アビドスユメモドキ   作:泡沫のユメ

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独自解釈注意



7:運命に抗う

「ここは····生徒会室?」

 

 意識を取り戻した私は何故かいつもの制服を着て学校の生徒会室にいた。記憶が正しければ私は砂漠で遭難していたはずだし、ホシノちゃんの声が聞こえた気がして意識がなくなったはず。

 

 次、もし目を覚ますなら病院のベッドの上だと思っていた。それに体の調子が普段と変わらないのもおかしい。どれくらい気を失っていたのかはわからないが砂漠でしばらく遭難していたのに目を覚ましたら元気いっぱいで普段通り! というのはどう考えたっておかしいだろう。だとしたらもしかして...

 

「死後の世界····だったり?」

 

 やはりホシノちゃんの声は幻聴だったのだろうか。私は原作の先輩と違い呆れられて見捨てられたのかもしれない。モドキの私に相応しい結末だと思った。

 

 

 ちょっと······というか、かなり辛いけど仕方の無いことだ。

 

 そんな憂鬱なことを考えてたらドアのノック音が聞こえた。誰なのかは知らないが私はもう死んでいるのだ。何が来たって怖くは無いだろう。それに自分ひとりで考えてても今の状況がわからなすぎるし。

 

 そんなことを考えた私は特に何も確認することなく『どうぞ!』と返事をした。入ってきたのは....

 

「あ、ちゃんと起きてる! よかった...」

 

「え。ユメ先輩····?」

 

 

 私とそっくり、というより全く同じ見た目の少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 私は混乱していた。死後の世界だと思っていたら何故か自分自身と、梔子ユメと出会ったのだから無理もないと思う。

 

「えっと····色々と説明したいことがあるんだけど···大丈夫かな...?」

 

「あ、はい。大丈夫ですユメ先輩」

 

 なんとか正気を保とうとしたせいで敬語になってしまった。ホシノちゃんみたいな口調だな。

 

「なんというか、その····そんなに畏まらなくても大丈夫だよ····? というかなんだかホシノちゃんみたいな口調だね?」

 

 もうひとりのわたしも同じことを考えていたらしい。

 

「えっと、とりあえず口調はこのままでお願いします。それで····ここはいったいどこなんですか? というかあなたはユメ先輩···であってますか?」

 

「まあ、だいたいあってるよ。私はわかりやすく言うと、梔子ユメの神秘そのもの····かな。えっとあなたのことはなんて呼べばいいかな? 同じ名前だと混乱しちゃうよね?」

 

 ユメ先輩の神秘····? ブルアカは好きだったけど正直神秘とかの話はよくわかっていない。まあユメ先輩ってことでいいだろう。

 

 というかそれよりも名前か····ちょうどいい名前があるな。

 

「モドキちゃんでお願いします」

 

「モ、モドキちゃん····そんなに卑屈にならなくても大丈夫なんだけどね····他の私達よりもしっかりしてるし····がんばってたし」

 

 他の私達? なんの話だろう。

 

「まあ、とりあえずモドキちゃんって呼ぶね」

 

「それとこの場所はいわゆる精神世界ってやつかな。あ、死後の世界じゃないよ? モドキちゃんは死んでないから」

 

 精神世界····? というかそれより死後の世界じゃない? 

 

 

「え、じゃあ私ってまだ生きてるんですか?」

 

「意識こそ取り戻してないけどちゃんと生きてるよ! ホシノちゃんが助けにきてくれたからね」

 

 なんと。ホシノちゃんは来てくれていたのか。嬉しい

 

「それで落ち着いて聞いて欲しいんだけどね。モドキちゃんは半年以上意識を取り戻してないの」

 

 へぇー半年もね....

 

「えっ!? 半年!? そんなに寝てるんですか!?」

 

「正確には8ヶ月くらい、かな」

 

 たしか遭難した日は8月の初めの頃だった。えっじゃあもう4月になってるってこと? もうホシノちゃんは2年生になってるの!?  

