収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 13 「最後の動画配信」

 モニターに映し出されていた俺達の仲間であろう男女3人。

 通称第4チームは魚人の群れに敗北しようとしていた。

 

 一人は負傷して倒れたきりピクリとも動いていない。

 映像だけでは生きているのか死んでいるのかすら分からない。

 

 残る2人も傷だらけでまともに動けるような状態ではない。

 

 悪化する状況と反比例するように映像の横に表示されているコメントはどんどん加速している。

 

 俺は堪えきれずに眼鏡マンへ掴みかかった。

 

「この映像の場所はどこだ? この場所から何キロの場所にある?」

「ただの中継映像にヒートアップするなよ。中学生か?」

「いいから何処か言え!」

「教えて欲しいかね」

 

 答えは予想外のところから来た。

 ゲームマスターだ。

「ここから南東へ約6000kmのカリブ海の島だ。21世紀の地球ではドミニカ共和国と呼ばれている場所。これで満足かね」

「6000km……」

「君の箒はかなりの速度が出るそうだが、マッハいくつで飛べるんだ? マッハ5? マッハ7? 何にせよ早く出ないと、全滅までに到着は流石に難しいと思うが」

 

 音速など出せるわけがない。

 流石にその距離では手の施しようもない。

 眼鏡マンの服を掴んでいた手を離して膝をついた。

 

「まだだ! ここには私達をあの遺跡からキューバへ飛ばした転送装置があるはずだ!」

 

 ハセベさんが力強く言った。

 

「確かにその通り、この施設には転送装置はある。瞬時にこの映像の場所までの移動は可能。ただし、それを使ったとしても助けは間に合うわけないけどな」

「有るのか? なら話は早い!」

 

 ならばまだ間に合うではないか。

 希望が出てきた。

 

 俺は(シールド)をソファーの下に形成して、そのまま金魚すくいの要領で持ち上げた。

 

「モリ君、ホームラン!」

「分かりました!」

 

 モリ君は、今の一言で意図を察してくれたらしい。

 

 モリ君が槍の穂先にプロテクションで青白く光る壁を生成。

 槍と合わせて疑似的なハンマーを作り上げると、腰の入った渾身のスイングで宙に浮かんだソファー目掛けて叩きつけた。

 

「いっけええ!」

 

 ハンマーに叩かれた吹き飛んだソファーは眼鏡マンに直撃して、その衝撃でバラバラになった。

 

「あの時の復讐、晴らさせてもらうよ!」

「ちょっ待」

 

 今度はエリちゃんがタイツマンの両腕を取り、力任せにくの字に折り曲げる。

 頭が下がったところで両腕を引っ張るようにして背中で拘束。フルネルソンの形に固めた。

 

 その体勢のままフィギュアスケート選手のようにその場で回転を始めて、遠心力でタイツマンの肩と腕の関節にダメージを与えていく。

 

 ダブルアームスピン。この場で勝負を決めるつもりだ。

 

「ちょ、ちょっと待て。何故いきなり暴れ始めたんだ?」

「お前らを倒す。転送装置で第4チームの人達を助けに行く。順番として何かおかしなところはあるか?」

「何もかもおかしいだろう!」

 

 ゲームマスターが何か言っているが、こちらは相手の都合になど付き合ってはいられない。先手必勝だ。

 

 エリちゃんの方も仕上げに入っていた。

 

 ダブルアームスピンで散々振り回した後に腕の拘束を解除。

 タイツマンを天井目掛けて投げ飛ばした。

 

 激しく天井に叩きつけられたタイツマンは呻き声をあげて、天井に貼られていたパネルと共に頭から落下してくる。

 

 地面に直撃するタイミングで、脛を曲げて飛び込み、顎の上で座り込むようにして体重をかけて追加の衝撃を加える。

 見事なギロチンドロップが直撃。

 

 一連の動きを一つの通し技と見るならば、地獄の断頭台だったのかもしれない。

 

 タイツマンは断末魔をあげることも出来ずに完全に沈黙した。

 

「いや待て、話を聞け!」

「話は聞くぞ。転送装置の使い方を教えてもらう!」

 

 ゲームマスターの足元に光る魔法陣が現れる。

 まだこの期に及んでどこかへ逃げ出すつもりなのか?

