アビドスユメモドキ   作:泡沫のユメ

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22:理想と現実

 

 

 ヘルメット団からの校舎の防衛は拍子抜けとも言っていいレベルであっけなく終わってしまった。

 

 それも当然のことなのかもしれない。そもそも弾さえあればヘルメット団が何十人いようともホシノちゃんひとりで制圧できるんだし。

 

 それにホシノちゃんを抜きに考えたとしても、物資不足が解消されて久しぶりに全力で戦えるということでみんなのやる気が漲っていたし、更には先生の指揮もある。

 

 先生はシッテムの箱の力のおかげなのかヘルメット団の位置を正確に把握できているみたいで、その情報だけでも戦いやすさが段違いだった。

 

 個々の実力差に加えて、情報にも格差があるのだからいくらヘルメット団の数が多くても負けるはずがなかった。なんなら全員ほぼ無傷だし。

 

 久しぶりの快勝だったからかみんなの気分もいいみたいで、特にセリカちゃんとシロコちゃんはテンションが高かった。

 

 まだまだやり足りない、と言っているふたりをホシノちゃんやノノミちゃんと一緒に宥めながら対策委員会の部室に戻った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「カタカタヘルメット団の撤退を確認できました。先生もお疲れ様です」

 

 アヤネの言葉を聞いて肩の力を緩める。アビドスでの初めての戦闘は無事に終わった。

 

 出撃していた生徒達も直に戻ってくるだろう。先生は戻ってくるのを待っている間、先程の戦いを思い出していた。

 

 彼女達は強かった。自分の指揮などなくても勝てていただろうという確信がある。個々の強さもそうだし、普段から一緒に戦っているからか、上手く連携も取れていた。

 

「あははっ! どうよ! 思い知ったかヘルメット団め!」

 

「ん、ヘルメット団には負けない」

 

「私たち、勝ちました!」

 

 セリカ、シロコ、ノノミが教室に戻ってきた。今まで物資不足で苦戦していたからだろう。久しぶりに勝利できたいうことでみんな興奮している様子だ。

 

「おじさんは疲れたよ〜」

 

「みんなやる気がすごかったもんね! お疲れ様!」

 

 少し遅れてホシノとユメも戻ってきた。全員の無事を確認できて、改めて安心することができた。

 

 キヴォトスの生徒達が銃弾では傷つきにくいことはわかっているが、それでも心配だった。これについてはキヴォトスの外との差なのだろう。慣れるまで時間がかかるかもしれない。

 

『····? 視線を感じます』

 

 そんなことを考えていると、A.R.O.N.Aの声が聞こえてきた。どうしたのかと尋ねてみると、ユメから視線を感じたらしい。

 

 ユメの方を見てみると、確かに彼女はシッテムの箱を眺めながら首を傾げていた。しかしそれもほんの数瞬のことで、直ぐにホシノの元へと向かっていった。

 

「改めてご挨拶します、先生。私達はアビドス廃校対策委員会です」

 

 戦闘での興奮も落ち着いてきた中で、アヤネから代表として挨拶をされた。

 

 ひとまずは支援物資を、ということで渡している最中にヘルメット団が攻めてきたため、名前こそ聞けたものの落ち着いた状態での自己紹介ができていなかったのだ。

 

 アヤネからアビドス廃校対策委員会についてと、所属している生徒達の紹介を受けた。

 

 一年生であり、先程戦闘でのオペレートもこなしていたショートヘアに赤メガネをかけた奥空アヤネ。同じく一年生で会計を担当している黒見セリカ。黒髪ツインテールに猫耳が特徴的な生徒だ。

 

 ベージュでロングヘアの髪型をしていて、明るい笑みを浮かべている十六夜ノノミと、銀髪のセミロングにオッドアイを持つ砂狼シロコ。彼女達が二年生らしい。

 

 そして、部室に戻ってきてから机に突っ伏して溶けている小鳥遊ホシノと、そんな彼女の頭を撫でている梔子ユメの二人が三年生だった。

 

 以上六名がアビドス高等学校の全生徒であり、対策委員会のメンバーだ

 

「先生がいなかったらさっきの人たちに学校を乗っ取られてたかもしれませんし····来てくださってありがとうございます」

 

