アビドスユメモドキ   作:泡沫のユメ

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誤字報告ありがとうございます。久しぶりに書いてるからか、自分でも信じられないような誤字が多いので本当に助かってます。



30:覆面水着団

 

 便利屋の事務所に電話の呼び出し音が鳴り響く。アビドスの襲撃に失敗した翌日のことだった。

 

「……アルちゃん、電話出ないの?」

 

「表情が暗いし、クライアントなんじゃない?」

 

「あー、そりゃ億劫にもなっちゃうよねー。失敗したって報告しないとじゃん?」

 

「アル様……」

 

 そんな私達の声を聞いたアルは意を決した様子で受話器を取り、クライアントに報告を始める。

 

 カヨコはその様子を見守りながら考え事をしていた。

 

 ―――アビドスをこれ以上襲撃するのは割に合わない。

 

 それが素直な感想だった。確かに今回の依頼は報酬も豪華だ。それこそ、何ヶ月かは働かずとも暮らせてしまうほどには。

 

 しかし、それでも襲撃をする気力は下がっていた。

 

 理由はいくつかある。一つは、最近話題のシャーレの先生。そんな彼がアビドスに付いていたこと。

 

 そしてもう一つは……アビドスの生徒達が想像以上に強かったこと。特にピンク髪の……クライアントから貰った情報では小鳥遊ホシノと言ったか。彼女が強すぎるのだ。カタカタヘルメット団が戦いたく無くなるのも納得できる強さだった。

 

 あとは、社長のアルの気持ちがあまり乗っていないという理由も含まれている。即断即決で行動することが多いアルにしては珍しい話だった。

 

「も、もちろん実戦はすぐにでも……という感じで……1週間以内には……はい」

 

 そんなアルの声が聞こえて思考が中断される。向かいに座っているムツキも驚いたような顔をしていた。

 

 受話器を置いたアルに話しかける。

 

「社長、一体どういうこと……? まさか、またアビドスと戦うの?」

 

「……あのクライアントは私も詳しく知らないけれど、超大物なのよ。この依頼、失敗するわけにはいかないわ。それに、なんだか様子もおかしかったし……」

 

 アルの気持ちもよくわかる。依頼から逃げ出してクライアントに目をつけられるのは確かに問題だった。ただ、それでも……

 

「それでも、また襲撃するのは割に合わないよ。アビドスの……あのピンク髪の生徒。あれは、少なくとも風紀委員長と同格だよ」

 

「うぇっ!? そ、そんなに…?」

 

 風紀委員長と聞いて、アルは決意が鈍ったようだった。

 

 それも当然のことで、ゲヘナの風紀委員長と言えば1人で風紀委員会の半数程の戦力を賄える程の実力を持っているのだ。そして、何度か交戦をして手も足も出なかった経験もある。逃げ出すだけで精一杯だった。

 

「うーん、そうだね。少しタイプは違うけど、カヨコっちの言ってることは強ち嘘でもない思うよ?」

 

 ムツキの意見を聞いたアルは更に意気消沈してしまった。表情には出ていないが、心の中では白目を剥いているのだろう。

 

 そんなアルに質問を重ねるのは少しだけ気が引けてしまうが、もう1つ気になることがあった。

 

「そういえば社長。クライアントの様子がおかしかったって言うのは?」

 

「え? そ、そうね。焦ってる? というか。そんな感じだったわ」

 

「焦る…?」

 

 妙な話だった。アビドスの生徒たちは確かに強いが、少ない生徒数や膨大な借金と、決して余裕があるような状況ではないのだ。

 

 言ってしまえば、小さな学校の1つにすぎないはず。そんな学校を相手にして、大物であるはずクライアントが焦りを見せるというのはどう考えてもおかしい。

 

 何か、裏があるような気がしてならない。

 

「……やっぱり、今回の依頼はきな臭いね」

 

「カヨコっちもそう思う? なーんか怪しいよねー」

 

「ただ、社長の言うようにこのクライアントから逃げるのも簡単じゃないだろうね。態々前任のカタカタヘルメット団を潰すような依頼を出してくるくらいだし」

 

「そうだねー。傭兵を雇うためにお金は使い切っちゃったし、どうしよっか?」

 

 ムツキの言う通りで、依頼を続けるにしても破棄するにしてもお金は必要だった。

 

