アビドスユメモドキ 作:泡沫のユメ
「ユメ先輩、ちょっといいですか?」
ノノミちゃんとシロコちゃんも帰ったし、私も帰ろうとしていたのだけど、なにやら真面目な顔をしたホシノちゃんに呼び止められた。
「どうしたの?」
「先輩、最近ずっと何かを悩んでますよね? 何に悩んでいるのか教えてください。私は、ユメ先輩の力になりたいんです」
ホシノちゃんには気づかれていたようだ。当たり前か。自分でも普段と様子が違う自覚がある。悩みすぎて睡眠不足にもなってるし
········どうしようかな。たしかにホシノちゃんに全てを伝えて協力してもらう、というのは無しではないと思う。
理由は二つある。
ホシノちゃんはキヴォトス最強の生徒と言っても過言では無いほどの強さを持っているのだ。
間違いなく色々な場面で助かるだろうし、何が不測の事態が起きたとしても対応できるようになるかもしれない。
それに心の底から信頼できる仲間がいる、というのもすごくありがたい。困った時に相談できる仲間がいることのありがたさを私はよく知っている。
しかもその仲間というのが私がこの世界で一番好きなホシノちゃんなのだ。彼女のためなら私はなんだってできると、そう思ったことすらある。
困った時はホシノちゃんを頼ることが出来る。その事実だけでも私の精神的な負担はほぼ無くなってしまうかもしれない。私はそれほどにホシノちゃんのことを信頼している。
でも·········入院していた時にホシノちゃんを頼ると、そう決めてはいたけど。流石にこの問題に巻き込むのは気が引けてしまう。
私の悩みを伝えるということは、自分の行動次第で大切な人達がみんな死んでしまうかもしれない、自分のせいでキヴォトスが滅びてしまうかもしれない、という事実まで伝えることになる。
そんな事実を知るのはとても辛いことで、苦しいことなのだ。ずっと悩み続けることになる。そんな苦痛をホシノちゃんには味わって欲しくない。
「·········なんでもないよ?」
あまりに苦しい返答だ。悩んでるのがバレてる時点でこんな誤魔化し方でホシノちゃんが納得してくれるわけがない。
「··········そう、ですか。じゃあもうひとつ質問させてください」
ホシノちゃんの顔を見ればわかる。全然納得していないのだろう。でも話題を変えてくれた。
「先輩の········この、メモ帳には何が書いてあるんですか?」
「····え!? それ、どこで見つけたの!?」
なんとホシノちゃんは私が砂漠でなくしたハズの原作知識を書いてあるメモ帳を持っていた。
「先輩を見つけたあとも先輩の持ち物を探すために砂漠を彷徨っていたんです。その時に見つけました」
「でも·····これ、私には何を書いてあるのか読めなかったんです。····色々な資料を調べたり、ネットで調べたりもしてみましたが、それでも読むことはできませんでした」
それはそうだろう。だって日本語で書かれているし。キヴォトスに来てから日本語を見た事は無い
「ユメ先輩········先輩はいったい何を知ってるんですか····? いったい····何を背負ってるんですか····?」
未来の記憶、という所までは特定できていないだろうが私が何かを、何か大きなものを背負っていることを理解してしまったのだろう。だからこそ私を心配してくれている。
「私はもう失敗したくないです。何かをできたかもしれないのにって、後悔したくないんです。そのせいで·····私のせいでユメ先輩がいなくなるのは、もう嫌なんです」
「ホシノちゃん...」
「だから、お願いします。教えてください。ユメ先輩が何に悩んでいるのか、どうして苦しんでいるのか」
「········」
「·····私では力不足で、何もできないのかもしれませんし、逆に足を引っ張ってしまうかもしれません。でも、それでも私は、ユメ先輩を助けたいんです」
そんなことは無いと、声を大にして叫びたくなる。ホシノちゃんはすごく頼りになる子で、寧ろ足を引っ張るのは私の方だ。何もできないなんてことは有り得ない。
