アビドスユメモドキ 作:泡沫のユメ
いっけなーい、遅刻遅刻!
もう、今更寝坊するだなんて!
あ、自己紹介が遅れちゃったね。
私は梔子ユメ! 花の高校3年生、19歳!
·········19歳?
············
って、あれ?道の真ん中で倒れてる人がいる!
しかもキヴォトスではあまり見ない大人の男の人!
昼のアビドスは暑いんだからこんな所で寝てたら危ないよ!
あ、いけない。遅刻しちゃう!
対策委員会のみんな、今年は波乱の予感です。
───ん? あれ? スーツを着ている········大人の、男の人····?
キヴォトスにあんな普通の男の人なんていたかな····?
············
あれってもしかしてシャーレの先生じゃないの!? なんでこんな所で倒れてるの!?
いや、そういえば原作でも遭難してたんだっけ····
でも、助けたのは私じゃなくてシロコちゃんだったはず········?
というかそれどころじゃないよ! 遭難して倒れてるみたいだし助けてあげないと!
◇◇◇
どうしてこうなってしまったんだろう········
歩いても歩いても変わらない景色を眺めながら、先生は自身が遭難してしまった経緯を思い出していた。
きっかけは、ある生徒から届いた一枚の手紙だった。地域の暴力組織から継続的な襲撃を受けていて物資が底を突きかけているから助けて欲しい、という内容のもの。
この手紙を読んで、差出人である生徒が通う学校········アビドス高等学校へ向かうことを決意したまではよかった。生徒たちのためだ。今でも後悔はしていない。
失敗だったのは彼女の警告を軽く考えてしまったことだろう。
『注意。アビドス自治区は街のど真ん中で道に迷って遭難する、と言われているほど広大な自治区です。しっかり準備をしてから出発しましょう』
キヴォトスに来てから渡された、シッテムの箱と呼ばれるタブレット端末のメインOSであるA.R.O.N.A········白い髪の少女の声を思い出した。
街のど真ん中で遭難する、というのは冗談か、或いは誇張されているものなのだろうと油断していた。
その油断が命取りだったのだ。まさか本当に街のど真ん中で遭難するとは夢にも思っていなかった。
地図とコンパスは用意していたものの、どうやら数年前から地図が更新されていないらしく、目の前の景色とは地形が違っていた。地図を読めなければコンパスがあっても意味がなかった。
二日も遭難しているせいで既に水や食料は尽きていた。それに脚もプルプル震えている。
そして遂に体力の限界を迎えて倒れてしまった。
シッテムの箱の中のA.R.O.N.Aが心配している声が聞こえてくる。彼女も色々と手を尽くしてくれていたが、ここは上手く電波が通っていないのか、本領を発揮できていない様子だった。
本当にどうしようか。そうして倒れたまま悩んでいると足音が聞こえてきた。
「あのー·····大丈夫ですか····?」
声に反応して振り返ると、そこのいたのはどこかの学校の制服に身を包む、緑がかった薄い水色の髪に特徴的なアホ毛を持つ生徒だった。
"み、水を·······"
「あ、よかった。ちゃんと生きてる····」
情けない返答になってしまったが、それでも彼女はホッとしたような顔をしていた。初対面の私の身を心配してくれるあたり優しい子みたいだ。
"アビドス自治区に用事があって来たんだけど····遭難しちゃって空腹と脱水で倒れてたんだ。お金はあるんだけど食べ物があるお店を見つけられなくてね····"
「アビドスはそういう場所なの····食べ物がある店もほとんど無くなっちゃってて····もっと郊外の方に行けば市街地もあるんですけど····」
"そうなんだね。実は初めてアビドスに来たから土地勘がなくて····"
「ちょっと待ってくださいね····はい! これ、お水です!」
そうして差し出されたのはただのペットボトルに入った水だった。しかし遭難して脱水症状になりかけている私にとって、それは砂漠の中のオアシスに他ならない。お礼を言うことも忘れてペットボトルを受け取り、一気に飲み干してしまった。