 

 それに助けに来てくれたってことは私のことを大切に思ってくれていた、見捨てたわけじゃなかったってことなんだろうしホシノちゃんに心の傷を負わせてしまったんじゃ····? あっ。すっごく嫌な気分になってきた

 

「うぅ....」

 

「わ、わーっ! な、泣かないで、大丈夫だから...」

 

 ユメ先輩は背中をさすってくれる。優しい....というかこれ傍から見れば意味のわからない光景なんじゃないかな? 泣いている子を全く同じ見た目の人が慰めてるんだから。

 

「あ、ありがとうございます、少し落ち着きました」

 

「よかった...」

 

「すみません急に泣いちゃって····それでなにか説明することがあるって話でしたよね?」

 

「うん、そうだね。本当に色々とあるから長くなっちゃうかもしれないけど大切なことだからちゃんと聞いて欲しいな」

 

「まず、モドキちゃんがなんで遭難したかって話」

 

「なんでも何も砂嵐に巻き込まれてコンパスが飛んで行ったからなんじゃ?」

 

「結果としてはそうなんだけど根本的な理由は違うよ。モドキちゃんだって知ってるでしょ? あの日砂嵐は起こらない予報だったんだよ。そしてその予報は正しかったの」

 

「あの砂嵐が起きた原因····というか砂嵐を起こしてモドキちゃんを攻撃したのはセト、だよ」

 

 セト? 私が知っているセトはブルアカに出てくるセトの憤怒だけだ。もしかして神話とかの話なのかな? アビドスはエジプト神話が元ネタだって考察を見たことがあるし。でも私は神話の話なんて全くわからない。

 

「セトはオシリスを謀殺して王位を奪うことが目的だったんだよ。あの場では梔子ユメを謀殺して生徒会長の地位を奪うっていう感じかな」

 

「そして他の私達····梔子ユメが死んでしまったのもセトの仕業なの」

 

 セトがユメ先輩を殺した犯人ってこと!? 

 

 何がセトの憤怒だよ、こっちの方がぶちギレてるわ。絶対に許さないからな。

 

 それはそれとして、今の説明で新たな疑問が生まれた

 

「その、他の私達って言うのは? それにそのセトって言うのに狙われたのに私はなんで生きてるんですか?」

 

「他の私達って言うのは簡単に言うと並行世界の梔子ユメのことだよ。私は神秘そのものだから私からすれば全員同じ自分なんだけどね」

 

「で、なんでモドキちゃんが生きてるのかって話だよね」

 

 並行世界のユメ先輩、か。私の知っている原作のユメ先輩も含まれているんだろうか。そして私が生きている理由。

 

「こういう言い方はあんまり良くないんだけどモドキちゃんが異物だから、かな」

 

 異物····? いや、言いたいことはだいたい理解できる。恐らくは····

 

「それって···私が前世の記憶をもっていることが関係してますか?」

 

「うん、そうだよ。あなたは梔子ユメであって····でも、正確には梔子ユメではないから。あなたが言うところの前世の記憶の中でも特に"先生"としての記憶が助かった大きな要因かな」

 

「あのテクストは、学園都市における"先生"、というテクストは強力すぎたんだよ。他のテクスト····特に生徒たちのテクストを塗り替えてしまうの」

 

「その性質のおかげでモドキちゃんのテクストはオシリスであってオシリスじゃない、っていう中途半端なものになったんだよ」

 

「だからこそセトに殺される、という運命を覆して生き残ることができたの。まあそれでも結構危なかったんだけどね」

 

 先生!! まだキヴォトスに来てすらいないのに生徒を救うだなんて流石すぎるよ! ありがとう! 

 

「まあ本来はセトに襲われすらしないはずだったんだけどね····セトに襲われた理由は他にもあって、あの生徒会長手帳のせいでもあるんだよね」

 

 生徒会長手帳? あれがなんで襲われる原因に?

 

「あの段階では、ホシノちゃんに怒られて別れた段階ではまだセトはモドキちゃんの事を上手く認識できてなかったんだよね。さっきも言ったテクストが要因で」

 

「でも次の日生徒会室に手帳を置いていっちゃったよね? あれがさ、神話の再現になっちゃったんだよね····」

 

「手帳が? なんで手帳が神話に出てくるんですか?」

 

「手帳って言うよりは手帳の表紙のデザインのせい、かな。あんまり言いたくはないけどさ、表紙のバナナが男の人のアレに例えられることってあるでしょ?」

 

 えっ急に下ネタ!? なんの話をしてるの!? 真面目な話はどこに? 