 

 物語の悪役として設定されているのだから、ここで逃げるのはダメだろう。

 大人しくここで俺達に倒されて欲しい。

 

 俺はすかさずバルザイの偃月刀を持ってゲームマスターの足元に浮かんだ魔法陣へ向かって斬りつけた。

 

 魔法陣を構成していた光る幾何学模様の一部に大きく傷が入ったことで魔術的な何かが成立できなくなったのだろう。

 魔法陣は急速に光を失い消滅した。

 

 ゲームマスターは何が起こったのか分からないとばかりにその場に棒立ちで立ち尽くしていた。

 

 すかさずウィリーさんが拳でゲームマスターを殴りつけた。

 

「よくもオレ達を弄んでくれたな」

「止めろ。私を殴っても何も解決はしないぞ」

「そんなことは分かっているが、だからと言って何もしないと思うか?」

「ひっ」

 

 ゲームマスターは情けない声をあげてモニターに張り付いた。

 

 なんだこの情けない姿は?

 

 こんなのが俺達の敵……人生を無茶苦茶にしたやつなのか?

 

「いや、待て。私をここで倒してもどうにもならんぞ。ほら見ろ。もうこっちも決着がつく」

 

 モニターには第4チームのリーダーらしき女性に魚人が迫るシーンが映し出されていた。

 

「ほら、もうお前達が無駄なあがきをしても手遅れだ。こいつらは全滅する」

 

 ゲームマスターがモニターをバンッと音を立てて平手で叩いた途端、それは起こった。

 

 映像で女性に迫っていた魚人の頭が突然吹き飛んだのだ。

 

「へっ?」

 

 ゲームマスターが間抜けな声を上げた。

 

 流石にゲームマスターが叩いたことと魚人の頭が吹き飛んだことに関係はないだろう。

 

 最初の1体が倒されたのを皮切りに、次々と魚人達がカメラの撮影範囲外からの攻撃を受けて倒れていく。

 おそらく映像に映っていないところに誰かがいて、女性を助けるために魚人へ攻撃を仕掛けているのだ。

 

 でも誰が?

 

 現状の映像ではそれ以上のことは何も分かりそうにない。

 

 映像の横に付いているコメントの文字は相変わらず読めないが、そちらの方も俺達と同じように困惑で埋め尽くされていた。

 

「おい、カメラのアングルを切り替えろ! 何が起こっているのか分からん!」

 

 ゲームマスターが怒鳴ると、映像が別角度のカメラから撮影されているものへ切り替わった。

 

 砂浜に乗り付けたボートから次々とアサルトジャケットを身に纏い、ライフル銃を構えた兵士達が降りてきて、魚人達へ射撃を行っている。

 

 兵士達の狙いは正確で、発砲する度に次々と魚人達が倒れていく。

 

 また、衛生兵らしき人員が傷つき倒れている第4チームへと走っていくのが見えた。

 

 この世界、この時代で、こんな武装をしている軍隊を持っている国なんて俺達の知る限り、1つしかない。

 タウンティンの軍隊が援軍として現れたのだ。

 

 ここで俺達がタウンティンの港から旅立つ日に度会(わたらい)知事の話を思い出した。

 

 確か、最近カリブ海で怪物や海賊が現れて商船を襲うので警らのために艦隊を派兵した。

 その部隊に日本人を見付けたら保護するよう通達を出したと。

 

 ドミニカ共和国はカリブ海に浮かぶ島……つまりはタウンティンが派兵した艦隊の行動範囲内だ。

 

 彼らが日本人である第4チームを保護するために動き出したのだ。

 

「おい、映像を止めろ!」

 

 ゲームマスターが叫ぶが、映像の中継も困惑するコメントも一切止まらなかった。

 

 映像はまた別のカメラに切り替わる。

 

 今度は戦艦に向かって巨大なタコが襲い掛かっている映像が映し出された。

 

 タコの触腕が戦艦に伸びるが、それを戦艦のCIWS……近接防御用の高速連射される機関砲が迎え撃った。

 

