら」
かなり、なんというか、美しい顔をしていた。驚いて背を伸ばしてしまう。
「あ、どうも、姫海棠はたてです! 花果子念報という新聞を書いています」
「ええ、どうも、文から話は何度も聞いているわ。一緒に行動している親友だったと」
「いや、ちょっ、それは言わないはずでは!?」「そうだったかしら?」
「え!? そうなの? へへっ」「へへっ、じゃないわよ、まったく……」
こほん、と咳払いをして、とりあえず自己紹介をしてください。と文が永琳さんに言った。
「どうも、八意永琳です。この永遠亭で院長を務めているわ」
「よろしく」
ええ、よろしく。そう答えて、永琳は病人にまた向き直った。
茶髪で長い髪の人……いや、人間ではなく妖怪か? 妖力が今にも消えそうで弱かったが、人ではなく妖怪であることは感じ取れた。それに、よく見れば狼の耳が見える。
かなり重症そうだ。
「その妖怪は?」
「患者については教えられないわ。プライバシーに関わることですから」
「確かに……まあ、傷が治ってから本人に聞けば大丈夫でしょ?」
「そうね、傷が治って本人が起き上がって、本人の意思で話す分には大丈夫でしょうね」
「よっし、妖怪だからすぐ治るでしょ、とりあえず一日くらい待ってみるか。ねえ文!」
文に話しかけても、何も言われない。口を固く結んで、何かをいいたげだ。
「な、何その顔」
「……はたて。彼女は治りません」
「…………は?」
「ここは、地獄ですから」
そういう文は全てを諦めたような顔をしていた。
わかってた、なんとなくだけど。変わらない日差し。動かない竹、靡かない風。私と一緒に落下しない土。変化しない体。つまり、目の前の妖怪は怪我をしたまま限りなく永遠に治らない。
そういえばてゐも一度のビンタでずっと痛みを感じていた。演技かもしれないが。
「永遠に、私達はこの結界に閉じ込められる」
「ちょ、ちょっと待ってよ。外に出ようとは」
「したわ。けど、何にも起きなかった。実を言うと、もう感情も薄れてきた。自分が正気なのかどうかも怪しい。いや正気ではあるのでしょうけど」
「……で、でも流石に忘れたり」
答えはあまりに残酷だった。
「ここにきてからのことは、全部覚えてる。話してあげようか? 記憶も朽ちていかないものだから」
「……丁重にお断りする選択肢は?」
「ない」
射命丸文が結界に侵入してから一日目
結界の外で0.00000000000000000000000000166……秒経過
「ま、まさか顔を突っ込んだら連れ込まれるとは……はたて? はたて、聞こえてますか?」
周りには暗闇しかなかった。前に進んだら迷いの竹林に出た。多分はたてと一緒。
迷いの竹林で迷って数日は過ごしたわ。
ただ、その時は何にも違和感を感じなかった。お腹も減らなかったし日差しも変わらなかったから。体が疲れることもなかった。
射命丸文が結界に侵入してから五日目
結界の外で0.00000000000000000000000000833……秒経過
「ふう、ようやく永遠亭を見つけたわ。ここにきてから、んー五分くらいかしら?」
「……えっ?」
「おお、第一村人発見! どうも! 清く正しい射命丸文です!」
「あ、ああ、し、知らない人! 知らない人だあああ!!」
「ええっ!?」
初めて出会った兎に急に泣きつかれた時は驚いたわ。でも、まあ、これもはたてにした事と一緒よ。これが正常。だから決してアンタに抱きついたことはおかしくない。いいね? 「アッハイ」
「なるほどなるほど? 時間が引き延ばされていると? 任せてください! この私、清く正しい射命丸文が解決してみせましょう!」
うん。希望はあったわ。最初はね。
「まずは結界に単純に攻撃してみましょう! ……びくともしませんね!」
射命丸文が結界に侵入してから十日目
結界の外で0.0000000000000000000000000166……秒経過
「ああ、結界術を学んでおけばよかったわ〜。うーん、何か媒介がある? そもそも術者は? 誰が巻き起こしている?」
射命丸文が結界に侵入してから五十日目
結界の外で0.0000000000000000000000000833……秒経過
「ていうか、はたてはいつまでモタモタしてんのかしら。疲れも感じない、痛みは弱いけど長続き、お腹も減らない。飽きてきたわ」
射命丸文が結界に侵入してから百日目
結界の外で0.000000000000000000000000166……秒経過
