アビドスユメモドキ   作:泡沫のユメ

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いつも誤字報告ありがとうございます。自分では気がつけないことが多いので助かってます。



24:綻び

 

 ───最近、妙にイライラする。

 

 先生が来た日の翌朝。誰もいない教室でホシノはそんなことを考えていた。

 

 砂漠の方で砂嵐が頻繁するようになってからはずっとこの調子だった。常に気が立っているせいで夜もあまり眠れていない。

 

 学校でよく昼寝をするようになったのもそのせいだ。ユメ先輩が近くにいる時、もしくは膝枕をしてくれている時だけはぐっすり眠ることができる。

 

 そんな状態でしか眠れないことに少しの不安とかなりの恥ずかしさを覚える。ユメ先輩は私に膝枕をできる頻度が増えて喜んでいたから、迷惑をかけているわけではないみたいだけど。

 

 けど、だからといっていつまでもユメ先輩に甘えるわけにはいかない。

 

 ユメ先輩の近くで眠る、というのはいつかの柴大将が言っていたように対症療法をしているだけで、根本的な問題を解決できているわけではないからだ。

 

 イライラしている原因さえわかれば少しはマシになるかもしれないと思って考えてはみたけど、思い当たる節がヘルメット団からの襲撃と、砂嵐のことくらいしかなかった。

 

 でも、ヘルメット団の問題は昨日解決したはずだ。それに······

 

「砂嵐なんて、今に始まった話でもないのに······」

 

 そう、今更なのだ。ずっとアビドスで暮らしてきたから、砂嵐なんて何度も経験している。今更そんなことで眠れない程に気が立っているというのはおかしな話だった。

 

 それでも、鬱陶しいと思っているのは事実だ。砂嵐を見ていると、どういうわけか余計にイライラするのだ。今までそんなことは一度もなかったはずなのに。

 

「······うへ。自分で思ってるより、参ってるのかな······」

 

 どうやら夜まともに眠ることができない、という現状は私の想像以上に精神をすり減らしているみたいだ。自然災害に対して怒りを感じるだなんてどう考えてもおかしい。

 

 もうこうなったら仕方がない。後でユメ先輩に相談をしよう。

 

 こんな問題くらい、自分の力で解決したかった。でも、一人で抱え込み過ぎるとロクなことにならないのだ。その事は私が一番よくわかっている。

 

 それに、このまま問題を先送りにしているとこの怒りを誰かにぶつけてしまう可能性があった。

 

 それだけは避けなければならない。だって、そんなことをしたらまた誰かが······ユメ先輩が、どこかへ行ってしまう。また私のせいで、ユメ先輩がいなくなってしまう。

 

 もしそうなったら、私はきっと耐えられない。今度こそ私がユメ先輩を守らなければならない。あの過ちを繰り返すわけにはいかなかった。

 

「ホシノ先輩、ここにいたんだ」

 

 シロコちゃんの声が聞こえてきた。思考を中断して意識をそちらに向ける。

 

「ん。勝負は私の勝ち」

 

 ドヤ顔をしながらそんなことを言うシロコちゃんに疑問が生まれる。さっきの様子からしても私を探していたみたいだけど、勝負······? 

 

「シロコちゃん。勝負って?」

 

 そうしてシロコちゃんから説明をしてもらった。セリカちゃんのバイト先である柴関ラーメンへ対策委員のみんなと先生で突撃するために私を探していたらしい。

 

 ちなみに勝負の内容は、ユメ先輩とどっちが先に私を見つけられるか、というものだった。ユメ先輩は屋上の方を探しに行ったらしい。最近はいつもそこで昼寝をしていたからだろう。

 

「おじさんを賭けて二人で争ってただなんて。モテモテだー」

 

「? ホシノ先輩、ユメ先輩にはもともとモテてたと思うけど」

 

 シロコちゃんはコテンと首を傾げながらとんでもないことを言い出した。

 

「し、シロコちゃん·····?」

 

「ユメ先輩はホシノ先輩のことが好きすぎる。もっと私のことも甘やかすべき」

 

 ふんすと鼻息を荒くしながらそんなことを言ってくるシロコちゃんに思わず苦笑いをしてしまう。ユメ先輩はシロコちゃんのことも存分に可愛がってはいるとは思うのだけど。それでも不満なようだった。

 

「そういえば私とノノミが来る前は二人だけだったってユメ先輩に聞いたことがある。あんなに好かれるなんて、ホシノ先輩はユメ先輩に何をしたの?」

 

「それは······」

 

