アビドスユメモドキ   作:泡沫のユメ

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勢い余ってネタバレしてしまいそうなので感想の返信は控えていますが、すごくモチベーションに繋がっています。ありがとうございます。




32:風紀委員会の目的

 

 一旦の戦闘が収まった様子を見て、先生は一息をついた。

 

 なし崩し的に協力してくれた便利屋の生徒達やホシノの活躍もあって、特に苦労をすることもなくゲヘナの風紀委員会を退けることができている。

 

 ただ、それでも周囲には風紀委員たちたくさんが残っているし、そもそも彼女たちがアビドスにやってきた理由もわかっていない。

 

 まだ、気を抜くことはできなかった。

 

「先生……」

 

 そんな状況で声をかけてきたのは、キヴォトスに来たばかりの頃、シャーレの奪還に協力をしてくれたチナツだった。

 

 "久しぶりだね。チナツ"

 

「まさか、こんな状況でお会いすることになるとは思っていませんでしたが……それで、ええと」

 

『こちらはアビドス廃校対策委員会です! ゲヘナの風紀委員会の方々ですね? いったい、どんな目的でアビドスを攻撃していたんですか!』

 

「それは……」

 

 チナツの傍にいた、褐色肌に銀髪のツインテールの生徒が言い淀んでいる様子を見ていると、通信が入ってきた。

 

『そちらは、私から答えさせていただきます』

 

「あ、アコ行政官…?」

 

 チナツにそう呼ばれた生徒は、自己紹介と共に今回の件に対する説明を始めた。その姿を、ホシノが鋭い目付きで睨んでいる。

 

『こんにちは。アビドスの皆様。ゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します』

 

 アコは、中々に特徴的な制服を着ている生徒だった。

 

『ところで、アビドスの生徒会は6名いらっしゃると聞いていましたが、あと1人はどちらに?』

 

『今はおりません。そして、私達は生徒会ではなく対策委員会です』

 

『奥空さん……でしたね? それでは、生徒会の方はいらっしゃらないということでしょうか? 私は、生徒会の方と話がしたいのですが』

 

「アヤネちゃん、いいよ。私が話をするから」

 

『ホシノ先輩…?』

 

 疑問符を浮かべているアヤネとセリカ、そして先生に向かって、ノノミが説明をしてくれる。

 

「ホシノ先輩は、アビドス生徒会の最後の一員なんです。昔はユメ先輩も所属していたんですけど、何やら事情があるらしくて……」

 

「だからホシノ先輩があいつらと話をするってこと? ……まあ、それはいいんだけど。アヤネちゃん、ユメ先輩に連絡はついた?」

 

『ううん、ダメみたい。電話にも出ないし、モモトークも返信がなくて……普段ならすぐ気が付いてくれるはずなのに……』

 

 "ユメは用事があって来れないってホシノが言ってたから、その用事が長引いてるんじゃないかな?"

 

 朝、対策委員会の部室に向かった時に、ホシノがそんなことを言っていたはずだ。用事があると言ってどこかへ行ってしまった、と。

 

 その言葉で、アヤネとセリカは納得してくれたようだったが、シロコはなんだか不満そうな顔を浮かべている。

 

「でも……それでも、ユメ先輩が私達の連絡に気が付かないなんておかしい。きっと何かが……」

 

 独り言のように呟いたその言葉が、先生にだけしっかりと届いていた。

 

 もう少しシロコとユメについての話をしていたかったが、アコとホシノが話し始めていたため、中断せざるを得なくなった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

『先程までの愚行は、私の方から謝罪させていただきます』

 

「……愚行?」

 

『はい。私達ゲヘナの風紀委員会はあくまで、私達の学園の校則違反をした方々を逮捕するためにここまで来ました。あまり望ましくない出来事もありましたが、まだ違法行為とは言いきれないでしょうし、やむを得なかったということでご理解いただけますと幸いです』

 

「は、はぁ!? ふざけないでよね! 大将のお店を爆破したのが望ましくない出来事ですって!?」

 

 セリカちゃんの声に、思わず賛同してしまいそうになってしまう。心の中の激情を何とか押し殺して、行政官ちゃんへの返答を考える。

 