 

「神話にさ、アレを失ったって話があるの。だからあの手帳を手放したのが最後の原因になってひとりになったところをセトに攻撃されたって感じたね。あの砂嵐は自然に発生したものじゃなかったからコンパスとかも奪われちゃったんだよ」

 

 えっ? じゃあもしかして····

 

「その、すごく聞きにくいんですけど、あの手帳以外のデザインのものを買ってたら私は今頃遭難すらしてなかったんですか····?」

 

「·······まあ····そういうことになっちゃうね....」

 

 そんな理由でセトにバレて攻撃されたの? 私バカ過ぎないかな? 原作再現だ! とか言ってバナナとりの手帳を買っていた昔の私をぶん殴りたい。

 

「モドキちゃんが生き残った理由はこんな感じ、かな」

 

 ひとつだけわからない部分がある。

 

「その、セトって砂嵐を起こせるくらい凄い存在なんですよね? テクストとか関係なく物理的にそのまま殺されちゃったりはしないんですか?」

 

 それに私の知るセトの憤怒はもっと雷とかも起こしていたはず

 

「なるほどね。たしかにそう思っても不思議じゃないかな。でもあれはあくまでも神話の再現なんだよ。あくまでも謀殺、じゃなきゃいけないの。だから直接命を奪うような攻撃はできないんだよ。それに今のセトは完全に顕現はできていないから」

 

 なるほど納得できた。そして私が知っているセトの憤怒は最終形態みたいな感じで簡単にはできないんだろう。

 

「納得できたみたいだね。次の話は今のモドキちゃんの話」

 

 今の私····

 

「モドキちゃんはたしかに生き残ったんだけどね。でも結構ボロボロだったんだよ。熱中症とか脱水症状とかで。それが原因で今も意識を取り戻していないの」

 

 それはそうだろう。医療知識は無いけど砂漠でずっと過ごすのが体に良くないことくらいはさすがにわかる。

 

「それを私が治してたの。それでね、その治療がほぼ終わったからモドキちゃんはこっちで目が覚めたの」

 

「治してくれてたんですか? ありがとうございます」

 

「私の神秘は死と復活を象徴するものだからね。後遺症とかもないようにバッチリ治しといたよ!さっきも言った通り中途半端になってたから治すのに時間がかかっちゃったんだけどね····」

 

 

「まあこの話はそれだけだよ。で、最後のお話だね。これはお話、と言うよりはお願い、かな」

 

「お願い····?」

 

「うん。さっきも言った通りモドキちゃんの体はほぼ完治しているからもうすぐ現実でも意識を取り戻せると思うの」

 

「それで、ここからが私のお願いなんだけどね。私は梔子ユメの存在そのものみたいな感じだからさ、並行世界の梔子ユメの記憶とかがわかっちゃうの。それで、みんな同じことを後悔してたんだよ」

 

「ホシノちゃんをひとりにしてしまうって。ホシノちゃんにいっぱい助けて貰ったのに恩返しができないって」

 

「だからホシノちゃんにお礼を言って欲しいの···。私には、私達にはできなかったことだから····。運命に抗えるモドキちゃんに····」

 

「私のせいでモドキちゃんはあんな目にあっちゃったから、こんなに迷惑をかけたのに図々しいとは思うけど。もうアビドスのことなんて嫌になってるかもしれないけど、でもそれでもお願いしたいの」

 

 謝る必要は全くない。遭難したのはユメ先輩のせいなのかもしれないが私の責任でもあるし。私がホシノちゃんをもっと信じていればこんなことにはならなかったんだから。

 

 それにこの人の、ユメ先輩のおかげで私の身体は完治したのだろう。ならば文句などあるはずもない。

 

 そして申し訳ないがお願いとしては破綻している。

 

 だってそんなものはお願いされなくったってやるに決まっているのだから。ホシノちゃんは、あのとっても優しくって不器用な子は絶対に自分を強く責めているしとっても後悔しているはずだ。

 

 ホシノちゃんに伝えてあげないといけない言葉がある。

 

「謝る必要は全くないです。私はユメ先輩のおかげでまたホシノちゃんに会えるんですから」

 

「········ふふ、そっか....その顔を見るにお願いするまでもなかったのかな···?」

 

「はい! もちろんです!! 任せてください!!」

 

 当然のことだ。私だってホシノちゃんに未来を見せてもらった。それに命を救われたんだ。絶対に期待に応えてみせる。

 

「ふふ。ありがとうね。ホシノちゃんの事を、お願いね····」

 

 

 そんなユメ先輩の声を聞きながら、私の意識は暗転して行った····

 

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