アビドスユメモドキ   作:泡沫のユメ

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15:信じる

 

 

「それで、話が逸れちゃいましたけど結局何を悩んでたんですか? そのメモ帳には何が書いてあるんです?」

 

「あ、そういえばその話をしてる途中だったね」

 

「なんで忘れてるんですか····」

 

「いや、なんというか····ホシノちゃんに頼れると思ってたらすごく安心しちゃって。全部悩みが解決したような、そんな気分になっちゃってたんだよ」

 

「そう思ってくれるくらい私のことを信用してるなら最初から相談してくださいよ····」

 

「うっ····ご、ごめんね? 次からは絶対に頼るから」

 

 もう選択は間違えない。困ったらホシノちゃんを頼るし、黒服と契約なんて絶対に結ばない。

 

「それで何について悩んでるか、だよね。その話をする前にひとつ言っておきたいことがあるの」

 

「言っておきたいこと····?」

 

「これから話す内容は····到底信じられないような話になると思うんだ。でも決してふざけてるわけじゃなくって、全部本当のことだから。信じてくれると嬉しいな」

 

「? よくわかりませんが、とりあえずそういう前提で話を聞けばいいんですね?」

 

「うん、そうだよ。じゃあまずは何に悩んでたか、からだね」

 

 ホシノちゃんに私の悩みを打ち明けた。私が未来を知っていること。私達の行動次第でキヴォトスが滅びてしまうことを。今後何をすればいいのか、どの選択が正しいのかわからなくてずっと悩んでいた、と。そしてメモ帳には未来のことを忘れない為に書いてあるとも伝えた。

 

 ·······ついでに黒服に契約を持ちかけられたことも話しておいた。

 

 ちなみに転生については言っても混乱させてしまうだけだろうと思って伝えていない。転生したこと自体について悩んでいるわけではないし。

 

「ユメ先輩も黒服の人に勧誘されたんですか····? まあ、その話は後でするとして未来を知ってる········ですか。それにキヴォトスが滅びると·······にわかには信じがたい話ですね」

 

「まあ、そうだよね」

 

 ホシノちゃんの意見は真っ当だ。こんな話を急にされて信じる人間なんてほとんど居ないと思う。それこそ先生くらいだろう

 

「でも········私は信じます」

 

「えっ····ほんとに?」

 

「はい。私はユメ先輩がここまで悩んでいる姿を見たことはありませんでした。なのですごく大きな問題だと想像していたので········まあ、世界の危機なんていう私の想像を遥かに超えるような問題でしたが」

 

「まあ想像できるわけがないよね。世界が滅びるから悩んでます、なんて」

 

「それに·······ユメ先輩はこういう時に変な嘘を言うような人じゃありませんし。私は、ユメ先輩を信じてますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────おっと、危ない危ない。嬉しすぎて一瞬意識が飛んでいた。油断していたらそのまま気絶してたかもしれない。

 

 でもさ、はにかみながらあんなセリフを言うのは反則だよね? もっと好きになっちゃうでしょうが! 

 

「·········ホシノちゃんってやっぱりずるいよね」

 

 ほんとうにずるいと思う。ホシノちゃんは私を惚れさせる天才なのかもしれない。私の脳はホシノちゃんに焼かれすぎて黒焦げになっている。

 

「? 何の話ですか?」

 

「なんでもないもん!」

 

「えぇ····? なんで急に怒ってるんですか·····」

 

 ホシノちゃんのせいで話が逸れてしまった。そういえばまだ本題を話せていない。

 

「また話が逸れちゃった·····本題はここからなんだけどね」

 

「ユメ先輩のせいですよ·····それで本題というのは? キヴォトスが滅びる以上の問題なんてないでしょう?」

 

「それなんだけどね·····」

 

 私は来年キヴォトスに来るであろう先生の事とアビドスで起こる事件をホシノちゃんに話した。

 

「そんなことが起きるんですね········」

 

「どうしたの?」

 

「その····全てが上手くいって解決する未来を知っているなら別に悩む必要はないんじゃ····?」

 

「まあ、そうなんだけどさ。でも私は経験してしまったんだよ、未来を知ってたとしても全てが上手くいくわけじゃないってさ」

 

「それは······その、砂漠で遭難したこと、ですか?」

 

「そうだね。それに私は····私の知ってる未来では、本来死んでいたはずなんだよ·······だからその影響で何かあったら困るなって悩んでて·····」

 

 ······ホシノちゃんの顔色が悪くなっている気がする。それに少し息も荒くなっているし泣きそうな顔をしている。

 

 

 

 ────しまったな。あれは、遭難したのはホシノちゃんのせいじゃなくてセトとかいうやつのせいだ。私はホシノちゃんを責めるつもりは全くない。怒られたのだって自業自得なのだ。私はもう気にしていない。

 

 でもホシノちゃんからすればそうじゃないんだろう。あの時のことは全部自分のせいだと、自分が怒ったせいだと、そう考えている。元々少し抱え込みやすい性格だし、私が目を覚ますまでの間ずっと自分を責めていたとも聞いた。