「いやー、たまには遊びながら過ごすのも悪くはないですね! あはは……」
射命丸文が結界に侵入してから五百日目
結界の外で0.000000000000000000000000833……秒経過
「さすがに本気で飽きたわ。そろそろ本気でこの結界に取り組むしかないかしら」
射命丸文が結界に侵入してから千日目
結界の外で0.00000000000000000000000166……秒経過
「……どうすればいいのかしら。この結界を壊すには?」
射命丸文が結界に侵入してから五千日目
結界の外で0.00000000000000000000000833……秒経過
「この中に、いるでしょう!? 結界を作った存在が!? そうじゃなきゃ、ありえない!! 全員、全員再起不能にしてあげますよ!」
射命丸文が結界に侵入してから一万日目
結界の外で0.0000000000000000000000166……秒経過
「ああ、その節は申し訳ありませんでした。ええ、もう大丈夫です。先生に薬をもらったので」
射命丸文が結界に侵入してから五万日目
結界の外で0.0000000000000000000000833……秒経過
「……」
射命丸文が結界に侵入してから五億日目
結界の外で0.000000000000000000833……秒経過
射命丸文が結界に侵入してから五兆日目
結界の外で0.00000000000000833……秒経過
射命丸文が……
結界の外で0.0000000000……
そして今に至る。
「うん、わかってたけど、重いわ」
「感想薄すぎません?」
「薬って、大丈夫な奴なの? なんか嫌に落ち着いてたというか、それ以降完全におとなしくなったけど」
「ああ、ただの精神安定剤らしいわ。まあ、こんなところにずっといたら精神がいかれるからしょうがないけど」
「へえ……」
「あなたも試してみる?」
永琳が錠剤をはたてに差し出した。しかしその手をはたてはパーで押し返す。
「いらないわ。私、精神メッッチャ強いから、軟弱者のこいつとは違うんで」
「アンタも過ごせばわかるわよ。まじでストレスすごいから」
「とりあえず、私も結界にアプローチを仕掛けるけど、文、アンタはどうすんの?」
「結界はもうみたくないので、空を眺めてます」
「おお……」
ガチでこの世の終わりみたいな顔をしていたので、そっとしておこうとはたては思った。
「薬が欲しかったら言ってね? いつでも常備しているので」
「ありがとう、永琳。じゃあ行ってくるね」
「くくく、はたてがいつまで持ち堪えられるか見ものね」
「お前は誰の味方よ」
そうしてはたては自分が最初にいた結界まで戻ってきた。途中迷いかけたけど、本来の迷いの竹林より道がわかりやすいので大丈夫であった。
そして黒い結界に触れる。
「うわ、なんか固いわね、最初に来た時とは大違い。本当に内部に閉じ込められるってわけか」
そう呟きながら結界をペタペタ触り、時には殴り、時には蹴った。
「ダメだ、大体のことは文が試してるんだった」
うーん。と考えた後。はたては自信が持つガラケーを構えた。
「しかし、念写は私以外誰にも使えない! 試してみる価値あり!」
パシャリ! ボタンを操作してはたては結界の外を念写した。
「そう! たとえば結界の外を念写することで、外とのつながりが生まれて、外に出られたり……するわけでもないか」
はあ、ため息をつきながら、はたては地面に腰を下ろした。やはり文が言った通り、全てが無意味な行為ではないか。何をしても無駄なのでは? そんな考えが浮かんでくる。
そうなった途端に急に気分が落ち込んできた。
「はあああああ〜……撮った写真のアルバムでもみて心を落ち着かせよう……これは前の新聞に使おうとした弾幕の写真。これも、これもこれも、嘘……私の写真少なすぎ……!?」
心を落ち着かせようとしても逆効果であった。
「お、これは先日の文と戦った時の写真。気づかなかったけど意表をついたから驚いた顔してて、ウケる〜」
そんな風にガラケーを操作していると、ある場所で手が止まる。
「これは、今撮った外の写真……あれ? なんか地面に赤いのがついてる?」
はたてはもう一度外の景色を念写で撮る。ただし今度は、外の世界全体を映すものではなく、地面を積極的に映すものだ。
この結界に入る前に自分が立っていた場所であったはず。しかし、赤い印などなかったような気がするが……。
そんな思いで念写した写真を見ると、はたては驚いた。
私! 無限を観測して!