 アヤネを筆頭に皆口々にお礼を言ってくれたが、本当に頑張ったのは彼女達の方だろう。自分がしたのは、物資を少し持ってきたことと、後ろで指示を飛ばしていたくらいのことだ。

 

「それでもです! 先生のおかげで校舎を守れたのは変えようのない事実ですから!」

 

 ユメの言葉に皆が頷いていた。先生はその言葉を素直に受け取ることにした。ここまで言われて彼女達の好意を無碍に扱うのは失礼だと思ったから。

 

「でも····先生のおかげで弾の問題は解決したけどヘルメット団達は諦めないと思う」

 

「たしかに。しつこいもんね、あいつら」

 

「そうですよね····こんな消耗戦をいつまで続けなきゃいけないんでしょうか····ヘルメット団以外にもたくさん問題を抱えているのに····」

 

 ヘルメット団以外の問題、という言葉も気になったが今聞くべきでは無いだろう。目下の問題であるヘルメット団の対処について考えるべきだ。

 

「それについてはおじさんに作戦があるよー」

 

「作戦·····ですか?」

 

「うん。ヘルメット団は襲撃に失敗したばかりで消耗しているはずだし、今のうちに前哨基地に襲撃をかけるのはどうかなって。こっちは先生のおかげで補給の問題もないからね」

 

 いい案だと思う。物資を消耗しているのはもちろんのこと、先程の敗北が頭によぎって士気が下がっているヘルメット団の子達も多いだろう。そんな状況なら対策委員会が負けることもないはずだ。ホシノの作戦に賛成する。

 

「私も賛成です。あちらもまさか反撃されるだなんて思っていないでしょうし、それに先生のお墨付きも貰えましたから!」

 

 ホシノの案に皆乗り気のようだった。特に興奮冷めやらぬといった様子のシロコとセリカは既に準備を終えていて、今すぐにでも飛び出していきそうな雰囲気がある。

 

「みんな賛成みたいだし、この勢いのまま行っちゃおうか。対策委員会、出撃だよー」

 

 ホシノの言葉と共に襲撃作戦が決行される。前哨基地は少し距離が離れた場所にあるようで、車に乗って近くまで向かうことになった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 アヤネちゃんが運転する車に揺られながらこれからの事を考える。先生もアビドスに来たことだし、ついに原作が始まったということなのだろう。

 

 先生と言えば一つ意外なことがあった。シッテムの箱のメインOS、アロナの声が聞こえなかったのだ。

 

 たしかに生徒からは認識できないと原作でも言われていたけど、私には先生としての記憶があるし、それにユメ先輩の神秘も私は先生のテクスト? のお陰で助かったのだと言っていたから、普通に聞こえるんじゃないかな、と思っていたから意外だった。

 

 恐らくだけど、私はこの世界では先生じゃないから聞こえなかったのだろう。まあでも聞こえないからといって何か問題が起こるわけではないはず······ないよね? 

 

 それよりも今考えるべきは······ヘルメット団の前哨基地を襲撃することだ。この作戦を皮切りに対策委員会のみんなが様々な事件に巻き込まれることになる。

 

 様々な事件······具体的にはヘルメット団によるセリカちゃんの誘拐、アビドスに苦戦し続けるヘルメット団に見切りをつけたカイザーが送り込んでくる便利屋68からの襲撃。そしてその便利屋を追いかけてきたゲヘナ風紀委員会との激突。最後はカイザーとの正面対決だ。

 

 ·····こう考えてみると対策委員会編は思っていたよりも戦闘続きだ。気が休まる暇がない。

 

『なんでも武力で解決するようになったら、いつか自分を見失っちゃうと思うの』

 

 私が言ったセリフでもあるけど、これは原作のユメ先輩を参考にしたものだった。今ならこのセリフの重みが少しだけわかるような気がする。力による問題の解決はより強い力を呼ぶだけで、根本的な解決には至らない。

 

 今回の襲撃で正面からの戦闘は不可能だとヘルメット団が思ってしまったから、セリカちゃんが誘拐される事件が起こることになるんだし、その事件を私達が防ぐから今度は便利屋が襲撃しにくることになる。

 

 だけど、きっかけとなる前哨基地の襲撃に反対するべきだったのかと言われると、一概にそうとも言えないのが難しいところだ。

 

