収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 12 「打ち切り」

 エリちゃんがボスらしき大剣を構えた機械人形に向かっていたのを合図に低予算共との戦闘が始まった。

 

 肩に乗せた鳥の使い魔で奴らの数をカウントする。

 

「敵の数はボス1、雑魚が41」

「42で『しに』ってことかい、そいつは縁起が良くて結構」

 

 ウィリーさんが軽口を叩きながらまず迫ってくる低予算へ2丁拳銃の連射を浴びせた。

 

 だが、弾丸は敵の外装に阻まれたようで怯むことなく迫ってくる。

 

「こいつ、意外と固いぞ!」

「そうです、こいつ意外と固いんです」

「ラビさん、少し刀を」

 

 モリ君の言葉に反応して腰から白木の短刀を抜いて渡すと刃の部分に青い光がまとわり付いた。

 

「オーラウエポンで強化しました。これでそれなりに火力は上がります」

 

 投げて返してもらったので空中でキャッチして右手で構える。

 

 今回は旧神の印(エルダーサイン)は必要ないのでバルザイの偃月刀の必要はない。

 火力重視で行こう。

 

「ガーニーこちらも強化を」

「もうかけました」

 

 今度はウィリーさんの2丁拳銃の銃口がガーネットちゃんのスキルによる強化によって光を放ち始めた。

 

 すかさず拳銃を連射すると、今度は低予算の外装を貫いて内部にまで届いたようで、穴だらけになって倒れていった。

 

「この調子でどんどん倒すぜ」

「ええ。どんどん倒していきましょう」

「ラヴィ君は基本は魔法使いだ。無理はするな」

 

 そうは言っても黙ってみているわけにはいかないだろう。

 ハセベさんと一緒に近くにいる連中へ切り込んでいく。

 

 低予算が振りかざしてきた剣を体を捻って避けて懐に飛び込み、短刀を突き立てる。

 

 もちろんこれだけ倒せないことは承知。

 

 傷が入った箇所へと鳥をねじ込んで外装の内側から破壊する。

 これで1体。

 

 返す刀で別の個体に斬りかかる。

 

 だが、こちらは浅い。

 表面を掠っただけでまともなダメージとは言えない。

 

 まずいな、このままだと反撃が来る。

 どう対応したものか。

 

 そう考えていると、ハセベさんが疾風のごとく飛び込み、俺が倒し損ねた敵を一刀両断した。

 

「踏み込みが甘い! 前に教えた通り、恐怖から相手と距離が開きすぎている。間合いをもっとよく読むんだ」

「前? ええ、アドバイスありがとうございます。間合いですね」

「あ……いや、気にしないでくれ。魔法使いの君がそれだけ戦えれば十分だ」

 

 ハセベさんはすぐに訂正をしてきた。

 

 どうやら他の誰かと間違えたようだが、一体誰と間違えたのだろうか。

 

「しかし、流石に数が多いな」

「何か景気良く数を削る方法はないか?」

「一応ありますけどね、隠し技」

 

 俺は低予算を切りつけながら答えた。

 

 斬撃プラス鳥で確実に倒せてはいるが、やはり数が多すぎる。

 

「魔女の呪いは流石になしだぞ。この乱戦だと味方を巻き込む可能性が高い」

「いえ、別に決め手があるんですよ。イモリ人間と戦っている最中に開発した技が。ただ一度使うと3分はアウトなのでフォローお願いします」

「ああ、そこは任せろ」

 

 許可が出たので、隠し玉を使うことにしよう。

 

 使うのは第3のスキル「極光」

 

 ただしこれを普通には使わない。

 

 鳥を高速回転させて突撃させると威力が上がるように、この極光も同じように回転で威力を上げることが出来るようだ。

 

 通常だと30秒間は照射できる極光を手元で溜める。

 

 光をドリルのように回転させながら先を細めていくイメージで手元で5秒ほど溜めた後に一気に放出。

 

 低予算の集団目掛けて放たれた閃光は一瞬だけ瞬き、範囲内にいた9体の頭部をえぐり取った。

 

