アビドスユメモドキ 作:泡沫のユメ
昨日までで休みが終わったので少しだけ投稿頻度が落ちるかもしれません。よろしくお願いします。
ある日私はバイトを終えて学校に戻っている途中で不良たちに襲われた。これ自体はホシノちゃんが『アビドス生徒会を狙う人は多い』と、言っていたようにそこまで珍しくはないんだけど...
「なんだか、今日は数が多くないかな?」
そうなのだ。パッと見ただけで30人くらいはいる。....ちょっと不味いかな? 普段なら多分負けることはないんだけど今日のバイトが肉体労働だったのもあって少し疲れている。しかし泣き言を言っている場合ではない。シールドを展開し銃を構える。
「一応聞いておくんだけど争わない道ってあるかな?」
「ねぇよ! やるぞお前ら!」
まあそうだよね。ここはなんとかがんばるしかないかな。たくさんいるといっても相手は集団戦の訓練を積んでいない素人だ。ならば結局はフレンドリーファイアを避けるためにも1度に戦う相手はせいぜい5人くらいだろう。つまり1対5くらいの戦闘を繰り返すだけのものになるはず。それならば負けることは無い。あとは疲労との戦いだ。
そうして私達の戦いは始まった
◇ ◇ ◇
「先輩....遅いな....」
私は生徒会室で先輩がバイトから帰ってくるのを待っていました。遅くても16時までには帰る、と言っていたのにスマホを確認すると既に16時20分を過ぎています。先輩はなんというか普段からぽわぽわしてるし、奇跡とか夢とかそんなことばっかり言ってるし、ちょっと頼りない感じだけどこういった時間の約束を破ったことは今まで一度もありませんでした。
「もしかして....なにかあったんじゃ...」
その考えに至った瞬間私は急に不安になりました。先輩は約束を破るような人じゃないし、遅れるにしても20分も過ぎて連絡のひとつも来ないのはどう考えたっておかしいです。
「いかなきゃ....」
バイト先の場所は先輩に聞いていたので私は先輩を迎えに行きました。
迎えに行く途中銃声が聞こえてきました。しかも私の向かっている道の先の方から。
「急がないと」
走るスピードをあげ銃声の方へ向かうとたくさんの不良たちに囲まれて戦っている先輩を見つけました。
「ユメ先輩っ!!」
「えっ! ホシノちゃん!?」
「うわっなんだコイツは!」
「構うな! そいつごとやっちまえ!」
「どけっ!!」
「ぐあああああ」
「くそっなんだコイツ! 強すぎる!」
「ホシノちゃん、どうしてここに....?」
「先輩の帰りが遅いから迎えに来たんです! とりあえず倒しますよ!」
「わかったよ!!」
先輩と合流した私は協力しながら不良達を倒しました。所詮数は多いだけの烏合の衆です。先輩ってほんとに戦えたんだ、とかなんでコイツらは先輩を狙うんだ、とか余計なことを考えながらでも簡単に倒せました。
「先輩、大丈夫ですか!?」
「うん。私は大丈夫だよ。ホシノちゃんこそ平気?」
「私は大丈夫です」
不良達を倒した私達は学校に戻りました。
◇ ◇ ◇
この日の私は少し、イライラしていたんです。
「先輩、あんなにたくさんの不良達に襲われてたのにどうして連絡をくれなかったんですか」
「うっ。ご、ごめんね?」
「いいですから理由を教えてください!」
「それは、その····ホシノちゃんに迷惑かと、思って....それにあれくらいならひとりでも大丈夫だと思っちゃって....ごめんね」
いつも頼りにしてるとか言ってるくせに、なんでこんな時は、自分が危ない時は頼ってくれないのか。そう思うとより怒りが湧いてきました。
「ごめんじゃありません! それに....いつもふわふわと、奇跡だの幸せだの何だの····」
怒っているせいか、自分でも自分を制御できません。思ってもいない言葉が、言うべきでない言葉がどんどん口から溢れてきます。
「もっとしっかりしてください! あなたはアビドスの生徒会長なんですよ!? いなくなったら大問題なんです!もう少し、その肩に乗った責任を自覚したらどうなんですか!」
「そ、それは····」
「そんなに頼りたくもないんだったら最初からひとりでやっててください!」
「先輩なんて知りません!!」
そう言い残して、私は先輩を置いてひとり家に帰りました。
◇ ◇ ◇
ベットの上で冷静になった私は今日の事を後悔していました。
よく考えるとあんなにも怒ることではなかったはずです。悪いのは先輩じゃなくて不良達だったのに。
言い訳はあります。不良達に襲われて先輩がいなくなるかもしれないという不安や恐怖から焦っていて、冷静じゃなかった。