"ありがとう。助かったよ"
「よかったです····ところで連邦生徒会から来た大人の人みたいですけど、アビドスに何か用事が····?」
"そういえば自己紹介をしてなかったね。私は連邦捜査部シャーレの先生だよ。アビドス高等学校から救援を求める手紙が届いたから向かおうとしてたんだけど、結果はごらんの有様だよ····"
情けない話だった。大人として、先生として生徒を助けに来たはずなのに、今助けられているのは私のほうだ。
そんな私の気持ちとは裏腹に、目の前の彼女は喜んだような顔をしていた。表情がコロコロ変わる子だった。見ているとなんだか元気を貰える気がする。
「やっぱり先生だったんですね! 私、アビドス高等学校の梔子ユメです! 学校まで案内しますよ!」
彼女改め、ユメはそう言いながら手を差し伸べてくれた。起き上がって付いていきたいのは山々だったが、脚が動く気がしなかった。
そのことを伝えるとユメは困ったような顔をしていた。
生徒に頼り切りになることに申し訳なさを感じたが、これ以上学校に着くのが遅れると困るのは物資が枯渇しているであろう生徒達だし、他に方法を思いつかなかったから、ひとつ提案をすることにした。
"背負ってもらうことってできるかな····?"
「あっ、その方法がありましたね! それで行きましょう!」
ユメはどうぞ! と言い、背中を向けながら、少し屈んでくれた。思っていたよりも簡単に受け入れられて少しだけ驚いた。
そのままユメに背負われながら学校へと向かうことになった。
◇◇◇
私は先生を背負いながら学校へ向かっていた。
夢ではセイアちゃんと出会うし、寝坊はするし、学校へ向かう道中で先生と出会うしで、ここ数時間のうちに色々起こりすぎている気がする····
何故かシロコちゃんではなく私が先生を拾うことになってしまったけど······特に問題は無いよね? シロコちゃんなら先生ともすぐ仲良くなるだろうし。
というか私が寝坊していなかったら先生はどうなっていたのかな·····
ホシノちゃんからの電話で聞いた限りシロコちゃんは既に対策委員会の部室にいるみたいだし、誰にも見つけられなかったのでは····?
その考えに至った瞬間冷や汗が出てきた。私が普段通り学校へ行っていた場合、先生は助からなかったかもしれない。
寝坊したのは夢の中でセイアちゃんと出会ったおかげだった。セイアちゃん、本当にありがとう。おかげで未来を変えられたよ。
"ユメ、大丈夫? 顔色が悪いみたいだけど····"
どうやら冷や汗だけではなく顔色も悪くなっていたらしく、先生に心配されてしまった。
"私を運ぶためとはいえ無茶はしないでね····?"
「無茶はしてませんよ! 私はこう見えてそこそこ力持ちなんです!」
これに関しては本当の事だ。ヘイローがあるおかげなのかはわからないけど、明らかに前世の頃より力がある。それこそ成人男性をひとり背負っていても一切苦労しないほどには。
そんなこんなで先生と話していると学校に辿り着いた。他のみんなは対策委員会の部室にいるだろうしこのまま向かってしまおう。
「おはようみんな!」
「あっユメ先輩? ····って! おはようじゃないわよ! 先輩が寝坊したせいで、ホシノ先輩を宥めるのが大変だったんだか········ら?」
怒られると思っていたのに、セリカちゃんと目が合った瞬間尻すぼみになっていった。どうしたんだろう。
「うわっ!? 何っ!? そのおんぶしてるの誰!?」
そういえば先生を背負ってたんだった。数十分くらい背負ったままだったせいで馴染んでいたから先生のことを紹介するのを忘れてた。
「セリカちゃん! この人はシャーレの····「わあ、ユメ先輩が大人を拉致してきました!」····へっ?」
説明しようとした瞬間にノノミちゃんに割り込まれてしまった。というか拉致って····私そんな事しないよ!?
