アビドスユメモドキ   作:泡沫のユメ

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幕間
17:お見舞い


 

 

 私が目を覚ましてから4ヶ月が経った。

 

 体調は万全だし、体力も9割ほどは戻ってきた。この調子なら直ぐに遭難する前の状態には戻れると思う。

 

 ·······8ヶ月も寝たきりだった割には体力が戻るのが早すぎる。精神世界でのユメ先輩が何かをしてくれたからなのかもしれない。

 

 私はユメ先輩に感謝の祈りを捧げた。

 

 来年から始まるであろう原作のことは、対策委員会編が始まるその時までは一旦気にしないようにして、全力で楽しむことに決めた。

 

 というか気にしたとしても今できることがほとんど無い。アビドスの借金を一括で返せるわけでもないし、列車砲はまずどこにあるのかすらわかっていない。

 

 それに、仮に見つけられたとしてもたった4人で被害なく壊せると思えない。あれは仲が悪いことで有名なゲヘナの風紀委員会と万魔殿がわざわざ協力して解体するような代物だし、下手に手を出さずに来年先生かヒナちゃんに相談した方がいいに決まっている。

 

 他の不安要素·······セトとビナーについてもどうしようもない。どっちも姿を見たことすらないし·····これも来年先生に相談するしかないと思う。

 

 改めて羅列してみるとアビドスは問題点が多すぎる。それなのに連邦生徒会は先生が来るまで支援のひとつもよこさないものだから、ちょっとだけ嫌いになってしまった。

 

 堪忍袋の緒が切れたホシノちゃんが連邦生徒会を襲撃すると言い出した時は思わず加担しかけてしまった。途中で正気に戻ってからはホシノちゃんを全力で止めたけど····

 

 連邦生徒会といえば······連邦生徒会長。前世では名前を知ることすら叶わなかった超人。結局何者だったんだろう? 

 

 世界線を渡っているとか、時間を巻き戻してループしているとか、幼児退行してシッテムの箱の中で先生と赤ちゃんプレイを楽しんでいるだとか、色んな考察があったけど結局正体が判明することはなかった。

 

 もし本当に他の世界線を知っているなら私という存在はかなりイレギュラーだと思うんだけど、特に接触してくるような様子もない。

 

 連邦生徒会は好きじゃないけど、彼女には同情してしまう。彼女がいくら超人と呼ばれるほど優秀だったとしても、こんな片田舎の廃校寸前の学校に世界を滅ぼす地雷が沢山埋まってるなんて考えつかないだろうし····

 

 話が逸れちゃったけど、結局何が言いたいのかと言うと、気にしすぎてもどうしようもないのだから今を全力で生きよう! ということ。

 

 原作に向けてできることは私自身が少しでも強くなることと、みんなの悩みを聞いてあげるくらいだし·····

 

 そんなことを考えながら今日も学校に向かって行った。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「シロコちゃんおはよー」

 

「ん、ユメ先輩。おはよう」

 

 学校へ向かう途中でシロコちゃんと合流した。体力もほぼ戻ってきたけど、朝のシロコちゃんとのランニングは継続中である。

 

 それにしても·····

 

「? どうしたの?」

 

「いや·······シロコちゃん、初めて会った時に比べたらだいぶ大きくなったなって」

 

 前世の頃から思っていたことだけど、この子は成長が早すぎる。初めて会った時はホシノちゃんよりも小さかったはずなのに、この前ふたりの身長を測ってみたらシロコちゃんの方が大きくなっていた。

 

 その時のシロコちゃんはドヤ顔をしていたし、ホシノちゃんは少しショックを受けたような顔をしていた。

 

 というか短期間でこんなに大きくなってたら成長痛とかも凄そうだけど大丈夫なのかな····

 

「すぐにユメ先輩やノノミよりも大きくなる」

 

 ふんす! と鼻息を荒くしながら宣言するシロコちゃん。

 

 普通に考えたらそこまで背が伸びるのはありえないことなんだけど、もうひとりのシロコちゃんがここから更に成長していたことを考えるとありえない話でもない気がする。

 

 ·······というか今まで考えてなかったことだけど、このキヴォトスって原作の世界線なのかな? もしプレナパテス先生の世界線だとしたら······

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん、考えるのはやめよう。それこそどうしようもない話だ。それにアビドスで起きる問題については私がどうにか防げるだろうし、心配する必要は無い······はず。

 

 気持ちを切り替えてシロコちゃんと一緒に走ることにしよう。モヤモヤする時は誰かと一緒に過ごすのが一番いい。

 

「じゃ、今日も学校まで走ろっか?」

 

「ん!」

 

 私とシロコちゃんは学校へ向かった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「あ! ノノミちゃーん」

 

 私とシロコちゃんが学校に着くと、ノノミちゃんが校門の周りを掃除してくれていた。

 

「ユメ先輩にシロコちゃん。おはようございます」

 

 シロコちゃんの方が先に家を出ているらしいんだけど、私とシロコちゃんは走るために遠回りしてから学校に向かう関係で、いつもノノミちゃんの方が先に学校についている。

 

「ユメ先輩、ホシノ先輩を見かけませんでした?」

 

「え? ホシノちゃんまだ来てないの?」

 

「そうなんです。いつもは一番最初に来てるはずなんですが········」

 

「うーん····?」

 

 ノノミちゃんが言った通り、ホシノちゃんはいつも朝早くに学校に来ている。今日だけ来ていないというのは少し変だ。

 

 もしかしてホシノちゃんに何かあったのかな? 