それに加えて変わらない状況に、息吐く暇もなくやってくる砂嵐。無気力な市民たち、先輩に全て押しつけた無責任な前生徒会。そして····いつも理想ばかり高くて····結局何もできていない自分自身に対する怒り。色々なことが積み重なって私はイライラしていたんです。
でも、それはやっぱりただの言い訳で、先輩にぶつけるべき怒りでは絶対になかった。
「明日····謝らないと...」
そう決めて先輩に貰ったクジラのぬいぐるみを抱きしめながら、私は眠りにつきました。
次の日、先輩は学校に来なかった。
◇ ◇ ◇
「はぁ····。やっちゃったな....」
ホシノちゃんに怒られた私は少し、いやかなり落ち込んでいた。怒った細かい理由とかは原作とは違うのかもしれないけど私のせいだって言うのは変わらない。私としてはこの場面自体起こさないようにする予定だったし、初めて明確に失敗してしまった気がする。そう思うと余計落ち込んできた。
「はぁ.....軌道修正しないと....」
それに私にはもうひとつ悩みの種があった。
「そういえば....列車砲シェマタ·········」
列車砲シェマタ。アビドス3章のゴタゴタが起こった最大の原因である雷帝の遺産。細かいことはよくわからないが、カイザーが全力で手に入れようとするレベルのやばい兵器だ。
あれは、シェマタは原作のユメ先輩がネフティスからアビドスの砂漠横断鉄道の施設使用権を契約で購入していたから、だから完全にカイザーの手に渡ることがなかったんだ。
私があの契約を結びに行かないとカイザーのものになってしまう可能性がある。未だにアビドス砂漠に眠っているであろう『ウトナピシュティムの本船』すらキヴォトスの支配のために手に入れようとするような連中だ。彼らに渡ってしまった場合どうなるのか。いい想像なんてできやしない。あれは、アビドスに存在してはいけない。カイザーに渡すわけにはいかない。
....正直行きたくないのだ。だって今あの契約を結びに行くだなんて。同じだ、細部は違えど状況が同じなのだ。最悪の運命である。
でも、シェマタの場所を私は知らないから契約を結びに行かなければならない。ここで行かなければ結局バッドエンド一直線なのだ。ホシノちゃんや、未来の後輩達のためにも頑張らなければならない。それに私は原作のユメ先輩よりも脚力や体力は間違いなくあるだろうし、コンパスだって忘れない。それに万が一に備えて水や携帯食料、スポーツドリンクなんかもたくさん持っていく予定なのだ。あんなことにはならない....はずだ。
今日はもう遅いし準備だけして、明日向かおう。
◇ ◇ ◇
「よし、忘れ物もない。水もたくさん持ったし、携帯食料も1ヶ月分くらいある。コンパスも不測の事態に備えて2個持ったし」
正直やりすぎな気もするが、あの結末を知っている身としては警戒するに越したことはないのだ。
「........万が一のことがあった場合に備えて原作にもあったホシノちゃん向けのメモを生徒会室に置いてきたし、生徒会長手帳も置いてきた。もし、私の身になにかがあっても原作よりはマシな状況になるはず...」
ここまでしても不安はある。でも行かないのはもっとまずいのだ。
「気合を入れよう。ネフティスまでいかなきゃ...」
「これで契約完了です。取引ありがとうございました!」
契約は問題なく結ぶことができた。担当のロボ市民がにこやかな顔を浮かべる。まあ、相手にしてみれば価値のない、使い道のない鉄道を100万円という大金で買ってくれるのだから断る理由も特にないのだろう。シェマタだってまだ見つかってないはずだし。
やはり問題は特に起こらなかった。天気予報でも砂嵐は起きないと言っていた。あとはアビドス高等学校に帰るだけだ。コンパスだって失くしてない。何も起こらないはずだ。だと言うのに
「どうして、嫌な予感がするんだろう...」
そんなことを考えながら帰った。
帰り道で私は、大規模な砂嵐に巻き込まれた。
「なんで!? どうしてなの!」
いや、考えるのはあとだ。にしたって酷い砂嵐だ。シールドを展開して防いでいるが、防ぎきれない。更に視界も悪くてとてもじゃないが動けない。
「ビナーでもいるんじゃないの!?いたら終わりだけど!」
もしほんとうにいたら終わりだ。ビナーを見かけたことはないがそれでも勝てる気はしていない。
というかここまでの規模の砂嵐は初めてだ。自然発生するものなんだろうか? とにかく今は耐えるしかない
◇◇◇
どれくらいの時間が経過したのかわからない。だがようやく砂嵐もおさまってきた。襲われなかったことから察するにビナーはいなかったのだろう、ひと安心だ。砂嵐で勝手に移動していたのか、はたまた地形が変わったのか、見覚えのない場所にいるが私にはコンパスがある。あとはそれを見ながら学校に帰るだけだ。そう思いコンパスを入れていたポケットを探る.......
