アビドスユメモドキ 作:泡沫のユメ
前回の投稿がほぼ2ヶ月前ってマジですか?
難産とリアルの忙しさが手を組んだ結果がこちらです。申し訳ない。
先生や後輩達と共に柴関ラーメンへ向かう。
アヤネちゃんの報告だけでは何が起こっているのかわからない。けれど、もし柴関ラーメンを……アビドスを攻撃したような誰かがいるのなら許すつもりはなかった。
柴関ラーメンは私にとっても思い入れがある場所だ。だって、ユメ先輩と初めてご飯を食べに行った場所なのだから。
それだけじゃない。柴関ラーメンはユメ先輩も大切に思っているはずなのだ。大将とも仲がいいし、1人だった頃に助けてもらったとも言っていた。
ならば。先輩がいない今、私が守らなければならない。ユメ先輩もきっと、そうしたはずだから。
『そろそろ柴関ラーメンに着きます!周囲を警戒してください』
アヤネちゃんの声と共に銃撃戦の音も聞こえてきた。恐らく、何者かが争い合っている。
「柴関ラーメンが……」
シロコちゃんの言葉と共に視線を向けると、柴関ラーメンの建物がボロボロに崩れていた。砲撃を食らったような跡もある。
「大将!どこにいるの!大丈夫!?」
セリカちゃんが声をかけるが、返事は返ってこない。いつかの日に感じた嫌な感覚が蘇る。
「柴関ラーメンの近くにはシェルターがあったはずです!もしかしたらそこにいるのかもしれません!」
「!そ、そうよね!大将もそこに……」
『私が案内します!あちらです!』
アヤネちゃんの案内のもと、シェルターへと向かう。
「大将!」
ノノミちゃんの予想通り、シェルターの中には大将がいた。パッと見た感じ、多少の怪我こそあるものの、無事であることは間違いない。
安堵から少し気を抜きそうになってしまうが、大将の傍にいる人物を見て、再び気を引きしめる。
「……なんで君がここにいるのかな。便利屋の課長ちゃん?」
思っていたより冷たい声が出る。どうしてアビドスを襲撃しに来た彼女が大将と一緒にいるのだろうか。
まさか、大将を人質に取るつもりで……
「ああ、この子は俺をここまで連れてきてくれたんだ。ユメちゃん達のお友達なんだろ?」
そんな大将の言葉に、思わず課長ちゃんと目を合わせてしまう。何か、勘違いをされてしまっているようだ。
ただ、その勘違いも、今は都合がいいかもしれない。
「……そうだよー。ちょっと話をしなきゃいけないから、一緒に来てくれないかな?」
「そうだね。私も話をしたい……かな」
言外に戦いたくはないと告げられているような気もする。こちらとしても事情を知りたいし、わざわざ大将をシェルターに連れてくるくらいなのだから、課長ちゃん達の仕業ではないのだろう。
なら、今すぐに戦う必要は無い。
話を合わせてくれたことに心の中で感謝をしつつ、課長ちゃんや後輩達と共にシェルターの外へ出た。
◇◇◇
「で、結局なんであんたが大将と一緒にいたわけ?それに、他の3人は?」
そんなセリカちゃんの言葉に、課長ちゃんはため息を吐きながら口を開いた。
「大将についてはさっき本人が言ってた通りだよ。社長達は……多分、あっちの方で風紀委員会と戦ってる」
「風紀委員会?」
首を傾げるシロコちゃんにアヤネちゃんが説明をしてくれる。
『風紀委員会と言えば、ゲヘナの治安維持部隊だったはずです!それがどうしてアビドスで……』
「多分、私達を追ってここまでやってきたんだよ。それで、柴関ラーメンにいた私達に向かって迫撃砲を撃ってきた」
「な、なによそれ!!」
セリカちゃんが憤慨しているが、それも当然の事だった。
いくら課長ちゃん達便利屋を捕まえるためとはいえ、何の通告もなく大将のいる柴関ラーメンを攻撃されたのだから。
「ん……でも、なんであなた達が風紀委員会と戦ってるの?」
言われてみればそうだ。逃げる為ならばともかく、この場に留まって戦い続けるような理由も、大将を助けるような理由もないはず。
「私は逃げようって言ったんだけどね……社長が『ラーメン1杯の恩も返せないようじゃアウトローとは言えないわ!それに、お気に入りの店がこんな扱いをされて逃げる訳にはいかないじゃない!』って戦いに行っちゃって。ムツキとハルカ……他のふたりもね。それで、銃撃戦に巻き込むわけにも行かないし、私が大将をシェルターまで連れていったんだよ」