 

「とりあえずホシノちゃんに電話してみるね」

 

「はい。お願いします」

 

 電話をかけるとホシノちゃんはすぐに出てくれた。

 

『もしもしユメ先輩? どうしました?』

 

「ホシノちゃんおはよー。いつも一番最初に学校に来てるのに今日はいないから、何かあったのかなって心配になっちゃって」

 

『ああ·····なるほど····』

 

「なんだか元気がなさそうだけど大丈夫····?」

 

『実は······ちょっと熱がでちゃいまして。喉も痛いですし多分風邪ですね。ちょっと様子を見たあとで学校に行けなさそうだったら連絡するつもりでした』

 

 だから元気がなさげだった上に声が少し枯れていたのか。

 

「風邪····ホシノちゃん、体調は大丈夫? しんどいなら無理に学校に来なくてもいいよ」

 

『そう····ですね。薬を飲んだんですが、熱が下がらないみたいなので今日は休みます····』

 

「うん。ホシノちゃんはいつも頑張ってるんだし、たまにはゆっくり休んでも罰は当たらないよ」

 

『はい。ありがとうございます····』

 

「あとでホシノちゃんのお家まで看病しに行くから待っててね」

 

『はい······はい? ちょっと待ってください。今なんて言いました?』

 

「またあとでねホシノちゃん! ばいばーい」

 

『え、ま、待ってくださ』

 

 ホシノちゃんに何かを言われる前に電話を切る。私の中ではホシノちゃんを看病しに行くのは確定しているため何を言われても聞く気はなかった。

 

「ノノミちゃん、ホシノちゃんは風邪をひいちゃって学校に来れないみたい。私が放課後になったら様子を見に行くから心配はいらないよ」

 

「そうだったんですね····ホシノ先輩には申し訳ないですけど、何か問題に巻き込まれたとかじゃなくてよかったです」

 

 たしかに。心配であることに変わりは無いけど、誰かに襲われて来れないだとかに比べると··········いや、ホシノちゃんくらい強いと風邪の方が心配かもしれない。

 

「風邪なら二、三日休んでれば治るだろうし、三人でいつも通りがんばろうね!」

 

「はい!」

 

「ん」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 枕元で聞き慣れた電子音が鳴り響いている。音の発生源に腕を伸ばし、静かになった部屋でため息をつく。

 

 目覚ましが鳴る前から目を覚ましていたが、未だにベッドから出ることができないでいる。理由は久しぶりに悪夢を見たせいだ。

 

「うへ····ユメ先輩が目を覚ましてくれてからはあんまり見ることもなかったんだけどな·····」

 

 しかも落ち込んでいるからなのか身体が怠いような感覚がするし、少し頭も痛い。しかし目覚ましが鳴る時間になったということは、学校に行く準備をするためにも起きなければならない。

 

 重い身体にムチを打ち起き上がる。頭が痛いせいなのか少し身体がふらふらするが、なんとか身支度を整えていく。

 

「·······流石に体調がおかしいかな····」

 

 冷たい水で顔を洗い、意識がはっきりしたことで身体の違和感が強くなる。たしかに落ち込んでいて身体が重くなったりすることはあるし、実際に体験もした。

 

 でも今は······ユメ先輩が目を覚ましてくれてからは悪夢を見てもここまでしんどくなることは無かったはず。

 

 嫌な予感がしつつも体温計で測ってみると予想通り熱が出ていた。それになんだか喉も痛い。風邪を引いてしまったみたいだ。もしかしたら体調が悪かったから、悪夢を見たのかもしれない。

 

 とりあえず薬を飲んで様子を見る。すぐに熱が下がるようだったら学校に行きたいけど····

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 薬を飲んでから50分ほど経ったが、熱はあまり下がらなかった。今日は学校に行くことはできないだろうし、みんなに連絡をしておこう。そう思った瞬間ユメ先輩から電話が掛かってきた。

 

 なんでも学校に来ない私を心配して電話を掛けてきたらしい。熱が出ていること、恐らく風邪で学校に行けないことを伝えた。みんなに心配をかけているのは申し訳ないけど、大切に思われているというのが伝わってきてなんだか胸がポカポカするような気持ちになった。

 

 しかしそんな気持ちもユメ先輩の言葉により霧散することになる。

 

『あとでホシノちゃんのお家まで看病しに行くから待っててね』

 