「ダメ····ですか? 私····私ではユメ先輩の力になれないんでしょうか····?」
ホシノちゃんは泣きそうな顔を········いや少しだけ泣いている。とても、とても辛そうな顔をしている。
理由はだいたいわかる。わかってしまう
私が今何かに悩んでいることが原因で、またいなくなってしまうのが····会えなくなるのが怖くて。でも、私が隠していることを無理やり聞くのは前みたいにすれ違ってしまいそうで怖くて。
でも、それでも私の力になりたくて、勇気を出して聞いてくれたのだろう。
それなのに私が何も伝えないから、私の力になれないから。······私を助けることが出来ないから······だと思う。だってホシノちゃんは優しい子だし、あの時のことをすごく後悔していたから。
──────私はバカだ。大バカものだった。何を、何をやっていたんだろう。何を悩んでいたんだろう·····
私が原作に介入する理由はキヴォトスが滅びないようにするため、というのももちろんある。
でもそれ以上に、ホシノちゃんを原作以上に幸せにしたかった。なんの憂いも、後悔もなく心の底から笑って欲しかった。それが転生した時に決意した目標で、原作に介入することを決めた最大の理由だったはずだ。
世界が滅ぶかもしれない。そんな未来に目が眩んで大切なものを、大切なことを忘れていた。
私がホシノちゃんのことを大切に思っているように、ホシノちゃんだって私のとこを大切に思ってくれているのだ。
それなのに私は目的の為に自分を犠牲にする選択をしようとしていた。そんなことをしてホシノちゃんが喜ぶわけが、幸せになってくれるわけが無いというのに。
それに、ひとりで答えを出せないのなら誰かに、頼れる仲間に相談すればよかったのだ。こんなにも簡単なことにすら私は気づけなかった。
多分私はみんなを守りたい、助けたいという気持ちに囚われすぎていたのだ。だから仲間に頼る、という発想が出てこず黒服に頼る、なんて馬鹿みたいなことを考えてしまったのだろう。
ホシノちゃんは私がずっと守らなければならないほど弱い子ではないと、理解したばかりだったはずだ。それにホシノちゃんに頼ると、そう決めたばかりじゃないか。
········ホシノちゃんには伝えるべきでない、ホシノちゃんを巻き込むべきでは無い、という気持ちだってもちろんまだある。
でもそれ以上に、ホシノちゃんが苦しむ姿なんて、ホシノちゃんが泣く姿なんて見たくない。
ホシノちゃんの決意を、無駄になんかしたくない。
「す、すみません先輩······やっぱり、迷惑····でしたか····?」
私が黙りこんで考えていたせいで勘違いさせてしまった
「ご、ごめんな「ホシノちゃん」····?」
「ホシノちゃん·····ごめんね」
「な、なんで先輩が謝るんですか····? 迷惑をかけたのは、わたしの方で·····」
「違うよホシノちゃん。違うんだよ」
「ホシノちゃんが勇気をだしてくれたのに、ホシノちゃんが手を差し伸べてくれたのに。それなのに振り払っていたのは私の方なの」
「私に勇気がなかっただけなんだよ。私はホシノちゃんを巻き込みたくなかったの。もし1度でも聞いたらずっと悩み続けることになってしまうから。辛い思いをさせてしまうと思ったから」
「別に、私はそんなことは····」
気にしない。そう言いたいのだろう。だがこの話はそんなに簡単では無いのだ
「多分、ホシノちゃんが思っているよりも大変なことで、難しい問題なの。アビドスの借金なんてどうでもよくなってしまうくらいのものなの」
「そこまでなんですか····?」
·········頼るとは決めたが、この確認だけはするべきだ。なにも知らせずに伝えるべきではない
「うん、そうだよ。少なくとも来年はずっと悩み続けることになってしまうし、しかもいつ解決するかもわからない、そんな話なの」
「ホシノちゃん····これだけは確認させて。ここまでの話を聞いても知りたいと思える? 思えないなら聞かない方がいいと思うの····本当に、苦労することになるから...」