 昔の私は······何を、していたんだろう。あの頃の私は衝動的に動いているだけだった。

 

 ただただ怒りに身を任せていただけだ。そうしていればいつか、全ての問題が解決するのだと信じて、言い訳をして。理想だけは一丁前で、何もできていなかった。

 

 助けてくれたとユメ先輩は言ってくれたけど。先輩に対する態度だって会ったばかりの頃は酷いものだったはずだ。

 

 どうしてユメ先輩は、こんな私を······

 

「········」

 

 一度気になると忘れることはできなかった。あの時のことだってそうだ。怒りに任せて酷いことを言ったのに、それで命まで落としかけたのに。どうしてユメ先輩は私を許してくれたんだろう。

 

 遭難していたユメ先輩を助けたのはたしかに私だった。でも、そうなった原因を作ったのだって私なのだ。マッチポンプのようなものだった。

 

「ホシノ先輩?」

 

 ふと気がつくとシロコちゃんが不思議そうな顔をして私の方を見ていた。言い淀んだまま黙ってしまったせいかもしれない。

 

 間違いなく重症だった。シロコちゃんの前ですら上手く自分を取り繕えなくなっている。それに、思考もなんだかネガティブな方向に寄ってしまう。

 

「······うへ。おじさんも歳だからね。昔のことは忘れちゃったよ」

 

「ん······」

 

 納得できていないのかシロコちゃんにジトッとした目で見られている。でも、今だけは放っておいて欲しかった。上手く先輩をやれる自信が無かったから。

 

「シロコちゃーん! 屋上にホシノちゃんはいなかったよー······って、あれ? ホシノちゃん?」

 

 そんな時、ユメ先輩がやってきた。これ以上シロコちゃんから追求されたくなかった私は、誤魔化すようにユメ先輩に話しかけた。

 

「ユメ先輩、おはようございます。柴関ラーメンへ行くんですよね?」

 

「そうだよ! シロコちゃんから聞いたの?」

 

「はい。ノノミちゃん達と合流するためにもまずは部室に戻りましょう」

 

 そう言いながらユメ先輩の横に並んで歩き出す。シロコちゃんは少しだけ不満気な顔をしていたけど、それも数瞬のことですぐに私とユメ先輩についてきた。これ以上追求されなかったことが本当にありがたかった。

 

 何とかして自分の感情を整理する。どういうわけかユメ先輩の近くにいると心が落ち着いてくるのだ。さっきまでささくれ立っていたのが嘘みたいだった。

 

 その事に恥ずかしさを覚えながら対策委員会の部室へと向かって行った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「いらっしゃいませ! 柴関ラーメンで····す····」

 

 笑顔で対応をしていたセリカちゃんだったが、私達の姿を認識した瞬間、顔が少し赤くなり笑顔に亀裂が入った。

 

 しかし私達はそんなのお構い無しと言わんばかりの態度で店の中へと入っていく。

 

「あの〜☆6人なんですけど〜!」

 

 ノノミちゃんはものすごくいい笑顔を浮かべていた。かわいい後輩が頑張っている姿を見れて嬉しいのか、セリカちゃんを弄ることかできて嬉しいのか。どちらなのかは定かではなかったが、きっと後者の割合の方が大きいのだろう。

 

「あ、あはは······セリカちゃん、お疲れ······」

 

「お疲れ」

 

 アヤネちゃんはどこか気まずそうな顔をしていたが、シロコちゃんは全く気にしていない様子だった。

 

 "セリカ、お疲れ様"

 

「せ、先生まで!? みんなどうしてここを····? やっぱり先生はストーカーだったんじゃ······」

 

 先生がとんでもない冤罪を······いや、今朝会った時に追いかけたらしいから冤罪では無いのかな······? いくら心配だったからって追いかけ回すのはちょっと怖いよ先生。

 

 それはともかくとして、ここに連れてきたのは先生ではなく······

 

「ふっふっふ。私に隠し事はできないよ!」

 

「ユメ先輩のせいなの····!? ううっ····昨日はまともな先輩だと思ったのに·····」

 

 ちなみにこれについては原作知識から知っていた······というわけではなく、この前来た時に柴大将に教えて貰ったのだ。

 

 大将とも既に5年近い付き合いになっている。後輩達を除けば一番仲がいいのは柴大将なのかもしれない。そういったこともあって食べに来た時にはよく世間話をしているのだ。

 

 今年の初め頃、また留年しました! と言った時の柴大将の顔が忘れられない。本気で心配をされてしまったし、元気いっぱいで言ってしまったせいで怪訝そうな顔までされてしまった。