「……融資を受けるわ」

 

「え? アルちゃん、風紀委員会に銀行の口座を凍結させられてなかった?」

 

「うぐっ……そ、そうだけど! 私に考えがあるの!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そうしてアルに連れてこられたのはブラックマーケットの闇銀行だった。しかし、審査という名目で何時間も待たされているうちに眠ってしまっていたようだ。

 

 マーケットガードに起こされてアルと銀行員の様子を見てみるが、お世辞にも交渉が上手くいっているようには見えなかった。

 

 しかし、あまり落胆の気持ちはなかった。アルが突飛な行動に出るのはよくあることだったし、それを嫌だと思ったこともなかったからだ。

 

 そんなことを思いながらアルに声をかけて帰ろうとした瞬間、停電が起こった。アルや銀行員の混乱する声が聞こえてくる中で銃声が響く。

 

 そして、ふたたび電気が灯った時に目に入った光景は、覆面を被った集団がマーケットガード達を鎮圧している様子だった。

 

 ―――なにやってるの、あいつら。

 

 覆面で顔を隠しているが、あれは紛れもなくアビドスの生徒達だ。前日に見た制服を忘れるはずもない。

 

「あれ、あいつらは……」

 

 隣にいるムツキも気がついた様子だった。ハルカは相手がアビドスだと聞いて剣呑な雰囲気になっている。

 

「……私達を狙ってるわけではないみたいだし、一旦様子を見てみよう」

 

 そうやってハルカを宥めている最中、ふときになってアルを見てみると、目を輝かせながらアビドスの生徒達を見つめていた。

 

「アルちゃん、全然気づいてないね。寧ろ、目を輝かせちゃってるくらいだし?」

 

「……みたいだね。なんか、この前もこんなことがあったような……」

 

 なんだか、デジャブを感じる光景だった。

 

 そうしてムツキと話している内に目的を果たしたであろう覆面の集団が去っていく。銀行内ではマーケットガード達が大騒ぎしていた。

 

「彼女達を追うわよ!」

 

 そんな中でアルの声が聞こえてくる。思わずムツキと顔を合わせて困惑している内に、アルは駆け出して追いかけに行ってしまった。

 

「アル様!? 待ってくださいー!」

 

 そんなハルカの叫びで我に返って、ムツキと共にアルを追いかけた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

『封鎖地点を突破しました! この先は安全地帯です!』

 

 アヤネちゃんの声に安堵の息を漏らす。原作では捕まらなかったとはいえ、これだけのことを起こしたのだ。珍しく少しだけ緊張していたらしい。

 

「シロコちゃん、集金記録の書類はちゃんと持ってる?」

 

「うん……バッグの中に……え?」

 

 シロコちゃんとホシノちゃんの会話に釣られてバッグを見てみると、集金書類の他にも沢山のお金が入っていた。

 

「うええええっ!? シロコ先輩、現金も盗んじゃったの!?」

 

「ち、違う……このお金は、銀行の人が勘違いして入れただけで……」

 

 シロコちゃんの言葉に嘘はない。銀行の職員を脅している様子を見守っている―――見守ると言うのもおかしな話なような……

 

 それは兎も角として、シロコちゃんは脅してお金を入れるような要求は一切していなかった。きっと、錯乱した職員が無闇矢鱈に突っ込んだ結果なのだろう。

 

「……うへ、軽く1億はあるね」

 

 1億円。膨大な借金を背負っている私達だからこそ、その価値が理解できてしまう。それだけのお金があれば月々の返済にも余裕が生まれてくるだろう。

 

 そうなれば砂嵐でボロボロになってしまった道路や、水道や電気等のインフラ関係にお金を回すことができる。アビドス復興への足がかりになるのかもしれない。

 

「やったあ! 何ぼーっとしてるのよ! 運ばなきゃ!」

 

『ちょ、ちょっと待ってよセリカちゃん! そのお金を使うつもりなの? そんなことしたら……本当に犯罪だよ!』

 

「は、犯罪だから何!? このお金はそもそも私達が汗水流して稼いだお金なんだよ!? それに、犯罪者達の武器や兵器に変えられるよりはマシじゃない!」

 

 セリカちゃんの気持ちは痛いほどによくわかる。私だって同じような気持ちだ。あの闇銀行に対して暗い感情を抱かなかったとは、口が裂けても言えそうになかった。

 