 校則違反者というのは、きっと便利屋のことだ。アヤネちゃんが会議の時にそんなことを言っていたし、実際、柴関ラーメンには課長ちゃん達がいたのだから。

 

 なら風紀委員会の目的は、ユメ先輩ではないのかもしれない。このまま便利屋を引き渡して終わりなのかもしれない。

 

 なら、この頭で響いている声は? こうやって話している今も、本能が警鐘を鳴らし続けている。砂嵐も、まだ止んでいない。

 

「嘘をつかないで、天雨アコ。最初からこの状況を狙ってたんでしょ?」

 

 そんなことを考えていると、課長ちゃんが割り込んできた。

 

『あら、カヨコさん。面白い話をしますね?』

 

「……最初はどうして風紀委員会がここに現れたのか、理解できなかったよ。風紀委員会が他の自治区まで追ってくる理由。それも、私達を捕まえるため? こんな非効率的な運用、風紀委員長のやり方じゃない。だからこれは、アコの独断に違いない」

 

 課長ちゃんの言葉に行政官ちゃんは返事をしない。この場でのそれは、課長ちゃんの言葉を肯定していることと同義だった。

 

「それに、私達を相手するにしてはあまりに多すぎるこの兵力。他の集団との戦闘を想定していたとすれば説明がつく」

 

 なら、風紀委員会はやっぱりアビドスを……

 

「とはいえ、このアビドスは全校生徒を集めても6人しかいない。私達を合わせて10人を相手にするにしてもこの戦力は過剰すぎる。狙いはアビドスでも、私達でもない。なら、結論は1つ」

 

 そんな考えは、課長ちゃんに否定される。言われてみれば、そうなのかもしれない。

 

 そして、アビドスでも、便利屋でもない。この場にいる人物と言えば……

 

「アコ、あんたの目的はシャーレ。最初から先生を狙ってここまで来たんだ」

 

 その言葉はホシノにとって、ある意味安堵を齎すものでもあった。風紀委員会の目的がアビドスでも、ユメ先輩でもないことがわかったから。

 

 後ろの方で、先生が驚いている姿が見えた。後輩達も敵意を剥き出しで風紀委員達を見つめている。

 

『……ああ、便利屋にカヨコさんがいることを忘れていました。呑気に雑談をしている場合ではありませんでしたね』

 

 そうして行政官ちゃんの合図と共に、風紀委員会側の増員が見えた。アヤネちゃんの報告によると、四方から集結してきているらしい。

 

『それにしても、さすがカヨコさんですね。先程のお話は半分正解です。しかし、意図的にシャーレと衝突する状況を作り出したわけではないのですが……信じていただくのは難しそうですね。仕方ありません。事の次第をお話しましょう。きっかけはティーパーティーです』

 

 ティーパーティー。トリニティの生徒会だ。確か昨日の別れ際に、ヒフミちゃんがアビドスの現状とカイザーのことを伝えると言っていた。

 

『ティーパーティーがシャーレに関する報告書を手にしていると。そんな話がうちの情報部から上がってきましてね。連邦生徒会長が残した正体不明の組織。大人の先生が担当している超法規的な部活。これは、どう考えても怪しい匂いがしませんか?』

 

 その言葉にだけは同意できる。今でこそある程度信じているが、先生がアビドスに来たばかりの頃は、怪しさしか感じていなかった。

 

『シャーレという組織は、とても危険な不確定要素に見えます。これからのトリニティの条約にもどんな影響を及ぼすのかわかったものではありません。なので、条約が締結されるまで、風紀委員会の庇護下に先生をお迎えさせていただきたいのです。ついでに居合わせた不良生徒達も処理した上で、といった形で』

 

 トリニティとの条約というものが何なのかは知らないが、考えを理解することはできた。その手段が無理やり先生を庇護することだというのは、納得できかねるが。

 

『それと、そうですね。出来れば梔子ユメさんにもお話を聞きたかったのですが……』

 

 先輩の名前が出てきて、思わず行政官ちゃんを睨みつけてしまう。先程までの安堵は吹き飛んでいた。

 

「どうして、そこでユメ先輩の名前が出てくるの」

 

