アビドスユメモドキ 作:泡沫のユメ
私は体力を元に戻すためにも朝ランニングをしながら学校に向かっていた。
「うーん····明らかに体力落ちてるなぁ····まずいよね····原作まで後1年もないのに····」
うん、本当にまずい。運動能力は私の強さの要だったのだ。私は射撃精度が優れているわけでは無いし。盾と自慢の身体能力で無理やり近づいてショットガンを撃つ、というのがメインの戦法なのだ。
·······ちょっと脳筋すぎる気もするけど。前世で銃なんて撃った事もなかったし、仕方ないよね?
考えながら走っていると前から見たことのある子が走ってきた。
「え、シロコちゃん?」
そうシロコちゃん、銀行強盗大好きなメインヒロイン、砂狼シロコだ。
「ユメ先輩、おはよう。何してたの?」
「私? 私はランニングしながら学校に向かってたところだよ。シロコちゃんは?」
「私も同じ。ユメ先輩も運動が好きなの?」
シロコちゃんも私と同じくランニングをしていたらしい。そういえばシロコちゃんは運動とかロードバイクが趣味だった気がする。
それよりもどう答えようかな····私の場合好き、と言うよりもやらないとまずいから運動しているわけだし····うーん····
「私は好きと言うよりも強くなるため、かな。それにずっと病院で寝てたせいで体が鈍っちゃったからね」
うん、ここは素直に答えよう。別に何かやましい事情があるわけじゃないし。
「そうなんだ。ユメ先輩って病気になる前は強かったの? ホシノ先輩にはまだ病み上がりだから勝負しちゃダメって言われてるから教えて欲しい」
ちなみにシロコちゃんには病気で入院してた、と伝えてある。砂漠で遭難して衰弱死しかけてました、なんて今の幼いシロコちゃんに言うのは良くないだろうと私、ホシノちゃん、ノノミちゃんで意見が一致したからだ。
それで私の強さ、か。うーんどうなんだろうか。正直なところ自分がどれくらい強かったのかはよくわかっていない。だって比較対象がスケバンやヘルメット団みたいなあんまり強くない不良達か、キヴォトス最強格のホシノちゃんしかいなかったんだもの。18年くらいキヴォトスで暮らしているが一般的な強さがどれくらいなのか未だによくわかっていない
不良達····所謂モブの子たちには例え多対1であってもよっぽど数が多くない限りは絶対に負けないが、かといってホシノちゃんみたいな強すぎる子には絶対に勝てないくらいの強さ、としか言い表せない。
「うーん····まあホシノちゃんよりちょっと弱いくらいの強さだったんじゃないかな? 不良達以外とあんまり戦ったことないからよくわかんないんだよね」
「じゃあ、今の私よりは強かった?」
「多分そうだね。でもシロコちゃんはもっと強くなれると思うよ?」
シロコちゃんには申し訳ないが今のシロコちゃんは荒削りな部分が多いというか、そういう側面があるから盾があればあんまり負ける気はしない。
「む·······悔しい。ユメ先輩、勝負しよう」
「え? 今は戦うのはちょっと無理だよ? ホシノちゃんも言ってたでしょ?」
「大丈夫、普通に戦うわけじゃない。ここから学校まで競走。先に着いた方の勝ち」
なるほど。それなら別に大丈夫だろう。シロコちゃんの精神的な成長を感じられる瞬間である。
「それならいいよ。やろっか」
「ん、じゃあスタート」
「えっ!? ちょっと待ってよシロコちゃ〜ん」
シロコちゃんはいきなりのスタートを宣言しあと私を置いて走り始めてしまった。というかここから学校までってまだ30kmくらいあるよね? 元気いっぱいだね····
「まあ、それでも負ける気はないけどね!」
私だって3歳の頃からトレーニングをしていたのだ。確かに8ヶ月も寝てたせいで体力も筋力も落ちてはいるが、プライドがあるのだ。ホシノちゃん以外の後輩に負けるわけにはいかない!