 目標では15体薙ぎ払うつもりだったが、流石にコントロールが難しい。

 もう少し収束率を更に上げられたなら良かったのだが、まあこんなものか。

 

 ただ、一度発動すると相手には光速で到達する。

 避けられる敵はいないだろう。

 

「すみません、10体には至らず」

「いや、十分だ」

「なら、こっちも負けてられねぇな。ガーニー、竜巻だ。ただし横方向!」

「分かりました!」

 

 ガーネットちゃんが両手を構えると、そこから横薙ぎの竜巻が巻き起こった。

 

 足を踏ん張って堪えている個体も存在するが、移動中だったり堪えきれなかった7体の低予算が強風に煽られ、吹き飛ばされて壁に強く叩きつけられた。

 

「よくやった! チャージショットを食らえっ!」

 

 壁に叩きつけられて折り重なるように倒れている低予算目掛けてウィリーさんがスキルによるエネルギー源を放ち、まとめて吹き飛ばした。

 

「どうよ」

「むむむ、やりますね」

 

 ただ、これで半分だ。

 情勢は一気にこちらに傾いた。

 

 数さえ減れば所詮は烏合の衆。恐れるに足りない。

 後はボスを倒すだけだ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 私の身長よりも大きい剣が目の前を通り過ぎてった。

 

 風圧が私の髪をなびかせるがそれだけだ。

 

 剣の腹を叩いて跳ね上げて隙を作ろうとするけど、それは読まれていたようで、目の前の剣士はバックステップで私の拳が届く範囲から離れていった。

 

 またやり直し。

 

 相手は私に一発貰えば終わりだと思っているか、フェイントを織り交ぜて攻撃を絶えず続けているので間合いに飛び込めない。

 

 少しずつ距離を詰めるも、今のようにこちらの射程距離から素早く離脱していく。

 

 本当に戦いがうまい。

 

 ただ、今のところはこの剣士との1対1の戦いに集中出来ている。

 

 モリ君……裕和(ひろかず)が私の背中を護ってくれているからだ。

 

 たまにチラチラと見ると、私の方へと近寄ってくるザコを刀を振り回して蹴散らしていくれている。

 

 彼が戦う時は私が背中を護る。

 私が戦う時は彼が背中を護る。

 

 こうやって私達は戦ってきた。

 今までも、これからも。

 

 またも剣士が剣を振ってきた。

 これを弾き返せたら勝てるのに。

 

 チラリと背後に目をやると彼と目が合った。

 

 そういうことね。

(ああ、そういうことだ)

 

 彼からの返事があった……気がした。

 

 別に言葉を交わしてはいない。

 必要ないからだ。

 

「プロテクション! モードチェンジ!」

 

 彼の声に合わせて飛び込んだ。

 

 「トンファー!」

「トンファー!」

 

 裕和と私の声が重なり合った。

 

 ……いや、なんかワンテンポくらいズレていた気がした。

 

 こういうちょっとズレたところが私達の関係だ。

 

 まあいい。

 他所は他所、うちはうち。

 私達はマイペースに行こう。

 

 私の腕の長さではギリギリ当たらない位置へと飛び退いた剣士も、まさか棍の分だけ私のリーチが伸びるとは思わなかっただろう。

 

 見事に避け損ねて剣を大きく跳ね上げることになった。

 

 すかさず邪魔なトンファーを投げ捨てて高速で剣士の間合いに内に飛び込み、腹目掛けて渾身の蹴りを入れると大きくつんのめった。

 

 ダメージを受けて体が曲がった隙に、剣士の頭を跨いで肩車されるような体勢になった上で相手の手首を掴んで腕を持ち上げる。

 

 この体勢になればもう剣の腕とか鎧の硬さとかもう関係ない。

 

 足を相手の足に引っ掛けて腕を強引に引っ張って剣士を強制的に前屈。

 

 腕を関節と逆方向に折り曲げて手首、肘、肩を痛めつける。

 

 そのまま力を込めて全身の関節を無理矢理に折っていく。

 

 これが必殺の……。

 

「ブラッケンド・オーバーライダー!」

 

   ◆ ◆ ◆

 

「なんでオニキスマンなんだよ!」

 

 思わず声が出た。

 

 待って。

 

 完全に拳士対剣士の流れだったよね。

 緻密な読み合いだったよね。

 パンチかキックかモリ君が出したトンファーで決めると思うよね。

 

 なんでその流れからトドメはド派手な関節技(サブミッション)なんだよ!