 そもそもの話、私達が前哨基地への襲撃をしなかったとしても、痺れを切らしたカイザーから誘拐をするよう指示が飛んでくる可能性だってある。

 

 これは原作を読んでいた頃から思っていたことだけど、ヘルメット団は私達対策委員会に負けてからセリカちゃんを誘拐するまでがいくらなんでも早すぎる。一人になっている時間を狙うためにも少しは準備する期間が必要なはずなのだ。

 

 だから恐らく計画自体は既にしていて、セリカちゃんが一人になるタイミングを探っているのだろう。そしてその誘拐を防ぐのなら、今回の前哨基地への襲撃がなくても結局未来は変わらない。

 

 それに、便利屋やゲヘナ風紀委員会との出会いも全てが悪い方向に働くわけではないのだ。先生と便利屋や風紀委員会の出会いを全て無かったことにしてしまったら、それこそバッドエンドになる可能性もあるし····

 

「むぅ····」

 

 思わずため息を吐いてしまう。ままならないものだ。やはり未来を知っていても、私にできることはそう多くない。目の前に苦しんでいる子がいたら、手を差し伸べるだけで精一杯だ。

 

「········」

 

 でも······だからといって諦めるつもりも、悲観するつもりもなかった。たしかに大きな変化は起こせていないのかもしれないが、何もできていないわけではない。昨晩だって、セイアちゃんを笑顔にすることができた。

 

 一つ一つは小さくても、積み重ねてきたものがある。そういったものがいつか大きな奇跡に繋がるのだ。だから、不安になりすぎる必要は無い。

 

 それに······

 

「ユメ先輩、大丈夫ですか? さっきまで悩んでいるような顔をしてましたけど····」

 

 私にはホシノちゃんがついている。キヴォトス最高の神秘だとか、キヴォトスでも有数の強さを持っているだとか、そんなことはどうでもいい。

 

 ホシノちゃんが私のことを信じてくれている。その事実だけで十分だった。

 

 未来のことは相談できないけど、対策委員会の子達だっているのだ。それだけでどこまでも頑張れるような気がしてくる。私はもう一人じゃない。

 

「ちょっと考え事をしててね。でも大丈夫だよ! 心配してくれてありがとね」

 

 今更な話だけど、梔子ユメである私が生きていてホシノちゃんと話せていること自体が原作から考えると大きな奇跡なのだ。

 

 ······死という概念が遠い筈のキヴォトスで生きていること自体が奇跡って、原作のユメ先輩の運命はちょっと残酷すぎるんじゃないかな····?

 

 それもセトのせいだとユメ先輩の神秘が言っていた。神話とやらのせいなのかもしれないが、それでも到底許せるものでは無かった。いつかセトの憤怒に出会ったら文句を言ってやろう。

 

「カタカタヘルメット団のアジトがあるとされるエリアに入りました!」

 

 アヤネちゃんの声が聞こえてきた。そろそろヘルメット団との戦いが始まるのだろう。

 

 なんでも武力で解決するのが良くないというのは事実だし理想ではあるけど、時には武力が必要というのもまた事実なのだ。残念なことに現実はそこまで優しくない。

 

 特に銃の引き金が軽いこのキヴォトスではそれが顕著だ。二十年近く暮らしてきてキヴォトスの価値観に染まってしまった私には、相手に銃を撃つ際の躊躇というものが存在していない。

 

 ·······日本人としての価値観も持っているはずなのに、原作のユメ先輩よりも好戦的な性格になってしまったのは一体どういうことなんだろう·······

 

「半径十五キロ圏内に、敵のシグナルを多数検知しました。おそらく敵もこちらが来たことに気づいているでしょう。ここからは実力行使です!」

 

 アヤネちゃんの宣言と同時にヘルメット団の姿が見えてきた。

 

 やる気十分といった様子の頼れる後輩達と共にヘルメット団との交戦を開始した。

 

 

 

 

 

 

 その後の事は特に語ることもなく。

 

 ちょっとヘルメット団の子達がかわいそうになるくらいの圧勝だった。

 





原作も始まったから今までより書きやすくなるかなって思ってたのに、寧ろ難産になっている気がします。どうして····
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