◇ ◇ ◇
「はぁ、はぁ、ふぅ......つ、疲れた〜」
「ん! 私の勝ち」
私達ふたりはアビドス高等学校についた。ちなみに勝負はシロコちゃんの勝ちだった。さすがにまだまだ体力が戻っていないし仕方あるまい。
「シロコちゃんはすごいね。いつもランニングしてるの?」
「毎朝してる。好きなのもあるし、ホシノ先輩に勝ちたいから」
素晴らしい心がけである。·····今度からシロコちゃんと一緒に運動しようかな? その方が楽しいしモチベーションだって維持しやすいはず。
「ねぇ、シロコちゃん。明日からは一緒に走りながら登校しない? いつもあの道通ってるんでしょ?」
「ん、いいよ。ノノミはあんまりやってくれないし、運動仲間ができた」
あまり表情は変わっていないが嬉しそうな雰囲気を纏っているシロコちゃん。ひとりでやるよりふたりでやったほうが楽しいもんね。
「よーしじゃあ決まりだね!」
「あれ? ユメ先輩とシロコちゃんが一緒に登校してるなんて珍しいね?」
ふたりで話していたらホシノちゃんも登校してきたようだ。
「さっきたまたま会ったんだよ! それでどっちが学校に先につくのか競走してたの」
「私が勝った!」
ふんす、と鼻息を荒くしながらドヤ顔をしているシロコちゃん。なんというかすごくかわいい。あ、ホシノちゃんがシロコちゃんの頭を撫でてる。
「うへぇ〜凄いね、シロコちゃん」
素晴らしい光景だと思う。原作にこんなシーンがあったら間違いなく新しいスチルが生まれていたことだろう。あまりにも尊い空間だ。眼福である。
··········すごく、すごく幸せな日々だと思う。2年生のひとりだった頃よりも、ホシノちゃんとふたりきりだった時よりも明るくて、楽しくて。それに来年にはアヤネちゃんとセリカちゃんも入学してくれて、もっと人が増えて明るくなるのだろう。
3人が来てくれたおかげでみんながちゃんと入学してくれるという実感が生まれたのだ。ホシノちゃんが来てくれるまでは本当に来年アビドスに来てくれるのか不安で不安でしょうがなかった。
そして····幸せだからこそみんなを守りたい。みんなを、失いたくない。
そのためにも、私が······
「んぱい、ユメ先輩!」
「あっ····ホシノちゃん」
「ユメ先輩、大丈夫ですか?」
ホシノちゃんとシロコちゃんが心配そうな顔をしてこちらを見ている。考え事をしていたせいでホシノちゃんが声をかけてくれてたのに気がつかなかったみたいだ。
「ごめんね、ちょっと考え事をしてて····体調とかは問題ないから大丈夫だよ!」
体調面は本当に何も問題がないのだ。ふたりに余計な心配をかけさせてしまった。
「ならいいですけど·····一応病み上がりなんですから無理はしないでくださいね?」
本当に無理はしていないのだ。ちょっと悩み事があるだけで。
◇◇◇
私は今すごく悩んでいることが2つある。
1つ目は原作知識を書いていたメモ帳を紛失したことだ。これは非常にまずい。私の最大のアドバンテージを失っている。かといって今から広大なアビドス砂漠の中から見つけ出す、というのも現実的な話では無いし····
そして2つ目は対策委員会をどうするか、についてだ。
ホシノちゃんは原作同様アビドス廃校対策委員会、という部活を作っていてノノミちゃんやシロコちゃんはアビドス生徒会ではなくそっちに入部していた。
別に部活を作ったこと自体に文句を言いたい訳では無い。問題は対策委員会が公的な認可を受けていないことだ。
そしてそこを悪い大人····カイザーや黒服に利用されてホシノちゃんを人体実験に利用されたかけた上で更に学校をも奪われかける、という事件が来年起きてしまうのだ。
だがこれはさっき言った通り公的な認可を受けていない、というのが問題なのであって認可を受けているアビドス生徒会のままであれば事件を防げる可能性がある。
これだけならば悩む要素なんてなにもない。アビドス生徒会を存続するために後輩ふたりにも入って欲しい、と言えばそれで済む話だ。というか私が卒業しないんだから問題はないはず。
だが、これには問題が2つある。ひとつめはあの事件が起きた方が借金返済が楽になる、という点。連邦生徒会が見逃せないレベルの事件になるお陰で不正を暴いてくれるからだ。
2つ目はこの事件を防いだ場合黒服やカイザーが何をしてくるのかわからない、という点。
カイザーは私達を目障りだと思っているだろうし、黒服だってホシノちゃんが1年生の頃からずっと勧誘、というか騙そうとしていたくらいなのだ。ひとつ策が潰れただけで諦めてくれるとは思えない。
ならば私が知っている策を使って貰った方がまだ対処しやすいだろう、ということだ。1度騙されればホシノちゃんはもう間違えないだろうし黒服も諦めがつく·····というよりは興味の対象が変わるのだろう。カイザーについては致命傷を与えることができる。
しかしこれは全てが上手くいった場合の話だ。未来の知識があるからといって全てが上手くいく訳が無い、というのは今回の失敗でよく学んでいる。
この選択をしてもし仮にホシノちゃんを助けられなかったらどうしよう、とか。学校をカイザーに占拠されたらどうしよう、みたいな嫌な想像がどんどん湧き出てくる。バッドエンドポイントが多すぎないかな····?
私は結局原作の知識を持っているだけで、別に特別強いわけでもないし10億近い借金を全て返せるほどお金を集められる訳でもない無力な人間だ。今回の件でその事を改めて実感したばかりだし。
·······本当にどうすればいいんだろう········
2択のどっちを選んでもバッドエンドになる可能性がある。最悪の2択だ。
アビドスってただでさえ莫大な借金があるのに、その上でユメ先輩の死亡とかビナー、ウトナピシュティムの本船や列車砲シェマタ、あとはセトもか。ちょっと問題が多すぎないかな? 前世のネットで呪われた地、とか言われてたけどまさにその通りだよ。
というかすごく今更だけど私なんかが原作に介入して本当にいいのかな····寧ろ信じて全てを先生に託してしまった方がいいのかもしれない。
だってブルアカのストーリーは綱渡りの連続なのだから。キヴォトスは1歩踏み外せばバッドエンド1直線のとんでも世界なのだ。そんな話に私なんかが横槍を入れるのは本当に正しい選択なんだろうか。
前までは目の前のことで精一杯だったから未来のことはあまり考えていなかったが、ノノミちゃんやシロコちゃんのおかげで少し余裕が生まれた事で色々と考える時間が増えた。だからこそ新しい悩みも生まれるのだ。
それとみんなと仲良くなってしまった、というのもあるのだろう。みんなを····シロコちゃんやノノミちゃん、ホシノちゃんを失うことがあまりにも怖い。
しかも1度失敗したせいで少し自信を失っているし、なんだか思考もちょっとネガティブになっている気がする。ホシノちゃんがいなければ私は結局なにも変えられないまま死んでいたのだ。
私は·····どうすれば······