 

 普通なら鎧の強度に苦しめられつつも少しずつダメージを与えて倒す展開だよね。

 

 掴んだ瞬間に相手を拘束しつつ関節を折って倒してるから強いのは分かるよ。

 実際低予算のボスは肩、肘、手首と首、脊椎をへし折られるどころか引き千切られてバラバラになり沈黙している。

 

 俺に切りかかってきた低予算の攻撃を避けてカウンターで胴薙ぎを入れ、傷に鳥をねじ込むようにすると倒れた。

 ツッコミを再開する。

 

 はい、モリ君もゴング代わりに槍で音を鳴らしながら近寄らない!

 エリちゃんも右腕を掲げない!

 

 鳥を高速回転させて近くにいた低予算2体を倒す。

 えっと残り何匹?

 はいはい収束極光。これでザコは全滅と。

 

 さて、ツッコミを再開しないと。

 

 まずは何から言うべきか。

 

「ラビちゃんボスを倒したよ!」

「お疲れ!」

 

 エリちゃんが手を挙げながら駆け寄ってきたので思わずハイタッチをする。

 

「ラビさん、こっちも」

  「ヘーイ!」

 「ヘーイ!」

 

 モリ君ともハイタッチ。

 相変わらず声が合わないがそれはそれだ。

 

 最後に3人でハイタッチ。

 

 「ヘーイ!」

「ヘーイ!」

  「ヘーイ!」

 

 もはや恒例行事だ。

 

 ・

 …

 ……

 

 えっと、何をやろうとしたんだっけか?

 まあ、覚えていないということは大したことではないのだろう。

 

 辺りを見回すが、もう敵は残っていないようだ。

 

 手に入ったのは、ボスを倒したことで出現したと思われる銀のメダルが1枚だけ。

 あれだけの敵を倒したというのにこれは流石にショボい。

 

 もう今さらメダルとか要らんだろうという説もあるが、運営はもう少しバランスを考えると言いたくなる。

 

「まだザコを倒しただけです。先を急ぎましょう」

「オイ待てよ。なんかテンションがおかしくないか?」

「何かおかしなところはありましたか? ともかくまだザコの群れを倒しただけです。気を抜かずに引き締めていきましょう」

 

 入った時と同じように出口の扉に仕掛けられた何かの魔術も破壊しておく。

 

 扉を開けると、やはりまっすぐの通路が伸びていた。

 

 ただ、何故かハセベさん、ウィリーさん、ガーネットちゃんが付いてこない。

 

「あの、まだ何か?」

「いや、切り替えが早いなと」

「引っ張っても意味がないですし、決断は早いほうが良いですよ」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 しばらくまっすぐな通路を歩くと、二股に分かれた道が現れた。

 

 案内表示はないが、左側の通路の先には非常口を示すであろう緑色のランプが点灯していた。

 右側は何もなくただ通路が続いている。

 

「ハセベさんはどちらが正解ルートだと思われますか? 俺は右だと思います」

「根拠は?」

「左は非常口に見えるからです」

 

 どの道、現在の情報だと正解など出せそうにない。

 

 ならば総当たりするしかないだろう。

 他に精査するための情報がないのだから、それならば早く決めた方が時間の無駄がなくて良い。

 

「反対する理由もない。右へ行こう」

 

 決まりだ。

 一同で右方向へと歩みを進める。

 

 更にしばらく歩くと突如として視界に入ってきたのは、壁面に取り付けられた真鍮製のプレート。

 艶やかな金属の表面にはこう刻まれていた。

 

「Relaxation Room」

 

「なんだこれ、ふざけてるのか? こんな秘密基地めいた場所で何をリラックスするつもりなんだ?」

「一応調べてみます?」

「まあそのつもりだが」

 

 マホガニー色の装飾過多な木製の両開きの扉を勢い良く開けた。

 

