アビドスユメモドキ   作:泡沫のユメ

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8:出会い

「もう·····困ってるから助けて欲しいって言われたから来たのにまさか待ち伏せされてて襲われるなんてね····ねえホシノちゃん、アビドスってなんでこんなに治安が悪いんだろうね?」

 

「どんどん人が減って不良ばかりのスラムになってるからじゃないですかね。今のアビドスは無法地帯なんですよ」

 

「知らない人は全員悪いやつだと思ってください」

 

「····でもさホシノちゃん、もし本当に困ってる人だったらどうするの?」

 

「そんな人はいません! 誰も彼もみんな悪党です!」

 

「そう、なのかな······そうかも····」

 

 

「そうですよ! 手を差し伸べたってすぐ裏切られるんです! そんなんじゃ学校を守れません!」

 

「先輩、今からでも····」

 

「うーん····でも、やっぱりそれは違うと思うよ。ホシノちゃん」

 

「ゆ、ユメ先輩······?」

 

「大事な話だからよく聞いてね」

 

「疑念、不信、暴力、嘘····そういうものを当たり前だと思うようになっちゃったらさ、私達もいつか、自分を見失っちゃうよ」

 

「もし、アビドスに人が帰ってきてくれたとして、そういうのが当たり前の街になっちゃってたら····それは今よりももっと酷くて、どうしようもないような状況だと思うんだよね」

 

「だからね、ホシノちゃん。困ってる人がいたら、手を差し伸べてあげるの。お腹を空かせてたり、寒さに凍えてる人がいたら助けてあげるの」

 

「私達が信じてあげないと何も始まらないからさ」

 

「·········」

 

「うまく伝えられてるかはわからないけど····優しいホシノちゃんなら私が何を言いたいのかわかってくれるよね····?」

 

「·······それで裏切られたらどうするんですか? 今日みたいに危険な目に遭ったら?」

 

「·········その時はホシノちゃんが助けてくれるもんね?」

 

「············まあ、行きますけど····」

 

「·········」

 

「ちょっと! 何ニヤニヤしてるんですか!」

 

「んー? ホシノちゃんが嬉しいこと言ってくれたからね! メモしておこうかなって!」

 

「はぁ!? って、ちょっと! 書かないでくださいよ! っていうか何ですかその変な手帳!」

 

「····そうだ、ユメ先輩。ひとついい作戦を思いつきまして····これならアビドスの治安もよくなると思うんです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「········ユメ先輩?」

 

「せ、先輩!? どこですか!?」

 

 

「ユメ先輩!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ··················夢、か.........あれから、あの事件から半年近く経った。先輩はいつ目を覚ましてくれるんだろう······

 

 

「ホシノ、先輩...」

 

 

「なんだ、また君か」

 

 声を掛けてきた子は十六夜ノノミちゃん。とっくにアビドスを捨てたネフティスの令嬢なのに、何故か何度もうちの学校にやってくる。

 

「あの、大丈夫ですか....?」

 

「········」

 

 大丈夫か大丈夫じゃないかで言えば、大丈夫じゃないんだろう。ここのところよく変な夢をみる。

 

「入っていいって誰がいったの? 中学生はお呼びじゃないよ」

 

「悲鳴が、聞こえたので....心配になって····」

 

 悲鳴....悲鳴か。多分この子はほんとうにそれだけの理由でここまで来たんだろう。

 

「あと、もう卒業したので中学生じゃありません。ネフティスと協力関係にある学園に、進学することが決まりました。ハイランダー鉄道学園····そろそろ、家に入学書類が届いているはずです」

 

「じゃあ君は早くそっちに行くといいよ。こんな所で油売ってないでさ」

 

「········はい。なので最後に、ここを見ておきたくて..」

 

 

「それで、校庭にいたら悲鳴が聞こえて...」

 

 すぐに怒れなくなってきた辺り、この子に少し絆されているのかもしれない。だって何度も脅している相手を心配して見に来るような優しい子でお人好しだ。誰かに似ている。

 

「そう。じゃあ適当にみたら帰るんだよ」

 

 

 ノノミちゃんを置いて、私は廊下に出ようとする

 

 

「·······聞きました」

 

「?」

 

「生徒会長の失踪事件······たしか····ユメさん、ですよね」

 

「·······」

 

「アビドスに問題が多かったから逃げた、という方もいますが····」

 

「極秘とのお達しでしたが、私の耳にも入ってきました。生徒会長は、失踪したのではなく···砂漠で遭難して、目を覚まさなくなってしまったって····」

 

「それに、第一発見者は····」

 

「す、すみません! こんな話を、先輩の前で···」

 

「いいよ。そんなに気を遣わなくても」

 