 

 そんな子にこんな話を、私は本来死んでいただなんて話をするのは配慮が足りていなかったと言わざるを得ない。心の傷を掘り返してしまった。

 

 どうすればいいかわからなかった私は、とりあえず安心してもらうためにもホシノちゃんを抱きしめることにした。

 

「ホシノちゃん、大丈夫だよ。私はもうあの時のことは気にしていないし、そもそもあれはホシノちゃんのせいじゃないんだよ」

 

「でも·········」

 

「それに、ホシノちゃんは私を助けに来てくれたでしょ?」

 

「だから私は何度でも言うよ。ホシノちゃん、助けに来てくれてありがとうね。私が今生きていられるのはホシノちゃんのおかげなんだよ」

 

「···········」

 

 ホシノちゃんは嗚咽をこぼしながら、私の胸で泣いていた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「すみませんユメ先輩······頼ってくださいだなんて言っておきながら、こんな情けない姿を見せてしまって····」

 

 ほんとうに情けない。私はちょっとトラウマを思い出しただけでこんなにも弱くなってしまう。ユメ先輩は世界が滅ぶ未来を知っておきながら抗い続けているというのに。それなのに私は·····

 

「いてっ」

 

 ユメ先輩にデコピンをされた。

 

「ダメだよ、ホシノちゃん。また自分を責めてたでしょ?」

 

「うっ·····」

 

 図星だった。なんでユメ先輩は私が考えていることがわかるんだろう····

 

「ホシノちゃんはさ、もっと自信を持ってもいいと思うよ?」

 

「自信········ですか?」

 

「そう、自信。だってホシノちゃんは私だけじゃなくて、色々な人達を助けてるでしょ? 記憶喪失で何もわからなくて困っていたシロコちゃんのこともそう」

 

「それに夜パトロールをしてくれてる時があるよね? そのおかげで助かった市民の人達だってたくさんいるはずだよ」

 

 どうしてそれを知っているんだろう。悪夢を見ていた頃に、夜眠るのが怖くてそれを誤魔化すようにパトロールをしていた。

 

 何かをやっていないと罪悪感に押し潰されてしまいそうで、でも私にできるのは戦うことだけだったから。その時の名残りで今でもたまにやっている。

 

「ホシノちゃんはがんばってきたんだよ。ホシノちゃんが自分のことを認められなくても、これまでの結果が、私やシロコちゃんの存在がその事を証明してる。そしてそれを否定する材料はどこにもないんだよ」

 

 ここまで言われても私は自分に自信を持てない。自分を信じることが出来ない。

 

「そう、ですかね····」

 

「今回のことだってそうだよ。ホシノちゃんが勇気をだしてくれたから、私を助けようとしてくれたから私は間違えずに済んだの」

 

 たしかにそうなのかもしれない。今回のことは全て自分で考えて動いた。その結果としてユメ先輩を助けることができている。

 

「·······自分に自信を持つのはまだ少しだけ難しいです」

 

 だって、私は失敗してしまったから。間違えてしまったから。

 

「でも、私はユメ先輩の言葉なら信じることができます。なので、ユメ先輩が信じてくれている私のことを信じてみようと思います」

 

「········そっか。うん、なら私がたくさん信じてあげないとね」

 

 ユメ先輩は嬉しそうに笑いながらそんなことを言っていた。

 

「はい、よろしくお願いしますね」

 

「じゃあそのためにも今からたくさん褒めてあげなきゃだね。褒め殺してあげるから覚悟してね? 私がホシノちゃんを褒め始めたら止まらないよ? ホシノちゃんのいい所なんて何時間でも語れるんだから」

 

「なんでそうなるんですか!?」

 

 ユメ先輩は困ってる時や苦しい時はすごく頼りになる人だ。それなのにどうして急に変なことを言い始めてしまうんだろう····

 

「まずホシノちゃんは──」

 

「ストップ! ストップです!! ユメ先輩はほんとうに何時間も言い続けそうで怖いので! というかまた話が逸れてますから!」

 

「むう······仕方ないね。また今度やってあげるからね」

 

 ユメ先輩は普段からすぐ褒めてくるような人だ。そんな人の褒め殺し。いったいどうなってしまうのか。絶対に羞恥心で悶えることになるだろう。そして私が照れたらその事まで褒めてくるに違いない。ユメ先輩はそういう人だ。そんな恐ろしい目に合う訳には行かない

 

「いえ、大丈夫です。もう大丈夫ですから。自分に自信を持つことができました、ありがとうございます」

 

「急にすごい早口だね?」

 

「はい。この話はこれで終わりで大丈夫です。もうユメ先輩に心配されるようなことにはなりませんから」

 

「うーん、なんだか納得がいかないなあ····」

 

 勢いで誤魔化そう。真面目な話をすればユメ先輩だって諦めてくれるはずだ。

 

「それで、その未来の何を変えたくて悩んでたんですか?」

 

「なんか強引に話を変えられたような気が····まあいいか。色々悩んではいたけど、1番悩んでたのはホシノちゃんに黒服との契約を結んでもらうかどうかについて、だよ」

 