 そこには想像もしていなかった空間が広がっていた。

 

 無機質な通路とは正反対の贅を尽くした内装。

 

 レザーソファがまるで招くように置かれている。

 その前には、職人の手による研ぎ出しが施された無垢材のテーブル。

 

 壁面には最新鋭の巨大モニターが設置され、その存在感は部屋の雰囲気を引き締めている。

 

 目を引いたのは、部屋の隅に設けられた高級バーカウンター。

 お高そうなクリスタルグラスが整然と並び、背後の棚にはこれまた高そうな酒瓶がずらりと並んでいた。

 

 酒には詳しくないので「高そう」以外の感想は出てこないのだが、流石に友人が俺の家に勝手に置いているチリ産安ワインとは別物だということくらいはわかる。

 酒を嗜むであろうハセベさんやウィリーさんの反応からしてもそうだろう。

 

 そして、室内にいたのは3人の男。

 

 1人は何度目だ眼鏡マン。

 

 もう1人はゾス神の祭祀場でも見かけた黒いシルクのタキシードに、真っ白なシャツと黒の蝶ネクタイ。

 ゲームマスターと称される男だ。

 

 そして、もう1人はカウンターの横で罰ゲームのように立たされている男。

 

 エリちゃんに致命傷を負わせた憎むべき敵、全身タイツマンだった。

 今回はタウンティンで再会した時のような半裸マンではなく、ちゃんと全身タイツマンに戻っている。

 

 何故こいつは1人だけ椅子に座らず立っているのか?

 

 空気読めないちゃんかもしれないが、もしかすると痔で椅子に座ると痛いので立っている方がマシなのかもしれない。

 同情はしない。

 

 問題はそいつらよりも巨大モニターに映し出されている映像の方だ。

 

 どこか知らない海辺の町で、魚人のようなモンスターと戦っている若い男女三名。

 

 魚人1体あたりの強さはさほどではないものの、数の多さにかなりの苦戦を強いられているようだった。

 先程の俺達と全く同じ状態だ。

 

 その横には、まるでネット配信のチャット欄のようなコメントが表示されている。

 

 書いてある文字は日本語でも英語でもない。

 マインガルで使用されていた文字でもない判読不能の謎の文字であるために読むことは出来ないが、何となく内容の想像はつく。

 

 特に3人が傷を負う度にコメントが一気に増えることから、ろくなことが書かれていないことは確定だ。

 

 映像に映る3人がモンスターと戦い、傷付く光景を娯楽として愉しんでいる下卑た連中がいるのだ。

 

「この人達は4番目に出て行ったチームの方達です。見覚えがあります」

 

 モリ君が画面に映る若い男女3人を指差して言った。

 

「4番目って最初に合流予定だったあの第4回チームのこと?」

「はい、その人達です」

 

 結局第4チームには合流できなかった。

 

 居場所も安否も不明だったが、こんなことで生存が確認出来たのは、果たして良かったのか悪かったのか?

 

「これは手助けには行けないんでしょうか? このままだとなぶり殺しだ!」

「そもそも、この映像がどこのもので、ここからの距離が分からないことには……」

 

 映像からは海沿いという以外の情報が伝わってこない。

 これでは雲を掴むような話で何も分からないのと同じだ。

 

「よう、遅かったな」

 

 俺達が何か言うより先に眼鏡マンが声をかけてきた。

 

「まずはそこに座れよ。立ったままで話というのも何だろう」

「ふざけているのか?」

 

 今更こいつらと何を話せと言うのだ。

 

 どうやって叩きのめすかを考えていると、ゲームマスターが急に立ち上がった。

 

「私達は交戦を望んでいるわけではない。まずは話をしよう。話し合うことで見えてくるものもあるはずだ」

「何を話し合えと」

「まずはその判断材料にするための説明をしよう。その上でどう判断するかは君達の自由だ。私達に協力するもよし、このまま敵対して、ここで私達とシリーズ最終回の戦闘を始めるも良し」

「最終回?」

「そうだ。この世界でのゲームは本日を持って打ち切りが確定した」

 

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