「···········ユメ先輩、私からも一つ質問させてください」
「うん、いいよ。なんでも聞いて」
なにを聞かれたって正直に答えるつもりだ。
「先輩はそんな大変な問題を一人で解決するつもりだったんですか? だからずっと悩んでたんですか?」
「え。う、うん……そうだよ」
なんだかホシノちゃんが怒っている気がする。視線が鋭いし圧がすごい。
「··········」
「ほ、ホシノちゃん····?」
「色々聞きたいこともありますし、言いたいこともあります。でも、まずはお説教します」
「ホシノちゃん!?」
私は怒られるらしい。でも私は別に怒られるようなことなんてしてな──────まずい、心当たりしかない。
この後一時間くらいお説教された
◇◇◇
「とりあえずここまでにしておいてあげます」
「ひ、ひぃん....」
ホシノちゃんに怒られてしまった。
しかも『一人で抱え込み過ぎないでください』とか『辛い時や大変な時は誰かと協力すればいいんですよ。誰かを頼ればいいんです。それを教えてくれたのはユメ先輩ですよね?』とか。
あとは『困った時は私を頼るって言ってくれましたよね? あの言葉は嘘だったんですか?』みたいな、私のことを大切に思ってくれてるからこそ出てくる言葉でばかり説教してくるものだからより罪悪感を刺激されてしまった。
今考えると黒服の提案に乗るとかありえないよね。いや、ほんとにありえない。何を考えているんだ。
あんな出来損ないのまっくろくろすけみたいなやつよりホシノちゃんを頼る方がいいに決まっている。だいたい、頭から出てる黒いモヤはなんなんだ。
········怒られたというのになんだか気分がすっきりしている。悩みが全て解決した訳では無いけど、一人じゃないというだけで、ホシノちゃんがいるというだけですごく心強い。
「なんで怒られたのに笑ってるんです? お説教が足りませんでした?」
「違うよ! お説教はもう十分だよ!」
「じゃあどうして····?」
「なんというか·······安心したんだよ」
「安心? どうしてですか?」
ホシノちゃんが変な人を見るような目で見てくる。たしかに怒られて安心するのは変だと思うけど、その目で見られるのは辛いからやめて欲しい。
······そんなことよりもホシノちゃんのオッドアイって綺麗だね。ずっと見ていたいとすら思える。
私はホシノちゃんのことをかわいい、と思う心の余裕すらなくなっていたみたい。だって毎日会ってるのはずにかわいいって思えたのが久しぶりだったから。
やっぱり悩みすぎて私の頭はおかしくなっていたんだろう。だってホシノちゃんはキヴォトスで1番かわいいし、毎日見てても飽きないほどにかわいい。それなのにかわいいと思えなかったということは、私の思考が正常に働いてなかったと言うことだ。それ以外の理由はありえない。
「········なんでずっと黙ってニコニコしてるんですか」
「いや········ホシノちゃんって、やっぱりかわいいなって、眼が綺麗だなと思って。見惚れてただけだから気にしなくても大丈夫だよ」
「なんでこの状況でそんなこと言うんですか!?」
また怒らせてしまった。ホシノちゃんがペシペシ叩いてくる。全く痛くは無いけど
「ふふ、ごめんねホシノちゃん」
「まあ、別にいいですよ。ようやくいつものユメ先輩に戻ってくれたみたいなので」
「そうだね·······全部ホシノちゃんのおかげだよ。いつも助けてくれてありがとうね」
「そう·······ですか···········どういたしまして」
言葉こそ簡素だったが、それでもホシノちゃんは心の底から安心しているような、喜んでいるような。そんな顔をしていた。
·········こんな顔をさせてしまうくらいには不安に思っていた、ということだ。しかも私のせいで。
ひとりで抱え込むのはもう絶対にやめようと、ホシノちゃんに二度と辛そうな顔を、不安そうな顔をさせないように努力しようと、そう心に誓った。
あまりにも長くなりそうなので一旦区切ります。