「ほんとはそんなことさせたくないんだよ。ホシノちゃんに危険な目に遭って欲しくないから。でも、やらないとアビドスがいつまでも変わらないだろうし、そうなると流れでそのままキヴォトスまで滅びかねないし····」

 

 それはユメ先輩が悩むはずだ。私のことを大切に思ってくれてるのは嫌でも伝わってくる。でもアビドスや後輩達のことも大切だし、その上キヴォトスが滅ぶかもしれない、なんてことまで考えなければならないのだ。

 

「私は········その時がきたら黒服と契約を結ぶべきだと思いますよ」

 

「·······ホシノちゃんは怖くないの? 人体実験をされるかもしれないんだよ? それに、そのまま死んじゃう可能性だって····」

 

「全く怖くないといえばもちろん嘘になります。でも私はユメ先輩を、ノノミちゃんを、シロコちゃんを信じていますから。みんななら助けに来ててくれるって」

 

「それに来年できる後輩たちも強くて優しい子達なんですよね? 頼りになる大人も来てくれるんですよね? ならきっと、大丈夫なはずです。私達は黒服やカイザーなんていう汚い大人達には負けませんよ」

 

「······ふふ、そっか、そうだよね。私達は強いもんね」

 

「ホシノちゃんを危険な目に遭わせたく無い気持ちはまだあるけど、私もみんなを信じてみることにするよ」

 

「そしてその未来を目指すためにもまずは·····私が生徒会長、と言うよりもアビドス生徒会を抜ける必要があるかな」

 

 ユメ先輩が話してくれたカイザーと黒服の本当の目的。カイザーはアビドスの土地を全て手に入れたい、黒服は私で人体実験をしたい。

 

 私が契約を結べば黒服は私になんでもできるようになる。そしてユメ先輩が知る未来のように、先輩がいなくなっていて、私も黒服との契約により退学していたらアビドス生徒会の生徒が0人になる。

 

 つまり公的な認可を受けた部活が無くなり、アビドス高等学校は自立、存続が不可能だと判断することができてしまう。だからアビドス自治区の土地の所有権を持っているカイザーはアビドスを攻撃する大義名分を得られる、という筋書きらしい。

 

 あまりにも汚い方法だった。最悪な大人達だ。今すぐにでもカイザーの会社を襲撃したい。そんな気分にさせられる。

 

 というかアビドス自地区の土地がカイザーものになっていただなんて全く知らなかった。急に重要な情報を流すのは心臓に悪いからやめて欲しい。

 

 黒服といえば

 

「そういえばユメ先輩も黒服から契約を持ちかけられてるんですよね? それはどうするんです?」

 

「もちろん断るよ。多分私が生徒会に所属しているのがホシノちゃんやアビドスを手に入れる上で不都合だったから私にも退学するよう言ってきたんだろうし、生徒会を抜ければしつこく言ってくることもない········はず」

 

「········何かされたら言ってくださいね。何があっても私が絶対助けに行きますから」

 

「·············」

 

「·······ユメ先輩?」

 

「ホシノちゃん······改めてありがとうね。私、最近はずっと悩んでて、不安だったの。そのせいで夜もあんまり眠れてなくてさ」

 

「問題が全部解決したわけじゃない、寧ろこれから大変になっていくんだと思う。それでもホシノちゃんのおかげで、ホシノちゃんの言葉のおかげでなんだか安心できたよ」

 

「だから·······これからもよろしくね?」

 

「──はい。よろしくお願いしますね、ユメ先輩」

 

 ユメ先輩は笑顔を浮かべていた。最近よく見た無理をしているようなものでは無く、心の底から安堵したような、喜んでいるような。そんな笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでもう1回さっきのセリフを言ってくれないかな? ちょっとカッコよすぎたから録音したいの。毎日聴きながら寝るからさ」

 

「何を言ってるんですか!?」

 

 やっぱりユメ先輩は変な人だった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 あの後ホシノちゃんと少し話してから私は家に帰ってきた。ちなみに何度お願いしても録音はさせてくれなかった。

 

「ほんと····私はなんでこんな簡単なことに気が付かなかったのかな····」

 

 困ったら誰かに頼ればいい、相談すればいい。ただそれだけのことだった。

 

 ただホシノちゃんに話しただけ、相談しただけだ。問題は何も解決していないはずなのに、すごく安心している自分がいる。

 

 今思えば、遭難した時だって自分ひとりで全部解決しなければならないと思い込んだから失敗したんだろう。ホシノちゃんをもっと信じていれば、相談していればきっとあんなことにはならなかったのだ。

 

 私はひとりじゃない。私にはホシノちゃんがついている。困ったらホシノちゃんが助けてくれるのだ。

 

 そう思うだけで心を巣食っていた不安や恐怖が無くなるような、そんな気分になる。

 

 夜の暗闇は何も変わらない。だと言うのに全く憂鬱な気分にはならなかった。

 

 今日は、よく眠れる気がする。

 

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