「·····あれ?····」
すごく、すごく嫌な予感がする。いや、予備もある。こっちはリュックに入れてたんだ。砂嵐で吹き飛んでるなんてことは無いはずだ。そうしてリュックを見ると····
「な、なんで!? どうしてないの!? おかしいよ!」
おかしい、絶対におかしい。私は確かに入れていたはずだ。出発前に何度も確認した。忘れているわけじゃない。
「····あ····」
リュックに、小さな穴が空いていた。しかもコンパスを入れていた位置の近くに。お金の無駄だからって、しばらく新しいのを買わなかったツケがまわってきた。
まずい、まずいまずいまずい。
しかも、原作知識を書いたメモも見当たらない。いったい····どうすれば....
いや、落ち着け、落ち着こう。冷静に思考しよう。たしかにコンパスはなくなった。でもスマホがあるしホシノちゃんに電話だってできる。それに、水と食料は失くしていないんだ。いくらアビドス砂漠が広いといってもいつかホシノちゃんが見つけてくれるはずだ。それまで、耐えればいいはず。
原作知識のメモも、よく考えれば小さい頃に、キヴォトスの共通言語を覚える前に書いたものだから日本語で書いてあるのだ。黒服に拾われた場合はちょっとわからないが、カイザーに拾われたところで読めないから問題にはならないはずだ。協力関係にあるとはいえ、カイザーが黒服に何でもかんでも頼るとは思えない。
それにあの規模の砂嵐の中飛んでいったんだ。この広大な砂漠のどこかで砂に埋もれて、そもそも見つからない可能性の方が高いに決まっている。
水も食料も1ヶ月分はある。砂漠でずっと外にいるという凄まじい環境はどうしようもないが、鍛えた身体とキヴォトスの神秘パワーを信じるしかない。まずはホシノちゃんに連絡をしよう。少しでも早く動いてもらった方が助かる確率は上がるはずだ。
「····で、電波が....でもかけるしかない....」
電波が悪い。これでは正確に伝わらないかもしれない。あまりにも不幸が重なり過ぎてないかな? でもやらないわけにはいかないのだ。電話をかけたらホシノちゃんはすぐに出てくれた。
「ホシノちゃん、ごめんね。聞こえるかな....」
「@#$い、どこにいる&#」
やはり上手く電波が通っていない。ホシノちゃんの声がちゃんと聞こえない。でも、伝えるしかない。私の唯一の希望なのだ。
「用事があって砂漠にいたら砂嵐に遭って、しかもコンパスがどこかに飛んで行っちゃった」
「ホシノちゃん....ごめんね、助けに来て欲しい」
「それと、メモは残したけど、ここでも伝えておくね。私の手帳は、あそこに置いてあるから。」
「ホシノちゃんもよく知っている生徒会室の目立つ場所に置いておいたから。すぐにわかると思う」
「ホシノちゃん、私は」
電話が切れてしまった。電波のせいだ。もう、繋がりそうもない。さっき一瞬繋がったのは奇跡だったのかもしれない。
でも、いくら可能性が低くても、細い糸だったとしても縋るしかない。ホシノちゃんなら来てくれると信じる。それしか私にできることは無いのだ
「ホシノちゃん.....お願い....」
そうして私の、遭難生活は始まった。
遭難してから3日が経過した。今思うとあの日私は少し慢心していたんだろう。原作の知識があるから、未来を簡単に変えられるって。悲劇なんて起こさないようにできるだろうって。アビドスの問題はそんなに簡単じゃないってわかっていたはずなのに....
それになんで契約をひとりで結びに行ってしまったんだろう。別にホシノちゃんだって本気で怒っていたわけではなかったはずだから、仲直りでもしてからふたりで行っていれば····
でも、私が失敗していたせいで、ユメ先輩と違うせいで、本当に怒っていて呆れられていたとしたら····? その場合カイザーにシェマタが見つかって取り返しのつかない事態になっていた可能性もある。そう思うと契約は結びに行くべきだったのかな....もう、わからないよ.......
もう、何日経ったのかもわからない。5日くらいは数えてたけど....それに、食料もかなり減ってきたし、水も減ってきた。でも、諦めちゃダメだ。絶対に生きて帰る。私はブルーアーカイブというゲームを通して諦めない心を学んだんだ。それにホシノちゃんだって来てくれる.....はず
いったい、あの日からどれくらい経ったんだろう。もう冷静に思考できなくなってきた。意識が朦朧としている。食料はだいぶ前に無くなったし、水も尽きてしまった。
「せんぱい! ユメ先輩!!」
なんだか、声が聞こえる気がする。いちばん聞きたかった声、安心できる声が。幻聴なのかもしれない。でも、それでも、安心してしまって、気が抜けてしまったのか、私の意識は暗闇に溶けていった.......
モドキちゃんは結局未来を知ってるだけの普通の人間なんです