「はい?」

 

 唐突な爆弾発言で私が呆然としている間に電話は切られてしまった。

 

 久しぶりに風邪をひいたせいで想像よりもしんどいため看病に来てくれるのはありがたい。

 

 ただ私の家というのが問題だった。最近まではそんなことをする心の余裕がなかったから、掃除こそしているものの部屋をちゃんと片付けていない。ユメ先輩は気にしないのかもしれないけど·····

 

 しかし、熱が出ている今は部屋の片付けをすることすらしんどかったため、私は諦めてユメ先輩が来るまでベッドで大人しくしていることにした。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 夕方になりベッドで横になっていると、インターホンの音が鳴った。身体を起こして確認すると、インターホンを鳴らしたのは少し大きめな袋を持っているユメ先輩だった。

 

「ユメ先輩、今出ますね」

 

『はーい』

 

 玄関の鍵を開けてユメ先輩を迎え入れる。

 

「あっホシノちゃん。体調は大丈夫?」

 

「あんまり良くないですね····熱も下がってませんし」

 

「そっか·····」

 

 ユメ先輩は悲しそうな顔をしていた。心配してくれるのはありがたいけど、そんな顔はして欲しくない。会話の空気を変えたかったのと、ずっと気になっていたため質問をすることにした。

 

「ユメ先輩。その袋はなんですか?」

 

「これ? ご飯の材料だよ。あとは冷えピタとかスポーツドリンクとか····とにかく色々買ってきたよ!」

 

 袋を持ち上げながらそんなことを言う先輩。どうやらお見舞いのために色々と買ってきてくれたようだ。

 

「ありがとうございます····その、後でお金を····」

 

「お金は大丈夫だよ。私がやりたかったからやってるだけだし。というか勝手に押し掛けてるのにお金まで貰っちゃったら流石に申し訳ないというか····」

 

「押し掛けてる自覚はあったんですね」

 

「ひぃん·····ご、ごめんね? 心配になっちゃって····」

 

「いえ、気にしてないので大丈夫ですよ」

 

 本当に気にしていない。先輩が善意でやってくれているのはわかっていたことだし。

 

 それにさっきまで布団の中で後ろ向きな事ばかり考えていたはずのに、今はそんな考えが浮かんでこない。それはきっとユメ先輩が来てくれたおかげだった。

 

「なら、よかったよ。食欲はあるかな? あるならおかゆでも作ろうかなって思ってたんだけど」

 

「そうですね····ずっと横になっていたせいでお昼も食べてませんし····お願いしてもいいですか? 」

 

「わかったよ! ホシノちゃんは横になってても大丈夫だよ。私が持っていくから」

 

「わかりました」

 

「ありがとうございます。普段料理をしないのであんまり揃えてないですけど、調味料とかは勝手に使っても大丈夫ですよ」

 

「はーい」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 ベッドで横になっているとユメ先輩が作ったおかゆを持ってきてくれた。

 

「いただきますね」

 

「どうぞ!」

 

 スプーンで掬ってひとくち食べる。

 

 シンプルな味付けだった。しかしだからこそ体調の悪い今は食べやすい。それに卵と鮭が入っていてとても美味しかった。

 

 ベッドの近くの椅子に座ったユメ先輩は、食事をする私の様子を、何も言わず、穏やかに微笑みながら見守っていた。特に会話が無くとも、何故だか安心できて、料理の温かさも相まって、それだけで元気が出る気がした。

 

「ごちそうさまでした。ユメ先輩、わざわざご飯まで作ってくれてありがとうございます」

 

「お粗末さまでした! お口にあったみたいでよかったよ。薬飲んだら寝ちゃっても大丈夫だよ。しんどい時は寝るのが一番だからね!」

 

 たしかにユメ先輩の言う通り寝るべきなんだろう。でも体調不良や悪夢のせいで精神的にもやられている今はもう少しだけ喋っていたかった。

 

「ユメ先輩·····」

 

「どうしたの?」

 

「い、いえ·····その····」

 

「?」

 

「も、もう少しだけ先輩と····喋っていたい····です」

 

 素直にこんなことを言うのは少し恥ずかしかったが、素直になれないせいであの時みたいな失敗をするのはもう嫌だった。

 

「──────うん、そっか。わかったよ。ちょっとだけ待っててね。食器だけ洗ってくるから」

 

「わかりました」

 

「しんどいんだろうからあんまりこういうことを思うのは良くないんだけどちょっとかわいすぎるよ····」

 

 ユメ先輩は何か独り言を呟きながら部屋を出ていった。

 

 

 





先生のエミュが難しすぎることに気がついて絶望しています。自分で書いてて解釈違いを起こすとかいう意味不明な現象に陥りました。

それとこの話には関係ないことですが、今後の展開を考えて独自設定タグを雇用しました。

先生のセリフの括弧をどれにするか悩みすぎて決められなかったのでアンケート。好み、或いは読みやすいものを回答していただければ幸いです。

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