『いえ、ユメさんはティーパーティーの方とお知り合いだとも耳にしましてね。小さな学校とはいえ、彼女は元生徒会長だったのでしょう? 何か、裏があると思われても不思議ではないのでは?』

 

「それは……」

 

 そうだ。ブラックマーケットでユメ先輩がそんなことを言っていた。あの時、強い衝撃を受けたことを覚えている。行政官ちゃんの言葉に、反論することもできない。

 

『ですからお話を聞きたかったのですが……どうやら、不在のようですね。アビドス生徒会の小鳥遊ホシノさん、でしたか。あなたは何かご存知ですか?』

 

 何も答えられなかった。私は知らない。何も知らないのだ。

 

 ユメ先輩がいつ、ティーパーティーの一員なんかと知り合いになったのか。どうして、知り合いになったのか。知り合いになって、何をするつもりだったのか。

 

 ………どうして、私には何も教えてくれなかったのか。

 

 わからない。何もわからないのに、無駄に回転がいいこの頭は、ネガティブな事ばかり考えてしまう。

 

 ──ユメ先輩は、アビドスの借金を何とかするためにお金を沢山持っているティーパーティーと知り合いになろうとしていた? ……それなら、私にも教えてくれるはずだし、そもそも、ユメ先輩がそんなことをするとは思えない。

 

 ──ティーパーティー……他の学園の生徒会と知り合いになれば、何ができる? トリニティへの転校なんかが、簡単にできるのかもしれない。

 

 ──どうして転校をする必要があるの? ユメ先輩は、私のことを好きだと、大切に思っていると言ってくれているし、後輩達のことも、アビドスの事だって大切に思っているはずだ。水族館に行く約束だってしてくれた。どこにも行くはずが無い。

 

 ──でも、じゃあ、どうして? どうしてユメ先輩はティーパーティーと知り合いになったの? 次からは頼ると言ってくれたのに、どうして、私には何も教えてくれなかったの? 

 

 そんなことを考えて、1つ、思い至ってしまった可能性から目を逸らすように、ホシノは言葉を紡いだ。

 

「……私は何も知らないよ。でも、きっと、ユメ先輩だって、トリニティとゲヘナの条約のことなんか知らない。アビドスには関係の無い話だから」

 

『……言われてみればそうですね。私の考えすぎ、ですか』

 

 行政官ちゃんも、その言葉で納得している様子だった。ユメ先輩のことは、先生のおまけくらいにしか考えていなかったのかもしれない。

 

「ていうか、ちょっと待ちなさい! 柴関ラーメンに対する説明が足りてないわよ! それに、先生を連れて行くって? 私たちがそれで納得するとでも思ったの!?」

 

「でも、寧ろ状況がわかりやすくなって良いかも」

 

 セリカちゃんとシロコちゃんだけではなく、言葉を発しなかったノノミちゃんとアヤネちゃんも戦う気満々だった。そこにはもちろん、ホシノも含まれている。

 

 事情がどうあれ、あんな説明で納得できるわけがないし、ユメ先輩がわざわざ呼んだ先生を連れていかれるわけにはいかなかった。

 

『……ふふ、やっぱりこういう展開になりますか。では、仕方がありませんね。小鳥遊ホシノさん? ゲヘナの風紀委員会は必要でしたら戦力を行使することもあります。私達は一度その判断をすれば一切の遠慮をしません』

 

 その言葉に嘘は無いのだろう。事実として四方を包囲されているし、風紀委員の数だって、ゆうに100は超えている。

 

 それでも、負ける気はしていない。

 

 何もできず、迷惑をかけてしまう後輩で。それどころか、一歩間違えれば先輩を殺していたかもしれないような私でも。ユメ先輩のように優しくもなく、シロコちゃんのように素直でもないダメな私であっても、戦闘だけは自信を持てる。

 

 だって私には、それしか能がないのだから。

 

 どういう流れか、便利屋もそのまま協力してくれるようだった。こんなおまけみたいな扱いをされて逃げるわけにはいかない、と社長ちゃんが叫んでいる。

 

 アビドスと後輩達を守る。その一心で、ホシノは風紀委員会との戦闘に臨んだ。

 

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