「なにそれ……」
「やっぱりそんなに悪い子達じゃなかったんですね」
感心しているようなノノミちゃんを横目に、機嫌がどんどん悪くなっていく。大将を助けてくれたことには感謝をするが、そもそもの原因は彼女たち便利屋なのだ。
そもそもの話、そんな善意があるのならアビドスを襲うような依頼を受けて欲しくなかった。ただでさえ最近はイライラしているというのに。
………そうだ。先生が来る少し前くらいから、ずっとずっと敵意のようなものを感じ続けている。
ブラックマーケットに行っている間や、ユメ先輩が傍にいる時はあまり感じなかったから忘れかけていた。
砂塵混じりの風が吹く。今朝見た予報にはなかったが、砂漠の方では砂嵐が起きているのかもしれない。最近はこんなことばかりだった。
心がザワついているのを感じる。また、あの声が聞こえてきた。
──ユメ先輩を守らなければならない。
自分の声なようで、自分の声ではないような。妙な感覚だった。
朝から用事があると言ってどこかへ行ってしまったから、ユメ先輩はこの場にいない。風紀委員会との戦闘に巻き込まれているわけでもないはずだ。
なら、この声は一体……
「ホシノ先輩」
「シロコちゃん…?」
シロコちゃんの声で思考が中断される。
「声をかけても反応がなかったから気になって……大丈夫?」
「……うへ。ちょっと考え事をしててね。それで、どうしたの?」
「セリカが風紀委員会を倒すために便利屋に協力してもらおうって」
「それは……課長ちゃんはいいの?」
「……まぁ、私達としては願ってもない話だよ。流石に私達だけで風紀委員会を全員倒すのは無理があるからさ」
思うところはあるが、課長ちゃんがよくて後輩達が乗り気なら、否定するほどの理由にはならない。シロコちゃん達にもそう伝える。
そして、便利屋と協力する方向で話がまとまって、いざ前線へ向かおうとした瞬間、課長ちゃんに呼び止められた。
「ちょっと待って。アビドスと……それから、先生にも聞いておいて欲しい話がある」
"私にも?"
「そう、先生にも。……今回の風紀委員会の行動には違和感がある。私達は確かに風紀委員会に追われてる身だけど、他の自治区まで追って来るような理由は無いはずなんだよ。ゲヘナの他の……温泉開発部や美食研究会の方がよっぽど騒ぎを起こしてるからね」
それは、つまり……
「……風紀委員会はアビドスを狙ってるってこと?」
「ごめん、そこまではわからない。ただ、風紀委員長はこんなやり方をしないはずだから……もしかすると、風紀委員会の誰かの独断なのかもしれない。丁度心当たりもあるからね」
「………」
「それで、私の予想が合ってた場合、風紀委員会に引いてもらうのは難しいんじゃないかと思ってね。わざわざアビドスに来なきゃいけない理由があるはずだから」
『……だとしても、他の学園の風紀委員会が私達の自治区で好き勝手していいわけではありません!』
「アヤネの言う通りだね。どんな目的なのかはわからないけど、風紀委員会を阻止しないと」
「そうよ!これ以上好き勝手させるわけにはいかないわ!」
そんな後輩たちの声を聞きながら。ホシノはある可能性について考えていた。
──ユメ先輩を狙っているのは、ゲヘナの風紀委員会なのかもしれない。
そんな疑問だった。
ヘルメット団や便利屋はユメ先輩個人ではなく、アビドスそのものを狙っていた。だから、彼女達がユメ先輩を狙っているわけではない。
なら、今アビドスを攻撃している風紀委員会の目的は?少なくともアビドスそのものではないような気がする。ゲヘナがわざわざアビドスを欲しがる理由がないだろうし、課長ちゃんも心当たりがないと言っていた。
それに、この考えだと、頭の中で響いている声とも辻褄が合う。合ってしまう。
それに、ユメ先輩を狙っているわけではなくとも、風紀委員会は倒さなければならない。アビドスを守るために。後輩達を守るために。ユメ先輩を守るために。
私が、倒さなければならない。
そう決意を固めて、ホシノは後輩達と共に前線へ向かった。
◇◇◇
──なんでこんなことになっちゃったのよー!?