 マイクは非搭載のようで音声は伝わってこないが、回転機関砲から火線が走り、巨大タコの触腕が次々吹き飛んでいく。

 

 戦艦とタコとの距離が開いたところで巡航ミサイルが発射された。

 巨大なタコは全身を木っ端微塵に吹き飛ばされて、海中へと沈んでいった。

 

 なんでもいいけど、巨人(イソグサ)は一体でこの戦艦相手に勝ってるんだよな……。

 よく、そんなの相手に勝てたな俺。

 

「そんな……ここまで順調だったのに……」

 

 呆然とした顔のゲームマスターが力なく膝から座り込んだ。

 

「良かったじゃないか、文字は全然読めないけどコメントは好評みたいだぞ。さっきからバンバン大量に流れてる」

「文字も読めないくせに勝手な解釈をするな! 怒ってるんだよ! ここに集まってる連中が観たがってるのは人の絶望した顔であって、戦争映画じゃない!」

「でも、さっきからカメラを切り替えて編集しているやつは楽しんでるみたいだぞ。一番迫力のある角度からの映像を映してくれて、まるで映画みたいだ」

「クソっ! なんなんだこの演出は?」

「良い演出家がいるみたいだな、そっちには」

 

 モニターに映る映像には連携して魚人達を制圧していく軍隊、そして海を航行する戦艦の勇姿がまるで映画のような編集で映し出されている。

 カット割りと繋ぎもリアルタイム映像とは思えない自然な切り替えと大胆なアングルだ。

 

 なんという頼りになる援軍なのだろう。

 コメントも盛況なようで微笑ましい。

 

「悪趣味なデスゲームとか他人の不幸を喜ぶような露悪的なことはやめて、こういうエンタメ的な映像や人が助かるレスキュー、可愛い動物の動画配信サービスに切り替えた方が流行ると思うぞ。転職をお勧めする」

 

 はっきり言えることは、あの度会知事が50年かけて準備した壮大な運営への嫌がらせが、ここに来て最大の打撃を与えたということだ。

 

 この世界でデスゲーム的なことをやろうとしても、全て台無しにされて無駄に終わると悟らせる。

 

 これだけ大恥をかいた運営は、もうこの世界でゲームだかショーだかをやろうとは思わないだろう。

 

 今のゲームマスターの表情や盛況なコメントを写真に撮って、あの偏屈老人に見せたいところだ。

 

「それで、こんな無様ばっかりやっていたから、お前は首が飛んで最終回ってことか?」

「それとこれとは話が違う!」

 

 ゲームマスターは立ち上がって地団太を踏み始めた。

 

「聞け! これはお前達にも関係してくる話だ」

「この状況でまだ続けるのか?」

「だから、話を聞け」

 

 ゲームマスターは小刻みに足で貧乏ゆすりをしながら両手を組んだ。

 

「結論から言うと、この世界は滅ぶ」

「何のギャグだそれは? なんだってー! と大袈裟に驚けば良いのか? 冗談は空気を読んでから言え」

「茶化すな。順を追って説明する」

 

 別に茶化したわけではないのだが、急にとんでもない話をされても信じられないのは当然だろう。

 

 モリ君の方を見ると「ラビさん、こういう時は真面目に話を聞いてください」と怒られた。

 エリちゃんの方も「ちょっとは落ち着いて」と味方をしてくれそうにない。

 黙って聞くことにする。

 

「この世界には存在しないはずの町や村、人やモンスターが出現しているのは知っているな」

「はい、それは俺達も見てきました」

 

 俺に代わってモリ君が答えた。

 

「あれは、この世界と別の世界との間にあるはずの次元の壁に傷が入ったことで起こる現象だ。一度壁に傷が入ると次元の境界が曖昧になり異世界の町や生物が出現するようになる。この状態が更に悪化すると、世界は別の世界に飲み込まれて滅ぶ」

「それは、俺達をこの世界に喚んだ異世界召喚システムとは別物ですか?」

「全く違う。我々のシステムは次元の壁に影響を与えないよう徹底したコスト管理と、もし壁に影響が発生しても自然修復させるために50年のインターバル期間を設定して、世界に影響が起きないよう配慮している。ただの事故と同じにしてもらっては困る」

 

 俺達の人生に多大な影響が発生しているのだが、その件は無視なのだろうか?