 どうせ関わらなくなる他人なんだ。それにこの子のことだ。なにか悪意があって言っている訳じゃないんだろう。なら責める理由はない。それにそもそも、責める権利だって私にはないんだ。

 

「あの、もう砂漠に行くのは、やめたんですか?」

 

「生徒会長が発見されてからもずっと砂漠にいたのは、何かを····何かを探していたからなんじゃ?」

 

 探してないといえば嘘になる。でももうほぼ諦めたし、言う必要も無い。きっと私は、先輩の手帳を見ることはできないんだろう。

 

 私が黙ったままだからなのかノノミちゃんは話題を変える。

 

「そ、そういえば、ここはアビドスの生徒会室ですよね? 前は閉まっていたはずですが·····」

 

「もしかして、なにか探し物ですか?」

 

 やっぱり変わっていなかったかもしれない。

 

「·······もう行くよ」

 

 誤魔化すように、逃げるように私は生徒会室を後にした。

 

「あっ! ま、待ってください先輩!」

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「それでさ、なんのために来たの?」

 

 

「え、最後にここを見ておきたくて..」

 

「そうじゃない。どうして私についてくるのかってこと」

 

「学校の違う君に、先輩だなんて呼ばれる筋合いもないし。ハイランダー鉄道学園、だっけ? そこに入学するんじゃなかった?」

 

「そ、それは......」

 

「·····このまま進学したら、ずっと後悔すると思うんです...」

 

 後悔....? なんでだろう。私と違ってこの子はアビドスと何の関係もないはずだ。ネフティスの令嬢ではあるんだろうけど、でもそれだけだ。それにネフティスとコネがある学園なら特別待遇で入学できるのだろう。

 

 気になったので聞いてみることにした

 

「なんで? ネフティスとコネがある学園なんでしょ?」

 

「はい。きっと、素晴らしい待遇で迎えてくれると思います····生徒会長にもなれると思いますし...」

 

 生徒会長·····生徒会長、ね。

 

「へぇ、生徒会長に? いいんじゃない?」

 

「········」

 

 

「·········まあ、お嬢さんにも事情があるのはわかったよ?」

 

「でもさ、ここに来たところで後悔するのは一緒だよ。こんな何も無い学校にきてどうするの?」

 

 そうだ。この子は私なんかとは違って失敗もしていないし未来があるんだ。こんな何も無い場所に来る必要なんてない

 

「お嬢さ────いや、ノノミちゃんはまだ若いんだからさ、おじさんの言うことを素直に聞いておきなよ」

 

「お、おじさんって...私と年の差はほとんどないと思うんですが...」

 

「中学生でしょ....?」

 

「もう卒業しましたけど...」

 

「まあ、どっちでもいいよ」

 

 実際の年齢で判断した訳じゃないし。この子には未来があって、失敗して後悔することしかできない私には未来がない。それだけの話だ。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「いやぁ、ちょっと乱暴だったかな」

 

 ノノミちゃんは結局アビドスに残るようにしたようだ。家出をしてまでアビドスに入学する、というのだから驚いた。そこまで言うのならもう否定はしない。

 

 そんなこんなでふたりで雪の降る学校にいたのだが突然何者かに襲われて返り討ちにしたのだ。

 

「お名前は?」

 

「····シロコ。砂狼シロコ」

 

「へぇ.....シロコちゃんっていうんだ。それで、シロコちゃんはここで何をしてたんだい?」

 

「ここさ、廃墟に見えるけど····一応アビドス分校────いや、アビドス本校なんだよ」

 

「その制服····初めて見ました」

 

 ネフティスの令嬢故色々と詳しいであろうノノミちゃんがそういうのなら本当に珍しい制服なのかもしれない。しかもこの天気だと言うのに薄着だ。

 

「ね。それに、そんな薄着じゃ寒いよ」

 

「えっと、シロコちゃんはどこの学園の子なの?」

 

 

「······わからない」

 

「····?」

 

「気がついたらここにいた。名前以外···なにも、わからない」

 

 ····嘘をついているようには見えない。なにもわからなくて、でも寒くてお腹も空いて辛くて。どこかを襲うしか手段が残っていなかったのかもしれない

 

「では····シロコちゃんは名前以外なにもわからない、と? 通っている学園も、電話番号も、メールアドレスも?」

 

 頷いている。ほんとに、ほんとうになにもわからない、覚えていないのだろう。

 

「ほ、ホシノ先輩、どうしましょう?」

 

「ん〜困ったね」

 

 不良達とは訳が違うのだ。本当に困ってしまった。このまま放置するのもなんだか気が引けてしまうしどうしよう···

 

「········」

 

 

『疑念、不信、暴力、嘘....そういうものを当たり前だと思うようになっちゃったら、私たちもいつか自分を見失っちゃうよ』

 

『だからね、ホシノちゃん。困っている人がいたら手を差し伸べるの。お腹を空かせてたり、寒さに凍えてる人がいたら助けてあげるの』

 

『私達が信じてあげないと何も始まらないからさ』

 

 

 

 

 ···········

 

 

 

 

「とりあえず····なか入ろっか、シロコちゃん」

 

「えっ!? い、一緒に行くんですか?」

 

 ノノミちゃんが驚いている。当然の反応だ。襲われた相手と一緒に行く、と言っているのだから。私も正直どうかと思うし....

