アビドスユメモドキ   作:泡沫のユメ

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今回短めです。どうしてもここでしか区切れなかった·····




13:葛藤

 

 ユメ先輩の様子がおかしい。

 

 退院してから1ヶ月くらいは普段通りの先輩だった。····ちょっとびっくりするぐらい運動をしていたけど長い入院生活で体が鈍ったから感覚を取り戻すため、と言われて納得ができた。

 

 しかしここ最近の先輩は明らかにおかしい。まず少しではあるが目元に隈ができていた。この時点で変だ。先輩のそんな姿は見たことがなかったし、別に借金を返すために徹夜しなければならないほど余裕が無いわけでもない。

 

 そしてなんというか····言動の節々に違和感がある。笑顔がどこか無理しているような感じがするし、たまにぼーっとして何かを悩んでいるのか、声をかけても返事が返ってこないことがあるし。

 

 シロコちゃんやノノミちゃんは普段の先輩をそこまで知っている訳ではないから違和感を覚えないのかもしれないけど、そこまで長くない期間だったとはいえふたりきりで過ごしていた私にはわかる。いつもの先輩とは明らかに何かが違う。

 

 多分何かに悩んでいるからだと思う。たまに唸りながら首を傾げているし。ずっと何かについて考えているのは間違いない。

 

 でも私には何について悩んでいるのかわからない。借金の返済についてはシロコちゃんとノノミちゃんのおかげで寧ろ去年よりも楽になっている。今更悩む必要などは無いはず。

 

 私について悩んでいる····ということも無いと思う。たしかに去年先輩がいなくなってからは悪夢を見ていて眠れなかったし、精神的に病んでいた自覚もある。しかし先輩が目を覚ましてくれてからは悪夢を見る頻度も減っているし、ノノミちゃんや柴大将にも元気になってよかった、と言われたばかりだ。自分だけが元気なつもりで実は不調だった····、ということも無い。

 

 それにシロコちゃんやノノミちゃんとの仲が悪くて悩んでいる、という訳でもないだろう。ふたりともいい子だし、そもそも仲良く話しているのを何度も見たことがある。

 

 

 だから本当にわからない。さっき考えたこと以外で何か問題があるのかな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ··········ひとつだけ、ひとつだけ心当たりがある。砂漠で見つけたユメ先輩のメモ帳についてのこと。

 

 あの見たこともない言語で書かれていた、でも先輩が特に大切に扱っていたメモ帳。

 

 ユメ先輩が何かを、私には知りえない何かを知っている証拠とも言えるもの。

 

 私にすら見られないように大切に扱っていたことから、あまり中身を見られたくないだろうことは予測できる。

 

 だから先輩に精神的にも体調的にも少し余裕ができてから返して、勝手に見た事を謝るつもりだった。先輩の悩みの種を増やしたくなかったから。でも最近の先輩がずっと調子が悪そうだったから返す機会を失っている。

 

 砂漠に落ちていたから多分遭難した時に紛失したんだと思う。砂嵐に巻き込まれたって話だし。

 

 

 ·······私はメモ帳を失くして悩んでいるわけではないと思っている。メモ帳を紛失したことについて悩んでいるのなら流石に私に何かを聞くくらいはするだろうし。

 

 さっき言った心当たりというのはこのメモ帳の中に書いてある事について、だ。

 

 ユメ先輩は私が知らない何かを知っていて、何か大切なものを背負っている。そしてその事に問題が起きたからずっと悩んでいる、というのが私の予想。·····これ以外だと本当に心当たりがないからって言うのもあるけど····

 

 

 詳しく聞くべき、なのかな。私にはわからない。人にはあまり知られたくない話なのは間違いない。ユメ先輩は何かを聞けばだいたいなんでも正直に話してくれるのに、あのメモ帳についての話だけは1回も聞いたことがないし。

 

 

 

 そんな話を、ユメ先輩にとって大切な何かを。それを私の勝手で聞いていいのかがわからない。それで前みたいにすれ違ってしまって、ユメ先輩になにかがあったら·····と考えるとあまりにも怖い。

 

 

 心配だったから1回大丈夫かどうか軽く聞いてみたけど、その時は別に問題ないと先輩は言っていた。それに時間が解決してくれる悩みなのかもしれない。何も聞かずにそっとしておくのが1番いいのかもしれないと、わかっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────わかってはいるけどそれでも、それでも私はユメ先輩の力になりたいし、助けたい。

 

 先輩は私のおかげで助かったと、救われたと言ってくれたけど、私だってユメ先輩には沢山助けられたんだ。私はその分の恩を返せているとは思えないし、それにずっと悩んでいて辛そうな先輩なんて見たく無い。

 

 

 私で力になれるのかはわからない。足を引っ張るだけなのかも、無駄に傷つけてしまうだけなのかもしれない。

 

 でも、それでも。私にも何かができたかもしれないのに。手を貸すこともせず、手伝うことすらせずに後悔するのは、それが原因でユメ先輩がいなくなるのはもう嫌なのだ。

 

 それにユメ先輩だって今度からはもっと私を頼ると、お見舞いに行った時にそう言ってくれた。

 

 ならば私から聞くべきだと思う。ユメ先輩から言い出しにくいのならば、私から歩み寄るべきなんだ。いつもユメ先輩がやってくれたみたいに。

 

 前はそれができなかった。去年の私は歩み寄ってくれることが、困った時や辛い時に誰かが助けてくれることがどれだけありがたい事なのかを理解していなかったのだ。

 

 先輩はいつも、いつまでも一緒にいるものなのだと、そう勘違いしていたから、そう驕っていたから。だからこそあんな失敗をした。あんな酷いことを言ってしまった。

 

 でも今の私は失敗したおかげで知っている。一緒に過ごすだけのことが、ただ一緒に話すだけのことが。たったそれだけの事がすごい奇跡で、夢のような時間なのだと知ることができたんだ。

 

 

 先輩だって言っていた。失敗は成功のもとなのだと。あの時の失敗を、あの時の反省を、あの時の後悔を活かすべきだ。それでまた何かを失敗したとしても、何もせずに後悔するよりはずっといい結果になるはずなんだ。

 

 

 覚悟を決めた私はユメ先輩の悩みを聞くために対策委員会の部室に向かった

 

 

 





本文よりもサブタイトル考えてる時間の方が長いかもしれない。
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