「……私は、セリカちゃんの意見に賛成です。犯罪者の資金ですし、私達が正しい使い方をした方がいいと思います」

 

 ノノミちゃんが賛成したことで、更に意見が対立してしまう。通信越しのアヤネちゃんが困った表情を浮かべていた。

 

「……シロコちゃんはどう思う?」

 

 そんな中でホシノちゃんが話しかける。

 

「私の意見を述べるまでもない。ホシノ先輩と……ユメ先輩も、反対するだろうから」

 

「へっ!? そ、そうなの?」

 

「んー、そうだね。私達に必要なのは書類だけで、お金じゃないから」

 

 戸惑っているセリカちゃんに対して、ホシノちゃんは言葉を続ける。

 

「今回は犯罪者のお金だからいいのかもしれない。でも、次はどうするの? こんな方法に慣れちゃったら、きっとまた同じことを繰り返しちゃうんだよ」

 

「それは……」

 

「そんなことを続けてたら、どんどんハードルが下がっちゃうんだよ。お金を稼ぐために、アビドスを守るために、平気で人を傷つけるようになっちゃう。おじさんは、かわいい後輩にそうなって欲しくないな」

 

 ホシノちゃんの言葉でセリカちゃんやノノミちゃんもある程度納得したようだった。うがーっ、と叫んでこそいるがセリカちゃんもお金を置いていくことに反対はしていなかった。

 

「そういえば、ユメ先輩はどう思ってるの?」

 

 セリカちゃんにそう聞かれてほんの少し考える。

 

 言いたいことはホシノちゃんが言ってくれたから、私から改めて言うようなことが何もなかったのだ。本当に頼りになる後輩だと改めて思う。

 

「私は……そうだね。このお金を借金の返済に使ったら、怪しまれちゃうんじゃないかなって。闇銀行から盗んだお金を闇銀行に渡すことになっちゃうから」

 

「………たしかに、言われてみればそうね。結局、地道にバイトをするしかないのかな……」

 

「夢のない話だけどね………………ユメだけに」

 

「………」

「………」

「………」

「………」

『………』

 

 絶対零度の視線が突き刺さる。

 

 空気を軽くしたくて冗談を言ったのに真逆の結果を生み出してしまった。ここはレッドウィンターだったのかもしれない。

 

「あ、あはは……」

 

 やめてくれヒフミちゃん。その苦笑いは私に効く。

 

 そんな状況で駆け寄ってくるアルちゃんが救世主にしか見えなかった。

 

「ま、待って! ……って。ど、どうして拝んでるの…?」

 

「救世主様……」

 

「きゅ、救世主…? …………じゃ、なくて!」

 

 コホン、と咳払いをしたアルちゃんが言葉を続ける。私の行動に目がいっているうちに、後輩達は覆面を被り直したようだった。

 

 アルちゃんは、私達が銀行を襲った時のことを、ヒーローショーを見た子供のようなテンションで語っている。

 

 ノノミちゃんが覆面水着団やら、普段はアイドルをやっているやら悪ノリをしていた。………アイドル。アイドル姿のホシノちゃん……? 

 

 そうやってアルちゃんと話していると後ろの方から便利屋の子達の姿が見えてきた。

 

 とりあえず手をブンブンと振っておく。ムツキちゃんが大笑いしながら手を振り返してきて、カヨコちゃんが額を抑えながらため息を吐いていた。

 

 ハルカちゃんは困ったようにアワアワと動いている。ごめんね……

 

「じゃあ、この辺で。アディオ〜ス☆」

 

 そんなノノミちゃんの声と共に、私達はブラックマーケットを後にした。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「な、なにこれ!? どういうことなの!?」

 

 集金記録を見たセリカちゃんの第一声だった。

 

「現金輸送車の集金記録にはアビドスて788万円集金したと記されてる。でも、その後すぐにカタカタヘルメットに資金提供が……」

 

 シロコちゃんが要約してくれた言葉を聞いて、みんなが剣呑な雰囲気になっている。ホシノちゃんなんかは、殺気に近しいような鋭さだった。

 

「この件が、銀行単独の仕業とは思えない」

 

「そうですね。カイザーコーポレーションの本社も関わってるんでしょう。でも、どうしてアビドスを……」

 