 

 でも、それでも。私はこの子のことを見捨てることはできないようだった。それにしても寒そうだ。

 

「これ、巻いておきな〜」

 

「────マフラー····?」

 

「うん。ないよりはいいかなって思ってね」

 

 今はこれくらいしか渡せない。

 

「どう? ちょっとはマシになったでしょ?」

 

「·····うん。······あったかい」

 

「うへ〜。よく似合ってるよシロコちゃん。そのマフラー、おじさんがセールで買ったものなんだけどさ、大事に使ってよね?」

 

「ん、わかった」

 

「·········」

 

 ノノミちゃんがこちらを見てくる。なにかあったのだろうか? 

 

「ホシノ先輩、今おじさんって····?」

 

「·····ん?」

 

「それに、うへ〜って·····」

 

 ····久しぶりに自然に笑った気がする。先輩と一緒に人助けに行った時のことを少し思い出した。それにノノミちゃんと喋るたびにおじさん、って言ってたせいで慣れてしまったのかも。

 

 

「····何言ってるの、いつも通りのおじさんだよ」

 

「また····」

 

「あ〜...」

 

 これも癖になってしまったのかもしれない。もうこの際ノノミちゃんにも慣れてもらおう

 

 

「っくしゅん!」

 

 話しすぎてしまったみたいだ。マフラーだけじゃ寒いだろうし早く中に連れて行こう。

 

「と、とにかく早く入ろっか。シロコちゃん鼻水垂らしてるし」

 

「あ。はい! シロコちゃん、行きましょう」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 服を探してからシロコちゃんと一緒に学園祭事務室に来た。生徒会室も閉めたし、この前ノノミちゃんがこの部屋を発見してからここで話をすることが増えていたから癖で連れてきてしまった。

 

 そして、とりあえず見つけた予備の制服をシロコちゃんに着せてあげた。

 

 

「うへ〜ピッタリだね。予備の制服が残っててよかったよ」

 

「ん」

 

 褒めてあげたらシロコちゃんがドヤ顔をしていた。私とは違って素直な子だ。

 

「ひとまず、これで我慢してください。後で新しいお洋服を用意しますから」

 

「大丈夫」

 

「でも、これはアビドスの旧制服なので····新しいものを後で買いますよ?」

 

 シロコちゃんが首を横に振っている。制服が気に入ったのかもしれない。

 

「それ、気に入ったの?」

 

「ん!」

 

「うーん、シロコちゃんがいいのであれば構いませんが...」

 

 すっごく気に入ってるみたいだ。もうこれ以外の服は着ない! と口だけでなく目でも語っている。目は口ほどに物を言うってほんとだったんだ。なんてくだらないことを考えていた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 気がつけば4月になっていた。先輩がいなくなってからもう8ヶ月も経っている。ノノミちゃんとシロコちゃんのおかげで少しだけ、ほんの少しだけ前を向けるようになった気がする。

 

 そんなノノミちゃんとシロコちゃんだがアビドスに入学してくれることになった。ノノミちゃんはもともとそのつもりだったのだろうがシロコちゃんは

 

『ホシノ、私と勝負して。負けたらなんでも言うことを聞く』

 

 なんて言うものだから入学して、と言ってしまった。ひとりにしちゃうと何かやらかしそうで心配になってしまったのだ。記憶が無いからなのか借金の返済についても、銀行強盗だとか襲って物を奪うなんてことばかり提案してくるし。

 

 そして無事に入学式を終えた私は先輩のお見舞いに行っていた。

 

 たくさん生徒が増えた、とはとても言えないがそれでも後輩が2人増えたのだ。先輩が聞いたらきっと喜んでくれるに違いない。

 

 意識が無いから伝わっているかはわからない。でも、それでも先輩には報告したかった。先輩が言っていたことは正しかったんだって。後輩たちは入学してくれたんだって。

 

「失礼します。ユメ先輩」

 

 返事が返ってくることは無いがお見舞いするときはいつも声をかけるようにしている。

 

 

 

「あ、ホシノちゃん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────え?」

 

 

 

 





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