「拉致!? 嘘ですよねユメ先輩····? シロコ先輩じゃないんですからそんなことしませんよね!?」
「····アヤネ? それってどういう意味?」
「えっ····わわっ!?」
「みんな落ち着いて! 速やかに死体を隠す場所を探すわよ! 体育倉庫にシャベルとツルハシがあるから、それを····」
シロコちゃんはアヤネちゃんに詰め寄っているし、セリカちゃんは証拠の隠蔽を図ろうとしていた。カオスとしか言い表しようがない状況が生まれてしまった。こんな時に頼れるはずのホシノちゃんはどこかへ行っているみたいだし····
ちなみにノノミちゃんはその様子をニコニコしながら見守っていた。こうなるとわかっていて拉致だとみんなに伝えたらしい。愉快犯の犯行だった。
"あ、あはは·····"
先生も思わずといった様子で苦笑いをしていた。
「うぅ····先生ごめんなさい。とりあえず降ろしますね····」
"あ、うん。ユメ、ここまでありがとう"
そうして先生と喋っていると、みんなの視線がこちらに向かっていることに気がついた。
「えっ? 喋ってる····? 死体じゃ····なかったんですか····?」
「それに親しげだし····ユメ先輩が拉致してきたわけじゃないの·····?」
「拉致したわけじゃないし、お客さんだから! というか私はそんなことしないからね!?」
明らかにからかっている様子のノノミちゃんは兎も角、アヤネちゃんとセリカちゃんはどうして拉致だと思い込んでいるんだろう····
その後先生が自己紹介をしてからようやく誤解が解けた。
◇◇◇
やってしまった。
屋上で倉庫から引っ張り出してきたマットレスに横になりながら、私は朝のことを後悔していた。
ユメ先輩が学校に来なかった。言葉にしてみればそれだけのことで、学校を休むことなんて誰にでもあることなのだろう。
でもユメ先輩だけが学校にこないという状況が、どうしても先輩がいなくなった日と重なってしまった。だから取り乱して後輩達に迷惑をかけることになるのだ。結局ただの寝坊だったみたいだし····
みんなの声が聞こえてきた。何を言っているかまではわからないけど、騒がしくなったということは恐らくユメ先輩が来たのだろう。やはり私の杞憂だった。
いつまでも昔のことを引きずっている自分に嫌気がさす。ユメ先輩が色々と言ってくれたから割り切ることはできているけれど、それでもあの時のことを忘れることはできなかった。
そんなことを考えていると視界が暗くなった。指の隙間から少しだけ光が見える。どうやら誰かの手に塞がれたらしい。
「····ユメ先輩」
「え!? なんでわかったの!?」
「先輩以外にこんなことをする人はいませんよ」
視界が戻ってきて振り返ると、残念そうな顔をしたユメ先輩が近くに座っていた。むしろなぜバレないと思ったのかが不思議だった。後輩達はこんな事しないだろうに。
「それで、なにかあったんですか?」
ユメ先輩が昼寝中の私を起こしに来るのは珍しいことだったから、なにかあったのだろうと予想する。いつもはセリカちゃんかシロコちゃんに起こされている。
········起こされる代わりに目が覚めるとユメ先輩に膝枕をされていた、ということが何度かあったけど。その時のユメ先輩は穏やかな顔をしながら私の頭を撫でていた。あそこまでされてしばらく起きなかったことが少し、というか、かなり恥ずかしかった。
「あっそうそう。ついに先生が来たんだよ! まあ、来たというより私が背負って連れてきたんだけど····」
「背負って連れてきた····?」
ユメ先輩が言うには件の先生は学校に向かう途中で遭難して倒れていたらしく、それを運良く先輩が見つけて連れてきた、との事だった。
····ちょっと迂闊過ぎないかな? アビドスが遭難しやすい場所、ということくらいなら調べれば直ぐにわかる事のはずだ。それに先生が所属しているシャーレ、という組織は超法規的機関だと聞いている。それならば案内くらいいくらでも用意できそうなのに····