アルは心の中で叫びながら風紀委員会と戦い続けていた。
本当はわかっている。自分が原因なのだ。
始まりは、そう……柴関ラーメンでの会話。
お店の大将にアビドスの友達だと言われて、友達なんかじゃないと叫んだ。
その言葉に、カヨコが反応を返してくれた。
『大将、ユメ達は友達では無いよ』
ユメ……確か、大きなアホ毛のある盾持ちのアビドス生。初めて柴関ラーメンで会った時にカヨコの顔がかわいいと大きな声で褒めていたから印象に残っている。その後ムツキがからかっていたことも記憶に新しい。
そして、アビドスではなくユメと名前を指定したことをムツキが弄って、カヨコがため息混じりに返事をする。ハルカは遠慮しながらもラーメンを楽しんでいて。
そんないつも通りのみんなを見て、気合いを入れ直そうと。そう決意をした。
瞬間──砲撃が降ってきて、柴関ラーメンとアル達はボロボロになってしまった。
柴関ラーメンを攻撃されたこと。それから、ムツキ達を攻撃されたこともあって、つい風紀委員会と戦うと宣言してしまった。
それでも、戦いはじめた頃はよかったのだ。風紀委員会側にヒナがいないこともあって、順調に戦えていた。
だから、カヨコがいなくても勝てると。そうおもっていたのに。
「ちょっとー。なんか今日は数が多くなーい?」
ムツキが零した言葉に全力で頷きたくなる。というか首が勝手に動いている。
そう、風紀委員の数が多すぎるのだ。
どう見ても普段ゲヘナでアル達を追いかけてきた時よりも数が多い。倒しても倒しても終わりが見えてこなかった。
「死んでください死んでください死んでください !」
ハルカも頑張ってくれているが、どうしたってジリ貧になってしまう。何か、いい方法は……
「覚悟しろ!規則違反者共!」
考え事をしていたせいか、イオリに詰められてしまう。痛みに備えて目をつぶった。
………次に聞こえてきたのは、イオリの悲鳴だった。
「へ?」
呆然としながら目を開けてみると、ドローンがミサイルを発射しながらイオリに突っ込んでいる様子が見えた。後ろから足音が聞こえてくる。
「……大丈夫?」
「あ、あなたはアビドスの……」
「ん。砂狼シロコ」
そう言いながら手を伸ばしてくれた彼女の力を借りて立ち上がりつつ周りを見てみると、他のアビドスの生徒達もムツキやハルカのサポートに入っていた。
特にピンク髪の生徒は、鬼気迫る様子で風紀委員達をなぎ倒している。少なくともヒナレベルだと言っていたカヨコの言葉は正しかったらしい。
「どうしてあなた達が……」
アビドスがここに来るのはわかる。柴関ラーメンのことを大切に思っているのは初めて会った時に伝わってきたし、そもそも自分達の自治区でこんな銃撃戦がおこなわれていたのだから気になって当然だ。
ただ、私達を助けるような理由が見当たらない。アビドスにとって、私達は敵だったはず。
「困ってる人がいたら手を差し伸べるべきだって、ユメ先輩が教えてくれたから。それに、大将を助けてくれたんでしょ?」
「え、ええ。そうだけど……」
「なら、それだけで十分。恩には恩で返すべきだから」
そう言って風紀委員と戦いに行ったシロコを他所に、アルは……
──や、ヤバーい!?カッコよすぎる!?敵だったのに恩を感じたら手を差し伸べるだなんて!?なんてアウトローなの!?
──やっぱり彼女達が覆面水着団だったんだわ!こ、これが真のアウトロー!
「………ょう、社長」
「はっ!?か、カヨコ?」
いつの間にか、大将をシェルターに連れていっていたカヨコが戻ってきていた。
「なんかボーッとしてたみたいだけど……大丈夫?」
自分の世界に入っていたせいでカヨコに心配をかけてしまったらしい。
「だ、大丈夫よ。それより、どうしたの?シェルターで大将を守ってたんじゃ…?」
「アビドスがシェルターに来てさ。一緒に風紀委員会を倒すことになったんだよ。大将にも『俺の事よりあの子たちのことを頼む』って言われちゃったからね。それで、ちゃんと協力できるか心配だったんだけど……杞憂だったかな」
そう言ったカヨコの視線に釣られて見てみると、ムツキとさっき助けてくれた……シロコが上手く連携しながら風紀委員会を倒していた。
「それに、先生も指揮してくれるみたいだし……これなら勝てそうだね」
「ふふ、ふふふふ」
つい、笑みがこぼれる。負けるかもしれないなんて不安はなくなっていて。やりたいことと、やるべきことが噛み合っているような、そんな感覚があった。
「社長?」
「カヨコ!行くわよ!信頼には信頼で報いるのが便利屋68のモットーだから!」
そう言って、アルはアビドス生と共に風紀委員との戦闘を開始した。
ホシノが原作よりも柴関ラーメンに対する想いが強いのはモドキちゃんのせいです。
ユメ先輩よりも大人に騙されなかったおかげでトラブルが少なく、原作よりもほんの少しだけ余裕があって、思い出を作りすぎたのが原因となっています。
また、ホシノ→カヨコの呼称は独自解釈によるものです。
もし見落としで公式のものがあった場合、速やかに土下座と修正を行うのでこっそり教えてください。