「学校が破産したら貸し付けたお金も回収できないはずなのに……どうしてそんなことをするんでしょう…?」

 

 お金を貸し付けた側が、滞納している訳でもないのに武力を差し向ける。

 

 珍しい話なのだろう。ノノミちゃんやアヤネちゃんの言う通り、貸したお金が返って来なくなってしまうからだ。どこにもメリットがない話に見えてしまう。……他の目的がなければ。

 

 カイザーの本当の目的。それは、アビドスの土地を完全に自分のものにすること。そして、カイザーに協力している黒服の目的は、アビドスを追い詰めてホシノちゃんを契約で縛り付けること。

 

「…………」

 

 酷い先輩だと自分でも思った。本当はカイザーの目的を知っているのに、原作通りにしたいから、という理由だけで誰にも伝えないのだから。もしかしたら、他にも方法があったかもしれないのに。

 

 ぼんやりとみんなのことを見つめながら自分のことを考える。

 

 結局、私は臆病者なんだろう。原作を変えたいと、誰かを幸せにしたいと願っておきながら、道筋が変わることに恐怖を覚えている。

 

 もっと、今までにやれたことはあったんじゃないか。そんな気持ちを押し殺すことはできなかった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 先生は対策委員会の部室に足を運んでいた。ブラックマーケットの調査に向かった翌日のことだった。

 

 昨日は解散になってしまって聞けなかったが、ユメと話をしておきたかったのだ。

 

 集金記録を確認した後の話し合いで、なにか、思うところがあるような顔をしていたから。

 

 しかし、いざ教室に足を踏み入れてみるとホシノとノノミの2人しかいなかった。ノノミがホシノに膝枕をしている。

 

「おはよー、先生」

 

 "おはよう、ホシノ、ノノミ。ホシノはリラックスしてるみたいだね?"

 

「うへ。ノノミちゃんの膝枕は柔らかくてサイコーなんだよ」

 

「普段はあまりできないんですけどね」

 

 先生の中で疑問が生まれてくる。お互いに気を許しているようだし、膝枕をできないような理由が思い浮かばなかったからだ。

 

 "できないっていうのは…? "

 

「ユメ先輩に嫉妬されてしまうんです」

 

 "嫉妬……ユメも膝枕が好きなの? "

 

 ノノミにそう聞いてみると、ホシノと2人揃ってなんだか気まずそうな顔をしていた。

 

「その……逆といいますか……」

 

 "……逆?"

 

「おじさんじゃなくて、ノノミちゃんに嫉妬するんだよ。ホシノちゃんを膝枕するなんてズルい! って。こーんなおじさんを膝枕なんかしたって楽しくないと思うんだけどね〜」

 

 そんな返答を聞いて思わず苦笑いをしてしまう。ユメは本当にホシノのことが好きなようだ。3年生ということもあって、付き合いが長いからなのかもしれない。

 

 "そういえば、他のみんなは?"

 

「シロコちゃんはきっとトレーニングですね。アヤネちゃんは図書館でしょうし。セリカちゃんは……またバイト先を探してるんでしょう」

 

「ユメ先輩も用事があるからって、どこかに行っちゃったんだよねー。ま、せっかくの休みだし、おじさんはのんびりしとくよー」

 

 そうやってホシノ達と会話を続けているうちにセリカとアヤネ、シロコが教室にやってきた。ユメこそいないものの、昨日のことについて会議が始まろうとしている。

 

 そんな最中、突如として何かが爆発するような音が聞こえてくる。

 

「半径10km以内で爆発を検知しました! 正確な位置は……し、柴関ラーメン!?」

 

「はぁ!? どうしてあの店が狙われるのよ!」

 

 柴関ラーメンでバイトをしているセリカが特に驚いている。

 

「そ、それだけじゃありません。迫撃砲まで……何者かが戦闘行為を行っているみたいです!」

 

「迫撃砲まで…? いったい誰がそんなことを……」

 

「憶測は後でも遅くない。まずは何か手を打たないと!」

 

「シロコちゃんの言う通りだね。今は急いで向かわないと」

 

 突然の事態に混乱しながらも、ホシノが率先して出動の準備をしている。

 

「ユメ先輩には私から連絡します! 出動を!」

 

 そんなアヤネの声を聞きながら、対策委員会と共に柴関ラーメンへと向かった。




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