 

「うへー。おじさんもここなんじゃないかと思ってたよ」

 

「ホシノ先輩にもバレてたの!?」

 

 そんなこんなでセリカちゃんと喋っていると厨房の方から柴大将が出てきた。

 

「ユメちゃんがいるってことはアビドスの生徒さん達か。セリカちゃん、お喋りはそれくらいにして案内してやってくれ」

 

「うぐっ······はい、こちらへどうぞ」

 

 そうしてセリカちゃんに案内されながら6人掛けのテーブル席へと移動した。

 

 向かって左側にホシノちゃん、私、シロコちゃんが座り、右側に先生、ノノミちゃん、アヤネちゃんが座っている。

 

 私は当然ホシノちゃんの隣に座っている。この場所だけはいくら大切な後輩だろうとも譲れるものでは無かった。

 

「セリカちゃん。バイトのユニフォーム、とってもカワイイです☆」

 

「うんうん。よく似合ってるよ! もしかしてユニフォームでバイト先を決めたの?」

 

「ち、ち、違うわよ! ユニフォームは関係ないから! 行きつけのお店だったからだし····」

 

 冗談のつもりで言ったのだが、この焦りようから見ると本当にユニフォームで決めたのかもしれない。セリカちゃんの可愛らしい一面を見つけてしまった。

 

「ユニフォーム姿のセリカちゃん、写真撮っとけば一儲けできそうだねー。どう? 先生も一枚買わない?」

 

「先生が買わなくても私は買うよ!!」

 

「ユメ先輩!? 何言ってるの!?」

 

 先生が少し気まずそうな顔をしていたので助け舟を出す。が、それはそれとしてセリカちゃんの写真が欲しいのも本音だ。最近は後輩達の写真を集めるのが一つの趣味になっている。

 

 ······ここだけ切り取ると少しだけ犯罪臭がしてくるような。別に、邪な気持ちがあるわけではない。単に思い出として残しておきたいのだ。いつか作るであろう卒業アルバムにも載せたいし。

 

「変な副業はやめてください、先輩······」

 

「アヤネちゃん····!」

 

 セリカちゃんはまるで救世主を見つけたかのような声でアヤネちゃんの名前を呼んでいた。

 

 アヤネちゃんは悪ノリをすることが多い対策委員会唯一の良心だ。ちなみに私は悪ノリをする側だった。

 

「も、もういいでしょ! ご注文は!?」

 

 セリカちゃんにそう聞かれ、皆が思い思いのラーメンを注文していく。ちなみに私は醤油ラーメンを注文した。

 

「······ところで、みんなお金は大丈夫なの? もしかしてまたユメ先輩かノノミ先輩に奢ってもらうつもり?」

 

「はい、私はそれでも大丈夫ですよ☆このカードなら限度額までまだ余裕がありますし」

 

「いや、今日も私が払うよ! 後輩に奢らせるわけにはいかないからね!」

 

 こういう時のために少しだけお金を用意している。ラーメン屋にしてはかなり良心的な値段設定をされている柴関ラーメンなら、6人分くらい支払っても何も問題は無いのだ。

 

「むう······ユメ先輩、いつもそう言って奢らせてくれないじゃないですか。たまには私に払わせてください!」

 

 しかしノノミちゃんは一歩も引く気が無い様子だった。どうしたものか。たまにはノノミちゃんに甘えてしまおうか、なんてことを考えていると······

 

 "今日は私が払うから二人とも大丈夫だよ"

 

 先生がそんなことを言ってくれた。大人だからね、と言われてしまうとさすがの私やノノミちゃんも引かざるを得なかった。

 

「うへー。先生、大人のカードも持ってるじゃん。これは出番だねー!」

 

 ホシノちゃんが先生のポケットを探ってクレジットカードを取り出していた。流石にそれは良くないだろうと注意をしようとして······できなかった。

 

 ホシノちゃんが持っているクレジットカードの方に意識が釘付けにされてしまったからだ。

 

 大人のカード。生や時間を対価に奇跡を起こす、先生にとっての切り札。

 

 黒く光っているそれは、酷く異質なものに見えた。

 

 それに、あれなら私でも······

 

「ユメ先輩····?」

 

 ぼーっと見惚れていたせいだろう。ホシノちゃんに心配そうな顔をさせてしまった。なんでもない、と誤魔化しながらセリカちゃんが運んできてくれたラーメンを味わった。

 

 

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