 

 まあ無視なのだろう。

 

 このゲームマスタは一貫しては俺達の事情など一切考慮せず、自分達の都合の話しかしていない。

 巻き込まれた人間がどう思うかなんて思っていない。

 こいつらからすれば、俺達は単なるゲームの駒だ。

 

「事件が発生したのはこの世界で3年ほど前。別の世界で行われた何らかの実験のせいで町と駆逐艦がこの世界へ強制的に転移してきた。それを皮切りにあちこちで次元の歪みが観測されるようになった」

「駆逐艦? あのラスベガスの位置に有ったあれか?」

「その通りだ。どこの世界のバカがやったのかは知らんが迷惑な話だ」

 

 人の人生を散々弄んだ運営の犬が「おまえが言うな」という発言を始めた。

 

「そんな状況でもゲームを開催したんですね」

「この世界の3年は我々の世界ではわずか6日の出来事だ。そんな直前では急に中止など出来んよ」

 

 おそらく運営の世界は俺達よりも優れた科学技術なり魔法技術なりを持っているはずだが、そういうお役所体質は変わらないのだなと思うと妙に笑えてくる。

 文明は進歩しても人間の品性や合理的な社会システムは進歩できなかったのか。

 

「だが、開催してみたのは良いものの、進みすぎた現地人の科学技術によって勝手に狩られる討伐対象、異分子(イレギュラー)の登場、そして今回の次元の壁の件。あまりに問題が大きすぎて、委員会はこの世界でのゲームを終了して別の世界で新シリーズとして開始すべきと結論を出した」

「それで俺達への要求というのは?」

「別の異世界でのスタッフとして協力して欲しい。何しろ新規事業なので人手が足りない。報酬は約束しよう。それに、この世界と心中などしたくないだろう」

 

 言葉は通じているはずなのに、思考を全く理解できない。

 こいつは一体何を言っているのだろうか?

 

 俺達は無理矢理この世界へ連れてきた運営を敵としか思っていないというのに、何故協力すると思うのか?

 

 いや、何から何までおかしな話を聞いてもなお、自分達にはメリットがあると協力しようとした奴は実際目の前にいるのか。

 お前らのことだよ眼鏡マンとタイツマン。

 

「次元の壁を修復しようというつもりはないのか?」

「不可能ではないがコストが見合わない。こんな世界は見捨てた方が手間もかからず安上がりだ」

「コストの問題なのか? 人の命がかかっているんだぞ!」

「だからコストの問題だろう。知らない世界の知らない人間が死んだら何だという言うんだ?」

 

 ダメだ。まるで価値観が違いすぎる。

 

 全く会話が成立する気もしないどころか、すり合わせられる場所も見つけられない。

 

「ウィリーさん、モニターです」

「モニター?」

 

 俺が天井の方へと目を向けると、察してくれたようだ。

 

 ウィリーさんの発砲で天井からモニターを吊るしていたケーブルが正確に撃ち抜かれた。

 

 モニターはその真下に立っていたゲームマスターの脳天目掛けて落下し、そのまま圧し潰した。

 

 床に落下した巨大モニターの下からは血が流れだしており、そこから延びたゲームマスターの手がぴくぴくと痙攣している。

 

 モニターからはみ出している指を短剣でつつくと、反応とうめき声が聞こえてくるので、まだギリギリ死んではいないようだ。

 

「死んだの?」

「まだギリギリ生きてるけど……どうします?」

 

 ウィリーさんの顔を見ると、呆れたような顔をしてゲームマスターの指を靴の先で軽く蹴飛ばした。

 

「どうでもよくなった。こんな小物を殺したところで別にスッキリしやしない」

「だが、これでは転送装置とやらの使用方法を聞けないのではないのか?」

 

 ハセベさんが鞘から抜刀。

 刀を鞘に納めると、ゲームマスターを圧し潰していたモニターが真っ二つに裂けた。

 

 だが、ゲームマスターは完全に気を失っており、起きる気配がない。

 

「呆気ないけどこれで決着か」

 

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