「それとね、先生のことについてホシノちゃんに伝えておきたいことがあって」
「伝えておきたいこと、ですか?」
恐らく先生のことを信頼してあげて欲しい、みたいなことを言われるんだろう。先輩の見た未来では先生は必要らしいし、そんな先生と私の仲が拗れるのを阻止するためだ。
私が大人を嫌っているのはユメ先輩も知っていることだし、先輩ならそれくらいの気遣いはするだろう。
「うん。難しいかもしれないけど私の話は一旦忘れて、先生の人柄はホシノちゃん自身に判断してもらいたいなって」
「え?」
考えていたことと真逆のことを言われた。でも····
「いいんですか? それだと私が先生のことを信頼しない可能性だって····」
「いいんだよ。寧ろホシノちゃん自身に判断してもらわないと困るって言うか····」
よくわからなかった。不思議そうな顔をしているのに気付かれたのかユメ先輩は説明を始めた。
「例えばさ、私が先生のことを信頼してあげてってホシノちゃんに伝えたら、ホシノちゃんは先生のことを信じてくれると思うんだよ」
それはその通りだ。ユメ先輩のことは信頼している。だからこそ言われると思っていたのだが。
「でも、それで信じているのって先生じゃなくて私のことでしょ? 私を通してしか先生のことを見ていないの」
ハッとさせられた。ユメ先輩の言う通りだった。先生のことを全く見ていない。そんな状態では先生を心の底から信頼できる日は来ない。ユメ先輩はそのことを懸念していたのだろう。
「だからね、難しいかもしれないけど色眼鏡をかけずに先生のことを見てほしいなって····」
「わかりました」
ユメ先輩は普段、おかしな事ばかり言う癖に、こういう時は私の思いつかないところまでよく考えている。不思議な人だと改めて思った。
そうしてユメ先輩と喋っているとなんだか安心することができたし、さっきまでの悩みも気にならなくなった。例え今後悩むことがあったとしても、ユメ先輩が助けてくれるのだろうと信じることができたから。
そんなことを思って先輩の顔を見てみると、どこか気まずそうな顔をしていた。····急になんで?
「そ、そのー····寝坊したせいで心配をかけちゃったみたいだから····ご、ごめんね?」
さっきまでのユメ先輩と同一人物なのかを疑いたくなるほど情けない声を出していた。頼れるような雰囲気は一切感じられない。
でも、ユメ先輩が寝坊したことはもう気にしていなかったのだ。そのことを伝えようとした瞬間、銃声が聞こえてきた。
音のした方向を見てみると、いつものヘルメット団達が火器を発砲していた。
「ユメ先輩、ヘルメット団が来たみたいです。行きましょう。先生が来てくれたってことは補給もあったんですよね?」
「ホシノちゃんの言う通りだよ! 今日は弾も撃ち放題だからね! もうヘルメット団に苦戦なんてしないよ!」
その後、一度対策委員会の部室に集まって先生と顔合わせをしつつ、補給をおこなった。その際に先生から、戦術指揮をさせて欲しい、という申し出があった。
先生の能力を知りたかったし、ヘルメット団の数がいつもより多かった、というのもあって受け入れることにした。
落ち込んでいた気分もユメ先輩のおかげで持ち直していたし、弾も十分にある。負ける気はしなかった。
そうして私達の反撃の狼煙が上がった。
先生のセリフの括弧は""に決まりました。アンケートに協力してくださってありがとうございました。
先生のセリフの括弧をどれにするか悩みすぎて決められなかったのでアンケート。好み、或いは読みやすいものを回答していただければ幸いです。
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